【課題】騒音の発生や環境汚染のおそれが少なく、安全に短時間で解体することができて解体費用を低減することができる膨張管を用いた固体の割裂解体工法及び橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法を提供する。
【解決手段】既設コンクリート構造物や岩塊などの既存固体を割裂させて細かく分け解体する固体の割裂解体工法であって、前記既存固体を分割破断する破断線に沿って所定間隔を空けて複数のコア孔を削孔するコア抜き工程と、内部に流体が圧入されることで膨張する膨張管を前記複数のコア孔の各コア孔に挿置する膨張管挿置工程と、前記複数のコア孔に挿置された複数の前記膨張管に流体を圧入して膨張させ、前記破断線に沿って前記既存固体を割裂させる膨張管膨張工程と、を備える。
前記膨張管は、流体が圧入される膨張前の断面形状が、一部が内側に折り込まれた凹部を有した形状となっており、流体が圧入された膨張後の断面形状が、略円形となる凹部型膨張管であり、
前記膨張管挿置工程では、前記凹部が前記破断線に沿って同一方向に向くように、又は前記凹部が前記破断線に沿って互いに反対方向を向くように、前記凹部型膨張管を前記コア孔に挿置すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の膨張管を用いた固体の割裂解体工法。
前記床版破断撤去工程では、前記膨張管を用いて前記鉄筋コンクリート床版を割裂させたうえ、生じた亀裂から露出した鉄筋を溶断して、前記鉄筋コンクリート床版を破断撤去すること
を特徴とする請求項4に記載の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法。
【背景技術】
【0002】
このような既設コンクリート構造物の割裂解体工法と関連する従来の工法としては、特許文献1に、鉄筋コンクリート構造物である橋脚1の切断方法において、ワイヤソー2による切断作業の進行に伴って、橋脚1の切断上部の荷重がワイヤソー2にかかる前に、橋脚1に形成される切断間隙S内、又は切断間隙Sを跨いで、その上下に切断間隙Sの高さを一定に保持する切断間隙保持手段として薄型の水圧ジャッキ30を設置し、この水圧ジャッキ30を流体圧力により切断上部の荷重と対抗させてジャッキアップする鉄筋コンクリート構造物の水平切断方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1,7、明細書の段落[0022]、図面の
図9等参照)。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の鉄筋コンクリート構造物の水平切断方法は、水圧を利用するもののコンクリート構造物の切断自体は、ワイヤソー2により行うものである。しかし、コンクリートの切削により粉塵等が飛散してしまい、橋梁がある周囲の環境を汚染したり、近隣住民から苦情等の原因となったりするという問題があった。また、硬い砂利(粗骨材)を含んだコンクリート構造物をさらに硬いもので擦って削り取って切断するものであり、切断解体等に多大なエネルギーを消費してしまうという問題もあった。
【0004】
また、橋梁の鉄筋コンクリート床版は、鋼桁の上面に溶植された頭付スタッドジベルや溶接されたスラブアンカーなどの合成部材で鋼桁とコンクリート床版とが一体化されている。このため、従来の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、鋼桁のフランジ上面に位置する床版部分(以下、桁上部分という)を残して、ブレーカやダイヤモンドカッタ等で床版のコンクリート部分を破砕又は切断して、鉄筋コンクリート床版を揚重装置で揚重可能な大きさのブロックに分けて撤去し、その後、桁上部分のコンクリートをブレーカ又はピックで斫りとって解体撤去していた(特許文献2の明細書の段落[0005]、図面の
図5等も参照)。
【0005】
しかし、このような従来の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、桁上部分をブレーカ等で斫り取る際に、ブレーカの先端が鋼桁のフランジ上面に当接してしまい、その振動音がウェブなどの広範な面積を有する部材により増幅されて大きな騒音が発生してしまうという問題があった。
【0006】
そして、このような問題を解決するべく、特許文献2には、取替えられる位置の既設床版1における鋼桁4のウェブ6を、橋軸方向に沿って上下方向に切断して、既設床版1を鋼桁4の上側ウェブ9bごと撤去し、別途製作された、既設床版1と同形同大の新設床版20を、既設鋼桁の下側ウェブ9a上に配置して、鋼桁下側ウェブ9aと新設床版20の鋼桁上側ウェブ29とを一体に接合する橋梁コンクリート床版の取替え工法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0022]〜[0031]、図面の
図2、
図4等参照)。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の橋梁コンクリート床版の取替え工法は、短時間でコンクリート床版を取り替えることができるものの、鋼桁の上半分ごとコンクリート床版を揚重できるだけの超大型のクレーンが必要であり、リース費用が嵩む。加えて、一般道を自走できない超大型クレーンを組み立てられるだけの組立ヤードが確保できない現場では、特許文献3に記載の橋梁コンクリート床版の取替え工法を採用することができないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の橋梁コンクリート床版の取替え工法では、重量物である鋼桁半分と床版の荷重に耐え得るように、所定の吊り孔3を穿設する手間が掛かるという問題があった。その上、床版下の鋼桁を切断しなければならないため、火花や溶けた鋼桁の一部が落下する危険があるだけでなく、撤去する橋梁全面に亘って作業用の足場を設けなければならず、仮設足場の設置作業が膨大となり、仮設費用が嵩むという問題もあった。
【0009】
さらに、特許文献3には、コンクリート部材の局所的な解体を効率的に行える解体方法を提供することを目的として、鉄筋コンクリート部材10の解体予定領域1に1箇所のコア孔3を穿設して自由面13を形成し、自由面13の周辺に穿設した破砕孔5に油圧破砕機15を設置して自由面13の方向に圧力をかけ、自由面13と破砕孔5とをつなぐ分断面9でコンクリートを分断し、自由面13の方向へと押出すことにより、新たな自由面13を形成してその周囲に破砕孔5を穿設し、同様にして破砕孔5から自由面13の方向に圧力をかけ、自由面13と破砕孔5とをつなぐ分断面9でコンクリートを分断して自由面13の方向に押出し、新たな自由面13を形成する作業を繰り返すことにより、解体予定領域1の解体を行うコンクリート部材の解体方法が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0020]〜[0037]、図面の
図1〜
図5等参照)。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の解体方法は、解体するコンクリート部材の上に油圧破砕機15等を設置するとともに、同様に解体するコンクリート部材の上で作業員がコア孔3等の作業をする関係上、コンクリート部材が崩落しないように注意しながら、圧破砕機15で自由面13を少しずつ押し広げて局所的に徐々に解体していくしかない。これには作業自体が危険なだけでなく、解体作業に時間を要し、労務費用が嵩んで解体費用が高くなってしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、前述した問題を鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは騒音や振動の発生および環境汚染のおそれが少なく、安全に短時間で解体することができて解体費用を低減することができる膨張管を用いた固体の割裂解体工法及び橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の膨張管を用いた固体の割裂解体工法は、既設コンクリート構造物や岩塊などの既存固体を割裂させて細かく分け解体する固体の割裂解体工法であって、前記既存固体を分割切断する破断線に沿って所定間隔を空けて複数のコア孔を削孔するコア抜き工程と、内部に流体が圧入されることで膨張する膨張管を前記複数のコア孔の各コア孔に挿置する膨張管挿置工程と、前記複数のコア孔に挿置された複数の前記膨張管に流体を圧入して膨張させ、前記破断線に沿って前記既存固体を割裂させる膨張管膨張工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の膨張管を用いた固体の割裂解体工法は、請求項1に記載の膨張管を用いた固体の割裂解体工法において、前記膨張管膨張工程では、前記複数のコア孔に挿置された複数の前記膨張管に略同時に流体を圧入して膨張させることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の膨張管を用いた固体の割裂解体工法は、請求項1又は2に記載の膨張管を用いた固体の割裂解体工法において、前記膨張管は、流体が圧入される膨張前の断面形状が、一部が内側に折り込まれた凹部を有した形状となっており、流体が圧入された膨張後の断面形状が、略円形となる凹部型膨張管であり、前記膨張管挿置工程では、前記凹部が前記破断線に沿って同一方向に向くように、又は前記凹部が前記破断線に沿って互いに反対方向を向くように、前記凹部型膨張管を前記コア孔に挿置することを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の膨張管を用いた橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法は、鋼桁とこの鋼桁に定着一体化された鉄筋コンクリート床版とを備えた橋梁の鉄筋コンクリート床版を解体撤去する橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法であって、前記鋼桁上方となる前記鉄筋コンクリート床版の桁上部分に、この桁上部分を分割破断する桁上破断線に沿って、所定間隔を空けて複数のコア孔を削孔するコア抜き工程と、内部に流体が圧入されることで膨張する膨張管を前記複数のコア孔の各コア孔に挿置する膨張管挿置工程と、前記コア抜き工程及び膨張管挿置工程と並行して、又は膨張管挿置工程終了後に、前記桁上部分を除き、前記鉄筋コンクリート床版を破断撤去する床版破断撤去工程と、前記床版破断撤去工程後に、前記複数のコア孔に挿置された複数の前記膨張管に流体を圧入して膨張させ、前記桁上破断線に沿って前記桁上部分を割裂させる膨張管膨張工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の膨張管を用いた橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法は、請求項4に記載の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法において、前記床版破断撤去工程では、前記膨張管を用いて前記鉄筋コンクリート床版を割裂させたうえ、生じた亀裂から露出した鉄筋を溶断して、前記鉄筋コンクリート床版を破断撤去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜5に記載の発明によれば、膨張管に流体を圧入して膨張させ、既存固体を割裂させて解体するので、膨張管へ圧入する流体の圧力を調整しながら既存固体を割裂させることができ、騒音が発生するおそれがすくない。加えて水などの流体を使用するだけなので、例え流体が漏れ出した場合であっても静的破砕剤のように周囲の環境を汚染するおそれも少ない。また、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて切断するのに比べて粉塵等も発生することがなく環境に優しいだけでなく、圧縮強度より遙かに引張り強度が弱いコンクリート構造物や岩塊、レンガ等の固体を内側から割裂させて解体できるため、エネルギー効率が良く、その点でも環境に優しい。その上、作業員がワイヤソーやダイヤモンドカッタに巻き込まれて怪我をするおそれが少なく、安全かつ短時間で既存固体を解体することができる。
【0019】
特に、請求項2に記載の発明によれば、複数のコア孔に挿置された複数の膨張管に略同時に流体を圧入して膨張させるので、破断線に沿って既存固体を一気に割裂させて分割することができる。さらに安全に短時間で既存固体を解体することができて解体費用を低減することができる。
【0020】
特に、請求項3に記載の発明によれば、膨張前の断面径が小さい凹部型膨張管を用いて解体するので、コア抜き工程で削孔するコア孔の径が小さくて済み、コア抜き工程を短縮してさらに安全に短時間で既存固体を解体することが可能となり、解体費用を低減することができる。
【0021】
特に、請求項4に記載の発明によれば、膨張率が大きく既存固体を割裂する力が強い偏平型膨張管を用いて解体するので、既存固体に生じる亀裂が大きくなり、鉄筋の溶断等の後工程がスムーズとなり、解体撤去が容易となる。
【0022】
請求項5、6に記載の発明によれば、スタッドジベルなどが設けられているため、ブレーカやピック等で解体する際に大きな騒音の発生要因となっている橋梁の鉄筋コンクリート床版の桁上部分を、膨張管に流体を圧入して膨張させてコンクリートの内側から割裂させて解体するので、膨張管へ圧入する流体の圧力を調整しながら鉄筋コンクリート床版を割裂させることができ、騒音が発生するおそれがない。その上、水などの流体を使用するだけなので、例え流体が漏れ出した場合であっても静的破砕剤のように周囲の環境を汚染するおそれも少ない。また、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて切断するのに比べて粉塵等も発生することがなく環境に優しいだけでなく、圧縮強度より遙かに引張り強度が低いコンクリートからなる床版を内側から膨張圧力で割裂させて解体できるため、エネルギー効率が良く、その点でも環境に優しい。それに加え、作業員がワイヤソーやダイヤモンドカッタに巻き込まれて怪我をするおそれが少なくなり、安全に短時間で床版を解体することができる。
【0023】
特に、請求項6に記載の発明によれば、さらに、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて切断する必要がないため、粉塵等も発生することがなく環境に優しい。それに加え、圧縮強度より遙かに引張り強度が弱いコンクリートからなる床版を内側から割裂させて解体できるため、エネルギー効率が良く、その点でも環境に優しい。また、作業員がワイヤソーやダイヤモンドカッタに巻き込まれて怪我をするおそれが少なく、安全かつ短時間で床版を解体することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に用いる第1実施形態に係る凹部型膨張管を示す斜視図である。
【
図3】同上の凹部型膨張管の膨張管本体の断面形状を示すA−A線拡大端面図である。
【
図4】同上の凹部型膨張管の膨張管本体と封止スリーブの接合構造を示すB−B線拡大断面図である。
【
図5】同上の凹部型膨張管の注入スリーブの断面形状を主に示すC−C線拡大断面図である。
【
図6】同上の凹部型膨張管の膨張管本体と注入スリーブの接合構造を主に示すD−D線拡大断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る固体の割裂解体工法のコア抜き工程を斜視図で示す工程説明図である。
【
図8】同上の固体の割裂解体工法の膨張管挿置工程を平面図で示す工程説明図である。
【
図9】同上の固体の割裂解体工法の膨張管膨張工程を平面図で示す工程説明図である。
【
図10】同上の膨張管膨張工程における膨張管本体の膨張過程を断面図で示す膨張過程説明図である。
【
図11】亀裂の方向性についての実験結果を模式的に表した平面図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法で解体撤去する橋梁を示す斜視図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法のコア抜き工程を桁上部分の部分拡大斜視図で示す工程説明図である。
【
図15】同上のコア抜き工程を橋軸方向に沿って水平に見た正面図で示す工程説明図である。
【
図16】同上の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法の膨張管挿置工程を桁上部分の部分拡大平面図で示す工程説明図である。
【
図17】同上の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法の床版破断撤去工程を斜視図で示す工程説明図である。
【
図18】同上の床版破断撤去工程を橋軸方向に沿って水平に見た正面図で示す工程説明図である。
【
図19】同上の橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法の膨張管膨張工程を桁上部分の部分拡大平面図で示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る固体の割裂解体工法及び橋梁の鉄筋コンクリート合成床版の解体撤去工法を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
<膨張管>
先ず、
図1〜
図6を用いて、本発明の実施形態に係る固体の割裂解体工法及び橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法に用いる膨張管について説明する。
【0027】
先ず、
図1〜
図6を用いて、本発明の実施形態に係る固体の割裂解体工法及び橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法には用いる実施形態に係る膨張管である凹部型膨張管1について説明する。
【0028】
<膨張管>
図1、
図2に示すように、本発明の実施形態に係る凹部型膨張管1は、異形鋼管からなる膨張管本体2と、この膨張管本体2の一端の端部開口を封止する封止スリーブ3と、膨張管本体2の他端に嵌着される注入スリーブ4など、から構成され、注入スリーブ4から供給される高圧水により膨張管本体2が膨張する機能を有している。
【0029】
(膨張管本体)
膨張管本体2は、一般鋼管の素管が一旦膨張させた後偏平にプレスされ、
図3に示すように、ロール成形等により断面形状において鋼管の一部が内側に折り込まれた凹部2aが形成された異形鋼管からなる。この異形鋼管の外径は、素管の外径より小径に形成されている。また、素管としては、膨張させ、プレス、ロール成形可能で高圧膨張時に破裂しない変形性能が求められることから、炭素の含有率が高くて脆い高強度鋼管ではなく、伸び率が40%程度の変形性能を有する引張強度400N/mm
2級の鋼管が好適である。
【0030】
(封止スリーブ)
封止スリーブ3は、
図4に示すように、主に、膨張管本体2の異形鋼管の管端の外径と略同径の内径からなる短筒状の円筒鋼管から構成された端部が閉塞されたスリーブである。また、封止スリーブ3は、膨張管本体2の先端に外嵌されたうえ、その状態で膨張管本体2の管端が溶接されることにより、高圧でも水密性を保持するように膨張管本体2の管端を封止する機能を有している。
【0031】
勿論、封止スリーブ3と膨張管本体2との接合は、溶接接合に限られず、高圧でも水密性を保持するように膨張管本体2の管端を封止可能な構成であれば、封止スリーブの管端に別途の封止金具を圧入するなど他の接合方法で接合されていても構わない。
【0032】
(注入スリーブ)
注入スリーブ4は、
図5、
図6に示すように、主に、膨張管本体2の異形鋼管の管端の外径と略同径の内径からなる短筒状の円筒鋼管から構成されている。
【0033】
注入スリーブ4は、
図6に示すように、膨張管本体2の管端を塞ぐように、膨張管本体2の後端が内周面に溶接接合されており、高圧でも水密性を保持するように構成されている。また、
図5、
図6に示すように、注入スリーブ4には、その内周面に溶着された膨張管本体2まで貫く注入口4aがドリル等により穿孔され、この注入口4aに接続される後述の高水圧供給ユニットWUを介して注入スリーブ4から膨張管本体2内に高圧水を注入可能となっている。
【0034】
勿論、注入スリーブ4の構成も、高圧水を注入可能で高圧でも水密性を保持するように構成されていればよく、注入スリーブ4と膨張管本体2の管端の接合も、別途の金具を介して接合されていても構わない。
【0035】
なお、封止スリーブ3及び注入スリーブ4は、膨張管本体2のような変形性能は要求されないことから、膨張管本体2と同等の引張強度400N/mm
2か、それ以上の引張強度を有する鋼管から構成されていればよい。
【0036】
このような凹部型膨張管1によれば、予め膨張させた後、プレス成形、ロール成形等で凹部2aを有する断面凹状に成形されているので、高圧水の圧入時の膨張量を大きくすることができるとともに、変形性能に優れ、膨張時に破裂するおそれが極めて少ないものとなる。
【0037】
また、封止スリーブ3及び注入スリーブ4の外径(直径)は、40mm以下であり、折り畳まれた膨張管本体2の外径は、36mm程度であるため、凹部型膨張管1は、直径40mmの小径の孔に挿入可能となっている。
【0038】
<固体の割裂解体工法>
次に、
図7〜
図11を用いて、前述の実施形態に係る凹部型膨張管1を用いた本発明の実施形態に係る固体の割裂解体工法について説明する。本実施形態に係る固体の割裂解体工法は、既設の橋梁、トンネル、建築物などの既設コンクリート構造物や、土木建設法事において障害となる岩塊、又はレンガなど、引張強度が圧縮強度に比べて低い既存固体には、好適に適用することができるが、既存固体として矩形断面を有する直方体状の無筋のコンクリート塊Cを例示して説明する。
【0039】
(1)コア抜き工程
先ず、本実施形態に係る固体の割裂解体工法では、
図7に示すように、分割解体するコンクリート塊Cの破断線Lを設定し、その破断線Lに沿って所定間隔を空けて複数のコア孔Hを削孔するコア抜き工程を行う。具体的には、破断線Lをコンクリート塊Cに墨出し(位置出し)したうえ、所定間隔でコア孔Hの中心位置をマーキングし、コアドリルなどのコア抜き装置をそのマーキングに合せてセットする。その後、コア抜き装置を作動させて、凹部型膨張管1の長さに応じた所定深さのコア孔Hを削孔する。
【0040】
コア孔H同士の間隔は、破断解体する固体の種類に応じて予め実験等で1本の膨張管で割裂可能な範囲を確認しておき、適宜定めると良い。無筋のコンクリート塊Cを前述の凹部型膨張管1で割裂する場合を想定して実験を行ったところ、40cm程度の間隔であれば割裂することが明らかとなった。
【0041】
(2)膨張管挿置工程
次に、本実施形態に係る固体の割裂解体工法では、
図8に示すように、前工程で削孔した複数のコア孔の各コア孔Hに前述の凹部型膨張管1を挿置する膨張管挿置工程を行う。具体的には、
図8の矢印で示すように、凹部型膨張管1の膨張管本体2の凹部2aの溝方向が、破断線Lに沿って一致するように、各凹部型膨張管1の凹部2aの溝方向が、同一方向に向くように、又は互いに反対方向を向くように、各凹部型膨張管1を各コア孔Hに挿置する。
【0042】
そして、
図8に示すように、各コア孔Hに挿置した複数の凹部型膨張管1の全てに加圧アダプターCAを介して接続する高圧水発生装置である高水圧供給ユニットWUをセットし、複数の凹部型膨張管1の全てに高圧水を同時に供給可能に構成する。この本実施形態に係る高水圧供給ユニットWUは、エアー増圧方式の高圧水発生装置であり、エアー圧:0.5〜0.8MPa、発生水圧:25〜30MPa(最大50MPa)、増圧比(エアー1:水65)、吐出量9L/minの能力を有している。
【0043】
勿論、膨張管に注入する流体は、水に限られず、高圧水発生装置ではなく従来の油圧装置を介して高圧油を圧入しても構わない。但し、高圧水発生装置を介して高圧水を注入する構成であれば、大量の流体を安価に入手可能であるばかりでなく、万が一膨張管から流体が漏れ出したり、膨張管に残存する流体を放置したりした場合であっても、周囲の環境に悪影響を及ぼすおそれが無いため好ましい。
【0044】
(3)膨張管膨張工程
次に、本実施形態に係る固体の割裂解体工法では、
図9に示すように、複数のコア孔Hに挿置された複数の凹部型膨張管1に、高水圧供給ユニットWUを介して水を圧入し、凹部型膨張管1を膨張させ、破断線Lに沿ってコンクリート塊Cを割裂させる膨張管膨張工程を行う。具体的には、高水圧供給ユニットWUを作動させ、各凹部型膨張管1に加圧アダプターCAを介して同時に水を注入・充填し、その水圧で凹部型膨張管1を
図10に示すように膨張させ、コンクリート塊Cに内側から圧力を加えることで、コンクリート塊Cに引張応力を作用させ、コンクリート塊Cを破断線Lに沿って割裂させ、搬出容易な任意の大きさに分割することができる。
【0045】
ここで、コンクリートの物性は、引張強度:f
tk=f’
ck2/3の式(ここでf’
ckは、設計圧縮強度)で表されるように、圧縮強度に比べて極端に引張強度が低いという特性を有しており、従来のように、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて切断するのに比べて切断作業におけるエネルギー効率が良く、省エネルギーでコンクリート塊Cを破断・分割することができる。
【0046】
また、凹部型膨張管1が膨張するときは、
図12に示すように、凹部2aの間隔が真っ先に開いてコンクリート塊Cを押し開くため、凹部2aの溝方向に沿って亀裂が生じるものと考えられる。このため、前述のように、膨張管挿置工程において、各凹部型膨張管1の凹部2aの溝方向が、同一方向に向くように、又は互いに反対方向を向くように、セッティングすることにより、任意の破断線Lに沿ってコンクリート塊Cを割裂させることができる。
【0047】
この亀裂の方向性については、出願人らは、断面正方形の無筋コンクリート柱のテストピースを作成し、
図11に示すように、対角線方向に凹部2aの溝方向が向くように挿置して膨張させ、亀裂がテストピースの対角線に沿って走ることを実験により確認している。
【0048】
また、事前に、コア孔Hを穿設しなければならないものの、高水圧供給ユニットWUにより複数の凹部型膨張管1を同時に膨張させることが容易であり、工程の進行を工夫することにより、一方向又は二方向からの切断しかできないワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いた切断方法よりも、トータル的に作業時間の短縮を図ることも可能である。
【0049】
(4)搬出撤去工程
次に、本実施形態に係る固体の割裂解体工法では、前工程で任意の大きさに破断したコンクリート塊Cを搬出車両に積み込んで搬出して撤去する搬出撤去工程を行う(図示せず)。具体的には、任意の大きさに破断したコンクリート塊Cをパワーショベルや油圧クラッシャーなどの重機を用いてダンプトラックなどの搬出車両に積み込んで搬出する。これにより、本実施形態に係る固体の割裂解体工法によるコンクリート塊の解体作業が終了する。
【0050】
このとき、コンクリートは、細かく砕いて敷砂利などとして再生可能であり、鉄筋や膨張管などの鋼材は、溶融して異形鉄筋等に再生可能であるため、通常、解体現場では、コンクリートと鋼材に仕分けして搬出される。本実施形態に係る固体の割裂解体工法によれば、膨張管にコンクリートが付着していないので、この仕分けが極めて容易に行える。また、廃棄する膨張管に注入されている流体も水であり、環境汚染の心配がないため、流体の残存の確認をせずに、膨張管を廃棄することが可能であり、仕分け時間の短縮を図ることができる。
【0051】
以上説明した本実施形態に係る固体の割裂解体工法によれば、高水圧供給ユニットWUにより凹部型膨張管1へ圧入する流体の圧力を調整しながら既存固体であるコンクリート塊Cを割裂させることができ、騒音が発生するおそれがすくない。加えて凹部型膨張管1は水により加圧されるため、例え流体が漏れ出した場合であっても静的破砕剤のように周囲の環境を汚染するおそれも少ない。また、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて切断するのに比べて粉塵等も発生することがなく環境に優しい。その上、作業員がワイヤソーやダイヤモンドカッタに巻き込まれて怪我をするおそれが少なく、安全に短時間でコンクリート塊Cを解体することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る固体の割裂解体工法によれば、複数のコア孔Hに挿置された複数の凹部型膨張管1に略同時に水を圧入して膨張させるので、破断線Lに沿ってコンクリート塊Cを一気に割裂させて分割することができる。このため、さらに安全に短時間で既存固体を解体することができて解体費用を低減することができる。
【0053】
その上、本実施形態に係る固体の割裂解体工法によれば、小径の凹部型膨張管1を用いてコンクリート塊Cを割裂させるので、コア抜き工程で削孔するコア孔Hの径が40mm程度の小径のコア孔で済み、コア抜き工程の作業時間を短縮してさらに安全に短時間でコンクリート塊Cを解体することが可能となり、解体費用を低減することができる。
【0054】
<橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法>
次に、
図12〜
図19を用いて、前述の実施形態に係る凹部型膨張管1を用いた本発明の実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート合成床版の解体撤去工法について説明する。
【0055】
図12、
図13に示すように、橋脚などの下部構造Tの間に、所定間隔をおいてI形鋼などの形鋼からなる主桁Kが架け渡され、その主桁K上に鉄筋コンクリート床版Sが形成され、主桁Kのフランジ上面に突設された頭付きスタッドジベルSJ(
図15参照)で主桁Kとコンクリート床版Sとが一体化されている橋梁Bの鉄筋コンクリート合成床版Sを解体撤去する場合を例示して説明する。
【0056】
(1)コア抜き工程
先ず、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、
図14、
図15に示すように、頭付きスタッドジベルSJやスラブアンカーの位置を考慮して解体撤去体するコンクリート床版Sの主桁Kの上方となる桁上部分A1に破断線L2を設定し、その破断線L2に沿って所定間隔を空けて複数のコア孔H2を削孔するコア抜き工程を行う。具体的には、破断線L2を桁上部分A1に墨出し(位置出し)したうえ、所定間隔でコア孔H2の中心位置をマーキングし、コアドリルなどのコア抜き装置をそのマーキングに合せてセットする。その後、コア抜き装置を作動させて、主桁Kのフランジ上面まで達する深さのコア孔H2を削孔する。
【0057】
コア孔H2同士の間隔は、破断解体するコンクリート床版Sの厚さや鉄筋の配筋状況に応じて予め実験等で1本の膨張管で割裂可能な範囲を確認しておき、適宜定めると良い。一般的な厚さ350mm程度のコンクリート床版Sを前述の凹部型膨張管1で割裂する場合は、20〜100cm程度の間隔であればよい。
【0058】
(2)膨張管挿置工程
次に、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、
図16に示すように、前工程で削孔した複数のコア孔の各コア孔H2に前述の凹部型膨張管1を挿置する膨張管挿置工程を行う。具体的には、
図16の矢印で示すように、凹部型膨張管1の膨張管本体2の凹部2aの溝方向が、破断線L2に沿って一致するように、各凹部型膨張管1の凹部2aの溝方向が、同一方向に向くように、又は互いに反対方向を向くように、各凹部型膨張管1を各コア孔H2に挿置する。
【0059】
そして、
図16に示すように、各コア孔H2に挿置した複数の凹部型膨張管1の全てに加圧アダプターCAを介して接続する前述の高水圧供給ユニットWUをセットし、複数の凹部型膨張管1の全てに高圧水を供給可能に構成する。
【0060】
(3)床版破断撤去工程
次に、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、
図17、
図18に示すように、桁上部分A1を除き、コンクリート床版Sを破断撤去する床版破断撤去工程を行う。具体的には、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて桁上部分A1を除くコンクリート床版Sをクレーンなどの揚重装置で揚重可能な大きさに破断して分割し、破断して他の床版部分から分離可能となった破断ピースを揚重装置で揚重して順次搬出撤去していく。
【0061】
勿論、ワイヤソーやダイヤモンドカッタを用いて切断するのではなく、破断線に沿ってコア孔を削孔し、凹部型膨張管1を用いて割裂して分離搬出しても構わない。そうすることで、粉塵等が発生するおそれが少なくなるだけでなく、エネルギー効率が良く、環境に優しい。また、作業員がワイヤソーやダイヤモンドカッタに巻き込まれて怪我をするおそれが少なく、安全に短時間でコンクリート床版Sを解体することができる。
【0062】
また、凹部型膨張管1を用いて桁上部分A1を除くコンクリート床版Sを分割する場合は、凹部型膨張管1を膨張させてコンクリート床版Sを割裂させたうえ、生じた亀裂から露出した鉄筋を溶断して、破断撤去する。
【0063】
なお、(1)コア抜き工程、(2)膨張管挿置工程、(3)床版破断撤去工程は、同時並行して行ってもよい。但し、(1)コア抜き工程及び(2)膨張管挿置工程は、足場のある状態で行うことが好ましく、(3)床版破断撤去工程で床版を撤去する前にその周辺の桁上部分A1の(1)コア抜き工程及び(2)膨張管挿置工程は完了しておくことが望ましい。
【0064】
(4)膨張管膨張工程
次に、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、
図19に示すように、複数のコア孔H2に挿置された複数の凹部型膨張管1に、高水圧供給ユニットWUを介して水を圧入し、凹部型膨張管1を膨張させ、破断線L2に沿ってコンクリート床版Sの桁上部分A1を割裂させる膨張管膨張工程を行う。具体的には、高水圧供給ユニットWUを作動させ、各凹部型膨張管1に加圧アダプターCAを介して同時に水を注入・充填し、その水圧で凹部型膨張管1を
図12に示すように膨張させ、桁上部分A1を内側から圧力を加えることで、桁上部分A1のコンクリートに引張応力を作用させ、桁上部分A1を破断線L2に沿って割裂させ分割する。
【0065】
このとき、桁上部分A1の割裂に伴って、主桁Kとコンクリート床版Sを一体化していた頭付きスタッドジベルSJとコンクリートがズレて分離し、桁上部分A1の撤去が容易となる。
【0066】
また、従来工法のように、桁上部分A1をブレーカやピック等で斫り取る際に、ブレーカ等の先端が鋼桁である主桁Kのフランジ上面に当接してしまい、その振動音がウェブなどの広範な面積を有する部材により増幅されて大きな騒音が発生してしまうおそれがない。加えて、高水圧供給ユニットWUを用いて離れた複数の凹部型膨張管1を同時に膨張させて桁上部分A1を分割可能なため、桁上部分A1を効率的に分割することができる。
【0067】
(5)搬出撤去工程
次に、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法では、前工程で分割した桁上部分A1を搬出車両に積み込んで搬出して撤去する搬出撤去工程を行う(図示せず)。具体的には、分割した桁上部分A1をパワーショベルや油圧クラッシャーなどの重機を用いてダンプトラックなどの搬出車両に積み込んで搬出する。これにより、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法によるコンクリート床版Sの解体撤去作業が終了する。
【0068】
このとき、本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法によれば、前述のように、膨張管にコンクリートが付着していないので、コンクリートと鋼材の仕分けが極めて容易に行える。また、廃棄する膨張管に注入されている流体も水であり、環境汚染の心配がないため、流体の残存の確認をせずに、膨張管を廃棄することが可能であり、仕分け時間の短縮を図ることができる。
【0069】
以上説明した本実施形態に係る橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法によれば、高水圧供給ユニットWUにより膨張管へ圧入する流体の圧力を調整しながら既存固体を割裂させることができ、騒音が発生するおそれがない。その上、水などの流体を使用するだけなので、例え流体が漏れ出した場合であっても静的破砕剤のように周囲の環境を汚染するおそれも少ない。また、粉塵等の発生も低減するこができるうえ、エネルギー効率が良く、環境に優しい。それに加え、作業員がワイヤソーやダイヤモンドカッタに巻き込まれて怪我をするおそれを低減させ、安全に短時間でコンクリート床版Sを解体することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態に係る固体の割裂解体工法及び橋梁の鉄筋コンクリート床版の解体撤去工法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。さらに、コンクリート床版の部分を小割りにする際に本発明を適用してもよい。