【課題】セルロースの表面改質等を行うことなく、簡便な手法で、親水性の物質であるセルロースを、疎水性の高いポリオレフィンへ容易に分散させることができる、汎用樹脂へ適用可能なものにする技術の提供。
【解決手段】セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物であり、セルロースとポリオレフィンとからなり、前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる1種以上のセルロース繊維であり、前記ポリオレフィンが、ポリアルケンであり、カルボキシ基を有し、その酸価が50mgKOH/g以下で、且つ、その融点が80℃以上であり、前記セルロースを質量基準で5%〜30%を含有する易分散性セルロース組成物、該組成物を得る製造方法、易分散性セルロース組成物を含むセルロース分散樹脂組成物及び該セルロース分散樹脂組成物の製造方法。
セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物であって、セルロースとポリオレフィンとからなり、前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロース繊維であり、前記ポリオレフィンが、ポリアルケンであり、カルボキシ基を有し、その酸価が50mgKOH/g以下で、且つ、その融点が80℃以上であり、前記セルロースを、質量基準で5%〜30%を含有することを特徴とする易分散性セルロース組成物。
セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造方法において、カルボキシ基を有するポリアルケンであるポリオレフィンのポリオレフィンエマルジョンを、含水状態又は乾燥状態のセルロースと混合して、セルロースとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液を得た後、酸を添加してポリオレフィンを析出させる工程を有し、該工程で用いる前記ポリオレフィンエマルジョンが、酸価が50mgKOH/g以下であり、且つ、融点が80℃以上であるポリオレフィンをアルカリにて中和して水中に乳化してなる、その光散乱による粒子径測定機による平均粒子径が300nm以下のポリオレフィンエマルジョンであることを特徴とする易分散性セルロース組成物の製造方法。
前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロース繊維である請求項3に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
前記混合水溶液が、質量基準で、前記セルロース100部に対して、前記ポリオレフィンを233.3部〜1900部の範囲で含む請求項3〜5のいずれか1項に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
前記ポリオレフィンを析出させる工程の後に、更に90℃以上の温度にて加熱する工程を有し、該加熱工程で、前記ポリオレフィンのカルボキシ基を、前記セルロースの水酸基と反応させて脱水縮合して、エステル結合を形成させる請求項3〜6のいずれか1項に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
セルロースと樹脂との混合物であるセルロース分散樹脂組成物であって、前記セルロースが、請求項1又は2に記載のセルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物であり、且つ、組成物中に、質量基準で、セルロースを0.1%以上10%以下含有することを特徴とするセルロース分散樹脂組成物。
前記樹脂が、ポリアルケンであるポリオレフィンで、且つ、前記易分散性セルロース組成物を構成するポリオレフィンと同一骨格のポリマーである請求項8に記載のセルロース分散樹脂組成物。
セルロースと樹脂との混合物であるセルロース分散樹脂組成物を得るための製造方法であって、カルボキシ基を有するポリアルケンである、その酸価が50mgKOH/g以下のポリオレフィンをアルカリにて中和したポリオレフィンエマルジョンを、含水状態又は乾燥状態のセルロースと混合して、セルロースとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液を得た後、酸を添加してポリオレフィンを析出させて得たセルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物を用い、該易分散性セルロース組成物の製造に起因する液分を含んだまま樹脂と混合してセルロース分散樹脂組成物を得ることを特徴とするセルロース分散樹脂組成物の製造方法。
前記ポリオレフィンエマルジョンが、融点が80℃以上であるポリオレフィンをアルカリにて中和して水中に乳化してなる、その光散乱による粒子径測定機による平均粒子径が300nm以下であるポリオレフィンエマルジョンである請求項10に記載のセルロース分散樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明を実施するための最良の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明の易分散性セルロース組成物は、極低酸価で且つTgが高いポリオレフィンとセルロースとの混合物であることを特徴とする。より具体的には、ポリオレフィンが、ポリアルケンであり、酸基としてカルボキシ基を有し、その酸価が50mgKOH/g以下で、且つ、その融点が80℃以上であり、セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロース繊維であり、該セルロースを、質量基準で5%〜30%を含有するものであることを特徴とする。上記構成を有する本発明の易分散性セルロース組成物は、下記の本発明の製造方法によって簡便に得ることができる。
【0022】
本発明の易分散性セルロース組成物の製造方法は、カルボキシ基を有するポリアルケンであるポリオレフィンのポリオレフィンエマルジョンを、含水状態又は乾燥状態のセルロースと混合して、セルロースとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液を得た後、酸を添加してポリオレフィンを析出させる工程を有し、該工程で用いる前記ポリオレフィンエマルジョンが、酸価が50mgKOH/g以下で、且つ、融点が80℃以上であるポリオレフィンをアルカリにて中和して水中に乳化してなる、その光散乱による粒子径測定機による平均粒子径が300nm以下であるポリオレフィンエマルジョンであることを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法では、セルロースを易分散性にするために用いるポリオレフィンを、その酸基がカルボキシ基であって、そのカルボキシ基がアルカリで中和されて、特に必須である300nm以下のナノ粒子という形で分散乳化しているポリオレフィンのエマルジョンで使用する。そして、このポリオレフィンのエマルジョンを、含水状態又は乾燥状態のセルロースと、例えば、水に分散しているCNFと混合して、CNFとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液を得た後、中和されてイオン化されているカルボン酸を、酸を添加することでカルボン酸に戻して、析出させる。このようにすることで、CNFなどのセルロースが液中に分散している状態でポリオレフィンにて包み込むことができる。このようにして得られたセルロースと樹脂とからなる組成物を、他の樹脂、好ましくはポリオレフィン樹脂に混練或いは溶融混合や分散させることで、CNFなどのセルロースを、容易に樹脂に分散させることが可能になる。すなわち、上記した製造方法によって得られる組成物は、セルロースのオレフィン樹脂への分散性を高めた易分散性を示すセルロース組成物になる。
【0023】
上記したように、本発明の製造方法により簡便に得られる本願発明の易分散性セルロース組成物を用いて樹脂との複合化をすることで、極めて容易に、セルロース分散樹脂組成物を得ることができる。本発明者らの検討によれば、得られるセルロース分散樹脂組成物は、セルロースが樹脂中に良好に分散したものとなり、更に、射出成型した場合に、その機械的強度が向上したものとなる。このように、本発明によれば、極めて簡便な方法で、樹脂への相溶性に優れる易分散性セルロース組成物が得られるので、これを用いることで、機能性材料として優れた素材であるセルロースの広範な利用が期待される。
【0024】
以下、本発明の易分散性セルロース組成物について説明する。本発明の易分散性セルロース組成物は、セルロースとポリオレフィンとからなる、セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物である。以下、これらについて説明する。
【0025】
(セルロース)
本発明で使用するセルロースは、例えば、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種である。特に、CNF又はCNCを用いることが好ましい。なお、本発明では、CNF及びCNCを「ナノセルロース」とも称す。以下、各セルロースについて、詳細に説明する。なお、セルロースの代表例として、「ナノセルロース」或いはCNFを用いて本発明を説明する場合があるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
セルロース(或いはセルロース繊維)の原料として用いられる植物繊維は、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物及び布といった天然植物原料から得られる、パルプ及びレーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ及びアカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌及びコピー用紙等が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。植物繊維は、1種単独でも用いてもよく、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。
【0027】
リグノセルロースは、植物繊維の主成分であり、主に、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成され、各々が結合した構造であり、植物繊維を形成している。このリグノセルロースを含む植物繊維を、機械処理及び又は化学処理により、ヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることで、パルプが得られる。必要に応じて漂白処理も行われ、また脱リグニン量を調整し、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。
【0028】
パルプとしては、植物繊維を機械処理及び/又は化学処理によりパルプ化することで得られる、ケミカルパルプ〔クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)〕、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TWP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプなどが、好ましいものとして挙げられる。これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ〔針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)〕が特に好ましい。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0〜40質量%程度、好ましくは0〜10質量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0029】
本発明において好適に使用できるナノセルロースは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)セルロースであり、CNF及びCNCを含む。植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在し、植物の基本骨格物質であるが、ナノセルロースは、セルロースミクロフィブリル又はセルロースミクロフィブリルが複数凝集して形成されるナノサイズのセルロースである。
【0030】
ナノセルロースの中で、CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維幅4〜200nm程度、繊維長5μm程度以上の繊維である。本発明で使用するCNFの比表面積としては、70〜300m
2/g程度が好ましく、70〜250m
2/g程度がより好ましく、100〜200m
2/g程度が更に好ましい。CNFの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて樹脂組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ、強度が向上する。一方、比表面積が極端に高いと、樹脂組成物の樹脂中での凝集が起こり易くなり、目的とする高強度材料が得られないことがあるので好ましくない。本発明で使用するCNFの繊維径は、平均値が通常4〜200nm程度、好ましくは4〜150nm程度、特に好ましくは4〜100nm程度である。
【0031】
植物繊維を解繊し、CNFを調製する方法としては、パルプ等のセルロース繊維含有材料を解繊する方法が挙げられる。解繊方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による、機械的な摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。これらの解繊処理の方法としては、例えば、特開2011−213754号公報、特開2011−195738号公報に記載された解繊方法等を用いることができる。
【0032】
本発明において用いるセルロースとして好適なCNCは、セルロース繊維を酸加水分解等の化学的処理を施すことで得られる結晶であり、結晶幅4〜70nm程度、結晶長25〜3000nm程度の結晶である。本発明で使用するCNCの比表面積としては、90〜900m
2/g程度が好ましく、100〜500m
2/g程度がより好ましく、100〜300m
2/g程度が更に好ましい。CNCの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて樹脂組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ、強度が向上する。一方、比表面積が極端に高いと、樹脂組成物の樹脂中での凝集が起こりやすくなり、目的とする高強度材料が得られないことがあるので好ましくない。本発明で使用するCNCの結晶幅は、平均値が通常10〜50nm程度、好ましくは10〜30nm程度、特に好ましくは10〜20nm程度である。また、CNCの結晶長は、平均値が通常500nm程度、好ましくは100〜500nm程度、特に好ましくは100〜200nm程度である。
【0033】
植物繊維を解繊し、CNCを調製する方法としては、従来公知の方法が採用できる。例えば、前記セルロース繊維含有材料の水懸濁液またはスラリーを、硫酸、塩酸、臭化水素酸等による酸加水分解等の化学的手法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。また、本発明では、セルロースの官能基はそのままで使用すること好ましいが、場合によっては、テトラメチルピペリジニルオキシラジカルや酸無水物、酸ハロゲン化物でセルロースの表面を化学修飾して分散性を高めたセルロースを使用してもよい。
【0034】
本発明におけるナノセルロースの繊維径の平均値(平均繊維径、平均繊維長、平均結晶幅、平均結晶長)は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。
【0035】
ナノセルロースは、高比表面積(好ましくは、200〜300m
2/g程度)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。ナノセルロースは、また、ガラスと比較して熱変形が小さい(低熱膨張)。
【0036】
本発明に用いるナノセルロースは、セルロースI型結晶構造を有し、且つ、その結晶化度が50%以上と高い結晶化度を有するものが好ましい。ナノセルロースのセルロースI型結晶構造の結晶化度は、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。ナノセルロースのセルロースI型結晶構造の結晶化度の上限は、一般的には、95%程度或いは90%程度である。
【0037】
セルロースI型結晶構造とは、例えば、朝倉書店発行の「セルロースの辞典」新装版第一刷81〜86頁、或いは93〜99頁に記載の通りのものであり、ほとんどの天然セルロースはセルロースI型結晶構造である。これに対して、セルロースI型結晶構造ではなく、例えば、セルロースII、III、IV型構造のセルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースから誘導されるものである。中でもI型結晶構造は他の構造に比べて結晶弾性率が高い。
【0038】
本発明で使用するセルロースとしては、上記した中でも、セルロースI型結晶構造のナノセルロースが好ましい。I型結晶構造であると、ナノセルロースとマトリックス樹脂との複合材料とした際に、低線膨張係数、且つ、高弾性率な複合材料を得ることができる。ナノセルロースがI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°〜17°付近と、2θ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0039】
セルロースI型結晶構造の結晶化度は、例えば、下記のようにして測定することができる。まず、CNFなどのナノセルロースのスラリーにエタノールを加え、ナノセルロース濃度を0.5質量%に調製する。次いで、このスラリーをスターラーにて撹拌後、素早く減圧ろ過(アドバンテック東洋社製の5Cろ紙)を開始する。次いで、得られたウェットウェブを、110℃、圧力0.1tで10分間加熱圧縮し、50g/m
2のCNFシートを得る。そして、X線発生装置(リガク社製「UltraX18HF」)を用い、ターゲットCu/Kα線、電圧40kV、電流300mA、走査角(2θ)5.0〜40.0°、ステップ角0.02°の測定条件で、上記で得たCNFシートの測定を行い、セルロースI型結晶構造の結晶化度を測定する。
【0040】
ここで、セルロースの重合度は、天然セルロースで500〜10000、再生セルロースで200〜800程度である。セルロースは、β−1,4結合により直線的に伸びたセルロースが何本かの束になって、分子内あるいは分子間の水素結合で固定され、伸びきり鎖となった結晶を形成している。セルロースの結晶には、多くの結晶型が存在していることは、X線回折や固体NMRによる解析で明らかになっているが、天然セルロースの結晶形はI型のみである。X線回折等から、セルロースにおける結晶領域の比率は、木材パルプで約50〜60%、バクテリアセルロースはこれより高く、約70%程度と推測されている。セルロースは、伸びきり鎖結晶であることに起因して、弾性率が高いだけでなく、鋼鉄の5倍の強度、ガラスの1/50以下の線熱膨張係数を示す。逆に言うと、セルロースの結晶構造を壊すことは、これらセルロースの高弾性率、高強度といった優れた特徴を失うことに繋がる。
【0041】
カルホギシ基を有するポリオレフィンと、上記したようなセルロースとからなる本発明のセルロース組成物は、特有の構成のポリオレフィンのエマルジョンを析出させる先述した本発明の簡便な製造方法によって、上記したセルロース結晶を壊すことなく、ポリオレフィンによって、樹脂中に良好に分散される易分散性セルロース組成物となる。また、本発明では、この易分散性セルロース組成物を用い、樹脂との複合化をすることで、上記したセルロースの結晶を壊すことなく、樹脂中にセルロースが良好に分散した、セルロース分散樹脂組成物を得ることができる。本発明によれば、樹脂中において、セルロース結晶が壊れない状態で存在し、また、セルロースが優れた分散性を持つことで、樹脂中で、セルロースの、高弾性率、高強度といった優れた機械特性が発揮され、結果として、高弾性率、高強度の樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
(ポリオレフィン)
本発明に使用されるポリオレフィンは、ポリアルケンであって、その構造にカルボキシ基を有し、その酸価が50mgKOH/g以下であり、且つ、該ポリオレフィンの融点が80℃以上であることを特徴とする。まず、ポリオレフィンのポリマーとしては、従来公知のものが使用され特に限定はない。具体的に例示すると、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリ(3−メチル−1−ブテン)、ポリ1−ヘキセン、ポリ(3−メチル−1−ペンテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリ(1−ヘプテン)、ポリ(4−メチル−1−ヘキセン)、ポリ(5−メチル−1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(5−メチル−1−ヘプテン)の単独ポリマー(但し、単独ポリマーでTgが80℃未満は除く)、それらポリマーのモノマー単位において、そのモノマーの2種類以上を重合して得られる共重合ポリマー、グラフトコポリマー、グラフトコポリマーのポリマーであり、構造として、直鎖状、分岐状などの高次構造などがとられ、分子量、配列、結晶化度などは任意のものが使用される。また、その合成方法等は特に限定されない。
【0043】
本発明で使用するポリオレフィンは、これらのポリオレフィンに、ポリオレフィンが水に微分散できる最低限の酸性基を有することが必要であり、更に、その酸性基は、少なくともカルボキシ基を有し、その酸価が50mgKOH/g以下であることを要す。なお、酸価は、下記のような方法で求めることができる。すなわち、測定対象のポリオレフィンを、ポリオレフィンの可溶性溶媒、例えば、キシレンやオクタンなどに熱溶解して、フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.1規定水酸化カリウムエタノール溶液にて滴定することで求められる。酸価の値は、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表す。ポリオレフィンが有するカルボキシ基は、アルカリにて中和され、水に微粒子分散できる少量の酸価であることを要し、具体的には、酸価の値が50mgKOH/g以下であることを要す。本発明者らの検討によれば、本発明で使用するポリオレフィンの酸価が50mgKOH/gより多いと、酸性基が多いため、樹脂と複合化して樹脂組成物とした場合に、プラスチックとしての物性が劣ったり、耐水性がなかったりする。より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは15mgKOH/gである。
【0044】
このカルボキシ基は、アルカンと共重合しうるカルボキシ基を有するモノマーを共重合させたり、例えば、スチレンカルボン酸、アクリル酸、マレイン酸無水物、メタクリル酸などを共重合させたり、それらのエステル化物を重合した後、加水分解などしてカルボキシ基を導入してもよい。また、予め得ているポリオレフィンに、過酸化物などを使用して、カルボキシ基を有するモノマー、アクリル酸や無水マレイン酸、マレイン酸を側鎖に導入、グラフト化して得てもよい。
【0045】
本発明の製造方法では、これらのポリオレフィンのカルボキシ基をアルカリにて中和して、水に分散して得られるポリオレフィンエマルジョンを使用する。本発明の製造方法で使用するポリオレフィンエマルジョンの光散乱による粒子径測定機による平均粒子径は、300nm以下である。ポリオレフィンのエマルジョンとしては、例えば、界面活性剤を使用して強制乳化されているものや、カルボキシ基を大量に、例えば、100mgKOH/g以上導入して乳化しているものや、カルボキシ基を大量に導入してそれを使用してポリオレフィンを乳化分散しているものなどもある。しかし、これらのエマルジョンの場合は、カルボキシ基が多いので、樹脂組成物に用いた場合に、その耐水性が悪かったり、物性が劣ったりし、また、界面活性剤を使用してエマルジョンにした場合は、界面活性剤が残留して、樹脂組成物からなる物品に悪影響を与える場合がある。したがって、本発明の製造方法では、前記したカルボキシ基の含有量で、その酸価が50mgKOH/g以下で、その平均粒子径が300nm以下であるポリオレフィンエマルジョンを用いることとした。
【0046】
上記した本発明で使用する平均粒子径のポリオレフィンのエマルジョンを得る方法は、特に限定されない。例えば、カルボキシ基を有するポリオレフィンを溶融してアルカリにて中和して、徐々に水を添加していく方法、有機溶媒にカルボキシ基を有するポリオレフィンを溶解しておき、アルカリ水と混合し水溶液化して、その有機溶媒はそのまま、または留去してエマルジョンとすることができる。上記で使用する有機溶媒としては、特に限定はないが、そのままの有機溶媒含有エマルジョンとする場合は、水溶性の有機溶媒を用いることが好ましく、アルコール類、グリコール類、アミン類、アミド類等の親水性溶剤を含んでいてもよい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が使用でき、グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が使用でき、アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等が使用でき、アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、メチルピロリドン、エチルピロリドン等が使用できる。
【0047】
本発明の易分散性セルロース組成物の製造方法では、使用するポリオレフィンエマルジョンの平均粒子径が重要であり、300nm以下、より好ましくは250nm以下であるものを用いる。本発明者らの検討によれば、このような平均粒子径のエマルジョンを使用することで、良好な分散を示す易分散性セルロースとすることができた。このポリオレフィンエマルジョンの粒子径の影響ははっきりとは不明であるが、下記の傾向があることを確認した。まず、平均粒子径が大きいと、酸でポリオレフィンを析出させた場合、ポリオレフィンがCNFに斑に析出してしまい、被覆されないCNF部分ができてしまい、それが再度固い結合となって分散を阻害してしまうことがあった。これに対し、粒子径が細かいと、酸での析出によってポリオレフィンが均一にCNFに析出して、CNF同士の水素結合を防止し、CNFが分散した状態でポリオレフィンに閉じ込められ、この結果、樹脂添加して混練しただけで、CNFが樹脂に分散することができたものと考えられる。本発明者らの検討によれば、カルボキシ基や界面活性剤を必要とせずに、300nm以下の平均粒子径を達成するためには、前記のような酸価とすることが必要である。
【0048】
本発明の易分散性セルロース組成物は、以上のようなセルロースとポリオレフィンを使用することで容易に得られる。その組成物に対するセルロースの含有量は、質量基準で、セルロースを5%〜30%、より好ましくは5%〜20%である。構成するセルロースの量が5%より少ないと、相対的に易分散性セルロース組成物を構成するポリオレフィンの量が多くなってしまうので、プラスチックである樹脂に添加して、セルロース分散樹脂組成物としてCNFの特性を出そうとしても、使用したポリオレフィンの性質が出てしまい、好ましくはない。一方、構成するセルロースの量が30%より多いと、ポリオレフィンで被覆されない部分やセルロースが出てきてしまい、その被覆されない部分がセルロース同士で水素結合してしまい、分散する基材であるプラスチックである樹脂にうまく分散しない場合が生じる。
【0049】
(易分散性セルロース組成物の製造方法)
以上で説明した本発明の易分散性セルロース組成物は、以下の本発明の製造方法によって簡便に得ることができる。すなわち、本発明は、上記した、セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造方法を提供する。具体的には、本発明の易分散性セルロース組成物は、カルボキシ基を有するポリアルケンであるポリオレフィンの、アルカリにて中和されて水中に乳化している、酸価が50mgKOH/g以下で、その光散乱による粒子径測定機による平均粒子径が300nm以下であり、且つ、該ポリオレフィンの融点が80℃以上である、ポリオレフィンエマルジョンを、含水状態又は乾燥状態のセルロースと混合して、セルロースとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液を得た後、酸を添加してポリオレフィンを析出させることで得られる。好ましくは、セルロースとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液中のセルロースの含有量が、質量基準で3%以下であり、更に好ましくは、このようなセルロース含有量になるように、セルロースを100部に対し、該ポリオレフィンが233.3部〜1900部として、セルロースとポリオレフィンエマルジョンの混合水溶液を調製することが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法において、セルロースは、前記に示したように、様々な方法によって植物繊維を解繊して、セルロースナノファイバーにして使用する。これを水に分散する。この場合、CNFは親水性が高く、ナノサイズであることより、粘度が高くなったり、せっかく解繊したのに、再度水素結合によってCNF同士が凝集してしまい、ナノサイズでなくなってしまったり、酸で析出させてポリオレフィンでCNFを包括して包み込む際に、CNFが近接して凝集してしまう可能性があったりする。このため、CNFの水溶液中の濃度は低い方がよく、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下がよい。3%超であると濃度が高すぎて上記の不都合がでる可能性があるので好ましくない。また、必要に応じて、粘度低くしたり、セルロースの水への親和性を高めたりするために、前記した水溶性の有機溶剤を使用してもよい。その量は任意であり、前記したセルロース濃度になる範囲で、水と併用して使用される。また、この際のpHは、中性からアルカリ性であることが好ましい。酸性であると、ポリオレフィンのエマルジョンを添加した際に、ポリオレフィンが析出してしまう可能性がある。
【0051】
次に、本発明の製造方法において使用するポリオレフィンのエマルジョンについて説明する。前記したように、本発明の製造方法では、できるだけ少ない含有量での酸性基であるカルボキシ基を少なくとも持つポリオレフィンの、該酸性基をアルカリで中和して300nm以下の微粒子分散しているポリオレフィンエマルジョンが使用される。ポリオレフィンについては前記した。上記酸性基としては、カルボン酸基(カルボキシ基)であることを要する。本発明者らの検討によれば、酸性基が、スルホン酸基やリン酸基の場合は、酸性度が強いため、得られた易分散性セルロース組成物を樹脂に適用して樹脂組成物にした場合に、耐水性が劣ったり、基材の物性を劣化させたりする場合がある。
【0052】
また、酸性基の中和に使用されるアルカリは任意であり、特に限定されない。例示すると、アンモニア;トリエチルアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノール等の有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物等が一種以上使用される。これらのアルカリは、ポリマーに使用されるカルボン酸の一部又は当モル、または過剰に使用され、特に限定されない。これらのアルカリによってカルボキシ基が中和されてイオン化し、エマルジョンとすることができる。このエマルジョンに含有されるポリマー濃度は任意であり、特に限定されない。また、前記したように、エマルジョンは、他の水溶性の溶媒を含有していてもよい。
【0053】
本発明の製造方法では、以上で説明したセルロースと、ポリオレフィンエマルジョンとを使用する。前記したように、本発明の易分散性ナノセルロースファイバー組成物は、セルロースを質量基準で5%〜30%を含有することを要するので、CNFがこの範囲の含有量となるようにポリオレフィンが使用され、それに対するポリオレフィンエマルジョンが使用される。具体的には、質量基準で、CNFを100部に対して、ポリオレフィンが233.3部〜1900部であり、この配合で使用されて製造される。容器に上記の量になる量のCNFを撹拌しながら十分解繊、分散して、ポリオレフィンエマルジョンを添加して、よく均一化する。この均一化の際には、従来公知の撹拌装置、分散機が使用され、特に限定されない。例えば、スターラー、モーター付き撹拌機、高速ディゾルバー、ホモミキサーにて混合撹拌してもよいし、ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどの分散機にて再度分散して混合してもよい。また、必要に応じて、均一化の際に前記した水溶性有機溶剤を添加してもよい。
【0054】
本発明の製造方法では、次に、上記で得られたセルロースとオレフィンとの混合水溶液を、撹拌しながら酸を添加して、ポリオレフィンのイオン化されたカルボキシ基を脱イオン化してポリオレフィンを水不溶化させて析出させる。このようにすることで、分散しているセルロースを、ポリオレフィンで包括、包み込んで、本発明の易分散性セルロース組成物とする。上記の酸は任意のものが使用でき、特に限定されない。具体的には、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、乳酸等の有機酸が1種以上使用される。また、酸を添加する場合、酸を原液のまま添加してもよいが、好ましくは水で希釈して添加することが好ましい。濃度が高いと局部的に析出が起こってしまい形状が団子状になる場合がある。好ましい酸濃度は、10質量%以下である。酸は一度に入れてもよいし、滴下してもよいし、噴霧してもよい。また。酸を添加した後、混合水溶液が十分に酸性になるように酸を加えることが好ましい。混合水溶液のpHとしては、具体的には4以下、好ましくは3以下がよい。この酸を加えることで、ポリオレフィンが析出してセルロースを分散した状態で包括することができる。
【0055】
ポリオレフィンを析出後は、ろ過して洗浄する。ろ過の前に、ろ過性を速めるために、水溶液を加熱して析出物を凝集させることが好ましい。その温度は特に限定はなく任意である。ろ過した後、洗浄してイオンや有機物を除去して、易分散性セルロースナノファイバーの水ペーストを得ることが好ましい。このようにして得られた水ペーストは、そのままで使用してもよいし、乾燥して固体とし、必要に応じて粉砕して使用される。上記で説明したものが、本発明の易分散性セルロース組成物の第一形態である。
【0056】
本発明の製造方法では、上記で説明したポリオレフィンのカルボキシ基が、セルロースの水酸基と反応してエステル結合を形成してなる形態の易分散性セルロース組成物を得ることもできる。通常、このようなエステル結合は、ポリオレフィンを酸ハロゲン化してエステル化したり、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのエステル化剤を使用してエステル化したりすることで形成できるが、工程が煩雑であり、多工程が必要である。これに対し、本発明の製造方法では、上記した乾燥工程において十分乾燥される際に、十分加熱して脱水縮合して反応させることで、上記エステル結合が形成されたものが得られる。具体的には、前記で得られた易分散性セルロースの水ペーストを、90℃以上、より好ましくは120℃以上の温度で加熱することで、脱水縮合して得られる。
【0057】
このようにして得られる上記エステル結合が形成された形態の易分散性セルロース組成物では、ポリオレフィンに含まれるカルボキシ基が全部セルロースの水酸基と反応する必要はなく、その一部が反応するだけでもよい。本発明の易分散性セルロース組成物は、反応してエステル結合を形成していなくても十分使用できるものである。本発明者らの検討によれば、ポリオレフィンとセルロースとが反応してエステル結合を形成した形態とした場合は、ポリオレフィンがセルロースを分散する基材である樹脂と相溶することによって、本発明の易分散性セルロース組成物は、より良好なセルロースの分散性を示すものになる。なお、上記脱水縮合の反応の確認は、赤外分光光度計(IR)によるエステル結合の確認によってできる。
【0058】
セルロースの樹脂中への分散性を高めた本発明の易分散性セルロース組成物は、以上のようにして簡便に得ることができる。必要に応じて、ポリオレフィンを析出させる工程で種々の添加剤を使用してもよい。添加剤としては、酸化防止剤、界面活性剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、導電材等が挙げられ、これらの添加剤と易分散性セルロース組成物に複合化することもできる。また、ポリオレフィンを析出させる工程で、セルロースを分散させる基材である、粉末、ペレット等の粒状の樹脂を添加して一緒に析出させてもよい。また、本発明の易分散性セルロース組成物は、そのまま乾燥して、後述すように、樹脂に混練することでセルロース分散樹脂組成物とすることができる。
【0059】
(セルロース分散樹脂組成物)
以上のようにして、本発明の製造方法によれば、樹脂に添加して混練等して混合するだけで、セルロースが樹脂中に良好に分散したセルロース分散樹脂組成物を得ることができる、分散し易い、マスターバッチ的な易分散性セルロース組成物を簡便に得ることができる。次に、この易分散性セルロース組成物を樹脂に分散してなる、本発明のセルロース分散樹脂組成物について説明する。本発明のセルロース分散樹脂組成物は、前記した本発明の易分散性セルロース組成物と樹脂とを含む樹脂組成物を溶融混練等して混合して得られた、セルロースと樹脂との混合物であり、セルロースを、質量基準で0.1%以上10%以下の範囲で含有するセルロース分散樹脂組成物である。
【0060】
この際に使用される樹脂としては、溶融混練等してセルロース分散樹脂組成物を得ることから、熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂や、ナイロン樹脂等のポリアミド系樹脂や、ポリカーボネート系樹脂や、ポリスルホン系樹脂や、ポリエステル系樹脂や、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等が使用できる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロデカン、ポリシクロペンジエン、ポリメチルテルペン等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等が挙げられ、ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6(PA6、ε−カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等が挙げられる。
【0061】
上記に挙げた樹脂の中で、特に、セルロース分散樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、オレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリアルケン樹脂が挙げられ、2種以上の混合樹脂として使用してもよい。より具体的には、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン等のポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)が好ましい。更に好ましくは、樹脂組成物の形成に用いる樹脂であるポリオレフィンとして、前記した易分散性セルロース組成物を構成するポリオレフィンと同一骨格のポリマーを用いることが好ましい。このように構成すれば、易分散性セルロース組成物と樹脂とを完全に混合できるようになるからである。このため、例えば、セルロースを分散させる樹脂が決定しているのであれば、その樹脂を用い、これを前記したカルボキシ基化して本発明の製造方法で用いるエマルジョンとし、本発明の易分散性セルロース組成物を得るように構成すれば、混合した際に、完全に混合、相溶した状態にすることができる。このように、その製造方法に用いるポリオレフィンエマルジョンが先に決定しているのではなく、セルロースを分散する基材となる樹脂に応じて、該樹脂に好適な構成の易分散性セルロース組成物を調製することができることも、本発明の大きな特徴である。
【0062】
本発明のセルロース分散樹脂組成物中に含まれるセルロースの含有量は、質量基準で、0.1%以上10%未満である。0.1%より少ないとセルロースの性能が十分発揮されず、10%より多いとセルロースが過剰となりすぎてしまい、表面が粗くなったりする場合がある。より好ましくは、0.5%以上10%以下、更に好ましくは0.5%以上8%以下である。
【0063】
本発明によれば、本発明の易分散性セルロース組成物を、上記に列挙したような分散媒体である樹脂に添加して、通常の混練、溶融混合や分散を行い、易分散性セルロースを構成するポリオレフィンと、分散媒体である樹脂を相溶させることで、CNF等のセルロース類が分散した本発明のセルロース分散樹脂組成物を簡便に得ることができる。本発明のセルロース分散樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、易分散性セルロース組成物と樹脂との混合には、従来公知の方法が利用できる。例えば、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ニーダールーダー、単軸押し出し機、多軸押し出し機等で、混合分散される。混合分散させる際の温度や混合時間は、樹脂によって決まるので一概には言えず、その使用される樹脂に合わせて決定される。その後、セルロース分散樹脂組成物は、シート状に裁断されたり、ペレタイザーでペレット化されたりして使用される。
【0064】
また、本発明のセルロース分散樹脂組成物を製造する際に用いる本発明の易分散性セルロース組成物は、乾燥しても十分使用できるが、易分散性セルロース組成物を得る際に、乾燥する前に得られる水ペーストを使用することもできる。乾燥によってセルロースが凝集する場合があるので、その凝集を抑えるため、乾燥せず、製造工程で得られる水ペーストの状態のものをそのまま使用することで、良好な分散ができる。その際に使用される水ペーストの固形分は特に限定されない。水ペーストの状態の易分散性セルロース組成物を用いてセルロース分散樹脂組成物を製造した際には、例えば、押し出し機だと、ベント等で水分を吸引したりして揮発成分を除去するようにする。
【0065】
また、本発明のセルロース分散樹脂組成物を製造する際には、他の添加剤を添加してもよい。具体的には、相溶化剤、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、顔料や染料等の着色剤、金属粉末、可塑剤、香料、紫外線吸収剤、レベリング剤、導電材、帯電防止剤等を一種以上使用することができ、添加する量は任意である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0067】
[実施例1]<易分散性セルロース組成物−1の作製>
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、固形分:25%)600部に、水を19400部添加し、パルプスラリー濃度0.75質量%の水懸濁液(スラリー)を調製した。次に、得られたスラリーに対し、ビーズミルを用いて機械的解繊処理を行った。更に、解繊処理を行った後、フィルタープレスで脱水し、含水状態のCNF−1(固形分:10%)を1425部得た。
【0068】
このCNF−1を60リッターのバットに1000部をはかり取り、イオン交換水19000部を添加して、ホモミキサーにて5000回転で30分撹拌し、次いで、水浴が設置されたディスパーに撹拌装置を切り替え、600回転で撹拌して、CNF−1の水懸濁液を得た。この水懸濁液は、セルロースを0.726%含有する。
【0069】
次いで、別容器に、ポリオレフィンエマルジョン−1(以下、POE−1と称す)を13537.5部はかり取り、上記で得たCNF−1の水懸濁液に添加して撹拌し、セルロースとポリオレフィンの混合水溶液を得た。この時pHは8.9であった。上記で用いたPOE−1には、ポリエチレン(以下、PE−1と称す)に、無水マレイン酸をグラフトした後、溶融して強力撹拌装置にて撹拌しつつ水酸化ナトリウム水溶液を添加して、エマルジョン化したものである。なお、他の例で使用したポリオレフィンエマルジョンも、同様の手法で作製した。上記で用いたPOE−1の物性は、下記のとおりである。PE−1の酸価が30.0mgKOH/gで、融点が107℃であり、POE−1は、固形分20%、pH9.2、若干透明感のある青白い水溶性液体で、光散乱による粒子径測定機により測定した平均粒子径が110.3nmのものである。
【0070】
別容器に1%塩酸を用意した。上記で得られたセルロースとポリオレフィンの混合水溶液を600回転で撹拌しながら、用意した1%塩酸を徐々に添加していき、pHが3.0になるまで添加した。この際、pHが5〜6付近で増粘が見られた。次いで、水浴で60℃まで加温し、1時間撹拌して、吸引ろ過し、イオン交換水で、ろ液のpHが中性になるまでよく洗浄した。そして、セルロース樹脂処理物(CP−1)の水ペーストを11585部得た。固形分を測定したところ、24.6%であった。この固形分は、赤外水分測定機にて130℃で恒量に達した時の値である。以下、固形分はこの方法で測定した。この固形分は、セルロースを5%含有するセルロースの樹脂処理物である。
【0071】
[実施例2]<易分散性セルロース組成物−2の作製>
実施例1で得られたセルロース樹脂処理物(CP−1)の水ペーストの半量を90℃で24時間加熱・乾燥し、次いで、120℃で24時間加熱・乾燥した。このCP−1についての、加熱・乾燥前と加熱・乾燥後のもののIRを比較したところ、加熱・乾燥前はカルボキシ基のピークであると考えられる1694cm
-1が観測されただけであったが、加熱・乾燥後のものには、1694cm
-1のほかに1745cm
-1のエステル化ピークが見られた。このことから、上記した加熱・乾燥処理で、CP−1を構成しているポリオレフィンのカルボキシ基と、セルロースのカルボキシ基が反応してエステル結合が形成されたと考えられる。加熱・乾燥後のものをCP−1Dと称する。以下の例でも、乾燥物のセルロース樹脂処理物はこの方法で作製し、いずれもIRにてエステル結合の有無を確認した。
【0072】
[実施例3、4]<易分散性セルロース組成物−3、−4の作製>
実施例1で使用したポリオレフィンの量を表1に記載したように変化させて、それ以外は実施例1と同様にして、セルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)をそれぞれ作製した。これを実施例3、4とし、実施例1、2の構成と合わせて、表1にまとめて示した。
【0073】
【0074】
[実施例5〜10]<易分散性セルロース組成物−5〜−10の作製>
実施例1〜3で使用したポリオレフィンエマルジョンであるPOE−1に替えて、後述するポリオレフィンエマルジョンであるPOE−2、POE−3、POE−4、POE−5をそれぞれ使用し、実施例1〜実施例3のいずれかと同様にしてセルロース樹脂処理物をそれぞれ作製した。これを実施例5〜10とした。これらの構成を、表2にまとめて示した。表2に示したように、実施例5のセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)は、得られた水ペーストを乾燥しただけでエステル化してない。また、実施例10のセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)は、実施例9と同様にして得られた水ペーストを、更に実施例2と同様に脱水縮合して得られた乾燥物である。
【0075】
実施例5〜10のセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)を得る際に使用したポリオレフィンエマルジョンには、それぞれ下記の性状のPOE−2、POE−3、POE−4及びPOE−5ものを用いた。
POE−2:ポリオレフィンがポリエチレン(PE)で、その酸価が45.3mgKOH/g、融点が102℃であり、エマルジョンの固形分が15%、pHが9.2で、透明感のある青白い水溶性液体であり、平均粒子径が79nmである。
POE−3:ポリオレフィンがポリエチレン(PE)で、その酸価が15.9mgKOH/g、融点が110℃であり、エマルジョンの固形分が15%、pHが9.0で、乳白い液体であり、平均粒子径178nmである。
POE−4:ポリオレフィンがポリプロピレン(PP)で、その酸価が17.0mgKOH/g、融点が100℃であり、エマルジョンの固形分が20%、pHが8.9で、白色液体であり、平均粒子径212nmである。
POE−5:ポリオレフィンがポリプロピレン(PP)で、その酸価が26.3mgKOH/g、融点が120℃であり、エマルジョンの固形分が20%、pHが9.5で、白色液体であり、平均粒子径257nmである。
【0076】
【0077】
[比較例1〜7]<セルロース含有組成物−1〜7>
下記に示した、セルロースをそれぞれに含有する組成物を比較例1〜7のセルロース含有組成物とした。比較例1のセルロース含有組成物は、先に実施例1で使用した解繊処理を行った含水状態のCNF−1であり、比較例2のセルロース含有組成物は、この含水状態のCNF−1を乾燥して得た乾燥物のCNF−1Dである。比較例3のセルロース含有組成物は、実施例1のセルロース樹脂処理物CP−1を得る際に、使用するセルロースの量を増加させることで得た、セルロースの含有量を50%と多くした(相対的にポリオレフィン量が少ない)比較CP−1であり、比較例4のセルロース含有組成物は、この比較CP−1を乾燥して得た乾燥物の比較CP−1Dである。
【0078】
比較例5のセルロース含有組成物は、実施例1のセルロース樹脂処理物CP−1を得る際に使用した、ポリオレフィンエマルジョンのPOE−1の替わりに、酸価が高く且つ融点が低いポリエチレンからなる下記の性状を有するポリオレフィンエマルジョンPOE−6を使用した以外は同様にして、CNF−1を処理して比較CP−2を得た。ポリエチレンのエマルジョンであるPOE−6の性状は、ポリエチレンの酸価が135mgKOH/g、融点が55℃で、固形分30%、pH9.5の白色液体で、平均粒子径が50nmである。
【0079】
比較例6では、実施例1で使用したポリオレフィンエマルジョンのPOE−1の替わりに、界面活性剤で強制乳化した平均粒径の大きいポリプロピレンからなる下記の性状を有するポリオレフィンエマルジョンPOE−7を使用した以外、実施例1と同様にしたが、界面活性剤で乳化しているため、酸を添加した際にポリオレフィンが十分析出せず、樹脂処理物を得ることができなかった。ポリプロピレンのエマルジョンであるPOE−7の性状は、酸価が10mgKOH/g、融点120℃で、界面活性剤で強制乳化して作製した、固形分20%、pH8.0の白色液体で、平均粒子径が580nmである。
【0080】
比較例7では、実施例1で使用したポリオレフィンエマルジョンのPOE−1の替わりに、ポリエチレンからなる下記の性状を有する平均粒径の大きいポリオレフィンエマルジョンPOE−8を使用した以外は同様にして、CNF−1を処理して比較CP−3を得た。ポリエチレンのエマルジョンであるPOE−8の性状は、酸価が25mgKOH/g、融点が85℃で、固形分40%、pH9.5の白色液体で、平均粒子径800nmである。この結果、酸を添加するとポリオレフィンが析出するものの、ろ過が非常に遅い結果であった。この原因は不明であるが、ろ過が遅いことは、セルロースの親水性が作用して、ろ過しにくい状態であり、すなわち、ナノサイズのセルロースに対して、エマルジョン粒子径が大きいために、セルロースをうまく包括することができなかったのではないかと推測される。
【0081】
[評価A]
上記で得たセルロースの樹脂処理物或いはセルロース含有組成物を用いて、セルロースの分散性等を評価した。
〔評価−1〕<熱キシレンへの分散性>
オレフィンにエステル結合が形成されている実施例2のCP−1D、得られた水ペーストを乾燥しただけの実施例5のCP−4H、含水状態のCNF−1を乾燥した比較例2のCNF−1Dについて、下記のようにして熱キシレンへの分散性を評価した。上記のものを10mlのサンプル瓶に少量添加して、キシレンを加えて、スターラーピースを入れ、キシレンの沸点近くまで加熱撹拌した。
【0082】
その結果、比較例2のCNF−1Dは全く分散しなかった。これに対し、実施例2のCP−1D、実施例5のCP−4Hは、ともキシレン中にCNFが分散した。得られた結果を
図1に示した。
図1の左から、CNF−1D、CP−1D(易分散セルロース組成物中にセルロースは5%)、CP−4H(易分散セルロース組成物中にセルロースは10%)の結果を示した。
【0083】
上記の結果から、実施例の試料では、CNFがエマルジョンのポリオレフィン樹脂に分散した状態で存在しており、実施例の試料を構成しているポリオレフィンが熱キシレンに溶解して、セルロースがキシレンに分散した状態となっていることを示している。
【0084】
〔評価−2〕<易分散セルロース樹脂組成物におけるセルロースの分散状態>
実施例7のポリプロピレンエマルジョンを用いて得られたCP−6を、絵柄を付けたガラスプレートに少量置き、ホットプレートを使用して加熱して乾燥し、更にガラスプレートを被せて熱プレスしてCP−6からなる膜を得た。
【0085】
その結果、
図2に示したように、形成された膜は、下地の絵柄が明確に視認できる微半透明の膜であり、CNF−1が良好に分散していることが確認できた。すなわち、実施例7のCP−6は、CNFを5%含有しているが、形成された樹脂膜中への良好な分散性を示していることがわかる。
図3は、上記で形成した膜についての電子顕微鏡写真の図であり、この図からCNFが良好に分散した状態になっていることが確認された。
【0086】
他の実施例の易分散セルロース樹脂組成物についても上記と同様にして確認した。その結果、いずれの場合も透明感のある膜が得られ、膜中にCNFが良好に分散していることが分かった。しかし、本発明で規定するよりも酸価が高く平均粒径の大きいポリオレフィンエマルジョンPOE−8を使用して得た、比較例7の比較CP−3を用いて同様に膜を形成したところ、白濁した膜であり、セルロースが良好に分散していないことを示した。その理由は、前記したように、セルロースがうまく包括されないために、セルロースが水素結合で凝集してしまい、CNFの良好な分散を得ることができなかったと推測される。
【0087】
[実施例11]<セルロース分散樹脂組成物の作製>
実施例1のセルロースとポリオレフィンとの組成物であるセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)CP−1を用い、樹脂と混合してセルロースを分散してなる樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物について評価した。樹脂組成物の作製に用いた樹脂は、CP−1を作製する際に用いたポリオレフィンエマルジョンであるPOE−1に使用したと同様のポリエチレンPE−1である。CP−1と混合するポリエチレンの使用量は、得られる樹脂組成物中にセルロースが2.5%含有されるようにした。
【0088】
セルロースを分散してなる樹脂組成物の作製は、下記の方法で、CP−1とPE−1とを二軸押出混練し、ペレット化した。そして、得られたペレットを用い、前記した評価−2で行った方法と同様にしてフィルムを作成し、セルロースの分散度合いを確認した。より具体的には、CP−1とPE−1との二軸押出混練を、混練温度140℃で実施し、水分はベントと吸引した。次いで、ストランド状に吐出して冷却、ペレタイザーでカッティングして、セルロースが分散したPE樹脂ペレットを調製した。上記の二軸押出混練機でのパス回数は1回のみである。
【0089】
得られたセルロースが分散したPE樹脂ペレットを細かく切り分け、前記した評価−2で行ったと同様にして膜を作成した。その結果、形成された膜は殆ど透明であり、ポリエチレン樹脂にセルロースが良好に分散していることが確認できた。このことは、二軸押出混練機でのパス回数が1回のみでも、樹脂中へのセルロースの十分な分散性が得られることを示しており、実施例1のCP−1は、ポリエチレン樹脂に対して易分散性であると判断できる。
【0090】
[実施例12]<セルロース分散樹脂組成物と比較例>
先に作製した実施例2〜8の、セルロースとポリオレフィン(PE又はPP)との組成物であるセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)をそれぞれに用い、実施例11で行ったと同様にして、セルロースを分散してなる樹脂組成物である樹脂ペレットを得た。また、実施例9、10のセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)については、樹脂にポリプロピレンを使用して、セルロースを分散してなるPP樹脂ペレットを得た。そして、得られたPE樹脂ペレット又はPP樹脂ペレットを用い、実施例11で行ったと同様にしてそれぞれ膜を形成して、樹脂中へのセルロースの分散性を評価した。この結果、すべての実施例で、透明の膜を得ることができ、良好な分散性を示した。また、二軸押出混練機でのパス回数は一回のみでも、樹脂中へのセルロースの十分な分散性が得られることを示しており、実施例2〜10のセルロース樹脂処理物(易分散性セルロース組成物)は、いずれもポリオレフィン樹脂に対して易分散性であると判断できる。
【0091】
[比較例8]<セルロース分散樹脂組成物と比較例>
先に作製した比較例1〜5、7の各セルロース含有組成物をそれぞれ用い、セルロースの含有量が2.5%になるように、前記したポリエチレン(PE−1)樹脂を使用して、実施例11と同様して、比較例のセルロースを含有した樹脂組成物であるPE樹脂ペレットを得た。そして、得られたPE樹脂ペレットを用い、実施例11で行ったと同様にしてそれぞれ膜を形成し、樹脂中へのセルロースの分散性を評価した。
【0092】
この結果、比較例1、2、3、4のセルロース含有組成物を用いた場合は、PE樹脂と二軸押出混練した際に、繊維状のものがあり、ぼそぼそしており、ストランドも引くことができず、セルロースが全く分散していないことが分かった。その理由は、前記で試験したキシレンへの分散の場合と同様に、比較例1、2の、樹脂で処理していない態様のセルロース含有組成物の場合は、非極性の疎水性の強いPE樹脂では、セルロースの水素結合が強く、二軸押出混練してもセルロースが分散しなかったものと考えられる。
【0093】
また、樹脂で処理されるセルロースの量を多くして得た比較例3、4のセルロース含有組成物は、実施例と同様にポリオレフィンのエマルジョンで処理したとしても、相対的に樹脂の量が少ないと十分なセルロースの包括ができず、セルロースが、処理で凝集した状態になってしまい、二軸押出混練しても十分なセルロースの分散ができなかったものと考えられる。また、比較例5のセルロース含有組成物は、セルロースの処理に使用したエマルジョンを構成するポリエチレンの融点が55℃と低いため、得られたストランドが軟質であった。その程度は手で引っ張っても切れるほどであり、樹脂組成物として耐性がないと考えられる。また、比較例7のセルロース含有組成物を用いた場合は、ペレット化できたが、形成した膜は白っぽく、セルロースが十分に分散していないと考えられる。
【0094】
[評価B]<二軸押出混練、射出成型及び引張試験>
上記で得られた実施例11、12の各PE樹脂ペレット、比較例7のセルロース含有組成物を使用して得られたPE樹脂ペレットについて、それぞれ射出成型を実施し、ダンベル片(ダンベル厚:2mm)を作成して評価用サンプルとした。得られた評価用サンプルのダンベル片のそれぞれについて、引張試験機(インストロン社製:万能試験機5900シリーズ使用)で、10mm/minの引張速度で引張試験を実施し、引張弾性率及び引張強度を測定し、評価した。得られた結果を表3にまとめて示した。比較のために、セルロースを添加しないポリエチレン(PE−1)樹脂についても同様の試験を行い、表3中に結果を示した。
【0095】
【0096】
表3に示したように、本発明の実施例の易分散性セルロース組成物を使用して得たセルロース樹脂組成物は、ナノサイズのセルロースが良好に分散することによって、機械的物性が向上して、その引張弾性率、引張強度ともに高い値を示した。また、液体液分を含んだままの水ペーストとして二軸押し出し混練しても、ポリエチレン(PE−1)樹脂のみの場合に比べて、十分な更なる機械強度向上が確認された。水ペーストを使用する実施形態では、乾燥工程を省きコストダウンがはかれると考えられる。これに対し、比較例7のセルロース含有組成物を用いた場合では、セルロースがうまくオレフィンに分散しないことから、ポリエチレン(PE−1)樹脂のみの場合に比べて、弾性率はセルロース添加の効果で若干の向上が見られたが、強度が低下した結果であった。