【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
<試験例1> (ゼラチン由来ペプチドの分子量と呈味向上機能の関係)
魚皮由来の塩酸処理ゼラチン(製品名:Progel、入手元:VINH HOAN CORP.)を使用して、10w/w%ゼラチン水溶液を調製し、これに、プロテアーゼ(酵素製剤A:Aspergillus oryzae由来、製品名:プロテアーゼM、入手元:天野エンザイム)を、下記表1に示す各割合で添加し、45〜50℃で2時間又は6時間反応後、80〜85℃で15分間加熱処理して酵素失活し、各分子量(12000、6000、3000、2000、1000)のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物を得た。なお、分子量は、分子量測定用プルランを標準として、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によって求めた分子量を意味する(以下の試験例においても同様に測定した)。
【0036】
【表1】
【0037】
得られた各分子量(12000、6000、3000、2000、1000)のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物及び原料ゼラチン(分子量: 42000)を、それぞれ固形量で1w/w%となるように鰹節だし又はチキンコンソメスープに添加し、「コク(厚み・広がり・持続性)」と「旨味」の官能評価を行った。官能評価では、5名のパネラーにより、無添加のものを基準として5段階評価(より悪い評価:−2、−1、基準:0、1、2:より良い評価)で点数づけを行い、その平均を求めた。
【0038】
【表2】
【0039】
その結果、表2に示すように、原料ゼラチンやゼラチンのプロテアーゼ分解物の添加によって、鰹節だしやチキンコンソメスープのコクや旨味が向上した。特に、分子量2,000〜6,000の範囲の分子量を有するゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物において、その効果がより顕著であることが明らかとなった。
【0040】
<試験例2> (プロテアーゼ含有酵素製剤の種類と呈味向上機能の関係)
試験例1で用いたのと同じゼラチン(魚皮由来の塩酸処理ゼラチン)で調製した25w/w%ゼラチン水溶液に、下記表3に示す各種プロテアーゼ含有酵素製剤を添加し、各酵素製剤の至適温度で2時間反応後、80〜85℃で15分間加熱処理して酵素失活し、分子量4000のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物を得た。
【0041】
【表3】
【0042】
得られた分子量4000のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物を、それぞれ固形量で2w/w%となるように鰹節だし又はチキンガラスープに添加し、「コク」の官能評価を行った。官能評価では、5名のパネラーにより、無添加のものを基準として5段階評価(より悪い評価:−2、−1、基準:0、1、2:より良い評価)で点数づけを行い、その平均を求めた。
【0043】
【表4】
【0044】
その結果、表4に示すように、真菌類や細菌類由来の各種プロテアーゼ含有酵素製剤を用いて調製されたゼラチンの分解物の添加によって、鰹節だしやチキンガラスープのコクや旨味が向上した。特に、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼを含む酵素製剤を用いたときに、その効果がより顕著であることが明らかとなった。一方、パパイヤ由来のパパインやブタ膵臓由来のトリプシンによる分解物では、コクの向上効果は得られなかった。
【0045】
<試験例3> (ゼラチン原料の由来と呈味向上機能の関係)
ゼラチン原料として、牛骨、豚骨、魚鱗・皮、又は魚皮由来のものを用い、そのプロテアーゼ分解物を調製した。具体的には、各ゼラチン原料で調製した35w/w%ゼラチン水溶液に、プロテアーゼ(酵素製剤A:Aspergillus oryzae由来、製品名:プロテアーゼM、入手元:天野エンザイム)を添加し(ゼラチンに対し0.2又は0.5質量%)、45〜50℃で2時間反応後、80〜85℃で15分間加熱処理して酵素失活し、分子量3000のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物を得た。また、比較として、ゼラチンに対し0.02質量%の酵素製剤を添加する以外は同様に処理し、分子量12000のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物を得た。
【0046】
得られたゼラチンのプロテアーゼ分解物を、それぞれ固形量で0.2w/w%となるように桃果汁又は全脂粉乳溶液に添加し、「コク」の官能評価を行った。官能評価では、5名のパネラーにより、無添加のものを基準として5段階評価(より悪い評価:−2、−1、基準:0、1、2:より良い評価)で点数づけを行い、その平均を求めた。
【0047】
【表5】
【0048】
その結果、表5に示すように、ゼラチンのプロテアーゼ分解物は、桃果汁や全脂粉乳溶液に対してもコクの向上効果を奏した。但し、試験例1の結果と同様に、ゼラチンのプロテアーゼ分解物に含まれるゼラチン由来ペプチドの分子量が所定範囲内でないと、有意な効果が得られなかった。一方、その効果は、ゼラチン原料の由来には左右されなかった。
【0049】
<試験例4> (ミルク溶液に対する効果)
試験例1で用いたのと同じゼラチン(魚皮由来の塩酸処理ゼラチン)で調製した35w/w%ゼラチン水溶液に、プロテアーゼ(酵素製剤A:Aspergillus oryzae由来、製品名:プロテアーゼM、入手元:天野エンザイム)を添加し(ゼラチンに対し0.2質量%)、45〜50℃で2時間反応後、80〜85℃で15分間加熱処理して酵素失活し、分子量3000のゼラチン由来ペプチドを含むゼラチンのプロテアーゼ分解物を得た。
【0050】
得られたゼラチンのプロテアーゼ分解物を、別途調製したミルク溶液(脱脂粉乳と全脂粉乳に脱塩水を添加し、乳脂肪1%、無脂乳固形分7%に調製したもの)に、固形量で0.1w/w%となるように添加し、「コク」と「乳感・脂肪感」と「美味しさ」の官能評価を行った。官能評価では、5名のパネラーにより、無添加のものを基準として5段階評価(より悪い評価:−2、−1、基準:0、1、2:より良い評価)で点数づけを行い、その平均を求めた。また、比較として、市販の、酵母を主成分とする酵母エキス製品Aと、魚皮・魚鱗を主成分とするゼラチン製品Bとについて、同様に評価した。
【0051】
【表6】
【0052】
その結果、表6に示すように、ゼラチンのプロテアーゼ分解物(本発明品)は、ミルク溶液に対しても、そのコクや乳感・脂肪感や美味しさを向上する効果を奏した。その効果は、市販の酵母エキス製品Aやゼラチン製品Bよりも優れていた。
【0053】
<試験例5> (乳感・脂肪感の増強効果)
脱脂粉乳と全脂粉乳に脱塩水を添加し、無脂乳固形分8.8%であって、乳脂肪がそれぞれ0、1、2、又は3%であるミルク溶液を調製した。また、このうち乳脂肪が1%であるミルク溶液に、試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物(本発明品)を、固形量で0.1又は0.3w/w%となるように添加したものを調製した。更に、比較のため、試験例4で用いた市販の酵母エキス製品Aやゼラチン製品Bを、それぞれ固形量で0.1又は0.3w/w%となるように添加したものを調製した。
【0054】
得られたミルク溶液について、味覚センサー(「味認識装置SA402B」、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー社製)にて分析を行った。具体的には、センサーとしてAAE(旨味)、COO(苦味)、AE1(渋味)を使用して、各センサーでの測定値より多変量解析に基づく主成分分析を行った。
【0055】
その結果、
図1に示すように、乳脂肪がそれぞれ0、1、2、又は3%であるミルク溶液のコントロール品について、Y軸方向に脂質濃度に準じた位置にプロットされたグラフを得ることができた。そこで、このグラフを、X軸に苦味や雑味等の異味についての座標軸をとり、Y軸に脂質感についての座標軸をとり、プロットし直したところ、
図2に示すグラフが得られた。
【0056】
図2に示すグラフから分かるように、本発明品によれば、それをミルク溶液に配合すると、乳脂肪分の配合量を増やしたのと同様の乳感・脂肪感の増加が得られ、且つ、苦味や雑味等の異味の付与が少なかった。一方、市販の酵母エキス製品Aでは、乳感・脂肪感の増加が若干得られたものの、苦味や雑味等の異味が勝る結果となった。また、市販のゼラチン製品Bでは、乳感・脂肪感の増加がほとんど得られず、苦味や雑味等の異味が付与されるだけであった。
【0057】
[配合例1]
【0058】
【表7】
【0059】
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したカスタードを調製した。
【0060】
上記配合のカスタードは、濃厚感、乳感の強いカスタードであった。
【0061】
[配合例2]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したアイスクリームを調製した。
【0062】
【表8】
【0063】
上記配合のアイスクリームは、濃厚感、乳脂肪感の強いアイスクリームであった。
【0064】
[配合例3]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したホイップクリームを調製した。
【0065】
【表9】
【0066】
上記配合のホイップクリームは、乳脂肪感の強いホイップクリームであった。
【0067】
[配合例4]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したプリンを調製した。
【0068】
【表10】
【0069】
上記配合のプリンは、濃厚感、乳感の強いプリンであった。
【0070】
[配合例5]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したかまぼこを調製した。
【0071】
【表11】
【0072】
上記配合のかまぼこは、風味に厚み、伸びのあるかまぼこであった。
【0073】
[配合例6]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合した茶碗蒸しを調製した。
【0074】
【表12】
【0075】
上記配合の茶碗蒸しは、風味に厚み、伸びのある茶碗蒸しであった。
【0076】
[配合例7]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合した卵豆腐を調製した。
【0077】
【表13】
【0078】
上記配合の卵豆腐は、風味に厚み、伸びのある卵豆腐であった。
【0079】
[配合例8]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したマヨネーズを調製した。
【0080】
【表14】
【0081】
上記配合のマヨネーズは、濃厚感、脂肪感の強いマヨネーズであった。
【0082】
[配合例9]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したミルクスープを調製した。
【0083】
【表15】
【0084】
上記配合のミルクスープは、旨味、乳感の強いミルクスープであった。
【0085】
[配合例10]
試験例4で用いたゼラチンのプロテアーゼ分解物をスプレードライにより粉末化したもの(本発明品)を配合したトマトスープを調製した。
【0086】
【表16】
【0087】
上記配合のトマトスープは、旨味が強く、風味に厚み、伸びのあるトマトスープであった。