【解決手段】エンテロバクター・エスピー(Enterobacter sp.)LM02−030株(受託番号NITE P−02048)で特定される油分分解微生物によって、上記課題が解決される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0013】
[油分分解微生物]
本発明の一側面では、エンテロバクター(Enterobacter)属に属し、以下の菌学的性質を示す、油分分解微生物が提供される。本発明の一実施形態では、エンテロバクター(Enterobacter)属に属し、以下の菌学的性質を示し、配列番号1で示される16S rDNA塩基配列を有する、油分分解微生物が提供される。なお、本明細書において「油分分解微生物」とは、後述の方法により測定される油分減少率が、低塩分濃度または高塩分濃度の少なくとも一方で10重量%以上である細菌、真菌等の微生物をいう。好ましくは、油分分解微生物は、後述の方法により測定される油分減少率が、低塩分濃度または高塩分濃度の少なくとも一方で15重量%以上である。
【0016】
なお、上記の「発酵/酸化」は、「発酵および/または酸化」の意味である。
【0018】
(スクリーニング)
上記のようなエンテロバクター属の油分分解微生物の一具体例として、以下のスクリーニング方法により単離した株を例示し、より詳細に説明する。
【0019】
1. スクリーニング方法
以下の表4に示すA培地(寒天フリー)の成分を脱イオン水に溶解させ、塩酸にてpHを5に調整した。次いで、調製した溶液に対し、終濃度が1%(w/v)となるように油分(大豆油:菜種油=1:1(w/w))を加え、高温高圧滅菌して集積培養用の培地として用いた。
【0021】
土壌、グリーストラップの排水(廃水)、海水、下水、河川水、温泉水、泥などから採取したサンプルを、それぞれ0.1gずつ、5mLの集積培養用培地を分注した試験管に添加した。サンプルを添加した培地を30℃で1週間、110rpmで振盪しながらインキュベーター内で培養した。100μLの培養液を採取し、別途用意した5mLの集積培養用培地に添加して同条件で1週間培養する作業を3回繰り返し(合計4週間培養した)、集積培養液を得た。
【0022】
別途、以下の表5に示すA培地の成分を脱イオン水に溶解させ、塩酸にてpHを5に調整した。
【0024】
A培地と油分(大豆油:菜種油=1:1(w:w))とを別々に高温高圧滅菌した。20mLの滅菌A培地をシャーレに分注して固化させた。その後、滅菌した100μLの油分を固化させたA培地上に塗抹し、分離培養用の培地とした。上記の集積培養液100μLを分離培養用培地上に塗抹し、30℃のインキュベーター内で1週間培養した。
【0025】
培養後、シングルコロニーを白金耳で採取して5mLのLB培地(1%(w/v)ポリペプトン(日本製薬社製)、5%(w/v)酵母エキス(オリエンタル酵母社製)、1%(w/v)塩化ナトリウム、塩酸にてpHを6.0に調整)に植菌し、30℃のインキュベーター内で140rpmで振盪しながら24時間培養した。培養後、100μLの培養液をLB寒天培地(2%(w/v)寒天、1%(w/v)ポリペプトン(日本製薬社製)、5%(w/v)酵母エキス(オリエンタル酵母社製)、1%(w/v)塩化ナトリウム、塩酸にてpHを6.0に調整)に塗抹して30℃のインキュベーター内で24〜72時間培養して純化した。
【0026】
次に、純化されたコロニーを5mLのLB培地に1白金耳植菌し、30℃のインキュベーター内で140rpmで振盪しながら24時間培養し、前培養液を得た。
【0027】
油分分解試験に用いるため、以下の組成でTG培地を調製し、塩酸にてpHを5.0に調整した。
【0029】
油分0.05g(菜種油:大豆油:牛脂=2:2:1(w/w/w))を、上記の方法で作製されたTG培地(5mL)に加えて高温高圧滅菌し、塩濃度の異なる油分分解試験液を調製した(油分1%(w/v))。
【0030】
上記のそれぞれの油分分解試験液に、100μLの前培養液(菌体量:2×10
6CFU)を加えて30℃のインキュベーター内で140rpmで振盪しながら24時間培養した。
【0031】
培養後、JIS K0102:2013改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製した。ノルマルヘキサン抽出物を油分の残存量とし、試験液の調製時に添加した油分(0.05g)と油分の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、下記数式1により油分減少率を求めた。
【0033】
その結果、沖縄県読谷村長浜の水深約3mの泥から、低塩分濃度の油分分解試験液および高塩分濃度の油分分解試験液のいずれにおいても高い油分減少率を示す菌株を単離した。
【0034】
2. 菌株の分類
2−1. 16S rDNA塩基配列
単離した菌株について、16S rDNA塩基配列をABI PRISM 3130 xl Genetic Analyzer System(アプライドバイオシステムズ)にて解析した。決定された単離微生物の16S rDNA塩基配列を下記配列番号1に示す。
【0036】
微生物同定用DNAデータベースDB−BA10.0(テクノスルガラボ)およびGenBank/DDBJ/EMBLなどの国際塩基配列データベースに対する相同性検索の結果、単離微生物の16S rDNA塩基配列は、エンテロバクター(Enterobacter)属の16S rDNA塩基配列に対して高い相同性(相同率)を示した。なお、同じクラスターにレクレルシア・アデカルボキシラータ(Leclercia adecarboxylata)が含まれていたため、より詳細に同定するために、さらに後述する菌学的性質を評価した。微生物同定用DNAデータベースDB−BA10.0に対する相動性検索の結果を表7に、国際塩基配列データベースに対する相同性検索の結果を表8にそれぞれ示す。
【0039】
2−2. 菌学的性質
上記スクリーニングによって単離した菌株の菌学的性質を以下に示す。形態観察は光学顕微鏡(BX50F4、オリンパス)を用いて行った。グラム染色にはフェイバーG「ニッスイ」(日水製薬)を用いた。カタラーゼ、オキシダーゼ、グルコースからの酸/ガス産生、グルコースからの酸化/発酵についての試験はBarrowら(Barrow,(G.I.) and Feltham,(R.K.A.): Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria. 3rd edition. 1993, Cambridge University Press)の方法に基づいて行った。また、菌株は、LB寒天培地(ベクトンディッキンソン)を用い、30℃で24時間、好気培養にて生育させた。
【0041】
API(登録商標)20E(シスメックス・ビオメリュー社)を用いて、製造業者のプロトコールに従って以下の項目について試験をした。その結果を示す。
【0043】
「新 細菌培地学講座」坂崎利一 著(近代出版発行)に基づき下記項目について試験し、ZHU B. et al., Enterobacter mori sp. nov., associated with bacterial wilt on Morus alba L. Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 2011, 61, 2769−2774に記載のエンテロバクター属の細菌と比較した。
【0045】
本発明の一側面では、エンテロバクター(Enterobacter)属に属し、上記の菌学的性質を示す、油分分解微生物が提供される。また、本発明の一実施形態では、エンテロバクター(Enterobacter)属に属し、上記の菌学的性質を示し、配列番号1で示される16S rDNA塩基配列を有する、油分分解微生物が提供される。
【0046】
3. 諸性質
単離された菌株は運動性を有するグラム陰性短桿菌で、グルコースを発酵し、カタラーゼ反応は陽性、オキシダーゼ反応は陰性を示した。これらの性状は、エンテロバクター(Enterobacter)属の性状と一致した(Barrow,(G.I.) and Feltham,(R.K.A.): Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria. 3rd edition. 1993, Cambridge University Press)。また、単離された菌株はβ−ガラクトシダーゼ、アルギニンジヒドロラーゼおよびオルニチンデカルボキシラーゼ活性を示し、リジンデカルボキシラーゼやウレアーゼなどの活性を示さず、硫化水素を産生せず、インドールまたはアセトインを産生せず、ゼラチンを加水分解せず、グルコース、D−マンニトールおよびD−ソルビトールを酸化し、イノシトールを酸化せず、硝酸塩を還元した(硝酸カリウムのN
2ガスへの還元)。さらに、単離された菌株は嫌気条件下で生育し、メチルレッド反応を示さず、D−メリビオース、D−ソルビトール、L−ラムノースおよびクエン酸ナトリウムを資化し(唯一炭素源利用)、D−アラビノースを資化しなかった。
【0047】
以上のように、単離された菌株は、菌学的性質においてエンテロバクター属と共通性があり、その16S rDNA塩基配列もエンテロバクター属の多くの菌株と相同性を示した。また、単離された菌株は、16S rDNA塩基配列が高い相同性(相同率)を示したレクレルシア・アデカルボキシラータ(Leclercia adecarboxylata)とは、メチルレッド反応、アルギニンジヒドロラーゼ活性などの点で性状が相違した。これらから、単離された菌株はエンテロバクター(Enterobacter)属に属すると判断された。一方、単離された菌株は、16S rDNA塩基配列の解析結果において最も高い相同性を示したエンテロバクター・ルドウィジイ(Enterobacter ludwigii)とは、アセトインを産生しない点で性状が相違した。したがって、単離された菌株は、従来公知のエンテロバクター属の微生物とは異なる性質を有することが明らかとなったことから新規な微生物であると判断し、本菌株をエンテロバクター・エスピー(Enterobacter sp.)LM02−030株(以下、単に「LM02−030株」とも称する。)と命名した。また、このLM02−030株は、2015年5月12日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、受託番号NITE P−02048として寄託している。すなわち、本発明の一側面は、エンテロバクター・エスピー(Enterobacter sp.)LM02−030株(受託番号NITE P−02048)で特定される、油分分解微生物に関する。
【0048】
上記菌学的性質を示すエンテロバクター属の油分分解微生物は、上記のように耐塩性を有する。したがって、上記のような菌学的性質を示すエンテロバクター属の油分分解微生物をグリーストラップに適用した場合、広範な塩濃度(例えば、0.005〜4%(w/v)の塩化ナトリウムを含む排水)の水質環境においても排水を浄化し得る。なお、本明細書において「耐塩性を有する」とは、低塩分濃度TG培地(0.005%(w/v) NaCl)および高塩分濃度TG培地(4%(w/v) NaCl)での油分減少率が何れも10重量%以上であることをいい、好ましくは、低塩分濃度TG培地および高塩分濃度TG培地での油分減少率が何れも30重量%以上であり、より好ましくは45重量%以上である(上限100重量%)。一実施形態では、油分分解微生物は、下記方法にて測定される油分減少率が、NaCl濃度0.005〜4%(w/v)の範囲において10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは45重量%以上である(上限100重量%)。なお、「油分減少率」は、上記のように、1%(w/v)の油分(菜種油:大豆油:牛脂=2:2:1(w/w/w))を含む5mLのTG培地に100μLの前培養液(OD
600=7.8)を加えて30℃、140rpmの条件で24時間反応させた反応液を用い、JIS K0102:2013改正に準じて測定されるノルマルヘキサン抽出物から、上記数式1で算出される値である。
【0049】
本発明にかかるエンテロバクター属の油分分解微生物は、広範な塩濃度の条件下で効率よく排水を浄化できる。具体的には、本発明にかかる油分分解微生物は、上記の低塩分濃度TG培地での油分減少率を1としたときに、高塩分濃度TG培地での油分減少率が0.7〜1.4であることが排水処理の観点から好ましく、より好ましくは0.8〜1.25である。
【0050】
(微生物の培養)
本発明にかかるエンテロバクター属の油分分解微生物(以下、単に「微生物」とも称する)の培養方法は、当該微生物が生育・増殖できるものであれば、いずれのものであってもよい。例えば、本発明の微生物の培養に使用する培地は、固体または液体培地のいずれでもよく、また、使用する微生物が資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩及びその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。通常、培地は、炭素源、窒素源および無機物を含む。
【0051】
本発明の微生物の培養において使用できる炭素源としては、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。具体的には、微生物の資化性を考慮して、グルコース、フラクトース、セロビオース、ラフィノース、キシロース、マルトース、ガラクトース、ソルボース、グルコサミン、リボース、ラムノース、スクロース、トレハロース、α−メチル−D−グルコシド、サリシン、メリビオース、ラクトース、メレジトース、イヌリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール、ガラクチトール、N−アセチル−D−グルコサミン、ソルビトール、アミダグリン、デンプン、デンプン加水分解物、白糖、糖蜜、廃糖蜜等の糖類、麦、米等の天然物、グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸、乳酸、コハク酸、グルコン酸、ピルピン酸、クエン酸等の有機酸類およびその塩、ヘキサデカン等の炭化水素などが挙げられる。上記炭素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。例えば、LM02−030株を用いる場合は、上記炭素源のうち、グルコース、ラムノース、ラムノース、メリビオース、マンニトール、ソルビトール、アミダグリン、クエン酸ナトリウム、白糖等を用いることが好ましい。また、上記炭素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
【0052】
また、本発明の微生物の培養において使用できる窒素源としては、肉エキス、魚肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素源;アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、尿素等の無機窒素源などが挙げられる。上記窒素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。例えば、LM02−030株を用いる場合は、上記窒素源のうち、魚肉エキス、ポリペプトン、酵母エキス等を用いることが好ましい。また、上記窒素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
【0053】
本発明において使用できる無機物としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄および亜鉛などの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物等のハロゲン化物などが挙げられる。上記無機物は、培養する微生物に応じて適宜選択される。培地に含まれる無機物は、例えば0.01〜4%(w/v)である。また、上記無機物を1種または2種以上選択して使用することができる。また、培地中に、必要に応じて、界面活性剤等を添加してもよい。
【0054】
微生物に効率よく油分を分解させる、あるいは微生物の油分分解能を維持するためには、培地中に油分を添加することが好ましい。油分としては、後述の食用油脂、工業用油脂、ならびに脂肪酸が例示できる。油分の添加量は、特に制限されず、培養する微生物による油分分解能などを考慮して適宜選択されうる。具体的には、油分を培地1L中に1〜30g、より好ましくは5〜15gの濃度で添加することが好ましい。このような添加量であれば、微生物は、高い油分分解能を維持できる。なお、油分は、単独で添加してもまたは2種以上の混合物の形態で添加してもよい。
【0055】
微生物の培養は、通常の方法によって行える。例えば、微生物の種類によって、好気的条件下または嫌気的条件下で培養する。前者の場合には、微生物の培養は、振盪あるいは通気攪拌などによって行われる。また、微生物を連続的にまたはバッチで培養してもよい。培養条件は、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本発明の微生物が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する微生物の種類に応じて適宜選択されうる。通常は、培養温度が、好ましくは15〜45℃、より好ましくは25〜35℃である。また、培養に適当な培地のpHは、好ましくは3〜11、より好ましくは3.5〜10.5である。培養時間も特に制限されず、培養する微生物の種類、培地の量、培養条件などによって異なる。通常は、培養時間は、好ましくは16〜48時間、より好ましくは20〜30時間である。
【0056】
[排水処理方法]
本発明の一実施形態では、油分を含む排水に上記の油分分解微生物を接触させる工程を含む、排水処理方法が提供される。以下、
図1を参酌しながら、本実施形態に係る排水処理方法についてより詳細に説明する。なお、本発明の実施形態が、
図1に限定されるものでは無い。
【0057】
図1は、グリーストラップ10による排水処理(廃水処理)の仕組みを模式的に表している。本発明に係る方法において、上記の油分分解微生物は、グリーストラップ10に排出する前の排水にあらかじめ添加されていても良いが、典型的には、排水処理槽1中の排水へ添加される。但し、本発明に係る排水処理方法は、本発明に係る油分分解微生物と油分含有排水とを接触させることができる限り特に限定されない。例えば、本発明に係る油分分解微生物を固定化した担体などを排水経路や排水貯留槽に設置して、油分含有排水と接触させても良い。
【0058】
グリーストラップ10は、埋設式、可動式など、設置形態は特に制限されない。埋設式の場合、例えば厨房や食品加工場において、排水路に流出した排水が残渣受け3に注ぎ込まれるように、グリーストラップ10を埋設する。可動式の場合、例えば、シンクの排水溝の下部に残渣受け3が位置するようにグリーストラップ10を設置する。
【0059】
図1において、排水は、矢印の方向へ流れる。なお、グリーストラップ10への排水の投入は、回分式であっても連続式であっても良い。油分含有排水は、残渣受け3を通じて排水処理槽1へと流れ込む。このとき、生ゴミ等の残渣の全部または一部は残渣受け3で捕集されるが、大部分の油分は残渣受け3を通過して排水処理槽1へと流入する。排水処理槽1へ流入した油分6は水面5へ向かって浮上し、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間に集まる。従って、油分分解性微生物等を含む排水処理剤を排水に加えない場合、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間で油分6が次第に凝集し、スカムを形成することとなる。
【0060】
本発明に係る油分分解性微生物をグリーストラップ10に適用した場合、排水処理槽1にて(主として、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間にて)、油分を含む排水と油分分解性微生物とが接触することとなる。本発明に係る油分分解微生物は油分の分解活性が高く、資化性を有するため、油分6の凝集を抑制し、スカムが形成されることを有効に防止し得る。特に、本発明に係る油分分解微生物は、広範な塩濃度(例えば、0.005〜4%(w/v)の塩化ナトリウムを含む排水)の水質において効率的に油分を減少する。このため、本発明に係る油分分解微生物は、塩分濃度の高い排水が排出され、グリーストラップ内の排水の塩分濃度が高くなったような場合(例えば、4%(w/v)の塩化ナトリウムを含む排水)であっても、排水の浄化効果に優れる。これにより、排水の塩分濃度に依存せず、油分がトラップ管4を通じて外部環境へ流出することを防止し、環境保全の観点からも利点がある。
【0061】
本発明に係る方法において使用される油分分解微生物は、培養液中に懸濁された状態、培養液から固形分として回収された状態、乾燥された状態、担体に固定化された状態など、様々な形態で排水に接触させられ得る。培養液中に懸濁され、培養液から固形分として回収され、または乾燥された状態の油分分解微生物は、例えば、排水中へ添加され、排水と接触させられる。担体に固定化された状態の油分分解微生物は、排水中へ添加されてもよいが、油分分解微生物を固定化した担体をグリーストラップ内に設置し、微生物固定化担体に排水を通液させることにより油分分解微生物と排水とを接触させることもできる。担体に固定化した油分分解微生物をグリーストラップ内に設置することにより、排水と共に油分分解微生物が流出して菌数が低下することを防止し得る。
【0062】
培養液から固形分として回収した油分分解微生物を使用する場合、回収方法は当業者に公知のいずれの手段も採用できる。例えば、上述の方法により培養した油分分解微生物の培養液を、遠心分離やろ過などにより固液分離し、固形分を回収して得ることができる。この固形分を乾燥(例えば、凍結乾燥)すれば、乾燥された状態の油分分解微生物を得ることができる。
【0063】
担体に固定化された状態の油分分解微生物を用いる場合、油分分解微生物を固定化する担体としては、微生物を固定化することができるものであれば特に制限されず、一般的に微生物を固定化するのに使用される担体が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用される。例えば、アルギン酸、ポリビニールアルコール、ゲランガム、アガロース、セルロース、デキストラン等のゲル状物質に包括固定する方法や、ガラス、活性炭、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、木材、シリカゲル等の表面に吸着固定する方法などが使用できる。
【0064】
また、油分分解微生物を担体に固定化する方法もまた特に制限されず、一般的な微生物の固定化方法が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用される。例えば、微生物の培養液を担体に流し込むことによる固定化法、アスピレーターを用いて担体を減圧下におき、微生物の培養液を担体に流し込むことによる固定化法、および微生物の培養液を滅菌した培地と担体との混合物に流し込み、振とう培養し、上記混合物から取り出した担体を自然乾燥する方法などが挙げられる。
【0065】
本発明にかかる方法において、排水に油分分解微生物を添加して接触させる場合、添加する菌量は任意に設定できる。排水に添加する菌量は、特に制限されるものではないが、排水に含まれる油分1gに対して例えば1×10
4〜1×10
12CFUであり、好ましくは1×10
5〜1×10
11CFUである。あるいは、排水に含まれる油分1gに対して、例えば0.1mg〜5g(乾燥菌体重量)であり、好ましくは1mg〜1.5g(乾燥菌体重量)であり、より好ましくは10mg〜150mg(乾燥菌体重量)である。または、グリーストラップ内の排水に対して、例えば1×10
6〜1×10
12CFU/L、より好ましくは1×10
7〜1×10
11CFU/Lとなるような量であってもよい。あるいは、グリーストラップ内の排水に対して、例えば10mg〜15g(乾燥菌体重量)/Lであり、好ましくは0.1g〜1.5g(乾燥菌体重量)/Lである。なお、微生物を2種以上組み合わせて用いる場合は、その合計量を意味する。なお、排水に添加する微生物は、前培養したものを用いても良い。前培養することにより、接種する菌量を容易に調節できる。
【0066】
排水を外部環境へ排出する際、担体に固定化しない油分分解微生物は排水と共にグリーストラップ外へと排出されるので、本発明においては、グリーストラップ(排水)に、定期的に油分分解微生物を添加するのが好ましい。添加する間隔は特に制限されないが、例えば、1回/3時間、1回/24時間、または2〜3日に1回の間隔で添加するのが好ましい。添加する方法は特に制限されず、排水が連続的にグリーストラップに流入する場合には、排水に混在させて添加してもよいし、グリーストラップ内の排水に直接、添加してもよい。厨房のシンクなどの排水口から微生物を添加すれば、洗浄により排出される排水とともに、微生物をグリーストラップ内に導入することができる。
【0067】
本明細書において「油分」とは、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドのようなアシルグリセロールを50重量%以上含む(例えば、65重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上(上限100重量%)のグリセリド類を含む)食用または工業用油脂、ならびに脂肪酸を指す。油脂は、ステロール、リン脂質等のアシルグリセロール以外の脂質を含むものであっても良い。
【0068】
油脂としては、各種の動植物性油脂が含まれ、例えば、オリーブ油、キャノーラ油、ココナッツ油、ごま油、米油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、菜種油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏油、魚油、鯨油、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の食用油脂;およびアマニ油、ジャトロファ油、トール油、ハマナ油、ひまし油、ホホバ油等の工業用油脂;が例示できるが、好ましくはグリーストラップが設置されることが多いレストラン等で頻繁に排出される食用油脂である。
【0069】
脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;デセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸;が挙げられる。脂肪酸は、食用または工業用油脂が分解されて生じたものであっても良い。
【0070】
排水中の油分の含有量は、特に制限されない。排水中に含まれる油分は、2種類以上であっても良い。
【0071】
本発明の方法において、本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物に加えて、油分をより効率的に減少させる観点から、他の成分を排水に添加してもよい。他の成分としては、例えば、本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物と共生可能な他の微生物、リパーゼ、pH調整剤、油分吸着剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0072】
本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物と共生可能な他の微生物としては、例えば、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ペニシリウム(Penicillium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、フザリウム(Fusarium)属、セラチア(Serratia)属、テトラスファエラ(Tetrasphaera)属、フミコラ(Humicola)属、およびステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属等が例示できる。これらの微生物は、ATCC、NBRC、DSMZ等のカルチャーコレクションから入手しても良い。これらの微生物のうち、油分の分解能の高さから、ヤロウィア属またはスフィンゴモナス(Sphingomonas)属の油分分解微生物を用いることが好ましい。
【0073】
ヤロウィア属の油分分解微生物としては、ヤロウィア・リポリティカ ATCC48436、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1548、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(受託番号NITE P−01813)、ヤロウィア・リポリティカ NBRC0746、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1209のようなヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ヤロウィア YH−01のようなヤロウィア スピーシーズ(Yarrowia sp.)等が例示できるが、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)がより好ましく、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(LM02−011株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2014年3月6日付で受託番号NITE P−01813として寄託している)が更に好ましい。
【0074】
スフィンゴモナス属の油分分解微生物としては、スフィンゴモナス・エスピー LM02−032、特開2006−166874号公報に記載のスフィンゴモナス・エスピー 2629−3bのようなスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)等が例示できるが、スフィンゴモナス・エスピー LM02−032(LM02−032株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2015年6月19日付受託番号NITE P−02069として寄託している)がより好ましい。
【0075】
本発明に係る方法において使用されるエンテロバクター属の油分分解微生物による油分の分解を補助するため、排水にリパーゼやホスホリパーゼ等の油分分解性酵素を添加しても良い。油分分解性酵素としては、たとえば、シュードモナス(Pseudomonas)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor)属、ペシロマイセス(Paecilomyces)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、アブシディア(Absidia)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、エロモナス(Aeromonas)属、アルテルナリア(Alternaria)属、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属、ボーベリア(Beauveria)属、クロモバクター(Chromobacter)属、コプリヌス(Coprinus)属、フザリウム(Fusarium)属、ゲオトリクム(Geotricum)属、フミコラ(Humicola)属、ハイホジーマ(Hyphozyma)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、メタリジウム(Metarhizium)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、および/またはトリコスポロン(Trichosporon)属から得ることができる。
【0076】
市販の油分分解性酵素としては、リパーゼMY、リパーゼOF、リパーゼPL、リパーゼQLM(名糖産業株式会社);リパーゼA「アマノ(登録商標)」6、リパーゼDF「アマノ(登録商標)」15、リパーゼG「アマノ(登録商標)」50、リパーゼAY「アマノ(登録商標)」30SD、リパーゼR「アマノ(登録商標)」、リパーゼMER「アマノ(登録商標)」、ニューラーゼ(登録商標)F(アマノエンザイム株式会社);スミチーム(登録商標)NLS、スミチーム(登録商標)RLS(新日本化学工業株式会社);リリパーゼ(登録商標)A−10D、リリパーゼ(登録商標)AF−5、PLA2ナガセ(ナガセケムテックス株式会社);エンチロンAKG−2000、エンチロンLP、エンチロンLPG(洛東化成工業株式会社);Lipolase(登録商標)100T、Lipolase(登録商標)100L、Palatase20000L、Lipex(登録商標)100T、Lipex(登録商標)100L、Lipozyme(登録商標)RMIM、Lipozyme(登録商標)TLIM、Novozyme(登録商標)435FG(ノボザイムズ社製);ピカンターゼA、ピカンターゼR800(ディー・エス・エムジャパン社製)等が挙げられる。これらを2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0077】
油分分解性酵素の量は、酵素が油分と反応できれば特に制限されないが、排水に含まれる油分1gに対して、10〜2,000Uで用いることが好ましい。より好ましくは50〜1,500U、さらに好ましくは100〜1,000Uである。または、グリーストラップの容量に対して、好ましくは1,000〜100,000U/L、より好ましくは2,000〜80,000U/Lとなるような量であってもよい。なお、油分分解性酵素の活性単位(U)は、37℃、pH7の条件で1分間に1μモルの脂肪酸を遊離する酵素量である。
【0078】
本発明にかかる方法においては、特開2012−206084号公報に記載のシラスバルーン、珪藻土、パーライトのような無機高分子、ポリウレタン、ポリエチレン、メラニン樹脂のような有機高分子などの、油分吸着剤を排水に添加しても良い。
【0079】
本発明においては、油分の凝集やスカムの形成を防止するため、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸(NaDDBS)、ラウリル硫酸アンモニウム、カゼインナトリウムなどの陰イオン界面活性剤;脂肪族アミン塩、4級アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤;脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル)、ポリエチレングリコール、レシチンなどの非イオン性界面活性剤;ベタイン、アミンオキシド、サポニンなどの両性界面活性剤などの界面活性剤を排水に添加しても良い。
【0080】
グリーストラップは、油分含有排水を連続的に導入し、処理後の排水を連続的に排出する形態であってもよいし、油分含有排水を導入し、一括して処理した後に、処理後の排水を一括して排出する形態であってもよい。
【0081】
また、本発明の方法において、油分分解微生物と油分とを接触させる際の温度、すなわちグリーストラップ内の排水の温度としては、任意に設定することができる。また、油分分解微生物と油分とを接触させる際のpH、すなわちグリーストラップ内の排水のpHとしても、任意に設定することができる。一般的には、温度は、例えば10〜60℃であり、20〜50℃が好ましく、25〜40℃がより好ましい。pHは例えば3〜10であり、pH4〜9が好ましく、pH5〜8がさらに好ましい。さらに、必要に応じて曝気等により排水にエアレーションを行っても良い。
【0082】
[排水処理剤]
本発明の一実施形態では、上記の油分分解微生物を含む、排水処理剤が提供される。本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物は油分の低減効果に優れ、特に、広範な塩濃度(例えば、0.005〜4%(w/v)の塩化ナトリウムを含む排水)の水質環境においても排水を浄化し得る特性を有する。従って、本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物を含む排水処理剤をグリーストラップ等の排水処理設備(排水処理設備)に用いることにより、油分を効果的に低減することができる。なお、上記の油分分解微生物および排水処理方法に関する説明は、必要に応じて改変されて本実施形態に適用され得る。
【0083】
排水処理剤は乾燥形態または液状のいずれであっても良いが、粉末、顆粒、ペレット、タブレット等の乾燥形態が保存性の観点から好ましい。かような乾燥形態の排水処理剤に用いられる本発明に係る微生物としては、培養液を噴霧乾燥や凍結乾燥等により乾燥した菌体末、または上記のように担体に固定化された状態の菌体でも良く、さらに、粉末、顆粒、ペレット、またはタブレット状に成形してもよい。または、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやゼラチン等により、菌体や培養液をカプセル化してもよい。排水処理剤はまた、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン、乳糖、デンプン等の賦形剤を含んでもよい。
【0084】
排水処理剤に含まれる本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物は、死菌であっても生菌であっても良いが、油分分解活性の持続性の観点から生菌であることが好ましい。
【0085】
排水処理剤に含まれる本発明に係る微生物の量は、例えば、排水処理剤の固形分中、例えば10〜100重量%である。または、排水処理剤に含まれる本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物の量は、例えば、排水処理剤全体に対して、1×10
2〜1×10
10CFU/gとなる量である。また、排水処理剤は、本発明の目的効果が達成される限りにおいて、上記の本発明に係るエンテロバクター属の油分分解微生物と共生可能な他の微生物、油分分解性酵素、油分吸着剤、および界面活性剤からなる群から選択される1種以上等の添加剤を含んでも良い。
【実施例】
【0086】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0087】
沖縄県読谷村長浜の水深約3mから採取した泥(サンプル)を、上記方法にて集積培養用培地にて培養し、集積培養液を得た。集積培養液を分離培養用培地に塗抹して培養し、シングルコロニーを採取し、LB培地で培養して純化した。
【0088】
純化した微生物を5mlの滅菌LB培地(1%(w/v)ポリペプトン(日本製薬社製)、5%(w/v)酵母エキス(オリエンタル酵母社製)、1%(w/v)塩化ナトリウム、塩酸にてpHを6.0に調整)に1白金耳植菌し、30℃のインキュベーター内で140rpmで振盪しながら24時間培養し、前培養液を得た。
【0089】
油分分解試験用に用いるため、以下の組成でTG培地を調製し、塩酸にてpHを5.0に調整した。なお、ポリペプトンは日本製薬社より、魚肉エキスは極東製薬社より購入した。
【0090】
【表12】
【0091】
油分0.05g(菜種油:大豆油:牛脂=2:2:1(w/w/w))を、上記の方法で作製されたTG培地(5mL)に加えて高温高圧滅菌し、試験液を調製した(油分1%(w/v))。
【0092】
上記の試験液に100μLの前培養液(菌体量:1×10
6CFU)を加えて30℃のインキュベーター内で140rpmで振盪しながら24時間培養した。
【0093】
培養後、JIS K0102:2013改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製した。ノルマルヘキサン抽出物を油分の残存量とし、試験液の調製時に添加した油分(0.05g)と油分の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、下記数式1により油分減少率を求めた。その結果、低塩分濃度の油分分解試験液および高塩分濃度の油分分解試験液のいずれにおいても高い油分減少率を示す菌株を単離した。
【0094】
【数2】
【0095】
単離された菌株をエンテロバクター・エスピー(Enterobacter sp.)LM02‐030株と命名し、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE P−02048)。
【0096】
LM02−030株と従来公知の微生物とを用いた場合の油分減少率(重量%)を、下表に示す。公知の微生物としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001、およびバクテリア製剤BI−CHEM TD800S(バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)を含む、ノボザイムズ社)を用いた。
【0097】
【表13】
【0098】
上記の表に示す通り、本発明に係るエンテロバクター属の微生物は、低い塩濃度(0.005%(w/v)の塩化ナトリウムを含む排水)から、高い塩濃度(4%(w/v)の塩化ナトリウムを含む排水)まで、幅広い塩濃度の水質環境において高い油分減少率を示すことが分かる。