【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0041】
[炭素原料、微生物原料、デンプン類、筒状体の準備]
本実施例においては、炭素原料である竹炭は、破竹、真竹などの雑竹を、炭化炉で窒素雰囲気中にて600〜800℃に加熱して炭化処理を施したものであり、粒径約10μm〜約5mmの粉末状のものを使用した。なお、竹炭に微量添加する木炭は、杉を竹炭と同様な炭化処理を施したものであり、同じ粒径約10μm〜約5mmの粉末状のものを使用した。
【0042】
微生物原料である麹菌は、粉末状の米麹を主体として微量の種麹を添加したもの(以下、「米麹主体原料」)と、粉末状の麦麹のみのものとを使用した。なお、この米麹主体原料では、米麹と種麹を重量比10:1で混合している。
【0043】
デンプン類は、バレイショデンプンとカタクリコデンプンを重量比1:1で混合したもの(以下、「混合デンプン」とする)であり、粉末状のものを使用した。
【0044】
筒状体は、長尺筒状体として、直径5mm×長さ15mmのポリエチレン製の短パイプを使用し、短尺筒状体として、直径5mm×長さ5mmで同じ素材のポリエチレン製の長パイプを使用し、この短パイプと長パイプを重量比4:1で混合したもの(以下、「混合パイプ」とする)を使用した。この際の各パイプのサイズは、後述する消臭試験に使用するサンプル(10g)の状態において、長パイプが処理材本体から端部開口が突出し、短パイプが処理材本体内にほとんど埋没するサイズに設定されている。
【0045】
なお、このうちの短パイプ14は、
図1(a)に示すように、近接配置時に互いの外周面間に隙間9を形成可能な断面視略円形に形成されている。
【0046】
[サンプルの製造]
図1(b)に示すように、準備した炭素原料などの処理材本体11に、長パイプ13と短パイプ14から成る筒状体12を加えたものを、総量で約2.5kgとなるように混合用の容器10内に投入し、図示せぬ羽根式の撹拌装置で撹拌することにより、次のような組成を有する複数種の煙草用消臭処理材のサンプルを製造した。
【0047】
まず、前述の炭素原料、微生物原料、デンプン類、筒状体として、それぞれ竹炭、米麹主体原料、混合デンプン、混合パイプを使用し(以下「基本組成系」とする)、このうちの混合デンプンの含有量を0.4〜23.4wt%まで変化させることにより、サンプルA−1〜A−12を製造した。
【0048】
更に、前述の基本組成系の米麹主体原料に代えて麦麹を使用し、混合デンプンの含有量を0.6〜17.3wt%まで変化させることにより、サンプルB−1〜B−5を製造した。
【0049】
加えて、基本組成系の竹炭に少量の木炭を添加し、混合デンプンの含有量を0.5〜16.8wt%まで変化させることにより、サンプルC−1〜C−5を製造した。
【0050】
以上のような発明材に対し、比較材として、前述の基本組成系から微生物原料、デンプン類、筒状体を省いて竹炭だけにしたサンプルXを製造した。
【0051】
更に、比較材として、前述の基本組成系から筒状体を省き、混合デンプンの含有量を0.4〜23.4wt%まで変化させたサンプルY−1〜Y−12を製造した。
【0052】
加えて、比較材として、基本組成系の米麹主体原料に代えて酵母菌を使用し、混合デンプンの含有量を0.6〜19.7wt%まで変化させることにより、サンプルZ−1〜Z−5を製造した。なお、酵母菌には、パン酵母で粉末状のものを使用した。
【0053】
表1は、以上のようにして製造した煙草用消臭処理材の発明材のサンプルA−1〜A−12、B−1〜B−5、C−1〜C−5と、比較材のサンプルX、Y−1〜Y−12、Z−1〜Z−5の組成を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[試験方法]
次に、これらの消臭処理材を対象とした消臭試験方法について、
図2により説明する。
図2(a)に示すように、炭素原料2、微生物原料3、デンプン類4、筒状体12などを含有する煙草用消臭処理材1のサンプル1a(10g)を、一端開口袋状で透明なポリフッ化ビニル製のにおい袋5内に、その開口部5aから挿入する。なお、開口部5aと反対側のにおい袋5表面にはゴム板5cが貼着されており、たとえ、ゴム板5cを貫通するようにして中空針の先端をにおい袋5内に挿入し、その後この中空針を引き抜いても、針跡が塞がってにおい袋5内の気密性が保たれるようにしている。
【0056】
続いて、
図2(b)に示すように、熱溶着により、開口部5aと平行にヒートシール部5bを形成してにおい袋5を密封し、このにおい袋5内にサンプル1aを封入する。
【0057】
その後、
図2(c)に示すように、前述のゴム板5cに、ガスチューブ6の一端に設けた中空の針部6aを貫通させ、ガスチューブ6の他端に連通された図示せぬガスボンベから圧送されてきた空気(9リットル)を、この針部6aを介してにおい袋5内に給気する。同時に、ゴム板5cに、注射器7の先に設けた中空の針部7aを貫通させ、この針部7aを介し煙草の悪臭成分をにおい袋5内に注入する。
【0058】
煙草の悪臭成分としては、前述したアンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、酢酸、ピリジンを使用し、注入初期のガス濃度が、アンモニアは100ppm、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドは20ppm、酢酸は50ppm、ピリジンは10ppmとなるように設定した。
【0059】
続いて、
図2(d)に示すように、煙草用消臭処理材1のサンプル1aと煙草の悪臭成分とを封入したにおい袋5を、室温下で所定時間放置した後、ゴム板5cに検知管8の先に設けた中空の針部8aを貫通させ、におい袋5内の悪臭成分のガス濃度C1〜C6を測定する。なお、C1はアンモニア、C2は硫化水素、C3はアセトアルデヒド、C4はホルムアルデヒド、C5は酢酸、C6はピリジンの各ガス濃度(ppm)を示す。
【0060】
[試験結果]
次に、消臭試験結果について、
図3乃至
図10により説明する。
1)アンモニアについて
表2に、発明材のサンプルA−4と、このサンプルA−4から筒状体を省いたサンプルY−4と、同サンプルA−4から微生物原料、デンプン類、筒状体を省いて竹炭だけにしたサンプルXについて、アンモニアを封入してからのにおい袋5内のアンモニアのガス濃度C1(ppm)の測定結果を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2と
図3において、発明材のサンプルA−4では、アンモニアを封入してからの経過時間Tとともにガス濃度C1が減少し、約1.7時間で一般的な規制基準値である2ppmまで低下する。これに対し、比較材のサンプルY−4も、サンプルA−4と同様に、経過時間Tとともにガス濃度C1が減少して約1.7時間で一般的な規制基準値である2ppmまで低下するものの、経過時間初期のガス濃度C1の減少速度はサンプルA−4よりも小さい。比較材のサンプルXでは、規制基準値の2ppmまで低下するのに6時間を要している。
【0063】
これは、サンプルXでは、竹炭による物理吸着のみによってアンモニアが吸着され除去されるのに対し、サンプルY−4、A−4のいずれも、米麹主体原料、混合デンプンを含有しており、物理吸着による消臭効果に、前述した微生物原料による有機酸生成に伴う中和反応による消臭効果が加わって、短時間でアンモニアが除去されるためと考えられる。
【0064】
更に、発明材のサンプルA−4では、混合パイプによる連通作用が加わるため、比較材のサンプルY―4よりも、経過時間初期におけるアンモニアの除去能力が向上したものと考えられる。
【0065】
また、発明材のサンプルA−4と比較材のY−4について、それぞれ、同じサンプルを使って前述の消臭試験を連続して繰り返して、各回毎にガス濃度C1の経時変化を測定し、そのグラフから、ガス濃度C1が規制基準値2ppmまで低下するのに要する時間(以下、「消臭必要時間」とする)Tbを求めた。表3に、各試験回数Nにおける消臭必要時間Tbの測定結果を示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3と
図4において、発明材のサンプルA−4、比較材のサンプルY−4のいずれも、消臭試験を10回繰り返す間でも消臭必要時間Tbが1.4〜2.1時間の短時間に維持されているのがわかる。これは、いずれのサンプルでも、混合デンプンが栄養素として米麹主体原料に常に供給され、麹菌の増殖が途切れずに進行するためと考えられる。
【0068】
ただし、試験回数Nが増えるほど、消臭必要時間Tbは、発明材のサンプルA−4の方が比較材のサンプルY−4よりも短くなる傾向にある。これは、サンプルA−4では、連通作用の効果によってアンモニアが処理材本体のすみずみまで常に行き渡っているため、試験回数Nが増えても中和反応の反応速度が低下しにくいためと考えられる。
【0069】
また、表4に、各種サンプルについて、同じサンプルを使った消臭試験を連続して10回繰り返した際の10回目の消臭必要時間Tb10の測定結果を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4、
図5において、基本組成系のサンプルA−1〜A−12の10回目の消臭必要時間Tb10は、デンプン比Rが0.1〜1.2の範囲(以下、「適正デンプン比範囲」とする)内では、1.7〜2.0時間の短時間に維持されるのに対し、デンプン比Rが0.1未満または1.2超えになると、比較材のサンプルXよりは短時間であるものの、適正デンプン比範囲における消臭必要時間Tb10よりも長時間側に移行する。
【0072】
更に、詳しくは、消臭必要時間Tb10は、デンプン比Rが0.1〜0.5の範囲(以下、「最適デンプン比範囲」とする)内では1.1〜1.3時間であって、適正デンプン比範囲内の中でも特に短時間側に維持されている。
【0073】
この傾向は、発明材で、米麹主体原料に代えて麦麹を使用したサンプルB−1〜B−5、竹炭に少量の木炭を添加したサンプルC−1〜C−5、比較材で、基本組成系の米麹主体原料に代えて酵母菌を使用したサンプルZ−1〜Z−5においてもほぼ同様であった。
【0074】
これは、炭素原料、微生物原料、及びデンプン類の組み合わせにおいては、程度に差はあれ、デンプン類が少なすぎると、栄養源が不足して微生物原料の増殖活動が不充分となる一方、デンプン類が多すぎると、余剰のデンプン類が先に細孔を塞いで炭素原料への微生物原料の定着を妨げたり、既に定着した微生物原料を覆ってアンモニアとの接触を妨げたりするためと考えられる。
【0075】
更に、発明材のサンプルB−1〜B−5と、サンプルC−1〜C−5のいずれも、適正デンプン比範囲内では、基本組成系のサンプルA−1〜A12と略同等な消臭必要時間Tb10が確保されているのに対し、比較材のサンプルY−1〜Y−12と、サンプルZ−1〜Z−5のいずれも、消臭必要時間Tb10が、基本組成系のサンプルA−1〜A12よりも長くなる傾向にある。
【0076】
これは、サンプルY−1〜Y−12については、前述した筒状体による連通作用が得られず、悪臭成分を処理材本体のすみずみまで行き渡らせることができずに、中和反応の反応速度が低下するためと考えられる。サンプルZ−1〜Z−5については、酵母菌の主たる栄養源は糖であり、デンプン類添加では酵母菌の増殖速度低下が充分には抑制できていないためと考えられる。
【0077】
加えて、前述の最適デンプン比範囲は、混合パイプを省いたサンプルY−1〜Y−12には現れず、混合パイプを有するそれ以外のサンプルには認められた。
【0078】
これは、デンプン類が有る程度多くなると、混入されている混合パイプの筒孔がデンプン類によって塞がれるようになり、混合パイプによる連通作用の効果が低下するためと考えられる。つまり、適正デンプン比範囲の中に更に最適デンプン比範囲が存在するのは、筒状体である混合パイプが存在する場合特有の現象と考えられる。
【0079】
2)硫化水素、酢酸、ピリジンについて
硫化水素、酢酸、ピリジンも、アンモニアと同様、発明材のサンプルA−4と、比較材のサンプルY−4とサンプルXについて、におい袋5内に封入してからのガス濃度の変化を測定した。
【0080】
図6に示すように、硫化水素の場合、いずれのサンプルA−4、Y−4、Xにおいても、硫化水素を封入してからの経過時間Tとともに、そのガス濃度C2が注入初期の20ppmから急激に減少し、わずか10分で硫化水素の定量下限値である1ppmを下回った。
【0081】
図7に示すように、酢酸の場合も、いずれのサンプルA−4、Y−4、Xにおいても、酢酸を封入してからの経過時間Tとともに、そのガス濃度C5が注入初期の50ppmから急激に減少し、わずか10分で酢酸の定量下限値である1ppmを下回った。
【0082】
図8に示すように、ピリジンの場合も、いずれのサンプルA−4、Y−4、Xにおいても、ピリジンを封入してからの経過時間Tとともに、そのガス濃度C6が注入初期の10ppmから急激に減少し、わずか10分でピリジンの定量下限値である0.2ppmを下回った。
【0083】
従って、硫化水素、酢酸、ピリジンについては、サンプルにかかわらず、短時間で充分に除去されることが判明した。これは、硫化水素、酢酸、ピリジンに対しては、サンプルA−4、Y−4、Xに共通する成分である竹炭の物理吸着による消臭効果が著しく大きいためと考えられる。詳しくは、硫化水素、酢酸については、酸性であることから、有機酸による中和反応の影響が現れにくいこと、ピリジンについては、アンモニアと同じアルカリ性であるが分子量が大きいことから、物理吸着に有効な分子間力の影響が現れたこと、などに起因するものと推定される。
【0084】
3)アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドについて
アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドも、アンモニアと同様、発明材のサンプルA−4と、比較材のサンプルY−4とサンプルXについて、におい袋5内に封入してからのガス濃度の変化を測定した。
【0085】
図9(a)、
図10(a)に示すように、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれの場合も、サンプルA−4、サンプルXでは、アセトアルデヒドを封入してからの経過時間Tとともにガス濃度C3が減少し、約2時間で定量下限値である1ppmを下回った。これに対し、サンプルY−4では、この定量下限値である1ppmを下回るのに4時間を要している。
【0086】
これは、サンプルXでは、竹炭による物理吸着による消臭効果が有効に作用するが、サンプルY−4では、サンプルA−4とは異なり、混合パイプによる連通作用がないために、微生物原料やデンプン類が竹炭を覆って物理吸着を著しく阻害するためと考えられる。詳しくは、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれも、酸性であることから、有機酸による中和反応の影響が現れにくいことなどに起因するものと推定される。
【0087】
更に、アンモニアと同様、同じサンプルを使った消臭試験を連続して10回繰り返した際の10回目の消臭必要時間Tb10を測定した。
【0088】
図9(b)、
図10(b)に示すように、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれの場合も、消臭必要時間Tb10はデンプン比Rに関係なく略一定の値を示している。これは、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドでも、竹炭の物理吸着による消臭効果が大きく、デンプン類添加の影響が小さくなったためと考えられる。
【0089】
更に、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドのいずれの場合も、発明材のサンプルA−4の消臭必要時間Tb10は、比較材のサンプルY−4よりも短い。これは、試験回数Nが増えても、連通作用の効果によってアセトアルデヒドやホルムアルデヒドが処理材本体のすみずみまで常に行き渡り、物理吸着の効率が低下しにくいためと考えられる。
【0090】
従って、以上のようにして、本発明材は、煙草の悪臭成分であるアンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、酢酸、ピリジンに対し、竹炭による物理吸着や麹菌による中和反応を筒状体の連通作用によって効率良く進行させ、これら全ての悪臭成分を確実に除去することができる。
【0091】
以上のように、本発明を適用した煙草用消臭処理材は、簡単な組成でありながら、煙草から発生する複数の悪臭物質に対して同時に優れた消臭効果を有するものとなっている。