【解決手段】鉄道車両を載せてレールに沿って横向きに移動するトラバーサは、長尺な台枠の長手方向両端部に設けられる一対の走行装置4,5と、両走行装置4,5をそれぞれ制御する制御装置(PLC)41とを備える。両走行装置4,5は、電動モータ31,32で駆動される駆動輪11,12を含む。両走行装置4,5に一対のエンコーダ36,37が設けられる。PLC41は、両走行装置4,5の電動モータ31,32の回転数の同調をベクトル制御で行う。これと共に、PLC41は、両エンコーダ36,37の検出値に基づき両走行装置4,5それぞれの走行距離を算出し、その二つの走行距離の間の走行距離差を算出し、その走行距離差が所定値より大きくなったとき、走行距離差が許容値以下になるよう走行距離が大きい方の走行装置4,5の電動モータ31,32を減速させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載されたトラバーサでは、全体が長尺であり、両端部の駆動輪にかかる負荷のバランスが一定でないこと、あるいは駆動輪にスリップが発生することなどから、両端部の駆動輪の間で走行距離に差が生じることがあった。この結果、トラバーサの走行姿勢が崩れ、トラバーサがレールに対して斜めに走行(斜行)することがあった。ここで、トラバーサとステーションとの間で鉄道車両の乗り移りをスムーズにするために、トラバーサの走行領域を掘削ピット式にすることが考えられる。この場合、トラバーサに斜行が発生すると、トラバーサがピットの壁面に干渉するおそれがあった。また、駆動輪がフランジ付きの場合に、そのフランジがレールに対し過度に接触するおそれがあった。
【0005】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、走行姿勢の安定化を図り斜行の発生を防止可能としたトラバーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、長尺な重量物を載せてレールに沿って横向きに移動するトラバーサであって、前記長尺な重量物を載せるための長尺な台枠と、前記台枠の長手方向における両端部にそれぞれ設けられ、電動モータにより駆動される駆動輪を含み、前記台枠を前記レールに沿って走行させるための一対をなす走行装置と、前記二つの走行装置それぞれを制御するための制御装置とを備えたトラバーサにおいて、前記二つの走行装置のそれぞれに設けられて一対をなすエンコーダを備え、前記制御装置は、前記二つの走行装置それぞれの前記電動モータの回転数の同調をベクトル制御により行うと共に、前記二つのエンコーダの検出値に基づき前記二つの走行装置それぞれの走行距離を算出すると共に、前記算出される二つの走行距離の間の走行距離差を算出し、前記算出される走行距離差が所定値より大きくなったときに、前記走行距離差が許容値以下になるように前記走行距離が大きくなった方の前記走行装置の前記電動モータを減速させることを特徴とする。
【0007】
上記発明の構成によれば、長尺な台枠に長尺な重量物を載せた状態では、その台枠の両端部に設けられた走行装置の駆動輪にかかる負荷のバランスが一定でないこと、あるいは駆動輪にスリップが発生することがあり、それら二つの走行装置の間で走行距離に差が生じ、トラバーサがレールに対し斜めの姿勢で走行する斜行が発生し、トラバーサの走行姿勢が不安定になることがある。ここで、制御装置は、二つの走行装置それぞれの電動モータの回転数の同調をベクトル制御により行うと共に、二つの走行装置それぞれに設けられたエンコーダの検出値に基づき二つの走行装置それぞれの走行距離を算出する。そして、制御装置は、二つの走行距離の間の走行距離差を算出し、その走行距離差が所定値より大きくなったときに、走行距離差が許容値以下になるように走行距離が大きくなった方の走行装置の電動モータを減速させる。従って、二つの走行装置の間で走行距離差が解消され、二つの走行装置の走行距離が等しく整えられる。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記走行装置は、連れ回りする従動輪を更に備え、前記エンコーダは、前記従動輪の回転を検出するように設けられることを特徴とする。
【0009】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、二つの走行装置において従動輪は駆動輪の回転に対して連れ回りするだけであり、駆動輪がスリップしてもその影響を受けることがない。従って、エンコーダが従動輪の回転を検出するので、その検出値から、従動輪、延いては走行装置が走行した正確な距離が得られる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、トラバーサの走行姿勢の安定化を図ることができ、トラバーサに斜行が発生することを防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、トラバーサの走行姿勢を安定化させる制御を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明におけるトラバーサを具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
この実施形態のトラバーサは、鉄道検修ラインにおいて使用され、全長270(m)と、17カ所のステーション(停止番線)を有する走行路にて、最高速度60(m/分)で移動するように構成される。この実施形態では、従来のトラバーサにない移送距離と移送速度が採用され、特にトラバーサの走行姿勢安定化制御について説明する。
【0015】
図1に、トラバーサ1を平面図により示す。このトラバーサ1は、長尺な重量物である鉄道車両を載せてレール2A,2B,2Cに沿って横向きに移動するように構成される。トラバーサ1は、長尺な台枠3と、台枠3の長手方向(
図1左右方向)における両端部にそれぞれ設けられる第1走行装置4及び第2走行装置5と、台枠3の長手方向における中央部に設けられる第3走行装置6とを備える。このトラバーサ1は、検修を終えた出場直前の鉄道車両を載せるために、鉄道車両を搭載した完成台車(図示略)が通過可能に設けられる。すなわち、台枠3の上には、完成台車を乗り移すための一対のレール7が、台枠3の長手方向に沿って配置される。トラバーサ1が走行するレール2A〜2Cは、台枠3の長手方向における左右両端部と中央部に対応して配置され、台枠3の長手方向と直交する方向へ延びる。台枠3の左右両端部にそれぞれ設けられる一対をなす第1及び第2の走行装置4,5は、それぞれ第1電動モータ31及び第2電動モータ32(
図3参照)により駆動される駆動輪11,12と、連れ回りする従動輪13,14を含む。台枠3の中央部に設けられる第3走行装置6は、連れ回りする従動輪15のみを有する。
【0016】
図1に示すように、台枠3の前側(
図1下側)及び後側(
図1上側)の左右両端部には、それぞれ運転台8が設けられる。これら運転台8には、トラバーサ1を走行させる際に、運転者が乗り込むようになっている。
【0017】
図2に、トラバーサ1の概略構成を正面図により示す。この実施形態では、鉄道車両を搭載した完成台車がトラバーサ1に乗り移る際に完成台車が傾斜しないようにするために、掘削ピット式が採用される。すなわち、
図2に示すように、3本のレール2A〜2Cは、長溝状に掘削されたピット9に沿って平行に配置される。このように3本のレール2A〜2Cを備えた三条軌条の構成としたのは、 最大積載状態で台枠3が撓んでも、台枠3がピット9の床面と干渉しないようにするためである。このトラバーサ1は、例えば、新幹線車両を1両と、それを牽引する入替動車とを積載するために、台枠3の長さが「29.9(m)」に、台枠3の幅が「5.0(m)」に設定されており、大型の部類に属する。
【0018】
図3に、左右の第1及び第2の走行装置4,5と、それを制御するための電気的構成を概略図により示す。
図1、
図3に示すように、各走行装置4〜6は、各レール2A〜2Cと平行に配置される基枠16と、各基枠16にて各レール2A〜2Cに沿って一列に配置される4つの車輪を備える。左右に配置された第1及び第2の走行装置4,5では、4つの車輪のうちの二つが第1及び第2の電動モータ31,32にそれぞれ駆動連結される駆動輪11,12であり、残りの二つが連れ回りする従動輪13,14となっている。中央部に配置された第3走行装置6では、4つの車輪全てが従動輪15となっている。
図2に示すように、第1及び第2の走行装置4,5の車輪(駆動輪11,12及び従動輪13,14)は、レール2A,2Bからの脱線を防止するためにフランジ17を付けた車輪となっており、中央部の第3走行装置6の車輪(従動輪15)は、フランジ無しとなっている。
【0019】
このトラバーサ1は、安全装置として、
図1に示すように、各ステーションでの停止中に、トラバーサ1をピット9の側壁に固定するためのロック装置18を備える。このロック装置18は、台枠3の長手方向における両端部にそれぞれ配置される。また、このトラバーサ1には、操作者を補助し、進行方向に障害物がないことを確認するために、台枠3の中央部の前側と後側に障害物センサ19が設けられる。トラバーサ1の走行中に障害物センサ19が障害物を検出すると、トラバーサ1の走行を停止し、障害物との接触を防止するようになっている。
【0020】
このトラバーサ1は、その台枠3に鉄道車両を搬入した後、移送中の車両逸走を防止するための逸走防止ストッパ(図示略)を更に備える。そして、その逸走防止ストッパを鎖錠し、ロック装置18を開錠することで、トラバーサ1が移送可能な状態となる。トラバーサ1は、移送開始後に目標とするステーション付近で減速し、自動で定点に停止し、ロック装置18を鎖錠し、逸走防止ストッパを開錠することで、車両搬出可能な状態となる。トラバーサ1は、この一連の動きを、運転席に設けられた操作盤又はリモコンのボタンを操作することで、自動に行うようになっている。
【0021】
このトラバーサ1は、全体の剛性を高めるために、台枠3の上部に枠や天井が設けられる。また、各ステーションにおけるトラバーサ1の最終停止位置を検出するために、各ステーションには反射テープ(図示略)が設けられ、トラバーサには、それを検出するためのセンサ(図示略)が設けられる。また、ロック装置18は、ピット9の側壁に設けられた挿入穴と、その穴に差し込まれるロックピンとを備える。このロックピンが挿入穴に差し込まれることでロック装置18が鎖錠される。この鎖錠状態では、トラバーサ1上のレール7と、各ステーションに設けられたレールとの芯ずれを規制するようになっている。また、ロック装置18が鎖錠されることで、トラバーサ1の耐震性を確保するようになっている。
【0022】
図4に、トラバーサ1の走行パターンの一例をランカーブにより示す。この実施形態では、トラバーサ1が、最長270mの走行距離を、5分以内で走行を完了するために、
図4に示すようなランカーブが設定される。
図4は、縦軸に速度(m/分)を、横軸に時間(秒)を示す。
図4において、トラバーサ1は、移送開始後6秒で最高速度60(m/分)の「状態1」に達する。その後、目標とするステーション付近では、低速度20(m/分)の「状態2」まで減速し、その目標ステーションに停止する直前では微速度0.5(m/分)まで更に減速してから停止するようになっている。すなわち「二段階減速」を行うようになっている。
【0023】
図3に示すように、このトラバーサ1は、第1及び第2の走行装置4,5を制御するための制御盤40と、各走行装置4,5のそれぞれに設けられて一対をなす第1エンコーダ36及び第2エンコーダ37とを備える。制御盤40は、本発明の制御装置に相当するプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)41と、2つのインバータ(INV)42,43とを備える。PLC41には、第1走行装置4の第1電動モータ31が、第1INV42を介して接続され、第2走行装置5の第2電動モータ32が、第2INV43を介して接続される。また、PLC41には、第1走行装置4に設けられる第1エンコーダ36と、第2走行装置5に設けられる第2エンコーダ37が接続される。第1エンコーダ36は、第1走行装置4の従動輪13の一つの回転を検出するようになっている。第2エンコーダ37は、第2走行装置5の従動輪14の一つの回転を検出するようになっている。そして、トラバーサ1に鉄道車両を載せた状態で、PLC41は、各エンコーダ36,37の検出値に基づき各電動モータ31,32を制御することで、トラバーサ1をレール2A〜2Cに沿って横向きに移動させるようになっている。
【0024】
次に、PLC41が実行するトラバーサ1の走行制御について説明する。
図5、
図6には、走行制御の内容の一例をフローチャートにより示す。
図5は、高速走行時に実行される走行制御であって、処理がこのルーチンへ移行すると、ステップ100で、PLC41は、第1走行装置4の第1電動モータ31へ入力される第1入力周波数fAと、第2走行装置5の第2電動モータ32に入力される第2入力周波数fBのそれぞれを、所定の高速設定値とする。これにより、第1走行装置4の駆動輪11と第2走行装置5の駆動輪12を、高速走行時に同じ速度で回転させる。
【0025】
次に、ステップ110で、PLC41は、第1走行装置4の第1エンコーダ36から出力されるパルス信号のパルス値(第1パルス値)Aと、第2走行装置5の第2エンコーダ37から出力されるパルス信号のパルス値(第2パルス値)Bとの差の絶対値が、例えば、「60(mm)」より大きいか否かを判断する。ここで、第1パルス値Aは、所定時間内に第1エンコーダ36から出力されたパルス信号の積算値を意味し、第1走行装置4の従動輪13の走行距離に相当する。また、第2パルス値Bは、所定時間内に第2エンコーダ37から出力されたパルス信号の積算値を意味し、第2走行装置5の従動輪14の走行距離に相当する。PLC41は、これらのパルス値A,Bを算出した上で、ステップ110の判断を行う。この判断結果が否定となる場合、PLC41は処理をステップ100へ戻す。この判断結果が肯定となる場合、PLC41は処理をステップ120へ移行する。
【0026】
ステップ120では、PLC41は、第1パルス値Aと第2パルス値Bとの差が「0(mm)」より大きいか否かを判断する。この判断結果が肯定となる場合、PLC41は処理をステップ130へ移行する。この判断結果が否定となる場合、PLC41は処理をステップ140へ移行する。
【0027】
ステップ130では、PLC41は、第2入力周波数fBを所定の高速設定値とし、その第2入力周波数fBから「1(Hz)」だけ減算した結果を第1入力周波数fAとする。すなわち、PLC41は、第1入力周波数fAを第2入力周波数fBより低減させる。これにより、第1電動モータ31を減速させる。
【0028】
一方、ステップ140では、PLC41は、第1入力周波数fAを所定の高速設定値とし、その第1入力周波数fAから「1(Hz)」だけ減算した結果を第2入力周波数fBとする。すなわち、PLC41は、第2入力周波数fBを第1入力周波数fAより低減させる。これにより、第2電動モータ32を減速させる。
【0029】
その後、ステップ150で、PLC41は、第1パルス値Aと第2パルス値Bとの差が所定の許容値以下であるか否かを判断する。この判断結果が否定となる場合、PLC41は処理をステップ120へ戻し、ステップ120〜ステップ150の処理を繰り返す。一方、この判断結果が肯定となる場合、PLC41は処理をステップ100へ戻し、ステップ100以降の処理を繰り返す。
【0030】
図6は、低速走行時に実行される走行制御の一例であって、処理がこのルーチンへ移行すると、ステップ200で、PLC41は、第1入力周波数fAと第2入力周波数fBのそれぞれを所定の低速設定値とする。これにより、第1走行装置4の駆動輪11と第2走行装置5の駆動輪12を、低速走行時に同じ速度で回転させる。
【0031】
次に、ステップ210で、PLC41は、第1パルス値Aと第2パルス値Bとの差の絶対値が、例えば、「20(mm)」より大きいか否かを判断する。PLC41は、これらパルス値A,Bを算出した上で、ステップ210の判断を行う。この判断結果が否定となる場合、PLC41は処理をステップ200へ戻す。一方、この判断結果が肯定となる場合、PLC41は処理をステップ220へ移行する。
【0032】
ステップ220では、PLC41は、第1パルス値Aと第2パルス値Bとの差が「0(mm)」より大きいか否かを判断する。この判断結果が肯定となる場合、PLC41は処理をステップ230へ移行する。この判断結果が否定となる場合、PLC41は処理をステップ240へ移行する。
【0033】
ステップ230では、PLC41は、第2入力周波数fBを所定の低速設定値とし、その第2入力周波数fBから「1」だけ減算した結果を第1入力周波数fAとする。すなわち、PLC41は、第1入力周波数fAを第2入力周波数fBより低減させる。これにより、第1電動モータ31を減速させる。
【0034】
一方、ステップ240では、PLC41は、第1入力周波数fAを所定の低速設定値とし、その第1入力周波数fAから「1」だけ減算した結果を第2入力周波数fBとする。すなわち、PLC41は、第2入力周波数fBを第1入力周波数fAより低減させる。これにより、第2電動モータ32を減速させる。
【0035】
その後、ステップ250で、PLC41は、第1パルス値Aと第2パルス値Bとの差が所定の許容値以下であるか否かを判断する。この判断結果が否定となる場合、PLC41は処理をステップ220へ戻し、ステップ220〜ステップ250の処理を繰り返す。一方、この判断結果が肯定となる場合、PLC41は処理をステップ200へ戻し、ステップ200以降の処理を繰り返す。
【0036】
上記の走行制御によれば、PLC41は、高速走行時又は低速走行時に、走行距離差補正制御を実行することになる。すなわち、PLC41は、第1及び第2の走行装置4,5の電動モータ31,32の回転数の同調をベクトル制御により行うと共に、第1及び第2のエンコーダ36,37のそれぞれで検出されるパルス信号に基づき両走行装置4,5の走行距離(第1パルス値A及び第2パルス値B)をそれぞれ算出すると共に、算出される二つの走行距離(A,B)の間の走行距離差(|A−B|)を算出し、その走行距離差(|A−B|)が所定値(60(mm)又は20(mm))より大きくなったときに、その走行距離差(|A−B|)が許容値以下になるように走行距離が大きくなった方の走行装置4,5の電動モータ31,32を減速させるようになっている。
【0037】
上記した走行距離差補正制御は、トラバーサ1の走行姿勢を安定化させるために行われる。トラバーサ1とピット9との隙間は「約150(mm)」であり、乗り継ぎレール部では「約20(mm)」と非常に狭くなっている。このため第1走行装置4と第2走行装置5との間の走行距離差(|A−B|)が「130(mm)」になると、トラバーサ1がピット9の側壁に干渉するおそれがあり、これを防ぐ必要がある。このことから、トラバーサ1の走行中の安定した姿勢を「トラバーサ1がピット9の側壁に接触しない走行姿勢」と定義することができる。よって、第1走行装置4と第2走行装置5との走行距離差が「130(mm)」となる前に、トラバーサ1を斜行のない直線走行状態に復元する必要がある。この実施形態では、「130(mm)」の約半分の「60(mm)」より大きい走行距離差が生じたときに、その走行距離差をなくすように走行距離差補正制御を行うようになっている。このトラバーサ1では、インバータ制御による速度調整と、2つのエンコーダ36,37による「60(mm)」の走行距離差相当の回転数差を検出する周波数制御を行うようになっている。
【0038】
この実施形態では、トラバーサ1に斜行のない直線走行状態を確保するために、以下のような制御を行うようになっている。すなわち、トラバーサ1に搭載される車両の種類によって第1及び第2の走行装置4,5の駆動輪11,12に作用する負荷がばらつくことになる。例えば、N700系新幹線の先頭車両をトラバーサ1に積載した場合、
図2に示すように、トラバーサ1の台枠3にかかる荷重は、先頭車両(4軸)が載る部分と、牽引用の入替動車が載る部分とで異なる。
図2の左側では「18.8(kN)」、右側では「14.3(kN)」となり、均等にはならない。このように負荷バランスが異なると、第1走行装置4の第1電動モータ31と第2走行装置5の第2電動モータ32との間でモータ回転数に差が発生する。そのため、負荷によらず、モータ回転数を一定とする目的で、両電動モータ31,32の制御をインバータ制御とし、制御方式をリアルセンサレスベクトル制御としている。この制御は、各電動モータ31,32に対し1つのインバータ42,43を設けることで構成され、各電動モータ31,32の回転角度を直接検出するサーボモータやベクトル制御に比べて精度は劣るが、インバータ42,43のみで制御が可能となるため、モータ回転数を安価な構成で制御することができる。
【0039】
このトラバーサ1の制御として、停止直前の速度である「0.5(m/分)」単位での速度制御が可能であればよい。速度V=0.5(m/分)、車輪径D=0.63(m)、減速比i=1/43、オープンギア比Zi=39/52、モータ定格回転数N=1750(rpm)とすると、各電動モータ31,32への出力周波数fは次式により算出される。
f=60*V/(N*Zi*πD)=0.50(Hz)
よって、各電動モータ31,32を「約0.5(Hz)」単位で制御ができれば良いことになる
【0040】
従って、インバータ42,43は、「0.1(Hz)」単位の周波数制御が可能であるため、リアルセンサレスベクトル制御では、このトラバーサ1が必要とする「約0.5(Hz)」単位での速度制御を十分可能にできる。この実施形態では、各電動モータ31,32が、トラバーサ1の両端部それぞれに1台ずつ設けられるので、インバータ42,43はそれらの電動モータ31,32に対応して二つ設けられる。この実施形態の制御では、両電動モータ31,32それぞれの回転数を指令できるので、両電動モータ31,32の回転数に差が出ないように、両走行装置4,5の走行速度の同調がとれる構成としている。ここで、トラバーサ1を、工場内にて、走行距離「約70(m)」、走行速度「60(m/分)」で試運転したとき、二つの走行装置4,5の間の走行距離差は「10(mm)」以下となり、直線走行状態を確保できることが確認された。
【0041】
この実施形態では、第1及び第2の電動モータ31,32につき、インバータ制御のみでも十分な同調制御をとることができる。しかし、第1及び第2の走行装置4,5の駆動輪11,12は、それぞれレール2A,2Bとのすべり摩擦力がモータトルクより小さくなることでスリップすることが予想される。このスリップにより、二つの走行装置4,5の間に走行距離差が発生するおそれがある。これを解決するために、各駆動輪11,12のスリップの影響を受けることなく、二つの走行装置4,5それぞれの走行距離を求める必要がある。そこで、この実施形態では、
図3に示すように、両走行装置4,5の従動輪13,14にそれぞれエンコーダ36,37を設け、両走行装置4,5の間の走行距離差を求める構成とした。
【0042】
この実施形態における走行距離差補正制御は、二つの走行装置4,5の間の走行距離差が所定の許容値より大きくなったときに、両走行装置4,5のうち走行距離が大きくなった先行側の走行装置4,5の電動モータ31,32を「1(Hz)」だけ減速し、その走行距離差が所定の許容値以下になったところで、先行側の電動モータ31,32の回転数を所定の設定値へ戻すようになっている。ここで、許容値は、
図4に示すランカーブ中の高速域(状態1)と低速域(状態2)でそれぞれ別々に設定している。状態1の許容値は、トラバーサ1とピット9との干渉を防ぐことを目的として、限界値である「130(mm)」の半分以下である「60(mm)」に設定している。状態2の許容値は、停止精度を確保するために「20(mm)」に設定している。
【0043】
この実施形態のトラバーサ1につき、工場内での試運転により、両走行装置4,5のうち、片方を「20(mm)」だけ強制的に先行させた状態を試した。その結果、3秒程度で斜行から直線走行状態へ戻せることを確認できた。従って、駆動輪11,12のスリップや負荷の影響により万が一リアルセンサレスベクトル制御が有効でなくなった場合の走行距離差についても、エンコーダ36,37により従動輪13,14の回転数をフィードバックし周波数制御を行うことで、二つの走行装置4,5の間で走行距離差をなくすことができる。
【0044】
以上説明したこの実施形態のトラバーサ1によれば、長尺な台枠3に長尺な重量物である鉄道車両を載せた状態では、その台枠3の両端部に設けられた第1及び第2の走行装置4,5の駆動輪11,12にかかる負荷のバランスが一定でないこと、あるいはそれら駆動輪11,12にスリップが発生することがある。そして、それら二つの走行装置4,5の間で走行距離に差が生じ、トラバーサ1がレール2A〜2Cに対して斜行し、トラバーサ1の走行姿勢が不安定になるおそれがある。
【0045】
ここで、PLC41は、二つの走行装置4,5それぞれの電動モータ31,32の回転数の同調をベクトル制御により行うと共に、二つの走行装置4,5それぞれに設けられたエンコーダ42,43の検出値に基づき二つの走行装置4,5それぞれの走行距離を算出する。そして、PLC41は、算出される二つの走行距離の間の走行距離差を算出し、その走行距離差が所定の許容値より大きくなったときに、走行距離差が許容値以下になるように走行距離が大きい方の走行装置4,5の電動モータ31,32を減速させるようになっている。従って、二つの走行装置4,5の間で走行距離差が解消され、二つの走行装置4,5の走行距離が等しく整えられる。この実施形態では、二つのインバータ42,43を用いて二つの電動モータ31,32それぞれの回転数を同調させることができ、二つのエンコーダ36,37を用いて二つの走行装置4,5の間の走行距離差を、高速時には「60(mm)」以内に、低速時には「20(mm)」以内に抑えることができる。この結果、トラバーサ1の走行姿勢の安定化を図ることができ、トラバーサ1に斜行が発生することを防止することができる。このため、トラバーサ1が比較的長い距離走行する構成であっても、トラバーサ1がピット9の側壁と干渉することを防止することができ、トラバーサ1を安定姿勢のまま高速で走行させることができる。また、トラバーサ1の走行姿勢を安定させることができるので、各走行装置4,5の駆動輪11,12及び従動輪13,14のフランジ17がレール2A,2Bに対し過度に接触することを抑えることができ、レール2A,2Bと駆動輪11,12及び従動輪13,14の長寿命化を図ることができる。
【0046】
また、この実施形態では、二つの走行装置4,5それぞれにおいて従動輪13,14は駆動輪11,12の回転に対して連れ回りするだけであり、駆動輪11,12がスリップしても従動輪13,14はその影響を受けることがない。従って、エンコーダ36,37が従動輪13,14の回転を検出するので、その検出値から、従動輪13,14、すなわち走行装置4,5が走行した正確な距離が得られる。この結果、トラバーサ1の走行姿勢を安定化させる制御を高精度に行うことができる。
【0047】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することができる。
【0048】
(1)前記実施形態では、レール2A〜2Cに関する構成として三条軌条を採用したが、トラバーサの長手方向の寸法が短い場合は、中央部のレールを省略した二条軌条を採用することもできる。
【0049】
(2)前記実施形態では、鉄道車両を載せて移動するトラバーサ1に具体化したが、載せる対象は鉄道車両に限らず、長尺な重量物であれば種別を問わない。