【解決手段】旋回スクロール4は、基板部34の両面に旋回ラップ43が設けられている。一対の固定スクロール5は、旋回ラップ43と噛み合う固定ラップ46が設けられ、旋回スクロール4を挟むよう設けられる。クランク軸3は、旋回スクロール4の周方向三以上の箇所に配置される軸であり、その軸方向中途部の偏心軸部3dに軸受27を介して旋回スクロール4が保持される。前記三以上の箇所の全てにおいて、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間に、円環状の弾性材50が設けられる。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されるスクロール圧縮機が知られている。このスクロール圧縮機は、一対の固定スクロール(1,2)、旋回スクロール(3)、駆動軸(5)および補助駆動軸(6)を備える。固定スクロール(1,2)は、鏡板(1a,2a)の片面に、渦巻き状の固定ラップ(1b,2b)が設けられている。旋回スクロール(3)は、鏡板(3a)の両面に、渦巻き状の旋回ラップ(3b,3c)が設けられている。固定ラップ(1b,2b)と旋回ラップ(3b,3c)とを噛み合わせた状態で、一対の固定スクロール(1,2)で旋回スクロール(3)が挟まれる。駆動軸(5)と補助駆動軸(6)とには、軸方向中途部に偏心軸部が設けられており、その偏心軸部に旋回スクロール(3)が軸受(11a,11b)を介して保持される。駆動軸(5)の回転は、タイミングベルト(17)からなる回転同期機構を介して補助駆動軸(6)に伝達され、固定スクロール(1,2)に対し旋回スクロール(3)が旋回する。これに伴い、吸入口(22)から気体を吸入し圧縮して、吐出口(10)へ吐出する。
【0003】
特許文献1に記載の発明のように、旋回スクロールの直径方向に対向した箇所に、駆動軸と補助駆動軸との二本の駆動軸を配置する構成では、駆動軸間を結んだ方向(特許文献1の
図1の左右方向)の一方または他方へ旋回スクロールが最も移動した際、死点を生ずることになる。そのため、前述した回転同期機構を設け、駆動軸だけでなく補助駆動軸にも、回転駆動力を付与している。
【0004】
旋回スクロールを三本以上の軸で保持する場合、少なくとも一本の軸に回転駆動力を与えれば足りるが、組立てが困難となる。つまり、クランク軸の本数を増やした場合、固定ラップと旋回ラップの側面間の隙間(ラップの径方向の隙間)を所定範囲内に収めつつ、各軸を所定の態勢で(位相差を無くして)組み立てるのが困難となる。
【0005】
より詳細には、従来、スクロール圧縮機の運転中、固定ラップと旋回ラップの側面間の隙間を調整できないため、機械加工精度および組立精度の向上により、ラップ間の隙間を調整せざるを得なかった。言い換えれば、ラップ間の隙間は、機械加工精度や組立精度に依存し、運転中の自動調整ができなかった。そのため、圧縮機の運転中、旋回スクロールが遠心力により外方に振れると、偏心軸部のはめ合い隙間に周方向で偏りが生じ、周方向一部ではめ合い隙間が埋まり、固定ラップと旋回ラップとが衝突するおそれがある。たとえば、特許文献1の
図1に示されるように、各駆動軸の偏心軸部が最も左側へ配置された状態では、旋回スクロールは遠心力により左側に振れ、各駆動軸の右側周側面では、軸受のはめ合い隙間が埋まることになり、これに伴い、固定ラップと旋回ラップとが所定以上に近接したり、場合によっては衝突して破損したりするおそれもある。このような現象が、旋回スクロールの旋回に伴い、各駆動軸の周方向に沿って順次に発生することになる。これを防止するには、ラップ間の隙間を大きめに設定しておくか、加工や組立の精度を向上するしかなかったが、クランク軸の本数が多いと、これら精度を確保するのは難しい。
【0006】
なお、下記特許文献2には、旋回スクロール(3)への補助クランク軸(5)の軸受部(11b)において、軸受穴(35)の径方向(しかも両クランク軸(4,5)を結ぶ線と直交する方向)に対向して平坦部(35a)を設け、その平坦部(35a)に平板状のスライダ(29)を設ける一方、軸受ハウジング(27)にも平坦部(27a,27b)を設けて、軸受穴(35)に軸受ハウジング(27)をはめ合わせ、さらに回り止め(30)を設けることで、クランク軸(4,5)間を結んだ方向(特許文献2の
図1の左右方向)にのみ軸受ハウジング(27)の移動を許容することが提案されている。しかしながら、軸間距離の寸法差に起因するずれを解消するのが目的であり、旋回スクロール(3)を一方向にのみ移動可能とするものであるから、当該特許文献に記載のような二本のクランク軸(4,5)で同期回転させるスクロール圧縮機が前提である。また、軸受ハウジング(27)と軸受穴(35)との間に設けられる弾性体(13)は、軸受穴(35)の平坦部(35a)にもはまり込み、旋回スクロール(3)の旋回に伴い、周方向に沿って順次に荷重を均質に受けることもできない。しかも、弾性材(13)は、二本のクランク軸の内、補助クランク軸(5)の側にのみ設けられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1から
図4は、本発明のスクロール流体機械1の一実施例を示す概略図であり、
図1は平面図、
図2は底面図、
図3は
図1におけるIII−III断面図、
図4は
図3の左端部の拡大図である。なお、以下において、説明の便宜上、
図3(厳密にはIII−III断面図であるからその左半分または右半分)における上下および左右として方向を述べることがあるが、この方向はスクロール流体機械1の姿勢を限定する趣旨ではない。
【0018】
本実施例のスクロール流体機械1は、上ハウジング材11および下ハウジング材12と、この上下のハウジング材11,12間に三本のクランク軸3を介して保持される旋回スクロール4と、この旋回スクロール4を挟むよう上下のハウジング材11,12に固定される一対の固定スクロール5とを主要部として備える。
【0019】
上ハウジング材11と下ハウジング材12とは、互いに対応した内外径を有する円環状の部材である。上ハウジング材11は、下ハウジング材12の上部開口を閉じるように設けられる。この際、両ハウジング材11,12は、外周部においてネジ13により着脱可能に一体化される。上ハウジング材11を下ハウジング材12に取り付けた状態では、全体として、厚肉の短円筒状に形成され、直径方向で切断した片方の断面を観察した場合、断面が中空の略矩形状に形成されている。このようにして、上ハウジング材11と下ハウジング材12との間に、中空部10が形成される。
【0020】
上ハウジング材11の内周壁の下端部には、径方向内側へ突出して上フランジ15が設けられる一方、下ハウジング材12の内周壁の上端部には、径方向内側へ突出して下フランジ16が設けられる。上フランジ15と下フランジ16とは、上下に離隔して配置される。これにより、上下のフランジ15,16間には、周方向に沿って開口14が開けられる。
【0021】
図1に示すように、上ハウジング材11および下ハウジング材12には、周方向等間隔の三箇所に、クランク軸3が回転自在に保持される。
図3に示すように、各クランク軸3は、その軸線を上下方向へ沿って配置される。この際、各クランク軸3は、上ハウジング材11と下ハウジング材12との間の中空部10を上下に貫通するよう設けられる。
【0022】
三本のクランク軸3の内、一本は、回転駆動力を与えられる駆動クランク軸3Xとされ、残り二本は、そのような回転駆動力を与えられない従動クランク軸3Yとされる。本実施例では、
図3において左側に示される一本が駆動クランク軸3Xとされ、残り二本が従動クランク軸3Yとされる。
【0023】
駆動クランク軸3Xは、従動クランク軸3Yよりも軸方向一方(
図3における下方)へ延出している。つまり、駆動クランク軸3Xと従動クランク軸3Yとは、基本的には同一の構成であるが、駆動クランク軸3Xは従動クランク軸3Yよりも下方への延出部3aを有する。なお、各クランク軸3は、後述するように、各ハウジング材11,12や旋回スクロール4への軸受構造も、互いに同一とされている。
【0024】
スクロール流体機械1を圧縮機またはブロワとして用いる場合、駆動クランク軸3Xは、その延出部3aから回転駆動力を与えられる(つまり動力が入力される)。たとえば、駆動クランク軸3Xの延出部3aには、モータの出力軸が直結されるか、歯車などを介してモータの回転駆動力が付与される。一方、スクロール流体機械1を膨張機として用いる場合、流体により旋回スクロール4を回転させて、駆動クランク軸3Xに回転駆動力が与えられる(つまり動力が出力される)。
【0025】
各クランク軸3は、同一軸線上に配置された主軸部3b,3c間に、偏心軸部3dが偏心して設けられている。各クランク軸3は、偏心軸部3dを挟んだ両側の主軸部3b,3cにおいて、各ハウジング材11,12に回転自在に保持される。本実施例では、
図3において、上方の主軸部3bは、上軸受20を介して上ハウジング材11の上壁に回転自在に保持され、下方の主軸部3cは、下軸受21を介して下ハウジング材12の下壁に回転自在に保持される。
【0026】
各クランク軸3には、偏心軸部3dを挟んだ両側の主軸部3b,3cの内、一方の主軸部(
図3において下方の主軸部)3cの軸方向中途部に第一段部3eが設けられる。具体的には、下方の主軸部3cは、段付き棒状に形成されており、上方の大径部3fと下方の小径部3gとの段付き部(大径部3fの下面)が第一段部3eとされる。この第一段部3eには、下軸受21の内輪の上端面が当接される。なお、図示例では、駆動クランク軸3Xの延出部3aは、小径部3gよりもさらに小径に形成されている。
【0027】
各クランク軸3には、偏心軸部3dの内、軸方向一端部(
図3において下端部)に、第二段部3hが設けられる。具体的には、偏心軸部3dは、下端部に拡径部3iが設けられており、その拡径部3iとの間の段付き部(拡径部3iの上面)が第二段部3hとされる。この第二段部3hには、偏心軸部3dを保持する軸受27の内輪の下端面が当接される。なお、偏心軸部3dに設ける軸受27は、単数でも複数でもよく、複数の場合、最も下方に配置される軸受27の内輪の下端面が、第二段部3hに当接される。図示例では、偏心軸部3dには、二つの軸受27が、上下に重ね合わされて設置される。
【0028】
上ハウジング材11の上壁および下ハウジング材12の下壁には、クランク軸3の設置位置と対応した周方向三箇所において、上下に貫通して軸取付穴28,29が形成されている。下ハウジング材12の軸取付穴29は、段付き穴に形成されており、上方に小径穴29a、下方に大径穴29bが形成されている。上ハウジング材11の軸取付穴28も、段付き穴に形成されており、下方に小径穴28a、上方に大径穴28bが形成されている。
【0029】
上軸受20および下軸受21は、本実施例では、いずれも転がり軸受により構成される。転がり軸受は、周知のとおり、同心円状に配置された略円筒状の内輪と外輪との間に、その周方向へ配列されて多数の転動体が保持されて構成される。これにより、転がり軸受は、内輪と外輪とが転動体を介して回転自在とされる。なお、偏心軸部3dに設けられる各軸受27も、本実施例では、上軸受20および下軸受21と同様の構成とされる。
【0030】
下ハウジング材12への下軸受21の固定は、次のように行われる。すなわち、小径穴29aと大径穴29bとの段付き部(大径穴29bの上面)に外輪の上端面が当接するまで、大径穴29bに下軸受21の外輪を圧入する。そして、円環状の留めリング30を下ハウジング材12の下面に重ね合わせてネジ31で固定する。これにより、下軸受21は、外輪が、軸取付穴29の段付き部と留めリング30との間で挟み込まれて固定される。
【0031】
下軸受21の内輪には、下方の主軸部3cの小径部3gが圧入される。すなわち、第一段部3eに下軸受21の内輪の上端面が当接するまで、下軸受21の内輪に主軸部3cの小径部3gを圧入する。そして、小径部3gの下端部はネジ部とされているので、そのネジ部に留めナット32をねじ込む。これにより、下軸受21は、内輪が、第一段部3eと留めナット32との間で挟み込まれて固定される。
【0032】
上ハウジング材11への上軸受20の固定は、次のように行われる。すなわち、小径穴28aと大径穴28bとの段付き部(大径穴28bの下面)に外輪の下端面が当接するまで、大径穴28bに上軸受20の外輪をはめ込む(隙間嵌め)。また、上軸受20の内輪には、上方の主軸部3bがはめ込まれる。その後、上ハウジング材11の大径穴28bに固定される係止リング33により、上軸受20の脱落が防止される。
【0033】
旋回スクロール4は、平板状の基板部34の両面に旋回ラップ43が設けられている。本実施例では、旋回スクロール4は、略円板状の旋回スクロールベース36と、その中央部の上下に固定される一対の旋回スクロール本体37とから構成される。但し、場合により、旋回スクロールベース36は、一対の旋回スクロール本体37の内の一方または双方と一体形成されてもよい。
【0034】
旋回スクロールベース36は、円環状の板状部を備え、その中央部の丸穴39は、上下両面において拡径されている。そして、その拡径穴39aには、旋回スクロール本体37の端板40がはめ込まれて固定される。
【0035】
旋回スクロールベース36には、周方向等間隔の三箇所に、クランク軸3への取付部41が設けられる。この取付部41には、上下方向に沿って軸受穴42が貫通して形成されている。この軸受穴42は、段付き穴に形成されており、上方に大径穴42a、下方に小径穴42bが配置されている。
【0036】
各旋回スクロール本体37は、円板状の端板40の片面に、その板面と垂直に、一または複数の板状の旋回ラップ43が設けられている。具体的には、
図3において、上側の旋回スクロール本体37は、端板40の上面に、上方へ向けて旋回ラップ43が設けられており、下側の旋回スクロール本体37は、端板40の下面に、下方へ向けて旋回ラップ43が設けられている。この際、各旋回ラップ43は、端板40の中央部から外周部へ向けて、インボリュート曲線の渦巻き状に湾曲して形成されている。なお、旋回ラップ43の延出先端部(上側の旋回ラップ43の上端部、下側の旋回ラップ43の下端部)には、後述する固定スクロール5の端板44との隙間を埋めるために、渦巻きに沿ってシール材(符号省略)を設けてもよい。
【0037】
各旋回スクロール本体37は、その端板40が、旋回スクロールベース36の拡径穴39aにはめ込まれて、適宜の手段で旋回スクロールベース36に固定される。これにより、旋回スクロールベース36と旋回スクロール本体37の端板40とが一体化され、旋回スクロール4の基板部34を構成する。そして、旋回スクロール4は、その基板部34の両面に、旋回ラップ43が設けられた形状となる。なお、上下の旋回スクロール本体37間には、径方向中央部に、円筒状のスペーサ45が設けられる。スペーサ45を設けることで、各旋回スクロール本体37の撓みの防止が図られる。
【0038】
このような構成の旋回スクロール4は、周方向等間隔の三箇所に設けた軸受穴42が、軸受27を介して、クランク軸3の偏心軸部3dに回転自在に保持される。この保持構造については、後述する。
【0039】
各固定スクロール5は、円板状の端板44の片面に、その板面と垂直に、一または複数の板状の固定ラップ46が設けられている。具体的には、
図3において、上側の固定スクロール5は、端板44の下面に、下方へ向けて固定ラップ46が設けられており、下側の固定スクロール5は、端板44の上面に、上方へ向けて固定ラップ46が設けられている。
【0040】
各固定スクロール5には、固定ラップ46を取り囲むように、円筒部47が設けられている。具体的には、
図3において、上側の固定スクロール5は、端板44の下面に、下方へ向けて円筒部47が設けられており、下側の固定スクロール5は、端板44の上面に、上方へ向けて円筒部47が設けられている。なお、円筒部47の高さ(端板44からの延出寸法)は、固定ラップ46の高さ(端板44からの延出寸法)とほぼ対応している。
【0041】
各固定スクロール5は、固定ラップ46を旋回ラップ43と噛み合わせた状態で、各ハウジング材11,12に固定される。具体的には、上側の固定スクロール5は、上ハウジング材11の上フランジ15の上面に、端板44の外周部が重ね合わされて、ネジ48により固定される。また、下側の固定スクロール5は、下ハウジング材12の下フランジ16の下面に、端板44の外周部が重ね合わされて、ネジ48により固定される。
【0042】
ところで、固定ラップ46は、旋回ラップ43と対応した個数だけ設けられ、端板44の中央部から外周部へ向けて、インボリュート曲線の渦巻き状に湾曲して形成されている。そして、外周側の端部は、円筒部47に連接されている。なお、固定ラップ46の延出先端部(上側の固定ラップ46の下端部、下側の固定ラップ46の上端部)には、旋回スクロール4の端板40との隙間を埋めるために、渦巻きに沿ってシール材(符号省略)を設けてもよい。同様に、円筒部47の延出先端部(上側の円筒部47の下端部、下側の円筒部47の上端部)にも、シール材(符号省略)を設けてもよい。
【0043】
次に、クランク軸3の偏心軸部3dへの旋回スクロール4の保持構造について説明する。クランク軸3の偏心軸部3dには、軸受27の内輪が圧入されて固定される。本実施例では、二つの軸受27が上下に重ねられて、偏心軸部3dに圧入される。その際、下方の軸受27の内輪の下端面を、第二段部3hに当接する。そして、偏心軸部3dの上端部はネジ部とされているので、そのネジ部に留めナット49をねじ込む。これにより、軸受27は、内輪が、第二段部3hと留めナット49との間で挟み込まれて固定される。
【0044】
一方、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42(大径穴42a)との間には、僅かな隙間を開けると共に、その隙間には円環状の弾性材50が設けられる。この弾性材50は、特に問わないが、たとえばOリングを用いることができる。
【0045】
より詳細には、旋回スクロール4の軸受穴42の大径穴42aは、軸受27の外輪よりも設定寸法だけ大径に形成されており、内周面には弾性材の装着溝(符号省略)が周方向へ沿って形成されている。そして、円環状の弾性材50は、外周部が装着溝にはめ込まれ、内周部に軸受27の外輪がはめ込まれる。その際、弾性材50は断面を押しつぶされることになる。なお、本実施例では、各軸受27は、外輪の外周面の上下二箇所において、円環状の弾性材50を介して軸受穴42に保持される。
【0046】
偏心軸部3dと軸受穴42とが同心に配置され回転されるとして、軸受27の外輪の外周面と、軸受穴42の大径穴42aの内周面との隙間(片側)Xは、本実施例では、固定ラップ46と旋回ラップ43との側面間の隙間(ラップの径方向の隙間)Yの最少設定値(最も近接した状態における両ラップ間の設計隙間)よりも小さく、たとえば、前記最少設定値の略半分(たとえば20〜30μm)とされる。この場合、仮に、偏心軸部3dに対し旋回スクロール4が遠心力により振れて、前記隙間Xが埋まり、固定ラップ46に旋回ラップ43が衝突しようとしても、軸受27の外輪の外周面に軸受穴42の大径穴42aの内周面が先に当たるので、両ラップ43,46の衝突による破損を防止することができる。しかも、弾性材50により、前記隙間Xが埋まるのが防止されると共に、前記隙間Xが埋まるとしても、緩やかに埋めることができる。
【0047】
このようにして、軸受27の外周面と大径穴42aの内周面との隙間を円環状の弾性材50で弾性保持する。これにより、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間が、弾性材50により埋められると共に、その弾性変形により、隙間の調整が可能とされる。ところで、旋回スクロール4の取付部41の上面には、留めリング51がネジ52により設けられる。この留めリング51は、外輪との間に隙間(たとえば0.2mm)Zを開けて設置される。これにより、外輪に対する旋回スクロール4の径方向の移動は許容しつつ、軸方向の所定以上の移動は規制することができる。
【0048】
ところで、各クランク軸3には、旋回スクロール4の円滑な回転のために、ウェイトバランサ53が設けられている。本実施例では、上側の主軸部3bの下端部と、下側の主軸部3cの大径部3fとに、それぞれウェイトバランサ53が設けられている。
【0049】
また、一対の固定スクロール5には、
図1および
図2に示すように、それぞれ外周側に第一開口54が設けられる一方、中央部に第二開口55が設けられている。なお、
図3において、上下に示される第二開口55は、場合により、旋回スクロール4の基板部34の中央に貫通穴をあけて互いに連通させてもよい。
【0050】
本実施例のスクロール流体機械1の組立ては、次のように行うのが好適である。すなわち、まず、下ハウジング材12に下軸受21を取り付けておく。一方、旋回スクロール4には、各クランク軸3を軸受27および弾性材50を介して取り付けておく。そして、下ハウジング材12の下軸受21に、旋回スクロール4の各クランク軸3をはめ込んで取り付ける。その際、各クランク軸3は、所定の態勢(つまり偏心軸部3dの位置を合わせた位相差のない状態)で取り付けられる。その後、上ハウジング材11を取り付けるが、その際、上ハウジング材11とクランク軸3との間に上軸受20を設ける。最後に、各ハウジング材11,12の上下の開口に、固定スクロール5を固定すればよい。
【0051】
本実施例のスクロール流体機械1は、以上のように構成されるので、たとえば、圧縮機またはブロワとして用いる場合、駆動クランク軸3Xを回転させればよい。これにより、固定スクロール5に対し旋回スクロール4を旋回させることができる。固定スクロール5に対し旋回スクロール4を旋回させると、第一開口54から流体を吸入し、その流体を旋回ラップ43と固定ラップ46との間で圧縮しながら、その渦巻きの外端側から内端側へ移動させ、第二開口55から吐出させることができる。
【0052】
一方、たとえば膨張機として用いる場合、流体を第二開口55から流入させればよい。これにより、流体の力で旋回スクロール4が旋回し、膨張しながら第一開口54から吐出させることができる。また、旋回スクロール4の回転駆動力を駆動クランク軸3Xから取り出すことができる。その他、駆動クランク軸3Xを逆方向へ回転させて、流体を第二開口55から吸入して、第一開口54へ吐出させてもよい。
【0053】
このようにして、本実施例のスクロール流体機械1は、圧縮機、膨張機、ブロワ、真空ポンプなどとして用いることができる。なお、圧縮または膨張等させる流体は特に問わず、空気、蒸気、冷媒など、各種の流体に対応することができる。
【0054】
本実施例のスクロール流体機械1によれば、全てのクランク軸3の偏心軸部3dにおいて、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間に円環状の弾性材50が設けられる。これにより、旋回スクロール4の旋回時に、クランク軸3に対し旋回スクロール4が遠心力により振れても、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップ46と旋回ラップ43との側面間の隙間Yを所望に保つことができる。
【0055】
たとえば、
図3の左半分に示すように、駆動クランク軸3Xの偏心軸部3dが最も左側へ配置された状態では、旋回スクロール4は遠心力により左側に振れ、駆動クランク軸3Xの右側周側面では、軸受27のはめ合い隙間が埋まるように荷重がかかり、固定ラップ46と旋回ラップ43とが近接しようとする。ところが、その荷重を弾性材50が支えることで、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップ46と旋回ラップ43との側面間の隙間を所望に保つことができる。また、仮に軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間が完全に埋まるとしても、弾性材50の作用により衝撃を緩和して、各ラップ43,46の破損を防止することができる。このような作用を、旋回スクロール4の旋回に伴い、各クランク軸3の周方向に沿って順次に連続的に図ることができる。このように、ラップ43,46間の隙間Yを自動調整できるので、各部品の機械加工精度や組立精度を従前よりも緩和できる。さらに、ラップ43,46間の隙間Yが自動調整できるので、スクロール流体機械1の性能を安定させることもできる。
【0056】
また、本実施例のスクロール流体機械1によれば、クランク軸3に第一段部3eと第二段部3hとを設け、第一段部3eを固定スクロール5側への位置決めに用い、第二段部3hを旋回スクロール4側への位置決めに用いることで、各クランク軸3の軸方向に対する各スクロール4,5の位置決めが容易となる。言い換えれば、固定スクロール5を保持する下ハウジング材12の軸受当て面(下軸受21の上端面を当接する段付き部)を基準として、各部材を組み立てていくことで、機械的に旋回スクロール4の軸方向位置が定まることになる。しかも、偏心軸部3dに設ける軸受27は、内輪は偏心軸部3dに固定されるが、外輪は軸受穴42に固定されないので、上述したラップ43,46間の径方向の隙間Yの調整機能を阻害することがない。なお、前述した固定スクロール5を保持する下ハウジング材12の軸受当て面は、下側の固定スクロール5の端板44と同一平面上に配置されるのが好ましい。
【0057】
本発明のスクロール流体機械1は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。たとえば、前記実施例において、上ハウジング材11と上側の固定スクロール5とを一体形成し、下ハウジング材12と下側の固定スクロール5とを一体形成してもよい。
【0058】
また、前記実施例では、クランク軸3の本数を三本としたが、四本以上とすることもできる。
【0059】
また、前記実施例において、駆動クランク軸3Xと従動クランク軸3Yとを同一の構成として、部品の共通化を図ってもよい。たとえば、従動クランク軸3Yとして、駆動クランク軸3Xと同様の構成を採用してもよい。
【0060】
また、前記実施例では、円環状の弾性材50は、旋回スクロール4の軸受穴42に設けた装着溝に外周部を保持されたが、これに代えてまたはこれに加えて、軸受27の外周面に装着溝を形成して、その装着溝に弾性材50の内周部を保持されてもよい。
【0061】
また、前記実施例において、旋回スクロール4の軸受穴42に、円筒状のガイドリングをはめ込んでもよい。その場合、円環状の弾性材50は、軸受27の外輪と旋回スクロール4の軸受穴42との隙間に設置されることに代えて、軸受27の外輪とガイドリングの内穴との隙間に設置される。このようにして、旋回スクロール4とクランク軸3との径方向の位置調整を図ることができる。
【0062】
さらに、前記実施例において、偏心軸部3dを保持する軸受27として、複数の軸受27を備えたが、この軸受27同士は、端面同士を重ね合わされる以外に、端面間にアジャスタを介して重ね合わされてもよい。アジャスタは、たとえば、円筒状に形成され、外輪に配置される。このようにして、旋回スクロール4とクランク軸3との軸方向の位置調整を図ることができる。同様に、軸受27が一つの場合でも、アジャスタを用いて、旋回スクロール4とクランク軸3との軸方向の位置調整を図ることができる。