【解決手段】航空用ガスタービンエンジンに用いられる航空部品において、外周面を有する円環部と、円環部の外周面から径方向に突出するボス部7と、を有し、ボス部7には、所定の間隔を空けて、開口部10とボルト孔11とが径方向に貫通形成され、開口部10とボルト孔11との周囲のボス部7には、ボス部7の一部が欠損するぬすみ部15が形成されている。
前記欠損部が形成される前記ボス部の板厚は、前記円環部において最薄となる最薄部の板厚以上となっていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の航空部品。
前記欠損部は、前記ボス部の剛性が変化することによって発生する一次応力と、前記ボス部に与えられる熱によって発生する二次応力との総和が、最小となるように形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の航空部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のボス部は、補強リブを設けて、ボス部の剛性を高めることにより、熱応力による変化を低減している。しかしながら、補強リブを設けてボス部の剛性を高めると、部品の重量が増大することから、例えば、部品として航空部品に適用する場合、機体重量が増大してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、重量の増大を抑制しつつ、応力を低減して、製品寿命を長くすることができる航空部品及び航空用ガスタービンエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の航空部品は、航空用ガスタービンエンジンに用いられる航空部品において、外周面を有する円環部と、前記円環部の外周面から径方向に突出するボス部と、を有し、前記ボス部には、所定の間隔を空けて、少なくとも2つの貫通孔が径方向に貫通形成され、2つの前記貫通孔の周囲の前記ボス部には、前記ボス部の一部が欠損する欠損部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、2つの貫通孔の間に発生する応力を、欠損部を形成することで、分散させることができる。このため、応力集中が発生する部位において、欠損部により応力を分散させることができるため、応力集中が発生する部位の応力を低減することができ、製品寿命を長くすることができる。
【0008】
また、前記欠損部は、前記ボス部の周縁から、2つの前記貫通孔の間に向かって形成されるぬすみ部であることが、好ましい。
【0009】
この構成によれば、ぬすみ部を形成することで、2つの貫通孔の間に発生する応力を分散させることができる。
【0010】
また、前記ぬすみ部は、前記外周面内において、半円形状に形成されることが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、簡易な加工により、ぬすみ部を形成することができ、また、ぬすみ部の形状を半円形状とすることで、応力を適切に分散することができ、応力をより低減することができる。
【0012】
また、2つの前記貫通孔は、一方の前記貫通孔が開口部であり、他方の前記貫通孔が前記開口部よりも小さい開口面積となるボルト孔であり、前記ぬすみ部は、その半径が、前記ボルト孔の半径と同じ半径となっていることが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、ぬすみ部の半径をボルト孔の半径と同じ半径とすることで、応力を適切に分散することができ、応力をより低減することができる。
【0014】
また、前記欠損部は、前記ボス部の外面から窪む窪み部であることが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、窪み部を設けることで、ボス部の熱容量を小さくすることができるため、ボス部の温度が上昇し易くなり、ボス部の内外における温度勾配を小さくすることができる。
【0016】
また、前記欠損部が形成される前記ボス部の板厚は、前記円環部において最薄となる最薄部の板厚以上となっていることが、好ましい。
【0017】
この構成によれば、欠損部を形成する場合であっても、ボス部の剛性を担保することができるため、欠損部によるボス部の剛性低下を抑制することができる。
【0018】
また、前記欠損部は、前記ボス部の剛性が変化することによって発生する一次応力と、前記ボス部に与えられる熱によって発生する二次応力との総和が、最小となるように形成されることが、好ましい。
【0019】
この構成によれば、一次応力と二次応力との総和が最小となる欠損部を形成することができるため、一次応力及び二次応力をバランスよく低減することができる。
【0020】
本発明の航空用ガスタービンエンジンは、上記の航空部品を用いたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、応力を好適に低減した航空部品を用いることができるため、信頼性の高いものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0024】
[実施形態1]
実施形態1に係る航空部品は、航空用ガスタービンエンジンに用いられるものであり、例えば、燃焼器のケーシングを構成する部品となっている。ここで、
図1は、実施形態1に係る航空部品を模式的に示す斜視図である。
図2は、実施形態1に係る航空部品のボス部を径方向から見たときの平面図である。
図3は、実施形態1に係る航空部品の応力分布に関する説明図である。以下の説明では、航空部品1として、燃焼器のケーシングに適用する場合について説明するが、特に限定されず、いずれの航空部品1に適用してもよい。
【0025】
航空部品1は、円環部5とボス部7とを有している。円環部5は、所定の方向を軸方向として、周方向に円環状に形成されており、その外周面にボス部7が形成されている。円環部5は、その内部側の温度が高くなり、その外部側の温度が内部側の温度に比して低くなる。
【0026】
ボス部7は、円環部5の外周面から径方向の外側に突出して形成されている。ボス部7には、内外を径方向に貫通する円形の開口部10が形成されており、この開口部10には、図示しないダクトが接続される。また、開口部10の周囲のボス部7には、ダクトを航空部品1に締結するためのボルト孔11が径方向に複数貫通形成されている。具体的に、ボルト孔11は、3つ設けられ、3つのボルト孔11は、三角配置となっており、3つのボルト孔11の中心に開口部10が形成されている。ボス部7は、円環部5の板厚が最薄となる最薄部における厚さよりも厚く形成されている。また、ボス部7は、隣接する他のボス部7と連なって形成されている。
【0027】
このボス部7において、開口部10と所定のボルト孔11との間には、円環部5の内外の温度差によって熱応力が発生する。このため、開口部10と所定のボルト孔11との周囲のボス部7には、ボス部7の一部を欠損させた欠損部としてのぬすみ部15が形成されている。
【0028】
ぬすみ部15は、ボス部7の外郭となる周縁から、開口部10と所定のボルト孔11との間に向かって形成されている。このぬすみ部15は、例えば、フライス加工によって、ボス部7の周縁から、開口部10と所定のボルト孔11との間に向かって切削することにより形成される。ぬすみ部15は、開口部10と所定のボルト孔11とが対向する所定の方向(例えば、円環部5の軸方向)において、開口部10と所定のボルト孔11との間に形成されている。また、ぬすみ部15は、所定の方向に直交する直交方向(例えば、円環部5の周方向)において、2つ設けられ、2つのぬすみ部15は、開口部10の中心とボルト孔11の中心とを結ぶ結線を挟んで、左右対称に配置されている。
【0029】
ここで、各ぬすみ部15は、円環部5の径方向から見た外周面内において、所定の半径r2となる半円形状に形成されている。このぬすみ部15の半径r2は、例えば、フライス加工によって使用される切削工具の半径と同じ半径となっている。また、ぬすみ部15は、その半径r2が、ボルト孔11の半径r1と同じ半径となっている。
【0030】
このように形成されるぬすみ部15において、ぬすみ部15が形成されたボス部7の板厚は、ボス部7に隣接する円環部5の板厚と同じ厚さとなっている。つまり、円環部5の外周面と、ぬすみ部15の底面とは、連続する面となっている。また、ぬすみ部15が形成されたボス部7の板厚は、円環部5において最薄となる最薄部の板厚以上となっている。
【0031】
このぬすみ部15は、既に製造され運用されている既存の航空部品1に対して形成してもよいし、新たに製造する航空部品1に対して形成してもよく、特に限定されない。
【0032】
次に、
図3を参照して、実施形態1の航空部品1の応力分布と、従来の航空部品1の応力分布とについて比較する。
図3に示すS1は、ぬすみ部15を形成していない従来の航空部品1であり、
図3に示すS2は、ぬすみ部15を形成した実施形態1の航空部品1である。なお、
図3に示す航空部品1の応力分布は、FEM(Finite Element Method/有限要素法)解析によって得られた解析結果である。
【0033】
図3のS1に示すように、熱応力が集中するボス部7の部位としては、開口部10と所定のボルト孔11との間の部位であり、熱応力σ
1が発生している。一方で、
図3のS2に示すように、開口部10と所定のボルト孔11との周囲に2つのぬすみ部15を形成すると、熱応力が分散することで、開口部10と所定のボルト孔11との間の部位における熱応力σ
2が低減する。このとき、実施形態1において発生する熱応力σ
2は、従来の熱応力σ
1に対して、約26%低減することが確認された。
【0034】
以上のように、実施形態1によれば、開口部10とボルト孔11との間に発生する応力(熱応力)を、ぬすみ部15を形成することで、分散させることができる。このため、応力集中が発生する部位において、ぬすみ部15により応力を分散させることができるため、応力集中が発生する部位の応力を低減することができ、航空部品1の製品寿命を長くすることができる。
【0035】
また、実施形態1によれば、ぬすみ部15を半円形状に形成することで、簡易なフライス加工により、ぬすみ部15を形成することができる。また、ぬすみ部15の形状を半円形状とすることで、応力を適切に分散することができ、応力をより低減することができる。
【0036】
また、実施形態1によれば、ぬすみ部15の半径r2をボルト孔11の半径r1と同じ半径とすることで、応力を適切に分散することができ、応力をより低減することができる。
【0037】
また、実施形態1によれば、ぬすみ部15を形成する場合であっても、ボス部7の剛性を担保することができるため、ぬすみ部15によるボス部7の剛性低下を抑制することができる。
【0038】
また、実施形態1によれば、応力を好適に低減した航空部品1を用いることができるため、航空用ガスタービンエンジンの信頼性を高いものとすることができる。
【0039】
[実施形態2]
次に、
図4及び
図5を参照して、実施形態2に係る航空部品20について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図4は、実施形態2に係る航空部品のボス部を径方向から見たときの平面図である。
図5は、実施形態2に係る航空部品の熱分布に関する説明図である。
【0040】
実施形態2の航空部品20において、開口部10と所定のボルト孔11との周囲のボス部7には、ボス部7の一部を欠損させた欠損部として窪み部21が形成されている。
【0041】
窪み部21は、ボス部7の外面から窪むように形成されている。この窪み部21は、例えば、穿孔加工によって、ボス部7の外面から所定の深さDだけ、穿孔することにより形成される有底の孔となっている。窪み部21は、所定のボルト孔11を中心に、所定のボルト孔11の周囲に4つ形成されている。4つの窪み部21のうち、2つの窪み部21は、開口部10と所定のボルト孔11とが対向する所定の方向(例えば、円環部5の軸方向)において、開口部10と所定のボルト孔11との間に形成され、また、所定の方向に直交する直交方向(例えば、円環部5の周方向)において、開口部10の中心とボルト孔11の中心とを結ぶ結線を挟んで、左右対称に配置されている。4つの窪み部21のうち、残りの2つの窪み部21は、ボルト孔11を挟んで開口部10の反対側に形成されており、他の2つの窪み部21と、所定の方向(円環部5の軸方向)において、同じ位置となっている。
【0042】
また、窪み部21は、円環部5の径方向から見た外周面内において、所定の直径となる円形状に形成されている。この窪み部21の直径は、ボルト孔11よりも小さな直径となっている。
【0043】
また、このように形成される窪み部21において、窪み部21が形成されたボス部7の板厚は、円環部5において最薄となる最薄部の板厚以上となっている。
【0044】
この窪み部21は、既に製造され運用されている既存の航空部品20に対して形成してもよいし、新たに製造する航空部品20に対して形成してもよく、特に限定されない。
【0045】
このような窪み部21を形成すると、開口部10と所定のボルト孔11との周囲のボス部7における熱容量が小さくなる。このため、実施形態2のボス部7は、
図5に示すような熱分布となる。
【0046】
次に、
図5を参照して、実施形態2の航空部品20の熱分布と、従来の航空部品20の熱分布とについて比較する。
図5に示すS3は、窪み部21を形成していない従来の航空部品20であり、
図5に示すS4は、窪み部21を形成した実施形態2の航空部品20である。
【0047】
図5のS3に示すように、熱応力が集中するボス部7の部位としては、開口部10と所定のボルト孔11との間の部位であり、ボルト孔11の周囲におけるボス部7は、内部側(
図5の下側)の温度が高く、外部側(
図5の上側)の温度が低く、所定の温度勾配となっている。一方で、
図5のS4に示すように、開口部10と所定のボルト孔11との周囲に4つの窪み部21を形成すると、ボス部7周りの熱容量が小さくなることから、従来に比して、ボス部7の温度が上昇し易いものとなる。このため、ボルト孔11の周囲におけるボス部7は、従来に比して、温度勾配が低いものとなり、ボス部7の内外の温度差が小さいものとなる。
【0048】
以上のように、実施形態2によれば、窪み部21を設けることで、ボス部7の熱容量を小さくすることができるため、ボス部7の温度が上昇し易くなり、ボス部7の温度勾配を低くすることができる。このため、ボス部7の内外における温度差を小さくすることができ、開口部10とボルト孔11との間に発生する応力(熱応力)を低減することができるため、航空部品1の製品寿命を長くすることができる。
【0049】
なお、実施形態1及び2では、開口部10と所定のボルト孔11とに適用して説明したが、ボス部7を貫通する2つの貫通孔であればよく、熱応力が発生する部位であれば、ぬすみ部15または窪み部21を設ける位置は、特に限定されない。
【0050】
また、ぬすみ部15及び窪み部21の個数及び位置については、特に限定されず、熱応力を低減可能な個数及び位置であれば、いずれであってもよい。
【0051】
[実施形態3]
次に、
図6を参照して、実施形態3に係る航空部品1,20について説明する。なお、実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図6は、実施形態3に係る航空部品の応力に関する説明図である。
【0052】
実施形態3の航空部品1,20は、実施形態1及び2の航空部品1,20に形成されるぬすみ部15または窪み部21を、一次応力と二次応力との総和が最小となるように形成したものとなっている。ここで、一次応力とは、ぬすみ部15または窪み部21が形成されたボス部7の剛性が変化することによって発生する応力であり、
図6に示すL1となっている。つまり、ぬすみ部15の半径r2が大きくなったり、または、窪み部21の深さDが深くなったりするにつれて、ボス部7の剛性は低下することから、ボス部7に発生する一次応力L1は大きくなる。また、二次応力とは、ぬすみ部15または窪み部21が形成されたボス部7に与えられる熱によって発生する熱応力であり、
図6に示すL2となっている。つまり、ぬすみ部15の半径r2が大きくなったり、または、窪み部21の深さDが深くなったりするにつれて、ボス部7における応力の分散が向上することから、ボス部7に発生する二次応力L2は小さくなる。そして、
図6に示すL3は、一次応力L1と二次応力L2との総和となっている。そして、実施形態3では、総和L3が最小となるぬすみ部15の半径r2、または、総和L3が最小となる窪み部21の深さDとなるように、ぬすみ部15または窪み部21が形成される。
【0053】
以上のように、実施形態3によれば、一次応力L1と二次応力L2との総和L3が最小となる欠損部としてのぬすみ部15または窪み部21を形成することができるため、一次応力L1及び二次応力L2をバランスよく低減することができる。
【0054】
なお、実施形態3では、ぬすみ部15の半径r2、及び窪み部21の深さDをパラメータとする一次応力L1及び二次応力L2の変化について説明したが、一次応力L1及び二次応力L2を変化させるパラメータは、半径r2及び深さDに限定されない。例えば、一次応力L1及び二次応力L2を変化させるパラメータを、ぬすみ部15のボス部7の外面からの深さとしてもよく、この場合、総和L3が最小となる深さに、ぬすみ部15が形成される。同様に、一次応力L1及び二次応力L2を変化させるパラメータを、窪み部21の直径としてもよく、この場合、総和L3が最小となる直径に、窪み部21が形成される。