(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-14068(P2017-14068A)
(43)【公開日】2017年1月19日
(54)【発明の名称】サンドアートパフォーマンス作品の保存方法、装飾用ガラスの製造方法及び装飾用ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 17/04 20060101AFI20161222BHJP
C03B 23/20 20060101ALI20161222BHJP
B44D 2/00 20060101ALI20161222BHJP
【FI】
C03C17/04 Z
C03B23/20
B44D2/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-132876(P2015-132876)
(22)【出願日】2015年7月1日
(71)【出願人】
【識別番号】597150500
【氏名又は名称】三喜産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100147142
【弁理士】
【氏名又は名称】石森 昭慶
(74)【代理人】
【識別番号】100140110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵子
(72)【発明者】
【氏名】三木 英彌
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC08
4G059CB08
(57)【要約】
【課題】サンドアートパフォーマンスの技法を用いて板ガラスに描かれた作品を半永久的に保存する方法を提供すること。
【解決手段】サンドアートパフォーマンスの技法を用いて、粉末状のガラス材料で板ガラス上に絵を描き、前記ガラス材料を板ガラスに融着する工程を含む、サンドアートパフォーマンス作品の保存方法。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンドアートパフォーマンスの技法を用いて、粉末状のガラス材料で板ガラス上に絵を描き、前記ガラス材料を板ガラスに融着する工程を含む、サンドアートパフォーマンス作品の保存方法。
【請求項2】
前記ガラス材料にガラス片を用いる、請求項1に記載のサンドアートパフォーマンス作品の保存方法。
【請求項3】
更にガラス材料を重ねて融着する工程を含む、請求項1又は2に記載のサンドアートパフォーマンス作品の保存方法。
【請求項4】
複数の色のガラス材料を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のサンドアートパフォーマンス作品の保存方法。
【請求項5】
サンドアートパフォーマンスの技法を用いて、粉末状のガラス材料で板ガラス上に絵を描き、前記ガラス材料を板ガラスに融着する工程を含む、装飾用ガラスの製造方法。
【請求項6】
板ガラス上に、サンドアートパフォーマンスの技法で描かれた絵の材料としての粉末状のガラス材料が融着された、装飾用ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンドアートパフォーマンス作品の保存方法、装飾用ガラスの製造方法及び装飾用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サンドアートパフォーマンスと呼ばれる芸術分野が一般に知られるようになった(非特許文献1)。
サンドアートパフォーマンスとは、透明な板(ガラス板やアクリル板等)の上に砂をマチエール(材料)として絵を描き、その絵を次々と変化させて別の絵を描く過程や、絵の変化、絵から生ずる物語等を、ライブで見せたり、コマ撮りしたり、動画で記録して鑑賞するものである。板ガラスにバックライトを当てると、より美しく見える。
【0003】
しかしながら、サンドアートパフォーマンスでは、キャンバスとなる板ガラスや、マチエールの砂に接着剤や粘着剤等を用いない。そのため、サンドアートパフォーマンスで描かれた作品を、縦に立てて鑑賞することや、天井に掲げて鑑賞することはできなかった。その作品を水平に保持した場合でさえ、風や振動等に暴露されると砂が動いてしまい、作品として長期間保存することができなかった。従って、サンドアートパフォーマーは、自分の作品を実物で残したいと望みながらも、写真や動画等の映像で記録して作品を残すしかなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
サンドパフォーマンス、[online]、[平成27年(2015年)6月22日検索]、インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%91%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、サンドアートパフォーマンスの技法を用いて板ガラスに描かれた作品を半永久的に保存する方法を提供することを目的とする。また、サンドアートパフォーマンス作品を装飾用ガラスにする方法及びその方法により製造された装飾用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、サンドアートパフォーマンス作品を保存すべく鋭意検討を行った結果、サンドアートパフォーマンスで用いる砂の代わりに粉末状のガラス材料等を用いて絵を描いた後に、該ガラス材料を加熱し、徐冷して融着することにより、サンドアートパフォーマンス作品を半永久的に残せることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、サンドアートパフォーマンスの技法を用いて、粉末状のガラス材料で板ガラス上に絵を描き、前記ガラス材料を板ガラスに融着する工程を含む、サンドアートパフォーマンス作品の保存方法、又は装飾用ガラスの製造方法である。
また、本発明は、板ガラス上に、サンドアートパフォーマンスの技法で描かれた絵の材料としての粉末状のガラス材料が融着された、装飾用ガラスである。
なお、本明細書において「ガラス材料」とは、粉末状ガラス、ガラス片、ガラス玉等の様々な形状を含むガラスであって、板ガラス上に配置される、マチエールとして用いられるものをいう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サンドアートパフォーマンスによる作品を、半永久的に保存することができ、その作品は装飾用ガラスとして、観賞用、建築材用等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】サンドアートパフォーマンス作品(融着前)の図面代用写真である。
【
図2】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図3】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図4】サンドアートパフォーマンス作品(融着前)の図面代用写真である。
【
図5】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図6】サンドアートパフォーマンス作品(融着前)の図面代用写真である。
【
図7】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図8】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図9】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図10】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図11】サンドアートパフォーマンス用ガラス板(融着後)の図面代用写真である。
【
図12】サンドアートパフォーマンス作品(融着前)の図面代用写真である。
【
図13】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【
図14】炉内の加熱・徐冷時間及び温度を示したグラフである。
【
図15】サンドアートパフォーマンス作品(融着後)の図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1.サンドアートパフォーマンスで用いられる技法>
板ガラス上に粉末状ガラスを全体的に撒き、指や爪で板ガラス上をなぞって、粉末状ガラスを除去し、線を描いたり、指で板ガラスにスタンプするようにして点を描いたり、指や手のひらを板ガラス上に滑らせて面を描くことができる。また、粉末状ガラスを手のひらにつかんだり指でつまんだりして、板ガラス上にこぼして太い線や細い線を描くことができる。
【0011】
本技術において、サンドアートパフォーマンスで用いられる技法は、手によるものだけではなく、粉末状ガラスを板ガラス上に付加したり除去したりできる道具を用いることも含まれる。例えば、棒、筆、刷毛、篩等も用いることができる。
更に、本技術では、粉末状ガラスだけでなく、ガラス片やガラス玉等を配置してもよい。
【0012】
<2.キャンバス用板ガラス>
板ガラスには、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等があるが、本技術で用いられる板ガラスは、粉末状等のガラス材料を載せて加熱し徐冷して、ガラス材料が融着され得る、歪みの少ない板ガラスであれば特に限定されない。板ガラスの種類は、粉末状等のガラス材料や炉に合わせて選択することが好ましい。
【0013】
特に、板ガラスと粉末状等のガラス材料とは、熱膨張係数がほぼ同等であることが好ましい。熱膨張係数に差がありすぎると、徐冷中にガラスが割れることや、徐冷がうまくいってもその後作品を保存しているときに突然割れることがある。
使用するすべての板ガラスとすべてのガラス材料の熱膨張係数は、例えば、9.0×10
−6℃/%±5%であることが望ましい。最も望ましくは、板ガラスとガラス材料の熱膨張係数がすべて同一である。
【0014】
本技術に用いるガラスの厚み、大きさ等については、炉に入るものであればよい。また、板ガラス表面の平滑度が低く、表面に多少の凹凸があってもよい。更に、板ガラスは、粉末状等のガラス材料でサンドアートパフォーマンスによる作品が描けるものであれば、皿やランプシェードのように湾曲した形状でもよく、特に限定されない。
【0015】
<3.マチエール用ガラス材料>
本技術で用いられるガラス材料は、粉末状ガラスだけでなく、様々な大きさのガラス片も合わせて用いることができる。例えば、板ガラスを割ったガラス片、ステンドグラス用ガラス片、ガラス玉等が挙げられる。
また、ガラス材料は、種々の色のものを、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0016】
粉末状ガラスの場合、粗いもの、細かいもの、及びこれらの混合物でもよい。例えば、平均粒径0.01mm〜0.2mmの粉末状ガラスが、絵を描きやすく好適に用いられるが、これに限定されない。また、粉末の形状も、球や楕円体等でよく、統一されていなくてもよい。
ここで、平均粒径は、ガラス粉末の形の種類により、長径、短径、定方向径、定方向等分径、定方向最長幅、2軸平均径、3軸平均径、立方等価径、円等価径、同等表面積径、同等体積径等を選択して決定することができる。
【0017】
粉末状ガラスは、ジェットミル等の装置を用いて製造することができる。粉砕されたガラスをそのまま用いてもよいし、分級して粉末の大きさをそろえてもよい。
【0018】
なお、前述したように、ガラス材料の熱膨張係数は、板ガラスの熱膨張係数とほぼ同等であることが好ましい。
【0019】
<4.サンドアートパフォーマンス作品の保存方法・装飾用ガラスの製造方法>
特定の熱膨張係数を有する任意の板ガラス上に、サンドアートパフォーマンスで用いられる技法を使って、板ガラスと同程度の熱膨張係数を有する粉末状等のガラス材料にて、絵を描く。このとき、板ガラスに接着剤や粘着剤、水等を用いる必要はない。ガラス材料にも接着剤等を用いる必要はない。しかし、これらを用いることも可能である。
サンドアートパフォーマンスの技法を用いて茶色の粉末状ガラスで絵を描いたものを
図1に示す。
【0020】
次に、ガラス用の炉を用いてガラス材料を板ガラスに溶着する。
加熱時間や溶融温度は、使用するガラス材料、板ガラス等の種類によって異なるが、電気炉の場合には、電気炉内に絵を描いた板ガラスをセットした後、例えば、常温状態から約5〜10時間をかけて約600〜850℃前後の所定温度まで加熱する。加熱中に数回、10〜50分間温度を保ちながら、更にゆっくりと加熱してもよい。そして、約600〜850℃の状態に約10〜60分程度保持した後、一定温度ごとに徐冷する。例えば1分あたり2〜5℃ずつ徐冷する処理を行い、途中で数回、10〜60分間温度を保ちながら、更にゆっくりと徐冷して、最終的に常温まで徐冷する。
加熱時の最高温度は、ソーダ石灰ガラスの場合、その組成にもよるが、例えば730℃〜830℃である。850℃以上になると、溶融したガラスがだれてしまい、絵柄の輪郭等がくずれることがある。
加熱と徐冷は、前述のように、板ガラスとガラス材料の種類や熱膨張率、電気炉の種類等に応じて時間をかけて行うが、その工程は、当業者であれば適宜調整可能である。
図1において用いた粉末状ガラスを融着したものを
図2に示す。
【0021】
本発明は、ガラス材料をマチエールとしたサンドアートパフォーマンス作品を板ガラスに融着するだけでなく、これを応用して、多色化することもできる。
例えば、サンドアートパフォーマンス作品を描くときに、複数の色のガラス材料を使い、1回の加熱・徐冷で融着することができる。その手法による作品を
図3に示す。
【0022】
別の多色化方法として、まず1回融着した後、別の色のガラス材料を重ねて更に融着する工程を繰り返して、複数の色からなる作品を製造することもできる。
例えば、1色の粉末状ガラスで描いた融着前の作品を
図4に示す。このとき、輪郭線を描くようにすると、後に別色のガラス材料を充填しやすくなる。
図4の作品を加熱・徐冷して融着したものが
図5である。
図5の作品に別の色の粉末状ガラスを載せたもの(融着前)を
図6に示す。
図6の作品を加熱・徐冷して融着したものが
図7である。
このように色を重ねることや、混合することにより、無数の色合いを表現することができる。
【0023】
多色化する際に、ガラス材料の載せ方や量を調整することにより、凹凸も表現することができる。凹凸を表現したサンドアートパフォーマンス作品(融着後)の例を
図8に示す。
【0024】
また、水墨画や水彩画のような、ぼかしを含む表現をすることも可能である。粉末状のガラスの多少で色の濃淡を表現することができる。例えば、
図9、
図10に示すような作品を製造することができる。
【0025】
更に、板ガラスにベースとなる色を融着後、サンドアートパフォーマンス作品を描いてもよい。
例えば、板ガラスに単色の粉末状ガラスを撒き、1回融着する(
図11)。次に、同色でも別色でもよいが、更に粉末状ガラスでサンドアートパフォーマンス作品を描き(融着前、
図12)、それを融着して作品を作ることもできる(融着後、
図13)。
【0026】
<5.装飾用ガラス>
本発明の装飾用ガラスは、前述した方法で製造することができる。
本発明の装飾用ガラスは、粉末状ガラスが板ガラス上に散布されて描かれた様子(粉末状ガラスの1粒子ごとの様子)がみてとれ、散布された粉末状ガラスの厚みや密度により濃淡が表現される。また、粉末状ガラスの溶融の度合いにより、なめらかさや均質な様子等も表現される。
また、ガラス片やガラス玉を用いて凹凸等の様々な表現をすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0028】
サイズ4mm×90cm×84cmの板ガラス(Bullseye社製)に、板ガラスと同じ種類のガラスであって茶色の粉末状ガラス(Bullseye社製、多くの粒子が約60μm〜約150μmの範囲内のサイズ)をマチエールとして、サンドアートパフォーマンスの技法で絵を描いた。
板ガラス及び粉末状ガラスの熱膨張率は、約9.4×10
−6℃/%であった。
【0029】
絵が描かれた板ガラスを電気炉にセットし、炉内を表1及び
図14に示すように加熱・徐冷した。
【0030】
【表1】
【0031】
前記表1をグラフにしたものが
図14である。炉内の温度を、170℃〜250℃の幅で20分〜120分かけて加熱後、しばらく一定の温度を保ち、更に加熱を繰り返して800℃にした。800℃で20分間維持した後、100℃〜300℃の幅で30分〜120分かけて徐冷後、しばらく一定の温度を保ち、更に徐冷を繰り返して、常温まで下げた。
【0032】
本技術により製造された装飾用ガラスを
図15に示す。板ガラス上の粉末状ガラスが溶融・徐冷されて融着し、板ガラスと粉末状ガラスが一体的に融合された状態の装飾用ガラスが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のサンドアートパフォーマンス作品の保存方法、装飾用ガラスの製造方法は、美術品、工芸品、建築用ガラス、照明用ガラス、食器用ガラス、アクセサリー等の製造に適用することができる。