(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-137901(P2017-137901A)
(43)【公開日】2017年8月10日
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20170714BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20170714BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20170714BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20170714BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20170714BHJP
【FI】
F16F15/04 P
E04H9/02 331B
F16F15/02 Z
F16F1/40
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-17538(P2016-17538)
(22)【出願日】2016年2月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098095
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 武志
(72)【発明者】
【氏名】河内山 修
(72)【発明者】
【氏名】長弘 健太
(72)【発明者】
【氏名】木村 康成
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA03
2E139CC02
3J048AC06
3J048BA08
3J048BB02
3J048BC09
3J048DA01
3J048EA38
3J059AA01
3J059BA43
3J059BD05
3J059GA42
3J066AA26
3J066BA03
3J066BB04
3J066BC01
3J066BD07
3J066BF09
(57)【要約】
【課題】積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において、中空部の一端における振動減衰体の塑性流動を効果的に案内補助することができて、中空部の一端における振動減衰体の塑性流動をより確保できる結果、免震効果を向上し得る免震装置を提供すること。
【解決手段】免震装置1は、交互に積層されたゴム板2及び鋼板3を有する積層体7と、積層体7の内部に密閉されて設けられていると共に積層方向Aに伸びた中空部8と、中空部8に密に充填されていると共に剪断方向Bの振動エネルギを吸収して積層体7の剪断方向Bの振動を減衰させる鉛プラグ9と、鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において中空部8の積層方向Aの一端部10における鉛プラグ9の塑性流動を案内補助するべく、鉛プラグ9の積層方向Aの一端部11に接触する半凹球面12を有している蓋部材14とを具備している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、この積層体の内部に密閉されて設けられていると共に積層方向に伸びた中空部と、この中空部に密に充填されていると共に積層体の剪断方向の振動エネルギを吸収して積層体の剪断方向の振動を減衰させる振動減衰体と、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において中空部の積層方向の一端部における振動減衰体の塑性流動を案内補助するべく、振動減衰体の積層方向の一端部に接触する流動案内凹面を有していると共に中空部の積層方向の一端を閉塞する閉塞部材とを具備しており、中空部は、弾性層及び剛性層の内周面と流動案内凹面とで規定されている免震装置。
【請求項2】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、流動案内凹面で規定された半球状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、半凹球面を具備している請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、流動案内凹面で規定された円錐台状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、半凹球面と、この半凹球面に連接された平坦面とを具備している請求項1に記載の免震装置。
【請求項4】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、流動案内凹面で規定された半円柱状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、半円筒凹面を具備している請求項1に記載の免震装置。
【請求項5】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、流動案内凹面で規定された方形台状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、一対の半円筒凹面と、この一対の半円筒凹面の夫々に連接された平坦面とを具備している請求項1に記載の免震装置。
【請求項6】
積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において中空部の積層方向の他端部における振動減衰体の塑性流動を案内補助するべく、振動減衰体の積層方向の他端部に接触する他の流動案内凹面を有していると共に中空部の積層方向の他端を閉塞する他の閉塞部材とを更に具備しており、中空部は、更に他の流動案内凹面で規定されている請求項1に記載の免震装置。
【請求項7】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された半球状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、半凹球面を具備している請求項6に記載の免震装置。
【請求項8】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された円錐台状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、半凹球面と、この半凹球面に連接された平坦面とを具備している請求項6に記載の免震装置。
【請求項9】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された半円柱状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、半円筒凹面を具備している請求項6に記載の免震装置。
【請求項10】
中空部は、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された方形台状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、一対の半円筒凹面と、この一対の半円筒凹面の夫々に連接された平坦面とを具備している請求項6に記載の免震装置。
【請求項11】
振動減衰体は、振動エネルギの吸収を変形で行う減衰材料からなる請求項1から10のいずれか一項に記載の免震装置。
【請求項12】
減衰材料は、鉛、錫、亜鉛、アルミニウム、銅、ニッケル又はこれらの合金からなる請求項11に記載の免震装置。
【請求項13】
減衰材料は、鉛、錫、非鉛系低融点合金からなる請求項11に記載の免震装置。
【請求項14】
減衰材料は、亜鉛・アルミニウム合金等の超塑性合金からなる請求項11に記載の免震装置。
【請求項15】
振動減衰体は、振動エネルギの吸収を塑性流動で行う減衰材料からなる請求項1から10のいずれか一項に記載の免震装置。
【請求項16】
減衰材料は、熱可塑性樹脂と、ゴム粉とを含んでいる請求項15に記載の免震装置。
【請求項17】
減衰材料は、熱硬化性樹脂と、ゴム粉とを含んでいる請求項15に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関し、更に詳しくは、二つの構造物間に配されて両構造物間の相対的な振動のエネルギを吸収し、一方の構造物から他方の構造物への振動加速度を低減するための装置、特に地震エネルギを減衰して地震入力加速度を低減し、建築物、橋梁等の構造物の損壊を防止する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交互に積層された弾性層及び剛性層並びにこれら弾性層及び剛性層の内周面で規定された中空部を有する積層体と、この積層体の中空部に配されていると共に変形により積層体の剪断方向の振動エネルギを吸収して積層体の剪断方向の振動を減衰させる減衰材料としての鉛からなる鉛プラグ(鉛支柱)とを具備した免震装置は、知られている。
【0003】
斯かる免震装置は、地震に起因する積層体の積層方向の一端に対しての構造物の水平方向の振動を鉛プラグの変形で減衰させる一方、同じく地震に起因する積層体の積層方向の一端の水平方向の振動の構造物への伝達を積層体の剪断変形で抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−8181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の免震装置では、積層体の剪断変形に応じた鉛プラグの変形において、鉛プラグを形成する鉛の塑性流動が生じるが、この塑性流動は、積層体の一端の剛性層の内周面と中空部の積層方向の一端を閉塞する閉塞部材の面とで規定された中空部の一端に配された鉛プラグの一端を介して行われる結果、この中空部の一端における鉛プラグの一端での塑性流動を効果的に行わせることが、免震効果を向上させ得る。
【0006】
斯かる中空部の一端における塑性流動は、塑性変形により積層体の剪断方向の振動エネルギを吸収する鉛プラグの鉛に限らないのであって、塑性流動自体により積層体の剪断方向の振動エネルギを吸収して積層体の剪断方向の振動を減衰させるその他の減衰材料からなる振動減衰体でも生じ得る。
【0007】
本発明は上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において、中空部の一端における振動減衰体の塑性流動を効果的に案内補助することができて、中空部の一端における振動減衰体の塑性流動をより確保できる結果、免震効果を向上し得る免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による免震装置は、交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、この積層体の内部に密閉されて設けられていると共に積層方向に伸びた中空部と、この中空部に密に充填されていると共に積層体の剪断方向の振動エネルギを吸収して積層体の剪断方向の振動を減衰させる振動減衰体と、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において中空部の積層方向の一端部における振動減衰体の塑性流動を案内補助するべく、振動減衰体の積層方向の一端部に接触する流動案内凹面を有していると共に中空部の積層方向の一端を閉塞する閉塞部材とを具備しており、中空部は、弾性層及び剛性層の内周面と流動案内凹面とで規定されている。
【0009】
本発明の免震装置によれば、積層体の剪断方向の振動エネルギを吸収して積層体の剪断方向の振動を減衰させる振動減衰体が密に充填されている中空部の積層方向の一端を閉塞する閉塞部材が、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において中空部の積層方向の一端部における振動減衰体の塑性流動を案内補助するべく、振動減衰体の積層方向の一端部に接触する流動案内凹面を有しているために、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において、中空部の一端部における振動減衰体の塑性流動を効果的に案内補助することができて、中空部の一端部における振動減衰体の一端部の塑性流動をより効果的に確保できる結果、免震効果をより向上し得る。
【0010】
本発明の免震装置において、流動案内凹面は、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において中空部の積層方向の一端部における振動減衰体の塑性流動を案内補助できれば、いずれの形態であってもよいのであるが、中空部は、好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、流動案内凹面で規定された半球状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、半凹球面を具備しており、他の好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、流動案内凹面で規定された円錐台状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、半凹球面と、この半凹球面に連接された平坦面とを具備しており、更に他の好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、流動案内凹面で規定された半円柱状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、半円筒凹面を具備しており、更に他の好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、流動案内凹面で規定された方形台状中空部とを具備しており、流動案内凹面は、一対の半円筒凹面と、この一対の半円筒凹面の夫々に連接された平坦面とを具備している。
【0011】
本発明の免震装置は、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において中空部の積層方向の他端部における振動減衰体の塑性流動を案内補助するべく、振動減衰体の積層方向の他端部に接触する他の流動案内凹面を有していると共に中空部の積層方向の他端を閉塞する他の閉塞部材を更に具備していてもよく、この場合、中空部は、更に他の流動案内凹面で規定されている。
【0012】
他の流動案内凹面を有した他の閉塞部材を更に具備している本発明の免震装置では、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において、中空部の他端部における振動減衰体の他端部の塑性流動をも効果的に案内補助することができて、中空部の他端部における振動減衰体の他端部の塑性流動をより効果的に確保できる結果、免震効果をより向上し得る。
【0013】
斯かる他の閉塞部材を更に具備している本発明の免震装置において、中空部は、好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された半球状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、半凹球面を具備しており、他の好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された円柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された円錐台状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、半凹球面と、この半凹球面に連接された平坦面とを具備しており、更に他の好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された半円柱状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、半円筒凹面を具備しており、更に他の好ましい例では、弾性層及び剛性層の内周面で規定された四角柱状中空部と、他の流動案内凹面で規定された方形台状中空部とを具備しており、他の流動案内凹面は、一対の半円筒凹面と、この一対の半円筒凹面の夫々に連接された平坦面とを具備している。
【0014】
中空部が円柱状中空部と半球状中空部又は円錐台状中空部とを具備している本発明の免震装置の場合には、種々の剪断方向の積層体の変形に対応して中空部の一端又は他端における振動減衰体の塑性流動をより効果的に確保できる一方、中空部が四角柱状中空部と半円柱状中空部又は方形台状中空部とを具備している本発明の免震装置の場合には、半円柱状中空部又は方形台状中空部を規定する円筒凹面の中心線に直交する剪断方向の積層体の変形に対応して中空部の一端又は他端における振動減衰体の塑性流動をより効果的に確保でき、而して、前者の場合には、積層体の剪断変形に関して無方向性をもった免震装置を提供でき、後者の場合には、積層体の剪断変形に関して方向性をもった免震装置を提供できる。
【0015】
本発明の免震装置において、振動減衰体は、好ましい例では、振動エネルギの吸収を変形で行う減衰材料からなり、斯かる減衰材料は、鉛、錫、亜鉛、アルミニウム、銅、ニッケル又はこれらの合金からなっていても、鉛、錫、非鉛系低融点合金(例えば、錫−亜鉛系合金、錫−ビスマス系合金及び錫−インジウム系合金より選ばれる錫含有合金であって、具体的には、錫42〜43重量%及びビスマス57〜58重量%を含む錫−ビスマス合金等)からなっていても、亜鉛・アルミニウム合金等の超塑性合金からなっていてもよく、また、振動減衰体は、他の好ましい例では、振動エネルギの吸収を塑性流動で行う減衰材料からなり、斯かる塑性流動で振動エネルギを吸収する減衰材料は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂と、ゴム粉とを含んでいてもよく、熱可塑性樹脂としては、好ましい例として、タッキーファイヤー樹脂を挙げることができ、熱硬化性樹脂は、好ましくは、各種のフェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させてなるレゾール型フェノール樹脂や酸触媒の存在下で反応させてなるノボラツク型フェノール樹脂等のフェノール樹脂とを含んでいてもよく、熱硬化性樹脂は、硬化後の振動減衰体の再度の振動における変形で細かく粉砕され得る。斯かる減衰材料からなる振動減衰体は、単一塊状体の形態を有していても、これに代えて、積層方向において分割積層された分割積層体又は粒状若しくは粉体状の減衰材料を圧縮した圧縮体等の形態を有していてもよい。
【0016】
本発明の免震装置において弾性層の素材としては、天然ゴム、シリコンゴム、高減衰ゴム、ウレタンゴム又はクロロプレンゴム等のゴムを挙げることができるが、好ましくは天然ゴムであり、斯かるゴムからなるゴム板等の弾性層の各層は、好ましくは、無負荷状態において1mm〜30mm程度の厚みを有しているが、これに限定されず、また、剛性層としては、鋼板、炭素繊維、ガラス繊維若しくはアラミド繊維等の繊維補強合成樹脂板又は繊維補強硬質ゴム板等を好ましい例として挙げることができ、剛性層の各層は、1mm〜6mm程度の厚みを有していても、また、積層方向における最上位及び最下位の剛性層は、最上位及び最下位の剛性層以外の最上位及び最下位の剛性層間に配される剛性層の厚みよりも厚い、例えば10mm〜50mm程度の厚みを有していてもよいが、これらに限定されず、加えて、弾性層及び剛性層は、その層数においても特に限定されず、免震対象物の荷重、剪断変形量(水平方向歪量)、弾性層の弾性率、予測される免震対象物への振動加速度の大きさの観点から、安定な免震特性を得るべく、弾性層及び剛性層の層数を決定すればよい。
【0017】
また、本発明では、積層体の内部に密閉されて設けられた中空部は、一つでもよいが、これに代えて、複数個でもよく、この複数個の中空部に夫々に振動減衰体を配し、複数個の中空部の全て又は一部を上述の弾性層及び剛性層の内周面と流動案内凹面とで規定して、これらの内周面と流動案内凹面とで振動減衰体を拘束した免震装置を構成してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、積層体の剪断方向の振動での振動減衰体の変形において、中空部の一端における振動減衰体の塑性流動を効果的に案内補助することができて、中空部の一端における振動減衰体の塑性流動をより確保できる結果、免震効果を向上し得る免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施の形態の一具体例の
図2に示すI−I線矢視断面説明図である。
【
図3】
図3は、
図1の例における鉛プラグと蓋部材との詳細斜視説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の好ましい他の具体例の断面説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の好ましい更に他の具体例の振動減衰体及び閉塞部材の斜視説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の好ましい更に他の具体例の振動減衰体及び閉塞部材の斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の実施の形態を図に示す好ましい具体例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されないのである。
【0021】
図1から
図4において、本例の免震装置1は、交互に積層された弾性層としての円環状の複数枚のゴム板2及び剛性層としての鋼板3に加えて、ゴム板2及び鋼板3の円環状の外周面4及び5を被覆していると共にゴム板2と同一のゴム材料からなる円筒状の被覆層6を有する円筒状の積層体7と、積層体7の内部に密閉されて設けられていると共に積層方向Aに伸びた中空部8と、中空部8に密に充填されていると共に剪断方向Bの変形により積層体7の剪断方向Bの振動エネルギを吸収して積層体7の剪断方向Bの振動を減衰させる振動減衰体としての鉛プラグ9と、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の当該剪断方向Bの変形において中空部8の積層方向Aの一端部10における鉛プラグ9の塑性流動を案内補助するべく、鉛プラグ9の積層方向Aの一端部11に接触する流動案内凹面としての半凹球面12を有していると共に中空部8の積層方向Aの一端13を閉塞する閉塞部材としての蓋部材14と、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の当該剪断方向Bの変形において中空部8の積層方向Aの他端部15における鉛プラグ9の塑性流動を案内補助するべく、鉛プラグ9の積層方向Aの他端部16に接触する流動案内凹面としての半凹球面17を有していると共に中空部8の積層方向Aの他端18を閉塞する閉塞部材としての蓋部材19と、積層体7の円環状の上面20に設けられた円環状の上取付板21と、積層体7の円環状の下面22に設けられた円環状の下取付板23とを具備している。
【0022】
鋼板3は、積層方向Aの最上位及び最下位の円環状の鋼板3a及び3bと、積層方向Aにおける鋼板3a及び3b間の複数枚の円環状の鋼板3cとを具備しており、鋼板3a及び3bの夫々は、鋼板3cの夫々の厚みよりも大きく且つ互いに同一の厚みを有しており、複数枚の鋼板3cの夫々は、鋼板3a及び3bの夫々の厚みよりも小さく且つ互いに同一の厚みを有している。
【0023】
被覆層6の円筒状の外周面25からなる円筒状の外周面を有した積層体7において、ゴム板2、鋼板3及び被覆層6の夫々は、互いに加硫接着されて一体化されている。
【0024】
中空部8は、ゴム板2の夫々の円環状の内周面31及び鋼板3cの夫々の円環状の内周面32からなる円筒状の内周面33で規定された円柱状中空部34と、積層方向Aにおいて円柱状中空部34の一端面に連接されていると共に半凹球面12で規定された半球状中空部35と、積層方向Aにおいて円柱状中空部34の他端面に連接されていると共に半凹球面17で規定された半球状中空部36とを具備している。
【0025】
変形で振動エネルギを吸収する減衰材料としての純度99.9%程度の鉛からなる鉛プラグ9は、内周面33に隙間なしに密に接触した円筒状の外周面41を有した円柱状部42と、積層方向Aにおいて円柱状部42の一端面に連接されていると共に半凹球面12に隙間なしに密に接触した半凸球面46を有した一端部11としての半球状部43と、積層方向Aにおいて円柱状部42の他端面に連接されていると共に半凹球面17に隙間なしに密に接触した半凸球面44を有した他端部16としての半球状部45とを具備している。
【0026】
蓋部材14は、内周面33の半径と同一の曲率半径を有した半凹球面12に加えて、内周面33の径と同一の径をもった円筒面51と、積層方向Aにおいて半凹球面12に対向していると共に内周面33の径と同一の径をもった円形面52とを具備しており、蓋部材19もまた、内周面33の半径と同一の曲率半径を有した半凹球面17に加えて、内周面33の径と同一の径をもった円筒面55と、積層方向Aにおいて半凹球面12に対向していると共に内周面33の径と同一の径をもった円形面56とを具備している。
【0027】
一方の構造物である上部構造物61に複数のアンカーボルト62を介して免震装置1を取付けるための上取付板21は、内周面33の径と同一の径をもった円筒状の内周面63で規定された円形の貫通孔64を有しており、複数のボルト65を介して鋼板3aの上面66に下面67で固定されており、中央に貫通孔64を有した上取付板21は、アンカーボルト62及びボルト65の夫々が挿通されると共に円周方向Rに等間隔に配列された複数の貫通孔68及び69を有しており、他方の構造物である下部構造物71に複数のアンカーボルト72を介して免震装置1を取付けるための下取付板23は、内周面33の径と同一の径をもった内周面73で規定された貫通孔74を有しており、複数のボルト75を介して鋼板3bの下面76に上面77で固定されており、中央に貫通孔74を有した下取付板23は、アンカーボルト72及びボルト75の夫々が挿通されると共に円周方向Rに等間隔に配列された複数個の貫通孔78及び79を有している。
【0028】
蓋部材14は、その円形面52が上取付板21の円環状の上面81に対して面一をもって、内周面33の径と同一の径をもって内周面33に連接されていると共に鋼板3aの内周面32で規定された鋼板3aの円形の貫通孔82及び貫通孔82に連通した貫通孔64において隙間なしに鋼板3a及び上取付板21に嵌装されて、上取付板21に溶接等により固定されており、蓋部材19は、その円形面56が下取付板23の円環状の下面85に対して面一をもって、内周面33の径と同一の径をもって内周面33に連接されていると共に鋼板3bの内周面32で規定された鋼板3bの円形の貫通孔86及び貫通孔86に連通した円形の貫通孔74において鋼板3b及び下取付板23に嵌装されて、下取付板23に溶接等により固定されている。
【0029】
積層方向Aにおいて上部構造物61及び下部構造物71間に介在されていると共に上部構造物61の鉛直荷重を受容する以上の免震装置1では、上部構造物61に対する下部構造物71の地震等の水平方向(剪断方向B)の振動で、
図4に示すように、積層体7及び鉛プラグ9が剪断方向Bに剪断変形され、ゴム板2は、その剪断方向Bの剪断変形で下部構造物71の地震等の水平方向の加速度の上部構造物61への伝達を抑制し、鉛プラグ9は、その剪断方向Bの変形で下部構造物71から上部構造物61に伝達された水平方向の振動を減衰させ、而して、免震装置1は、下部構造物71に対して上部構造物61を免震支持するようになっている。
【0030】
免震装置1では、積層体7の剪断方向Bの振動エネルギを吸収して積層体7の剪断方向Bの振動を減衰させる鉛プラグ9が密に充填されている中空部8の積層方向Aの一端13を閉塞する蓋部材14が、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において中空部8の積層方向Aの一端部10における鉛プラグ9の塑性流動Cを案内補助するべく、鉛プラグ9の積層方向Aの半球状部43からなる一端部11に接触する半凹球面12を有している一方、当該中空部8の積層方向Aの他端18を閉塞する蓋部材19が、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において中空部8の積層方向Aの他端部15における鉛プラグ9の塑性流動Dを案内補助するべく、鉛プラグ9の積層方向Aの半球状部45からなる他端部16に接触する半凹球面17を有しているために、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において、当該鉛プラグ9の剪断方向Bの変形に起因する中空部8の一端部10及び他端部15における鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の塑性流動C及びDを効果的に案内補助することができて、中空部8の半球状中空部35からなる一端部10及び半球状中空部36からなる他端部15における鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の塑性流動C及びDをより効果的に確保できる結果、免震効果をより向上し得る。
【0031】
上記の免震装置1では、中空部8は、円柱状中空部34と半球状中空部35及び36とを具備しているが、これに代えて、
図5に示すように、曲率に関して半凹球面12の半径よりも小径の半径をもつと共に全体として円環状である半凹球面101と半凹球面101に連接された円形の平坦面102とからなる全体として円形の流動案内凹面103を具備した閉塞部材としての円板状の蓋部材104を貫通孔82に嵌装し、同じく、曲率に関して半凹球面17の半径よりも小径の半径をもつと共に全体として円環状である半凹球面111と半凹球面111に連接された全体として円形の平坦面112とからなる全体として円形の流動案内凹面113を具備した閉塞部材としての円板状の蓋部材114を貫通孔86に嵌装してもよく、この場合、中空部8は、内周面33で規定された円柱状中空部34と、積層方向Aにおいて円柱状中空部34の一端面に連接されていると共に流動案内凹面103で規定された円錐台状中空部121と、積層方向Aにおいて円柱状中空部34の他端面に連接されていると共に流動案内凹面113で規定された円錐台状中空部122とを具備しており、而して、鉛プラグ9は、円柱状中空部34、円錐台状中空部121及び122の夫々に充填された円柱状部42並びに積層方向Aにおいて円柱状部42の一端面及び他端面に連接されている一端部11及び他端部16としての円錐台部125及び126とを具備している。斯かる蓋部材104及び114を具備した免震装置1では、
図5に示すように、貫通孔64を省いた上取付板21と蓋部材104との間及び貫通孔74を省いた下取付板23と蓋部材114との間の夫々に剪断キー115及び116を嵌め込んでもよい。
【0032】
図5に示す免震装置1でも、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において、中空部8の一端部10及び他端部15における鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の塑性流動C及びDを流動案内凹面103及び113で効果的に案内補助することができて、中空部8の一端部10及び他端部15における鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の塑性流動C及びDをより効果的に確保できる結果、免震効果をより向上し得る。
【0033】
上記の免震装置1では、振動減衰体としての鉛プラグ9は、円柱状部42と、半球状部43及び45又は円錐台部125及び126とを具備しているが、これに代えて、振動減衰体としての鉛プラグ9は、
図6に示すように、四個の長方形の外面131を有した四角柱部132と、積層方向Aにおいて四角柱状部132の一端面に連接されていると共に半円筒面133を有した半円柱状部134と、積層方向Aにおいて四角柱部132の他端面に連接されていると共に半円筒面135を有した半円柱状部136とを具備していてもよく、この場合、閉塞部材としての蓋部材14に対応した蓋部材141は、円形面52に対応した方形面142と、円筒面51に対応した変形角筒面143と、半円筒面133に相補的な形状を有して半円筒面133にぴったりと接触すると共に流動案内凹面としての半凹球面12に対応した半円筒凹面144とを具備しており、他の閉塞部材としての蓋部材19に対応した蓋部材151は、円形面56に対応した方形面152と、円筒面55に対応した変形角筒面153と、半円筒面135に相補的な形状を有して半円筒面135にぴったりと接触すると共に流動案内凹面としての半凹球面17に対応した半円筒凹面154とを具備しており、斯かる鉛プラグ9並びに蓋部材141及び151をもった免震装置1では、当該鉛プラグ9が充填された中空部8は、ゴム板2の夫々の矩形状の内周面及び鋼板3cの夫々の矩形状の内周面からなる角筒状の内周面(外面131に相補的に対応)で規定されていると共に四角柱状部132が配された四角柱状中空部と、積層方向Aにおいてこの四角柱状中空部の一端面に連接されていると共に半円柱状部134が配されており、且つ、半円筒凹面144で規定された半円柱状中空部と、積層方向Aにおいて該四角柱状中空部の他端面に連接されていると共に半円柱状部136が配されおり、且つ、半円筒凹面154で規定された他の半円柱状中空部とを具備しており、蓋部材141は、円形の貫通孔82及び64に代えて、鋼板3aの矩形状の内周面で規定された矩形の貫通孔82及び上取付板21の矩形状の内周面63で規定された矩形の貫通孔64に隙間なしに鋼板3a及び上取付板21に嵌装されており、蓋部材151は、円形の貫通孔86及び74に代えて、鋼板3bの矩形状の内周面で規定された矩形の貫通孔86及び下取付板23の矩形状の内周面73で規定された矩形の貫通孔74に隙間なしに鋼板3a及び上取付板21に嵌装されることになる。
【0034】
図6に示すような鉛プラグ9及び当該鉛プラグ9が隙間なしに充填された中空部8並びに蓋部材141及び151をもった免震装置1でも、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において、中空部8の一端部10及び他端部15における鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の塑性流動C及びDを半円筒凹面144及び154で効果的に案内補助することができて、鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の半円柱状部134及び136の夫々の塑性流動C及びDをより効果的に確保できる結果、免震効果をより向上し得る。
【0035】
また、蓋部材141において、半円筒凹面144からなる流動案内凹面に代えて、
図7に示すように、曲率に関して半円筒凹面144の半径よりも小径の半径をもつと共に全体として矩形である一対の半円筒凹面161と、一対の半円筒凹面161の夫々に連接された全体として矩形である平坦面162とからなる全体として矩形の流動案内凹面163とする一方、蓋部材151において、半円筒凹面154からなる流動案内凹面に代えて、曲率に関して半円筒凹面154の半径よりも小径の半径をもつと共に全体として矩形である一対の半円筒凹面171と、一対の半円筒凹面円171の夫々に連接された全体として矩形である平坦面172とからなる全体として矩形の流動案内凹面173として、四角柱状部132に対応する四角柱状中空部と、蓋部材141の面流動案内凹面163で規定された方形台状中空部と、蓋部材151の流動案内凹面173で規定された方形台状中空部とを具備して中空部8を構成してもよく、この場合には、鉛プラグ9は、四角柱状中空部に配された四角柱状部132と、流動案内凹面163で規定された方形台状中空部に配されていると共に流動案内凹面163に相補的な形状の上面181をもった方形台部182と、流動案内凹面173で規定された方形台状中空部に配さていると共に流動案内凹面173に相補的な形状の下面183をもった方形台部184とからなる。
【0036】
図7に示す蓋部材141及び151並びに鉛プラグ9及び当該鉛プラグ9が隙間なしに充填された中空部8を有した免震装置1でも、積層体7の剪断方向Bの振動での鉛プラグ9の剪断方向Bの変形において、中空部8の一端部10及び他端部15における鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の塑性流動C及びDを流動案内凹面163及び173で効果的に案内補助することができて、鉛プラグ9の一端部11及び他端部16の方形台部182及び184の夫々の塑性流動C及びDをより効果的に確保できる結果、免震効果をより向上し得る。
【0037】
図1から5に示すような鉛プラグ9をもった免震装置1では、積層体7の剪断方向Bの剪断変形に関して無方向性を有するが、
図6又は
図7に示すような鉛プラグ9をもった免震装置1では、積層体7の剪断方向Bの剪断変形に関して方向性を有することになる。なお、
図6又は
図7に示す免震装置1において、角部に面取り、例えばアール面取りを施してもよい。
【0038】
また、
図7に示す蓋部材141及び151並びに鉛プラグ9及び当該鉛プラグ9が隙間なしに充填された中空部8を、
図1から
図5に示す蓋部材14及び19並びに鉛プラグ9及び中空部8に代えて、当該
図1から
図5に示す免震装置1に用いてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 免震装置
2 ゴム板
3 鋼板
4、5 外周面
6 被覆層
7 積層体
8 中空部
9 鉛プラグ
10、11 一端部
12、17 半凹球面
13 一端
14、19 蓋部材
15、16 他端部
18 他端
20 上面
21 上取付板
22 下面
23 下取付板