【課題】第1軸線を中心軸線とする第1伝動部材と、第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が連結されていて第1軸線回りに回転可能な第1伝動軸と、偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線回りに回転する第2伝動軸に同軸上で連結されると共に第2伝動部材に対向する第3伝動部材と、第1,第2伝動部材間の第1変速機構と、第2,第3伝動部材間の第2変速機構とを備えた伝動装置において、第1及び第3伝動部材並びに第1伝動軸の、ケーシングへの支持部に特別高度な加工精度を必要とせずに、各変速機構の伝動効率を高める。
【解決手段】第1及び第2伝動軸S1,S2を各々軸受B1,B2を介してケーシングCに支持する一方、第1伝動部材5をケーシングCに、また第3伝動部材9を第2伝動軸S2にそれぞれ径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP1,SP2する。
前記第3伝動部材(9)と前記第2伝動軸(S2)との相対向面の何れか一方に設けられ第1軸線(X1)と直交する平面状の第1当接面(t1)と、その相対向面の何れか他方に設けられ第1軸線(X1)上に中心を有する球面状の第2当接面(t2)とを含むスラスト受け機構(17)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の伝動装置。
前記第3伝動部材(9)と前記第2伝動軸(S2)とが、球面スプライン(18)を介してスプライン嵌合(SP2)されることを特徴とする、請求項2に記載の伝動装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0017】
先ず、
図1〜
図4に示す本発明の第1実施形態を説明する。
図1において、自動二輪車のパワーユニットPは、駆動源としての電動モータMと、これの駆動力を減速して車輪(後輪W)に伝達する、伝動装置としての減速機Rとを備える。そして、このパワーユニットPは、自動二輪車の車体に上下揺動可能に軸支されるスイングアーム(図示せず)の後端部に、そのスイングアームと共に揺動し得るように装着される。
【0018】
パワーユニットPにおいて、減速機Rは、電動モータMの出力軸を兼ねる第1伝動軸S1の回転を第1,第2変速機構T1,T2を介して減速して第2伝動軸S2に伝達するものであって、その第2伝動軸S2には後輪Wが一体に回転するように結合される。また、第1,第2伝動軸S1,S2は、パワーユニットPのユニットケースPcに各一対の第1,第2軸受B1,B1′;B2,B2′を介して各々第1軸線X1回りに回転可能に支持される。
【0019】
電動モータMは、モータケース1と、このケース1の外周壁内面に固着されるステータ2と、このステータ2の内方に在って第1伝動軸S1に固着されるロータ3とを備える。モータケース1は、例えば、有底円筒状のケース本体及びその開放端を閉じる蓋体で二つ割りに構成される。
【0020】
減速機Rは、上記モータケース1と協働してパワーユニットPのユニットケースPcを構成する中空のケーシングCと、そのケーシングC内に軸方向に直列状態で収容される第1,第2,第3伝動部材5,8,9と、ケーシングC内に収容されて環状の第1,第2伝動部材5,8に囲繞される偏心回転部材6と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを主要な構成要素とする。
【0021】
特に本実施形態では、減速機Rに電動モータMが同一軸線(第1軸線X1)上で結合一体化されており、その結合一体化のために、減速機RのケーシングCとモータケース1との隣接端部相互が複数のボルト10で締結される。この締結状態でモータケース1の一側壁1aは、減速機Rと電動モータMの内部空間相互を仕切るものであって、減速機RのケーシングCの一側壁Caとしても機能する。そして、このケーシングCの一側壁Caと、モータケース1の他側壁1bとにそれぞれ第1軸受B1,B1′(例えばボール軸受)を介して第1伝動軸S1が回転自在に支持される。
【0022】
減速機R寄りの第1軸受B1は、それのインナーレースがカラー40を挟んで電動モータMのロータ3に隣接しており、それら第1軸受B1、カラー40及びロータ3が、第1伝動軸S1の中間段部と、該軸S1の外端部に螺合したナット4との間で挟持、締結される。そして、ケーシングCの一側壁Caとカラー40の外周との間には環状シール部材11が介装される。尚、カラー40の内周と第1伝動軸S1との間にも環状シール部材41が介装される。
【0023】
第1伝動部材5は、第1軸線X1を中心軸線としてケーシングCの一側壁Caの内面に隣接配置され、その第1伝動部材5の外周部は、ケーシングCの外周壁の内周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP1される。尚、このスプライン嵌合SP1部位においては、上記径方向のスムーズな遊動を許容するために、トルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも多少の遊びが設定される。またケーシングCの一側壁Ca内面と第1伝動部材5の外側面との相対向面間には、間隔調整用のシム12が介装される。尚、このシム12に代えて、皿バネ等の弾性部材を介装してもよい。
【0024】
偏心回転部材6は、第1軸線X1を中心軸線とする主軸部6jと、第1軸線X1から所定偏心量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eとを一体に有するものであり、主軸部6jには、第1伝動軸S1が同軸に連結(本実施形態では一体に結合)される。そして、この偏心軸部6eには、円環状をなす第2伝動部材8の内周部が、第3軸受B3(例えばボール軸受)を介して第2軸線X2回りに回転自在に支持され、その第2伝動部材8の一側面は第1伝動部材5の内側面に対向する。尚、偏心回転部材6と第1伝動軸S1とを別々に形成して、その両者を一体回転するよう連結(例えばスプライン嵌合)してもよい。
【0025】
第3伝動部材9は、第1軸線X1回りに回転する第2伝動軸S2に同軸上で連結される。またその第3伝動部材9の内側面は、第2伝動部材8の他側面に対向する。
【0026】
而して、第2伝動部材8は、偏心回転部材6(第1伝動軸S1)の第1軸線X1回りの回転に伴い、偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、第1伝動軸S1に対し第1軸線X1回りに公転する。
【0027】
ところで本実施形態では、偏心回転部材6の偏心軸部6eと第2伝動部材8の総合重心の位置が、第1軸線X1から第2軸線X2の方向に離間した位置に偏在する。そのため、第2伝動部材8が上記の如く自転しつつ公転するときに、その偏心回転系の遠心力が第1軸線X1に関して特定方向(第2軸線X2のオフセット側)に偏って作用することから、その偏心回転系の回転がアンバランスな状態となるが、そのアンバランス状態を解消又は軽減するために、前記総合重心とは逆位相で且つその総合重心の回転半径よりも大なる回転半径を有するバランスウェイト7が、偏心回転部材6の主軸部6jに一体的に連結される。尚、バランスウェイト7は、その少なくとも一部が第1伝動部材5の内方空間に配置される。
【0028】
また第2伝動軸S2は、本実施形態では車軸を兼ねる長い軸本体13と、その軸本体13の内端部外周に固着(本実施形態では圧入)された筒軸14とを備える。軸本体13の外端部13oは、外周にスプライン溝を有する車輪取付部とされており、そこにナットn等の締結手段を以て後輪WのホイールハブWhが着脱可能に且つ相対回転不能に結合されている。
【0029】
そして、第2伝動軸S2は、軸本体13の中間部と筒軸14とにおいて、ケーシングCの内壁に一対の第2軸受B2,B2′(例えばボール軸受、ローラ軸受)を介して第1軸線X1回りに回転自在に支持される。尚、その両第2軸受B2,B2′間でケーシングC内周と軸本体13外周との間には環状シール部材15が介装される。
【0030】
また上記筒軸14の内端部外周は、第3伝動部材9の外側面に円筒状に突設した連結筒部9aの内周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP2される。尚、このスプライン嵌合SP2部位においては、上記径方向のスムーズな遊動を許容するために、トルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも多少の遊びが設定される。
【0031】
上記連結筒部9aの径方向内方側で第3伝動部材9の外側面は、第1軸線X1と直交する平面よりなる第1当接面t1とされる。またその第1当接面t1に対向、接触する軸本体13の内端面は、第1軸線X1上に中心を有する球面よりなる第2当接面t2とされる。そして、それら第1,第2当接面t1,t2により、第3伝動部材9と第2伝動軸S2間でのスラスト受け渡しを行うスラスト受け機構17が構成される。尚、上記とは逆に、平坦な第1当接面t1を軸本体13の内端面に、また球面状の第2当接面t2を第3伝動部材9の外側面にそれぞれ設けてスラスト受け機構17を構成するようにしてもよい。
【0032】
次に第1,第2変速機構T1,T2について、順に説明する。
【0033】
第1伝動部材5の、第2伝動部材8に対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第1伝動溝21が形成され、この第1伝動溝21は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第2伝動部材8の、第1伝動部材5に対向する一側面には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第2伝動溝22が形成される。この第2伝動溝22は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、第1伝動溝21の波数Z1とは異なる(例えば少ない)波数Z2を有して第1伝動溝21と複数箇所で交差する。第1伝動溝21及び第2伝動溝22の交差部(即ち重なり部)には、第1転動体としての複数の第1ボール23…が介装され、各々の第1ボール23は、第1及び第2伝動溝21,22の内側面を転動自在である。
【0034】
第1伝動部材5及び第2伝動部材8の相対向面間には、円環状の扁平な第1保持部材H1が介装される。この第1保持部材H1は、複数の第1ボール23の、第1、第2伝動溝21,22相互の交差部での両伝動溝21,22への係合状態を維持し得るように、複数の第1ボール23をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の保持孔31を有している。この第1保持部材H1により、各第1ボール23は、第1、第2伝動溝21,22の各々の曲率急変部を通過する際にも溝内での暴れが効果的に抑制される。
【0035】
また、第2伝動部材8の、第3伝動部材9と対向する他側面には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第3伝動溝24が形成され、この第3伝動溝24は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第3伝動部材9の、第2伝動部材8と対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第4伝動溝25が形成される。この第4伝動溝25は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、第3伝動溝24の波数Z3とは異なる(例えば少ない)波数Z4を有して第3伝動溝24と複数箇所で交差する。第3伝動溝24及び第4伝動溝25の交差部(重なり部)には、第2転動体としての複数の第2ボール26…が介装され、各第2ボール26は、第3及び第4伝動溝24,25の内側面を転動自在である。
【0036】
第3伝動部材9及び第2伝動部材8の相対向面間には、円環状の扁平な第2保持部材H2が介装される。この第2保持部材H2は、複数の第2ボール26…の、第3、第4伝動溝24,25相互の交差部での両伝動溝24,25への係合状態を維持し得るように、複数の第2ボール26…をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の保持孔32を有している。この第2保持部材H2により、各第2ボール26は、第3、第4伝動溝24,25の各々の曲率急変部を通過する際にも溝内での暴れが効果的に抑制される。
【0037】
而して、第1伝動溝21、第2伝動溝22及び第1ボール23は、互いに協働して第1段階の変速(減速)を行う第1変速機構T1を構成し、また第3伝動溝24、第4伝動溝25及び第2ボール26は、互いに協働して第2段階の変速(減速)を行う第2変速機構T2を構成する。
【0038】
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0039】
車両走行時には、車載の電子制御ユニットが運転者のアクセル操作に基づいて電動モータMへの通電(従って同モータMの回転)を制御する。そして、この電動モータMにより第1伝動軸S1が回転駆動されると、これと一体の偏心回転部材6の偏心軸部6eが第1軸線X1回りに公転し、これに伴い、偏心軸部6e上の第2伝動部材8も第1軸線X1回りに公転する。この公転によれば、ケーシングCにスプライン嵌合SP1されて回転規制される第1伝動部材5の第1伝動溝21と、第2伝動部材8の第2伝動溝22との相互間にその両溝21,22の交差部で係合する各第1ボール23が、その両溝21,22上を転動することによって、第2伝動部材8が偏心軸部6e上で第2軸線X2回りに自転する。
【0040】
斯かる第2伝動部材8の自転及び公転によれば、第2,第3伝動部材8,9上の第3,第4伝動溝24,25の相互間にその両溝24,25の交差部で係合する各第2ボール26が両溝24,25上を転動することによって、第3伝動部材9が第1軸線X1回りに自転駆動される。そして、その自転駆動力は、第3伝動部材9にスプライン嵌合SP2される第2伝動軸S2に伝達される。
【0041】
かくして、電動モータMで駆動される第1伝動軸S1の回転が第1,第2変速機構T1,T2を順次経て第2伝動軸S2に減速して伝達され、第2伝動軸S2、従って後輪Wを電動モータMで減速駆動することができる。
【0042】
そして、本実施形態のような転動ボール式の減速機Rにおいて、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、第1伝動軸S1(入力軸)と第2伝動軸S2(出力軸)間の減速比εは、
ε=1−{(Z1×Z3)/(Z2×Z4)}
として表される。
【0043】
本実施形態のような転動ボール式減速機Rでは、第1伝動部材5と第2伝動部材8間のトルク伝達は、第1伝動溝21、複数の第1ボール23…及び第2伝動溝22を介して行われ、また第2伝動部材8と第3伝動部材9間のトルク伝達は、第3伝動溝24、複数の第2ボール26…及び第4伝動溝25を介して行われる。これにより、第1伝動部材5と第2伝動部材8、並びに第2伝動部材8と第3伝動部材9の各間では、トルク伝達が第1及び第2ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになるため、第1〜第3伝動部材5,8,9及び第1、第2ボール23,26等の各伝動要素の強度増及び軽量化が図られる。しかも本実施形態の伝動構造によれば、第1〜第3伝動部材5,8,9を各々板状として軸方向に並べることにより軸方向に扁平小型化が容易な変速装置(減速機R)が提供可能となる。
【0044】
また本実施形態では、第1及び第2伝動軸S1,S2を第1及び第2軸受B1,B1′;B2,B2′をそれぞれ介してパワーユニットPのユニットケースPc(減速機RのケーシングCを含む)に支持させるのに対し、そのケーシングCとは別部品とした第1伝動部材5をケーシングCに径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP1し、且つ第3伝動部材9を第2伝動軸S2に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP2している。そのため、例えば、第1及び第2伝動軸S1,S2のケーシングCへの支持部(例えば第1,第2軸受B1,B2,B2′の取付部)の加工誤差やケーシングCの歪み等に起因して、第1及び第2伝動軸S1,S2相互の同軸精度に多少の狂い(例えば軸線相互に僅かなオフセットや傾き等)が生じたような場合でも、その狂いは、上記した径方向遊動可能なスプライン嵌合部SP1,SP2で吸収可能となって、第1〜第3伝動部材5,8,9の相互間の伝動経路(即ち第1及び第2変速機構T1,T2)への影響が抑えられる。
【0045】
即ち、第1〜第3伝動部材5,8,9は、第1及び第2伝動軸S1,S2相互の同軸精度の多少の狂いによっても、上記スプライン嵌合部SP1,SP2での径方向遊動により、各変速機構T1,T2の対をなす伝動溝21,22;24,25相互が適正な対向位置関係を維持できるため、その対をなす伝動溝21,22;24,25に、対応する複数のボール23…,26…全部が適正に係合可能となるから、第2伝動部材8のスムーズな自転及び公転を確保することができる。これにより、第1,第3伝動部材5,9ならびに各伝動軸S1,S2の、ケーシングCへの支持部に特別高度な加工精度を必要とせずに、第1及び第2変速機構T1,T2の伝動効率を高めることができるため、装置の製造コストの低減が図られる。
【0046】
更に本実施形態では、第3伝動部材9と第2伝動軸S2との相対向面の一方に設けられて第1軸線X1と直交する平坦な第1当接面t1と、その他方に設けられて第1軸線X1上に中心を有する球面状の第2当接面t2とで構成されるスラスト受け機構17を備えている。このため、第3伝動部材9と第2伝動軸S2とは、スラスト受け機構17により、相互にスムーズに相対傾動しながらスラスト荷重を受け渡し可能である。これにより、第1及び第2伝動軸S1,S2相互の傾きをスラスト受け機構17で無理なく吸収可能となり、第1〜第3伝動部材5,8,9に影響が及ぶのを効果的に回避できる。
【0047】
次に第2実施形態を、
図5を参照して説明する。この第2実施形態では、第3伝動部材9と第2伝動軸S2間の連動連結構造のみが第1実施形態と相違する。即ち、第2伝動軸S2は、車軸を兼ねる軸本体13の内端部に円筒状の取付筒部13aが連設されており、その取付筒部13aの外周が第2軸受B2′を介してケーシングCの内壁に回転自在に支持される。また取付筒部13aの内周には筒軸14′の外周が固着(本実施形態では圧入)される。
【0048】
そして、筒軸14′の内周部は、第3伝動部材9の外側面に突設した連結軸部9bの外周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP2される。そのスプライン嵌合面の何れか一方(例えば連結軸部9bの外周面)は、第1軸線X1を含む縦断面で見て円弧状の球面スプライン18に形成される。また軸本体13の内端面は、平面状の第1当接面t1とされ、また連結軸部9bの外端面は、第1軸線X1上に中心を有する球面状に形成されて第1当接面t1に対向、接触する第2当接面t2とされる。それら第1,第2当接面t1,t2により、スラスト受け機構17が構成される。
【0049】
尚、上記とは逆に、平坦な第1当接面t1を連結軸部9bの外端面に、また球面状の第2当接面t2を軸本体13の内端面にそれぞれ設けてスラスト受け機構17を構成するようにしてもよい。また、そのスプライン嵌合SP2部位においては、上記径方向のスムーズな遊動を許容するために、トルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも多少の遊びが設定される。
【0050】
その他の構成要素については、第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と同様の参照符号を付すに留め、これ以上の説明は省略する。
【0051】
従って、第2実施形態においても、第1実施形態の前記作用効果と同等の作用効果を達成可能である。その上、第2実施形態では、第3伝動部材9と第2伝動軸S2とが、球面スプライン18を介して径方向遊動可能にスプライン嵌合SP2されるので、第1及び第2伝動軸S1,S2相互の傾きが上述のようにスラスト受け機構17で吸収されるときに、球面スプライン18を含むスプライン嵌合部SP2においても上記傾きを無理なく吸収しながら、第3伝動部材9と第2伝動軸S2間で効率よくトルク伝達を行わせることができる。
【0052】
更に第3実施形態を、
図6を参照して説明する。この第3実施形態では、第3伝動部材9と第2伝動軸S2間の連動連結構造、特にスラスト受け構造17を省略した点のみが第1実施形態と相違する。即ち、筒軸14の外周部は、第1実施形態と同様に、第3伝動部材9の外側面に突設した連結筒部9aの内周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP2されるが、その連結筒部9aの径方向内方側で第3伝動部材9の外側面と、軸本体13の内端面とは何れも平面状に形成されていて、相互に間隙をおいて相対向している。そして、その相対向面間には、その間を離反させる方向に弾発する弾性部材19(例えば皿ばね)が縮設される。
【0053】
その他の構成要素については、第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と同様の参照符号を付すに留め、これ以上の説明は省略する。
【0054】
従って、第3実施形態においても、第1実施形態の前記作用効果と同等の作用効果を達成可能である。その上、第3実施形態では、スラスト受け機構17(特に第2当接面t2の球面加工等)を省略できるため、加工コストの節減が図られる。
【0055】
更に第4実施形態を、
図7を参照して説明する。先の実施形態では、伝動装置として転動ボール式の減速機Rを例示したが、この第4実施形態の伝動装置は転動ボール式の差動装置Dとして例示される。
【0056】
この差動装置Dは、図示しない変速機と共にミッションケース100内に収容され、エンジン等の動力源に変速機を介して連動するリングギヤCgの回転を、第1軸線X1上に並ぶ一対の駆動車軸S1,S2(即ち第1,第2伝動軸)に対して、両駆動車軸S1,S2相互の差動回転を許容しつつ分配する。尚、各々の駆動車軸S1,S2とミッションケース100との間は、シール部材101でシールされる。
【0057】
差動装置Dは、ミッションケース100に第1軸線X1回りに回転可能に支持されるケーシングCと、そのケーシングC内に収容される後述の差動機構Dmとで構成される。ケーシングCは、デフケースとして機能するものであって、ヘリカルギヤよりなるリングギヤCgを外周部に有する円筒状のケーシング本体Cmと、そのケーシング本体Cmの軸方向両端部に外周端部がそれぞれ一体的に接合される左右一対の第1,第2側壁Ca,Cbとを備える。
【0058】
その両側壁Ca,Cbは、各々の内周端部において軸方向外方に延びる円筒ボス状の第1,第2軸受B1,B2を一体に有している。その第1,第2軸受B1,B2の外周部は、ミッションケース100に外軸受102(例えばボール軸受)を介して第1軸線X1回りに回転自在に支持される。また第1,第2軸受B1,B2の内周面(即ち軸受面)には、第1,第2駆動車軸S1,S2がそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。尚、第1,第2軸受B1,B2の内周面には、駆動車軸S1,S2との相対回転に伴いミッションケース100内の潤滑油をケーシングC内に圧送、誘導するための螺旋溝121,122が凹設される。
【0059】
次に差動機構Dmの構造を説明する。差動機構Dmは、ケーシングC内に軸方向に直列状態で収容される第1,第2,第3伝動部材5,8,9と、ケーシングC内に収容されて環状の第1,第2伝動部材5,8に囲繞される偏心回転部材6と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを主要な構成要素とする。
【0060】
第1伝動部材5は、第1軸線X1を中心軸線としてケーシングCの一側壁Caの内面に隣接配置され、その第1伝動部材5の外周部は、ケーシングCの一側壁Ca内面の環状凹部の内周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP1される。尚、このスプライン嵌合SP1部位においては、上記径方向のスムーズな遊動を許容するために、トルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも多少の遊びが設定される。またケーシングCの一側壁Ca内面と第1伝動部材5の外側面との相対向面間には間隔調整用のシム12が介装される。尚、このシム12に代えて、皿バネ等の弾性部材を介装してもよい。
【0061】
偏心回転部材6は、第1軸線X1を中心軸線とする主軸部6jと、第1軸線X1から所定偏心量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eとを一体に有するものであり、主軸部6jには、第1伝動軸としての第1駆動車軸S1の内端部が同軸に連結(本実施形態では径方向に遊びがゼロ又は僅少の状態でスプライン嵌合111)される。そして、この偏心軸部6eには第2伝動部材8が第3軸受B3(例えばボール軸受)を介して第2軸線X2回りに回転自在に支持され、その第2伝動部材8の一側面は第1伝動部材5の内側面に対向する。
【0062】
第3伝動部材9は、第1軸線X1回りに回転する第2駆動車軸S2に筒軸114を介して同軸上で連結されていて、第2駆動車軸S2と共に第1軸線X1回りに回転する。また第3伝動部材9の内側面は、第2伝動部材8の他側面に対向する。
【0063】
上記筒軸114は、内端側が閉塞された有底円筒状に形成されており、その閉塞壁114bが第3伝動部材9の外側面に対向する。また上記筒軸114の内端部外周は、第3伝動部材9の外側面に突設した連結筒部9aの内周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP2される。尚、このスプライン嵌合SP2部位においては、上記径方向のスムーズな遊動を許容するために、トルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも多少の遊びが設定される。
【0064】
また、筒軸114の筒状部114aの内周面は、第2駆動車軸S2の内端部が同軸に連結(本実施形態では径方向に遊びがゼロ又は僅少の状態でスプライン嵌合112)されている。
【0065】
上記連結筒部9aの径方向内方側で第3伝動部材9の外側面は、平面状の第1当接面t1とされる。またその第1当接面t1に対向、接触する筒軸114の閉塞壁114bの外側面は、第1軸線X1上に中心を有する球面状に形成した第2当接面t2とされる。そして、それら第1,第2当接面t1,t2により、スラスト受け機構17が構成される。尚、上記とは逆に、平坦な第1当接面t1を筒軸114の閉塞壁114bに、また球面状の第2当接面t2を第3伝動部材9の外側面にそれぞれ設けてスラスト受け機構17を構成するようにしてもよい。
【0066】
また、偏心回転部材6(主軸部6j)の外側面とケーシングC(第1側壁Ca)との対向面間、並びに筒軸114の外側面とケーシングC(第2側壁Cb)との対向面間には、必要に応じてスラストワッシャが介装される。
【0067】
而して、第4実施形態においても、第2伝動部材8は、偏心回転部材6(第1駆動車軸S1)の第1軸線X1回りの回転に伴い、偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、第1駆動車軸S1に対し第1軸線X1回りに公転する。
【0068】
また第4実施形態の第1,第2変速機構T1,T2の構造は、第1〜第3実施形態の第1,第2変速機構T1,T2の構造と基本的に同様であるので、各構成要素に同様の参照符号を付すに留め、機構の説明は省略する。但し、第4実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2が、偏心回転部材6(第1駆動車軸S1)を固定した状態でケーシングCを回転させたときに、第1伝動部材5から第3伝動部材9を2倍の増速比を以て駆動するように構成される。
【0069】
そのために、第4実施形態においては、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、下記式が成立するように、第1〜第4伝動溝21,22,24,25は形成される。
【0070】
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは、例えばZ1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とするとよい。
【0071】
例えば、前者の場合には、8波の第1伝動溝21と6波の第2伝動溝22とが7箇所で交差し、この7箇所の交差部(重なり部)に7個の第1ボール23が介装され、また6波の第3伝動溝24と4波の第4伝動溝25とが5箇所で交差し、この5箇所の交差部(重なり部)に5個の第2ボール26が介装される。
【0072】
この前者の場合において、例えば第1駆動車軸S1を固定することで偏心回転部材6(従って偏心軸部6e)を固定した状態において、エンジンからの動力でリングギヤCgが駆動され、ケーシングC(従って第1伝動部材5)を第1軸線X1回りに回転させると、第1伝動部材5の8波の第1伝動溝21が第2伝動部材8の6波の第2伝動溝22を第1ボール23を介して駆動するので、第1伝動部材5が8/6の増速比を以て第2伝動部材8を駆動することになる。そして、この第2伝動部材8の回転によれば、第2伝動部材8の6波の第3伝動溝24が第3伝動部材9の4波の第4伝動溝25を第2ボール26を介して駆動するので、第2伝動部材8が6/4の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0073】
結局、第1伝動部材5は、
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2
の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0074】
一方、第2駆動車軸S2を固定することで第3伝動部材9を固定した状態において、デフケース(従って第1伝動部材5)を回転させると、第1伝動部材5の回転駆動力と、第2伝動部材8の、不動の第3伝動部材9に対する駆動反力とにより、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6e(第2軸線X2)に対し自転しながら第1軸線X1回りに公転して、偏心軸部6eを第1軸線X1回りに駆動する。その結果、第1伝動部材5は、2倍の増速比を以て偏心回転部材6を駆動することになる。
【0075】
而して、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の負荷が相互にバランスしたり、相互に変化したりすると、第2伝動部材8の自転量及び公転量が無段階に変化し、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の回転数の平均値が第1伝動部材5の回転数と等しくなる。こうして、第1伝動部材5の回転は、偏心回転部材6及び第3伝動部材9に分配され、したがってリングギヤCgからデフケースCに伝達された回転力を左右の駆動車軸S1,S2に分配することができる。
【0076】
かくして、第4実施形態の伝動構造によれば、第1〜第3伝動部材5,8,9を各々板状として軸方向に並べることにより軸方向に扁平小型化が容易な差動装置Dが提供可能となる。
【0077】
そして、この第4実施形態においても、ケーシングC内における第1,第2変速機構T1,T2や第1〜第3伝動部材5,8,9及び偏心回転部材6の配置構成が、第1〜第3実施形態のそれと同様であるので、その配置構成(特に径方向に遊動可能なスプライン嵌合SP1,SP2やスラスト受け機構17の構成)に関連して、第1〜第3実施形態と同等の作用効果を併せて達成可能である。
【0078】
更に第5実施形態を、
図8を参照して説明する。この第5実施形態では、偏心回転部材6と第1駆動車軸S1(第1伝動軸)との間の連動連結構造においてのみが第4実施形態と相違する。即ち、第4実施形態では、偏心回転部材6の主軸部6jに第1駆動車軸S1の内端部が直接、スプライン嵌合111されていたが、第5実施形態では、主軸部6jに第2筒軸114′を介して第1駆動車軸S1が同軸に連結される。
【0079】
偏心回転部材6は、円筒状をなす主軸部6jと、その主軸部6jの内端部を閉塞する円板状の偏心軸部6eとを一体に有する。第2筒軸114′は、内端側が閉塞された有底円筒状に形成されており、その閉塞壁114b′が偏心軸部6eの外側面に対向する。また第2筒軸114′の筒状部114a′の内周面には第1駆動車軸S1の内端部外周が、径方向に遊びがゼロ又は僅少の状態でスプライン嵌合111′される。
【0080】
また第2筒軸114′の内端部外周は、主軸部6jの内周面に径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP1′される。その主軸部6jの径方向内方側で偏心軸部6eの外側面は、平面状の第1当接面t1′とされる。またその第1当接面t1′に対向、接触する第2筒軸114′の閉塞壁114b′の外側面は、第1軸線X1上に中心を有する球面状に形成した第2当接面t2′とされる。そして、それら第1,第2当接面t1′,t2′により、スラスト受け機構17′が構成される。尚、上記とは逆に、平坦な第1当接面t1′を第2筒軸114′の閉塞壁114b′に、また球面状の第2当接面t2′を偏心軸部6eの外側面にそれぞれ設けてスラスト受け機構17′を構成するようにしてもよい。
【0081】
従って、この第5実施形態においても、第4実施形態と同等の作用効果を達成可能である。
【0082】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0083】
例えば、第1〜第3実施形態では、伝動装置として、自動二輪車の車輪(後輪W)を電動モータMで減速駆動するための車両用減速機Rに実施したものを例示したが、本発明の伝動装置は、自動二輪車以外の車両、例えば四輪自動車の車輪駆動に用いてもよいし、或いは車両以外の種々の機械装置のための減速機として使用してもよい。尚、何れの場合でも、駆動源は、電動モータの他、エンジンや油圧モータを用いてもよく、また、駆動源のケースと伝動装置のケーシングとは、本実施形態のように結合一体化してもよいし、別体に構成してもよい。また、自動二輪車の後輪駆動に用いる場合には、例えば、第1〜第3実施形態のように駆動源(電動モータ)を伝動装置(減速機R)に直結しないで、後輪より前方に離間配置した駆動源を、チェーン伝動機構等の無端伝動機構やドライブシャフト機構等を介して伝動装置(減速機R)に連動連結するようにしてもよい。
【0084】
また第1〜第3実施形態では、第1伝動軸S1を入力軸とし、第2伝動軸S2を出力軸とした減速機Rを伝動装置として示したが、この伝動装置を例えば、第1伝動軸S1を出力軸とし、第2伝動軸S2を入力軸とすることで増速機として使用してもよい。
【0085】
また第4,第5実施形態では、伝動装置としての差動装置Dを自動車のミッションケース1内に収容しているが、差動装置Dは自動車用の差動装置に限定されるものではなく、種々の機械装置用の差動装置として実施可能である。
【0086】
また、第4,第5実施形態では、差動装置Dを、左・右輪伝動系に適用して、左右の駆動車軸S1,S2に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するものを示したが、本発明では、差動装置を、前・後輪駆動車両における前・後輪伝動系に適用して、前後の駆動車輪に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するようにしてもよい。
【0087】
また、第4,第5実施形態では、第1,第2軸受B1,B2を円筒ボス状としてケーシングCと一体化したものを例示したが、第1〜第3実施形態のようにケーシングCと別部品化した第1,第2軸受B1,B2を介してケーシングCに第1,第2駆動車軸S1,S2(第1,第2伝動軸)を回転自在に支持させるようにしてもよい。
【0088】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の各伝動溝21,22;24,25をトロコイド曲線に沿った波形環状の波溝としているが、これら伝動溝は、実施形態に限定されるものでなく、例えばサイクロイド曲線に沿った波形環状の波溝としてもよい。
【0089】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の第1及び第2伝動溝21,22間、並びに第3及び第4伝動溝24,25間にボール状の第1及び第2転動体23,26を介装したものを示したが、その転動体をローラ状又はピン状としてもよく、この場合に、第1及び第2伝動溝21,22、並びに第3及び第4伝動溝24,25は、ローラ状又はピン状の転動体が転動し得るような内側面形状に形成される。
【0090】
また前記実施形態では、第1,第2保持部材H1,H2を、内・外周面が各々真円の円環状リングより構成したものを示したが、第1,第2保持部材の形状は、前記実施形態に限定されず、少なくとも複数の第1,第2ボール23,26を各々一定間隔で保持し得る環状体であればよく、例えば楕円状の環状体、或いは波形に湾曲した環状体であってもよい。なお、第1,第2保持部材H1,H2無しでも第1,第2ボール23,26が円滑に転動可能である場合には、第1,第2保持部材H1,H2を省略してもよい。