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特開2017-141857差動装置および差動装置におけるシール方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-141857(P2017-141857A)
(43)【公開日】2017年8月17日
(54)【発明の名称】差動装置および差動装置におけるシール方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/029 20120101AFI20170721BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20170721BHJP
【FI】
   F16H57/029
   F16H57/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-21961(P2016-21961)
(22)【出願日】2016年2月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慎弥
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 陽一
(72)【発明者】
【氏名】小田 裕久
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB02
3J063AC01
3J063AC11
3J063BB02
3J063CA05
3J063CD42
(57)【要約】
【課題】延長ボスが合成樹脂製であるか金属製であるかを問わず、底付きボスおよび延長ボスの間をシール状態に簡単に連結し得るようにした差動装置を提供する。
【解決手段】底付きボス29および延長ボス31の一方の内周に設けられる段付き嵌合孔38と、底付きボス29および延長ボス31の他方に設けられて段付き嵌合孔38に嵌合すると共に、先端部37aを段付き嵌合孔38の底面38aに当接させる嵌合筒部37と、段付き嵌合孔38の底面38aおよび嵌合筒部37の先端部37a間に画成され、環状で断面形状が閉じられた第1溜まり部45と、段付き嵌合孔38の底面38aおよび嵌合筒部37の先端部37a間に画成され、環状で内周面をドライブ軸14a、14bに向かって開放した第2溜まり部46と、第1および第2溜まり部45、46を満たすシーリング剤43とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースに回転自在に支持される軸受けボスを有するデフケースと、
前記デフケースに収容される差動機構とを備え、
前記差動機構の出力部の底付きボスに、前記軸受けボスに嵌挿した延長ボスを連結すると共に、前記延長ボスの前記軸受けボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され、前記底付きボスには、前記延長ボスに嵌挿されるドライブ軸が相対回転不能に嵌め合わせられる差動装置であって、
前記出力部および前記延長ボスの間に設けられて、その両者を少なくとも出力部の回転方向に連結する連結部と、
前記底付きボスおよび前記延長ボスの一方の内周に設けられる段付き嵌合孔と、
前記底付きボスおよび前記延長ボスの他方に設けられて前記段付き嵌合孔に嵌合すると共に、先端部を前記段付き嵌合孔の底面に当接させる嵌合筒部と、
前記段付き嵌合孔の底面および前記嵌合筒部の先端部間に画成され、環状で断面形状が閉じられた第1溜まり部と、
前記段付き嵌合孔の底面および前記嵌合筒部の先端部間に画成され、環状で内周面を前記ドライブ軸に向かって開放した第2溜まり部と、
前記第1および第2溜まり部を満たすシーリング剤と
を備えることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置において、前記段付き嵌合孔の内周面および前記嵌合筒部の外周面の少なくとも一方に設けられて全周にわたって延びる環状溝を備え、
前記シーリング剤は前記環状溝に導入されることを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の差動装置において、前記延長ボスは、前記環状溝を前記延長ボスの外周面に連通する空気孔を有することを特徴とする差動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の差動装置において、前記差動機構は、前記作業窓を通してデフケース内に収容される複数の遊星ギヤと、前記遊星ギヤに噛み合って前記底付きボスに一体化されるサイドギヤとを含み、
前記軸受けボスと、この軸受けボスに前記デフケースの内部側から挿入された前記延長ボスとの間に設けられて、前記延長ボスの外方への抜け出しを阻止するストッパ部を備えることを特徴とする差動装置。
【請求項5】
請求項1に記載の差動装置におけるシール方法であって、
前記段付き嵌合孔の内周面と底面とで形成された内隅部に、前記第1溜まり部の体積以上の量のシーリング剤を塗布する工程と、
前記段付き嵌合孔に前記嵌合筒部を嵌入しながら前記シーリング剤を加圧して、前記第1および第2溜まり部を形成すると共に、その第1溜まり部に前記シーリング剤を充填し、同時に第1溜まり部から溢れ出たシーリング剤により第2溜まり部を満たす工程と、
前記シーリング剤を乾燥する工程と
を備えることを特徴とする差動装置におけるシール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッションケースに回転自在に支持される軸受けボスを有するデフケースと、デフケースに収容される差動機構とを備える差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる差動装置は特許文献1に開示される。この差動装置では、出力部としてのサイドギヤの底付きボスを延長ボスの分、短くすることができるので、出力部の小部品化により、出力部材の製作が容易になる利点がある。しかも、この差動装置をミッションケースに取り付けた後、ミッションケース内に注入した潤滑オイルは、オイルシールやシール部によりミッションケースおよびデフケース外に流出しない。このことは、その後、延長ボスを通して出力部の底付きボスにスプライン嵌合したドライブ軸を引き抜いても、ミッションケースおよびデフケース内のオイルは依然流出しないことを意味し、差動装置のコンパクト化を図りながら、組立性およびメンテナンス性を良好にする利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5404727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、出力部の底付きボスと延長ボスとの連結にあたり、出力部の底付きボスの外端部に雌形の鉤状係合部を、延長ボスの内端部に雄形の鉤状係合部をそれぞれ形成し、それらを相互に係合することで、両ボスを連結する。この連結構造では、両ボスの係合直前、雄形の鉤状係合部を弾性的に半径方向内方へ撓ませる必要があり、そのためには延長ボスを合成樹脂製とする制約がある。
【0005】
本発明は、前述の利点を維持しながら、延長ボスが合成樹脂製であるか金属製であるかを問わず、底付きボスおよび延長ボスの間をシール状態に簡単に連結し得るようにした差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によれば、ミッションケースに回転自在に支持される軸受けボスを有するデフケースと、前記デフケースに収容される差動機構とを備え、前記差動機構の出力部の底付きボスに、前記軸受けボスに嵌挿した延長ボスを連結すると共に、前記延長ボスの前記軸受けボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され、前記底付きボスには、前記延長ボスに嵌挿されるドライブ軸が相対回転不能に嵌め合わせられる差動装置であって、前記出力部および前記延長ボスの間に設けられて、その両者を少なくとも出力部の回転方向に連結する連結部と、前記底付きボスおよび前記延長ボスの一方の内周に設けられる段付き嵌合孔と、前記底付きボスおよび前記延長ボスの他方に設けられて前記段付き嵌合孔に嵌合すると共に、先端部を前記段付き嵌合孔の底面に当接させる嵌合筒部と、前記段付き嵌合孔の底面および前記嵌合筒部の先端部間に画成され、環状で断面形状が閉じられた第1溜まり部と、前記段付き嵌合孔の底面および前記嵌合筒部の先端部間に画成され、環状で内周面を前記ドライブ軸に向かって開放した第2溜まり部と、前記第1および第2溜まり部を満たすシーリング剤とを備える差動装置は提供される。
【0007】
第2側面によれば、第1側面の構成に加えて、差動装置は、前記段付き嵌合孔の内周面および前記嵌合筒部の外周面の少なくとも一方に設けられて全周にわたって延びる環状溝を備え、前記シーリング剤は前記環状溝に導入される。
【0008】
第3側面によれば、第2側面の構成に加えて、前記延長ボスは、前記環状溝を前記延長ボスの外周面に連通する空気孔を有する。
【0009】
第4側面によれば、第1〜第3側面のいずれか1の構成に加えて、前記差動機構は、前記作業窓を通してデフケース内に収容される複数の遊星ギヤと、前記遊星ギヤに噛み合って前記底付きボスに一体化されるサイドギヤとを含み、前記軸受けボスと、この軸受けボスに前記デフケースの内部側から挿入された前記延長ボスとの間に設けられて、前記延長ボスの外方への抜け出しを阻止するストッパ部を備える。
【0010】
第5側面によれば、第1側面に係る差動装置におけるシール方法であって、前記段付き嵌合孔の内周面と底面とで形成された内隅部に、前記第1溜まり部の体積以上の量のシーリング剤を塗布する工程と、前記段付き嵌合孔に前記嵌合筒部を嵌入しながら前記シーリング剤を加圧して、前記第1および第2溜まり部を形成すると共に、その第1溜まり部に前記シーリング剤を充填し、同時に第1溜まり部から溢れ出たシーリング剤により第2溜まり部を満たす工程と、前記シーリング剤を乾燥する工程とを備えるシール方法は提供される。
【発明の効果】
【0011】
第1側面によれば、底付きボスと延長ボスとの連結にあたって、底付きボスおよび延長ボスの一方に設けられる段付きの嵌合孔に、他方に設けられる嵌合筒部が嵌め合わせられる。そして、嵌合孔の底面および嵌合筒部の先端部間に画成される第1および第2溜まり部をシーリング剤で満たすことにより底付きボスおよび延長ボス間をシールすることができる。したがって、延長ボスの材質が合成樹脂であるか金属であるかを問わず、また、シールのためにOリング等の特別なシール部材は不要であり、簡単な構成で底付きボスおよび延長ボスの間でシール性を確保することができる。
【0012】
第2側面によれば、溢れたシーリング剤は環状溝に逃げることができる。こうしてシーリング剤は良好に保持されることができる。
【0013】
第3側面によれば、環状溝内のシーリング剤は空気孔から導入される空気に触れることができる。こうしてシーリング剤の乾燥は促進される。
【0014】
第4側面によれば、動力伝達時、デフケース内で遊星ギヤが回転すると、遊星ギヤに噛み合うサイドギヤは回転する。このとき、遊星ギヤからサイドギヤには、外方へ延長ボスを押し出す力が作用する。ストッパ部は、デフケースの軸受けボスから延長ボスの抜け出しを防ぐ。また、底付きボスおよび延長ボスのいずれか一方に設けられた嵌合筒部は他方に設けられた段付き嵌合孔に押し込まれ、シーリング剤のシール性は良好に維持される。
【0015】
第5側面によれば、段付き嵌合孔の底面および又はその近傍に塗布した、第1溜まり部の体積以上の量のシーリング剤を、嵌合筒部の段付き嵌合孔への嵌合操作により、第1および第2溜まり部に満たすことができ、シール作業が簡単である。しかも、第1溜まり部から第2溜まり部へと溢れ出たシーリング剤を延長ボスの内側から視認できるので、シーリング剤の第1および第2溜まり部への行き渡り状態の良否を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るミッションユニットの全体構成を概略的に示す断面図である。
図2】デフケースの断面図である。
図3】他の実施形態に係る差動装置の構成を概略的に示す断面図である。
図4】他の実施形態に係る差動装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係るミッションユニットMUの全体構成を概略的に示す。自動車のミッションユニットMUは、ミッションケース11内に収容される差動装置Dおよび変速機(出力ギヤのみ図示)Tを備える。第1実施形態に係る差動装置Dはデフケース12を有する。ミッションケース11には、軸線Xに同軸に間隔をあけて配置される1対の軸受け13a、13bが組み込まれる。軸受け13a、13bにはデフケース12が嵌め込まれる。こうしてデフケース12は軸線X回りで回転自在にミッションケース11に支持される。デフケース12には軸線Xに同軸に軸先端からドライブ軸14a、14bが挿入される。ドライブ軸14a、14bはそれぞれ左右の車軸(図示されず)に接続される。
【0019】
デフケース12は軸線Xに同軸の環状フランジ15を有する。環状フランジ15には、変速機Tの出力ギヤ16に噛み合うリングギヤ17が連結される。リングギヤ17はボルト18の締結で環状フランジ15に固定される。
【0020】
デフケース12は、球体殻21と、この球体殻21に一体に形成されて、軸線X上に相互に反対向きに突き出る第1軸受けボス22aおよび第2軸受けボス22bを備える。球体殻21は、軸線X上に中心Cを有する球体空間23を区画する。第1軸受けボス22aおよび第2軸受けボス22bは軸線Xに同軸の円筒形に構成される。第1軸受けボス22aおよび第2軸受けボス22bは外周面で個々に対応の軸受け13a、13bに嵌め込まれる。第1軸受けボス22aおよび第2軸受けボス22bにはそれぞれドライブ軸14a、14bが差し込まれる。
【0021】
差動装置Dは、デフケース12内に収容される差動機構としての差動ギヤ機構24を有する。差動ギヤ機構24は、軸線Xに直交しながら中心Cを通る軸心を有してデフケース12に保持されるピニオン軸25と、このピニオン軸25に回転自在に支持される1対の遊星ギヤとしてのピニオンギヤ26と、ピニオンギヤ26に噛み合うサイドギヤ27を有する1対のギヤ付きボス28とを備える。個々のギヤ付きボス28は、ドライブ軸14a、14bの先端側で閉鎖されるドライブ軸14a、14bの進入空間29aを区画し、ドライブ軸14a、14bに連結される出力部としての底付きボス29と、ドライブ軸14a、14bの軸方向に底付きボス29に連結されて、ドライブ軸14a、14bを囲む円筒形状に形作られる延長ボスとしてのスリーブ31とを備える。
【0022】
底付きボス29の外周にサイドギヤ27は形成され一体化される。サイドギヤ27には、ドライブ軸14a、14b周りで球体殻21の部分球面に受け止められる滑り面27aが設けられる。スリーブ31は軸線X回りに回転自在に第1および第2軸受けボス22a、22bに嵌め込まれる。第1および第2軸受けボス22a、22bの内周面には螺旋状の潤滑溝32が形成される。ドライブ軸14a、14bは、対応のスリーブ31に嵌挿され、底付きボス29に区画される進入空間29aで底付きボス29にスプライン結合される。こうして底付きボス29には、スリーブ31に嵌挿されるドライブ軸14a、14bが相対回転不能に嵌め合わせられる。スリーブ31の外端は第1および第2軸受けボス22a、22bからそれぞれ突出する。デフケース12の外側でスリーブ31とミッションケース11との間にはオイルシール33が介装される。
【0023】
デフケース12の球体殻21には、中心Cを通って軸線Xに直交する直線上で球体空間23を挟んで1対の支持孔34が穿たれる。支持孔34にピニオン軸25の両端は嵌め込まれる。球体殻21には、軸線Xに平行に一方の支持孔34を横切って球体殻21を貫通するピン孔35が形成される。ピン孔35には抜け止めピン36が圧入される。抜け止めピン36がピニオン軸25を貫通することで、ピニオン軸25の支持孔34からの抜け止めが果たされる。
【0024】
底付きボス29には、ドライブ軸14a、14bの通過空間を区画する嵌合筒部37が設けられる。スリーブ31の内端には、嵌合筒部37を象った空間を区画する段付き嵌合孔38が設けられる。段付き嵌合孔38に底付きボス29の嵌合筒部37は嵌め入れられる。
【0025】
底付きボス29およびスリーブ31の間には、その両者を少なくとも底付きボス29の回転方向に連結する連結部39が設けられる。連結部39は、スリーブ31の内端に設けられる第1スプライン39aと、嵌合筒部37周りでスリーブ31の内端に向き合う面に設けられて、第1スプライン39aに噛み合う第2スプライン39bとを備える。第1スプライン39aおよび第2スプライン39bの噛み合いに応じて軸線X回りに底付きボス29とスリーブ31との相対回転は阻止される。その他、連結部39は接着でもよい。
【0026】
差動装置Dの作動時、サイドギヤ27の回転トルクはスプラインを介してドライブ軸14a、14bに伝わる。同時に、底付きボス29の回転は連結部39を介してスリーブ31に伝わるので、サイドギヤ27、ドライブ軸14a、14bおよびスリーブ31は一体に回転する。
【0027】
スリーブ31と第1および第2軸受けボス22a、22bとの間には、スリーブ31がデフケース12の内部側から第1および第2軸受けボス22a、22bに挿入された際に、スリーブ31の外方への抜け出しを阻止するストッパ部41が設けられる。ストッパ部41は、スリーブ31の内端に設けられたフランジ41aと、第1および第2軸受けボス22a、22bの内周面に形成されて、フランジ41aの外径よりも小さい内径を有する段差面41bとを備える。スリーブ31に外方に向かって荷重が作用すると、フランジ41aは段差面41bで受け止められ、スリーブ31の外方への抜け出しが阻止されると共に、スリーブ31の底付きボス29との一体回転が確保される。
【0028】
スリーブ31の内周には段付き嵌合孔38が設けられる。一方、底付きボス29には、段付き嵌合孔38に嵌合する嵌合筒部37が設けられる。嵌合筒部37の先端部37aを段付き嵌合孔38の底面38aに当接させると、段付き嵌合孔38の底面38aおよび嵌合筒部37の先端部37a間には、環状で断面形状が閉じられた第1溜まり部45と、環状で内周面をドライブ軸14a、14bに向かって開放した第2溜まり部46とが画成される。第1溜まり部45および第2溜まり部46は、嵌合筒部37の先端部37aの内外周に同心状に並ぶ。
【0029】
これらの第1溜まり部45および第2溜まり部46をシーリング剤43で満たすことにより、底付きボス29およびスリーブ31間をシールすることができる。シーリング剤43は例えば硬化性の樹脂材料であり、好適には液体ガスケットが用いられる。液体ガスケットは、接合面に塗布すると一定時間の後に乾燥すると共に乾燥後も適度な弾性を有するので、底付きボス29およびスリーブ31間の回転方向および軸方向の僅かなずれを許容する。したがって、底付きボス29およびスリーブ31間のシール状態を長期にわたり維持することができる。シーリング剤43は接着剤でもよい。
【0030】
本実施形態の構成によれば、スリーブ31の材質が合成樹脂であるか金属であるかを問わない。また、シールのためにOリング等の特別なシール部材は不要であり、部品点数の削減を果たすことができるのみならず、一方の溜まり部のシーリング剤43に万一シール不良があっても、他方の正常なシーリング剤43により底付きボス29およびスリーブ31間のシール状態を確保でき、シールの信頼性を高めることができる。
【0031】
さらに、段付き嵌合孔38の内周面および嵌合筒部37の外周面の少なくとも一方には全周にわたって延びる環状溝42a、42bが設けられる。図1では、段付き嵌合孔38および嵌合筒部37のいずれにも環状溝42a、42bを設けた例を図示している。環状溝42a、42bは相互に向き合う位置に配置される。環状溝42a、42bには、第1溜まり部45から溢れたシーリング剤43が導入され、シーリング剤溜まりとして機能する。環状溝42a、42bから溢れたシーリング剤43は段付き嵌合孔38の内周面および嵌合筒部37の外周面の間をシールする。
【0032】
スリーブ31は、環状溝42aをスリーブ31の外周面に連通する空気孔48を有する。空気孔48は、スリーブ31の外周面に穿たれ、径方向に延びて環状溝42a内に開口し、環状溝42a、42b内のシーリング剤43の乾燥を促す。
【0033】
図2に示すように、デフケース12の球体殻21には1対の作業窓49が設けられる。作業窓49は、軸線Xと直交する1直径線上で対向する位置に配置される。
【0034】
差動装置Dの組み立てにあたってデフケース12には先にスリーブ31が作業窓49から導入される。スリーブ31は先端から第1軸受けボス22aまたは第2軸受けボス22bに挿入される。同様に、もう1つのスリーブ31は残りの第1または第2軸受けボス22a、22bに差し込まれる。続いてサイドギヤ27を有する底付きボス29が作業窓49から導入される。底付きボス29は順番に対応のスリーブ31に嵌め込まれる。スリーブ31の段付き嵌合孔38に底付きボス29の嵌合筒部37は差し込まれる。このとき、第1スプライン39aおよび第2スプライン39bは相互に噛み合い、スリーブ31と底付きボス29との一体回転が確保される。続いて作業窓49からピニオンギヤ26が導入される。ピニオンギヤ26はサイドギヤ27に噛み合わせられる。その後、デフケース12の支持孔34にピニオン軸25が挿入される。抜け止めピン36が圧入される。本実施形態の構成によれば、サイドギヤの底付きボス29をスリーブ31の分、短くすることができるので、デフケース12がコンパクトな一体型の場合でも、デフケース12の作業窓49から狭いデフケース12内部へのサイドギヤ等の組み込みが可能である。
【0035】
底付きボス29の嵌め込みに先立って、段付き嵌合孔38の内周面と底面38a間の環状の内隅部に、第1溜まり部45の体積以上の量のシーリング剤43を全周にわたり塗布して貯留させる。シーリング剤43は、スリーブ31がデフケース12に導入される以前に塗布されればよい。段付き嵌合孔38に対し、底付きボス29の嵌合筒部37を嵌入しながらシーリング剤43を加圧して、第1および第2溜まり部45、46を形成すると共に、その第1溜まり部45にシーリング剤43を充填し、同時に第1溜まり部45から溢れ出たシーリング剤43により第2溜まり部46を満たす。また、シーリング剤43は、段付き嵌合孔38の内周面および底付きボス29の外周面の隙間を通じて環状溝42a、42bへと流れ込み、環状溝42a、42bを充填する。こうしてシーリング剤43を充填した後に乾燥させる。
【0036】
本実施形態によれば、段付き嵌合孔38の底面38aおよび(または)その近傍に塗布した、第1溜まり部45の体積以上の量のシーリング剤43を、嵌合筒部37の段付き嵌合孔38への嵌合操作により、第1および第2溜まり部45、46に満たすことができ、シール作業が簡単である。しかも、第1溜まり部45から第2溜まり部46へと溢れ出たシーリング剤43をスリーブ31の内側から視認できるので、シーリング剤43の第2溜まり部46への行き渡り状態の良否を確認することができる。
【0037】
また、底付きボス29の組付け時、乾燥前のシーリング剤43は容易に流動するので、組み付け時の抵抗が小さく、サイクルタイムを低減できる。
【0038】
さらにまた、第1溜まり部45から溢れたシーリング剤43は、環状溝42へも逃げることができるので、シーリング剤43は良好に保持されることができる。
【0039】
組み立てられた差動装置Dはミッションケース11に組み込まれる。スリーブ31の外端とミッションケース11との間にオイルシール33が介装される。その後、ミッションケース11内に潤滑オイルが注入される。潤滑オイルの一部は作業窓49を通じてデフケース12内に流入し、差動ギヤ機構24各部の潤滑に供される。
【0040】
ミッションケース11内に注入した潤滑オイルは、オイルシール33やシーリング剤43のシール部によりミッションケース11およびデフケース12外に流出しない。このことは、スリーブ31を通してサイドギヤの底付きボス29にスプライン嵌合したドライブ軸14a、14bを引き抜いても、ミッションケース11およびデフケース12内のオイルは依然流出しないことを意味し、差動装置Dのコンパクト化を図りながら、組立性およびメンテナンス性を良好にし得る。
【0041】
差動装置Dでは、Oリング等の特別なシール部材を使用することなく、出力部としての底付きボス29およびスリーブ31間のシールを可能にし、部品点数の削減を果たす。組み付けにあたって、底付きボス29の嵌合筒部37はそのままスリーブ31の段付き嵌合孔38に進入すればよく、底付きボス29の変形を伴わずに底付きボス29とスリーブ31との連結は達成される。したがって、スリーブ31の材質が合成樹脂であるか金属であるかを問わず、底付きボス29およびスリーブ31の間でシール性を確保することができる。底付きボス29は、本実施形態のように一体成型に基づき円筒体から連続する底板で閉鎖されたものであってもよく、その他、別体の閉鎖キャップでボスの一端が閉鎖されたものであってもよい。
【0042】
動力伝達時、デフケース12内でピニオンギヤ26が回転すると、ピニオンギヤ26に噛み合うサイドギヤ27は回転する。このとき、ピニオンギヤ26からサイドギヤ27には、外方へスリーブ31を押し出す力が作用する。ストッパ部41は、デフケース12の軸受けボス22a、22bからスリーブ31の抜け出しを防ぐ。底付きボス29はスリーブ31の段付き嵌合孔38に押し込まれ、シーリング剤43のシール性は良好に維持される。
【0043】
図3は第2実施形態に係る差動装置D2の全体構成を概略的に示す。差動装置D2は、転動ボール式の1対の変速機構を用いたものであって、第1軸受けボス22aを有する第1半体と、第2軸受けボス22bを有する第2半体とを相互に結合して形成されるデフケース52を備える。第1および第2軸受けボス22a、22bは前述と同様に構成される。デフケース52にはリングギヤ17が固定される。
【0044】
差動装置D2は、デフケース52内に収容される差動機構53を含む。差動機構53は、デフケース52に一体に形成されて、第1軸線X1を中心軸線とする第1伝動部材54と、第1軸線X1回りに回転する主軸部55j、および、第1軸線X1から偏心した第2軸線X2上に位置する偏心軸部55eを互いに一体に連結する偏心回転部材55と、第1伝動部材54に隣接配置されて偏心軸部55eに回転自在に支持される第2伝動部材56と、その第2伝動部材56に隣接配置されて第1軸線X1回りに回転する第3伝動部材57と、第1および第2伝動部材54、56間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2および第3伝動部材56、57間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを備える。第1伝動部材54および第3伝動部材57は、ドライブ軸14a、14bの先端側で閉鎖されるドライブ軸14a、14bの進入空間29aを区画し、ドライブ軸14a、14bに連結される出力部としての底付きボス29と、ドライブ軸14a、14bの軸方向に底付きボス29に連結されて、ドライブ軸14a、14bを囲む円筒形状に形作られる延長ボスとしてのスリーブ31とを含む。底付きボス29およびスリーブ31は前述と同様に構成されればよい。
【0045】
第1変速機構T1は、第2伝動部材56に向き合わせられつつ第1伝動部材54に形成され、第1軸線X1を中心として連続する波形環(実施形態ではトロコイド状またはサイクロイド状、以下同様)を描く第1伝動溝58と、第1伝動部材に54に向き合わせられつつ第2伝動部材56に形成され、第2軸線X2を中心として波形環を描き、第1伝動溝58の波数と相違する波数を有する第2伝動溝59と、第1および第2伝動溝58、59の複数の重なり部に介装され、第1および第2伝動溝58、59を転動しながら第1および第2伝動部材54、56間の変速伝動を行う複数の第1転動体61とで構成される。第1転動体61は例えば金属体の球体で構成される。
【0046】
第2変速機構T2は、第3伝動部材57に向き合わせられつつ第2伝動部材56に形成され、第2軸線X2を中心として連続する波形環を描く第3伝動溝62と、第2伝動部材56に向き合わせられつつ第3伝動部材57に形成され、第1軸線X1を中心として連続する波形環を描き、第3伝動溝62の波数と相違する波数を有する第4伝動溝63と、第3および第4伝動溝62、63の複数の重なり部に介装され、第3および第4伝動溝62、63を転動しながら第2および第3伝動部材56、57間の変速伝動を行う複数の第2転動体64とで構成される。第2転動体64は例えば金属体の球体で構成される。
【0047】
第2伝動部材56には同期回転機構Iが接続される。同期回転機構Iは、第1軸線X1に関し偏心軸部55eとは逆位相の位置にバランスウエイトWを保持しつつ偏心回転部材55およびバランスウエイトWを同期回転させる。そして、第1伝動溝58の波数をZ1、第2伝動溝59の波数をZ2、第3伝動溝62の波数をZ3、第4伝動溝63の波数をZ4としたとき、(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2が成立するように各波数が設定される。
【0048】
車載のエンジンから変速機Tを経てデフケース52に入力された回転力が第1および第2変速機構T1、T2を経由して偏心回転部材55および第3伝動部材57に伝達され、これにより、偏心回転部材55および第3伝動部材57を、相互の差動回転を許容しつつ回転駆動することができる。第2実施形態は、その他、第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。そして、この第2実施形態においても、基本的に第1実施形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0049】
図4は第3実施形態に係る差動装置D3の全体構成を概略的に示す。差動装置D3は、底付きボス29に段付き嵌合孔38が設けられ、スリーブ31に嵌合筒部37が設けられている点、および環状溝42を備えない点において第1実施形態の差動装置Dと異なる。
【0050】
この第3実施形態の差動装置D3においても、段付き嵌合孔38の底面38aおよび嵌合筒部37の先端部37aに、第1および第2溜まり部45、46が画成され、これら第1および第2溜まり部45、46を満たすシーリング剤43により、簡単な構成でシール性を確保することができる。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記実施形態では、リングギヤ17およびフランジ15のボルト締結に代えて、溶接による結合を採用することもできる。また、デフケース12の内周面は、球面に代えて角形面や円筒面等を採用することもできる。2つのスリーブ31はそれぞれの長さを相違させることもある。また、一対の軸受けボスのうち、一方のみに本発明を適用してもよい。また、ストッパ部41を設けない場合には、底付きボス29をデフケース12、52内に組み付けた後、スリーブ31をデフケース12、52の外側から第1軸受けボス22aまたは第2軸受けボス22bに通し、底付きボス29に連結してもよい。
【符号の説明】
【0052】
11…ミッションケース、12…デフケース、14a…ドライブ軸、14b…ドライブ軸、22a…第1軸受けボス、22b…第2軸受けボス、24…差動機構(差動ギヤ機構)、26…遊星ギヤ(ピニオンギヤ)、27…サイドギヤ、29…出力部としての底付きボス、31…延長ボス(スリーブ)、33…オイルシール、37…嵌合筒部、38…段付き嵌合孔、39…連結部、41…ストッパ部、42a…環状溝、42b…環状溝、43…シーリング剤、48…空気孔、49…作業窓、52…デフケース、53…差動機構、D…差動装置。
図1
図2
図3
図4