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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-136241(P2017-136241A)
(43)【公開日】2017年8月10日
(54)【発明の名称】X線撮像素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20170714BHJP
   H01L 31/0232 20140101ALI20170714BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20170714BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20170714BHJP
【FI】
   A61B6/00 300Q
   H01L31/02 D
   G01T1/20 G
   G01T1/20 J
   G01T1/20 E
   H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-19799(P2016-19799)
(22)【出願日】2016年2月4日
(71)【出願人】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100161322
【弁理士】
【氏名又は名称】白坂 一
(74)【代理人】
【識別番号】100185971
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 玲子
(74)【代理人】
【識別番号】100151677
【弁理士】
【氏名又は名称】播磨 里江子
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
(72)【発明者】
【氏名】田坂 知樹
(72)【発明者】
【氏名】藤森 裕也
【テーマコード(参考)】
2G188
4C093
5F849
【Fターム(参考)】
2G188AA03
2G188AA25
2G188BB02
2G188CC22
2G188DD05
2G188DD41
2G188DD47
2G188FF18
4C093AA01
4C093CA34
4C093EB12
5F849AB04
5F849BB08
5F849CB11
5F849EA04
5F849HA17
5F849LA07
5F849XB31
(57)【要約】
【課題】光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すことにより、シンチレータの発光波長とフォトダイオードの検出波長とのずれを抑制することができ、よって少ない放射線被曝線量で患者を診断することができるX線撮像素子の製造方法を提供する。
【解決手段】支持基板の上層にTFT回路層を形成するTFT回路層形成ステップと、TFT回路の上層に可視光を電気信号に変換するフォトダイオードからなる光電変換膜を形成する光電変換膜形成ステップと、光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すアニール処理ステップと、光電変換膜の上層にX線を可視光に変換する蛍光材料からなる蛍光体層を形成する蛍光体層形成ステップと、を含む。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板の上層にTFT回路層を形成するTFT回路層形成ステップと、
前記TFT回路の上層に可視光を電気信号に変換するフォトダイオードからなる光電変換膜を形成する光電変換膜形成ステップと、
前記光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すアニール処理ステップと、
前記光電変換膜の上層にX線を可視光に変換する前記蛍光材料からなる蛍光体層を形成する蛍光体層形成ステップと、
を含むX線撮像素子の製造方法。
【請求項2】
前記アニール処理ステップは、
前記蛍光体層の発光極大波長と前記光電変換膜の吸収極大波長とが一致するように、前記光電変換膜の結晶化度を調整する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線撮像素子の製造方法。
【請求項3】
前記アニール処理ステップでは、
前記光電変換膜にアモルファスシリコン材料を用い、前記光電変換膜が微結晶化するように結晶化度を調整する、
ことを特徴とする請求項2に記載のX線撮像素子の製造方法。
【請求項4】
前記支持基板に可撓性樹脂を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1の請求項に記載のX線撮像素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮像素子の製造方法、特に、X線を用いたデジタルレントゲン写真を撮影するためのX線撮像素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線フィルムを用いた撮影装置に置き換わるX線画像診断機器としてX線画像撮影装置の普及が拡大している。X線画像撮影装置は、X線フィルムに対してX線撮影から画像確認までの時間が非常に短いうえ、画像のダイナミックレンジが広く、X線フィルムの現像に必要な薬液も必要が無いという利点を有している。
【0003】
X線画像撮影装置は、現在実用化されているものの多くが間接変換方式を採用している。このような間接変換方式である間接型のX線画像撮影装置においては、被験者の人体(例えば、胸部)などを透過したX線画像をX線画像撮影装置に入射し、その画像情報を電気信号に変換する。この際、X線画像撮影装置は、X線を可視光に変換する蛍光変換膜によってX線を可視光に変換し、その光をマトリクス状に配置した複数の光検出器によって二次元的な画像情報として検出し、外部に電気信号として出力する。
【0004】
また、このような間接型のX線画像撮影装置には、フラット・パネル・ディテクター(FPD)であるX線撮像素子(以下、「間接型X線FPD」と称する場合がある)を使用している。間接型X線FPDは、被験者の人体を透過したX線をシンチレータを用いて可視光に変換し、シンチレータにより生じた光をフォトダイオードとTFTとを用いて検出する。この際、フォトダイオードとTFTとは、通常、アモルファスシリコン(以下、「a−Si」と称する)状態の薄膜シリコン膜により作成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−122903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、間接型X線FPDでは、人体を透過したX線をシンチレータで可視光に変換し、その光をフォトダイオードとTFTとを用いて検出するため、シンチレータの発光波長とフォトダイオードの検出波長とにずれが発生してしまうという問題があった。これによって、変換効率が低下してしまい、X線撮像を行う際の被検者への放射線被曝線量が増大してしまうという問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記要望に鑑みて成されたものであり、光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すことにより、シンチレータの発光波長とフォトダイオードの検出波長とのずれを抑制することができ、よって少ない放射線被曝線量で患者を診断することができるX線撮像素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るX線撮像素子の製造方法は、支持基板の上層にTFT回路層を形成するTFT回路層形成ステップと、TFT回路の上層に可視光を電気信号に変換するフォトダイオードからなる光電変換膜を形成する光電変換膜形成ステップと、光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すアニール処理ステップと、光電変換膜の上層にX線を可視光に変換する蛍光材料からなる蛍光体層を形成する蛍光体層形成ステップと、を含む。
【0009】
また、アニール処理ステップは、蛍光体層の発光極大波長と光電変換膜の吸収極大波長とが一致するように、光電変換膜の結晶化度を調整する、ものである。
【0010】
アニール処理ステップでは、光電変換膜にアモルファスシリコン材料を用い、光電変換膜が微結晶化するように結晶化度を調整する、のが好ましい。
【0011】
支持基板には可撓性樹脂を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係るX線撮像素子は、光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すことにより、シンチレータの発光波長とフォトダイオードの検出波長とのずれを抑制することができ、よって少ない放射線被曝線量で患者を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法により製造したX線撮像素子の適用例を示し、(A)は間接型のデジタルX線撮影装置の説明図、(B)はX線撮像素子の積層構造の一例を示す説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法により製造したX線撮像素子を用いた電子カセッテの説明図である。
図3】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法により製造したX線撮像素子の模式的な平面図である。
図4】(A)はa−Siとpoly−SiとCsI(Tl)と結晶化調整Siの波長特性の比較グラフ図、(B)は光電変換膜を結晶化調整した場合の変換効率の結果を示す図表である。
図5】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法に適用されるレーザ装置の説明図である。
図6】(A)はシンチレータ材料の発光スペクトルのグラフ図、(B)はシンチレータ材料とアニール処理したa−Siとを組み合わせた場合の積スペクトル面積率の一覧表である。
図7】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法に適用されるCsI(Tl)をシンチレータ材料とした場合のアニール条件ごとの積強度の変化を示すグラフ図である。
図8】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法に適用されるNaI(Tl)をシンチレータ材料とした場合のアニール条件ごとの積強度の変化を示すグラフ図である。
図9】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法に適用されるNaGdS(Eu)をシンチレータ材料とした場合のアニール条件ごとの積強度の変化を示すグラフ図である。
図10】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法に適用されるMgSiO(Mn)をシンチレータ材料とした場合のアニール条件ごとの積強度の変化を示すグラフ図である。
図11】本発明の一実施の形態に係るX線撮像素子の製造方法に係るフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る一実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態として示すX線撮像素子は、間接型のデジタルX線撮影装置(digital radiography)に適用される。なお、間接方式とは、蛍光体層によりX線を受けて一旦可視光に変換し、その可視光をアモルファスシリコン(以下、「a−Si」と略する。)等のフォトダイオードにより信号電荷に変換して電荷蓄積用キャパシタに導く方式である。
【0015】
ここで、本実施の形態では、フォトダイオード構成中のa−Si層に所定の条件下でアニール処理(微結晶化)を施し、フォトダイオードの吸収極大波長を長波長化するように結晶化度を調整することで、シンチレータの発光極大波長と揃えるようにズレを抑制するものである。これにより、シンチレータの発光スペクトルとフォトダイオードの検出スペクトルとのズレが抑制され、変換効率を向上することができ、よって少ない放射線被曝線量で患者を診断することができる。以下、詳述する。なお、微結晶化とは、非晶質であるa−Siと単結晶であるpoly−Siとの間の状態を意味する、
【0016】
図1(A)に示すように、間接型のデジタルX線撮影装置10は、X線発生器11、臥位撮影台12、電子カセッテ13、コンソール14、モニタ15を備えている。電子カセッテ13は、コンソール14の制御に基づいて、X線発生器11から被検者Fに照射されて透過したX線を検出し、X線画像を生成する。コンソール14は、電子カセッテ13から送信されたX線画像データに各種画像処理を施し、モニタ15にX線画像Pを表示させる。
【0017】
間接型のデジタルX線撮影装置10による撮影は、臥位撮影台12に仰臥した被検者Fに向けてX線発生器11により上方からX線を照射し、そのX線が被検者Fを透過して得られるX線像を電子カセッテ13で検出する。また、四肢や肘等のその他の部位の撮影では、臥位撮影台12の上に電子カセッテ13を載置して撮影することも可能である。
【0018】
電子カセッテ13は、直方体形状を呈しており、例えば、半切サイズ(383.5mm×459.5mm)のフィルム用またはIP用のカセッテと同様の国際規格ISO4090:2001に準拠した外形サイズを有している。電子カセッテ13の外形サイズは、前述した半切サイズの他、四切サイズ、六切サイズ等があり、撮影部位に応じて適宜選択される。
【0019】
図2に示すように、電子カセッテ13は、X線の強度を検出するためのパネル状のX線撮像素子20と信号処理回路基板16とをフレキシブルプリント基板17で電気的に接続するとともに、所定の容器18により可搬式としたものである。
【0020】
図3に示すように、X線撮像素子20にはマトリクス状の多数の画素20aを有する構造のものを用いる。
【0021】
図1(B)に示すように、X線撮像素子20は、図示下層から順に、支持基板20A、TFT回路層20B、画素電極層20C、フォトダイオードを構成する光電変換膜20D、透明電極層20E、シンチレータ層20F、を備えている。シンチレータ層20Fに入射したX線は、シンチレータ層20Fの構成中のCsIシンチレータにより光に変換される。そして、この光信号は、光電変換膜20Dの各画素のフォトダイオードにより電気信号へと変換される。各画素の電気信号は、フォトダイオードに接続したTFT回路層20Bの薄膜トランジスタ(TFT)スイッチを通して読み出される。これにより、信号処理回路基板16を構成するA/D変換素子と低ノイズ増幅回路等によってX線画像を形成することができる。この際、電子カセッテ13は、被検者Fを透過して照射されたX線により表されるX線画像を記憶する可搬型となっている。
【0022】
支持基板20Aには、透過率の高い無色透明な板状の部材、例えば、ガラスにより構成されている。なお、支持基板20Aには、上述したガラス以外の可撓性基板を用いることができる。例えば、鉄(Fe)、ステンレス鋼(SUS)等の鉄合金(Fe合金)、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金(Al合金)等の金属製のものを適用することができる。また、ポリイミド、ポリイミドエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、シクロオレフィン等の樹脂製のものを適用することができる。
【0023】
TFTアクティブマトリクス基板であるTFT回路層20Bは、画素電極層20Cの各画素電極から伝達された電気信号に基づいて、1枚のX線画像Pを示す画像信号を生成して出力する機能を有する。
【0024】
画素電極層20Cは、X線画像Pを形成する各画素に対応する電極であり、光電変換膜20Dから伝達された電気信号に基づく電気信号をTFT回路層20Bに伝達する。
【0025】
フォトダイオードを構成する光電変換膜20Dは、シンチレータ層20Fが発した光を検出して、その光量に応じた電気信号に変換し、その電気信号を画素電極層20Cに伝達する。光電変換膜20Dは、例えば、アモルファスシリコン(a−Si)を用いるほか、ポリシリコン(Poly−Si)を用いることができる。この際、光電変換膜20Dには、中央領域と端部領域とで材質を異ならせてもよい。例えば、中央領域にはPoly−Siを用い、端部領域には(a−Si)を用いてもよい。
【0026】
透明電極層20Eは、画素電極層20Cと対になって、光電変換膜20Dで発生した電気信号を透明電極層20Eから画素電極層20Cに流すための電極である。
【0027】
X線感応層であるシンチレータ層20Fは、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)蛍光体等であり、X線を可視光(蛍光)に変換する。これにより、可視光はフォトダイオード層で光電変換され、生じた電荷はコンデンサ(図示せず)に蓄積される。シンチレータ層20Fには、例えば、ドープ無しの純ヨウ化セシウム(CsI)を発光材料とするもの、タリウム活性化ヨウ化セシウム(以下、「CsI(Tl)」と称する)を発光材料とするもの、タリウム活性化ヨウ化ナトリウム(以下、「NaI(Tl)」と称する)を発光材料とするものの他、外部からのエネルギーを光に変換する発光材料(蛍光材料・蛍光体)に、NaGdS(Eu)を用いたもの(例えば、特開2008−208328号公報)、MgSiO(Mn)を用いたもの(例えば、特開2010−067596号公報)、等がある。
【0028】
図4(A)に示すように、上述したフォトダイオードを構成する光電変換膜20Dに、poly−Siを用いた場合、その変換波長のピークは680nm付近にあり、a−Siの変換波長のピークは480nm付近にある。これに対し、シンチレータ層20FにCsI(Tl)を用いた場合、シンチレータの発光極大波長は550nm付近にある。したがって、例えば、光電変換膜20Dにa−Siを用い、シンチレータ層20FにCsI(Tl)を用いた場合、70nm程度のズレが発生する。このため、このズレを抑制することができれば、変換効率を向上することができ、よって少ない放射線被曝線量で患者を診断することができる。
【0029】
図4(B)に示すように、シンチレータ層20FにCsI(Tl)を用いるとともに、光電変換膜20Dをアニール処理しない場合の変換効率を基準(100%)として、光電変換膜20Dをアニール処理した。ここで、結晶化度を25%としたときの変換効率は114%と14%上がり、結晶化度を50%としたときの変換効率は136%と36%上がった。一方、結晶化度を75%としたときの変換効率は97%と3%下がった。また、a−Siの変換効率を100%とした場合のpoly−Siの変換効率は58%であった。
【0030】
したがって、光電変換膜20Dのフォトダイオード構成中のa−Si層に所定の条件下でレーザアニール処理を施し、図4(A)に示す結晶化度調整シリコンのように、フォトダイオードの吸収極大波長を長波長化するように結晶化度を調整する。このように、吸収波長のピークをコントロールすれば、結果として、シンチレータの発光波長をある程度自由に選ぶことができる。
【0031】
図5は、光電変換膜20Dのa−Siにレーザアニール処理を施した場合の吸収波長の変化を示す。図5に示すように、レーザアニール処理を、67mJ/cmの条件で施した場合、96mJ/cmの条件で施した場合、139mJ/cmの条件で施した場合、168mJ/cmの条件で施した場合では、レーザ照射条件を高くすればそれだけ短波長成分が減少するとともに長波長領域が増加することが判明した。
【0032】
一方、図6に示すように、シンチレータ層20Fに、CsI(Tl)、NaI(Tl)、NaGdS(Eu、MgSiO(Mn)、を用いたときの各材料の発光極大波長(ピーク波長)は、各々550nm、420nm、760nm、640nm、であった。
【0033】
そこで、これら各シンチレータ材料のシンチレータ層20Fに対し、図5に示した67mJ/cm、96mJ/cm、139mJ/cm、168mJ/cm、の条件でレーザアニール処理を施したa−Siの光電変換膜20Dを用いた結果、図7図10に示すような結果を得た。
【0034】
したがって、発光波長が長波長(500nm〜)のシンチレータ材料のシンチレータ層20Fに対しては、光電変換膜20Dにレーザアニール処理を施すことで変換効率の向上が可能となることが判明した。これにより、X線を可視光に変換する際、高効率の長波長発光特性を有するシンチレータ材料を用いることにより、可視光を電気信号に変換する際の高変換効率化に貢献することができる。
【0035】
<放射線画像撮像素子の製造方法>
以下、上述したX線撮像素子20の製造方法について図11を用いて説明する。
【0036】
まず、支持基板20Aを用意し、その上層にTFT回路層20Bを形成する(ステップS1・TFT回路層形成ステップ)。次に、TFT回路層20Bの上層に各画素に対応する画素電極層20Cを形成する(ステップS2)。
【0037】
画素電極層20Cが形成された上層に、可視光を電気信号に変換するフォトダイオードからなる光電変換膜20Dを成膜する(ステップS3・光電変換膜形成ステップ)。
【0038】
そして、一様に、成膜された光電変換膜20Dに対して、レーザを照射し、レーザアニール処理を施す(ステップS4・アニール処理ステップ)。この際、レーザアニール処理では、シンチレータ材料(蛍光材料)の発光特性である波長、すなわち、蛍光体層であるシンチレータ層20Fの発光極大波長と光電変換膜20Dの吸収極大波長とが一致するようにアニール処理を施し、光電変換膜20Dの結晶化度を調整する。なお、光電変換膜20Dにa−Siを用いた場合、光電変換膜20Dが微結晶化するように結晶化度を調整する。なお、レーザアニールに替えてフラッシュランプアニールでもよい。
【0039】
その次に、光電変換膜20Dが成膜された上層に、透明電極層20Eを形成する(ステップS5)。さらに、透明電極層20Eが形成された上層に、X線を蛍光に変換する蛍光材料からなるシンチレータ層20Fを形成する(ステップS6・蛍光体層形成ステップ)。なお、最後にシンチレータ層20Fが形成された上層に、反射膜を形成してもよい。
【0040】
このようにして、X線撮像素子20は、a−Siにレーザアニール処理を施して光電変換効率を上げることにより、少ないX線量で患者を診断することが可能なうえ、支持基板20Aに樹脂基板を使用することができ、可搬式への適用も容易とすることができる。
【0041】
ところで、本発明のX線撮像素子20は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した技術的範囲には、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が含まれる。
【0042】
例えば、上記実施の形態では、光電変換膜20Dの全体にレーザアニール処理を施すものとして説明したが、例えば、光電変換膜20Dの一部(例えば、深さ方向の表面側)に対してレーザアニール処理を施してもよい。
【0043】
この際、深さ方向の表面側に対してレーザアニールを施した場合、支持基板20Aに通常のガラス基板を用いても有効であるが、特に、可撓性の樹脂基板を用いた際にも有効である。すなわち、樹脂基板は耐熱性が低いため、a−Siの成膜時に温度を高温とすることができず、ガラスと比較した場合に電子移動度が低くなり易いからである。これに対し、ターゲットを絞ってレーザアニール処理を施せば、このような耐熱性に関する不具合を発生し難くすることができ、樹脂基板を用いることができる。
【0044】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0045】
以上説明したように、本発明に係るX線撮像素子の製造方法は、光電変換膜に蛍光材料の発光特性に応じたアニール処理を施すことにより、シンチレータの発光波長とフォトダイオードの検出波長とのずれを抑制することができ、よって少ない放射線被曝線量で患者を診断することができるという効果を有し、X線を用いたデジタルレントゲン写真を撮影するためのX線撮像素子の製造方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0046】
20 X線撮像素子
20B TFT回路層
20D 光電変換膜(フォトダイオード:a−Si層)
20F シンチレータ層(蛍光体層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11