【課題】樹脂シートのカーテン現象を効果的に矯正したうえで樹脂成形品の取り出しを円滑に行うことができ、複雑な形状の樹脂成形品でも折れ肉が発生し難い成形装置及び成形方法を提供する。
【解決手段】成形装置40は、溶融状態の樹脂シート41を押し出す押出し部42と、押出し部42により押し出された樹脂シート41を型締めして樹脂成形品70を成形する金型56と、金型56よりも下方にあって、樹脂シート41の下部を側方から型締めに先立って把持する把持機構80と、を備え、樹脂成形品70が金型50から取り出されるときに干渉しないように、把持機構80が回動可能に設けられている。
ステップ(i)において、前記一対の把持部を180度に開いた状態で前記樹脂成形品に向かって水平方向に90度回動させることを特徴とする請求項5に記載の成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0017】
(成形装置40の全体構成)
本実施形態に係る樹脂成形品の成形装置40について、
図1に基づいて説明する。
図1は第1・第2樹脂シート41A,41Bがいずれもカーテン現象を起こしていない状態を示している。
図1に示すように、成形装置40は、押出装置42(押出し部)として第1・第2押出装置42A,42Bと、これら第1・第2押出装置42A,42Bの下方に配置された型締装置43と、を備える。成形装置40では、第1・第2押出装置42A,42Bから押し出された熱可塑性樹脂からなる溶融状態の樹脂シート41である第1・第2樹脂シート41A,41Bを型締装置43に送り、この型締装置43によって溶融状態の第1・第2樹脂シート41A,41Bを所定の形状に形成する。
【0018】
なお、第1押出装置42Aと第2押出装置42Bは、同様であるので、以下の説明において、第1樹脂シート41Aに対応する第1押出装置42Aのみを説明し、第2樹脂シート41Bに対応する第2押出装置42Bについては説明を省略する。成形装置40において、第1樹脂シート41Aに対応する要素(第1〜)には符号に「A」を後続させて説明しており、第2樹脂シート41Bに対応する要素(第2〜)は同一番号の符号に「B」を後続させて読み替えるものとする。
【0019】
第1押出装置42Aは、第1ホッパー45Aが付設された第1シリンダー46Aと、第1シリンダー46A内に設けられたスクリュー(図示省略)と、このスクリューに連結された第1油圧モーター47Aと、第1シリンダー46Aと内部が連通した第1アキュムレーター48Aと、第1アキュムレーター48A内に設けられた第1プランジャー51Aとを有する。
【0020】
第1押出装置42Aでは、第1ホッパー45Aから投入した樹脂ペレットを第1シリンダー46A内で第1油圧モーター47Aによるスクリューの回転により溶融、混練し、溶融状態の樹脂を第1アキュムレーター48Aに移送して一定量貯留する。そして、第1アキュムレーター48A内の溶融状態の樹脂を第1プランジャー51Aの駆動により、第1Tダイ52Aに送り、第1押出スリット53Aを通じて所定の長さの連続的な第1樹脂シート41Aとして押し出す。押し出した第1樹脂シート41Aを、間隔を隔てて配置された第1の一対のローラー55A(回転体)によって挟圧しながら下方に送り出して第1・第2分割型57A,57B(後述)の間に垂下させる。これにより、第1樹脂シート41Aは、上下方向(押出方向)に一様な厚みを有する状態で、第1・第2分割型57A,57Bの間に配置される。
【0021】
第1押出装置42Aの押出の能力は、第1樹脂シート41Aの大きさや、第1樹脂シート41Aのドローダウンあるいはネックイン発生防止の観点から適宜定める。より具体的には、実用的な観点から、間欠押出における1ショットの押出量は好ましくは1〜10kgであり、第1押出スリット53Aからの樹脂の押出速度は、数百kg/時以上、より好ましくは700kg/時以上である。また、第1樹脂シート41Aのドローダウンあるいはネックイン発生防止の観点から、第1樹脂シート41Aの押出工程は、なるべく短いことが好ましく、樹脂の種類、MFR値、メルトテンション値に依存するが、一般的に、押出工程は40秒以内、より好ましくは10〜20秒以内に完了するのがよい。このため、熱可塑性樹脂の第1押出スリット53Aからの単位面積、単位時間当たりの押出量は、50kg/時/cm
2以上、より好ましくは150kg/時/cm
2以上である。
【0022】
第1の一対のローラー55Aの間に挟み込まれた第1樹脂シート41Aを下方に送り出すことで、第1樹脂シート41Aを延伸薄肉化することが可能である。押し出される第1樹脂シート41Aの押出速度と、第1の一対のローラー55Aによる第1樹脂シート41Aの送出し速度との関係を調整することにより、ドローダウンあるいはネックインの発生を防止することが可能であるため、樹脂の種類、特にMFR値及びメルトテンション値、あるいは単位時間当たりの押出量に対する制約を小さくすることができる。
【0023】
第1Tダイ52Aに設けられる第1押出スリット53Aは、鉛直下向きに配置され、この第1押出スリット53Aから押し出された第1樹脂シート41Aは、そのまま第1押出スリット53Aから垂下する形態で、鉛直下向きに送られるようにしている。第1押出スリット53Aは、その間隔を可変とすることにより、第1樹脂シート41Aの厚みを変更することが可能である。
【0024】
第1の一対のローラー55Aは、第1押出スリット53Aの下方において、各々の回転軸を略水平に向け、かつ、互いに平行に並んだ状態で配置される。第1の一対のローラー55Aは、一方が回転駆動ローラーであり、他方が被回転駆動ローラーである。より詳細には、第1の一対のローラー55Aは、第1押出スリット53Aから下方に垂下する形態で押し出される第1樹脂シート41Aに対して、線対称になるように配置される。
【0025】
第1の一対のローラー55Aの直径及び軸方向長さは、形成すべき第1樹脂シート41Aの押出速度、第1樹脂シート41Aの押出方向長さ、第1樹脂シート41Aの幅、樹脂の種類等に応じて適宜設定される。ただし、第1の一対のローラー55Aの間に第1樹脂シート41Aを挟み込んだ状態で、第1の一対のローラー55Aの回転により第1樹脂シート41Aを円滑に下方に送り出す観点から、回転駆動ローラーの直径を被回転駆動ローラーの直径よりも若干大きく設定することが好ましい。また、第1の一対のローラー55Aの曲率が大きすぎる、あるいは、小さすぎると、第1樹脂シート41Aが第1の一対のローラー55Aに巻き付く不具合が生じるため、第1の一対のローラー55Aの直径は、50〜300mmの範囲であることが好ましい。
【0026】
一方、型締装置43は、金型駆動装置(図示省略)及び成形のための金型56を有する。金型56は、分割形式であり、第1分割型57Aと、この第1分割型57Aに合わさる第2分割型57Bとを備える。これら第1・第2分割型57A,57Bは、それぞれの第1・第2成形面58A,58Bを対向させた状態で配置され、第1・第2成形面58A,58Bが略鉛直方向に沿うように配置される。
【0027】
金型駆動装置は、溶融状態の第1・第2樹脂シート41A,41Bの供給方向に対して略直交する方向に第1・第2分割型57A,57Bを移動させる装置であり、第1・第2分割型57A,57Bを開位置と閉位置との間で移動させる。
【0028】
第1・第2分割型57A,57Bのそれぞれの第1・第2成形面58A,58Bの周りには、第1環状ピンチオフ部61A、第2環状ピンチオフ部61Bが形成される。これら第1・第2環状ピンチオフ部61A,61Bは、第1・第2成形面58A,58Bを囲うように環状に形成され、対向する第1・第2分割型57A,57Bに向けて突出する。これにより、第1・第2分割型57A,57Bを型締めする際、それぞれの第1・第2環状ピンチオフ部61A,61Bの先端部が当接し、2枚の第1・第2樹脂シート41A,41Bは、その周縁にパーティングラインが形成されるように熱溶着される。
【0029】
第1・第2分割型57A,57Bの外周部には、第1・第2型枠62A,62Bが密接状態で摺動可能に嵌合される。第1・第2型枠62A,62Bは、型枠移動装置(図示省略)により、第1・第2分割型57A,57Bに対して相対的に移動可能である。より詳細には、第1・第2型枠62A,62Bは、第1・第2分割型57A,57Bから内向きに突出することにより、第1・第2分割型57A,57Bの間に配置された第1・第2樹脂シート41A,41Bの第1・第2外表面63A,63Bに当接可能である。
【0030】
第1・第2分割型57A,57Bは、それぞれ金型駆動装置により駆動され、開位置において、第1・第2分割型57A,57Bの間に第1・第2樹脂シート41A,41Bを配置させる一方、閉位置において、第1・第2分割型57A,57Bの第1・第2環状ピンチオフ部61A,61Bが互いに当接することにより、第1・第2分割型57A,57B内に密閉空間を形成する。閉位置は、第1・第2樹脂シート41A,41Bの間の略中間位置(第1・第2樹脂シート41A,41Bから略等距離の位置)に設定される。なお、この閉位置に対して、第1押出装置42A及び第1の一対のローラー55Aと、第2押出装置42B及び第2の一対のローラー55Bとは、左右対称に配置される。
【0031】
また、第1・第2分割型57A,57Bのそれぞれには、第1・第2真空吸引室65A,65Bが設けられる。第1・第2真空吸引室65A,65Bは、第1・第2吸引穴66A,66Bを介して第1・第2成形面58A,58Bに連通しており、第1・第2真空吸引室65A,65Bから第1・第2吸引穴66A,66Bを介して吸引することにより、第1・第2樹脂シート41A,41Bを第1・第2成形面58A,58Bに吸着する。これにより、第1・第2樹脂シート41A,41Bは、第1・第2成形面58A,58Bの表面に沿った形状に賦形され、後述するように、樹脂成形品70となる。
【0032】
以上に加えて、成形装置40は、第1・第2樹脂シート41A,41Bがカーテン現象を起こしたときに備え、金型56よりも下方にあって、一対のローラー55A,55Bにより送り出された第1・第2樹脂シート41A,41Bの下部を側方から型締めに先立って把持する把持機構80を有するが、カーテン現象及び把持機構80については、以下に項をあらためて説明する。
【0033】
(把持機構の構成)
次に、第1・第2樹脂シート41A,41Bのカーテン現象及び成形装置40が備える把持機構80について、
図2及び
図3を参照して説明する。なお、把持機構80に係る事項以外は、上述した内容と同様であるので、説明を省略する。
【0034】
図2において破線で示した箇所は、背景技術欄で説明したように、第1・第2樹脂シート41A,41Bのいずれもがカーテン現象を起こしている状態を表している。そして、第1・第2分割型57A,57Bの第1・第2成形面58A,58Bにおいて、第1成形面58Aが凸部58A1を、第2成形面58Bが対応する凹部58B1を有している例を示している。このような場合、破線で示した第1樹脂シート41A及び第2樹脂シート41Bは、カーテン現象によって図中左側に膨らんだ状態になっている。さらに、第1樹脂シート41Aは凸部58A1に当接した状態になっている。このように樹脂シート41が金型56に接してしまうと、当該箇所が他の部分に先行して冷却されてしまう。そうすると、膨らんだ部分が金型56に接して冷却された状態で金型56を型締めして成形したとき、シワ、薄肉、ピンホールなどを生じ、成形不良の原因となる。もちろん、第2樹脂シート41Bのようにカーテン現象によって膨らんだ部分が金型56に接していない状態であっても、そのまま金型56を型締めして成形したとき、シワ、薄肉、ピンホールなどを生じ、成形不良の原因となる。
【0035】
このような状況を回避するため、第1・第2樹脂シート41A,41Bの下部(押し出されてきた先端部)は、それぞれに対応する把持機構80である第1・第2把持機構80A,80Bによって把持されている。そして、この状態で、後述するように、第1・第2把持機構80A,80Bを図中手前側及び/又は奥側へ後退させることにより、第1・第2樹脂シート41A,41Bを幅方向に直線状としたうえで、第1・第2分割型57A,57Bで型締めすることとなる。
【0036】
以上の状態を正面からみた状態を説明する。
図3は、例えば第1樹脂シート41A(第2樹脂シート41Bでも同様である)のカーテン現象と第1把持機構80Aとの関係を正面からみた場合を模式的に示している。なお、
図3では、説明の便宜上、第1樹脂シート41A及び第2樹脂シート41Bを型締めする第1・第2分割型57A,57Bは省略している。
【0037】
第1樹脂シート41Aはカーテン現象を起こすと、
図3(a)に示すように、波打つ状態となる。これを、直線状に矯正するため、
図3(b)に示すように、第1樹脂シート41Aの下部を左右の第1把持機構80Aによって把持する。そして、左右の第1把持機構80Aを幅方向(図中、左右方向)へ後退させると、第1樹脂シート41Aのカーテン現象は解消し、直線状となる。
【0038】
第1把持機構80Aは、金型56の側方の下方に向かって延在するように成形装置40に取り付けられた第1アーム81Aと、第1アーム81Aの先端に設けられて第1樹脂シート41Aの下部を把持する第1の一対の把持部82Aとから構成されている。第2樹脂シート41Bに対応する第2把持機構80Bも同様に、第2アーム81Bと、第2の一対の把持部82Bとから構成されている。なお、把持機構80についてまとめて説明するときは、アーム81及び一対の把持部82ということがある。
【0039】
アーム81は前進後退可能に設けられており、樹脂シート41を把持すべく待機している状態から樹脂シート41を把持するときは、金型56の側方の下方に向かって前進することができ、樹脂シート41を把持してカーテン現象を解消させるときは、金型56の側方の下方から離れる方向に後退する。一対の把持部82は、180度の開閉角度を有しており、樹脂シート41が送り出されてきたときのカーテン現象の程度にかかわらず樹脂シート41の下部を確実に把持できるように、180度開いた状態で送り出されてくる樹脂シート41を待機する。開閉角度が狭い場合、樹脂シート41が一対の把持部82の隙間に確実に通るようにするためには繊細な調整が必要となるが、開閉角度を180度のように大きくとることにより、樹脂シート41がその隙間から外れることを防止できる。また、本実施形態に係る把持機構80は、このように大きな開閉角度をもって樹脂シート41の下部を側方から把持することから、接近してくる樹脂シート41の下部を下方から把持する場合に比べ、的確な箇所を把持し易い。
【0040】
具体的には、樹脂シート41は上方から押し出されてくることから、その下降速度に合わせて下方から把持しようとしても、樹脂シート41を把持する前に一対の把持部82が閉じてしまったり、逆に、把持するタイミングが遅くなると樹脂シート41が溜まってしまい一対の把持部82が閉じれなくなったりする虞がある。さらに、把持機構80を下方に設けた場合、その配置スペースを確保する必要上、成形装置40が全体として大型化するという問題もある。これに対し、本実施形態に係る把持機構80は側方に設けることから、タイミングよく樹脂シート41を把持することができ、成形装置40の大型化も避けることができる。
【0041】
また、一対の把持部82は、樹脂シート41の型締めが終了して金型56が型開きし、成形された樹脂成形品70が取り出されるときに把持機構80と干渉しないように回動できるように構成されている。一対の把持部82の回動する方向は、水平方向、垂直方向のいずれであってもよいが、取り出そうとする樹脂成形品70の被把持部が一対の把持部82に張り付いたりして、一対の把持部82を開いただけでは剥がれ難いような場合を考慮すると、一対の把持部82は時計回り及び反時計回りのいずれにも水平方向に90度回動可能、詳細には、樹脂成形品に向かって水平方向に90度回動可能にしておくことが好ましい。一対の把持部82は、前述のとおり、180度の開閉角度を有しており、180度開いて樹脂シート41を開放するが、その180度開いた状態のままで反時計回り又は時計回りに水平方向に回動する。そうすると、後述するように、把持機構80の設置位置にかかわらず、一対の把持部82を樹脂成形品70に向かって回動させて、一対の把持部82を樹脂成形品70の取出し方向に対して平行とすることができ、樹脂成形品70の被把持部が一対の把持部82を開いただけでは剥がれ難いような場合でも、樹脂成形品70は成形装置40からスムースに取り出すことが可能となる。
【0042】
ここで、樹脂成形品70を把持機構80と干渉しないように取り出す手段としては、このほかに、アーム81を樹脂成形品70に干渉しない位置まで下降させたり、又は金型56の方向すなわち横方向に移動させたりすることも考えられるが、アーム81の構造を複雑化させず、またアームの移動範囲が大きくなりすぎないようにする観点からは、把持機構80の先端部である一対の把持部82を回動可能にすることが好ましい。
【0043】
例えば、アーム81を下降させて樹脂成形品70との干渉を回避しようとすると、金型56より下側の樹脂シート41は、成形している間にドローダウンが進行することから、アーム81の下方への下げ幅の調整が難しい。加えて、成形装置40自体の大きさ(高さ)に影響を及ぼし、大型の成形装置を使用しなくてはならなくなるという課題が生じる。また、アーム81を横移動させて樹脂成形品70との干渉を回避しようとすると、金型56からはみ出る余分な部分(バリ)を小さくするために把持機構80も金型56の近くに設けてあることから、アーム81の長さを短くする必要が出てくる。しかし、アーム81を短くすると、一対の把持部82で樹脂シート41を確実に把持できなくなるおそれがあるという課題が生じる。
【0044】
(成形材料)
ここで、本実施形態に用いる成形材料について説明する、第1・第2樹脂シート41A,41Bは、ポリプロピレン、エンジニアリングプラスチックス、オレフィン系樹脂などから形成されたシートからなる。より詳細には、第1・第2樹脂シート41A,41Bは、ドローダウン、ネックインなどにより肉厚のバラツキが発生することを防止する観点から溶融張力の高い樹脂材料を用いることが好ましく、一方で金型への転写性、追従性を良好とするため流動性の高い樹脂材料を用いることが好ましい。
【0045】
具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレンペンテン、メチルペンテン等のオレフィン類の単独重合体あるいは共重合体であるポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン)であって、230℃におけるMFR(JIS K−7210に準じて試験温度230℃、試験荷重2.16kgにて測定)が3.0g/10分以下、さらに好ましくは0.3〜1.5g/10分のもの、又は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン(HIPS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等の非晶性樹脂であって、200℃におけるMFR(JIS K−7210に準じて試験温度200℃、試験荷重2.16kgにて測定)が3.0〜60g/10分、さらに好ましくは30〜50g/10分でかつ、230℃におけるメルトテンション(株式会社東洋精機製作所製メルトテンションテスターを用い、余熱温度230℃、押出速度5.7mm/分で、直径2.095mm、長さ8mmのオリフィスからストランドを押し出し、このストランドを直径50mmのローラーに巻取り速度100rpmで巻き取ったときの張力を示す)が50mN以上、好ましくは120mN以上のものを用いて、第1・第2樹脂シート41A,41Bを形成する。
【0046】
また、第1・第2樹脂シート41A,41Bには、衝撃により割れが生じることを防止するため、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーが30wt%未満、好ましくは15wt%未満の範囲で添加されていることが好ましい。具体的には水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとしてスチレンーエチレン・ブチレンースチレンブロック共重合体、スチレンーエチレン・プロピレンースチレンブロック共重合体、水添スチレンーブタジエンゴム及びその混合物が好適であり、スチレン含有量が30wt%未満、好ましくは20wt%未満であり、230℃におけるMFR(JIS K−7210に準じて試験温度230℃、試験荷重2.16kgにて測定)は1.0〜10g/10分、好ましくは5.0g/10分以下でかつ1.0g/10分以上あるものがよい。
【0047】
さらに、第1・第2樹脂シート41A,41Bには、添加剤が含まれていてもよく、その添加剤としては、シリカ、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機フィラー、可塑剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。具体的にはシリカ、マイカ、ガラス繊維等を成形樹脂に対して50wt%以下、好ましくは30〜40wt%添加する。
【0048】
(成形方法)
次に、
図4から
図6を参照しつつ、本実施形態に係る樹脂成形品70の成形方法について、説明する。
図4から
図6は、
図1で示した成形装置40を上から平面視して模式的に表しており、説明に必要な要素のみを示している。以下、各ステップについて、説明する。
【0049】
(ステップ(a))
ステップ(a)は、金型の下方の側方に位置する把持機構を開いた状態で待機させるステップである。ステップ(a)では、
図4(a)に示すように、第1・第2分割型57A,57Bが開いた状態で、それぞれの分割金型の下方の側方(図中、左右方向)にある左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bが、それぞれの一対の把持部82A,82Bを開放して第1・第2樹脂シート41A,41Bが送り出されてくるのを待っている。このとき、一対の把持部82A,82Bは、第1・第2樹脂シート41A,41Bがカーテン現象を起こして第1・第2分割型57A,57Bのいずれかの側(図中、上下方向)に偏っている場合であっても確実に把持できるよう、180度の開度をもって待機している。
【0050】
(ステップ(b))
ステップ(b)は、押出し部により溶融状態の樹脂シートを押し出すステップである。ステップ(b)では、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bが待機した状態で、
図4(b)に示すように、第1・第2樹脂シート41A,41Bが送り出されてくる。ここでは、第1・第2樹脂シート41A,41Bがともに平行な裏S字状のカーテン現象を起こしている例を示しているが、実際にはそのときの状況によって2枚の樹脂シートが同じパターンでカーテン現象を起こすとは限らない。左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bは、第1・第2樹脂シート41A,41Bがどのようなパターンのカーテン現象を起こしていても、確実にそれぞれの樹脂シートを把持できるように前述のとおりそれぞれの一対の把持部82A,82Bを180度開いた状態で待機している。なお、ステップ(a)とステップ(b)は、その先後は同時を含めていずれでもよい。
【0051】
(ステップ(c))
ステップ(c)は、送り出された樹脂シートの下部を把持機構で側方から把持するステップである。ステップ(c)では、
図4(c)に示すように、第1・第2樹脂シート41A,41Bの送出しが終わると、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bのそれぞれの一対の把持部82A,82Bが閉じて、第1・第2樹脂シート41A,41Bの下部を側方から把持する。
【0052】
(ステップ(d))
ステップ(d)は、把持機構を側方に後退させ、樹脂シートを幅方向に引張するステップである。ステップ(d)では、
図5(a)に示すように、一対の把持部82A,82Bが第1・第2樹脂シート41A,41Bの下部を側方から把持した後、第1・第2樹脂シート41A,41Bをその幅方向(図中、左右方向)に左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bのそれぞれの第1アーム81A、第2アーム81Bを後退させて引っ張る。これにより、第1・第2樹脂シート41A,41Bは、カーテン現象による裏S字状が解消し、直線状に整えられる。
【0053】
(ステップ(e))
ステップ(e)は、把持機構を金型の側へ移動させ、樹脂シートを金型に当接させるステップである。ステップ(e)では、
図5(b)に示すように、第1・第2樹脂シート41A,41Bを引張した状態で、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bのそれぞれのアーム81A,81Bを第1・第2分割型57A,57Bの側(図中、上下方向)にそれぞれ移動させ、第1・第2樹脂シート41A,41Bを第1・第2分割型57A,57Bにそれぞれ当接させる。なお、このステップ(e)においては、把持機構を金型の側へ移動させるのみならず、金型を把持機構の側へ移動させたり、金型と把持機構の双方を互いに接近する方向に移動させたりしてもよい。すなわち、第1・第2分割型57A,57Bを左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bの側へ移動させたり、第1・第2分割型57A,57Bと左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bの双方を互いに接近する方向に移動させたりしてもよい。
【0054】
(ステップ(f))
ステップ(f)は、樹脂シートを金型で型締めして樹脂成形品を成形するステップである。ステップ(f)では、
図5(c)に示すように、第1・第2樹脂シート41A,41Bが第1・第2分割型57A,57Bにそれぞれ当接した状態で、第1・第2分割型57A,57Bを閉じて型締めを行い、樹脂成形品70を得る。なお、ここでは、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bは、互いに接近する方向に移動してステップ(e)の位置に戻った場合を示している。
【0055】
(ステップ(g))
ステップ(g)は、金型を型開きするステップである。ステップ(g)では、
図6(a)に示すように、型締めが終了し、第1・第2樹脂シート41A,41Bが樹脂成形品70に成形されると、第1・第2分割型57A,57Bを型開きする。なお、ここでは、樹脂成形品70が第1・第2分割型57A,57Bから取り外された状態を示しているが、取り外しの際、樹脂成形品70は、係合部材(不図示)によって吊り下げられた状態で取り外されてもよいし、第1・第2分割型57A,57Bのいずれかに張り付いた状態で作業員又はロボットなどによって剥離して取り外されてもよい。
【0056】
(ステップ(h))
ステップ(h)は、把持機構から樹脂成形品を開放するステップである。ステップ(h)では、
図6(b)に示すように、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bのそれぞれ一対の把持部82A,82Bが樹脂成形品70となった第1・第2樹脂シート41A,41Bを開放する。このとき、一対の把持部82A,82Bは、180度に開く。なお、ステップ(h)は、ステップ(f)において型締めが完了した後であれば、ステップ(g)における第1・第2分割型57A,57Bを型開きする前、型開きの途中、型開きの後のいずれのタイミングで実行してもよい。
【0057】
(ステップ(i))
ステップ(i)は、前記把持機構を回動させるステップである。ステップ(i)では、
図6(c)に示すように、樹脂成形品70となった第1・第2樹脂シート41A,41Bを開放した左右の第1把持機構80A及び左右の第2第1把持機構80Bは、それぞれの一対の把持部82A,82Bを180度開いた状態のまま樹脂成形品70に向かって水平方向に90度回動する。すなわち、左の第1把持機構80Aの一対の把持部82Aは反時計回りに、右の第1把持機構80Aの一対の把持部82Aは時計回りに、左の第2把持機構80Bの一対の把持部82Bは時計回りに、右の第2把持機構80Bの一対の把持部82Bは反時計回りに、回動する。なお、ステップ(i)は、ステップ(f)において型締めが完了した後であれば、ステップ(g)における第1・第2分割型57A,57Bを型開きする前、型開きの途中、型開きの後のいずれのタイミングで実行してもよい。
【0058】
(ステップ(j))
ステップ(j)は、把持機構と干渉することなく樹脂成形品を金型から取り出すステップである。ステップ(j)では、
図6(c)の太矢印に示すように、樹脂成形品70は、係合部材によって第1・第2分割型57A,57Bが開いた空間を側方(図中、左右方向)に向かって、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bと干渉することなく取り出すことができる。
【0059】
なお、
図6(b)及び
図6(c)では、前述したように、一対の把持部82A,82Bが樹脂成形品70に向かって内側に90度回動した例を示しているが、回動する方向はこれに限られることなく、樹脂シート41の組成や樹脂成形品70の形状などを勘案して、樹脂成形品70の被把持部が一対の把持部82を開いただけで剥がれ易いような場合には、外側に90度回動するようにしてもよい。いずれの場合も、第1・第2分割型57A,57Bが開いた空間の側方を一対の把持部82A,82Bが遮断することがなく、樹脂成形品70はスムースに取り出すことが可能となる。
【0060】
樹脂成形品70が取り出された後は、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bは、一対の把持部82A,82Bを180度開いた状態のまま元の方向に90度回動させるとともに、アーム81A,81Bを第1・第2分割型57A,57Bの方向に前進させて、
図4(a)の位置に戻る。なお、取り出された樹脂成形品70は、
図1及び
図2で示した第1・第2環状ピンチオフ部61A,61Bの外側のバリ部分を切断されることとなる。
【0061】
(実施形態の効果)
以上のように、1つの樹脂成形品70ごとに、ステップ(a)〜ステップ(j)を繰り返すことにより、カーテン現象が起こったとしても樹脂シート41を確実に直線状に矯正したうえで肉割れのない樹脂成形品70を成形できるとともに、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bと干渉することなく樹脂成形品70をスムースに取り出すことができ、一連の工程を効率よく達成することができる。
【0062】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またそのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、本実施形態では2枚の樹脂シートを用いた成形を採り上げたが、樹脂シートが1枚のものや円筒状のものであっても本実施形態は適用できるものである。また、樹脂成形品を取り出す方向は樹脂シートの側方の2方向に限られる必要はなく、いずれか一方の方向に取り出すように、左右の第1把持機構80A及び左右の第2把持機構80Bの左右いずれか一方のみを水平方向に回動可能としてもよい。