【解決手段】被着体に静電吸着可能な保護シート11と、前記保護シート11に静電吸着した基材41とを備え、前記保護シート11が、前記基材41と接する側の面11bに設けられ且つ少なくとも1種以上のポリオレフィン樹脂を含有する吸着層31と、前記基材41と接する側の面11bと反対の面11a側に設けられたコート層21とを有し、前記少なくとも1種以上のポリオレフィン樹脂の融点が200℃以上である。
前記吸着層が、前記融点が200℃以上のポリオレフィン(共)重合体50〜100質量%と、前記融点が200℃以上のポリオレフィン樹脂以外のポリオレフィン(共)重合体50〜0質量%とを含有する、
請求項1又は2に記載の静電吸着シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態を説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。また、以降においては特に断らない限り、上下左右等の位置関係は、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[静電吸着シート]
図1に示すように、本実施形態の静電吸着シート1は、保護シート11と基材41とを備え、保護シート11と基材41とが静電吸着により積層している。保護シート11は、基材41と接する側の面11bに設けられる吸着層31と、基材41と接する側の面11bと反対の面11a側に設けられるコート層21とを有する。すなわち、静電吸着シート1は、コート層21、吸着層31及び基材41をこの順に備えている。そして、この静電吸着シート1は、使用時に基材41を剥離シートとして除去して、保護シート11における吸着層31側の面31aを露出させ、その露出面(面31a)を被着体に静電吸着させることにより、被着体を保護する。以下、静電吸着シート1を構成する各部材について詳細に説明する。
【0015】
<吸着層>
吸着層31は、保護シート11を構成するものであって、電荷を保持し、その静電電荷によって保護シート11の静電吸着を可能とするものである。
【0016】
(特定ポリオレフィン樹脂)
吸着層31は、融点が200℃以上のポリオレフィン樹脂(以下、「特定ポリオレフィン樹脂」とも称する。)を少なくとも含有する。この特定ポリオレフィン樹脂は、耐熱性、絶縁性、加工性等に優れるため、高温環境下における寸法変化が小さく、また、高温環境下で被着体へ静電吸着させても吸着性能を維持することができる。また、ポリオレフィン樹脂は絶縁性があり内部に電荷を保持できることから、保護シート11の被着体への静電吸着を可能とする。
【0017】
特定ポリオレフィン樹脂の融点は、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上である。また、特定ポリオレフィン樹脂の融点の上限は特に限定されないが、通常300℃以下、好ましくは250℃以下である。特定ポリオレフィン樹脂の融点が上記の範囲内であることにより、吸着層31は高温環境下においても寸法変化が小さくなる。よって、高温環境下における保護シート11の変形量が少なくタワミが発生し難くなり、保護シート11の吸着性能を維持することができる。また、被着体が高温になっても電荷の放出が少ないことも、吸着性能を維持に寄与すると推測される。なお、本明細書において融点とは、JIS K7121:2012に準拠して測定する融解温度を意味する。
【0018】
特定ポリオレフィン樹脂としては、エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィンの(共)重合体であって、融点が200℃以上のものを使用することができる。炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ここで、(共)重合体とは、上記モノマーの単独重合体、共重合体の双方を含む概念であり、特定ポリオレフィン樹脂は、これらオレフィン以外の、他の共重合成分(以下、単に「他のモノマー成分」とも称する。)をさらに含有していてもよい。他のモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類(或いは共重合後にこれらカルボン酸ビニルエステル類を鹸化して得られるビニルアルコール);アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メタロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類が挙げられるが、これらに特に限定されない。他のモノマー成分は、必要に応じ1種類若しくは2種類以上を適宜選択して用いることができる。
【0019】
中でも、耐熱性の観点から、特定ポリオレフィン樹脂は、共重合体成分として炭素数5〜8のα−オレフィンを含むポリオレフィン(共)重合体を含むことが好ましい。炭素数5〜8のα−オレフィンとしては、例えば、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4ジメチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、4−エチル−1−ヘキセン等が挙げられる。すなわち、上記モノマーの単独重合体として、ポリ(3−メチル−1−ブテン)、ポリ(3−メチル−1−ペンテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリ4,4(ジメチル−1−ペンテン)、ポリ(3−エチル−1−ペンテン)、ポリ(3−メチル−1−ヘキセン)、ポリ(4−メチル−1−ヘキセン)、ポリ(4−エチル−1ヘキセン)等の単独重合体であって融点が200℃以上のポリオレフィン樹脂を使用することができる。また、上記モノマーの共重合体として、2種以上の上記モノマーを共重合させたもの、又は1種若しくは2種以上の上記モノマーと、これとは別のモノマーとを共重合させたものであって、融点が200℃以上のポリオレフィン樹脂を使用することができる。このような共重合体としては、炭素数5〜8のα−オレフィンと他のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらの共重合体は、2元系でも3元系以上でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。これらポリオレフィン樹脂の中でも、モノマーの製造が比較的容易なことから、4−メチル−1−ペンテンの(共)重合体、すなわち、4−メチル−1−ペンテンの単独重合体であるポリ(4−メチル−1−ペンテン)、4−メチル−1−ペンテンと他のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。
【0020】
特定ポリオレフィン樹脂を構成する上記の各モノマー成分の含有量は、融点が200℃以上となる範囲で変更可能であり、特に限定されない。例えば、炭素数5〜8のα−オレフィンと他のα−オレフィンとの共重合体において、各モノマー成分の含有量は、モル基準で、(炭素数5〜8のα−オレフィンの含有量)/(他のα−オレフィンの含有量)が、80/20〜100/0の範囲が好ましく、90/20〜100/0の範囲がより好ましく、95/5〜100/0の範囲がさらに好ましい。
【0021】
吸着層31に含有される特定ポリオレフィン樹脂として、官能基が導入された、官能基含有ポリオレフィン樹脂も用いることができる。
【0022】
官能基含有ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、前記オレフィン類と共重合可能な官能基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。かかる官能基含有モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類(或いは共重合後にこれらカルボン酸ビニルエステル類を鹸化して得られるビニルアルコール);アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メタロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類が挙げられる。これら官能基含有モノマーの中から必要に応じ1種類若しくは2種類以上を適宜選択し共重合したものを用いることができる。
【0023】
また、特定ポリオレフィン樹脂は、必要に応じて、そのグラフト変性物を使用することも可能である。
樹脂のグラフト変性には公知の手法を用いることができる。具体的には、不飽和カルボン酸又はその誘導体によるグラフト変性を挙げることができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等を挙げることができる。また上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等を挙げることができる。
【0024】
不飽和カルボン酸の具体的な例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N‐ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等を挙げることができる。
【0025】
グラフト変性物は、グラフトモノマーを各種ポリオレフィン樹脂に対して、通常0.005〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%用いてグラフト変性したものを使用しうる。
【0026】
(任意ポリオレフィン樹脂)
吸着層31には、上述した特定ポリオレフィン樹脂以外の、他のポリオレフィン樹脂(以下、単に「任意ポリオレフィン樹脂」とも称する。)を含有していてもよい。任意ポリオレフィン樹脂は、エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィンの(共)重合体であって、融点が200℃未満のものを意味する。任意ポリオレフィン樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレンや低密度ポリエチレン等のエチレン単独重合体の一部、プロピレン単独重合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。任意ポリオレフィン樹脂は、1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を選択して組み合わせて使用してもよい。
【0027】
特定ポリオレフィン樹脂と任意ポリオレフィン樹脂とを併用する場合、これらの含有量は特に限定されないが、特定ポリオレフィン樹脂の含有量は、ポリオレフィン樹脂の総量に対して、50〜100質量部であることが好ましく、60〜100質量部であることがより好ましく、70〜100質量部であることがさらに好ましい。また、任意ポリオレフィン樹脂の含有量は、特定ポリオレフィン樹脂の総量に対して、50〜0質量部であることが好ましく、40〜0質量部であることがより好ましく、30〜0質量部であることがさらに好ましい。特定ポリオレフィン樹脂の含有量が上記範囲内にあることにより、吸着層31の高温への耐性が発揮され、高温環境下においても寸法変化が小さく、保護シート11の吸着性能を維持することができる。
【0028】
また、吸着層31は、上記の特定ポリオレフィン樹脂及び任意ポリオレフィン樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。この他の樹脂としては、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、又はポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等の熱可塑性樹脂が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0029】
吸着層31が他の樹脂を含有する場合、特に限定されないが、他の樹脂の含有量は、上記のポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.1〜20質量部であることがより好ましく、0.1〜10質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
(無機微細粉末及び有機フィラー)
吸着層31は、無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方を含むものであってもよい。無機微細粉末又は有機フィラーを含むことにより、吸着層31が乳白色の半透明となり、保護シート11の存在が視認しやすくなることで、取扱性を向上させることができる。また、無機微細粉末又は有機フィラーを含むことにより、吸着層31の誘電率を調整することができるとともに、保護シート11の機械的強度を向上させることができる。また、無機微細粉末又は有機フィラーを含むことにより、吸着層31の表面に起伏を形成し、吸着層31又は保護シート11の製造の際に、シート同士を貼り付き難くすることができる。
【0031】
無機微細粉末としては、例えば、炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、けいそう土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバー等が挙げられるが、これらに特に限定されない。無機微細粉末を添加する場合には、平均粒子径が、通常は0.01〜15μm、好ましくは0.1〜5μmのものを使用する。なお、本明細書において平均粒子径とは、レーザー回折法による粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準のメジアン径(D
50)をいう。
【0032】
有機フィラーを添加する場合には、吸着層31に含有される特定ポリオレフィン樹脂とは異なる種類の樹脂を選択することが好ましい。本実施形態の吸着層31では、少なくとも1種以上の特定ポリオレフィン樹脂を含有することから、有機フィラーとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン−6、ナイロン−6,6、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリレート等の重合体であって、特定ポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば200〜300℃)を有し、特定ポリオレフィン樹脂との溶融混練により相中への微分散が可能であり、かつ非相溶のものを使用することができる。
【0033】
無機微細粉末及び有機フィラーの吸着層31中への含有量は、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、吸着層31の総量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがより好ましく、0〜10質量%であることがさらに好ましい。無機微細粉末及び有機フィラーの吸着層31中への含有量が上記範囲の上限値以下であることにより、保護シート11の機械的強度を向上させるとともに、帯電した電荷を逃げ難くして内部に保持することができる傾向にある。
【0034】
吸着層31には、必要に応じて、熱安定剤(酸化防止剤)、光安定剤、分散剤、滑剤、核剤等の添加剤を添加することができる。熱安定剤を添加する場合は、通常、吸着層31の総量に対して、0.001〜1質量%の範囲内で使用する。熱安定剤としては、例えば、立体障害フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及びイオウ系酸化防止剤等の安定剤を使用することができる。光安定剤を添加する場合は、通常、吸着層31の総量に対して、0.001〜1質量%の範囲内で使用する。光安定剤としては、例えば、立体障害アミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系光安定剤、及びベンゾフェノン系光安定剤等の光安定剤を使用することができる。分散剤や滑剤は、例えば無機微細粉末を分散させる目的で使用する。分散剤や滑剤を添加する場合は、吸着層31の総量に対して、0.01〜4質量%の範囲内で使用する。分散剤としては、例えば、シランカップリング剤、オレイン酸やステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸ないしはそれらの塩等を使用することができる。
【0035】
(表面抵抗率)
保護シート11における吸着層31は、静電吸着能力を具備させるために、帯電処理を施し易く、且つ帯電処理による電荷を内部に保持し易い構造であることが好ましい。吸着層31における帯電処理の施し易さ及び電荷の保持性能は、表面抵抗率で示すことができる。なお、本明細書において表面抵抗率とは、表面抵抗率が1×10
7Ω以上の場合は、JIS K 6911に準拠し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で、2重リング法の電極を用いて測定した値を意味する。表面抵抗率が1×10
7Ω未満の場合は、JIS K 7194に準拠し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で、4端針により測定した値を意味する。
【0036】
吸着層31における基材41と接する側の面11bの表面抵抗率は、1×10
13〜9×10
17Ωの範囲であることが好ましく、5×10
13〜9×10
16Ωの範囲であることがより好ましく、1×10
14〜9×10
15Ωの範囲であることがさらに好ましい。面11bの表面抵抗率が上記範囲の下限値以上であることにより、帯電処理を施す際に与えた電荷が表面を伝って逃げ難くなり、帯電処理が施し易い傾向がある。また、吸着層31に一旦与えた電荷が、吸着層31の表面を伝って外部(大気中等)に逃げ難く、吸着層31が長期間電荷を保持できることで、保護シート11の静電吸着力を維持し易くなる傾向がある。面11bの表面抵抗率が上記範囲の上限値を上回るものであっても性能上は問題がないが、上記範囲の上限値以下であることが製造コストの面からは好ましい。このような表面抵抗率を有する保護シート11は、これを構成する樹脂の選定、及び保護シート11への表面処理の有無等により達成できる。
【0037】
(厚み)
吸着層31の厚みは、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、20〜220μmの範囲であることが好ましく。35〜200μmの範囲であることがより好ましく、55〜180μmの範囲であることがさらに好ましく、90〜160μmの範囲であることが特に好ましい。吸着層31の厚みが上記範囲の下限値以上であることにより、充分な機械的強度が得られるとともに、保護シート11を被着体に貼り付ける際にシワが入り難く、上手く貼着できて外観が優れたものとなる。また、吸着層31の厚みが上記範囲の上限値以下であることにより、静電電荷をチャージでき、且つ保護シート11の自重が抑えられて、静電吸着力により自重を保持して被着体からの落下を防止することができる。
【0038】
(坪量)
吸着層31は、特に限定されないが、その坪量が5〜200g/m
2の範囲であることが好ましい。吸着層31の坪量は、7〜150g/m
2の範囲であることがより好ましく、10〜100g/m
2の範囲であることがさらに好ましい。吸着層31の坪量は、吸着層31内部に保持可能な静電電荷の容量と比例関係にある。そのため、吸着層31の坪量が上記範囲の下限値以上であることにより、保護シート11の静電容量が増加して、保護シート11の被着体への接着を維持し易くなる。また、吸着層31の坪量が上記範囲の上限値以下であることにより、吸着層31を含む保護シート11の燃焼熱量(例えば、コーンカロリーメーターによる総発熱量に代表される)を抑えることができる。
【0039】
(表面粗さ)
吸着層31の基材41と接する側の面11bの表面粗さは、特に限定されないが、0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがより好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましい。面11bの表面粗さが上記範囲内にあることにより、吸着層31と被着体とが接する面のより高い平滑性が得られる。これによって、保護シート11が被着体に密着することで静電吸着力が十分に発揮され、吸着性能が向上する。なお、本明細書において表面粗さとは、触針式の三次元表面粗さ計を用いて測定する、表面の中心面平均粗さ(SRa)を意味する。中心面平均粗さ(SRa)の測定には、測定精度が0.01μm以下の装置を用いることが好ましい。
【0040】
(吸着層の成形)
吸着層31の成形方法は、特に限定されない。例えば、スクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイやIダイを使用して溶融したポリオレフィン樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等の各種公知の成形方法により、吸着層31を成形することができる。さらに、得られた吸着層31に対して、延伸を行ってもよい。また、吸着層31に放電表面処理を施してもよい。
【0041】
(多層化)
吸着層31は、単層構造であってもよく、2層構造、3層以上の多層構造のものであってもよい。吸着層31は多層化によって、耐電圧性能の向上や、2次加工適性の向上等の様々な機能の付加が可能となる。吸着層31を多層構造にする場合には、公知の種々の方法が使用できるが、具体例としては、種々の接着剤を使用したドライラミネート方式、ウェットラミネート方式、及び溶融ラミネート方式や、フィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス方式(共押出方式)や、複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式や、種々のコーターを使用した塗工方法等が挙げられる。また、多層ダイスと押出しラミネーションを組み合わせて使用することも可能である。
【0042】
吸着層31が多層構造である場合、少なくとも一層が、特定ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、全ての層が、特定ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましい。また、吸着層31が多層構造である場合、多層構造からなる吸着層31全体として、上述したポリオレフィン樹脂の総量に対する、特定ポリオレフィン樹脂の含有量と、任意ポリオレフィン樹脂の含有量とを充足することが好ましい。
【0043】
<コート層>
コート層21は、保護シート11を構成するものであって、吸着層31の片面に帯電防止性能を付与する目的から設けられている
【0044】
コート層21はその組成として、帯電防止剤0.1〜100質量%と、高分子バインダー0〜99.9質量%と、顔料粒子0〜70質量%とを含むことが好ましい。コート層21は、これら成分を含む塗工剤として、吸着層31上に直接塗工により設けるか、或いは予め別のフィルム上に塗工してコート層21を形成しておき、これを吸着層31にラミネートすることで設けることができる。
【0045】
帯電防止剤は、コート層21に帯電防止性能を付与するためのものである。具体的には、ステアリン酸モノグリセリド、アルキルジエタノールアミン、ソルビタンモノラウレート、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩等に代表される低分子量有機化合物系の帯電防止剤;ITO(インジウムドープド酸化錫)、ATO(アンチモンドープド酸化錫)、グラファイトウィスカ等に代表される導電性無機充填剤;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の分子鎖内のパイ電子により導電性を発揮するいわゆる電子導電性ポリマー;ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジアミン等の非イオン性ポリマー系の帯電防止剤;ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物等の第四級アンモニウム塩型共重合体;アルキレンオキシド基及び/又は水酸基含有ポリマーへのアルカリ金属イオン添加物等のアルカリ金属塩含有ポリマーに代表される帯電防止機能を有するポリマー等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0046】
これらの帯電防止剤はそれぞれに特性がある。例えば、低分子量有機化合物系の帯電防止剤は、環境湿度に帯電防止性能が大きく影響され易い。一方、第四級アンモニウム塩型共重合体やアルカリ金属塩含有ポリマーは、帯電防止性能が良好であり、環境湿度の帯電防止性能への影響が小さいため、好ましい。
【0047】
高分子バインダーは、その結着力若しくは凝集力によって、コート層21とこれを設ける吸着層31との間に良好な密着性を持たせるためのものである。高分子バインダーの具体例としては、ポリエチレンイミン、炭素数1〜12のアルキル変性ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン−尿素)、ポリ(エチレンイミン−尿素)のエチレンイミン付加物、ポリアミンポリアミド、ポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、及びポリアミンポリアミドのエピクロルヒドリン付加物等のポリエチレンイミン系重合体;アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリルアミドの誘導体、及びオキサゾリン基含有アクリル酸エステル系重合体等のアクリル酸エステル系重合体;ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等、加えて、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体樹脂、塩素化エチレン樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、ニトロセルロース樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0048】
これらの高分子バインダーは、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。これらの高分子バインダーは、有機溶剤又は水に希釈又は分散した態様で用いることができる。中でも、ポリエチレンイミン系重合体、ポリエーテルウレタン、ポリエステルポリウレタン、アクリルウレタン等のウレタン樹脂、若しくはアクリル酸エステル共重合体が、前述の帯電防止機能を有するポリマーとの相性(相溶性)がよく、混溶して塗料とした際に安定しており、塗工し易く好ましい。
【0049】
コート層21は、顔料粒子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。コート層21への顔料粒子の添加により形成されるコート層21表面の凹凸付与によるブロッキング防止等の性能向上、紫外線反射材として耐光性や耐候性等の性能付与を図ることができる。顔料粒子はこれら求める性能を考慮し適宜選択して使用するものであり、必要に応じて添加される。
【0050】
顔料粒子としては、公知の有機ないし無機の微細粒子が使用できる。具体的な例としては、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、焼成クレイ、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、珪藻土、アクリル粒子、スチレン粒子、ポリエチレン粒子、ポリプロピレン粒子等を使用することができる。顔料粒子の粒子径は、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。また、顔料粒子の粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。顔料分子の粒子径が上記の上限値以下であることにより、形成したコート層21からの顔料粒子の脱落、及びこれに伴う粉吹き減少を抑制することができる。また、顔料分子の粒子径が上記の下限値以上であることにより、コート層21表面に起伏を形成し、静電吸着シート1を重ねて保管した際のブロッキングを防止する傾向にある。コート層21中の顔料粒子含有量は、好ましくは0〜70質量%であり、より好ましくは0〜60質量%であり、さらに好ましくは0〜50質量%である。顔料粒子の含有量が上記範囲以下であることにより、バインダー樹脂量が十分となることで、コート層21の凝集力を向上させて、吸着層31への接着力や、保護シート11の層間強度を改善することができる。
【0051】
コート層21は、上記成分を含む塗工液を調製し、吸着層31上に塗工し、これを乾燥、固化させて塗工層として設けることが可能である。塗工には、従来公知の手法や装置を利用することができる。
【0052】
また、コート層21は、吸着層31上にラミネートにより設けることも可能である。この場合はあらかじめコート層21を設けた別のフィルムを作成し、吸着層31上にこれをラミネート加工すればよい。ラミネート加工は、通常のドライラミネート、又は溶融ラミネート等の手法により行うことができる。
【0053】
吸着層31へのコート層21の設置は、後述する帯電処理を実施する前に行うことが好ましい。コート層21の持つ帯電防止性能により、帯電処理後であっても静電吸着シート1の外部への静電吸着力を抑止することが可能となる。
【0054】
(表面抵抗率)
コート層21によって、吸着層31の片面に帯電防止性能が付与される。コート層21の表面抵抗率は、1×10
-1〜9×10
12Ωの範囲であることが好ましく、1×10
3〜9v×10
11Ωの範囲であることがより好ましく、1×10
6〜9×10
10Ωの範囲であることさらに好ましい。コート層21の表面抵抗率が上記範囲の上限値以下であることにより、十分な帯電防止性能が付与されて、保護シート11や静電吸着シート1が持つ静電吸着力を充分に抑止することができ、保護シート11の貼合加工の際にロールへの貼り付きやシート同士の貼り付き等のトラブルを抑えることができ、また静電吸着シート1同士の貼り付きを抑えることができる。また、表面抵抗率が上記範囲の下限を下回るものであっても性能上は問題がないが、上記範囲の下限値以上であることが製造コストの面からは好ましく、保護シート11の静電吸着力を保持できる点からも好ましい。
【0055】
(厚み)
コート層21の厚みは、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、0.001〜50μmの範囲であることが好ましく。0.1〜20μmの範囲であることがより好ましく、1〜10μmの範囲であることがさらに好ましい。コート層21の厚みが上記範囲の下限値以上であることにより、コート層21の均一性を維持することができ、帯電防止性能を安定して発揮させることができる。また、コート層21の厚みが上記範囲の上限値以下であることにより、保護シート11の自重が抑えられて、静電吸着力により自重を保持して被着体からの落下を防止することができる。
【0056】
(坪量)
コート層21の坪量(塗工量)は、固形分換算で、0.01〜50g/m
2であることが好ましく、0.05〜30g/m
2であることがより好ましく、0.1〜10g/m
2であることがさらに好ましく、0.3〜8g/m
2であることが特に好ましい。コート層21の坪量が上記範囲の下限値以上であることにより、コート層21の均一性を維持することができ、帯電防止性能を安定して発揮させることができる。また、コート層21の坪量が上記範囲の上限値以下であることにより、吸着層31に設けた際に吸着層31の静電吸着力が損なわれることを防止でき、また吸着層31の自重が抑えられて、静電吸着力により自重を支えて被着体から剥れ落ちることを防止でき、また吸着層31と基材41との間の静電吸着力の低下を抑えることができる。
【0057】
<保護シート>
図1に示すように、保護シート11は、上面側にコート層21が、下面側に吸着層31がそれぞれ配置された構成を有する。このため、保護シート11における面31aの表面抵抗率及び表面粗さは、上述した吸着層31の面11bの表面抵抗率及び表面粗さと同様の範囲となる。これにより、上述した好ましい表面抵抗率となる面31aを有する保護シート11は、吸着層31側の面31aに静電吸着能力を有している。よって、保護シート11は、使用時には基材41から剥離されて、面31aの静電吸着能力により、被着体に貼り付けすることができる。
【0058】
(厚み)
保護シート11の厚みは、コート層21及び吸着層31の厚みに応じて適宜設定され、特に限定されないが、20〜250μmであることが好ましく、35〜220μmであることがより好ましく、60〜200μmであることがさらに好ましく、90〜170μmであることが特に好ましい。保護シート11の厚みが上記範囲の下限値以上であることにより、保護シート11を被着体に貼り付ける際にシワが入り難くなり、上手く貼着できて外観が優れたものとなる。また、吸着層31の厚みが上記範囲の上限値以下であることにより、保護シート11の自重が抑えられて、静電吸着力により自重を保持して被着体からの落下を防止することができる。
【0059】
<基材>
本実施形態の静電吸着シート1を構成する基材41は、保護シート11の静電吸着力又は自身の静電吸着力により保護シート11の片面に積層されている。基材41は、保護シート11の使用時には感圧粘着ラベルの剥離紙の如く除去される。
【0060】
基材41は、保護シート11を使用するまでの間、保護シート11に蓄えられた電荷が外部に流出するのを封じ込めるものであり、且つ保護シート11内部の静電吸着力を内部に留めて保護シート11を取扱い易くするものである。
【0061】
基材41は、樹脂フィルム層からなり、この樹脂フィルム層は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、誘電体であり、絶縁性があって内部に電荷を保持できる樹脂を含むことがより好ましい。基材41の吸着層31と接する側の面41aは、吸着層31又は自身の静電吸着力によって、吸着層31に接着される。
【0062】
基材41は、単層構造でもよく、2層以上からなる多層構造でもよい。基材41は、面41aが、吸着層31と接触して静電吸着可能であり、且つ面41aと反対の面41bが帯電防止性能を持つように構成することが好ましいことから、多層構造とすることが好ましい。
【0063】
(熱可塑性樹脂)
基材41に用い得る熱可塑性樹脂は、その種類は特に制限されず、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、プロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを含む熱可塑性ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等が挙げられる。
【0064】
中でも加工性に優れるポリオレフィン系樹脂、官能基含有ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂等を用いることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂を用いることがより好ましい。
【0065】
(比誘電率)
基材41は、保護シート11における吸着層31の電荷が外部に逃げないように封じ込める役割を担っている。この電荷を封じ込める能力は、基材41の比誘電率(基材41の誘電率εと真空の誘電率ε
0の比(ε/ε
0))で示すことができる。基材41における比誘電率は、好ましくは1.1〜5.0、より好ましくは1.2〜4.0、さらに好ましくは1.5〜3.0の範囲である。基材41の比誘電率が上記範囲の上限値以下であることにより、吸着層31が電荷を長期間保持でき、保護シート11の静電吸着力を維持し易くなる傾向がある。また、基材41の比誘電率が上記範囲の下限を下回るものは、性能上は問題ないが、空気(真空)の比誘電率よりも低くなるため、このような素材は現在の技術上、入手が困難である。このような比誘電率は、基材41が上述の樹脂から構成されることや、内部に空隙を形成する加工等により、所望の範囲を達成することができる。
【0066】
比誘電率の測定は、測定周波数範囲に適した測定法が選定される。測定周波数が10Hz以下の場合には超低周波ブリッジを用い、10Hz〜3MHzの場合には変成器ブリッジを用い、1MHzを越える場合には、並列T型ブリッジ、高周波シェリングブリッジ、Qメーター、共振法、定在波法、空洞共振法を用いることが好ましい。また、測定周波数の交流信号に対して、回路部品に対する電圧・電流ベクトルを測定し、この値から静電容量を算出するLCRメーター等でも測定できる。
【0067】
基材41の比誘電率を測定する測定装置としては、平行に配設した平板状印可電極と平板状ガード電極との間に試料を一定圧力で挟み込み、5V程度の電圧が印加でき、測定周波数が任意に選定できる測定装置が好ましい。このような測定機によれば、周波数を変更することにより、試料の周波数依存性が把握でき、適性使用範囲の指標にできる。試料は、できるだけ厚みが均一で表面が平滑なものが好ましい。表面状態が悪いと、試料と電極との間に空隙(空気層)が形成され、測定値に大きな誤差を与える。この場合、試料と電極との電気的接触を完全にするために、銀ペースト等の銀導電性塗料を塗工するか真空蒸着することが好ましい。
【0068】
(表面抵抗率)
基材41における吸着層31と接する側の面41aは、電荷の移動を少なくする観点から、吸着層31と同様にその表面抵抗率が高いほど好ましい。具体的には面41aの表面抵抗率は1×10
13〜9×10
17Ωの範囲であることが好ましく、5×10
13〜9×10
16Ωの範囲であることがより好ましく、1×10
14〜9×10
15Ωの範囲であることがさらに好ましい。面41aの表面抵抗率が上記範囲の下限値以上であることにより、基材41と吸着層31とが接触した際に、吸着層31の電荷が基材41を伝って外部に逃げ難く、吸着層31が長期間電荷を保持できることで、保護シート11の静電吸着力を維持し易くなる傾向がある。また、面41aの表面抵抗率が上記範囲の上限値を上回るものであっても性能上は問題がないが、上記範囲の上限値以下であることが製造コストの面からは好ましい。
【0069】
一方、静電吸着シート1とした際のハンドリング性を高める目的から、基材41は、面41aと反対の面41bに帯電防止性能を有することが好ましい。これにより、基材41と保護シート11と組み合わせた静電吸着シート1の最表面1bに帯電防止性能を持つようになる。
【0070】
基材41への帯電防止性能の付与は、基材41に、帯電防止剤を練り込んだ樹脂フィルムを用いる方法や、面41bに、直接蒸着、転写蒸着、蒸着フィルムのラミネート等によりアルミニウム等の金属薄膜を設ける方法や、帯電防止処理した又は帯電防止性能を有する紙、合成紙、樹脂フィルム、織布、若しくは不織布や、帯電防止剤を練り込んだ樹脂フィルムを貼合積層して多層構造とする方法、等が挙げられる。
【0071】
帯電防止剤を練り込んだ樹脂フィルムを用いる様態においては、同フィルム面にコロナ放電表面処理やフレーム表面処理を行わないと帯電防止効果が発現しない場合があり、特に延伸フィルムでは表面処理の処理面と未処理面とでは帯電防止効果が大きく異なる場合がある。この現象を利用して、帯電防止剤を練り込んだ熱可塑性樹脂を延伸したものを基材41とし、この片面にコロナ放電等の表面処理を行うことで、単層構造ながら片面に帯電防止性能を有する基材41を形成することも可能である。
【0072】
上記の種々の方法により、基材41の面41bの表面抵抗率は、1×10
-1〜9×10
12Ωの範囲内とすることが好ましく、1×10
0〜9×10
12Ωの範囲とすることがより好ましい。面41bの表面抵抗率が上記範囲の上限値以下であることにより、充分な帯電防止性能が付与されて、静電吸着シート1の周囲への貼り付きやシート同士の貼り付きが抑えられて、ハンドリング性が向上する。また、面41bの表面抵抗率が上記範囲の下限を下回るものであっても性能上は問題がないが、上記範囲の下限値以上であることが製造コストの面からは好ましい。
【0073】
(厚み)
基材41の厚みは、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、1〜200μmの範囲であることが好ましく。10〜150μmの範囲であることがより好ましく、60〜110μmの範囲であることがさらに好ましい。基材41の厚みが上記範囲の下限値以上であることにより、基材41と保護シート11とを接着した際に、面41aから基材41の厚みを介して電荷が流出することを防ぎ、静電吸着シート1内の電荷を封じこめて、保護シート11の静電吸着力を維持することができる。また、基材41の厚みが上記範囲の上限値以下であることにより、静電吸着シート1の厚みが抑えられて、印刷工程や断裁工程での作業性を向上させることができる。
【0074】
(坪量)
基材41は、その坪量が20〜500g/m
2の範囲であることが好ましい。基材41の坪量は、30〜400g/m
2の範囲であることがより好ましく、40〜300g/m
2の範囲であることがさらに好ましい。基材41は、吸着層31が内部に保持する電荷と同等の電荷を保持することが望ましいところ、基材41の坪量が上記範囲の下限値以上であることにより、基材41の静電容量が増加して、電荷を保持し易くなる。これによって、保護シート11と基材41とが静電吸着した際に、吸着層31が保持する電荷を保つことが可能となり、保護シート11の被着体への接着を維持し易くなる。また、基材41の坪量が上記範囲の上限値以下であることにより、静電吸着シート1の重量が抑えられて、取扱性が向上する。
【0075】
<帯電処理>
本実施形態の静電吸着シート1は、保護シート11の面31a、及び基材41の面41aの少なくとも一方に帯電処理を施し、次いで両者を静電吸着力によって貼合して得た、保護シート11/基材41の積層体を備えるものである。帯電処理は、吸着層31や基材41の内部に電荷を注入することで、これに静電吸着力を持たせるために実施する。
【0076】
帯電処理は、公知の種々の方法に従って行なうことができる。処理方法としては、例えば、フィルムを成形した後、フィルムの表面にコロナ放電やパルス状高電圧を加える方法(エレクトロエレクトレット化法)や、同フィルムの両面を誘電体で保持し、両面に直流高電圧を加える方法(エレクトロエレクトレット化法)や、同フィルムにγ線や電子線等の電離放射線を照射してエレクトレット化する方法(ラジオエレクトレット化法)等が挙げられる。
【0077】
保護シート11又は基材41への帯電処理は、コロナ放電や高電圧を加えるエレクトロエレクトレット化法により行うことが好ましい。エレクトロエレクトレット化法の好ましい例としては、直流高圧電源に繋がった印加電極とアース電極の間に、フィルムを固定して電圧をかける方法(バッチ式)や、フィルムを通過させて電圧をかける方法(連続式)が挙げられる。本手法を用いる場合には、主電極(印加電極)に針状のものを等間隔で多数配置したものや、金属ワイヤーを使用し、対電極(アース電極)に平坦な金属板や金属ロールを使用することが望ましい。
【0078】
本実施形態において帯電処理は、直流式コロナ放電処理であることが好ましい。直流式コロナ放電処理は、針状やワイヤー状の主電極(印加電極)と平板状やロール状の対電極(アース電極)を直流高圧電源に繋げた装置を用いる。直流式コロナ放電処理では、対電極上に保護シート11又は基材41を設置し、主電極と対電極の間に直流高電圧をかけることで発生するコロナ放電により、保護シート11又は基材41に電荷を注入する。
【0079】
このとき、主電極と対電極の間隔は1〜50mmが好ましく、2〜30mmがより好ましく、5〜20mmがさらに好ましい。主電極と対電極の間隔が上記の範囲内であることにより、コロナ放電を安定して発生させるとともに、電極間距離を均一に保って、幅方向に均一な帯電処理を行い、均一な帯電処理を施すことができる。
場合がある。
【0080】
両極間に印加する電圧は、保護シート11及び基材41の電気特性、主電極と対電極の形状や材質、主電極と対電極の間隔により決定されるものであるが、具体的には1〜100kVが好ましく、3〜70kVがより好ましく、5〜50kVがさらに好ましく、10〜40kVが特に好ましく、16〜30kVが最も好ましい。主電極の極性はプラスでもマイナスでも良いが、主電極側をマイナス極性にした方が比較的安定したコロナ放電状態となるため好ましい。
主電極と対電極の材質は、導電性の物質から適宜選択されるが、鉄、ステンレス、銅、真鍮、タングステン等の金属製又はカーボン製のものが好ましい。
【0081】
これらの帯電処理によって保護シート11又は基材41に導入される電荷の量は、処理時に主電極と対電極間に流れた電流量に依存する。この電流量は両電極間の電圧が高いほど多くなることから、印加電圧は保護シート11又は基材41が絶縁破壊しない程度に高くに設定することが好ましい。
【0082】
本実施形態の静電吸着シート1を構成する保護シート11及び/又は基材41は、帯電処理後に除電処理を行うことも可能である。除電処理を行なうことにより過剰な帯電を除去して断裁工程、印刷工程等の加工工程でのトラブルを回避することが可能となる。このような除電処理には、電圧印加式除電器(イオナイザ)や自己放電式除電器等公知の手法を用いることができる。これら一般的な除電器は、表面の電荷の除去はできるが、吸着層31又は基材41の内部に蓄積した電荷までは除去できない。したがって除電処理により、吸着層31又は基材41の静電吸着力が大きく損なわれることはない。
【0083】
<静電吸着シート>
静電吸着シート1は、吸着層31に帯電処理を施した保護シート11と、基材41とを接触させることによって得られる。この場合、吸着層31の内部に蓄積した電荷により、これに接する基材41が誘電、すなわち静電分極し、両者は静電吸着力により接着する。又は、静電吸着シート1は、帯電処理を施した基材41と、保護シート11の吸着層31とを接触させて静電吸着させることによって得られる。この場合、基材41の内部に蓄積された電荷により、これに接触する吸着層31を誘電することで、両者は静電吸着力により接着する。なお、どちらの手法で製造しても、同等の性能の静電吸着シート1を得ることができる。
【0084】
図1に示すように、静電吸着シート1は、その上面にコート層21が設けられており、その下面に基材41が設けられている。このため、静電吸着シート1におけるコート層21側の最表面1aの表面抵抗率は、上述したコート層21の表面抵抗率と同様の範囲となる。また、静電吸着シート1における基材41側の最表面1bの表面抵抗率は、上述した基材41の面41bの表面抵抗率と同様の範囲となる。これにより、上述した好ましい表面抵抗率となる最表面1a,1bを有する静電吸着シート1は、保護シート11が剥離される前の静電吸着シート1の態様では、吸着層31の高い静電吸着力を保持しながら、両面に帯電防止性能が付与されたものとなっている。よって、静電吸着シート1は、外部への静電吸着力が抑えられており、静電吸着シート1の運送、保管、印刷等の取扱時に周囲への張り付きや、静電吸着シート1同士の張り付きが生じ難く、ハンドリング性が良好となっている。
【0085】
[用途]
本実施形態の静電吸着シート1を構成する保護シート11は、基材41から剥離して、被着体に貼り付けることにより、被着体を保護するためのシートとして使用することができる。このとき、保護シート11の静電吸着力によって被着体に貼着することから、貼り直しが容易であり、被着体との間に空気溜りが生じたとしても手で除けばどの方向からも空気を抜くことが容易であり、最終的な仕上がりが良好であるという利点がある。またこの保護シート11は、使用時には静電吸着力が高く、静電吸着力の持続性も充分で長期に亘り被着体上に表示使用することができ、且つ使用後は金属箔の表面状態に変化が無く、容易に被着体から分離することができる。
【0086】
また、保護シート11は、被着体の接着面が平滑な材質であれば貼り付けることができ、例えば、銅、銀、金、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属、ガラス、樹脂、陶磁器製のタイル等からなる面に貼り付けることができる。保護シート11の被着体としては、例えば、掲示版、看板、サインボード、ホワイトボード、壁、天井、柱、ドア、パーティション、床、ロッカー、机、棚、窓(ガラス製、樹脂製)、冷蔵庫(金属面、ガラス面、プラスチック面)、ショーケース、各種機器(工作機、印刷機、成形機等)、及び車内(自動車、バス、電車)、船舶内、航空機内の壁面等が挙げられる。
【0087】
さらには、保護シート11は、吸着層31が、所定の融点を有するポリオレフィン樹脂を含むことにより、高温への耐性を有し、高温環境下においても寸法変化が小さく、吸着性能を維持することができる。このため、保護シート11は、被着体又は被着体の周囲の環境が高温となることで、保護シート11が高温に曝される分野において好適に用いことができる。このような保護シート11の用途としては、例えば、金属箔の保護が挙げられ、中でも、フレキシブル基板に設けられた銅箔の保護に好適に用いることができる。なお、ここでいう高温とは、100℃以上をいう。
【実施例】
【0088】
以下、製造例及び実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[評価手法]
各実施例、比較例で得られた静電吸着シートの評価は、以下の方法で行った。
【0090】
<厚み>
各製造例及び各実施例で得られた吸着層の厚みを、JIS K 7130:1999に準拠して、定圧式厚み計(商品名:PG−01J、(株)テックロック製)を用いて測定した。
【0091】
<表面粗さ>
各製造例で得られた保護シートの中心面平均粗さ(SRa)を、三次元表面粗さ計(商品名:サーフコム1500DX3、東京精密(株)製)を使用し、測定速度:0.2mm/sec、測定長さ:5mm、送りピッチ20μmの条件で測定して求めた。表面粗さの測定は、保護シートの吸着層側の面について行った。
【0092】
<表面抵抗率>
各製造例及び各実施例で得られた保護シートの表面抵抗率を、JIS K 6911:1995に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の条件下で、二重リング法の電極を用いて測定した。表面抵抗率の測定は、保護シートの吸着層側の面、及びコート層側の面、並びに基材の吸着層と接する側の面、及び基材の吸着層と接する側の面と反対の面について行った。
【0093】
<評価用サンプルの作製>
実施例及び比較例の静電吸着シートを10cm×11cmの形状に切断し、相対湿度50%の雰囲気下で1日間保管した。その後、同雰囲気下で、静電吸着シートより保護シート11を剥がして、
図2に示すように、保護シート11を厚み200μmの鏡面仕上げ銅箔52に貼り付けた。このとき、吸着面積が10cm×10cmとなり、保護シート11の一端の1cm幅分が銅箔52からはみ出す様に貼り付けを行った。さらに、ゴムロールを使用して内部のエアーを抜いて評価用サンプル51を得た。得られた評価用サンプル51を相対湿度50%の雰囲気下で1日間保管した後、150℃のオーブンにて5分加熱し、オーブンから取出し後10分間室温にて冷却して、下記の外観、吸着力、及び表面状態の変化の評価を順に実施した。
【0094】
<外観>
目視により保護シートの外観を観察して、以下の基準で2段階評価を行った。
○:良好(シワが発生せずに被着体からの剥がれが認められない)
×:不可(シワが発生して被着体からの剥がれが認められる)
【0095】
<吸着力>
外観の評価を行った後、
図3に示すように、吸着力測定装置61を使用して吸着力の評価を行った。吸着力測定装置61は、支柱62,63によって、ガラス板64を垂直に立てた状態でその両端を保持している。このガラス板64に対して、評価用サンプル51のはみ出した一端の部分が下側となるようにして、評価用サンプル51の銅箔52の上側の端部を固定用粘着テープ65によって貼り付ける。この状態で、保護シート11のはみ出した下端部分にクリップ66を取り付ける。クリップ66に取り付けた糸67を介して、10gの分銅68を1つずつクリップ66に追加して行き、保護シート11が銅箔52から滑り落ちた時の分銅68の重さから、平米当りの重量キログラム(kgf/m
2)に換算したものを吸着力として求め、以下の基準で評価した。
○:良好(吸着力が5kgf/m
2以上)
×:不良(吸着力が5kgf/m
2未満)
【0096】
<表面状態の変化>
吸着力の評価を行った後、保護シートを剥離した後の銅箔の表面状態を目視にて観察して、下記の基準にて糊残りを評価した。
○:良好(保護シートを吸着させた場所の表面と吸着させなかった場所の表面とで光沢感が変化していない)
×:不可(保護シートを吸着させた場所の表面と吸着させなかった場所の表面とで光沢感が変化している)
【0097】
[吸着層の製造]
表1に、吸着層の製造例において原料樹脂として使用した熱可塑性樹脂a〜dの詳細を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
<吸着層の製造例1>
樹脂a(ポリメチルペンテン(三井化学(株)製、商品名:TPX MX004))を、290℃に設定した押出機を用いて溶融混練し、290℃に設定した押出ダイよりシート状に押し出し、押し出したシートを60℃に設定した冷却ロールにより冷却した。このシートの両端部をスリットして、次いで、シートの片面にコロナ放電処理を施して、製造例1の吸着層aを得た。吸着層aの厚みは、50μmであった。
【0100】
<吸着層の製造例2>
樹脂aに代えて、樹脂b(ポリメチルペンテン(三井化学(株)製、商品名:TPX DX845))を用いる以外は、製造例1と同様に行い、製造例2の吸着層bを得た。吸着層bの厚みは、100μmであった。
【0101】
<吸着層の製造例3>
樹脂aに代えて、樹脂c(ポリメチルペンテン(三井化学(株)製、商品名:TPX MX002))を用いる以外は、製造例1と同様に行い、製造例3の吸着層cを得た。吸着層cの厚みは、30μmであった。
【0102】
<吸着層の製造例4>
樹脂aに代えて、樹脂aを70質量%と、樹脂d(プロピレン単独重合体(日本ポリケム(株)製、商品名:ノバテックPP FY4))を30質量%とのブレンドを用いる以外は、製造例1と同様に行い、製造例4の吸着層dを得た。吸着層dの厚みは、50μmであった。
【0103】
<吸着層の製造例5>
樹脂aに代えて、樹脂dを用いて、押出機の温度を250℃にし、押出ダイの温度を250℃にした以外は、製造例1と同様に行い、製造例5の吸着層eを得た。吸着層eの厚みは、100μmであった。
【0104】
<吸着層の製造例6>
吸着層eのコロナ放電処理の未処理面にもコロナ放電処理を施し、片方の面に接着剤(東洋インキ製造(株)製、商品名:TM320とCAT−13Bの1:1混合液)を乾燥後の厚みが2μmになる様に塗工し、乾燥後の塗工面に、吸着層aのコロナ放電表面処理面を貼り合せた。次いで、この吸着層eのもう片方の面に接着剤(東洋インキ製造(株)製、商品名:TM320とCAT−13Bの1:1混合液)を乾燥後の厚みが2μmになる様に塗工し、乾燥後の塗工面に、吸着層aのコロナ放電表面処理面を貼り合せた。さらに、一方の吸着層aの面にコロナ放電表面処理を施して、層構成(吸着層a/吸着層e/吸着層a(樹脂a/樹脂d/樹脂a))の吸着層fを得た。吸着層fの厚みは154μm、樹脂aの含有量が63%であった。
【0105】
[コート剤の調製]
<帯電防止剤の調製例>
ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、商品名:ブレンマーPE−350)100質量部、過塩素酸リチウム(和光純薬工業(株)製、試薬)20質量部、ヒドロキノン1質量部、及びメチルエチルケトン400質量部を、攪拌機、コンデンサー、窒素導入管、温度計を装着した四つ口フラスコに導入し、系内を窒素置換し、60℃で40時間反応させた。これにステアリルメタクリレート20質量部、n−ブチルメタクリレート20質量部、アゾビスイソブチロニトリル1質量部を添加し、80℃で3時間重合反応した後、メチルエチルケトンを添加して固形分を20質量%に調整して、質量平均分子量約30万、固形分中のリチウム濃度0.8wt%の帯電防止剤溶液を得た。
【0106】
<高分子バインダーの調製例>
2−ヒドロキシエチルメタクリレート15質量部、メチルメタクリレート50質量部、エチルアクリレート35質量部、及びトルエン100質量部を、攪拌機、環流冷却管、及び温度計を装着した三つ口フラスコに仕込み、窒素置換後、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル0.6質量部を開始剤として加え、80℃で4時間重合させた。得られた溶液は、水酸基価65の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂の50質量%トルエン溶液であった。次いで、この溶液100質量部に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(新第一塩ビ(株)製、商品名:ZESTC150ML)の20質量%メチルエチルケトン溶液を40質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:コロネートHL)75質量%酢酸エチル溶液を20質量部加え、さらにこの混合物にトルエンとメチルエチルケトンを1:1で混合した溶媒を添加して固形分を20質量%に調整して、高分子バインダー溶液を得た。
【0107】
<コート剤の調製例>
メチルエチルケトン8kgをカウレスミキサーにて静かに攪拌しながら、平均粒子径1.6μm、吸油量180cc/100gの沈降性シリカ(水澤化学工業(株)製、商品名:ミズカシル P−527)1kgと平均粒子径0.3μmの硫酸バリウム(堺化学工業(株)製、商品名:BARIACE B−32)1kgをそれぞれ計量したものを少しずつ加え、固形分濃度20質量%になるように調整した後、カウレスミキサーの回転数を上げて30分間攪拌して、顔料分散液を得た。
【0108】
次いでカウレスミキサーの回転数を落とし、この顔料分散液に、上記の高分子バインダーの調製例で得られた高分子バインダー溶液11.8kg、上記の帯電防止剤溶液の調製例で得られた帯電防止剤溶液2.5kg、及び予め酢酸エチルにて固形分20質量%に希釈したヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:コロネート HL)0.8kgをこの順に添加し、そのまま20分間攪拌して混合し、その後100メッシュのフィルターを通し粗粒径物の除去を行い、コート剤を得た。
【0109】
[保護シートの製造]
<保護シートの製造例1>
吸着層aのコロナ放電表面処理面に、上記のコート剤の調製例で得られたコート剤を、乾燥後の厚みが表2に記載の厚みとなる様に塗工し、70℃に設定したオーブンで60秒乾燥して、製造例1の保護シートaを得た。
【0110】
<保護シートの製造例2〜6>
保護シートaに代えて、表2に示す吸着層を用いて、コロナ放電表面処理面に、乾燥後の厚みが表2に記載の厚みとなる様にコート剤を塗工する以外は、製造例1と同様に行い、製造例2〜6の保護シートb〜fを得た。
【0111】
表2に、保護シートの物性を示す。
【0112】
【表2】
【0113】
[基材の製造]
<基材の製造例1>
厚み60μmの合成紙((株)ユポ・コーポレーション製、商品名:FPG60)の片面に、接着剤(東洋インキ製造(株)製、商品名:TM320、CAT−13Bの1:1混合液)を乾燥後の厚みが2μmになる様に塗工し、乾燥後の塗工面に、厚み20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡性(株)製、商品名:P2102)のコロナ放電処理面が接着面となる様に貼合して、製造例1の基材Aを得た。
【0114】
<基材の製造例2>
厚み50μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製、商品名:FOP−K)のコロナ放電処理面に、接着剤(東洋インキ製造(株)製、商品名:TM329、CAT−18Bの1:1混合液)を塗工し、乾燥後の塗工面に、厚み12μmのアルミニウム蒸着PETフィルム(尾池工業社製、商品名:テトライトPC)のアルミニウム蒸着面が外側にくる様に貼合して、製造例2の基材Bを得た
【0115】
表3に、基材の製造例において原料樹脂として使用した材料の内容、及び基材の物性を示す。なお、基材Aでは、表面抵抗率が高い2軸延伸ポリプロピレンフィルム側を吸着層と接する側として、合成紙側を吸着層と接する側と反対側として、表面抵抗率を示した。また、基材Bでは、表面抵抗率が高い2軸延伸ポリプロピレンフィルム側を吸着層と接する側として、アルミニウム蒸着PETフィルム側を吸着層と接する側と反対側として、表面抵抗率を示した。
【0116】
【表3】
【0117】
[静電吸着シートの製造]
<実施例1>
保護シートaのコート層側の面とは反対側の面に、直流コロナ放電処理による電荷注入処理を施した。まず、電荷注入処理の条件の設定のため、主電極の針間距離10mm、主電極−アース電極間距離10mmに設定したエレクトレット化装置のアース電極盤上に、保護シートaのコート層側の面がアース電極面と接触するように置いた。この状態で、吸着層側の面への印加電圧を1KVから少しずつ上昇させることで局所火花放電により保護シートaが破壊される電圧を測定し、この火花放電電圧よりも1kv低い電圧を電荷注入処理の放電電圧とした。そして、表4に記載の加工条件の放電電圧を用いて、吸着層側の面に直流コロナ放電処理による電荷注入処理を施した。続いて、保護シートaの電荷注入処理を施した面と、基材Aの表面抵抗率が高い方(2軸延伸ポリプロピレンフィルム側)の面とが接するように積層し、両者を圧着ロールで加圧接着して、実施例1の静電吸着シートを得た。
【0118】
<実施例2>
基材Aに代えて基材Bを用い、保護シートaに代えて保護シートbを用い、表4に記載の加工条件の放電電圧を用いる以外は、実施例1と同様に行い、実施例2の静電吸着シートを得た。
【0119】
<実施例3>
保護シートaに代えて保護シートcを用い、表4に記載の加工条件の放電電圧を用いる以外は、実施例1と同様に行い、実施例3の静電吸着シートを得た。
【0120】
<実施例4>
保護シートaに代えて保護シートdを用いる以外は、実施例1と同様に行い、実施例4の静電吸着シートを得た。
【0121】
<実施例5>
基材Aに代えて基材Bを用い、保護シートaに代えて保護シートfを用い、表4に記載の加工条件の放電電圧を用いる以外は、実施例1と同様に行い、実施例5の静電吸着シートを得た。
【0122】
<比較例1>
保護シートaに代えて保護シートeを用い、表4に記載の加工条件の放電電圧を用いる以外は、実施例1と同様に行い、比較例1の静電吸着シートを得た。
【0123】
<比較例2>
市販のPET粘着保護シート(オカモト(株)社製、商品名:50AN)を比較例2の静電吸着シートとして、そのまま使用した。
【0124】
【表4】
【0125】
[評価]
表4に静電吸着シートの物性と評価結果を示す。
実施例1〜5の静電吸着シートは、融点が200℃以上であるポリオレフィン樹脂を含む吸着層を備える。表4に示すとおり、実施例1〜5の静電吸着シートでは、保護シートを銅箔に張り付けて高温環境下においても、吸着力に優れるとともに、シワが生じずに被着体への張り付いた状態を保っており、優れた吸着性能が維持されていた。また、剥がした際にも表面状態に変化が無く、銅箔の汚染を生じないものとなっていた。
【0126】
また、実施例1〜5の静電吸着シートでは、保護シートのコート層側の面の表面抵抗率は、吸着層側の面よりも抑えられている。また、基材の吸着層と接しない側の面の表面抵抗率は、吸着層と接する側の面よりも抑えられている。これにより、保護シートと基材とが接着した態様では、静電吸着シートの最表面は両側とも表面抵抗率が抑えられたものとなる。よって、実施例1〜5の静電吸着シートは、ハンドリング性が良好でありながら、保護シートの性能は上述の通り良好なものとなっている。
【0127】
比較例1の静電吸着シートは、吸着層がプロピレン単独重合体のみからなり、被着体への静電吸着が可能であるため、金属箔の表面状態が変化する問題は生じなかった。しかしながら、高温環境下においた際に、吸着力に劣るのみならず、高温処理後に収縮に伴いシワが生じており、貼り付いた状態を維持することができなかった。
【0128】
比較例2のPET粘着保護シートは、粘着層により銅箔への接着を可能とするものであるため、高温環境下においた際に、吸着力は十分であり、シワの発生が無かった。しかしながら、粘着層に起因する表面の光沢変化が生じており、銅箔の汚染を起こすものであった。