(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-133873(P2017-133873A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】流量データ作成方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/00 20060101AFI20170707BHJP
G01F 1/52 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
G01F1/00 F
G01F1/00 H
G01F1/52
G01F1/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-12345(P2016-12345)
(22)【出願日】2016年1月26日
(71)【出願人】
【識別番号】594138794
【氏名又は名称】ペンタフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】後藤 ▲清▼
【テーマコード(参考)】
2F030
【Fターム(参考)】
2F030CA10
2F030CC09
2F030CE04
2F030CE09
2F030CE27
(57)【要約】
【課題】 下水管路施設の多数箇所における不明水を調査するため安価に多数箇所の流量データを収集して流量マップを作成することのできる流量データ作成方法を提供すること。
【解決手段】 下水管路施設の複数箇所A(1)〜A(N)(例えば100箇所)における不明水を調査するために、前記複数箇所A(1)〜A(N)での流量データを作成する方法であって、前記複数箇所A(1)〜A(N)のそれぞれにおいて流量計1又は流速計により一過的に計測された計測データと、マニングの公式と、前記複数箇所A(1)〜A(N)のそれぞれに設置された水位計2により継続的に計測された水位データとを用いることにより前記複数箇所A(1)〜A(N)での流量データを得るようにしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水管路施設の複数箇所における不明水を調査するために、前記複数箇所での流量データを作成する方法であって、前記複数箇所のそれぞれにおいて流量計又は流速計により一過的に計測された計測データと、マニングの公式と、前記複数箇所のそれぞれに設置された水位計により継続的に計測された水位データとを用いることにより前記複数箇所での流量データを得ることを特徴とする流量データ作成方法。
【請求項2】
前記流量計として面速式流量計を用いる請求項1に記載の流量データ作成方法。
【請求項3】
前記流量計としてフリューム式流量計を用いる請求項1に記載の流量データ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管路施設の複数箇所における不明水を調査するために、前記複数箇所での流量データを作成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水管路施設の維持管理の重要課題として不明水問題がある。不明水とは、下水処理場へ流入する汚水量と給水(上水)量との差分を意味する。不明水は主として雨天時に流入する雨天時浸入水と、地下水や灌漑用水、海水等が流入する常時浸入水とで構成される。一般的に、下水道使用料は上水道使用料金から算定されるが、不明水が多いと計画以上の処理コストが発生するばかりでなく、処理場の過負荷による公共用水域の汚染や、不明水が管路周囲の土砂を引き込むことにより生じる管路周囲の空洞化や道路陥没、管路施設そのものの短命化を招来するなど、下水維持管理上、不明水は極めて深刻な問題になっている。近年、下水道の普及に伴い、事業が建設中心から、管路施設のストックマネジメント(寿命管理とリスク管理)に変化しているが、対応技術が追い付いていない状況がある。特に、管路施設の健康診断に相当する、スクリーニング(面的簡易調査)技術の最適化は、事業全体の振興に重要な役割を果たすため、重要であると認識され、これまで多くの技術〔例えば、下記に示す(1)従来の一般的な方法、(2)同時多測点流量調査(3)遡流式瞬時流量分布調査、(4)既存データを利用した疫学的な方法、(5)温度分布調査による方法、(6)電気伝導度分布調査による方法〕が発表されてきた。
【0003】
(1)の従来の一般的な方法としては、流量計を、広域ではない適当な規模で5箇所程度設置して、比較的長期間、不明水を定量する方法がある。これは、雨天時浸入水は晴雨天時の差分流量、常時浸入水は、汚水影響が最も少ないと予想される深夜最小流量や地下水位・用水路水位・潮位等と相関する変化流量部分から定量する方法であるが、費用対効果の点で最小限度の調査しか実施されてこなかった。(2)の同時多測点流量調査は、簡易・短時間に仮設できるタイプの流量計を20〜100箇所程度同時期に仮設し、不明水の分布を定量する方法である。不明水の定量方法は前項と同じで、大幅なコストダウンを図ったが、スクリーニングに必要なレベルのコストまでは下がっていない。(3)の遡流式瞬時流量分布調査は、不明水のうち、常時浸入水の定量を目的とした調査である。これは、主に深夜、マンホールへ流入する瞬時流量を計測する方法で、下流から上流に遡りながら定量する方法である(微量以下の流入経路を省きながら効率よく常時浸入水の分布を調べるもの)。(4)の既存データを利用した疫学的な方法は、雨天時浸入水発生領域の簡易調査法である。これは、3年分の処理場流入下水量とアメダスデータを用いて、アメダスのメッシュ規模で雨天時浸入水の分布を調査するものであるが、メッシュ定量と管網定量との整合性や、洪水時やマンホールポンプなど満管状態になる箇所が多いと誤差を生じることがある。(5)の温度分布調査による方法は、汚水と雨水や地下水の温度差を利用して、晴雨天時や昼夜間の温度差から不明水の分布を調査する方法であるが、温度差が明確でないケースでは誤差を生じることがある。(6)の電気伝導度分布調査による方法は、汚水と雨水や地下水の電気伝導度差を利用して、晴雨天時や昼夜間の電気伝導度差から不明水の分布を調査する方法であるが、電気伝導度差が明確でないケースでは誤差を生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した(1)〜(3)の技術は、コスト上の問題から多くても数10箇所程度での計測にとどまり、多数箇所を網羅した流量マップの作成は行われていなかった。又、(4)〜(6)の技術についても、流量精度をもった広域マップ作成は行われていなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなしたもので、下水管路施設の多数箇所における不明水を調査するため安価に多数箇所の継続的な流量データを収集して流量マップを作成することのできる流量データ作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の流量データ作成方法は、下水管路施設の複数箇所における不明水を調査するために、前記複数箇所での流量データを作成する方法であって、前記複数箇所のそれぞれにおいて流量計又は流速計により一過的に計測された計測データと、マニングの公式と、前記複数箇所のそれぞれに設置された水位計により継続的に計測された水位データとを用いることにより前記複数箇所での流量データを得ることを特徴としている(請求項1)。また、本発明では、前記流量計として面速式流量計を用いる請求項1に記載の流量データ作成方法を提供する(請求項2)。また、本発明では、前記流量計としてフリューム式流量計を用いる請求項1に記載の流量データ作成方法を提供する(請求項3)。
【発明の効果】
【0007】
不明水を調査するために下水管路施設の複数箇所(例えば数10〜数100箇所など)の流量を継続調査するにあたり、本発明に係る流量データ作成方法は、複数の各箇所で例えば面速式流量計やフリューム式流量計又は流速計によりマニングの平均流速公式
V
m=(1/n)・R
2/3・I
1/2
〔尚、流量Q=AV
mであり、A:流積、V
m:平均流速、n:粗度係数、R:径深(A/P)、I:勾配、P:潤辺(流れが横断壁面に接する長さ)〕
中の平均流速V
mを一過的に求める工程と、水位計(例えばデータロガー付きの水位センサ)を用いて前記複数の各箇所での水位を継続的に計測する工程と、得られた平均流速V
mと得られた水位hに基づいて流量Qの継続的なデータを求める工程とを含んでいる。そのため、本発明では、複数の各箇所での据え付け設置を安価な水位計(例えばデータロガー付きの水位センサ)のみにする一方、高価な例えば面速式流量計やフリューム式流量計は固定設置ではなくそれらの持ち回りでその箇所での平均流速V
mを得るようにすることによって、複数箇所それぞれの平均流速V
mを得るにあたり高価な例えば面速式流量計を複数台用いることを不要にでき(可搬式の例えば一台の面速式流量計を用いて各箇所一回限りの実測で平均流速を求めることができ)るようにするとともに、流量Qを求める際に必要な係数(例えば流積A、径深R)は、水位計(例えばデータロガー付きの水位センサ)により得られる水位の関数であり、これらおよび一回限りの平均流速実測値を用いて下水管路施設の複数箇所の流量Qを全て求めることができるようにする、といった作用効果を奏する。その結果、本発明では、安価に下水管路施設の複数箇所(例えば数10〜数100箇所など)の継続的な流量データを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る流量データ作成方法を説明するための図であり、一部を拡大して図示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、それによって本発明は限定されるものではない。
図1において、この実施形態における流量データ作成方法は、下水管路施設の複数箇所A(1)〜A(N)(例えば100箇所)における不明水を調査するために、前記複数箇所A(1)〜A(N)での流量データを作成する方法であって、前記複数箇所A(1)〜A(N)のそれぞれにおける流量計1又は流速計により一過的に計測された計測データと、マニングの平均流速公式と、前記複数箇所A(1)〜A(N)のそれぞれに設置された水位計2により継続的に計測された水位データとを用いることにより前記複数箇所A(1)〜A(N)での継続的な流量データを得るようにしている。
【0010】
水位計2は、全ての複数箇所A(1)〜A(N)に据え付け設置されている。しかも、この実施形態では、水位計2として、大変安価な(例えば5万円程度の)データロガー付き(記録計、積算計付き)の水位センサを用いている。一方、この実施形態では、流量計1として、下水道の流量計測において頻用されている超音波式の面速式流量計(例えば弊社製あるいはメインストリーム社製)を用いている。この面速式流量計は、ドップラー流速計で計測した平均流速と、水位計測から求めた流水断面積とから流量を演算するものであるが、高価(200〜240万円程度)なもので、これにより平均流速V
mを実測する。なお、流量計1として同じく高価なフリューム式流量計を用いてもよい。なお、流速計により計測データを得ることもできる。そして、本発明では、高価な面速式流量計1を複数台用い複数箇所に据えつけて(固定設置して)流量計算するのではなく、面速式流量計1を固定設置ではなく一台の面速式流量計1を例えば持ち回りすることによって、一過的に(例えば一回だけ)計測するようにしている。そして、面速式流量計1の各箇所A(1)〜A(N)への持ち回り時に同時にその各箇所A(1)〜A(N)に前記水位センサ2を据え付け設置するようにしている。
【0011】
水位センサ2の据え付けは専用マウントにより短時間で仮設可能としてある。すなわち、小口径の専用マウントの場合はスプリング固定タイプが使用され、マウント自体のスプリング機能を利用して水位センサ2が固定金具により固定される。また、中口径の専用マウントの場合は、ターンバックル固定タイプが使用される。また、センサ固定タイプ(嵌め込み式)も使用可能で、これは、水位センサ2の先端が不明水の流れに向かった状態(前記先端を前記流れの上流側に向ける)で水位センサ2が支持金具と受け金具に嵌め込まれている。また、前記支持金具と前記受け金具は予めマウントに固定されている。さらに、マウント面に、通水孔を設けた水位センサ2嵌め込み設置用のカバーを設け、このカバーで高流速動圧を緩衝するタイプのものも使用可能である。このように、水位センサ2を短時間で仮設できるとともに、不明水中の汚物等の付着・堆積への対応さらには不明水高流速への対応に工夫が施されている。
【0012】
そして、本発明では、絶対圧検出タイプの水位計(例えばデータロガー付水位センサ)2を前記複数箇所A(1)〜A(N)の水位検出位置に仮設し、水位計測値hから流量Qを計算して、不明水の分布を調査するが、絶対圧(水圧)P
1だけでは水位(水圧→水の重さ→水深)計測精度を保持できないので、この実施形態では、付近の大気圧P
2を計測できる大気圧ロガー(
図1における三角形で示す部分)Lを水位検出付近に1〜数箇仮設し、差圧(ゲージ圧)から水位を計算している。尚、ある一定地域S
1〜S
n(大気圧はどこでもほぼ同じと見なされる地域内)では、1箇所にのみ大気圧ロガーLを設けるだけでよい(例えば地域S
1内ではA(2)にのみ大気圧ロガーLを設ければよい)。なお、
図1においては、箇所S
1,S
nのみ拡大して図示してある。
【0013】
流量計算は、前述したマニングの平均流速公式に拠る。ただし、粗度係数nと勾配Iは、可搬式の例えば面速式流量計1で実測した、水位計設置箇所A(1)〜A(N)の水位と平均流速とから計算される実測値を用いる。
マニング公式
V
m=(1/n)・R
2/3・I
1/2
〔尚、流量Q=AV
mであり、A:流積(m
2)、V
m:平均流速(m/sec)、n:粗度係数、R:径深(A/P)、I:勾配、P:潤辺(流れが横断壁面に接する長さ)(m)〕
なお、マニングの平均流速公式中の径深Rは水路形状と水深から計算されるので、流積Aと平均流速V
mから(1/n)×I
1/2を計算できる。
【0014】
而して、この実施形態では、まず、面速式流量計1で得た一過的なデータを利用し、後は前記水位計2で例えば1ヶ月間計測した継続的な水位データをマニング公式に代入するだけで前記各複数箇所A(1)〜A(N)における継続的な流量データを得るものである。すなわち、面速式流量計1で計測した平均流速V
m(m/sec)の計測値を例えば10(m/sec)とする。また、(I
1/2/n)=V
m/R
2/3…(1)であるから、(1)式のV
mに計測値の10を代入して、
(I
1/2)÷n=10÷R
2/3…(1)’になる。
【0015】
一方、データロガー付水位センサ2で計測した水位(水深)h(m)の計測値を例えば0.5(m)とする。また、マニングの公式中の係数の一つである径深R(=A/P)は水路形状と水深h(m)から計算できる。ここで、円形の下水管路を例にとる。すなわち、下水管路の直径(既知の値)をr(m)とし、θを潤辺Pに対応する円周角とする。
潤辺Pは、P=π×r×(θ/2π)=(r×θ)/2…(2)となる。また、マニングの公式中の係数の一つである
流積Aは、A=(1/8)×r
2×(θ−sinθ)…(3)となる。
但し、A=π×(r/2)
2×(θ/2π)−(1/2)×〔2×(r/2)×sin(θ/2)×(r/2)×cos(θ/2)〕
=(1/8)×r
2×〔θ−2sin(θ/2)×cos(θ/2)〕
=(1/8)×r
2×〔θ−(sin(θ)+sin(0)〕である。
そして、
R=A/Pに、(2),(3)式を代入すると、
2R=(1/8)×r
2(θ−sinθ)/(r×θ)…(4)となる。
また、
h=r/2−(r/2)cos(θ/2)
であるから、cos(θ/2)=1−(2/r)×hとなる。
よって、θは、水位センサ2から得られる水深h(m)と、水路形状から得られる既知の値(下水管路の直径r)から求めることができる。例えばh=0.5、r=1とする。 つまり、径深Rは、(4)式から、下水管路の直径r(m)(水路形状)と水位センサ2で計測した水位(水深)h(m)から計算される。
故に、(4)式に、h=0.5、r=1を代入して径深Rの値を計算でき、この径深値を(1)’式に代入して(I
1/2)÷nを計算できるとともに、
さらに、上述した平均流速V
m(m/sec)の計測値(=10)と、(3)式に示した流積値を乗算して複数箇所A(1)〜A(N)のそれぞれの流量Qを計測することができる。
【0016】
この実施形態では、マニングの平均流速公式を用い、面速式流量計1で一過的に実測した平均流速V
m値と、水路形状と水位hとから得られた値と、安価な水位センサ2による各箇所A(1)〜A(N)での継続的な水位データとで各箇所A(1)〜A(N)における継続的な流量データをそれぞれ求めることができる。そして、高価な面速式流量計1は例えば持ち回りするようにしているため、スクリーニングに必要な多数箇所A(1)〜A(N)の調査を安価に実現できる。すなわち、簡易で安価な水位センサ2での水位計測と面速式流量計1のような高価であるが持ち回り可能な流量計での平均流速計測とを得るようにするとともに、マニングの公式中の必要な係数等を知ることができるように工夫し、これにより、各箇所A(1)〜A(N)の流量Qを算出することができる。
【0017】
なお、流量計測精度向上のため、必要に応じた、面速式流量計やフリューム式流量計との組み合わせ調査も可能である。また、面速式流量計やフリューム式流量計さらには流速計との組み合わせ調査も可能である。また、雨天時浸入水と常時浸入水量定量精度向上のための、温度や電気伝導度計測値による補正も可能である。そして、本発明は、雨水管理関連の水位流量調査への応用が可能であるとともに、合流改善関連の水位流量調査への応用が可能である。又、この技術の応用として、例えば雨水管理(雨水管の降雨時の水位計測に基づく浸入対策)や、合流改善(合流管の流入管と遮集管の水位計測に基づく放流管理)などへの応用も可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 流量計
2 水位計
A(1)〜A(N) 下水管路施設の複数箇所