(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-138068(P2017-138068A)
(43)【公開日】2017年8月10日
(54)【発明の名称】航空部品及び航空用ガスタービンエンジン
(51)【国際特許分類】
F23R 3/42 20060101AFI20170714BHJP
【FI】
F23R3/42 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-19997(P2016-19997)
(22)【出願日】2016年2月4日
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 智之
(72)【発明者】
【氏名】植月 康之
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大田 貴史
(57)【要約】
【課題】応力を低減して、製品寿命を長くすることができる航空部品等を提供する。
【解決手段】航空用ガスタービンエンジンに用いられる航空部品1において、外周面を有する円環部5と、円環部5の軸方向の一方の端部に形成されるフランジ部6と、円環部5の外周面から径方向に突出するボス部7と、を備え、円環部5の軸方向に沿って切った断面において、フランジ部6とボス部7との間における円環部5の外周面の形状は、フランジ部6からボス部7に向かって板厚が厚くなるテーパ形状に形成されたテーパ部15となっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空用ガスタービンエンジンに用いられる航空部品において、
外周面を有する円環部と、
前記円環部の軸方向の一方の端部に形成されるフランジ部と、
前記円環部の外周面から径方向に突出するボス部と、を備え、
前記円環部の軸方向に沿って切った断面において、前記フランジ部と前記ボス部との間における前記円環部の前記外周面の形状は、前記フランジ部から前記ボス部に向かって板厚が厚くなるテーパ形状に形成されたテーパ部となっていることを特徴とする航空部品。
【請求項2】
前記円環部の軸方向における前記フランジ部と前記ボス部との間の距離をdとし、
前記円環部の軸方向における前記テーパ部の長さをd’とすると、
前記テーパ部の長さd’は、0.5d≦d’ ≦dの範囲となっていることを特徴とする請求項1に記載の航空部品。
【請求項3】
前記円環部の軸方向における前記フランジ部と前記ボス部との間の距離をdとし、
前記円環部の軸方向に対する前記テーパ部の傾斜角度をθとし、
前記円環部において最薄となる最薄部の板厚をtとし、
前記ボス部における板厚をhとすると、
前記傾斜角度θは、0.3(h−t)/d≦θ≦(h−t)/dの範囲となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の航空部品。
【請求項4】
前記フランジ部は、前記円環部の周方向に延在して形成され、
前記ボス部は、前記フランジ部と対向する部位が、前記フランジ部と平行に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の航空部品。
【請求項5】
前記フランジ部と平行となる前記ボス部の幅をaとし、
前記ボス部に貫通形成されるボルト孔を中心とする前記ボス部の周縁の曲率半径をbとすると、
前記ボス部の幅aは、b<a<3bの範囲となっていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の航空部品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された航空部品を用いたことを特徴とする航空用ガスタービンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ部及びボス部を有する円環状の航空部品及び航空用ガスタービンエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、航空部品として、ガスタービンエンジンの燃焼ケースがある(例えば、特許文献1参照)。この燃焼ケースには、開口が形成されており、開口の強度を高めるべく、ボス部が形成されている。このボス部には、T字型のスロットが形成されることで、ボス部に発生する応力を緩和する等の応力低減策がとられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−232520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の航空部品では、T字型スロットを形成するにあたって、円周方向にバンド部を形成することから、設計変更が大きなものとなる。
【0005】
そこで、本発明は、応力を低減して、製品寿命を長くすることができる航空部品及び航空用ガスタービンエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の航空部品は、航空用ガスタービンエンジンに用いられる航空部品において、外周面を有する円環部と、前記円環部の軸方向の一方の端部に形成されるフランジ部と、前記円環部の外周面から径方向に突出するボス部と、を備え、前記円環部の軸方向に沿って切った断面において、前記フランジ部と前記ボス部との間における前記円環部の前記外周面の形状は、前記フランジ部から前記ボス部に向かって板厚が厚くなるテーパ形状に形成されたテーパ部となっていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、テーパ部を設けることで、フランジ部からボス部に向かう板厚の変化を緩やかなものにでき、温度勾配を緩和することができる。また、フランジ部からボス部に向かう板厚の剛性の変化を緩やかなものにできる。以上から、ボス部周りに発生する応力を低減することができ、製品寿命を長くすることができる。
【0008】
また、前記円環部の軸方向における前記フランジ部と前記ボス部との間の距離をdとし、前記円環部の軸方向における前記テーパ部の長さをd’とすると、前記テーパ部の長さd’は、0.5d≦d’ ≦dの範囲となっていることが、好ましい。
【0009】
この構成によれば、テーパ部の長さを好適なものとすることができるため、応力を好適に低減することができる。
【0010】
また、前記円環部の軸方向における前記フランジ部と前記ボス部との間の距離をdとし、前記円環部の軸方向に対する前記テーパ部の傾斜角度をθとし、前記円環部において最薄となる最薄部の板厚をtとし、前記ボス部における板厚をhとすると、前記傾斜角度θは、0.3(h−t)/d≦θ≦(h−t)/dの範囲となっていることが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、テーパ部の傾斜角度を好適なものとすることができるため、応力を好適に低減することができる。
【0012】
また、前記フランジ部は、前記円環部の周方向に延在して形成され、前記ボス部は、前記フランジ部と対向する部位が、前記フランジ部と平行に形成されていることが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、フランジ部とボス部との間に形成されるテーパ部の領域を大きなものとすることができるため、応力をより好適に低減することができる。
【0014】
また、前記フランジ部と平行となる前記ボス部の幅をaとし、前記ボス部に貫通形成されるボルト孔を中心とする前記ボス部の周縁の曲率半径をbとすると、前記ボス部の幅aは、b<a<3bの範囲となっていることが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、ボス部の幅を好適なものとすることができるため、応力を好適に低減することができる。
【0016】
本発明の航空用ガスタービンエンジンは、上記の航空部品を用いたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、応力を好適に低減した航空部品を用いることができるため、信頼性の高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る航空部品を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る航空部品を軸方向に沿って切ったときの断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る航空部品と従来の航空部品との熱応力を比較した一例の説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る航空部品と従来の航空部品との熱応力を比較した一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0020】
[実施形態]
本実施形態に係る航空部品は、航空用ガスタービンエンジンに用いられるものであり、例えば、燃焼器のケーシングを構成する部品となっている。ここで、
図1は、本実施形態に係る航空部品を示す図である。
図2は、本実施形態に係る航空部品を軸方向に沿って切ったときの断面図である。
図3及び
図4は、本実施形態に係る航空部品と従来の航空部品との熱応力を比較した一例の説明図である。以下の説明では、航空部品として、燃焼器のケーシングに適用する場合について説明するが、特に限定されず、いずれの航空部品に適用してもよい。
【0021】
航空部品1は、円環部5と、フランジ部6と、ボス部7とを有している。円環部5は、所定の方向を軸方向として、周方向に円環状に形成されており、その外周面にボス部7が形成されている。フランジ部6は、円環部5の一方の端部に設けられ、径方向の外側に突出すると共に、周方向に延在して全周に亘って設けられている。ボス部7は、円環部5の外周面から径方向の外側に突出して形成されている。
【0022】
ボス部7には、内外を連通する円形の貫通孔10が形成されており、この貫通孔には、燃料を供給するための図示しない燃料配管が接続される。また、貫通孔10の周囲のボス部7には、燃料配管を航空部品1に締結するためのボルト孔11が複数形成されている。
【0023】
ボス部7は、円環部5の板厚が最薄となる最薄部における厚さよりも厚く形成されている。また、ボス部7は、フランジ部6と対向する部位が、フランジ部6と平行に形成されている。つまり、ボス部7のフランジ部6と対向する周縁は、フランジ部6と平行となる直線状に形成されている。
【0024】
ここで、フランジ部6と対向するボス部7の幅、つまり、ボス部7の周方向における幅をaとする。また、ボス部7に貫通形成されるボルト孔11を中心とするボス部7の周縁の曲率半径をbとする。具体的に、
図1の左側のボス部7の幅をa1とし、
図1の左側のボス部7の周縁の曲率半径をb1とする。また、
図1の右側のボス部7の幅をa2とし、
図1の右側のボス部7の周縁の曲率半径をb2とする。この場合、ボス部7の幅a1,a2は、b1<a1<3b1、b2<a2<3b2の範囲となっている。
【0025】
また、航空部品1は、
図2に示すように、円環部5の軸方向に沿って切った断面(
図1のA−A断面)において、フランジ部6とボス部7との間がテーパ部15となっている。テーパ部15は、フランジ部6とボス部7との間における円環部5の外周面の形状が、フランジ部6からボス部7に向かって板厚が厚くなるテーパ形状に形成されている。このテーパ形状となる面は、円環部5の軸方向に沿って切った断面において、直線状に形成されている。
【0026】
ここで、円環部5の軸方向におけるフランジ部6とボス部7との間の距離をdとする。また、円環部5の軸方向におけるテーパ部15の長さをd’とする。この場合、テーパ部15の長さd’は、0.5d≦d’ ≦dの範囲となっている。
【0027】
また、円環部5の軸方向に対するテーパ部15の傾斜角度θは、下記する範囲となっている。ここで、円環部5において最薄となる最薄部の板厚をtとし、ボス部7における板厚をhとする。この場合、傾斜角度θは、0.3(h−t)/d≦θ≦(h−t)/dの範囲となっている。
【0028】
次に、
図3及び
図4を参照して、従来の航空部品1における応力分布と、本実施形態の航空部品1における応力分布とについて比較する。ここで、応力は、円環部5の内部と外部とにおける温度差によって発生する熱応力である。従来の航空部品1は、テーパ部15が設けられておらず、また、フランジ部6に対向する部位のボス部7の形状は、フランジ部6側に向かって凸となる山なりの形状となっている。
【0029】
図3に示すように、従来の航空部品1は、フランジ部6とボス部7との間の円環部5、特に、ボス部7の根元側において、応力が大きなものとなっている。一方で、本実施形態の航空部品1は、フランジ部6とボス部7との間のテーパ部15において、応力が緩和されていることが確認された。また、
図4(
図3のA−A断面)に示すように、従来の航空部品1は、フランジ部6とボス部7との間の円環部5、特に、ボス部7の根元側において、円環部5の表裏における応力が大きなものとなっている。一方で、本実施形態の航空部品1は、フランジ部とボス部7との間のテーパ部15において、テーパ部15の表裏における応力が緩和されていることが確認された。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、フランジ部6とボス部7との間にテーパ部15を設けることで、フランジ部6からボス部7に向かう板厚の変化を緩やかなものにでき、温度勾配を緩和することができる。また、フランジ部6からボス部7に向かう板厚の剛性の変化を緩やかなものにできる。以上から、ボス部7周りに発生する応力を低減することができ、製品寿命を長くすることができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、テーパ部15の長さd’、テーパ部15の傾斜角度θ、ボス部7の幅a1,a2を好適な範囲にすることができるため、応力を好適に低減することができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、フランジ部6と対向するボス部7の部位を、フランジ部6と平行に形成することで、フランジ部6とボス部7との間に形成されるテーパ部15の領域を大きなものとすることができるため、応力をより好適に低減することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、応力を好適に低減した航空部品1を、航空用ガスタービンエンジンに適用することができるため、航空用ガスタービンエンジンの信頼性を高いものとすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 航空部品
5 円環部
6 フランジ部
7 ボス部
10 貫通孔
11 ボルト孔
15 テーパ部