(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-134008(P2017-134008A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】トルク制御値生成装置及びそれを備えたダイナモ駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20170707BHJP
【FI】
G01M17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-15896(P2016-15896)
(22)【出願日】2016年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】東山 勇志
(57)【要約】
【課題】ダイナモを駆動制御する制御部に入力されるトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置において、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性を向上可能な構成を得る。
【解決手段】トルク制御値生成装置(10)は、トルク指令に基づいてダイナモ(2)が出力する出力トルクを推定する出力トルク推定部(11)と、前記トルク指令と前記出力トルクとの差分を求める差分算出部(12)と、前記差分と前記トルク指令とを用いてトルク制御値を求めるトルク制御値算出部(14)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令に応じて、ダイナモを駆動制御するための制御部に入力されるトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置であって、
前記トルク指令に基づいて前記ダイナモが出力する出力トルクを推定する出力トルク推定部と、
前記トルク指令と前記出力トルクとの差分を求める差分算出部と、
前記差分と前記トルク指令とを用いて前記トルク制御値を求めるトルク制御値算出部とを備える、トルク制御値生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載のトルク制御値生成装置であって、
前記出力トルク推定部は、前記ダイナモの出力トルク特性に近似した関数を用いて、前記出力トルクを推定する、トルク制御値生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載のトルク制御値生成装置であって、
前記関数は、ローパスフィルタの伝達関数である、トルク制御値生成装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のトルク制御値生成装置であって、
前記差分を調整して前記トルク制御値算出部に出力する差分調整部をさらに備える、トルク制御値生成装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のトルク制御値生成装置と、
前記トルク制御値生成装置によって生成されたトルク制御値に基づいて、ダイナモを駆動制御する制御部とを備える、ダイナモ駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナモを駆動制御する制御部に入力されるトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置及びそれを備えたダイナモ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダイナモを駆動制御する制御部に入力されるトルク制御値を生成する構成が知られている。例えば、特許文献1には、コントローラがトルク指令に基づいてトルク電流指令(トルク制御値)を生成する点や、インバータを介して前記トルク電流指令によってダイナモメータの駆動を制御する点などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−15386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に開示されている構成のように、コントローラによってトルク指令からトルク制御値を生成した後、該トルク制御値に応じてダイナモの駆動制御を行う場合、ダイナモのリアクタンス等によって、該ダイナモから出力される出力トルクの波形が、前記トルク指令の波形とは異なる波形になる。すなわち、ダイナモの出力トルクは、トルク指令に対して遅れ等が生じる。したがって、一般的に、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性はあまり高くない。
【0005】
本発明の目的は、ダイナモを駆動制御する制御部に入力されるトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置において、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性を向上可能な構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るトルク制御値生成装置は、トルク指令に応じて、ダイナモを駆動制御するための制御部に入力されるトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置である。このトルク制御値生成装置は、前記トルク指令に基づいて前記ダイナモが出力する出力トルクを推定する出力トルク推定部と、前記トルク指令と前記出力トルクとの差分を求める差分算出部と、前記差分と前記トルク指令とを用いて前記トルク制御値を求めるトルク制御値算出部とを備える(第1の構成)。
【0007】
以上の構成では、トルク指令に基づいてダイナモが出力する出力トルクを推定し、前記トルク指令と前記出力トルクとの差分及び前記トルク指令を用いて、トルク制御値を求める。これにより、ダイナモの出力トルクに合わせてトルク指令を補正することができるため、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性を向上することができる。したがって、ダイナモの速度制御、トルク制御及び電気慣性制御等の応答性の向上を図れる。
【0008】
前記第1の構成において、前記出力トルク推定部は、前記ダイナモの出力トルク特性に近似した関数を用いて、前記出力トルクを推定する(第2の構成)。このように、ダイナモの出力トルク特性に近似した関数を用いて出力トルクを推定することにより、ダイナモの出力トルクを容易に推定することができる。
【0009】
前記第1または第2の構成において、前記関数は、ローパスフィルタの伝達関数である(第3の構成)。ダイナモの出力トルク特性は、ローパスフィルタの周波数特性に似ている。そのため、ダイナモの出力トルクを、簡単なローパスフィルタの伝達関数によって容易に推定することができる。よって、ダイナモの出力トルクの推定値を計算によって容易に求めることができる。
【0010】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記差分を調整して前記トルク制御値算出部に出力する差分調整部をさらに備える(第4の構成)。これにより、トルク指令とダイナモの出力トルクの推定値との差分を調整することができる。したがって、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性が良くなる様に、トルク制御値を調整することができる。よって、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性を向上することができる。
【0011】
本発明の一実施形態に係るダイナモ駆動制御装置は、第1から第4の構成のうちいずれか一つの構成に記載のトルク制御値生成装置と、前記トルク制御値生成装置によって生成されたトルク制御値に基づいて、ダイナモを駆動制御する制御部とを備える(第5の構成)。
【0012】
これにより、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性を向上可能なダイナモ駆動制御装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態に係るトルク制御値生成装置によれば、トルク指令に基づいて推定されるダイナモの出力トルクと、前記トルク指令との差分を用いて、制御部に入力するためのトルク制御値を求める。これにより、トルク指令に対するダイナモの出力トルクの応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るダイナモ駆動制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、トルク指令及びダイナモの出力トルクの波形の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、ダイナモの出力電流の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るダイナモ駆動制御装置1の概略構成を示す図である。このダイナモ駆動制御装置1は、例えば車両試験装置などに用いられるダイナモ2(
図1における“G”)の駆動を制御するための装置である。ダイナモ駆動制御装置1は、トルク指令に応じてトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置10と、前記トルク制御値に基づいてダイナモ2を駆動させるインバータ20(
図1における“INV”)とを備える。
【0017】
すなわち、ダイナモ2は、トルク指令から生成されたトルク制御値に基づいて、駆動制御される。
【0018】
トルク制御値生成装置10は、トルク指令に基づいて、インバータ20によってダイナモ2を駆動させるためのトルク制御値を生成する。具体的には、トルク制御値生成装置10は、トルク指令と該トルク指令に基づいて推定されるダイナモ2の出力トルクとの差分を用いてトルク指令を補正することにより、トルク制御値を生成する。
【0019】
トルク制御値生成装置10は、出力トルク推定部11と、差分算出部12と、差分調整部13と、制御値算出部14とを備える。
【0020】
出力トルク推定部11は、トルク指令に基づいてダイナモ2の出力トルクを推定する。具体的には、出力トルク推定部11は、ダイナモ2の出力トルク特性に近似した関数を用いて、トルク指令からダイナモ2の出力トルクを推定する。出力トルク推定部11は、推定した出力トルクを、出力トルク推定値として出力する。
【0021】
ここで、ダイナモ2の出力トルク特性は、ローパスフィルタの伝達関数に近似している。そのため、出力トルク推定部11は、下式のようなローパスフィルタの伝達関数H(s)をトルク指令に対して掛けることにより、ダイナモ2の出力トルクを推定する。
【0022】
H(s)=1/(1+T・s)
上式において、Tは時定数であり、sはラプラス演算子である。
【0023】
差分算出部12は、出力トルク推定部11から出力された出力トルク推定値とトルク指令との差分を求める。差分算出部12は、前記差分を差分算出値として出力する。
【0024】
差分調整部13は、前記差分に対してゲイン調整を行う。すなわち、差分調整部13は、前記差分に対して所定の係数を乗算することにより、差分調整値を求める。これにより、制御値算出部14によってトルク制御値を求める際に、前記差分を差分調整部13によって調整することができる。よって、ダイナモ2の出力トルクの応答性を向上するように、トルク制御値を調整することが可能になる。差分調整部13は、前記差分調整値を出力する。
【0025】
制御値算出部14は、差分調整部13によって調整された差分をトルク指令に加算することにより、トルク制御値を求める。制御値算出部14は、求めたトルク制御値をインバータ20に出力する。インバータ20は、入力されたトルク制御値に基づいて、ダイナモ2を駆動させる。
【0026】
(ダイナモ駆動制御装置の動作)
次に、上述の構成を有するダイナモ駆動制御装置1の動作について説明する。
【0027】
ダイナモ駆動制御装置1にトルク指令が入力されると、まずトルク制御値生成装置10にトルク指令が入力される。トルク制御値生成装置10では、トルク指令が入力されると、出力トルク推定部11がトルク指令に基づいてダイナモ2の出力トルクを推定する。出力トルク推定部11は、ダイナモ2の出力トルク特性に近似したローパスフィルタの伝達関数を用いて、ダイナモ2の出力トルクを推定する。出力トルク推定部11は、この出力トルクを出力トルク推定値として出力する。
【0028】
出力トルク推定部11から出力された出力トルク推定値は、差分算出部12に入力される。差分算出部12では、トルク指令と出力トルク推定値との差分を求める。差分算出部12は、算出した差分を差分算出値として出力する。
【0029】
差分算出部12から出力された差分算出値は、差分調整部13に入力される。差分調整部13では、差分算出値に対して所定の係数を乗算して、差分調整値を求める。この係数は、予め設定されていてもよいし、変更可能であってもよい。差分調整部13は、前記差分調整値を出力する。
【0030】
差分調整部13から出力された差分調整値は、制御値算出部14に入力される。制御値算出部14では、差分調整値とトルク指令とを加算することにより、トルク制御値を求める。制御値算出部14は、前記トルク制御値を出力する。
【0031】
制御値算出部14から出力されたトルク制御値は、インバータ20に入力される。インバータ20は、前記トルク制御値に基づいてダイナモ2を駆動させる。
【0032】
図2に、時間とともに変化するトルク指令(実線)の一例と、そのトルク指令に対してダイナモ2から出力されるトルク(破線及び一点鎖線)の時間変化の一例を示す。
【0033】
本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いない場合、
図2に実線で示すようなステップ状のトルク指令に基づいてインバータ20によってダイナモ2を駆動させると、該ダイナモ2から
図2に破線で示すような出力トルクが得られる。この出力トルクは、トルク指令に対し、かなり遅れが生じている。そのため、本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いない場合、トルク指令に対するダイナモ2の出力トルクの応答性が良くない。
【0034】
これに対し、本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いた場合、該トルク制御値生成装置10によって得られたトルク制御値に基づいてインバータ20によりダイナモ2を駆動させると、該ダイナモ2から
図2に一点鎖線で示すような出力トルクが得られる。この出力トルクは、ステップ状のトルク指令に近い波形を有する。したがって、本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いることにより、トルク指令に対するダイナモ2の出力トルクの応答性を向上することができる。
【0035】
図3に、ダイナモ2の出力電流の周波数特性を示す。ダイナモ2の出力電流は、該ダイナモ2の出力トルクに対応しているため、出力電流の周波数特性は、出力トルクの周波数特性にほぼ近い。なお、
図3(a)はゲイン特性を示しており、
図3(b)は位相特性を示している。
【0036】
図3において、細線は、本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いない場合のダイナモ2の出力電流の周波数特性を示す。一方、
図3において、太線は、本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いた場合のダイナモ2の出力電流の周波数特性を示す。
【0037】
図3(a)に示すように、細線に比べて太線の方が、ゲインが大きく、応答性が高いことが分かる。特に、周波数が高い領域において、太線の方が細線に比べてゲインが大きくなっており、周波数の高い領域で応答性が高いことが分かる。また、
図3(b)に示すように、細線に比べて太線の方が、位相が進んでおり、応答性が高いことが分かる。すなわち、本実施形態に係るトルク制御値生成装置10を用いることにより、ダイナモ2の出力トルクの応答性を向上することができる。
【0038】
以上より、トルク指令に基づいて推定されたダイナモ2の出力トルクと該トルク指令とにより生成されたトルク制御値に基づいて、インバータ20によってダイナモ2を駆動させることにより、前記トルク指令に対するダイナモ2の出力トルクの応答性を向上することができる。
【0039】
しかも、トルク指令に基づいてダイナモ2の出力トルクを推定する際に、該ダイナモ2の出力トルクの周波数特性に近いローパスフィルタの伝達関数を用いることにより、出力トルクの推定値を容易に算出することができる。
【0040】
また、出力トルクの推定値とトルク指令との差分を調整可能な差分調整部13を設けることにより、ダイナモ2の出力トルクの周波数特性に合わせて、トルク制御値を変えることが可能になる。すなわち、差分調整部13によって、前記差分を調整した差分調整値を得ることにより、該差分調整値及び前記トルク指令から求められるトルク制御値を自由に変更することができる。したがって、差分調整部13によって、ダイナモ2の出力トルクの周波数特性に応じてトルク制御値を変えることができるため、トルク指令に対する出力トルクの応答性がより良いトルク制御値を得ることができる。
【0041】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0042】
前記実施形態では、出力トルク推定部11は、ダイナモ2の出力トルクの周波数特性に近似したローパスフィルタの伝達関数を用いて、トルク指令に基づいて出力トルクを算出している。しかしながら、出力トルク推定部11は、他の関数を用いて、ダイナモ2の出力トルクを推定してもよい。
【0043】
前記実施形態では、トルク制御値生成装置10は、トルク指令と出力トルク推定値との差分を調整する差分調整部13を有する。しかしながら、トルク制御値生成装置10は、差分調整部13を有していなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ダイナモを駆動制御するためのトルク制御値を生成するトルク制御値生成装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 ダイナモ駆動制御装置
2 ダイナモ
10 トルク制御値生成装置
11 出力トルク推定部
12 差分算出部
13 差分調整部
14 制御値算出部
20 インバータ(制御部)