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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-136336(P2017-136336A)
(43)【公開日】2017年8月10日
(54)【発明の名称】煙草用消臭処理材
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20170714BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20170714BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20170714BHJP
【FI】
   A61L9/01 H
   A61L9/01 B
   A61L9/16 D
   C12N1/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-125684(P2016-125684)
(22)【出願日】2016年6月24日
(11)【特許番号】特許第6040334号(P6040334)
(45)【特許公報発行日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-18888(P2016-18888)
(32)【優先日】2016年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515184215
【氏名又は名称】情報機器販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】錦 昭三
【テーマコード(参考)】
4B065
4C180
【Fターム(参考)】
4B065AA60X
4B065AC20
4B065BB18
4B065BD23
4B065CA60
4C180AA02
4C180BB03
4C180BB06
4C180BB08
4C180BB09
4C180BB11
4C180CC04
4C180CC06
4C180CC11
4C180EA14X
4C180EB05X
(57)【要約】
【課題】簡単な組成でありながら、煙草から発生する複数の悪臭物質に対して同時に優れた消臭効果を有する煙草用消臭処理材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明を適用した煙草用消臭処理材1は、竹炭を含む高吸着性の炭素原料2と、麹菌を含み有機酸を生成可能な微生物原料3と、微生物原料3に対する重量比率Rが0.1〜1.2であって、微生物原料3の栄養源になるデンプン類4と、外部と炭素原料、微生物原料との間を連通させる筒状体12とを含有し、好ましくは、デンプン類4は、デンプン比が0.1〜0.5であり、微生物原料3は、米麹、麦麹の少なくとも一方を含み、筒状体12は、炭素原料2、微生物原料3、及びデンプン類4から成る処理材本体11の内部から外部に渡って突出する長パイプ13と、長パイプ13よりも短く、処理材本体11中に埋没される短パイプ14とから構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹炭を含む高吸着性の炭素原料と、
麹菌を含み有機酸を生成可能な微生物原料と、
該微生物原料に対する重量比率が0.1〜1.2であって、前記微生物原料の栄養源になるデンプン類と、
外部と前記炭素原料、微生物原料との間を連通させる筒状体とを含有する
煙草用消臭処理材。
【請求項2】
前記デンプン類は、
前記微生物原料に対する重量比率が0.1〜0.5である
請求項1に記載の煙草用消臭処理材。
【請求項3】
前記微生物原料は、
米麹、麦麹の少なくとも一方を含む
請求項1または請求項2に記載の煙草用消臭処理材。
【請求項4】
前記筒状体は、
前記炭素原料、微生物原料、及びデンプン類から成る処理材本体の内部から外部に渡って突出する長尺筒状体と、
該長尺筒状体よりも短く、前記処理材本体中に埋没される短尺筒状体とから構成される
請求項1または請求項2または請求項3に記載の煙草用消臭処理材。
【請求項5】
前記短尺筒状体は、
近接配置時に互いの外周面間に隙間を形成可能な断面視略円形の外周形状を有する
請求項4に記載の煙草用消臭処理材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙草及び煙草の燃焼により発生する悪臭物質を分解除去するための煙草用消臭処理材に関する。詳しくは、簡単な組成でありながら、煙草から発生する複数の悪臭物質に対して同時に優れた消臭効果を有する煙草用消臭処理材に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、竹炭や木炭のように、焼成によって多数の微細孔が形成された炭素系の原料(以下、「炭素原料」とする)を使用することで、その大きな表面積により、種々の悪臭成分を物理吸着して除去できることが知られている。
【0003】
しかし、この物理吸着は、主に固体表面で起こることから、固体表面の全面が悪臭成分で覆われると吸着能が大きく低下する。このため、高い吸着能を維持していくには、常時、炭素材料の交換や、高温加熱による再生が必要とされている。
【0004】
また、炭素原料に特定の単一の菌または複数の菌から成る菌群を吸着させ、これを培養基として菌を培養し増殖させた消臭処理材に関する技術も公知となっている(例えば、特許文献1参照)。この技術によると、炭素原料では、菌の増殖時に生成される各種有機酸によってアンモニアのような高アルカリの悪臭成分を中和する中和反応が生じ、このような化学反応を伴った化学吸着が前述した物理吸着と並行して起こるために、炭素原料による消臭効果が更に向上したものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−309385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された消臭処理材では、菌の増殖に必要な栄養源が含有されていないため、使用期間が長期にわたると、菌の増殖速度が低下して有機酸の生成量が著しく少なくなり、高い消臭効果を維持できなくなる。
【0007】
また、喫煙によって発生する煙草特有の悪臭は、主にアンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、酢酸、ピリジンという複数の悪臭成分に起因していることから、全ての悪臭成分を同時に除去する必要があるため、煙草の消臭を効果的に行うのは非常に困難であった。特に、最も強い悪臭を放つアンモニアと、発ガン性を有するアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドとに対する同時除去能力の高い煙草用消臭処理材が、強く求められている。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、簡単な組成でありながら、煙草から発生する複数の悪臭物質に対して同時に優れた消臭効果を有する煙草用消臭処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の消臭処理材は、竹炭を含む高吸着性の炭素原料と、麹菌を含み有機酸を生成可能な微生物原料と、該微生物原料に対する重量比率が0.1〜1.2であって、前記微生物原料の栄養源になるデンプン類と、外部と前記炭素原料、微生物原料との間を連通させる筒状体とを含有する。
【0010】
そして、炭素原料としての竹炭は、原料に竹が使われており、木炭に比べて細孔の径が小さくて表面積が大きいため、物理吸着能が良好である。
【0011】
更に、微生物原料としての麹菌とは、麹をつくる麹カビ属の糸状菌類であって、その胞子を別途に培養した種麹や、蒸米に麹菌を繁殖させた米麹や、蒸麦に麹菌を繁殖させた麦麹などの形態で使用されている。
【0012】
この麹菌は、菌糸の先端からデンプンやタンパク質などを分解する様々な酵素を分泌し、生成されたグルコースやアミノ酸を栄養源として増殖する。特に、酵素として、デンプンを加水分解するアミラーゼが多量に分泌されるため、デンプンに麹を加えるとデンプンの糖化が進行して糖が生成されると同時に、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸、特にこのうちのクエン酸が多量に生成される。これにより、煙草の主たる悪臭成分であるアンモニアのようなアルカリ性の悪臭成分に対して、前述の如く中和反応が生じて著しい消臭効果が得られる。
【0013】
加えて、デンプン類とは、バレイショデンプン、カタクリコデンプン、コメデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプンなどの、穀物から採取されたままの天然デンプン、あるいはこの天然デンプンに粘性の調整などを行った加工デンプンであって、一種でも、二種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0014】
前述の如く、このデンプンを栄養源として麹菌が増殖できるため、予めデンプン類を含有させておくことで、使用期間が長期にわたっても、微生物の増殖速度低下による有機酸の生成量の減少を確実に防止し、高い消臭効果を維持することができる。
【0015】
この際、微生物原料に対するデンプン類の重量比率(以下、「デンプン比」とする)Rは、0.1〜1.2に設定する。
【0016】
これは、デンプン比Rが0.1未満では、栄養源が不足して麹菌の増殖活動が不充分なため、有機酸の生成量が少なく、高アルカリのアンモニアを短時間では中和できないからである。一方、デンプン比Rが1.2超えでは、麹菌の栄養源として必要なデンプン類を充分な量確保できるが、余剰のデンプン類が先に細孔の大部分を塞ぎ、細孔内への麹菌の定着を妨げて有機酸の生成を抑えたり、既に定着している麹菌の表面をデンプン類が分厚く覆い、麹菌とアンモニアとの接触を妨げて中和反応を抑制したりして、やはりアンモニアの中和に時間がかかるからである。
【0017】
更に、筒状体は、ゴムパイプ、プラスチックパイプ、金属パイプなどから形成され、麹菌の増殖に伴って生成する有機酸に対する耐酸性や、炭素原料、微生物原料、デンプン類が混合された煙草用消臭処理材の本体(以下、「処理材本体」とする)内に混入された際に周囲の圧力で筒状体の孔部(以下、「筒孔」とする)が閉塞しない程度の剛性を有すればよく、その素材は特に限定されるものではない。
【0018】
これにより、外部と処理材本体内との間や、処理材本体内における通気を良くし、悪臭成分を処理材本体のすみずみまで行き渡らせることができ、前述した物理吸着や中和反応を効率良く進めることができる。
【0019】
また、デンプン類は、微生物原料に対する重量比率が0.1〜0.5であるのが更に好ましい。
【0020】
これは、デンプン比Rが0.1未満では、前述と同様に、栄養源が不足して麹菌の増殖活動が不充分なため、有機酸の生成量が少なく、高アルカリのアンモニアを短時間では中和できないからである。一方、デンプン比Rが0.5超えから1.2までの間は、前述したデンプン比R1.2超えの場合のように、余剰のデンプン類が先に細孔の大部分を塞いで、細孔内への麹菌の定着を妨げたり、既に定着している麹菌の表面をデンプン類が分厚く覆い、麹菌とアンモニアとの接触を妨げたりすることはないが、デンプン類が筒状体の筒孔を塞ぎはじめるため、筒状体による後述の連通作用の効果が低下し、デンプン比Rが0.1〜0.5の場合に比べてアンモニアの中和にかかる時間が長くなるからである。
【0021】
また、微生物原料は、米麹、麦麹の少なくとも一方を含むことが好ましい。
前述の如く、少量の米などを原料に胞子を別途に培養した種麹もあるが、既に多量の米や麦などのデンプン類が存在する米麹や麦麹を使用する方が、デンプンを栄養源とした麹菌の増殖速度低下の抑制に有効である。
【0022】
また、筒状体は、炭素原料、微生物原料、及びデンプン類から成る処理材本体の内部から外部に渡って突出する長尺筒状体と、長尺筒状体よりも短く、処理材本体中に埋没される短尺筒状体とから構成されることが好ましい。
【0023】
そして、このうちの長尺筒状体は、外部と処理材本体内との間を連通し、この連通作用によって、外部に浮遊する悪臭成分が長い筒孔内を通って処理材本体の内部まで流動し、物理吸着や中和反応が効率良く進む。
【0024】
従って、この長尺筒状体の長さは、煙草用消臭処理材の使用態様によって変化するものであり、処理材本体から端部開口が露出しやすいように、使用時の処理材本体の最長径よりも長めに設定するのが好ましい。
【0025】
これにより、デンプン類が不足するなどし、生成される有機酸が少ない場合であっても、アンモニアを分解して所定の濃度まで減少させるのに必要な時間(以下「消臭時間」とする)を短縮することができる。
【0026】
あるいは、デンプン類が充分に撹拌されずに処理材本体の表面を厚く覆い、外部を漂うアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドが処理材本体内の竹炭の表面に到達しにくい場合であっても、竹炭の表面に効率良く接触させ、これらアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドの消臭時間の延長を抑制することができる。
【0027】
更に、短尺筒状体は、隣接する麹菌や竹炭との間を連通し、この連通作用によって、外部から処理材本体内に侵入してきた悪臭成分が短い筒孔内を通って隣接する麹菌や竹炭との間を相互に流動し、物理吸着や中和反応が効率良く進む。
【0028】
従って、この短尺筒状体の長さは、煙草用消臭処理材の使用態様によって変化するものであり、処理材本体から端部開口が露出しないように、処理材本体の最短径よりも短めに設定するのが好ましい。
【0029】
これにより、前述の如く、アンモニアの消臭時間の短縮、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドの消臭時間の改善を更に進めることができる。
【0030】
また、短尺筒状体は、近接配置時に互いの外周面間に隙間を形成可能な断面視略円形の外周形状を有することが好ましい。
【0031】
外部から処理材本体内に拡散しながら侵入してきた悪臭成分が、筒孔内だけでなく、近接配置された短尺筒状体の間に形成される隙間も通れるようにし、隣接する麹菌や竹炭との間の悪臭成分の流動性を更に向上させることができる。
【0032】
これにより、アンモニアの消臭時間の短縮、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドの消臭時間の改善を更に一層進めることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係わる煙草用消臭処理材は、簡単な組成でありながら、煙草から発生する複数の悪臭物質に対して同時に優れた消臭効果を有するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係わる煙草用消臭処理材の構成を示す説明図であって、図1(a)は短パイプの斜視図、図1(b)はサンプルの製造状況を示す側面図である。
図2】煙草用消臭処理材の消臭試験手順を示す説明図であって、図2(a)は試験袋内へのサンプルの収容、図2(b)は試験袋内へのサンプルの封入、図2(c)は悪臭成分と空気の注入、図2(d)は悪臭成分のガス濃度測定の状況を示す説明図である。
図3】アンモニアのガス濃度C1の経時変化を示すグラフである。
図4】アンモニアの消臭必要時間に及ぼす試験回数の影響を示すグラフである。
図5】アンモニアの10回目の消臭必要時間に及ぼすデンプン比Rの影響を示すグラフである。
図6】硫化水素のガス濃度C2の経時変化を示すグラフである。
図7】酢酸のガス濃度C5の経時変化を示すグラフである。
図8】ピリジンのガス濃度C6の経時変化を示すグラフである。
図9】アセトアルデヒドの消臭効果の説明図であって、図9(a)はアセトアルデヒドのガス濃度C3の経時変化を示すグラフ、図9(a)はアセトアルデヒドの10回目の消臭必要時間に及ぼすデンプン比Rの影響を示すグラフである。
図10】ホルムアルデヒドの消臭効果の説明図であって、図10(a)はホルムアルデヒドのガス濃度C4の経時変化を示すグラフ、図10(b)はホルムアルデヒドの10回目の消臭必要時間に及ぼすデンプン比Rの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、煙草用消臭処理材に関する本発明の実施の形態について、表や図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0036】
本発明に係わる煙草用消臭処理材は、炭素原料、微生物原料、この微生物原料の栄養源になる所定比率のデンプン類、及びこれら炭素原料、微生物原料と外部との間を連通させる筒状体を含有するものである。
【0037】
そして、このうちの炭素原料には竹炭を含み、微生物原料には有機酸を生成可能な麹菌を含むものである。
【0038】
更に、この麹菌には、米麹、麦麹の少なくとも一方を含むものである。
【0039】
加えて、筒状体は、長尺と短尺のものを用意して処理材本体に混入したり、短尺の筒状体を断面視略円形にしたりして、外部と処理材本体内との間、隣接する麹菌や竹炭との間を連通させるようにしている。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0041】
[炭素原料、微生物原料、デンプン類、筒状体の準備]
本実施例においては、炭素原料である竹炭は、破竹、真竹などの雑竹を、炭化炉で窒素雰囲気中にて600〜800℃に加熱して炭化処理を施したものであり、粒径約10μm〜約5mmの粉末状のものを使用した。なお、竹炭に微量添加する木炭は、杉を竹炭と同様な炭化処理を施したものであり、同じ粒径約10μm〜約5mmの粉末状のものを使用した。
【0042】
微生物原料である麹菌は、粉末状の米麹を主体として微量の種麹を添加したもの(以下、「米麹主体原料」)と、粉末状の麦麹のみのものとを使用した。なお、この米麹主体原料では、米麹と種麹を重量比10:1で混合している。
【0043】
デンプン類は、バレイショデンプンとカタクリコデンプンを重量比1:1で混合したもの(以下、「混合デンプン」とする)であり、粉末状のものを使用した。
【0044】
筒状体は、長尺筒状体として、直径5mm×長さ15mmのポリエチレン製の短パイプを使用し、短尺筒状体として、直径5mm×長さ5mmで同じ素材のポリエチレン製の長パイプを使用し、この短パイプと長パイプを重量比4:1で混合したもの(以下、「混合パイプ」とする)を使用した。この際の各パイプのサイズは、後述する消臭試験に使用するサンプル(10g)の状態において、長パイプが処理材本体から端部開口が突出し、短パイプが処理材本体内にほとんど埋没するサイズに設定されている。
【0045】
なお、このうちの短パイプ14は、図1(a)に示すように、近接配置時に互いの外周面間に隙間9を形成可能な断面視略円形に形成されている。
【0046】
[サンプルの製造]
図1(b)に示すように、準備した炭素原料などの処理材本体11に、長パイプ13と短パイプ14から成る筒状体12を加えたものを、総量で約2.5kgとなるように混合用の容器10内に投入し、図示せぬ羽根式の撹拌装置で撹拌することにより、次のような組成を有する複数種の煙草用消臭処理材のサンプルを製造した。
【0047】
まず、前述の炭素原料、微生物原料、デンプン類、筒状体として、それぞれ竹炭、米麹主体原料、混合デンプン、混合パイプを使用し(以下「基本組成系」とする)、このうちの混合デンプンの含有量を0.4〜23.4wt%まで変化させることにより、サンプルA−1〜A−12を製造した。
【0048】
更に、前述の基本組成系の米麹主体原料に代えて麦麹を使用し、混合デンプンの含有量を0.6〜17.3wt%まで変化させることにより、サンプルB−1〜B−5を製造した。
【0049】
加えて、基本組成系の竹炭に少量の木炭を添加し、混合デンプンの含有量を0.5〜16.8wt%まで変化させることにより、サンプルC−1〜C−5を製造した。
【0050】
以上のような発明材に対し、比較材として、前述の基本組成系から微生物原料、デンプン類、筒状体を省いて竹炭だけにしたサンプルXを製造した。
【0051】
更に、比較材として、前述の基本組成系から筒状体を省き、混合デンプンの含有量を0.4〜23.4wt%まで変化させたサンプルY−1〜Y−12を製造した。
【0052】
加えて、比較材として、基本組成系の米麹主体原料に代えて酵母菌を使用し、混合デンプンの含有量を0.6〜19.7wt%まで変化させることにより、サンプルZ−1〜Z−5を製造した。なお、酵母菌には、パン酵母で粉末状のものを使用した。
【0053】
表1は、以上のようにして製造した煙草用消臭処理材の発明材のサンプルA−1〜A−12、B−1〜B−5、C−1〜C−5と、比較材のサンプルX、Y−1〜Y−12、Z−1〜Z−5の組成を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[試験方法]
次に、これらの消臭処理材を対象とした消臭試験方法について、図2により説明する。
図2(a)に示すように、炭素原料2、微生物原料3、デンプン類4、筒状体12などを含有する煙草用消臭処理材1のサンプル1a(10g)を、一端開口袋状で透明なポリフッ化ビニル製のにおい袋5内に、その開口部5aから挿入する。なお、開口部5aと反対側のにおい袋5表面にはゴム板5cが貼着されており、たとえ、ゴム板5cを貫通するようにして中空針の先端をにおい袋5内に挿入し、その後この中空針を引き抜いても、針跡が塞がってにおい袋5内の気密性が保たれるようにしている。
【0056】
続いて、図2(b)に示すように、熱溶着により、開口部5aと平行にヒートシール部5bを形成してにおい袋5を密封し、このにおい袋5内にサンプル1aを封入する。
【0057】
その後、図2(c)に示すように、前述のゴム板5cに、ガスチューブ6の一端に設けた中空の針部6aを貫通させ、ガスチューブ6の他端に連通された図示せぬガスボンベから圧送されてきた空気(9リットル)を、この針部6aを介してにおい袋5内に給気する。同時に、ゴム板5cに、注射器7の先に設けた中空の針部7aを貫通させ、この針部7aを介し煙草の悪臭成分をにおい袋5内に注入する。
【0058】
煙草の悪臭成分としては、前述したアンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、酢酸、ピリジンを使用し、注入初期のガス濃度が、アンモニアは100ppm、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドは20ppm、酢酸は50ppm、ピリジンは10ppmとなるように設定した。
【0059】
続いて、図2(d)に示すように、煙草用消臭処理材1のサンプル1aと煙草の悪臭成分とを封入したにおい袋5を、室温下で所定時間放置した後、ゴム板5cに検知管8の先に設けた中空の針部8aを貫通させ、におい袋5内の悪臭成分のガス濃度C1〜C6を測定する。なお、C1はアンモニア、C2は硫化水素、C3はアセトアルデヒド、C4はホルムアルデヒド、C5は酢酸、C6はピリジンの各ガス濃度(ppm)を示す。
【0060】
[試験結果]
次に、消臭試験結果について、図3乃至図10により説明する。
1)アンモニアについて
表2に、発明材のサンプルA−4と、このサンプルA−4から筒状体を省いたサンプルY−4と、同サンプルA−4から微生物原料、デンプン類、筒状体を省いて竹炭だけにしたサンプルXについて、アンモニアを封入してからのにおい袋5内のアンモニアのガス濃度C1(ppm)の測定結果を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2と図3において、発明材のサンプルA−4では、アンモニアを封入してからの経過時間Tとともにガス濃度C1が減少し、約1.7時間で一般的な規制基準値である2ppmまで低下する。これに対し、比較材のサンプルY−4も、サンプルA−4と同様に、経過時間Tとともにガス濃度C1が減少して約1.7時間で一般的な規制基準値である2ppmまで低下するものの、経過時間初期のガス濃度C1の減少速度はサンプルA−4よりも小さい。比較材のサンプルXでは、規制基準値の2ppmまで低下するのに6時間を要している。
【0063】
これは、サンプルXでは、竹炭による物理吸着のみによってアンモニアが吸着され除去されるのに対し、サンプルY−4、A−4のいずれも、米麹主体原料、混合デンプンを含有しており、物理吸着による消臭効果に、前述した微生物原料による有機酸生成に伴う中和反応による消臭効果が加わって、短時間でアンモニアが除去されるためと考えられる。
【0064】
更に、発明材のサンプルA−4では、混合パイプによる連通作用が加わるため、比較材のサンプルY―4よりも、経過時間初期におけるアンモニアの除去能力が向上したものと考えられる。
【0065】
また、発明材のサンプルA−4と比較材のY−4について、それぞれ、同じサンプルを使って前述の消臭試験を連続して繰り返して、各回毎にガス濃度C1の経時変化を測定し、そのグラフから、ガス濃度C1が規制基準値2ppmまで低下するのに要する時間(以下、「消臭必要時間」とする)Tbを求めた。表3に、各試験回数Nにおける消臭必要時間Tbの測定結果を示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3と図4において、発明材のサンプルA−4、比較材のサンプルY−4のいずれも、消臭試験を10回繰り返す間でも消臭必要時間Tbが1.4〜2.1時間の短時間に維持されているのがわかる。これは、いずれのサンプルでも、混合デンプンが栄養素として米麹主体原料に常に供給され、麹菌の増殖が途切れずに進行するためと考えられる。
【0068】
ただし、試験回数Nが増えるほど、消臭必要時間Tbは、発明材のサンプルA−4の方が比較材のサンプルY−4よりも短くなる傾向にある。これは、サンプルA−4では、連通作用の効果によってアンモニアが処理材本体のすみずみまで常に行き渡っているため、試験回数Nが増えても中和反応の反応速度が低下しにくいためと考えられる。
【0069】
また、表4に、各種サンプルについて、同じサンプルを使った消臭試験を連続して10回繰り返した際の10回目の消臭必要時間Tb10の測定結果を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4、図5において、基本組成系のサンプルA−1〜A−12の10回目の消臭必要時間Tb10は、デンプン比Rが0.1〜1.2の範囲(以下、「適正デンプン比範囲」とする)内では、1.7〜2.0時間の短時間に維持されるのに対し、デンプン比Rが0.1未満または1.2超えになると、比較材のサンプルXよりは短時間であるものの、適正デンプン比範囲における消臭必要時間Tb10よりも長時間側に移行する。
【0072】
更に、詳しくは、消臭必要時間Tb10は、デンプン比Rが0.1〜0.5の範囲(以下、「最適デンプン比範囲」とする)内では1.1〜1.3時間であって、適正デンプン比範囲内の中でも特に短時間側に維持されている。
【0073】
この傾向は、発明材で、米麹主体原料に代えて麦麹を使用したサンプルB−1〜B−5、竹炭に少量の木炭を添加したサンプルC−1〜C−5、比較材で、基本組成系の米麹主体原料に代えて酵母菌を使用したサンプルZ−1〜Z−5においてもほぼ同様であった。
【0074】
これは、炭素原料、微生物原料、及びデンプン類の組み合わせにおいては、程度に差はあれ、デンプン類が少なすぎると、栄養源が不足して微生物原料の増殖活動が不充分となる一方、デンプン類が多すぎると、余剰のデンプン類が先に細孔を塞いで炭素原料への微生物原料の定着を妨げたり、既に定着した微生物原料を覆ってアンモニアとの接触を妨げたりするためと考えられる。
【0075】
更に、発明材のサンプルB−1〜B−5と、サンプルC−1〜C−5のいずれも、適正デンプン比範囲内では、基本組成系のサンプルA−1〜A12と略同等な消臭必要時間Tb10が確保されているのに対し、比較材のサンプルY−1〜Y−12と、サンプルZ−1〜Z−5のいずれも、消臭必要時間Tb10が、基本組成系のサンプルA−1〜A12よりも長くなる傾向にある。
【0076】
これは、サンプルY−1〜Y−12については、前述した筒状体による連通作用が得られず、悪臭成分を処理材本体のすみずみまで行き渡らせることができずに、中和反応の反応速度が低下するためと考えられる。サンプルZ−1〜Z−5については、酵母菌の主たる栄養源は糖であり、デンプン類添加では酵母菌の増殖速度低下が充分には抑制できていないためと考えられる。
【0077】
加えて、前述の最適デンプン比範囲は、混合パイプを省いたサンプルY−1〜Y−12には現れず、混合パイプを有するそれ以外のサンプルには認められた。
【0078】
これは、デンプン類が有る程度多くなると、混入されている混合パイプの筒孔がデンプン類によって塞がれるようになり、混合パイプによる連通作用の効果が低下するためと考えられる。つまり、適正デンプン比範囲の中に更に最適デンプン比範囲が存在するのは、筒状体である混合パイプが存在する場合特有の現象と考えられる。
【0079】
2)硫化水素、酢酸、ピリジンについて
硫化水素、酢酸、ピリジンも、アンモニアと同様、発明材のサンプルA−4と、比較材のサンプルY−4とサンプルXについて、におい袋5内に封入してからのガス濃度の変化を測定した。
【0080】
図6に示すように、硫化水素の場合、いずれのサンプルA−4、Y−4、Xにおいても、硫化水素を封入してからの経過時間Tとともに、そのガス濃度C2が注入初期の20ppmから急激に減少し、わずか10分で硫化水素の定量下限値である1ppmを下回った。
【0081】
図7に示すように、酢酸の場合も、いずれのサンプルA−4、Y−4、Xにおいても、酢酸を封入してからの経過時間Tとともに、そのガス濃度C5が注入初期の50ppmから急激に減少し、わずか10分で酢酸の定量下限値である1ppmを下回った。
【0082】
図8に示すように、ピリジンの場合も、いずれのサンプルA−4、Y−4、Xにおいても、ピリジンを封入してからの経過時間Tとともに、そのガス濃度C6が注入初期の10ppmから急激に減少し、わずか10分でピリジンの定量下限値である0.2ppmを下回った。
【0083】
従って、硫化水素、酢酸、ピリジンについては、サンプルにかかわらず、短時間で充分に除去されることが判明した。これは、硫化水素、酢酸、ピリジンに対しては、サンプルA−4、Y−4、Xに共通する成分である竹炭の物理吸着による消臭効果が著しく大きいためと考えられる。詳しくは、硫化水素、酢酸については、酸性であることから、有機酸による中和反応の影響が現れにくいこと、ピリジンについては、アンモニアと同じアルカリ性であるが分子量が大きいことから、物理吸着に有効な分子間力の影響が現れたこと、などに起因するものと推定される。
【0084】
3)アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドについて
アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドも、アンモニアと同様、発明材のサンプルA−4と、比較材のサンプルY−4とサンプルXについて、におい袋5内に封入してからのガス濃度の変化を測定した。
【0085】
図9(a)、図10(a)に示すように、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれの場合も、サンプルA−4、サンプルXでは、アセトアルデヒドを封入してからの経過時間Tとともにガス濃度C3が減少し、約2時間で定量下限値である1ppmを下回った。これに対し、サンプルY−4では、この定量下限値である1ppmを下回るのに4時間を要している。
【0086】
これは、サンプルXでは、竹炭による物理吸着による消臭効果が有効に作用するが、サンプルY−4では、サンプルA−4とは異なり、混合パイプによる連通作用がないために、微生物原料やデンプン類が竹炭を覆って物理吸着を著しく阻害するためと考えられる。詳しくは、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれも、酸性であることから、有機酸による中和反応の影響が現れにくいことなどに起因するものと推定される。
【0087】
更に、アンモニアと同様、同じサンプルを使った消臭試験を連続して10回繰り返した際の10回目の消臭必要時間Tb10を測定した。
【0088】
図9(b)、図10(b)に示すように、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれの場合も、消臭必要時間Tb10はデンプン比Rに関係なく略一定の値を示している。これは、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドでも、竹炭の物理吸着による消臭効果が大きく、デンプン類添加の影響が小さくなったためと考えられる。
【0089】
更に、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれの場合も、発明材のサンプルA−4の消臭必要時間Tb10は、比較材のサンプルY−4よりも短い。これは、試験回数Nが増えても、連通作用の効果によってアセトアルデヒドやホルムアルデヒドが処理材本体のすみずみまで常に行き渡り、物理吸着の効率が低下しにくいためと考えられる。
【0090】
従って、以上のようにして、本発明材は、煙草の悪臭成分であるアンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、酢酸、ピリジンに対し、竹炭による物理吸着や麹菌による中和反応を筒状体の連通作用によって効率良く進行させ、これら全ての悪臭成分を確実に除去することができる。
【0091】
以上のように、本発明を適用した煙草用消臭処理材は、簡単な組成でありながら、煙草から発生する複数の悪臭物質に対して同時に優れた消臭効果を有するものとなっている。
【符号の説明】
【0092】
1 煙草用消臭処理材
2 炭素原料
3 微生物原料
4 デンプン類
9 隙間
11 処理材本体
12 筒状体
13 長パイプ(長尺筒状体)
14 短パイプ(短尺筒状体)
R デンプン比(微生物原料に対するデンプン類の重量比率)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2016年9月20日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹炭を含む高吸着性の炭素原料と、
有機酸を生成可能な麹菌から成る微生物原料と、
該微生物原料に対する重量比率が0.1〜1.2であって、前記微生物原料の栄養源になるデンプン類と、
外部と前記炭素原料、微生物原料との間を連通させる筒状体とを含有する
煙草用消臭処理材。
【請求項2】
前記デンプン類は、
前記微生物原料に対する重量比率が0.1〜0.5である
請求項1に記載の煙草用消臭処理材。
【請求項3】
前記微生物原料は、
米麹、麦麹の少なくとも一方を含む
請求項1または請求項2に記載の煙草用消臭処理材。
【請求項4】
前記筒状体は、
前記炭素原料、微生物原料、及びデンプン類から成る処理材本体の内部から外部に渡って突出する長尺筒状体と、
該長尺筒状体よりも短く、前記処理材本体中に埋没される短尺筒状体とから構成される
請求項1または請求項2または請求項3に記載の煙草用消臭処理材。
【請求項5】
前記短尺筒状体は、
近接配置時に互いの外周面間に隙間を形成可能な断面視略円形の外周形状を有する
請求項4に記載の煙草用消臭処理材。