【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るフラックス、及び、フラックスを含むはんだ組成物について説明する。
本実施形態のフラックスは環状有機リン酸化合物を含む。
本実施形態において環状有機リン酸化合物とは、環状骨格中にリンが含まれている有機リン酸化合物をいい、例えば、環状のホスファゼン化合物、ホスフィン酸化合物等が挙げられる。
【0014】
環状のホスファゼン化合物としては、例えば、シクロホスファゼン化合物が挙げられる。シクロホスファゼン化合物としては、例えば、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(Hexaphenoxycyclotriphosphazene)、及びこのオリゴマー、さらに、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼンの誘導体であるヘキサクロロシクロトリホスファゼン(Cyclic phosphonitrilic chloride trimer)、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン(Hexafluorocyclotriphosphazene)、ペンタフルオロ(フェノキシ)シクロトリホスファゼン(Pentafluoro(phenoxy)cyclotriphosphazene)等が挙げられる。
【0015】
環状のホスフィン酸化合物としては、例えば、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(9,10-dihydro-9-oxa-10-phosphaphenanthrene 10-oxide、商品名:HCA)及びこの誘導体である10-(2,5-ジヒドロキシフェ二ル)-9,10-ジヒド口-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(商品名:HCA-HQ)、9,10-ジヒドロ-10-ベンジル-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(商品名:BCA)、10-[2-(ジヒドロキシナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(商品名:HCA=NQ)、(6-oxide-6H-dibenz[c,e][1,2]oxaphosphorin-6-yl)methly butanedioic acid(商品名:M-Acid)、8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(8-benzyl-9,1O-dihydro-9-oxa-10-phosphaphenanthrene-10-oxid、商品名:Bz-HCA)等が挙げられる。
【0016】
環状有機リン酸化合物としては、ホスファゼン化合物が好ましく、中でも、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼンは、ボイド抑制効果が高く、粘度の調整及び濡れ性を向上させうるという観点から特に好ましい。
環状有機リン酸化合物としてのホスフィン酸化合物としては、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイドが、ボイド抑制効果が高く、粘度の調整及び濡れ性を向上させうるという観点から特に好ましい。
【0017】
環状有機リン酸化合物のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.5質量%以上40質量%以下、好ましくは1.0質量%以上35質量%以下等が挙げられる。
環状有機リン酸化合物のフラックスにおける含有量が前記範囲である場合には、よりボイド抑制効果が高いフラックスが得られる。
【0018】
本実施形態のフラックスは、前記環状リン酸化合物の他に、公知のフラックスの成分、例えば、樹脂成分、活性剤成分、溶剤成分、酸化防止成分、チキソトロピック成分等を含んでいてもよい。
樹脂成分としては、合成樹脂、天然樹脂など、フラックスの樹脂成分として用いられる公知の樹脂成分であれば特に限定されるものではない。例えば、重合ロジン、水添ロジン、天然ロジン、不均化ロジン、酸変性ロジン等が挙げられる。
前記樹脂は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0019】
前記樹脂成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、
1.0質量%以上95質量%以下、好ましくは20質量%以上60質量%以下等が挙げられる。
【0020】
活性剤成分としては、フラックスの活性剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、有機酸、アミンハロゲン塩等を用いることができる。有機酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ステアリン酸、安息香酸などが挙げられる。また、アミンハロゲン塩のアミンとしては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジフェニルグアニジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。対するハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンが挙げられる。
前記活性剤は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0021】
前記活性剤成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0022】
溶剤成分としては、フラックスの溶剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジブチルジグリコール)、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(2エチルヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール)などのグリコールエーテル類;n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族系化合物;酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノールなどのアルコール類等が挙げられる。
前記溶媒は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0023】
前記溶剤成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、1.0質量%以上95質量%以下、好ましくは20質量%以上60質量%以下等が挙げられる。
【0024】
酸化防止剤成分としては、フラックスの酸化防止剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。
前記酸化防止剤のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0025】
チキソトロピック成分としては、フラックスのチキソトロピック成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。
前記チキソトロピック成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0026】
本発明のはんだ付け用フラックスには、さらに、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態のはんだ組成物は、前記各フラックスとはんだ合金とを含む。
前記はんだ合金は、鉛フリー合金であってもよい。
前記はんだ合金としては、特に限定されるものではなく、鉛フリー(無鉛)のはんだ合金、有鉛のはんだ合金のいずれでもよいが、環境への影響の観点から鉛フリーのはんだ合金が好ましい。
具体的には、鉛フリーのはんだ合金としては、スズ、銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン等を含む合金等が挙げられ、より具体的には、Sn/Ag、Sn/Ag/Cu、Sn/Cu、Sn/Ag/Bi、Sn/Bi、Sn/Ag/Cu/Bi、Sn/Sb、Sn/Zn/Bi、Sn/Zn、Sn/Zn/Al、Sn/Ag/Bi/In、Sn/Ag/Cu/Bi/In/Sb、In/Ag等の合金が挙げられる。特に、Sn/Ag/Cuが好ましい。
【0028】
前記はんだ合金のはんだ組成物における含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、80質量%以上95質量%以下、好ましくは85質量%以上90質量%以下等が挙げられる。
【0029】
本実施形態のはんだ組成物は、はんだ合金と上記本実施形態のフラックスとを混合することで得られる。はんだ組成物がソルダーペーストとして製造される場合には、例えば、前記はんだ合金80質量%以上95質量%以下、前記フラックス5質量%以上20質量%以下で混合されていることが好ましい。
【0030】
本実施形態のフラックスは、環状有機リン酸化合物を含むため、はんだ組成物に配合された場合には、はんだ付け性を向上させると同時にボイドの発生を十分に抑制しうる。
【0031】
本実施形態のフラックスは、製造後に粘度が変化することが抑制されるため、保存安定性が良好である。
従来のフラックスにおいて、酸化防止剤やその他の添加剤を含む場合に、フラックスの粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる場合があった。本実施形態のフラックスは粘度の変化が抑制されているため、取り扱い性や保存性が良好である。
【0032】
本実施形態のフラックスは、はんだ組成物に配合した場合に、濡れ性の低下が抑制できる。よって、はんだ付け性を損なうことなく、ボイドの発生を抑制することができる。
【0033】
本実施形態のはんだ組成物は、前記フラックスを用いているため、はんだ付け性が良好であると同時にボイドの発生を抑制できる。
本実施形態のはんだ組成物は、通常のはんだ合金であれば制限なくはんだ合金を含むことができるが、特に、鉛フリーはんだ合金が適している。
鉛フリーはんだ合金を含む鉛フリーはんだ組成物は、はんだ溶融時にフラックスの揮発成分等によるガスが残留しやすく、その結果ボイドが発生しやすいという問題がある。本実施形態のフラックスはかかる鉛フリーはんだ組成物に用いた場合にもボイドを抑制することができる。
【0034】
本実施形態にかかるフラックス及びはんだ組成物は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0036】
(フラックスの作製)
以下に示すような材料及び配合でフラックス1〜8を作製した。
作製方法は各材料を加熱容器に投入して、180℃まで加熱し、全材料が溶解して分散したことを確認した。その後、室温にまで冷却して、均一な状態のフラックスを得た。
【0037】
<材用と配合>
フラックス1:SPB-100(hexaphenoxycyclotriphosphazene、大塚化学社製)25質量%、樹脂成分30質量%、溶剤成分33質量%、チキソトロピック成分6質量%、活性剤成分6質量%
フラックス2:HCA(9,10-dihydro-9-oxa-10-phosphaphenanthrene 10-oxid、三光社製)25質量%、樹脂成分30質量%、溶剤成分33質量%、チキソトロピック成分6質量%、活性剤成分6質量%
フラックス3:SEENOX-224M(2,2'-methylenebis-(6-tert-butyl-4-methylphenol、シプロ化成社製)25質量%、樹脂成分30質量%、溶剤成分33質量%、チキソトロピック成分6質量%、活性剤成分6質量%
フラックス4:IRGANOX 1010(Pentaerythritol Tetrakis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate、BASF社製)25質量%、樹脂成分30質量%、溶剤成分33質量%、チキソトロピック成分6質量%、活性剤成分6質量%
フラックス5:triphenyl-phosphine oxide(試薬、フナコシ社製)25質量%、樹脂成分30質量%、溶剤成分33質量%、チキソトロピック成分6質量%、活性剤成分6質量%
フラックス6:SEENOX-326M(1,3,5-trimethyl-2,4,6-tris-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxybenzyl)-benzene、シプロ化成社製)25質量%、樹脂成分30質量%、溶剤成分33質量%、チキソトロピック成分6質量%、活性剤成分6質量%
フラックス7:SPB-100(hexaphenoxycyclotriphosphazene、大塚化学社製)0.5質量%、樹脂成分40質量%、溶剤成分44質量%、チキソトロピック成分8質量%、活性剤成分7.5%
フラックス8:SPB-100(hexaphenoxycyclotriphosphazene、大塚化学社製)40質量%、樹脂成分20質量%、溶剤成分22質量%、チキソトロピック成分4質量%、活性剤成分4質量%
尚、樹脂成分としてはパインクリスタルKE-604(荒川化学工業社製)、溶剤成分としてはヘキシルジグリコール(日本乳化剤社製)、チキソトロピック成分としては脂肪酸ビスアマイド系チキソトロピック剤、活性剤成分としては有機酸系活性剤を用いた。
【0038】
(はんだ組成物の作製)
さらに、前記フラックスを用いて実施例及び比較例のはんだ組成物(はんだペースト)を作製した。
はんだ組成物は、はんだ合金粉末(Sn−3.0%Ag−0.5%Cu、粒径20〜38μm)を85質量%、前記フラックスを15質量%となる比率で混合し、各はんだ組成物を作製した。
【0039】
(試験基板)
前記実施例及び比較例のはんだ組成物を用いて、試験基板を以下のように作製した。
基板として100mm×100mm、厚み1.6mmの銅張積層板を準備した。該基板表面を耐熱プリフラックス(商品名タフエースF2、四国化成工業社製)で処理した。
前記基板にはんだ組成物をそれぞれ厚み120μm、サイズ7.1mm×5.6mm角になるように塗布した。塗布厚みは120μmであった。その後、塗布箇所に部品(パワートランジスタ、TO−252、Snメッキ処理)を搭載した。また、同基板中別箇所にはんだ組成物をそれぞれ厚み120μm、サイズ0.3mm×0.3mmの円状になるように塗布した。塗布厚みは120μmであった。
以下のような温度条件で加熱した。
<温度条件>
昇温速度:3.0℃/秒
ピーク温度:220℃以上30秒
窒素雰囲気
残留酸素濃度2000ppm以下
【0040】
(ボイド評価)
前記実施例及び比較例を用いて作製した各試験基板中、上記部品搭載箇所におけるX線透過写真を撮影した。撮影した写真を二値化処理し、接合部のボイド率を算出した。接合部中ボイドの占める面積が15%未満である場合に良、15%以上である場合に不可と評価した。評価結果を表1に示す。尚、撮影装置はマース東研社製 TUX−3100、撮影条件は、管電圧85.0V、管電流50.0μA、フィラメント電流3.130A、倍率10.9倍である。
【0041】
(粘度評価)
前記各はんだ組成物の粘度を評価した。
評価方法は作製日当日と40℃に3日間保管した後のはんだペーストの粘度を下記測定条件で測定し、粘度変化率が20%未満である場合に良、20%以上である場合に不可と評価した。結果を表1に示す。尚、測定装置はマルコム社製、PCU−205、測定条件はAモードである。また、粘度変化率は、[{(40℃で3日保管後の粘度)/(作製日当日の粘度)}−1]×100(%)で算出した。
【0042】
(濡れ性評価)
前記試験基板におけるはんだ組成物の濡れ性を評価した。
評価方法は0.3mm×0.3mmの円状に塗布したはんだペーストのはんだ溶融性を目視にて観察した。溶融したはんだ表面が平滑である場合に良、溶融したはんだ表面が平滑でなくはんだ粒子等が残存している場合に不可と評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例の試験基板では比較例に比べてボイドは極めて少なかった。
また、実施例で使用したフラックスは比較例で使用したフラックスに比べて粘度の評価が良好であった。さらに、実施例で使用したはんだ組成物は濡れ性の低下が抑制できていた。