特開2017-134883(P2017-134883A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-134883(P2017-134883A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】イメージ管
(51)【国際特許分類】
   H01J 31/50 20060101AFI20170707BHJP
   H01J 29/38 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
   H01J31/50 A
   H01J29/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-111605(P2014-111605)
(22)【出願日】2014年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】野地 隆司
【テーマコード(参考)】
5C037
【Fターム(参考)】
5C037GG05
5C037GH03
5C037GH04
5C037GH05
5C037GH19
(57)【要約】
【課題】分解能を向上できるイメージ管を提供する。
【解決手段】イメージ管は、入力窓およびこの入力窓と対向する出力窓を有する真空外囲器と、入力窓の内側に配置される入力面17とを備える。入力面17は、表面30aに複数の凹部33が形成された基板30と、基板30の表面30aに形成された柱状結晶構造の入力蛍光面31と、入力蛍光面31上に形成された光電面32とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力窓およびこの入力窓と対向する出力窓を有する真空外囲器と、前記入力窓の内側に配置される入力面とを備えるイメージ管であって、
前記入力面は、表面に複数の凹部が形成された基板と、この基板の表面に形成された柱状結晶構造の蛍光面と、この蛍光面上に形成された光電面とを備える
ことを特徴とするイメージ管。
【請求項2】
前記基板は、隣り合う前記凹部間に前記基板の表面から突出する頂部が形成され、
前記蛍光面は、前記頂部に対応して柱状結晶間に隙間が形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のイメージ管。
【請求項3】
前記凹部は、直径が20〜50μm、深さが3〜15μmである
ことを特徴とする請求項1または2記載のイメージ管。
【請求項4】
前記凹部は、ブラスト加工によって形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のイメージ管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空外囲器内に入力面が配置されたイメージ管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イメージ管は、医療診断や工業用非破壊検査などに利用されている。このイメージ管は、通常、撮影系の感度を向上させるために、撮像にイメージ管とCCDカメラとを組み合わせたシステムが使用されている。その撮影においては、被検体を透過したX線をイメージ管の入力面が備える入力蛍光面で可視光に変換されるとともに光電面でその可視光を電子に変換し、電子を電気的に増幅し、出力蛍光面で電子を可視光に変換し、その可視画像をCCDカメラで撮影することで、被検体の透視画像を得ている。
【0003】
イメージ管は、医療用の場合、性能が重視され、分解能、輝度の向上が必要になっている。さらに、X線被爆の低減を目的とし、入力蛍光面でのX線吸収を高めるために入力蛍光面の膜厚は300〜500μmが多用されている。
【0004】
イメージ管の入力面は、基板の平滑な表面にヨウ化セシウム(CsI)蛍光体を蒸着して入力蛍光面が形成されている。
【0005】
入力蛍光面は、低真空蒸着や斜め蒸着の技術により、蛍光体が柱状結晶構造になり、その柱状結晶の間に微小な隙間が形成されることから、光ガイド作用によって入力蛍光面を厚膜に形成しても、分解能はある程度の性能が得られている。しかし、分解能の性能には限界があり、視野可変型のイメージ管において0.1mm〜0.2mm程度の分解能である。その主な原因は、蛍光体の結晶成長は基板の平滑な表面側から始まるが、その成長の過程で基板および蛍光体の温度上昇が発生するため、柱状結晶の成長が進むにつれて柱状結晶の1本毎の径が徐々に大きくなるためである。
【0006】
そのため、柱状結晶内の臨界角による光の反射が減少して横方向への散乱光が増加し、入力蛍光面内で変換された光は広く拡散しやすくなる。また、柱状結晶間は隙間がなくなってくるようになるので、厚膜になるほど、散乱光が増加してしまう。その結果、光ガイドの効果はなくなり、柱状結晶内の光が横方向に拡散していくので、分解能は低下していくことになる。これが分解能の向上を妨げる要因になっているので、微小な被検体の観察を難しくしている。
【0007】
このような問題は、医療診断用のX線撮影に限らず、工業用の非破壊検査においても同様に考えられる。工業用はその用途により入力蛍光面の膜厚は10μmから約2mm程度が適用されるので、上述した現象が同様に発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−44385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来のイメージ管においては、分解能を向上させることが困難になっている。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、分解能を向上できるイメージ管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態のイメージ管は、入力窓およびこの入力窓と対向する出力窓を有する真空外囲器と、入力窓の内側に配置される入力面とを備える。入力面は、表面に複数の凹部が形成された基板と、基板の表面に形成された柱状結晶構造の蛍光面と、蛍光面上に形成された光電面とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態を示すイメージ管の入力面の断面図である。
図2】同上イメージ管の断面図である。
図3】同上入力面内での光の伝搬を比較する説明図であり、(a)は本実施形態の入力面の場合の説明図、(b)は基板の表面が平滑な入力面の場合の説明図である。
図4】同上イメージ管を用いた放射線撮影装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態を、図1ないし図4を参照して説明する。
【0014】
図2にイメージ管の断面図を示す。イメージ管10は、真空外囲器11を備えている。真空外囲器11は、円筒状の胴部12、胴部12の一端側の入力窓13、および胴部12の他端側で入力窓13と対向する出力窓14を有している。入力窓13は、外側に向けて突出する凸曲面状に形成されており、放射線としてのX線15が入射し、透過可能とする。
【0015】
真空外囲器11内には、入力窓13の内側にその入力窓13から入射したX線15を電子16に変換して放出する入力面17が設置され、出力窓14の内側に入力面17からの電子16を可視光像18に変換して出力窓14から出力する出力面19が形成されている。さらに、真空外囲器11内には、入力面17を含む陰極20から出力面19に向かって進行する電子16の進路に沿って電子16を加速および集束する電子レンズを構成する集束電極21および陽極22を含む複数の電極23が設置されている。入力面17は、入力窓13の形状に対応して、入力窓13に向けて突出する凸曲面状に形成されている。出力面19は、電子16を可視光に変換する出力蛍光体を備えている。
【0016】
次に、図1に入力面17の断面図を示す。入力面17は、基板30、この基板30の表面30aに形成された蛍光面としての入力蛍光面31、およびこの入力蛍光面31上に形成された光電面32を有している。入力窓13から入射して基板30を透過したX線15を入力蛍光面31で光に変換し、入力蛍光面31からの光を光電面32で電子に変換して出力面19へ向けて放出する。
【0017】
基板30は、例えばアルミニウム基板であり、入力窓13に向けて突出する凸曲面状に形成されている。入力窓13とは反対側となる基板30の表面30aすなわち凹曲面状の表面30aには複数の凹部(凹面)33が形成されている。本実施形態では、凹部33の窪んだ内面は、凹曲面状の反射面34に形成され、さらに、凹部33は、基板30の表面30aに垂直な方向から見て円形に形成されているとともに、複数の凹部33が連続して形成されている。隣り合う凹部33間には、基板30の表面30aから突出する頂部35が形成されている。なお、凹部33は、形成方法によって、楕円形など円形以外の形状となったり、凹部33同士が連続せずに凹部33間に間隔があく場合もある。
【0018】
また、入力蛍光面31は、基板30の表面30a上であって複数の凹部33上に、ヨウ化セシウム(CsI)蛍光体を低真空蒸着や高真空の斜め蒸着することにより、複数の柱状結晶36を有する柱状結晶構造の蛍光体膜としてのCsI膜38によって形成されている。
【0019】
複数の柱状結晶36の間には微小な隙間が形成されている。そのため、柱状結晶36内で発生した光は、柱状結晶36と隙間との境界で全反射を繰り返しながら柱状結晶36の表面に到達する。
【0020】
1個の凹部33の中には複数個の柱状結晶36が形成されている。互いに隣接する凹部33と凹部33との境界である頂部35には、柱状結晶36は形成されず、その頂部35に対応して柱状結晶36同士が競合してできた隙間37が形成されている。この隙間37は柱状結晶36とともに入力蛍光面31の表面方向に伸びていきやがて入力蛍光面31の表面側で極めて近接してその隙間37は埋められたような形状になる。
【0021】
凹部33毎に凹部33の周囲に隙間37が形成されることにより、凹部33内の柱状結晶36はいわば1画素のような機能を発揮することになる。
【0022】
したがって、入力蛍光面31内では、柱状結晶36および隙間37によって光の横方向への散乱が低減され、かつ凹部33と凹部33との境界によりコントラストが高くなるので、総合して分解能の向上に寄与することになる。
【0023】
CsI膜38の全体の膜厚に比較して凹部33の深さは小さいため、CsI膜38の表面の凹凸には大きな影響を与えない。凹部33の影響でCsI膜38の表面に緩やかな凹凸ができている場合は、その表面に形成される光電面32からの電子放出の向きがその近傍にできる電界の効果により凹状になり、よりシャープな電子放出になるので解像度向上に寄与することになる。
【0024】
柱状結晶36上には高真空による多方向成長するヨウ化セシウム(CsI)蛍光体層が形成されている。
【0025】
なお、入力蛍光面31の活性剤はヨウ化ナトリウムやヨウ化タリウムが好ましい。
【0026】
また、光電面32は、アルカリ金属の真空蒸着により入力蛍光面31上に形成されている。
【0027】
次に、図3に入力面17内での光の伝搬を比較する説明図を示す。図3(a)は本実施形態の入力面17の場合の説明図、図3(b)は基板30の表面30aが平滑な入力面17の場合の説明図である。
【0028】
CsI膜38内の光の発光点40から出た臨界角を満たさない光のパス41はCsI膜38内を横方向に伝搬する。
【0029】
このとき、図3(b)のように、基板30の表面30aが平滑であると、光のパス41は基板30の表面30aで反射して、CsI膜38内の横方向の広い範囲に拡散していく。
【0030】
これに対して、図3(a)のように、基板30の表面30aに凹部33が形成されていると、光のパス41は凹部33の斜面に当たってCsI膜38の表面方向へ反射するので、CsI膜38の横方向への光の広がりを抑制することができる。
【0031】
このため、柱状結晶36内のライトガイド効果、および凹部33と凹部33との境界部でのライトガイド効果と相俟って、CsI膜38の横方向への光の広がり抑制効果により光が集光されるため、分解能の向上が大きくなる。
【0032】
凹部33は、例えば、直径が20μm、深さが3μmである。この場合、凹部33は1mmスケール当たり50個相当になるので、分解能は20μmになり、従来よりもはるかに分解能が向上する。
【0033】
CsI膜38の膜厚が厚い場合には、凹部33の径を例えば50μm、深さを15μmに大きくすることにより、分解能の低下を防ぐことができる。
【0034】
CsI膜38が100μm以下の薄い場合には、凹部33の径を20μm、深さを3μmに小さくすることにより、分解能の向上に寄与する。
【0035】
したがって、凹部33は、CsI膜38の膜厚に応じて、直径が20〜50μm、深さが3〜15μmの範囲にあることが好ましい。
【0036】
また、CsI膜38の膜厚は用途に応じて選定することができ、10μm〜約2mmまで適応することができる。CsI膜38が約1mmから上に厚い入力面17のイメージ管10は、高エネルギーX線用であり、X線管の管電圧では200kVから1MVの範囲を対象に金属内の構造、組成などの検査に多用される。
【0037】
凹部33の深さは、後述する形成方法に依存するが、柱状結晶36の形成と基板30からの光のミラー効果を考慮すると10〜20μm程度が有効である。さらに、このミラー効果を高めて光を効率よく反射させるためには、基板30の表面30aは、アルミニウムの金属光沢を有する面にすることが好ましい。
【0038】
次に、基板30の凹部33の形成方法について説明する。
【0039】
基板30の凹部33は、例えばショットブラスト加工によって形成することができる。ショットブラスト加工では、基板30の表面30aに複数の粒子体を吹き付けて複数の凹部33を形成する。ショットブラスト加工には、打撃の大きい高速短時間照射が可能なショットブラスト機が用いられる。粒子体は、硬度の高い例えばZrOなどの金属酸化物の特別に小さな粒子を含まない粒径をそろえた粒子体が使用され、その粒径は例えば7〜10μmである。
【0040】
このショットブラスト加工では、基板30の表面30aに粒子体を多数回吹き付けると、凹部33の境界位置が下がるため、吹付条件を選定する必要がある。粒子体の少ない吹付回数で形成するためには、基板30を予め熱処理し、軟化させておくことが好ましい。一般に、基板30に用いるアルミニウム表面には、硬度のあるアルミナ層が形成されているため、このアルミナ層をアルカリなどにより除去しておくことが加工性を良くすることに有効になる。
【0041】
なお、このような形成方法では、凹部33は、基板30の表面30aに垂直な方向から見て円形以外に楕円形などになったり、凹部33同士が連続せずに凹部33間に間隔があいていわばクレーター状の凹部33となる場合もある。また、粒子体の衝突の仕方で凹部33の形状は、
決まるので多数の凹部33の中では完全な円形でない部分があっても効果は同等になる。
【0042】
また、図4にイメージ管10を用いた放射線撮影装置50の構成図を示す。
【0043】
放射線撮影装置50は、例えばレントゲン装置である。図4の51は人体や各種物品などの被検体であり、この被検体51に対して放射線源52からX線15が照射される。
【0044】
被検体51により吸収もしくは散乱されたX線15は、イメージ管10の入力窓13から入力面17に入射される。入力面17の入力蛍光面31でX線15が光に変換されるとともに光電面32で光が電子16に変換される。電子16は、加速、集束されて出力面19の出力蛍光面に入射される。出力面19の出力蛍光面で電子16を可視光に変換し、出力窓14に可視光像18が出力される。
【0045】
出力窓14の可視光像18を光学系53を通してCCDカメラ54で撮像し、モニタ55に表示する。
【0046】
本実施形態のイメージ管10は、被検者や被検体に応じて入力蛍光面31の厚さを調整することで、1回の撮影で適切な分解能の画像が得られるようにしたものである。医療用には、CsI膜38でのX線吸収を高めた厚膜にすることと微細な血管撮影を可能にする高分解能とを両立することができる。工業用には、入射エネルギーは軟X線から高エネルギーX線、さらに中性子線用などの広い用途に適応可能である。微細部の観察解析が求められる中性子線で得られる画像は、より高分解能になり、分解能が10μm程度を実現するのに好適である。
【0047】
以上のように、イメージ管10は、従来のイメージ管に比較して高い分解能のため、得られる画像からの情報量が多く、より厚さの異なる被写体の部位や微小な部位を画像上に再現することができる。このため、医療用では同一被写体において従来よりも高分解能を維持しつつ厚膜により必要な入力X線を所要量に引き下げることができ、被検者や操作者に対する被爆X線量の低減に有効になる。したがって、医療診断用放射線撮影や広い工業用の検査をはじめとする各種の放射線撮影において、検査情報の増大、検査精度の向上などを図ることが可能となる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
10 イメージ管
11 真空外囲器
13 入力窓
14 出力窓
17 入力面
30 基板
30a 表面
31 蛍光面としての入力蛍光面
32 光電面
33 凹部
35 頂部
36 柱状結晶
37 隙間
図1
図2
図3
図4