特開2017-13661(P2017-13661A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-13661自転車用駆動装置及びこれを備えた三輪自転車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-13661(P2017-13661A)
(43)【公開日】2017年1月19日
(54)【発明の名称】自転車用駆動装置及びこれを備えた三輪自転車
(51)【国際特許分類】
   B62M 1/28 20130101AFI20161222BHJP
   B62K 5/05 20130101ALI20161222BHJP
   B62M 3/00 20060101ALI20161222BHJP
   B62M 1/10 20100101ALI20161222BHJP
【FI】
   B62M1/28
   B62K5/02 D
   B62M3/00 B
   B62M1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-133139(P2015-133139)
(22)【出願日】2015年7月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成27年1月2日にウェブサイト(https://www.youtube.com/watch?v=cqoKBBxymP8)に掲載 平成27年1月21日にウェブサイト(http://www.navida.ne.jp/snavi/4364_1.html)に掲載
(71)【出願人】
【識別番号】596141424
【氏名又は名称】楢原 秀太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152250
【弁理士】
【氏名又は名称】峰松 勝也
(72)【発明者】
【氏名】楢原 秀太郎
【テーマコード(参考)】
3D011
【Fターム(参考)】
3D011AA02
3D011AD11
(57)【要約】
【課題】 シンプルな構造のため軽量コンパクトで製造コストが低廉でありながら、力強い発進と円滑な加速を可能とするペダル踏み込み式の自転車用駆動装置、及びこれを備え走行安定性と旋回性に優れる三輪自転車を提供する。
【解決手段】 ペダルの踏み込み操作により駆動部材がクランク軸を中心に揺動してその外周側面部に伝達部材が巻き上げられ駆動力を発生する自転車用駆動装置において、駆動部材の巻き上げ部分の外周形状が略円弧形状であり、その揺動中心から外周側面部までの揺動半径が、巻き始め側から巻き終わり側に向かって徐々に大きくなるように形成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のフレームに揺動自在に支持されたクランク軸と、該クランク軸に基部が連結され先端部にペダルが装着されたクランクアームと、該クランクアーム又は前記クランク軸に連結され前記ペダルの踏み込み操作により揺動する駆動部材と、自転車の駆動輪のハブ体に同軸に連結され前進方向の駆動力のみを伝達するフリーホイールと、前記駆動部材の外周側面部に前端部が連結され前記フリーホイールの外周側面部に後端部が連結された伝達部材と、該伝達部材を導くガイドと、前記ペダルを踏み込み方向の反対方向に付勢する付勢部材と、を備えた自転車用駆動装置であって、
前記ペダルの踏み込み操作により前記駆動部材が前記クランク軸を中心に揺動してその外周側面部に前記伝達部材が巻き上げられ、該駆動部材の巻き上げ部分の外周形状が略円弧形状に形成され、その揺動中心から外周側面部までの揺動半径が巻き始め側から巻き終わり側に向かって徐々に大きくなるように形成されている前記自転車用駆動装置。
【請求項2】
駆動部材がカムであり、伝達部材がワイヤである、請求項1に記載の自転車用駆動装置。
【請求項3】
付勢部材が内周端から外周端に向かって駆動輪の前進時の回転方向と同一方向に巻かれたゼンマイバネであり、該ゼンマイバネの内周端が前記駆動輪のハブ軸又はフレームに連結され外周端がフリーホイールの外筒部に連結されている、請求項1又は2に記載の自転車用駆動装置。
【請求項4】
操向用の左右2つの前輪と、駆動用の1つの後輪と、フレームとを備え、前記2つの前輪は車体の前後方向に延びる中心線に対して左右対称に配置され、前記後輪は前記中心線上に配置されている三輪自転車であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の自転車用駆動装置を備え、クランク軸、クランクアーム及びペダルが、前記中心線上で前記2つの前輪の接地点を結ぶ直線よりも後輪側かつ前記フレームの前部に配置されている前記三輪自転車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダル踏み込み式の自転車用駆動装置に関する。特に、操向用の2つの前輪と駆動用の1つの後輪とを備えた、立ち乗り式三輪自転車に適した自転車用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の二輪自転車では、乗員がサドルに腰掛けて両足で交互にペダルを踏み込みクランクアームを回転させ、クランクアームと駆動輪に連結された2つのスプロケットの間でチェーンを周回させ、駆動輪を回転させる駆動機構が一般的である。
【0003】
しかし、上記の一般的な駆動機構では、クランクアームを回転運動させるため上下死点付近においてペダルを踏み込む力が減少し、また体重を十分に利用することができないため、乗員の踏み込む力を効率よく駆動力に変換できるものではなかった。
また、一定の長さのクランクアームを回転させる必要があるため、可動域として一定のスペースを必要としコンパクト化が難しかった。特に、低い位置に軸足を置くスペースを必要とする立ち乗り式自転車には使用することができなかった。
【0004】
そこで、ペダルを上下に踏み込みクランクアームを往復運動させる駆動機構が開発されている。例えば特許文献1には、乗員が力を入れやすい角度や軌跡でペダルを上下に往復運動させて推進することができ、コンパクトで低い乗車位置を確保することができる立ち乗り式自転車の駆動機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−260457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の立ち乗り式自転車の駆動機構は、両足を用いて交互に力を入れやすい角度や軌跡で踏み込める効率のよい駆動機構としながら、立ち乗り式自転車特有の低床型のフレーム構造を確保するために、複数のアーム、シャフト、スプロケット、チェーン等を組み合わせた複雑な駆動機構となっている。
また、ペダル踏み込み式の自転車において発進走行時の負担を軽減し、力強い発進と円滑な加速をするために必須ともいえる変速機構については、何ら具体的に開示されていない。
【0007】
本発明では、シンプルな構造のため軽量コンパクトで製造コストが低廉でありながら、発進走行時の負担を軽減し力強い発進と円滑な加速を可能とするペダル踏み込み式の自転車用駆動装置、及びこの自転車用駆動装置を備え走行安定性と旋回性に優れる三輪自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の自転車用駆動装置は、自転車のフレームに揺動自在に支持されたクランク軸と、該クランク軸に基部が連結され先端部にペダルが装着されたクランクアームと、該クランクアーム又は前記クランク軸に連結され前記ペダルの踏み込み操作により揺動する駆動部材と、自転車の駆動輪のハブ体に同軸に連結され前進方向の駆動力のみを伝達するフリーホイールと、前記駆動部材の外周側面部に前端部が連結され前記フリーホイールの外周側面部に後端部が連結された伝達部材と、該伝達部材を導くガイドと、前記ペダルを踏み込み方向の反対方向に付勢する付勢部材と、を備えた自転車用駆動装置であって、前記ペダルの踏み込み操作により前記駆動部材が前記クランク軸を中心に揺動してその外周側面部に前記伝達部材が巻き上げられ、該駆動部材の巻き上げ部分の外周形状が略円弧形状に形成され、その揺動中心から外周側面部までの揺動半径が巻き始め側から巻き終わり側に向かって徐々に大きくなるように形成されている前記自転車用駆動装置である。
【0009】
本発明の自転車用駆動装置は、従来にはない極めてシンプルな構造のため軽量コンパクトであり、車体設計や外観デザインの自由度が向上し、部品点数が少なく製造コストを低減することができる。また、ペダルの踏み込み量や踏み込み位置に対応して無段階変速機として機能するため、発進走行時の負担を軽減して力強い発進と円滑な加速を実現することができる。
【0010】
また、本発明の自転車用駆動装置において、駆動部材をカムとし伝達部材をワイヤとしてもよい。これにより、従来のスプロケットとチェーンを用いた駆動装置と比較して伝達部材の取り回しが容易となるため、車体設計や外観デザインの自由度が格段に向上する。また、部品加工や組み立て時に高い精度が求められないため、製造コストを大幅に低減することができる。
【0011】
さらに、本発明の自転車用駆動装置において、付勢部材を内周端から外周端に向かって駆動輪の前進時の回転方向と同一方向に巻かれたゼンマイバネとし、該ゼンマイバネの内周端を駆動輪のハブ軸又はフレームに連結し、外周端をフリーホイールの外筒部に連結してもよい。これにより、従来の伝達部材の端部とフレームとの間をコイルバネで連結した構造等と比較してまとまりが良くコンパクトな構造となるため、車体設計や外観デザインの自由度が格段に向上し、組立性や整備性も向上する。
【0012】
また、本発明の三輪自転車は、操向用の左右2つの前輪と、駆動用の1つの後輪と、フレームとを備え、前記2つの前輪は車体の前後方向に延びる中心線に対して左右対称に配置され、前記後輪は前記中心線上に配置されている三輪自転車であって、本発明の自転車用駆動装置を備え、クランク軸、クランクアーム及びペダルが前記中心線上で前記2つの前輪の接地点を結ぶ直線よりも後輪側かつ前記フレームの前部に配置されている前記三輪自転車である。
【0013】
本発明の三輪自転車は、走行性や旋回性に優れた前二輪式であることに加えて、軽量コンパクトで車体設計の自由度が高い本発明の自転車用駆動装置を備えているため、低床型のフレーム構造が可能となり、より安定した走行や旋回を実現することができる。また、クランク軸、クランクアーム及びペダルが、車体の前後方向に延びる中心線上において2つの前輪の接地点を結ぶ直線よりも後輪側かつフレームの前部に配置されているため、ペダルの踏み込み時に体重を掛けやすく大きな駆動力を得られると共に、左右どちらの足で強く踏み込んでも車体のバランスを損なうことが少なく、より安定した力強い走行を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の自転車用駆動装置によれば、シンプルな構造で軽量コンパクトなため、設計の自由度が向上し、製造コストを低減することができる。また、ペダルの踏み込み量等に対応して無段階変速機として機能するため、発進走行時の負担を軽減して力強い発進と円滑な加速が可能となる。
さらに、本発明の三輪自転車によれば、ペダルの踏み込み時に体重を掛けやすく車体のバランスが保たれるため、より安定した力強い走行が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の自転車用駆動装置の概略を示す右側面図である。
図2】本発明の自転車用駆動装置の概略を示す平面図である。
図3】自転車用駆動装置の駆動部材周辺の踏み込み前の状態を示す拡大右側面図である。
図4】自転車用駆動装置の駆動部材周辺の踏み込み後の状態を示す拡大右側面図である。
図5】自転車用駆動装置の付勢部材周辺の構造を示す拡大右側面図である。
図6】本発明の自転車用駆動装置を備えた三輪自転車を示す右側面図である。
図7】本発明の自転車用駆動装置を備えた三輪自転車を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の自転車用駆動装置及びこれを備えた三輪自転車の実施形態について、以下図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
また、説明が省略されている構造、材質、製法等については、当該技術分野の当業者に知られたものであってよく、例えば一般的な二輪自転車の構造、材質、製法等と同一又は実質的に同一のものとすることができる。
【0017】
本明細書においては、本発明の自転車用駆動装置を備えた三輪自転車の前進方向を基準とし、前進方向を前、その反対方向を後、左方向を左、右方向を右、重力方向を下、その反対方向を上として、その位置や方向を説明する。また、前進時の駆動輪の回転方向を正回転、その反対方向の回転を逆回転とする。さらに、各図において同一符号は同一又は同等の構成要素を表しており、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態である自転車用駆動装置1を右側から見た側面図であり、図2は上方から見た平面図である。なお、図面を分かりやすくするために一部の構造を省略して図示している。
図1及び図2に示すように本実施形態において自転車用駆動装置1は、平行する左右2つのサイドフレーム10L、10Rの前端部に門型のフロントフレーム11が架設され、中央部にステップフロア12が架設された自転車のフレーム体に組み込まれている。
【0019】
そして、フロントフレーム11の支柱間の中央部に、クランク軸13の両端が転がり軸受けにより揺動自在に支持されている。
クランクアーム14は、左右一対の略L字型板状部材の基部の間にパイプ状部材の両端が溶接され形成されており、その基部には軸孔が設けられパイプ状部材に連通している。この連通孔にクランク軸13が貫挿され、クランク軸13の中央部にクランクアーム14が軸着されている。
また、クランクアーム14の左右一対の略L字型板状部材の先端部の間に、ペダル15の下部が揺動自在に軸支されている。
【0020】
駆動部材であるカム16は板状部材より形成されており、その巻き上げ部分16aの外周形状が略円弧形状に形成されている。カム16の基部の揺動中心には軸孔が設けられており、この軸孔にクランク軸13が貫挿されると共に、カム16の軸方向左側面とクランクアーム14の軸方向右側面が貼り合わされてボルトとナットで締結固定されている。
【0021】
また、左右2つのサイドフレーム10L、10Rの後部には後方に向かって斜め上方に延伸するリアフレーム17が架設され、サイドフレーム10L、10Rの後端部には上方に延伸する左右2つのリアフォーク18L、18Rが固設されている。リアフォーク18L、18Rの上端部はリアフレーム17の上部に連結固定されている。
【0022】
左右2つのリアフォーク18L、18Rの間には駆動輪(後輪)19が配置され、駆動輪19のハブ軸(固定軸)20の両端がリアフォーク18L、18Rの下部にナットで締結固定されている。駆動輪19のハブ体21は、その軸孔に貫挿されているハブ軸20により、転がり軸受けを介して回転自在に軸支されている。
また、ハブ体21の軸方向右端部には、自転車の前進方向の駆動力のみをハブ体21に伝達する一方向クラッチを内蔵したフリーホイール22が同軸に装着されている。
【0023】
このフリーホイール22は、外筒部と、外筒部の内部に同軸に配設された内筒部と、外筒部と内筒部との間に配設された一方向クラッチから構成されている。外筒部の外周方向側面部にはワイヤ23の後端部が連結され、内筒部の軸方向左端部にはハブ体21の軸方向右端部が螺合されている。外筒部は内筒部に対して回転自在であり、伝達部材23により外筒部に伝達された前進方向の駆動力のみが、一方向クラッチを介して駆動輪19のハブ体21に伝達される。
【0024】
なお、本実施形態の自転車用駆動装置1における駆動輪のハブ軸、ハブ体、フリーホイール、スポーク、リム、タイヤなどの構造は、一般的な二輪自転車における駆動輪の構造と同様である。
【0025】
伝達部材であるワイヤ23の前端部はカムの巻き上げ部分16aの外周方向側面部に連結され、後端部はフリーホイール22の外筒部の外周方向側面部に連結されている。ワイヤ23には巻き上げ部分16aに巻き上げられる長さに相当する巻き代が必要となるため、フリーホイール22の外筒部の外周方向側面部に後端部から前端部に向かって正回転方向に数周巻かれている。
また、ワイヤ23はサイドフレーム10L、10Rの間に装着された前後2つのガイドローラー24により、自転車のフレーム下方の最適な経路を通るようにガイドされている。
【0026】
付勢部材であるゼンマイバネ25は、ハブ軸20及びフリーホイール22と略同軸に配設されており、ゼンマイバネ25は中心の内周端から外側の外周端に向かって正回転方向に巻かれている。フリーホイール22の外筒部の軸方向右端部には、中心孔を有する円筒形状のハンガー(回転子)26が同軸に連結固定されている。ゼンマイバネ25の外周端はハンガー26の右側面に固定され、ゼンマイバネ25の内周端はハンガー26の中心孔を貫通するハブ軸20に固定されている。
【0027】
上記の構成により、乗員がペダル15を踏み込むとクランクアーム14とカム16が一体的にクランク軸13を中心軸として前方向に揺動し、カムの巻き上げ部分16aの外周側面部にワイヤ23が巻き上げられる。
ワイヤ23の巻き上げによりワイヤ23が前方に引っ張られ、ワイヤ23の後端部が連結されたフリーホイール22の外筒部が正回転して、一方向クラッチを介してフリーホイール22の内筒部に同軸に固結されたハブ体21に駆動力が伝達され、駆動輪19が正回転して駆動力が発生する。
【0028】
また、ペダル15の踏み込みによりフリーホイール22の外筒部に同軸に固結されたハンガー26も正回転して、ハブ軸20に内周端が固定され正回転方向に巻かれているゼンマイバネ25が巻き締められる。
【0029】
この状態でペダル15を踏み込む力を緩めると巻き締められたゼンマイバネ25が巻き戻され、ゼンマイバネ25の外周端が固定されたハンガー26とこれに同軸に固結されたフリーホイール22の外筒部が逆回転(空転)してワイヤ23が後方向に巻き取られる。ワイヤ23の巻き取りによりワイヤ23が後方に引っ張られ、ワイヤ23の前端部が連結されたカム16が後方向に揺動して、クランクアーム14の先端部に装着されたペダル15が踏み込み方向とは反対の上方向に付勢される。
【0030】
上記のペダル15の踏み込み操作を繰り返すことにより、クランクアーム14及びカム16が前後方向に揺動して、ワイヤ23が前後方向に従動し、一方向クラッチを内蔵したフリーホイール22を介して前進方向の駆動力がハブ体21に伝達され、駆動輪19が正回転して駆動力が発生する。
【0031】
なお、本実施形態では駆動部材としてカムを伝達部材としてワイヤを組み合わせて用いているが、これに限定されるものではない。
例えば、駆動部材としてスプロケットを伝達部材としてローラーチェーンを組み合わせて用いても良く、また駆動部材として歯付プーリーを伝達部材として歯付ベルトを組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、ペダル15を踏み込み方向の反対方向に付勢する付勢部材として、ゼンマイバネ25をフリーホイール22の外筒部と駆動輪のハブ軸20との間に固定して用いているが、これに限定されるものではない。
他の付勢手段として、例えばワイヤ23をフリーホイール22の外筒部の外周方向側面部に数周巻いて連結した後に折り返して斜め下方向に延伸させ、折り返したワイヤ23の後端部と自転車のフレームとの間をコイルバネで連結した構造等が挙げられる。
【0033】
さらに、本実施形態では伝達部材として直径3mmの鋼線ワイヤを使用しているが、ワイヤの種類としては、大きな破断強度と一定の柔軟性を有し大きな駆動力の円滑な伝達を可能とするものならば特に限定されない。例えば、鋼線ワイヤなどの金属ワイヤの他に、ナイロンやケプラーなど化学繊維のワイヤなどを用いることができる。
【0034】
ここで図3及び図4(a)は、本発明の一実施形態である自転車用駆動装置1の駆動部材であるカム16の周辺を拡大して右側から見た側面図であり、図3はペダル15を踏み込む前の状態を、図4(a)はペダル15を下方向に完全に踏み込んだ後の状態を各々示している。
【0035】
図3及び図4(a)に示すように、カムの巻き上げ部分16aの外周形状は略円弧形状に形成されている。そして、カム16の揺動中心であるクランク軸13の中心軸からカムの巻き上げ部分16aの外周方向の側面部までの揺動半径は、ワイヤ23を巻き上げ始める巻き始め側16bから巻き上げ終わる巻き終わり側16cに向かって、徐々に連続的に大きくなるように形成されている。
【0036】
具体的には、クランク軸13の中心軸からカムの巻き始め側16bの外周側面までの半径は50mm、そこから巻き終わり側に30°ずれた箇所では半径75mm、60°ずれた箇所では半径90mm、90°ずれた箇所では半径125mm、120°ずれたカムの巻き終わり側16cでは半径150mmとなる渦巻き曲線の形状に形成されている。
【0037】
本実施形態では、カムの巻き上げ部分16aの形状が上記のような渦巻き曲線に形成されているが、これに限定されるものではなく、目的に応じた最適な揺動半径を有する任意の渦巻き曲線とすることができる。また、揺動半径を徐々に段階的に大きくして、略円弧形状をなす多角形形状に形成してもよい。
【0038】
図3に示すようにペダル15を足で踏み込む前の状態では、カムのワイヤ締結部16dに前端部が連結されたワイヤ23が、付勢部材であるゼンマイバネ25の巻き戻しの予荷重により後方に引っ張られているため、カム16は最も後方に揺動した位置にある。この初期位置では、カム16とワイヤ23とは巻き上げ部分の巻き始め側16bで接しており、クランク軸13の中心軸からカムの巻き上げ部分の外周側面部までの揺動半径は最も小さい50mmである。また、クランクアーム14の先端部に装着されたペダル15は最も上方に位置している。
【0039】
なお、クランクアーム14の2枚の略L字型板状部材の基部には、位置調整が可能な樹脂製の左右一対のストッパ27が突設されており、これがフロントフレーム11の梁部に当接することにより、カム16が後方へ過度に揺動することなく好適な位置に停止するよう設定されている。
【0040】
一方、図4(a)に示すように、ペダル15を足で下方向に完全に踏み込んだ状態では、カム16は最も前方に揺動した位置にある。この完全踏み込み位置では、ワイヤ23はカムの巻き上げ部分の巻き終わり側16cまで巻き上げられており、クランク軸13の中心軸からカムの巻き上げ部分の外周側面部までの揺動半径は最も大きい150mmである。また、クランクアーム14の先端部に装着されたペダル15は最も下方に位置している。
【0041】
図4(b)は、図4(a)中のA−A線におけるカムのワイヤ締結部16dにワイヤ23が締結された状態の断面図である。カム16とワイヤ23との締結部16dには強い力が断続的に加わるため、ワイヤ23が外れないように且つ離断しないように強度と耐久性を考慮して締結する必要がある。
【0042】
また図4(c)は、図4(a)中のB−B線におけるカムの巻き上げ部分16aにワイヤ23が巻き上げられた状態の断面図である。カムの巻き上げ部分16aには、ワイヤ23が確実に巻き上げられるようにワイヤ溝16eが設けられている。なお、ワイヤ溝を設ける代わりに、カムの巻き上げ部分の左右両側面に板状のガイドを装着して、ワイヤが確実に巻き上げられるようにしてもよい。
【0043】
本実施形態では、カム16を左右対称形状の2枚のアルミ製板状部材を貼り合わせボルトとナットで締結固定して作製している。この2枚のアルミ製板状部材のカムとワイヤの締結部16dに当たる部分には、ワイヤ23の半径よりも僅かに浅い断面が略半円形状の溝が刻まれている。また、巻き上げ部分16aの外周側面の内側に当たる縁には、ワイヤ23の半径よりも僅かに深い断面が略1/4円弧形状の溝が刻まれている。そして、締結部16dに当たる部分に刻まれた溝にワイヤ23を挟み込みボルトとナットで強固に締結すると共に、巻き上げ部分16aの外周側面に当たる部分に断面が略半円形状となるワイヤ溝16eを形成している。
【0044】
なお、本実施形態のように駆動部材としてカムを伝達部材としてワイヤを組み合わせて用いて、カムの巻き上げ部分の外周側面にワイヤ溝が設けられている場合には、カムの揺動中心からカムがワイヤと接しているワイヤ溝の底までの揺動半径が、巻き始め側から巻き終わり側に向かって徐々に大きくなるように形成する。
【0045】
また、駆動部材としてスプロケットを伝達部材としてローラーチェーンを組み合わせて用いる場合や、駆動部材として歯付プーリーを伝達部材として歯付ベルトを組み合わせて用いる場合には、スプロケットや歯付プーリーの揺動中心からその基準ピッチ円相当の円弧までの揺動半径が、巻き始め側から巻き終わり側に向かって徐々に大きくなるように形成する。
【0046】
上記の通り自転車用駆動装置1では、ペダルの踏み込み量に比例してワイヤ23を巻き上げるカム16の揺動半径が、巻き始め側から巻き終わり側に向かって徐々に大きくなるように構成されている。これにより、踏み込み初期の発進時においては大きな軸トルクが得られ、一定量以上踏み込んだ発進後は徐々に大きな周速が得られるため、発進走行時の負担を軽減することができ、軽快な踏み下げ操作による力強い発進と円滑な加速とを両立することができる。
【0047】
例えば、発進時や登坂時など大きな駆動力が必要なときは、踏み込みが浅い位置で踏み込み操作を繰り返すことにより力強い発進や走行をすることができる。また、発進後に一定の速度に達した後は、踏み込みが深い位置で踏み込み操作を繰り返すことにより円滑な加速や走行をすることができる。この様に走行状況に応じてペダルの踏み込み位置や踏み込み量を調整することにより、無段階変速機としての機能を十分に発揮することができる。
【0048】
ここで図5は、本発明の一実施形態である自転車用駆動装置1の付勢部材であるゼンマイバネ25の周辺を拡大して右側から見た側面図である。
図5に示すようにゼンマイバネ25は、ハブ軸20及びフリーホイール22と略同軸に配設されており、ゼンマイバネ25は中心の内周端から外側の外周端に向かって、前進時の駆動輪の回転方向(正回転方向)に巻かれている。
【0049】
使用するゼンマイバネは、適度なトルクで伝達部材の繰り出しと巻き取りができスムーズなペダル操作感を付与する好適なバネ定数を有し、且つ、伝達部材の巻き代の長さに対応した十分な巻き締め巻き戻しの回転数(変位角)をとれるものであれば、特に限定されない。本実施形態では板厚1mmで板幅9mmの炭素工具鋼製のゼンマイバネを使用している。
【0050】
フリーホイール22の外筒部の軸方向右端部には、中心孔を有する円筒形状のハンガー(回転子)26が同軸にボルトで連結固定されている。その中心孔にはハブ軸(固定軸)20が貫挿されており、ハンガー26はハブ軸20に対して回転自在である。
【0051】
また、ハンガー26の右側面に近接して軸孔を有する円筒形状のホルダー(固定子)28が同軸に配設されている。ハブ軸20の外周面とホルダー28の軸孔内周面にはキー溝が設けられ、ホルダー28の軸孔にハブ軸20が貫挿され、キー溝にキーが嵌入され、ハブ軸20にホルダー28が固定されている。
【0052】
ゼンマイバネ25の外周端は曲折しており、ハンガー26の右側面上部に突設された掛止ピン29に掛止されている。また、ゼンマイバネ25の内周端も曲折しており、ホルダー28の外周側面上部に切欠された掛止溝30に掛止されている。なお、ゼンマイバネ25はワイヤ23に予荷重をかけるために、適度に巻き締めてから両端を固定されている。
【0053】
上記の構成により、前述したとおり、ペダル15を踏み込むとワイヤ23が前方に巻き上げられ、フリーホイール22の外筒部とこれに同軸に固結されたハンガー26が正回転して、外周端がハンガー(回転子)26の右側面に固定され、内周端がホルダー(固定子)28を介してハブ軸(固定軸)20に固定され、正回転方向に巻かれているゼンマイバネ25が巻き締められる。
【0054】
この状態でペダル15を踏み込む力を緩めると、正回転方向に巻き締められたゼンマイバネ25が逆回転方向に巻き戻され、ゼンマイバネ25の外周端が固定されたハンガー26とこれに同軸に固結されたフリーホイール22の外筒部が逆回転(空転)して、ワイヤ23が後方に巻き取られ、ペダル15が踏み込み方向とは反対の上方向に付勢される。
【0055】
次に、図6は本発明の一実施形態である自転車用駆動装置1を備えた立ち乗り式三輪自転車4を右側から見た側面図であり、図7は上方から見た平面図である。
図6及び図7に示すように、本発明の一実施形態である立ち乗り式三輪自転車4は、フロントフレーム11の前方に操向用の2つの前輪40L、40Rが、車体の前後方向に延びる中心線Cに対して左右対称に配置されている。
また、リアフレーム17の間に駆動用の後輪19が、車体の前後方向に延びる中心線C上に配置されている。
【0056】
さらに、クランク軸13、クランクアーム14及びペダル15が、車体の前後方向に延びる中心線C上において、2つの前輪40L、40Rの接地点を結ぶ直線Dよりも後輪19側で、サイドフレーム10L、10R前部のフロントフレーム11近傍に配置されている。なお、立ち乗り式三輪自転車4のその他の構造は、前述した自転車用駆動装置1と同様である。
【0057】
上記の構成により本発明の立ち乗り式三輪自転車4は、ペダルの踏み込み時に大きな荷重が掛かるクランク軸13、クランクアーム14及びペダル15が、左右2つの前輪40L、40Rの接地点と1つの駆動輪19の接地点を結んだ三角形の内側(静的安定領域)の重心付近に位置している。これにより、発進走行時に体重を掛けてペダル15を強く踏み込んでも車体のバランスが損なわれることが少なく、コンパクトな本発明の自転車用駆動装置1を備えることによる低重心化とも相まって、より安定した力強い走行性能を実現することができる。
【0058】
また、1ペダルの片足踏み込み式であることから、左右どちらか一方の足のみで踏み込み操作が可能であり、乗員に常に左右両足の運動を要求する2ペダルの交互踏み込み式と比べて、乗員の精神的及び肉体的な疲労感を軽減することができる。
【0059】
なお、本発明の自転車用駆動装置1を備える自転車やその設置形態は、本実施形態によって限定されるものではなく種々の変更が可能である。
例えば、自転車用駆動装置1はサドルを設けた三輪自転車や四輪自転車等にも用いることもできる。また、人力駆動による自転車だけでなく人力をアシストする動力源を備える自転車に用いてもよい。さらに、自転車用駆動装置1を2系統平行して設置して、2ペダルの交互踏み込み式とすることもできる。
【符号の説明】
【0060】
1・・・自転車用駆動装置、10L,10R・・・サイドフレーム、11・・・フロントフレーム、12・・・ステップフロア、13・・・クランク軸、14・・・クランクアーム、15・・・ペダル、16・・・カム、16a・・・カムの巻き上げ部分、16b・・・カムの巻き上げ部分の巻き始め側、16c・・・カムの巻き上げ部分の巻き終わり側、16d・・・カムのワイヤ締結部、16e・・・カムのワイヤ溝、17・・・リアフレーム、18L,18R・・・リアフォーク、19・・・駆動輪(後輪)、20・・・駆動輪のハブ軸、21・・・駆動輪のハブ体、22・・・フリーホイール、23・・・ワイヤ、24・・・ガイドローラー、25・・・ゼンマイバネ、26・・・ハンガー、27・・・ストッパ、28・・・ホルダー、29・・・掛止ピン、30・・・掛止溝。
4・・・立ち乗り式三輪自転車、40L,40R・・・前輪、C・・・車体の前後方向に延びる中心線、D・・・2つの前輪の接地点を結ぶ直線。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7