(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-135142(P2017-135142A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】配線構造および前記配線構造を有するプリント配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20170707BHJP
【FI】
H05K1/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-11391(P2016-11391)
(22)【出願日】2016年1月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】飯高 健治
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA11
5E338AA12
5E338BB25
5E338CC01
5E338CD14
5E338EE13
(57)【要約】
【課題】配線領域の占める面積を大幅に広げることなく配線パターン間のクロストークノイズを低減できる配線構造および前記配線構造を使用したプリント配線基板を提供する。
【解決手段】配線構造1は複数の配線パターン11,12,13,14を有している。平行配線部P1,P2,P3では、隣り合う配線パターンの間隔Wpを短くしている。経路変更配線部D1,D2では、配線パターン11,12,13,14がX方向に対して斜めに延びており、隣り合う配線パターンの間隔Wdは、前記間隔Wpよりも広くなっている。配線領域の占める面積が極端に広くなることがなく、しかも経路変更配線部D1,D2で配線パターンの間隔Wdを広げることでクロストークノイズを低減することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の配線パターンが設けられている配線構造において、
複数の前記配線パターンが第1の方向へ平行に延びる平行配線部と、前記平行配線部の途中にあって、個々の配線パターンが第1の方向と交差する向きに延びる経路変更配線部とが設けられており、
前記平行配線部での前記配線パターンの間隔よりも、前記経路変更配線部での前記配線パターンの間隔が広いことを特徴とする配線構造。
【請求項2】
前記第1の方向と直交する第2の方向に位置をずらして配置された2つの前記平行配線部の間に前記経路変更配線部が位置している請求項1記載の配線構造。
【請求項3】
第1の平行配線部と、前記第1の平行配線部と第2の方向に位置をずらして配置された第2の平行配線部と、前記第2の平行配線部と第2の方向に位置をずらして配置された第3の平行配線部とを有し、
前記第1の平行配線部と前記第2の平行配線部との間、および前記第2の平行配線部と前記第3の平行配線部との間に、前記経路変更配線部が設けられている請求項2記載の配線構造。
【請求項4】
前記第1の平行配線部を構成する前記配線パターンと、前記第3の平行配線部を構成する前記配線パターンとが、第1の方向において同一線上に位置している請求項3記載の配線構造。
【請求項5】
前記経路変更配線部では、前記配線パターンどうしが平行である請求項1ないし4のいずれかに記載の配線構造。
【請求項6】
基板の表面に請求項1ないし5のいずれかに記載の配線構造が設けられていることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項7】
前記経路変更配線部に対向する箇所に、スルーホールが形成されている請求項6記載のプリント配線基板。
【請求項8】
前記経路変更配線部に対向する箇所に、電子部品が配置されている請求項6記載のプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質基板やフレキシブル基板上に形成される配線パターンの配線構造および前記配線構造を有するプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に設けられるプリント配線基板には複数本の配線パターンが形成されているが、機器の小型化に伴い配線パターンが密集配置される傾向にある。配線パターンが密集配置されて平行に配線されていると、隣り合う配線パターン間に相互キャパシタンスによる容量結合と相互インダクタンスによる誘導結合が発生しやすくなる。そのため、配線パターンにデジタル信号が与えられると、配線パターン間でクロストークノイズが発生し、このクロストークノイズは、信号の伝送レートが高くなるにつれて増大する。
【0003】
特許文献1には、前記クロストークの影響を低減する配線基板が示されている。この配線基板では、一方の配線が直線状に形成され、前記配線に沿って延びる他方の配線に折れ曲がりが形成されて、2本の配線が接近する箇所と離れる箇所とが交互に繰り返されるようになっている。
【0004】
特許文献1の記載によれば、直線状に延びる一方の配線と折れ曲がりを有する他方の配線とで信号が伝搬する長さが相違するため、配線間でクロストークが発生したときに、一方の配線と他方の配線とで、その発生タイミングがずれて、クロストークのエネルギを分散することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−258394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された配線基板は、直線状に延びる一方の配線と、折れ曲がりを有する配線とが並列しているため、配線の延びる方向と直交する方向において配線のためのスペースが広く必要になり、小型の配線基板に配置するのが困難になる。
【0007】
また、直線状に延びる一方の配線と、折り曲げられた他方の配線とで、配線長に差があるため、タイミング制御が必要となる高速インターフェースなどの回路設計には不向きである。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、配線スペースを大幅に増大させることなく、また複数の配線パターンの配線長の差を小さくして、配線間のクロストークを低減できる構造とした配線基板および前記配線基板を有するプリント配線基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数本の配線パターンが設けられている配線構造において、
複数の前記配線パターンが第1の方向へ平行に延びる平行配線部と、前記平行配線部の途中にあって、個々の配線パターンが第1の方向と交差する向きに延びる経路変更配線部とが設けられており、
前記平行配線部での前記配線パターンの間隔よりも、前記経路変更配線部での前記配線パターンの間隔が広いことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の配線構造は、前記第1の方向と直交する第2の方向に位置をずらして配置された2つの前記平行配線部の間に前記経路変更配線部が位置しているものとして構成できる。
【0011】
例えば本発明の配線構造は、第1の平行配線部と、前記第1の平行配線部と第2の方向に位置をずらして配置された第2の平行配線部と、前記第2の平行配線部と第2の方向に位置をずらして配置された第3の平行配線部とを有し、
前記第1の平行配線部と前記第2の平行配線部との間、および前記第2の平行配線部と前記第3の平行配線部との間に、前記経路変更配線部が設けられているものである。
【0012】
この場合に、前記第1の平行配線部を構成する前記配線パターンと、前記第3の平行配線部を構成する前記配線パターンとが、第1の方向において同一線上に位置しているものとすることが可能である。
【0013】
本発明の配線構造は、例えば、前記経路変更配線部では、前記配線パターンどうしが平行である。
【0014】
本発明のプリント配線基板は、基板の表面に前記いずれかに記載の配線構造が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明のプリント配線基板は、前記経路変更配線部に対向する箇所に、スルーホールが形成されているものである。
【0016】
あるいは本発明のプリント配線基板は、前記経路変更配線部に対向する箇所に、電子部品が配置されているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の配線構造およびプリント配線基板では、平行配線部で配線パターン間の間隔を狭めることで、第2の方向での配線スペースを狭くすることができる。また経路変更配線部で配線パターンの間隔を広げることができるので、配線パターン間の容量結合と誘導結合を低減でき、配線パターン間のクロストークノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施の形態の配線構造を示す平面図、
【
図3】本発明の第2の実施の形態の配線構造を示す平面図、
【
図4】本発明の第3の実施の形態の配線構造を示す平面図、
【
図5】本発明の実施の形態のプリント配線基板の一部を示す平面図、
【
図6】(A)(B)(C)は、本発明の実施の形態の配線構造と比較例の配線構造を比較する説明図、
【
図7】
図7に示す実施の形態と比較例の配線構造でのクロストークノイズを比較する説明図、
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明の第1の実施の形態の配線構造1が平面図で示されている。
この配線構造1が硬質基板やフレキシブル基板の表面に形成されてプリント配線基板が構成されている。各図では、X方向が第1の方向で、X方向と直交するY方向が第2の方向である。
【0020】
配線構造1は、複数の配線パターン11,12,13,14を有している。配線パターン11,12,13,14は銅箔などの導電性金属層で形成されている。
【0021】
図1に示す配線構造1は、第1の平行配線部P1と第2の平行配線部P2および第3の平行配線部P3を有している。第1の平行配線部P1と第2の平行配線部P2および第3の平行配線部P3では、配線パターン11,12,13,14のうちの少なくとも2本が第1の方向(X方向)へ直線的に延び且つ平行に配置されている。互いに平行に配線された配線パターンの第2の方向(Y方向)への間隔はWpである。
【0022】
第1の平行配線部P1と第3の平行配線部P3では、配線パターン11,12,13,14が、第1の方向(X方向)に延びる共通の仮想直線上に位置している。第2の平行配線層P2を構成する配線パターン11,12,13,14は、第1の平行配線部P1と第3の平行配線部P3を構成する配線パターン11,12,13,14に対して、第2の方向(Y方向)へ位置ずれして形成されている。
【0023】
第1の平行配線部P1と第2の平行配線部P2との間に、第1の経路変更配線部D1が設けられ、第2の平行配線部P2と第3の平行配線部P3との間に、第2の経路変更配線部D2が設けられている。
【0024】
第1の経路変更配線部D1と第2の経路変更配線部D2では、配線パターン11,12,13,14が第1の方向(X方向)と交差する方向へ斜めに延びており、配線パターン11,12,13,14は互いに平行である。第1の経路変更配線部D1と第2の経路変更配線部D2では、配線パターン11,12,13,14のうちの少なくとも2本が第1の方向(X方向)へ引き離されており、少なくとも2本の配線パターンの間隔Wdが、平行配線部P1,P2,P3での前記間隔Wpよりも広げられている。ここでの間隔Wpは、いずれかの配線パターンに直交する線L1上で隣り合う配線パターンの間隔である。
【0025】
図1に示すように、第2の経路変更配線部D2に対向する領域に、基板を貫通するスルーホール16が形成され、また第1の経路変更配線部D1と第2の経路変更配線部D2に対向する領域に、基板上に電子部品17が実装されている。電子部品17は、集積回路、抵抗器、コンデンサ、インダクタンス素子、スイッチ、コネクタなどである。平行配線部P1,P2,P3の間に、経路変更配線部D1,D2を設けることで、スルーホール16や電子部品17を迂回して配線パターン11,12,13,14を引き回すことができる。
【0026】
図2に比較例となる配線構造1Aが示されている。
比較例の配線構造1Aには、
図1に示した第1の実施の形態の配線構造1と同じ太さの配線パターン11,12,13,14で構成されている。
【0027】
比較例の配線構造1Aも、平行配線部Pa,Pb,Pcと経路変更配線部Da,Dbが交互に形成されている。ただし、平行配線部Pa,Pb,Pcと経路変更配線部Da,Dbの双方において、全ての配線パターン11,12,13,14において隣り合う配線パターンの間隔Wpが同じである。
図2に示す間隔Wpは、
図1に示す第1の実施の形態の配線構造1における平行配線部P1,P2,P3での間隔Wpと同じである。
【0028】
図1に示す第1の実施の形態の配線構造1は、第1の経路変更配線部D1と第2の経路変更配線部D2において、隣り合う配線パターンの間隔Wdが広げられているため、隣り合う配線パターンどうしの容量結合や誘導結合を緩和でき、配線パターン間の信号のクロストークノイズを低減できる。ただし、
図1に示す第1の実施の形態の配線構造1と、
図2に示す比較例の配線構造1Aとでは、第2の方向(Y方向)での全体の幅寸法Bが同じであり、第1の実施の形態の配線構造1を採用するに際し、配線スペースを必要以上に広く確保する必要はない。また、全ての配線パターン11,12,13,14の配線長に大きな差が生じることもない。したがって、タイミグ制御が必要となる高速インターフェースでの配線構造としての使用に適したものとなる。
【0029】
図3に本発明の第2の実施の形態の配線構造2が示されている。
第2の実施の形態の配線構造2は、平行配線部における配線パターン11,12,13,14の間隔Wpが、
図1に示した配線構造1と同じである。
【0030】
配線構造2の経路変更配線部D3,D4では、配線パターン11,12,13,14が、第1の方向(X方向)と交差する方向へ斜めに延びているが、隣り合う配線パターンは平行ではなく、配線パターンの間隔Wd1が、場所によって相違している。ただし、経路変更配線部D3,D4での隣り合う配線パターンの間隔Wd1の平均値は、平行配線部における間隔Wpよりも広くなっている。
【0031】
この配線構造2においても、第2の方向(Y方向)に占める幅寸法Bの増大を防止でき、しかもクロストークノイズを低減できる。また、経路変更配線部Da,Dbにおいて、隣り合う配線パターンを平行ではなく、場所によって間隔Wd1が変化するように形成されていると、相互インダクタンスによる誘導結合を低減でき、クロストークノイズをさらに低減できるようになる。
【0032】
図4に本発明の第3の実施の形態の配線構造3が示されている。
この配線構造3では、平行配線部で配線パターン11,12,13の間隔Wpが、前記各実施の形態と同じである。経路変更配線部D5では、各配線パターン11,12,13が直角に曲げられている。
【0033】
この配線構造3でも、Y方向の幅寸法を増大させることなく、クロストークノイズを低減できるようになる。
【0034】
図5には、
図1に示す配線構造1を応用したプリント配線基板20の一部が示されている。
【0035】
プリント配線基板20は、硬質またはフレキシブルな基板の表面に複数の配線パターン21が形成されている。この配線構造には、平行配線部P10,P11と経路変更配線部D11が設けられている。経路変更配線部D11では、各配線パターンが、第1の方向と交差して斜めに延びており、配線パターンは第1の方向(X方向)に間隔を空けて形成されている。
【0036】
経路変更配線部D11において隣り合う配線パターンの間隔Wdを広げることにより、配線パターン間のクロストークノイズを低減できるようになっている。また、平行配線部P10,P11では、配線パターン21のY方向の間隔Wpを狭くできるため、狭い配線領域内で配線パターン21を密集させて配置することができる。
【0037】
図6に、本発明の実施の形態と比較例とが示されている。
図6(C)に、
図1に示したのと同じ本発明の第1の実施の形態の配線構造1が示されている。
図6(A)に、
図2に示したのと同じ比較例の配線構造1Aが示されている。
図6(B)に第2の比較例の配線構造1Bが示されている。この配線構造1Bは、特許文献1に記載されている配線構造にほぼ一致している。
【0038】
図6(C)に示す配線構造1は、全ての配線パターン11,12,13,14の幅寸法が0.1mmである。平行配線部における隣り合う配線パターンの間隔Wpは0.1mmであり、経路変更配線部における隣り合う配線パターンの間隔Wdは0.3mmである。平行配線部が第2の方向(Y方向)に位置ずれしている距離Eは0.4mmである。経路変更配線部での配線パターン11,12,13,14のX方向に対する角度θは45度である。
【0039】
図6(A)に示す比較例の配線構造1Aは、全ての配線パターン11,12,13,14の幅寸法が0.1mmである。平行配線部における隣り合う配線パターンの間隔Wpと、経路変更配線部における隣り合う配線パターンの間隔Wdは共に0.1mmである。平行配線部が第2の方向(Y方向)に位置ずれしている距離Eは0.4mmである。経路変更配線部での配線パターン11,12,13,14のX方向に対する角度θは45度である。
【0040】
図6(C)に示す比較例の配線構造1Bは、全ての配線パターン11,12,13,14の幅寸法が0.1mmである。隣り合う配線パターンの間隔は最小値Wminが0.1mmで、最大値Wmaxが0.4mmである。平行配線部が第2の方向(Y方向)に位置ずれしている距離Eは0.4mmである。経路変更配線部での配線パターン11,12,13,14のX方向に対する角度θは45度である。
【0041】
図6(A)(B)(C)では各配線構造が占める領域にハッチングが付されている。
図6(A)に示す比較例の配線構造1Aの占める面積(ハッチングを付した領域の面積)を「1」としたときに、
図6(B)に示す第2の比較例の配線構造1Bの占める面積(ハッチングを付した領域の面積)は「1.44」であり、
図6(C)に示す本発明の第1の実施の形態の配線構造1の占める面積(ハッチングを付した領域の面積)は「1.16」である。
【0042】
図6(A)(B)(C)に示す配線パターンのX方向の配線距離を100mmとしたときに、配線パターン相互の配線長の差は、
図6(A)に示す比較例の配線構造1Aと
図6(C)に示す実施の形態の配線構造1において、0mmであり、配線長の差の割合は0%である。一方で、
図6(B)に示す第2の比較例の配線構造1Bは、配線パターン相互の配線長の差が13mmであり、配線長の差の割合は13%である。
【0043】
上記のように、本発明の実施の形態の配線構造1は、必要となる配線領域を狭くでき、且つ配線パターンの配線長の差が大きく生じることもない。
【0044】
図7は、
図6(A)(B)(C)に示す配線構造1A,1B,1Cのクロストークノイズを比較している。
【0045】
隣り合う配線パターンの一方に、最大電圧3.3V、立ち上がり時間100psHz,ディユーティ比50%の矩形波信号を与え、矩形波信号の立ち上がりに発生するクロストークノイズを測定した。
図7には、クロストークノイズを拡大して示している。本発明の実施の形態の配線構造1は、比較例の配線構造1A,1Bよりもクロストークノイズが改善されているのが解る。
【符号の説明】
【0046】
1,1A,1B,2,3 配線構造
11,12,13,14 配線パターン
16 スルーホール
17 電子部品
20 プリント配線基板
21 配線パターン
P1,P2,P3,P10,P11,Pa,Pb,Pc 平行配線部
D1,D2,D3,D4,D5,D11,Da,Db 経路変更配線部