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特開2017-137223ガーネット型単結晶、その製造方法、それを用いた光アイソレータ及び光加工器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-137223(P2017-137223A)
(43)【公開日】2017年8月10日
(54)【発明の名称】ガーネット型単結晶、その製造方法、それを用いた光アイソレータ及び光加工器
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/28 20060101AFI20170714BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20170714BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20170714BHJP
【FI】
   C30B29/28
   G02B27/28 A
   B23K26/064 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-20434(P2016-20434)
(22)【出願日】2016年2月5日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】505150903
【氏名又は名称】インスティテュート スペリオール テクニコ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 清史
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ビジョラ エンカルナシオン アントニア
(72)【発明者】
【氏名】ビカール クサビエール
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツ カタリーナ
【テーマコード(参考)】
2H199
4E168
4G077
【Fターム(参考)】
2H199AA02
2H199AA06
2H199AA07
2H199AA13
2H199AA16
2H199AA23
2H199AA72
2H199AA90
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA27
4E168DA28
4E168EA11
4G077AA02
4G077BC24
4G077CF10
4G077EC07
4G077HA01
(57)【要約】
【課題】 TGG単結晶よりも優れた光学特性や磁気光学特性、例えば大きなファラデー回転角を有し、クラックのない大型化が可能なガーネット型単結晶、その製造方法、それを用いたアイソレータ及びそれを用いた光加工器を提供すること。
【解決手段】 本発明のガーネット型単結晶は、一般式A12で表され、Aは、Tb及び元素M(元素Mは、Y及び/又はLuである)を含む酸素8配位のイオンであり、Bは、Sc及びAlからなり、Cは、Alであり、Oは、酸素である。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるガーネット型単結晶。
12 ・・・(1)
(式中、Aは、Tb及び元素M(元素Mは、Y及び/又はLuである)を含む酸素8配位のイオンであり、Bは、Sc及びAlからなり、Cは、Alであり、Oは、酸素である。)
【請求項2】
前記Aが、さらにScを含む、請求項1に記載のガーネット型単結晶。
【請求項3】
前記一般式(1)が下記一般式(2)で表される、請求項1に記載のガーネット型単結晶。
(Tb3−a−bSc)(Sc2−cAl)Al12−d ・・・(2)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、a、b、c及びdは、下記式を満たす。
0<a≦0.6
0≦b≦0.2
0<c≦0.6
0≦d≦0.3)
【請求項4】
前記aが、0.01≦a≦0.3を満たす、請求項3に記載のガーネット型単結晶。
【請求項5】
前記aが、0.04≦a≦0.25を満たす、請求項3に記載のガーネット型単結晶。
【請求項6】
前記bが、0≦b≦0.15を満たす、請求項3〜5のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶。
【請求項7】
前記bが、0≦b≦0.09を満たす、請求項3〜5のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶。
【請求項8】
前記cが、0.1≦c≦0.4を満たす、請求項3〜7のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶。
【請求項9】
前記cが、0.15≦c≦0.35を満たす、請求項3〜7のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶。
【請求項10】
前記元素Mが、Yである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶。
【請求項11】
ファラデー回転子に用いられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶。
【請求項12】
融液成長法による請求項1〜11のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶を製造する方法であって、
酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウムと、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとを混合するステップであり、得られた混合粉末中の金属元素が、下記一般式(3)における金属元素のモル比を満たすように混合されている混合するステップと、
前記混合粉末を加熱溶融するステップと、
前記加熱溶融するステップで得られた融液から種結晶を引き上げるステップと
を包含する、方法。
(Tb3−x)ScAl12 ・・・(3)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、xは、下記式を満たす。
0<x<3)
【請求項13】
融液成長法による請求項1〜11のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶を製造する方法であって、
酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウムと、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとを混合するステップであり、得られた混合粉末中の金属元素が、下記一般式(4)における金属元素のモル比を満たすように混合されている混合するステップと、
前記混合粉末を加熱溶融するステップと、
前記加熱溶融するステップで得られた融液から種結晶を引き上げるステップと
を包含する、方法。
(Tb3−x)ScAl3+y12 ・・・(4)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、x及びyは、下記式を満たす。
0<x<3
0<y<0.5)
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子を有する光アイソレータ。
【請求項15】
レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射されるレーザ光の光路上に配置される、請求項14に記載の光アイソレータと
を備える、光加工器。
【請求項16】
前記レーザ光源の発振波長が、1060nm以上1100nm以下の範囲である、請求項15に記載の光加工器。
【請求項17】
前記レーザ光源の発振波長が、395nm以上1060nm未満の範囲である、請求項15に記載の光加工器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型単結晶、その製造方法、それを用いた光アイソレータ及び光加工器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光アイソレータは光通信に用いられているが、近年になって、光加工器にも光アイソレータが用いられてきている。このような光加工器は金属等へのマーキングや溶接・切断に用いられる場合が増えており、それに伴い、発振波長が1080nmのYbドープファイバレーザが用いられる光加工器が主流となってきた。Ybドープファイバレーザは、レーザダイオード(LD)からなる光源とファイバー増幅器を組み合わせた構成からなり、比較的低出力であるLDからの光出力をファイバー増幅器で増幅する機能を有する。
【0003】
上記の波長に適した光アイソレータは、1080nmの波長の反射戻り光を効率よくカットすることにより光源の劣化を防止するともに、増幅された高出力の光に対する高い耐久性が求められている。さらに、このような光アイソレータには、1080nmの波長の光透過性が高いこと、大きなファラデー回転角を備えること、大きな単結晶が得られることも必要とされている。この波長に適した材料として、近年、テルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG:TbGa12)単結晶が開発され実用化されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、TGGは、原料成分である酸化ガリウムの蒸発が激しいため、結晶の大型化や高品質化が難しく、その再現性も乏しいため、このことが、材料コストが下がらない原因となっていた。ゆえに、TGGよりも大きなファラデー回転角(ベルデ定数)を持ち、低コストで生産可能な材料の開発が望まれていた。
【0005】
上記TGGの課題を解決すべく、種々の単結晶が開発されている(例えば、特許文献1〜3及び非特許文献2〜3を参照)。特許文献1及び非特許文献2〜3には、テルビウム・アルミニウム・ガーネット単結晶からなり、主としてアルミニウムの一部がルテチウム(Lu)で置換されている単結晶が開示されている。詳細には、このテルビウム・アルミニウム・ガーネット単結晶は、(Tba−y)(Mb−x)Al3−z12(上記式中、LはM又はNを表し、MはSc及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、NはLuを含む。a及びbは2.8≦a≦3.2及び1.8≦b≦2.2を満たす。)で表される。この単結晶により、波長1064nm以上の波長域のみならず波長1064nm未満の波長域においても、TGGを超えるファラデー回転角及び大型化を実現することができる。
【0006】
特許文献2には、テルビウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶からなり、アルミニウムの一部が少なくともスカンジウムで置換され、アルミニウム及びテルビウムのうちの少なくとも一方の一部が、ツリウム、イッテルビウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種でさらに置換されている、ガーネット型単結晶が開示されている。詳細には、このガーネット型単結晶は、(Tb3−x−zSc)(Sc2−y)Al12(上記式中、Mは、Tm、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、x、y及びzは、0<x+y≦0.30、及び、0≦z≦0.30を満たす)で表される。
【0007】
さらに特許文献2には、6配位のAlの一部をScよりもイオン半径の大きいTm、Yb、Yで置換したり、8配位のTbの一部をTbよりイオン半径の小さいTm、Yb、Yで置換したりすることにより、単結晶内におけるイオン半径のバランスが良好であることが開示され、ガーネット構造が安定化することにより、クラックの発生が十分に抑制され、広い波長帯域で高い透過率を有し且つ大きいファラデー回転角を有することができることが開示されている。
【0008】
特許文献3には、(Tb3−xSc)(Sc2−yAl)Al12−z(式中、xは、0<x<0.1を満たす。)で表されるガーネット型単結晶は、Tbの一部がScで置換されることにより、ガーネット構造が安定化され、その結果、高い透明性を有し、クラックの発生を抑制できることが開示されている。
【0009】
特許文献1〜3には、これらのガーネット型単結晶が、いずれも、TGGより優れることが記載されているものの、単結晶のさらなる大型化が可能で、かつ光学特性や磁気光学特性などにも優れた代替材料としての新規なガーネット型単結晶とその製造方法が開発されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2011/049102号
【特許文献2】国際公開第2011/132668号
【特許文献3】国際公開第2012/014796号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W.Zhangら,Journal of Crystal Growth,306,2007,195−199
【非特許文献2】K.Shimamuraら,Crystal Growth & Design,Vol.10,No.8,2010,3466−3470
【非特許文献3】Encarnacion G. Villoraら,APPLIED PHYSICS LETTERS 99, 011111 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、TGG単結晶よりも優れた光学特性や磁気光学特性、例えば大きなファラデー回転角を有し、クラックのない大型化が可能なガーネット型単結晶、その製造方法、それを用いたアイソレータ及びそれを用いた光加工器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に記載する構成を講ずることによって、TGG単結晶よりも優れた光学特性や磁気光学特性を有し、クラックのない大型化可能なガーネット型単結晶を提供することに成功した。また、以下の方法を用いて上述のガーネット型単結晶を製造することに成功した。さらに、上述のガーネット型単結晶を用い、以下に記載する構成を講ずることによって、優れた特性を有するアイソレータ及び光加工器を提供することに成功したものである。すなわち本発明は、以下に存する。
【0014】
[1] 下記一般式(1)で表されるガーネット型単結晶。
12 ・・・(1)
(式中、Aは、Tb及び元素M(元素Mは、Y及び/又はLuである)を含む酸素8配位のイオンであり、Bは、Sc及びAlからなり、Cは、Alであり、Oは、酸素である。)
[2] 前記Aが、さらにScを含む、上記[1]に記載のガーネット型単結晶。
[3] 前記一般式(1)が下記一般式(2)で表される、上記[1]に記載のガーネット型単結晶。
(Tb3−a−bSc)(Sc2−cAl)Al12−d ・・・(2)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、a、b、c及びdは、下記式を満たす。
0<a≦0.6
0≦b≦0.2
0<c≦0.6
0≦d≦0.3)
[4] 前記aが、0.01≦a≦0.3を満たす、上記[3]に記載のガーネット型単結晶。
[5] 前記aが、0.04≦a≦0.25を満たす、上記[3]に記載のガーネット型単結晶。
[6] 前記bが、0≦b≦0.15を満たす、上記[3]〜[5]のいずれかに記載のガーネット型単結晶。
[7] 前記bが、0≦b≦0.09を満たす、上記[3]〜[5]のいずれかに記載のガーネット型単結晶。
[8] 前記cが、0.1≦c≦0.4を満たす、上記[3]〜[7]のいずれかに記載のガーネット型単結晶。
[9] 前記cが、0.15≦c≦0.35を満たす、上記[3]〜[7]のいずれかに記載のガーネット型単結晶。
[10] 前記元素Mが、Yである、上記[1]〜[9]のいずれかに記載のガーネット型単結晶。
[11] ファラデー回転子に用いられる、上記[1]〜[10]のいずれかに記載のガーネット型単結晶。
[12] 融液成長法による上記[1]〜[11]のいずれかに記載のガーネット型単結晶を製造する方法であって、
酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウムと、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとを混合するステップであり、得られた混合粉末中の金属元素が、下記一般式(3)における金属元素のモル比を満たすように混合されている混合するステップと、
前記混合粉末を加熱溶融するステップと、
前記加熱溶融するステップで得られた融液から種結晶を引き上げるステップと
を包含する、方法。
(Tb3−x)ScAl12 ・・・(3)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、xは、下記式を満たす。
0<x<3)
[13] 融液成長法による上記[1]〜[11]のいずれかに記載のガーネット型単結晶を製造する方法であって、
酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウムと、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとを混合するステップであり、得られた混合粉末中の金属元素が、下記一般式(4)における金属元素のモル比を満たすように混合されている混合するステップと、
前記混合粉末を加熱溶融するステップと、
前記加熱溶融するステップで得られた融液から種結晶を引き上げるステップと
を包含する、方法。
(Tb3−x)ScAl3+y12 ・・・(4)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、x及びyは、下記式を満たす。
0<x<3
0<y<0.5)
[14] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子を有する光アイソレータ。
[15] レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射されるレーザ光の光路上に配置される、上記[14]に記載の光アイソレータと
を備える、光加工器。
[16] 前記レーザ光源の発振波長が、1060nm以上1100nm以下の範囲である、上記[15]に記載の光加工器。
[17] 前記レーザ光源の発振波長が、395nm以上1060nm未満の範囲である、上記[15]に記載の光加工器。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるガーネット型単結晶によれば、下記一般式(1)で表される。
12 ・・・(1)
ここで、酸素8配位のイオンであるAとしてTb及び元素M(元素Mは、Y及び/又はLuである)を必須とし、酸素6配位のイオンであるBとしてSc及びAlを必須とすることにより、8配位サイト及び6配位サイトともにイオン半径の平均を制御する。その結果、ガーネット型単結晶を安定化することができ、TGGよりも優れた特性を発揮するだけでなく、10mm以上の大型化を可能とし、クラックのない単結晶を提供できる。本発明のガーネット型単結晶は光アイソレータ及びそれを用いた光加工器に好適である。
【0016】
本発明による上述のガーネット型単結晶の融液成長法による製造方法によれば、酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウム、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとを混合するステップと、これにより得られた混合粉末を加熱溶解するステップと、加熱溶融するステップにより得られた融液から種結晶を引き上げるステップとを包含し、混合するステップにおいて、混合粉末中の金属元素が、下記一般式(3)又は一般式(4)における金属元素のモル比を満たすように混合されている。
(Tb3−x)ScAl12 ・・・(3)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、xは0<x<3を満たす。)
(Tb3−x)ScAl3+y12 ・・・(4)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、xは0<x<3を満たし、yは0<y<0.5を満たす。)
混合するステップにおいて、金属元素のモル比を上述の一般式(3)又は(4)のいずれか満たすように混合するだけでよいので、既存の製造技術を大きく改変することなく、クラックのない良質で大型の単結晶が得られるため、実用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】結晶引上げ炉を用いて本発明のガーネット型単結晶を育成する様子を示す図。
図2】本発明のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子を用いた光アイソレータを示す模式図。
図3】本発明のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子を用いた光アイソレータを備えた光加工器を示す模式図。
図4】実施例1の単結晶(TYSAG−1)の観察結果を示す図。
図5】ガーネット型単結晶のTbの周りの局所的な格子サイト環境を模式的に示す図。
図6】実施例1の単結晶(TYSAG−1)のEXAFSスペクトルを示す図。
図7】実施例3の単結晶(TLSAG−5)のEXAFSスペクトルを示す図。
図8】実施例1の単結晶(TYSAG−1)の透過スペクトル及び反射スペクトルを示す図。
図9】実施例5の単結晶(TLSAG−3)の透過スペクトル及び反射スペクトルを示す図。
図10】実施例1の単結晶(TYSAG−1)の吸収スペクトルを示す図。
図11】実施例5の単結晶(TLSAG−3)の吸収スペクトルを示す図。
図12】実施例1の単結晶(TYSAG−1)及び実施例5の単結晶(TLSAG−3)のベルデ定数の波長依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0019】
(実施の形態1)
まず、本発明のガーネット型単結晶及びその製造方法について説明する。
【0020】
本発明のガーネット型単結晶は、下記一般式(1)で表される。
12 ・・・(1)
ここで、Aは、酸素8配位のイオンであり、Tb及びM(Mは、Y及び/又はLuである)を含み、Bは、酸素6配位のイオンであり、Sc及びAlからなり、Cは、酸素4配位のイオンであり、Alである。本発明のガーネット型単結晶は、ガーネット構造の結晶構造を有する。また、本明細書では、後述するように、酸素8配位のイオンが占有するサイトを8配位サイト、酸素6配位イオンが占有するサイトを6配位サイト、及び、酸素4配位イオンが占有するサイトを4配位サイトと称する。当業者であれば、8配位サイトのAは、Tb3+及びM3+(M3+は、Y3+及び/又はLu3+)のカチオンで存在し、6配位サイトのBは、Sc3+及びAl3+のカチオンで存在し、4配位サイトのCは、Al3+で存在することを理解する。一般式(1)において、Oは、酸素を表す。
【0021】
本願発明者らは、A元素を構成する8配位サイト及びB元素を構成する6配位サイトに着目し、これらの両方のイオン半径の平均を制御することにより、ガーネット型単結晶の結晶構造(ガーネット構造)が安定化し、優れた磁気光学特性/光学特性を発揮するだけでなく、結晶の大型化を可能にすることを見出した。
【0022】
R.D.ShannonによるActa.Cryst.,1976,A32,751によるイオン半径を参照すれば、A元素を構成するTb3+、Y3+、Lu3+の8配位のイオン半径は、それぞれ、以下である。M3+であるY3+、Lu3+のイオン半径は、いずれも、Tb3+のそれよりも小さいので、本発明による8配位サイトのイオン半径の平均は、いわゆるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG:TbGa12)のそれより小さくなる。一方で、本発明による8配位サイトのイオン半径の平均は、特許文献1〜3、非特許文献2〜3に記載のガーネット型単結晶のそれよりは、大きくなり得る(例えば、Sc3+:0.87Å、Tm3+:0.994Å、Yb3+:0.985Å等)。
Tb3+:1.04Å
3+:1.019Å
Lu3+:0.977Å
【0023】
同様に、B元素を構成するSc3+及びAl3+の6配位のイオン半径は、それぞれ、以下である。本発明による6配位サイトのイオン半径の平均は、特許文献1〜2、非特許文献2〜3に記載のガーネット型単結晶のそれより小さくなり得る(例えば、Lu3+:0.861Å、Tm3+:0.88Å、Yb3+:0.868Å、Y3+:0.9Å等)。
Sc3+:0.745Å
Al3+:0.535Å
【0024】
このように、本願発明者らは、8配位サイト及び6配位サイトを特定のイオンに限定することにより、イオン半径の平均を制御し、良質な単結晶が得られることを実験から見出した。
【0025】
さらに、A元素を構成する8配位サイトは、Scを含んでもよい。これにより、ガーネット構造がより安定化する。
【0026】
元素Mが、Yであれば、高価なLuに比べて、原料のコストを下げることができるので、本発明のガーネット型単結晶を安価に提供することができる。一方、元素MがLuであれば、大きなベルデ定数を有するガーネット型単結晶が得られるので、好ましい。元素MがY及びLuの組み合わせであれば、Y及びLuの含有量を選択することにより、これら両方の効果が得られる。所望の特性に応じて、元素Mの種類あるいはこれらの含有量を選択すればよい。
【0027】
上記一般式(1)A12は、好ましくは、下記一般式(2)で表される。
(Tb3−a−bSc)(Sc2−cAl)Al12−d ・・・(2)
ここで、パラメータa、b、c及びdは、
0<a≦0.6
0≦b≦0.2
0<c≦0.6
0≦d≦0.3
を満たす。これにより、ガーネット構造が安定化するだけでなく、TGGよりも優れた特性を有する単結晶となる。
【0028】
詳細には、パラメータaは、8配位サイトにおいてTbを置換するMの量を示し、aが、0.6を超えると、結晶構造が不安定となり得る。パラメータbは、8配位サイトにおいてTbを置換するScの量を示し、aが0.2を超えると、結晶構造が不安定となり得る。パラメータcは、6配位サイトにおいてScを置換するAlの量を示し、cが0.6を超えると、結晶構造が不安定となり得る。パラメータdは、結晶中に許容される欠陥を示し、dが0.3を超えると、酸素欠陥が多くなり、結晶構造が不安定となり得る。
【0029】
パラメータaは、好ましくは、0.01≦a≦0.3を満たす。これにより、8配位のイオン半径の平均が好適に制御されるので、結晶構造がさらに安定化する。パラメータaは、より好ましくは、0.04≦a≦0.25を満たす。これにより、8配位のイオン半径の平均がより好適に制御され、結晶構造がより安定化するだけでなく、大きなファラデー回転角が得られる。さらに好ましくは、パラメータaは、0.04≦a≦0.16を満たす。これにより、良質な単結晶が確実に得られる。
【0030】
パラメータbは、好ましくは、0≦b≦0.15を満たす。これにより、8配位のイオン半径の平均が好適に制御されるので、結晶構造がさらに安定化する。パラメータbは、より好ましくは、0≦b≦0.09を満たす。これにより、8配位のイオン半径の平均がより好適に制御されるので、結晶構造がより安定化する。さらに好ましくは、パラメータbは0より大きい。これにより、結晶育成における厳密な制御が不要となる。
【0031】
パラメータcは、好ましくは、0.1≦c≦0.4を満たす。これにより、6配位のイオン半径の平均が好適に制御されるので、結晶構造が安定化する。パラメータcは、より好ましくは、0.15≦c≦0.35を満たす。これにより、6配位のイオン半径の平均がより好適に制御されるので、結晶構造がより安定化する。さらに好ましくは、パラメータcは、0.21≦c≦0.31を満たす。これにより、良質な単結晶が確実に得られる。
【0032】
ここで、本発明のガーネット型単結晶と特許文献1〜3及び非特許文献2〜3の単結晶との差異について説明する。上述したように、本発明のガーネット型単結晶は、8配位サイトにTb及びM(Mは、Y及び/又はLuである)を含み、6配位サイトがSc及びAlからなり、4配位サイトがAlであることを特徴とする。一方、特許文献1及び非特許文献2〜3の単結晶は、いずれも、6配位サイトにLuを含むことを必須としている点が異なる。特許文献2は、6配位サイトにTm、Yb及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを必須としている点が異なる。特許文献3は、8配位サイトがTbとScとからなり、Y及び/又はLuを含まない点が異なる。このように、本発明のガーネット型単結晶は、特許文献1〜3あるいは非特許文献2〜3のそれと同様の元素によって構成されるが、各サイトにどの元素を用いるかによって、特性が劇的に変化し、その変化の様態は実際には実験をしてみないと想定できない。
【0033】
さらに、本発明のガーネット型単結晶によれば、その8配位サイトのイオン半径は、TGGのそれよりも小さく、かつ、特許文献1〜3及び非特許文献2〜3の単結晶のそれよりも大きくなり得、その6配位サイトのイオン半径は、特許文献1〜3及び非特許文献2〜3の単結晶のそれよりも小さくなり得るよう制御することによって、ガーネット構造の安定化を図り、TGG単結晶よりも大きなファラデー回転角を備え、クラックのない大型化の単結晶を得るという発想はいままでにない。
【0034】
本発明のガーネット型単結晶は、例えば、非特許文献1に記載のTGGのファラデー回転角を超える特性を有する。詳細には、本発明のガーネット型単結晶のベルデパラメータのE(10radnm/Tm)及びLambda0(nm)は、それぞれ、470以上及び258以上となり、TGGよりも顕著に優れ、特許文献1〜3あるいは非特許文献2〜3に匹敵する/凌ぐ磁気光学特性を有する。また、本発明のガーネット型単結晶の各波長におけるベルデ定数(rad/Tm)は、いずれの波長においてもTGGのそれよりも大きいので、大きなファラデー回転角が得られる。したがって、このような特性を有する本発明のガーネット型単結晶は、ファラデー回転子に用いることができる。
【0035】
また、本発明のガーネット型単結晶は、395nm以上1500nm以下の波長域において80%以上の透過率を有するので、例えば、発振波長が1060nm以上1100nm以下であるレーザ(具体的には、1080nmであるYbドープファイバレーザ、発振波長が1064nmであるNd:YAGレーザ等)、波長395nm以上1060nm未満であるレーザのファラデー回転子に適用すれば、これらのレーザの光の戻り光を効率的に遮断するだけでなく、これらの光を効率的に透過できる。なお、透過率は、ガーネット型単結晶にコーティングなどを施し、反射率を低減すれば、さらなる向上も可能である。
【0036】
次に、融液成長法による本発明のガーネット型単結晶の製造方法を説明する。ここでは、融液成長法としてチョクラルスキー(CZ)法を採用した製造方法を詳述する。まず、本発明のガーネット型単結晶を育成する結晶引上げ炉について、図1を参照しながら説明する。
【0037】
図1は、結晶引上げ炉を用いて本発明のガーネット型単結晶を育成する様子を示す図である。
【0038】
結晶引上げ炉(結晶育成装置)20は、ルツボ21(例えば、イリジウム製)と、ルツボ21を収容するセラミック製の筒状容器22と、筒状容器22の周囲に巻回される高周波コイル23とを主として備えている。高周波コイル23は、ルツボ21に誘導電流を生じさせ、ルツボ21を加熱するためのものである。
【0039】
次に、結晶引上げ炉20を用いた上記単結晶の育成方法について説明する。
【0040】
ステップS110(混合):
酸化テルビウム(Tb)と、酸化アルミニウム(Al)と、酸化スカンジウム(Sc)と、酸化イットリウム(Y)及び/又は酸化ルテチウム(Lu)とを混合し、混合粉末を得る。混合粉末は、乾式混合又は湿式混合により混合され、ルツボ21に充填される。ここで、酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウムと、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとは、混合粉末中の金属元素が、下記一般式(3)における金属元素のモル比を満たすように混合されている。これにより、Tb、Al、Sc、Y及び/又はLuを上述した各サイトに位置するよう制御できる。
(Tb3−x)ScAl12 ・・・(3)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、xは0<x<3を満たす。)
【0041】
混合粉末中のxが、好ましくは、0<x≦0.6を満たせば、上述した組成を満たす本発明のガーネット型単結晶を得られる。さらに好ましくは、xが、0.04≦x≦0.4を満たせば、上述した組成を満たす本発明のガーネット型単結晶が確実に得られるだけでなく、大きなファラデー回転角を達成する。
【0042】
あるいは、酸化アルミニウムは、混合粉末中のアルミニウムのモル比が、上述の一般式(3)におけるアルミニウムのモル比よりもリッチとなるように混合される。詳細には、ステップS110において、酸化テルビウムと、酸化アルミニウムと、酸化スカンジウムと、酸化イットリウム及び/又は酸化ルテチウムとは、混合粉末中の金属元素が、下記一般式(4)における金属元素のモル比を満たすように混合されている。これにより、上述の組成を満たすガーネット型単結晶の育成を促進し、さらなる大型化を可能にする。
(Tb3−x)ScAl3+y12 ・・・(4)
(式中、元素Mは、Y及び/又はLuであり、xは0<x<3を満たし、yは0<y<0.5を満たす。)
【0043】
ここでも、混合粉末中のxが、好ましくは、0<x≦0.6を満たせば、上述した組成を満たす本発明のガーネット型単結晶を得られる。さらに好ましくは、xが、0.04≦x≦0.4を満たせば、上述した組成を満たす本発明のガーネット型単結晶が確実に得られるだけでなく、大きなファラデー回転角を達成する。
【0044】
混合粉末中のyは、好ましくは、0<y≦0.5を満たせば、大型化を促進し得る。さらに好ましくは、yが、0.05≦y≦0.3を満たせば、大型化を確実にし得る。特に、元素Mが、Yである場合に上述の効果が大きい。
【0045】
ステップS120(加熱溶融):
ステップS110で得られた混合粉末を加熱溶融する。具体的には、高周波コイル23に電流を印加し、混合粉末が充填されたルツボ21を加熱し、混合粉末を加熱溶融する。加熱温度は、混合粉末を溶融できる任意の温度である。
【0046】
ステップS130(種結晶の引き上げ):
ステップS120で得られた融液24から種結晶を引き上げる。これにより上述のガーネット型単結晶が得られる。詳細には、棒状の結晶引き上げ軸、即ち種結晶25を用意する。種結晶25の先端を融液24に接触させた後、種結晶25を所定の回転数で回転させながら、所定の引き上げ速度で引き上げる。
【0047】
種結晶25は、例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)などのガーネット型単結晶を用いる。種結晶25の回転数は、好ましくは3〜50rpmとし、より好ましくは3〜10rpmとする。種結晶25の引き上げ速度は、好ましくは0.1〜3mm/hとし、より好ましくは0.5〜1.5mm/hとする。種結晶25の引き上げは、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、Ar、窒素などを用いることができる。種結晶25を不活性ガス雰囲気下にするためには、密閉ハウジング中に不活性ガスを所定の流量で導入しながら排出すればよい。種結晶25の引き上げは、例えば、大気圧下で行われる。こうして種結晶25を引き上げると、種結晶25の先端に上述したガーネット型単結晶26を得ることができる。
【0048】
ここで、例示的な製造方法としてCZ法を用いた製造方法を示したが、本発明のガーネット型単結晶は、これに限定されない。混合粉末における金属元素のモル比が、上述の一般式を満たすように調整されていれば、CZ法以外にもブリッジマン法、フローティングゾーン(FZ)法を採用してもよい。
【0049】
(実施の形態2)
次に、本発明のガーネット型単結晶の用途について説明する。
【0050】
図2は、本発明のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子を用いた光アイソレータを示す模式図である。
【0051】
光アイソレータ10は、偏光子1と、検光子2と、偏光子1と検光子2との間に配置されるファラデー回転子3とを備えている。ここで、偏光子1及び検光子2は、それらの透過軸同士が互いに非平行となるように、例えば45°の角度をなすように配置されている。ファラデー回転子3は、実施の形態1で説明した本発明のガーネット型単結晶から構成されるため、説明を省略する。
【0052】
ファラデー回転子3には、例えば偏光子1から検光子2に向かう方向、すなわち、光Lの入射方向に沿って磁束密度Bが印加されるようになっている。ファラデー回転子3は、磁束密度Bの印加により、偏光子1を通過した光Lについて、その偏光面を回転させて、検光子2の透過軸を通過させるようになっている。
【0053】
なお、光アイソレータ10は、図2の構成に限られるものではなく、偏光子又は検光子の少なくともいずれか1つを有する構成であればよい。例えば、偏光子1の代わりに検光子2を用いて、2枚とも検光子としてもよいし、検光子2の代わりに偏光子1を用いて、2枚とも偏光子としてもよい。
【0054】
また、図2の構成は偏光依存型と呼ばれるが、光アイソレータの構成はこれに限られることはなく、例えば偏光無依存型としても良い。偏光無依存型は、偏光子1及び検光子2の代わりに、複屈折結晶製くさびを配置した光アイソレータである。光入射側の複屈折結晶製くさびによって偏光を常光と異常光とに分離し、ファラデー回転子内を通過させてから、光出射側の複屈折結晶製くさびに入射し、この中で、1つの光としてから出射する。しかし、逆方向の光は、最終的に1つの光とならない。入射光の状態を問わず使用でき、汎用性の高いアイソレータとして使用できる。
【0055】
図3は、本発明のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子を用いた光アイソレータを備えた光加工器を示す模式図である。
【0056】
図3に示すように、光加工器100は、レーザ光源11と、レーザ光源11から出射されるレーザ光Lの光路P上に配置される光アイソレータ10とを備えている。この光加工器100によれば、レーザ光源11から出射されたレーザ光Lが光アイソレータ10を通って出射され、その出射光により被加工体Qを加工することが可能となっている。
【0057】
レーザ光源11は、発振波長が1060nm以上1100nm以下であるレーザ(具体的には、発振波長が1064nmであるNd:YAGレーザや、発振波長が1080nmであるYbドープファイバレーザ等)であり得る。あるいは、レーザ光源11は、波長395nm以上1060nm未満であるレーザ光源であってもよい。具体的には、発振波長が405nmであるGaN系半導体レーザ、発振波長が700nmであるチタンサファイアレーザ、発振波長が800nm又は850nmであるレーザなどがある。本発明のガーネット型単結晶は、これらのレーザ光源の波長の光に対して高い透過性を有しているので、高出力の光加工器を提供できる。
【0058】
なお、実施の形態2では、光アイソレータを備えた光加工器を説明したが、本発明のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子は、光アイソレータへの応用に限らない。例えば、本発明のガーネット型単結晶からなるファラデー回転子は、ファラデー回転角の変化を測定することにより磁界の変化を測定する光磁界センサに適用してもよい。
【0059】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
8配位サイトのTb3+の一部がM3+(Y3+)及びSc3+で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TYSAG−1)を、CZ法により製造した。以下、図1を参照しつつ説明する。
【0061】
まず、純度99.99%の酸化テルビウム(Tb)原料粉末と、純度99.99%の酸化アルミニウム(Al)原料粉末と、純度99.99%の酸化スカンジウム(Sc)原料粉末と、純度99.99%の酸化イットリウム(Y)原料粉末とを準備した。
【0062】
そして、上記各原料粉末を乾式混合して混合粉末を得た。このとき、混合粉末中の金属元素が、上記一般式(4)を満たす一般式(Tb2.850.15)ScAl3.1512.225における金属元素のモル比を満たすように、表1に示すように各原料粉末を秤量した。すなわち、実施例1では、アルミニウムがリッチとなるように混合粉末を調製した。ここでは、混合粉末の質量が約430gとなるようにした。次いで、混合粉末をIr製ルツボ21に投入した。るつぼの形状は円筒形であり、直径は約50mm、高さは約50mmであった。
【0063】
混合粉末を室温から約1950℃まで加熱して溶解させることにより融液24を得た。次いで、この溶液に、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)からなる3mm×3mm×70mmの角棒状の種結晶25の先端を接触させ、種結晶を、10rpmの回転数で回転させながら、種結晶を1時間当たり1mmの速度で引き上げ、バルク状の結晶26を育成した。このとき、結晶の育成はNガス雰囲気下で行い、Nガスの流量は1.0(l/min)とした。こうして直径約3cm、長さ約12cmの透明な単結晶を得た。単結晶を観察した結果を図4に示す。
【0064】
得られた単結晶についてX線回折を行った。また、広域X線吸収微細構造(EXAFS)振動により単結晶中の各原子の原子位置について調べた。EXAFS振動用の試料には、切り出した単結晶と、単結晶を粉砕した粉末とを用いた。切り出した単結晶試料は、8×5mm結晶片((111)研磨面)であった。粉末試料を、TYSAG−1/BN(窒化ホウ素)の質量比が180mg/300mgとなるようにBN粉末で希釈した後、10mm径の円形のペレット状に圧粉した。測定は、育成したまま(as−grown)の単結晶試料及び粉末試料、並びに、これらの試料を、1200℃で4時間、大気中、熱処理した試料について行った。
【0065】
EXAFS振動の測定は、European Synchrotron Radiation Facility(フランス、グルノーブル)のビームラインFAME及びSPLINEを用いて行った。EXAFSスペクトルを、イットリウムK−edge(17038eV)について蛍光法で測定した。得られたEXAFSスペクトルは、総合的DEMETERソフトウェアパッケージ(B.Ravelら,ATHENA,ARTEMIS,HEPHAESTUS:data analysis for X−ray absorption spectroscopy using IFEFFIT, Journal of Synchrotron Radiation 12,537-541 (2005))により解析された。結果を図5及び図6に示す。さらに、蛍光X線分析(XRF)により結晶の組成を調べた。結果を表2に示す。
【0066】
次いで、単結晶から3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出した。切り出した結晶について、透過スペクトル及び反射スペクトルを測定した。結果を図8に示す。得られた透過スペクトルから吸光度を求めた。結果を図10に示す。
【0067】
角棒状に切り出した結晶を用いてファラデー回転角を測定した。ファラデー回転角の測定は以下のようにして行った。まず偏光子と偏光子との間に単結晶を配置しない状態で偏光子を回転させて消光状態にした。次に角棒状に切り出した単結晶を、偏光子と偏光子との間に配置し、単結晶の長手方向に沿って0.42Tの磁束密度を印加した状態で光を入射し、再度偏光子を回転させて消光状態にした。そして、偏光子と偏光子との間に単結晶を挟む前の偏光子の回転角と、単結晶を挟んだ後の偏光子の回転角との差を算出し、この角度差をファラデー回転角とした。光源の波長は400nm以上1100nm以下の波長域で変化させた。
【0068】
次に、ファラデー回転角θと、光の通過距離Llight、磁界の強さHから、ファラデー効果においてθ=γLlightHと表される式の比例定数γであるベルデ定数(Verdet constant)を算出した。これらの結果を図12、表3及び表4に示す。
【0069】
[実施例2]
8配位サイトのTb3+の一部がSc3+及びM3+(Y3+)で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TYSAG−2)を、図1を参照して説明したCZ法により製造した。実施例2では、混合粉末中の金属元素が、上記一般式(3)を満たす一般式(Tb2.850.15)ScAl12における金属元素のモル比を満たすように、表1に示すように各原料粉末を秤量した以外は、実施例1と同様であった。すなわち、実施例2では、アルミニウムがリッチでない以外は実施例1と同様であった。
【0070】
実施例1と同様に、外観を観察し、X線回折、XAFS及びXRFを行った。実施例1と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。結果の一部を表2に示す。
【0071】
[実施例3]
8配位サイトのTb3+の一部がSc3+及びM3+(Lu3+)で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TLSAG−5)を、図1を参照して説明したCZ法により製造した。実施例3では、混合粉末中の金属元素が、一般式(Tb2.8Lu0.2)ScAl12における金属元素のモル比を満たすように、純度99.99%の酸化イットリウム(Y)原料粉末に代えて、純度99.99%の酸化ルテチウム(Lu)原料粉末を用い、表1に示すように各原料粉末を秤量し、混合粉末の質量が約400gとなるようにした以外は、実施例2と同様であった。
【0072】
実施例1と同様に、外観を観察し、X線回折、XAFS及びXRFを行った。ただし、EXAFSスペクトルは、ルテチウムLIII−edge(9244eV)について蛍光法で測定された。実施例1と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。結果の一部を図7及び表2に示す。
【0073】
[実施例4]
8配位サイトのTb3+の一部がSc3+及びM3+(Lu3+)で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TLSAG−4)を、図1を参照して説明したCZ法により製造した。実施例4では、混合粉末中の金属元素が、一般式(Tb2.9Lu0.1)ScAl12における金属元素のモル比を満たすように、表1に示すように各原料粉末を秤量した以外は、実施例3と同様であった。
【0074】
実施例3と同様に、外観を観察し、X線回折、XAFS及びXRFを行った。実施例3と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。結果の一部を表2に示す。
【0075】
[実施例5]
8配位サイトのTb3+の一部がSc3+及びM3+(Lu3+)で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TLSAG−3)を、図1を参照して説明したCZ法により製造した。実施例5では、混合粉末中の金属元素が、一般式(Tb2.95Lu0.05)ScAl12における金属元素のモル比を満たすように、表1に示すように各原料粉末を秤量した以外は、実施例3と同様であった。
【0076】
実施例3と同様に、外観を観察し、X線回折、XAFS及びXRFを行った。実施例3と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。結果の一部を、図9図11、及び図12、並びに表2〜表4に示す。
【0077】
[実施例6]
8配位サイトのTb3+の一部がSc3+及びM3+(Lu3+)で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TLSAG−2)を、図1を参照して説明したCZ法により製造した。実施例6では、混合粉末中の金属元素が、一般式(Tb2.995Lu0.005)ScAl12における金属元素のモル比を満たすように、表1に示すように各原料粉末を秤量した以外は、実施例3と同様であった。
【0078】
実施例3と同様に、外観を観察し、X線回折、XAFS及びXRFを行った。実施例3と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。
【0079】
[実施例7]
8配位サイトのTb3+の一部がSc3+及びM3+(Lu3+)で置換され、6配位サイトがAl3+及びSc3+からなるガーネット型単結晶(TLSAG−1)を、図1を参照して説明したCZ法により製造した。実施例7では、混合粉末中の金属元素が、一般式(Tb2.998Lu0.002)ScAl12における金属元素のモル比を満たすように、表1に示すように各原料粉末を秤量した以外は、実施例3と同様であった。
【0080】
実施例3と同様に、外観を観察し、X線回折、XAFS及びXRFを行った。実施例3と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。
【0081】
[比較例8]
特許文献1及び非特許文献2〜3に記載のガーネット型単結晶として、Tb(Sc1.95Lu0.05)Al12単結晶を育成した。詳細には、特許文献1の実施例1及び非特許文献2〜3を参照し、混合粉末中の金属元素が、一般式Tb(Sc1.95Lu0.05)Al12における金属元素のモル比を満たすように、実施例3と同様の原料粉末を用意し、同様の手順にて単結晶を育成した。
【0082】
実施例1と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。結果を表3及び表4に示す。
【0083】
[比較例9]
非特許文献1に代表されるTbGa12(TGG)として、Fujian Castech Crystals社製のTGG単結晶を用いた。実施例1と同様に、3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、切り出した単結晶について、透過スペクトル、反射スペクトル及び吸光度を求めた。角棒状の結晶を用いて、ファラデー回転角を測定し、ベルデ定数、ベルデパラメータを算出した。結果を図10図12、並びに表3及び表4に示す。
【0084】
以上の実施例及び比較例1〜8の単結晶の育成条件の一覧を、簡単のため、表1にまとめ、結果を説明する。
【0085】
【表1】
【0086】
図4は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)の観察結果を示す図である。
【0087】
図4によれば、実施例1の単結晶は、直径3cm、長さ12cmの透明な単結晶であり、クラックはなかった。このことから、混合粉末中のアルミニウムがリッチとなるよう上述の一般式(4)を満たすように原料粉末が調製されることにより、良質な単結晶が得られることが分かった。図示しないが、他の実施例においても同様に大型の透明な単結晶が得られ、上述の一般式(3)を満たすように原料粉末が調製されることによっても、良質な単結晶が得られることを確認した。また、X線回折によれば、いずれの実施例の単結晶のXRDパターンにおいても、TbAl12と同等のピークが確認され、ガーネット型単結晶であることが分かった。なお、「同等」とは、本発明の単結晶の構成元素は、TbAl12のそれと異なっているため、本発明の単結晶のXRDパターンのピークの位置は、TbAl12のXRDパターンのピークのそれからわずかにずれているものの、ピークパターンは一致しており、実質的に同じXRDパターンであることを意図している。
【0088】
以上より、本発明の製造方法を採用すれば、クラックのない大型の単結晶が得られることが確認された。また、混合粉末におけるアルミニウムの含有量がリッチであれば、良質な単結晶の育成が促進されることを確認した。
【0089】
図5は、ガーネット型単結晶のTbの周りの局所的な格子サイト環境を模式的に示す図である。
図6は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)のEXAFSスペクトルを示す図である。
図7は、実施例3の単結晶(TLSAG−5)のEXAFSスペクトルを示す図である。
【0090】
図5によれば、Tbサイトは、最近接原子として8個のO原子を、第2の近接原子として2個のAl原子を、第3の近接原子として4個のSc原子を、第4の近接原子として4個のTb原子を有する。
【0091】
図6及び図7によれば、測定したY/Luの周りの局所的な結晶環境は、極めて規則的であり、Y/Luの周りに4つの近接シェルが明瞭に観察された。このことは、実施例1の単結晶(TYSAG−1)及び実施例3の単結晶(TLSAG−5)は、極めて結晶性の高い結晶であることを示す。
【0092】
図6では、EXAFSスペクトル(実験データ)のフーリエ変換|χ(R)|を実線で、8配位のサイトにY3+がすべて存在する(すなわち、8個のOイオンからなる第1の近接シェル、2個のAlイオンからなる第2の近接シェル、4個のScイオンからなる第3の近接シェル及び4個のTbイオンからなる第4の近接しシェル)と仮定してフィッティングしたスペクトルのフーリエ変換|χ(R)|を一点鎖線で示す。これらのスペクトルは、極めて良好な一致を示した。このことから、本発明のガーネット型単結晶において、Y3+イオンは、8配位サイトにすべて置換されており、6配位サイトには存在しないことが確認された。
【0093】
同様に、図7でも、EXAFSスペクトル(実験データ)のフーリエ変換|χ(R)|を実線で、8配位のサイトにLu3+がすべて存在すると仮定してフィッティングしたスペクトルのフーリエ変換|χ(R)|を一点鎖線で示し、これらは極めて良好な一致を示した。このことから、本発明のガーネット型単結晶において、Lu3+イオンは、8配位サイトにすべて置換されており、6配位サイトには存在しないことが確認された。
【0094】
図示しないが、粉末試料及び熱処理後の単結晶/粉末試料のEXAFSスペクトル、並びに、他の実施例の試料についても、図6及び図7のそれと同じであった。
【0095】
次に、XRFによる組成分析の結果を表2に示す。表2には、参考のため、特許文献1の実施例1で得られたICP分析の結果を比較例8として示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2によれば、本発明のガーネット型単結晶は、下記一般式(2)で表され、
(Tb3−a−bSc)(Sc2−cAl)Al12−d ・・・(2)
パラメータa、b、c及びdは、
0<a≦0.6
0≦b≦0.2
0<c≦0.6
0≦d≦0.3
を満たすことが分かった。
【0098】
以上より、本発明のガーネット型単結晶は、Tb及びM(Mは、Y及び/又はLuである)を含む8配位サイト、Sc及びAlからなる6配位サイト、Alからなる4配位サイトで構成されており、クラックのない大型の単結晶であることが確認された。
【0099】
図8は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)の透過スペクトル及び反射スペクトルを示す図である。
図9は、実施例5の単結晶(TLSAG−3)の透過スペクトル及び反射スペクトルを示す図である。
【0100】
図8及び図9によれば、本発明のガーネット型単結晶は、波長395nm以上1500nm以下の全域にわたって極めて高い透過率を有することが分かった。その透過率は、反射率を考慮すれば、80%を超えていた。図示しないが、他の実施例についても同様の透過/反射スペクトルが得られた。このことから、本発明のガーネット型単結晶は、発振波長が1060nm以上1100nm以下であるレーザ(具体的には、1080nmであるYbドープファイバレーザ、発振波長が1064nmであるNd:YAGレーザ等)や、波長395nm以上1060nm未満である半導体レーザなどに好適であることが確認された。測定では、コーティングなどを付与していない切り出した単結晶を用いたが、切り出した単結晶にコーティングを付与すれば、透過率を実質100%まで増大できることは言うまでもない。
【0101】
図10は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)の吸収スペクトルを示す図である。
図11は、実施例5の単結晶(TLSAG−3)の吸収スペクトルを示す図である。
【0102】
図10及び図11には、比較のため、比較例9のTGGの吸収スペクトルを併せて示す。図10及び図11によれば、本発明のガーネット型単結晶の吸収係数は、波長400nm付近(具体的には395nm)においても極めて低い値を示したが、比較例9のTGGのそれは、波長400nm付近において急激に上昇した。図示しないが、他の実施例についても同様の吸収スペクトルが得られた。このことは、本発明のガーネット型単結晶が、TGGに比べて、欠陥のない良質な単結晶であることを示す。
【0103】
図12は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)及び実施例5の単結晶(TLSAG−3)のベルデ定数の波長依存性を示す図である。
【0104】
図12には、比較のため、比較例9のTGGのベルデ定数の波長依存性を併せて示す。図12に示すように、波長400nm〜1100nmの全波長域において、本発明のガーネット型単結晶のベルデ定数は、TGGのそれよりも大きかった。その増分は、8%に相当した。さらに、波長400nm〜1100nmの全波長域において、実施例5の単結晶(TLSAG−3)のベルデ定数は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)のそれよりも大きかった。実施例5の単結晶(TLSAG−3)のベルデ定数の増分は、TGGのそれに対して20%に相当した。このことから、元素Mが、Luの場合、大きなベルデ定数が得られることが示された。図示しないが、他の実施例についても同様のベルデ定数の波長依存性が得られ、いずれもTGGのそれよりも大きいことを確認した。
【0105】
表3にベルデパラメータを、表4に種々の波長におけるベルデ定数を示す。表3及び表4には、比較例8の単結晶(TSLAG)及び比較例9の単結晶(TGG)の結果も併せて示す。
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
表3によれば、本発明のガーネット型単結晶のベルデパラメータは、比較例9のTGGのそれよりも大きかった。このことは、本発明のガーネット型単結晶は、TGGに比べて、磁気光学特性に優れることを示す。詳細には、実施例5の単結晶(TLSAG−3)のベルデパラメータEは、実施例1の単結晶(TYSAG−1)のそれより大きく、比較例8の単結晶(TSLAG)のそれを凌ぐ又は匹敵することが分かった。
【0109】
表4によれば、図12を参照して説明したように、本発明のガーネット型単結晶のベルデ定数は、すべての波長において、比較例9のTGGのそれよりも大きかった。また、実施例5の単結晶(TLSAG−3)のベルデ定数は、実施例1の単結晶(TYSAG−1)のそれより大きく、比較例8の単結晶(TSLAG)のそれを凌ぐ又は匹敵することが分かった。
【0110】
図12、表3及び表4から、本発明のガーネット型単結晶は、TGGよりも優れた磁気光学特性を有しており、特許文献1〜3あるいは非特許文献2〜3の単結晶を凌ぐあるいは匹敵する磁気光学特性を有していることを確認した。このことから、本発明のガーネット型単結晶は、ファラデー回転子として有効であり、TGGより優れており、特許文献1〜3あるいは非特許文献2〜3の単結晶に代替できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のガーネット型単結晶において、8配位のイオンがTb及び元素M(元素Mは、Y及び/又はLuである)を含み、6配位のイオンがSc及びAlからなることにより、TGGより優れた光学特性及び磁気光学特性を有し、クラックのない大型化可能なガーネット型単結晶が得られる。このような本発明のガーネット型単結晶は、ファラデー回転子に適用され得、光アイソレータ、光加工器、光磁界センサ等に好適である。
【符号の説明】
【0112】
1 偏光子
2 検光子
3 ファラデー回転子
10 光アイソレータ
11 レーザ光源
20 結晶引上げ炉(結晶育成装置)
21 ルツボ
22 筒状容器
23 高周波コイル
24 融液
25 種結晶
26 育成結晶
100 光加工器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12