(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-14179(P2017-14179A)
(43)【公開日】2017年1月19日
(54)【発明の名称】猪用忌避材
(51)【国際特許分類】
A01N 25/08 20060101AFI20161222BHJP
A01N 65/38 20090101ALI20161222BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20161222BHJP
A01N 37/18 20060101ALI20161222BHJP
【FI】
A01N25/08
A01N65/38
A01P17/00
A01N37/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-141654(P2015-141654)
(22)【出願日】2015年6月30日
(71)【出願人】
【識別番号】515195015
【氏名又は名称】遠藤 清司
(71)【出願人】
【識別番号】515195255
【氏名又は名称】五十嵐 康之
(71)【出願人】
【識別番号】515195026
【氏名又は名称】岩井 宏安
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 清司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 康之
(72)【発明者】
【氏名】岩井 宏安
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AE02
4H011BB06
4H011BB22
4H011BC22
4H011DA02
4H011DC05
4H011DC10
4H011DD04
(57)【要約】
【課題】 取扱作業者に安全であり、環境負荷も小さく、適用した初期段階から優れた忌避効果を発現し、その効果の持続時間も長い猪用忌避材の提供に関する。
【解決手段】 唐辛子を微粉砕して得られる微粉末あるいは、合成カプサイシンを低級アルコールに溶解して得られる溶液を大鋸屑などの木材に処理することにより有効成分を木質内部に浸透させた後、固定し、徐々に空気中に拡散させる事により、初期段階の優れた忌避効果と長期間の忌避効果を合わせ持つ猪用忌避材を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
唐辛子の低級アルコール抽出液を木質材料に処理することにより得られる猪用忌避材
【請求項2】
合成カプサイシンの低級アルコール溶液を木質材料に処理することにより得られる猪用忌避材
【請求項3】
低級アルコールが、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノールである「請求項1」および「請求項2」に記載の猪用忌避材
【請求項4】
木質材料が乾燥処理されたものであり、かつ細胞レベルまで機械的に荒らされているものである「請求項1」および「請求項2」に記載の猪用忌避材
【請求項5】
エタノールが無水エタノールである「請求項3」に記載の猪用忌避材
【請求項6】
唐辛子が微粉砕されたものである「請求項1」に記載の猪用忌避材
【請求項7】
木質材料が大鋸屑である「請求項1」および「請求項2」に記載の猪用忌避材
【請求項8】
木質材料が、著しい寸法変化、反り等を起こさない程度まで乾燥され、板等に加工されるときに出る大鋸屑である「請求項7」に記載の猪用忌避材
【請求項9】
木質材料が、接着、塗装処理に支障が出ない程度まで乾燥され、合板、家具等に加工されるときに出る大鋸屑である「請求項7」に記載の猪用忌避材
【請求項10】
木質材料が建築廃材から作られた大鋸屑または、木質チップである「請求項4」および「請求項7」に記載の猪用忌避材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱作業者に安全であり、環境負荷も小さく、適用した初期段階から優れた猪の忌避効果を発現し、その効果の持続時間も長い猪用忌避材に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、猪が、山間部ばかりではなく、里山にも住みつき、畑の作物を荒らすことが多くなり、畑の周囲に金属製の柵を巡らしたり、電気柵を巡らしたりする対策が取られている。しかしながら金属柵は高価であり、電気柵は高価なうえさらに、下草刈りの手間が欠かせず、地形によっては設置が困難である等の問題点があった。
【0003】
また、近頃、猪は、畑ばかりではなく人家や公園にも出没し、人間に害をもたらすことも起きている。
【0004】
これらの対策として、猪を目標対象から忌避させる方法が提案されている。
忌避効果のある物質として、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを使用する特許が数多く提案されている。しかしながら、適用した初期段階から優れた忌避効果を発現し、その効果の持続時間も長い屋外設置用忌避材は存在しない。
例えば、多孔質天然石粒にカプサイシンを担持し、その上層を生分解性プラスチック皮膜で覆い、生分解性プラスチック皮膜の分解と共に徐々にカプサイシンを流出させ、忌避効果を長時間持続させる事が提案されている。「特許文献1」
しかしながら、この方法は、畑に撒いた当初は、生分解プラスチックが壊れていないので、忌避効果が小さく、生分解性プラスチックが分解するまでの数日から数週間の間は忌避効果を発現しにくいという欠点を持っている。
【0005】
そのほかにも樹脂皮膜で流出防止を図る方法が、以下のように提案されている。しかし、多くの場合保護膜等のバリヤー性のために、忌避効果が小さくなり、多量に使用しなければならないという問題がある。
【0006】
増粘剤、あるいはゲル化剤を使用するもの「特許文献2」
マイクロカプセルを使用するもの「特許文献3」「特許文献4」
吸水ポリマーを使用するもの「特許文献5」
ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどを使用するもの「特許文献6」
吸排水性樹脂を使用するもの「特許文献7」
などの特許が見受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4565215号
【特許文献2】特開2014−210771号公報
【特許文献3】特開平7−76502号公報
【特許文献4】特開2006−306796号公報
【特許文献5】特開2014−50379号公報
【特許文献6】特開2009−126862号公報
【特許文献7】特開2007−217306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
取扱作業者に安全であり、かつ環境負荷も小さく、適用した初期段階から優れた忌避効果を発現し、その効果の持続時間も長い猪用忌避材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の猪用忌避材は、唐辛子の忌避成分を低級アルコールにより抽出し、その抽出液を木質材料に処理することにより得られる。
唐辛子は、乾燥処理後、あらかじめ微粉砕しておくことで有効成分が効率的に抽出される。加熱すればさらに効率が良くなるが、室温で行なっても支障はない。
【0010】
抽出に使用できる低級アルコールは、水と相溶性をもつものなら何でも使用できるが、メタノールは毒性があるので不向きである。ブタノールよりも炭素数の大きなものは、水との相溶性がないのでふさわしくない。従って、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールがふさわしい。
この中でも有効成分の一つであるカプサイシンの溶解性に優れているエタノールが好適に使用される。エタノールとしては水を含んでいない、無水エタノール、工業用アルコールが使用できるが、工業用アルコールの中には、アミン類を含むグレードがあるが、この場合には、アミン類がカプサイシンと反応して、蒸発性を小さくするので不向きである。無水エタノールは、水を含んでいる消毒用アルコール、焼酎などのグレードよりも抽出効率が高いので好適に使用できる。
【0011】
抽出液を処理する木質材料としては、広葉樹、針葉樹の何れも使用できる。生木の状態で自由水をたくさん含んでいるものは、生木に含まれている水分がエタノール抽出液から有効成分を析出させ、有効成分の木質材料内部への浸透を妨げるので不向きである。
木質材料は、自然乾燥あるいは加熱乾燥により、ある程度水分を少なくしているものがふさわしい。乾燥の目安としては、木材の寸法変化あるいは反りが生じないレベルまで乾燥されている材料から得られたものが望ましい。更に言えば、接着、塗装などの加工にふさわしいレベルまで乾燥されている材料から得られるものがさらに望ましい。
このような木質材料としては、製材するときに作られる大鋸屑、木工製品を作成するときに出る大鋸屑、建築廃材を処理するときに作られる木質チップなどが好適に使用される。
木質材料としては、かんな屑、大鋸屑、木質チップのように機械的に細胞レベルまで傷つけられていることが必要であるが、大鋸屑が最も表面積が大きく好ましい。
【0012】
エタノール抽出液の木質材料への処理は、木質材料に抽出液をスプレーする方法、液滴を重力で滴下する方法、木質材料を抽出液に沈め、その後引き上げる方法など木質材料に液状で塗布できる方法であれば何れの方法も使用できる。このときに不均一に塗布され、塊が発生したら、塊を機械的に壊し、未処理の部分と混合し、見掛け上均一になりさえすればよい。例えば、大鋸屑の場合について言えば、処理できた大鋸屑と未処理の大鋸屑を均一にすればよい。
【0013】
木質材料が、木質チップの場合には公園の歩道などに敷き詰める使用方法が可能である。木質材料が、大鋸屑の場合は、畑の土の上あるいは畑周辺の草むらに撒くことで猪の侵入を防ぐことが出来る。撒く方法としては、手で肥料のように撒くことが可能である。大鋸屑の場合、軽いので散布機のようなもので、畑全体に散布することも可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、カプサイシンを含むエタノール抽出溶液を細胞レベルまで壊された木質材料に塗布し、細胞の内部に浸透させ後、蒸発しやすいエタノールが拡散した後、固体として残り固定化しているので雨水等の水がかかって物理的に脱落することもないし、カプサイシン自体が水に溶けない性質をもっているので容易には流出しない。機械的な大きな力で木材本体から無理やり剥がしとられた本発明で対象としている木質材料は、合成高分子皮膜と比較して、亀裂も多くガスバリヤー性の極めて小さい材料である。従って、カプサイシンの蒸気も容易に空気中に拡散することが出来る。
このようにして、適用した初期段階から優れた忌避効果を発現することが出来るし、また、カプサイシンが容易に水で流出しないので、その効果の持続時間も長い。
【0015】
唐辛子に含まれる有効成分であるカプサイシンは、細胞内に含まれているため、未粉砕で抽出するより、粉砕して細胞膜を破壊してから抽出する方が効率が良い。カプサイシンはエタノールに可溶で、水には不溶である。従って、無水エタノールで抽出することが最も効率が良い。
【0016】
大鋸屑は、その占める体積の7割近くが空気であり、のこぎりで細胞が露出された状態にある。カプサイシン−エタノール溶液は、露出している細胞に塗布され、木質材料内部に浸透する。エタノールは容易に気体となりカプサイシンを木質材料内部に残す。結果的にカプサイシンは木質材料内部に固定される。カプサイシンの沸点は、1気圧において、210℃くらいであるから、室温においても蒸気圧が存在し、木質材料内部から気体状で空気中に拡散する。大鋸屑は表面積が大きく、接触している空気の量も多く、解放系なので空気の入れ替えもおこりやすく、拡散が容易である。
【0017】
本発明の大鋸屑は、ガスバリヤー性の高い樹脂膜を使用しないので、撒いた直後から猪を忌避する事が出来る。また、効率よく、カプサイシンを気体にする事が出来るので、適用量が少しでも猪を忌避する事が出来る。
大鋸屑は、比重が小さく、風に飛ばされやすい形態であるが畑の土と混ぜる事により飛ばされることはないし、少し土に隠れても効果を発現し、効果が維持される。
唐辛子もエタノールも基本的に食品であるので、人に対して有害物とはならない。エタノールが畑で、大気に放出されても、環境に害を与えることもない。畑に撒かれた大鋸屑も時間がたてば肥料となるので、作物を作る上での障害にならない。
この発明により作られた大鋸屑は、唐辛子によりすでに確認されている小動物を忌避する用途に適用可能である。たとえばモグラの忌避材、ネズミの建物への侵入防止材、ネズミが電線をかじって漏電などの事故を起こすことを避ける材料などに発展できると考えている。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
一味唐辛子の乾燥物150gを粉砕器にかけ微粉末にした。これに無水エタノール400mlを加え3日間室温で放置した。この抽出溶液を製材所で入手した大鋸屑8kgに滴下法で振りかけ後生じている塊を壊し、全体を均一にした。処理した大鋸屑をポリ袋中に密閉して1日保管した後、畑に手で撒いた。
一畝10mの長さに植え付けられているジャガイモの畝4列の内、道路側2列について、前記の唐辛子処理をした大鋸屑500gを畝の周りに散布し、その後、熊手で1cm程度土を取り、大鋸屑を見えなくした。
1週間後、この畑から約50m離れた畑にあった同時期に植え付けされたジャガイモは、ネットを張ってあったにもかかわらず猪に掘り返されていた。
一方、処理した畑のジャガイモは、頻繁に猪の足跡が隣の畑に付いていたにもかかわらず、襲われることはなかった。処理してから2か月後、唐辛子処理をした大鋸屑を撒いた2畝だけでなく撒いてない2畝についても猪に掘り返されることなく、無事に収穫した。テストの期間に雨期をはさんでいたが、雨により効果が無くなることはなかった。
以上の実験から
本発明の唐辛子処理大鋸屑が施工直後から猪の忌避効果を発現すること、雨により効果が無くなることがないこと、長時間に渡り効果が持続することが確かめられた。