【課題】磁束密度を検出する磁気センサにおいて、振動等によりギアの歯面と磁気センサとのエアギャップが周期的に変化する場合であっても、回転状態の誤検出の発生を防止してギアの回転を検出する回転検出装置を提供する。
【解決手段】回転検出装置6は、歯車3の歯面に向けて磁場を形成する磁石2と、歯車3との間に配置される磁気センサ1とを有し、磁気センサ1は、歯車3の円周方向における磁束密度に応じて信号を出力する少なくとも1対のホール素子と、歯車3の歯面との距離を無限遠にした場合のホール素子の出力する信号に基づいて第1の閾値を設定するDSPとを備え、磁気センサ1のDSPは、歯車3の回転に伴う磁束密度の変化に応じてホール素子が出力する信号と第1の閾値に基づいて歯車3の回転に応じた信号を出力する。
前記センサの前記信号処理部は、前記第1の閾値と予め定めただけ大きい又は小さい第2の閾値を設定し、前記歯車の回転に伴う磁束密度の変化に応じて前記磁気検出素子が出力する信号と前記第1の閾値及び前記第2の閾値に基づいて前記歯車の回転に応じた信号を出力する請求項1に記載の回転検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示す回転検出装置は、磁気センサが磁束密度ではなく磁界角度の変化を検出するために、エアギャップが周期的に変化する場合であってもギアの回転状態の誤検出の発生を防ぐものの、磁束密度を検出する磁気センサを用いる場合には適用することができず、振動等によりギアの歯面と磁気センサとのエアギャップが周期的に変化する場合に誤検出の発生を防止できない、という問題がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、磁束密度を検出する磁気センサを用いた場合であって、振動等によりギアの歯面と磁気センサとのエアギャップが周期的に変化する場合であっても、回転状態の誤検出の発生を防止してギアの回転を検出する回転検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の回転検出装置を提供する。
【0008】
[1]歯車の歯面に向けて磁場を形成する磁石と、前記歯車との間に配置されるセンサとを有し、
前記センサは、前記歯車の円周方向における磁束密度に応じて信号を出力する少なくとも1対の磁気検出素子と、前記歯車の歯面との距離を無限遠にした場合の前記磁気検出素子の出力する信号に基づいて第1の閾値を設定するとともに、前記歯車の回転に伴う磁束密度の変化に応じて前記磁気検出素子が出力する信号と前記第1の閾値に基づいて前記歯車の回転に応じた信号を出力する信号処理部とを備える回転検出装置。
[2]前記センサの前記信号処理部は、前記第1の閾値と予め定めただけ大きい又は小さい第2の閾値を設定し、前記歯車の回転に伴う磁束密度の変化に応じて前記磁気検出素子が出力する信号と前記第1の閾値及び前記第2の閾値に基づいて前記歯車の回転に応じた信号を出力する前記[1]に記載の回転検出装置。
[3]歯車の歯面に向けて磁場を形成する磁石と、前記歯車との間に配置されるセンサとを有し、
前記センサは、前記歯車の円周方向における磁束密度に応じて信号を出力する少なくとも1対の磁気検出素子と、前記歯車の歯面との距離を無限遠にした場合の前記磁気検出素子の出力する信号に基づいて第1の閾値を設定するとともに、前記歯車の回転に伴う磁束密度の変化に応じて前記磁気検出素子が出力する信号と前記第1の閾値に基づいて前記歯車の回転を検出する信号処理部とを備える回転検出装置。
【発明の効果】
【0009】
請求項1又は3に係る発明によれば、磁束密度を検出する磁気センサを用いた場合であって、振動等によりギアの歯面と磁気センサとのエアギャップが周期的に変化する場合であっても、回転状態の誤検出の発生を防止してギアの回転を検出することができる。
請求項2に係る発明によれば、第1の閾値及び前記第2の閾値に基づいて歯車の回転に応じた信号を出力することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
(回転検出装置の構成)
図1は、実施の形態に係る回転検出装置の構成例を示す側面図である。
図2(a)及び(b)は、磁気センサ1の構成を示す斜視図及び断面図である。
【0012】
回転検出装置6は、ギア3の歯先3hからギャップA
gを設けて配置され磁気センサ1と、磁化方向をD
mとして磁気センサ1の裏面側に配置される磁石2とを有する。なお、ギア3は実線で描いたものが設計時の例示としてのエアギャップ(A
g=1.9mm)で配置されたものであり、破線で描いたもの(A
g=2.4mm)及び一点鎖線で描いたもの(A
g=1.4mm)はギア3の振動に伴いエアギャップA
gが変動したものである。
【0013】
磁気センサ1は、
図2(a)及び(b)に示すように、一例として、z方向に厚みを有する平板状の基板10と、基板10上に設けられてxy面に平行な検出面を有し、磁気検出素子として検出方向をz方向とするホール素子11
x1、11
x2、11
y1、11
y2と、ホール素子11
x1、11
x2、11
y1、11
y2上に一部が重なるように設けられてx方向及びy方向の磁束をz方向に変換してホール素子11
x1、11
x2、11
y1、11
y2に検出させる磁気コンセントレータ12と、ホール素子11
x1、11
x2、11
y1、11
y2の出力する信号を処理する信号処理部(DSP14、
図7)を有し、x、y、z方向の磁束密度を検出するホールICである。
【0014】
磁気センサ1は、例えば、メレキシス製ホールラッチ&スイッチセンサ等を用い、ホール素子11
x1と11
x2との出力の差分、ホール素子11
y1と11
y2との出力の差分をとることでx方向、y方向の磁束密度に比例した出力を得ることができる。磁束密度と出力との関係は後述する。また、ホール素子11
x1と11
x2との間隔、ホール素子11
y1と11
y2との間隔は、ds=0.2mmであり、パッケージモールド部はz方向の厚みが1.5mm、x方向の幅が4.1mm、y方向の高さが3mmである。磁気センサ1の磁気コンセントレータ12として、パーマロイを用いることができる。また、磁気センサ1は、ホール素子11
y1と11
y2を省略してもよい。
【0015】
なお、磁気センサ1は、検出方向がx方向であればMR素子等の他の種類の素子を用いてもよいし、検出方向がx方向を含めば複数の軸方向にそれぞれ磁気検出素子を配置した多軸磁気検出ICを用いてもよい。
【0016】
磁石2は、フェライト、サマリウムコバルト、ネオジウム等の材料を用いて形成された永久磁石である。
【0017】
ギア3は、回転に伴いD
v方向に振動するものとし、磁気センサ1とのギャップA
gは振動に伴い変化する。なお、ギア3は、様々なサイズのものを用いることができるが、歯先円直径200mm、歯底円直径190mm、歯数40のものを用いた例について以下説明する。
【0018】
図5は、磁気センサ1及び磁石2の配置を説明するための概略図である。
【0019】
磁気センサ1は、ホール素子11以外にコンデンサ等の部品を実装するために外形上の中心とずれた位置にセンサの検出中心P
scを有する。磁石2の外形上の中心である磁石中心P
mcとセンサの外形上の中心を一致させた場合、センサ検出中心P
scと磁石中心P
mcとのずれをP
gとする。ずれP
gは、一例として、0.5mmである。
【0020】
図6は、磁気センサ1の構成の一例を示すブロック図である。
【0021】
磁気センサー1は、ホール素子11と、ホール素子11のホール電圧を増幅するアンプ13と、アンプ13によって増幅されたホール電圧と基準電圧とを比較し、例えば、ホール電圧のほうが高ければHigh、低ければLowを出力するコンパレータ14と、基準電圧を発生する基準電圧発生部15と、比較演算した結果を出力する出力部16と、信号処理のために用いられる各種設定値の情報を格納するメモリ17とを有する。
【0022】
図7は、磁気センサ1がキャリブレーションされる際のPCとの接続方法を示すブロック図である。
【0023】
磁気センサ1は、プロトコル変換部4を介してPC(パーソナルコンピュータ)5と接続される。PC5は、出力部16の出力信号及びメモリ17の情報を受信するとともに、信号を送信してメモリ17の内容を書き換える。
【0024】
(回転検出装置の動作)
次に、第1の実施の形態の作用を、
図1−
図9を用いて説明する。まず、回転検出装置6がギア3の回転を検出する基本動作について説明する。なお、回転検出動作については説明を複雑にしないため、エアギャップA
gは設計時のもの(A
g=1.9mm)であるとする。後にエアギャップが変動したもの(A
g=1.4mm、A
g=2.4mm)についても説明する。
【0025】
(回転検出動作)
図3は、回転検出装置6の磁気センサ1の動作を説明するための概略図である。
【0026】
磁気センサ1を透過する磁束はホール素子11
x1、11
x2、11
y1、11
y2によって感知され、磁束密度に比例した信号を出力する。以下、代表してx方向の磁束、つまりホール素子11
x1、11
x2によって検出される磁束について説明するが、y方向についても同様である。
【0027】
磁束fのうち、平行成分B//は磁気コンセントレータ12に誘導されることで、磁束密度の大きさが平行成分B//に比例する垂直成分B⊥に変換され、1対のホール素子11
x1及び11
x2によって測定される。垂直成分であるB
Zも1対のホール素子11
x1及び11
x2によって測定される。
【0028】
つまり、図面左側のホール素子11
x1は“B⊥−B
Z”を測定する一方、図面右側のホール素子11
x2は“−B⊥−B
Z”を測定する。Y方向についても11
y1、11
y2が同様に測定する。
【0029】
従って、ホール素子11
x1の出力とホール素子11
x2の出力との差をとれば2B⊥が得られ、和をとれば−2Bzが得られる。以下において磁気センサ1は、ホール素子11
x1の出力とホール素子11
x2の出力との差(以下、2Bx⊥とする。)及びホール素子11
y1の出力とホール素子11
y2の出力との差(以下、2By⊥とする。)を出力するものとし、当該Bx⊥及びBy⊥によってギア3の回転を検出する。
【0030】
図4は、磁石2によって形成される磁場の様子を表す概略図である。また、
図8(a)−(c)は、ギア歯の通過に伴い磁気センサ1から出力される信号の変化例を示すためのグラフ図である。
【0031】
図4に示すように、ギア3の歯の先端が最も磁気センサ1から遠ざかった状態において、z軸に対称な磁場が形成されて磁気センサ1が検出する磁束密度のx成分は0となる。また、ギア3が回転方向D
rに回転するにつれて図面左側の歯が近づくためx成分は負へと傾き、磁気センサ1が検出する磁束密度のx成分は負の値をとる。また、歯の先端が磁気センサ1に最も近づいた状態において、z軸に対称な磁場が形成されて磁気センサ1が検出する磁束密度のx成分は0となる。
【0032】
さらに、ギア3が回転方向D
rに回転するにつれて歯が磁気センサ1上を通り過ぎて図面左側へ離れていくため、通り過ぎるタイミングでx成分は負から正へと反転し、その後歯の先端が最も磁気センサ1から遠ざかった状態に近づくにつれて0に戻っていく。
【0033】
つまり、
図8(a)及び(b)に示すように、ギア3の回転に伴い、磁気センサ1上を歯が通過する場合であって、歯先3hから歯底3lに変化するタイミングに、磁気センサ1の出力信号レベルは最小となる(実線、A
g=1.9mm)。また、歯底3lから歯先3hに変化するタイミングに、磁気センサ1の出力信号レベルは最大となる。
【0034】
従って、適切な値に閾値B
op(第1の閾値)と、閾値B
rp(第2の閾値)とを設定して、磁気センサ1のDSP14において磁束密度がB
opを上回った際に出力信号をHに切り替え、B
rpを下回った際にLに切り替えるようにすることで、
図8(c)の中段に示すような出力信号が得られ、図示しない磁気センサ1に接続された機器によって、出力信号がLからHに切り替わる数をカウントすることでギア3の回転数や角速度を算出することができる。なお、磁気センサ1がギア3の回転数や角速度を算出して、当該情報を出力するようにしてもよい。
【0035】
また、磁気センサ1が検出する磁束密度のy成分についても同様のふるまいが検出され、ギア3の回転数や角速度を算出できる。
【0036】
次に、エアギャップA
g=1.4mm及び2.4mmの場合について述べる。エアギャップA
g=1.4mm及び2.4mmの場合であっても、
図8(a)及び(b)に示すように、ギア3の回転に伴い、磁気センサ1上を歯が通過する場合であって、歯先3hから歯底3lに変化するタイミングに、磁気センサ1の出力信号レベルは最小となり、歯底3lから歯先3hに変化するタイミングに、磁気センサ1の出力信号レベルは最大となる。これはエアギャップA
gの数値に関わらず多少の誤差とともに生じる現象である。
【0037】
また、歯の先端が磁気センサ1に最も遠ざかった状態において、磁気センサ1上にz軸に対称な磁場が形成されて、磁気センサ1が検出する磁束密度のx成分が0となるタイミングはエアギャップが異なっていても一致する(一致点P
c、
図8(b))。
【0038】
一方、歯の先端が磁気センサ1に最も近づいた状態においては、磁気センサ1上にz軸に対称な磁場が形成されて、磁気センサ1が検出する磁束密度のx成分が0となるタイミングはエアギャップが異なることでずれる。
【0039】
従って、一致点P
cを通るように閾値B
opを定めることで、
図8(c)に示すように、出力信号がLからHに切り替わるタイミングはエアギャップA
gに関わらず同じになるため、出力信号がLからHに切り替わる数をカウントすることでギア3の回転数や角速度を算出することができる。一方、閾値B
opは、A
gが無限遠の場合の磁気センサ1の出力値である。
【0040】
なお、閾値B
rpは、閾値B
opより小さな値で、かつ、磁束密度の最小値を下回らないように適切に定めることができる。また、閾値B
rpは、ギア3が振動方向D
vと直交する向きに横振動した場合に対応するための数値である。これは、B
opとB
rpとの間がヒステレシス帯となり、ヒステレシス帯の間で磁束密度が変動する場合は現在の出力を維持するためである。
【0041】
なお、閾値B
rpは、閾値B
opより大きな値であってもよい。また、出力信号L及びHはそれぞれ反転してもよい。
【0042】
(キャリブレーション動作)
次に、上記した閾値B
op及び閾値B
rpの設定方法(キャリブレーション)について説明する。
【0043】
まず、利用者は、
図7に示すように、磁気センサ1をプロトコル変換部4を介してPC5に接続する。PC5には、図示しない磁気センサ1をキャリブレーションするためのアプリケーションがインストールされているものとし、当該アプリケーションはPC5の表示部に以下に示す画面を表示する。
【0044】
図9は、キャリブレーション時にPC5の表示部に表示される画面の構成を示す概略図である。
【0045】
画面50は、B
opとB
rpとの差であるヒステレシスについての設定をするヒステレシス設定欄500と、算出された閾値B
op及び閾値B
rpの値を表示する閾値結果表示欄501と、キャリブレーションを開始するための新規デバイスボタン502と、B
opを調整するためのB
op調整ボタン503とを有する。
【0046】
ヒステレシス設定欄500は、ヒステリシスの値を選択する選択欄と、ヒステレシス単位を「Absolute」であれば「mT」に、「Propotional」ならB
opの割合とする「Absolute/Propotional」欄と、B
opからB
rpに磁束密度が変化するときに出力をHからLに変化させるか、LからHに変化させるかを設定する「Inverted Output」欄と、オフセットを設定する「Corr Offset」欄と、出力がHighであるときの電流値を例えばmax5又は6.9mAの2種類から選択する「Ioff High」欄とを有する。
【0047】
次に、利用者は、磁気センサ1をギア3から十分に離れた位置に配置し、画面50を参照しつつ、PC5の操作部を操作し、ヒステレシス設定欄500の内容を設定した後に、新規デバイスボタン502を図示しないカーソル等で押下し、さらにB
op調整ボタンを押下する。
【0048】
PC5は、プロトコル変換部4を介して磁気センサ1に磁束密度を検出させ、検出した磁束密度をB
opとして磁気センサ1のメモリ17に記憶させる。また、設定されたHys等の数値をメモリ17に記憶させる。
【0049】
磁気センサ1は、検出した磁束密度や記憶したB
op及びB
rpをプロトコル変換部4を介してPC5に送信する。
【0050】
PC5は、磁気センサ1から受信した情報に基づいて画面50の閾値結果表示欄501の「Final B
op」及び「Final B
rp」の値を更新する。
【0051】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、エアギャップA
gに関わらず定まる一致点P
cの性質を利用し、当該一致点P
cにおいて磁気センサ1の出力値が切り替わるようにして、当該切り替わりにおいて回転数等を算出するようにしたため、振動等によりギアの歯面と磁気センサとのエアギャップが周期的に変化する場合であっても、回転状態の誤検出の発生を防止することができる。
【0052】
また、エアギャップA
gが無限の場合における磁気センサ1の出力値から閾値B
opを定めるようにしたため、閾値B
opを決定するキャリブレーションが簡略化される。
【0053】
また、エアギャップA
gが無限の場合における磁気センサ1の出力値から閾値B
opを定めるようにしたため、
図5に示す、センサ検出中心P
scと磁石中心P
mcとのずれP
gの影響を吸収することができる。これは、ずれPgによってエアギャップAgが無限であってもx方向で検出される磁束が0にならずにB
opとなるが、当該B
opを閾値として磁気センサ1の出力値が切り替わるようにしたため、ずれPgが問題とならなくなるためである。
【0054】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0055】
また、上記した実施の形態のセンサ、磁石、ギアは例示であって、位置検出の機能が損なわれず、本発明の要旨を変更しない範囲内で、これらをそれぞれ適宜選択して新たな組み合わせに変更して用いてもよい。