【解決手段】本発明のパン類品質改良剤は、グルタミナーゼおよびエキソペプチダーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解酵素を含有する。本発明のパン類品質改良剤は、例えば、製パン工業やパン類の製造販売を行う店舗に提供される材料として、および消費者のためのパン作製用材料として有用性がある。
前記デンプン分解酵素が、6−α−グルカノトランスフェラーゼおよびα−アミラーゼからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載のパン類品質改良剤。
前記改質グルテンが、油脂改質グルテンおよび還元糖改質グルテンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載のパン類改質改良剤。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.パン類品質改良剤
本発明のパン類品質改良剤は、所定のタンパク質分解酵素を含有する。
【0018】
本明細書において、「パン類」とは、小麦粉を含有する生地が加熱を通じて膨張して得られる食品のうち、イーストを含有する生地を発酵させて得られた食品を言う。パン類は、例えば、焼成、蒸し上げ、フライ、またはそれらの組合せによる加熱によって得られるものである。パン類の例としては、パン(例えば、食パン、あんパンやクリームパン等の菓子パン、クロワッサン等のデニッシュペストリー、ロールパン、フランスパン等の堅焼きパン、バラエティブレッド、カレーパンやサンドイッチ等の調理パン、蒸しパン、ピザ、中華饅頭、ドーナツ、および冷凍パン)ならびに菓子類(例えば、クッキー、ビスケット、ケーキドーナツ、スナック類、スポンジケーキ、ロールケーキ、パンケーキ、ホットケーキ、マドレーヌ、バターケーキ、パウンドケーキ、蒸しケーキ、バウムクーヘン、パイ、およびクレープ)が挙げられる。
【0019】
本発明において、タンパク質分解酵素は、生地中のグルテンに作用して、その結合を適度に切断し、生地の伸長性を向上させることができる。タンパク質分解酵素はまた、アミノ酸のアミド結合を切断して生地中でアンモニアを発生させ、生地中に存在するイーストによって当該アンモニアを消費させ、最終的にイーストの発酵を促進させる作用を有する。タンパク質分解酵素は、このような作用を提供し得るものであれば、エンド型またはエキソ型のいずれのものであってもよい。
【0020】
タンパク質分解酵素の例としては、グルタミナーゼ、エキソペプチダーゼおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0021】
グルタミナーゼは、グルタミンを構成するアミド結合を切断して、グルタミン酸を生成する酵素である(EC3.5.1.2)。このグルタミン酸の生成の際に生じるアンモニアが生地中のイーストによって消費され、結果として生地中のイーストによる発酵を促進する作用を提供することができる。
【0022】
グルタミナーゼは、例えば、微生物、動物、または植物に由来する種々のものを使用することができる。本発明においては、食品用途における汎用性に富み、入手が容易であるとの理由から、微生物由来のグルタミナーゼであることが好ましい。由来となる微生物には、例えば、アルペルギルス(Aspergillus)属、およびバシラス(Bacillus)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)およびバシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)が好ましく、アスペルギルス・ニガーがより好ましい。
【0023】
グルタミナーゼは、市販製剤を利用することができる。更に、市販製剤におけるグルタミナーゼの活性は、37℃にてpH6.0で1分間にグルタミンからグルタミン酸を生成する酵素量を1ユニット(U)として算出することができる。この場合、本発明のパン類品質改良剤におけるグルタミナーゼの含有量は、例えば、本発明のパン類品質改良剤100gを基準とした場合、好ましくは2ユニット(U)〜1000ユニット(U)であり、より好ましくは20ユニット(U)〜400ユニット(U)である。あるいは、本発明のパン類品質改良剤におけるグルタミナーゼの含有量は、例えば、使用する小麦粉100ベーカーズ%を基準とした場合、好ましくは0.01ユニット(U)〜5ユニット(U)であり、より好ましくは0.1ユニット(U)〜2ユニット(U)となるように当該改良剤において調製されていてもよい。パン類品質改良剤に含まれるグルタミナーゼの含有量が上記範囲内にあると、生地のイースト発酵が更に促され、得られるパン類のボリュームを高めることが可能となる。
【0024】
エキソペプチダーゼは、アミノ末端の疎水性アミノ酸に作用する酵素(EC3.4)であり、アミノペプチダーゼとも言う。本発明において、エキソペプチダーゼは生地中のグルタミン酸の生成を通じて、アンモニアの生成を促すことができる。その後アンモニアが生地中のイーストによって消費され、結果としてイーストによる発酵を促進させることができる。
【0025】
エキソペプチダーゼは、例えば、微生物、動物、または植物に由来する種々のものを使用することができる。本発明においては、食品用途における汎用性に富み、入手が容易であるとの理由から、微生物由来のエキソペプチダーゼであることが好ましい。由来となる微生物には、例えば、アルペルギルス(Aspergillus)属、バシラス(Bacillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)が好ましく、アスペルギルス・オリゼがより好ましい。
【0026】
エキソペプチダーゼは、市販製剤を利用することができる。更に、市販製剤におけるエキソペプチダーゼの活性は、1.025mMのL−ロイシン−p−ニトロアニリドHCl溶液にこの酵素液を加え、40℃にて5分間の反応条件下で1分間に1μmolのp−ニトロアニリンを生成する酵素量を1ユニット(U)として算出することができる。この場合、本発明のパン類品質改良剤におけるエキソペプチダーゼの含有量は、例えば、本発明のパン類品質改良剤100gを基準とした場合、好ましくは20ユニット(U)〜20000ユニット(U)であり、より好ましくは200ユニット(U)〜10000ユニット(U)である。あるいは、本発明のパン類品質改良剤におけるエキソペプチダーゼの含有量は、例えば、使用する小麦粉100ベーカーズ%を基準とした場合、好ましくは0.1ユニット(U)〜100ユニット(U)であり、より好ましくは1ユニット(U)〜50ユニット(U)となるように当該改良剤において調製されていてもよい。パン類品質改良剤に含まれるエキソペプチダーゼの含有量が上記範囲内にあると、生地のイースト発酵が更に促され、得られるパン類のボリュームを高めることが可能となる。
【0027】
更に、本発明においては、生地中のグルタミン酸の生成を一層促進し、それによりアンモニアの生成とイーストによるアンモニアの消費を高め、結果として生地中のイースト活性を一層増加させることができるという点から、タンパク質分解酵素として、グルタミナーゼおよびエキソペプチダーゼの両方を含有していることが好ましい。グルタミナーゼおよびエキソペプチダーゼの含有比は、特に限定されるものではないが、例えば、グルタミナーゼ100ユニット(U)に対し、エキソペプチダーゼは、好ましくは500ユニット(U)〜4000ユニット(U)、より好ましくは1000ユニット(U)〜3000ユニット(U)である。
【0028】
本発明のパン類品質改良剤はまた、必要に応じてデンプン分解酵素を含有していてもよい。
【0029】
本発明において、デンプン分解酵素は、生地に含まれるデンプンの結合を規則的または不規則に切断し、生地の伸展性および/または得られるパン類の食感(例えば、崩壊性、口溶け、およびしっとり感)を向上させる作用を有する。デンプン分解酵素は、このような作用を提供し得るものであれば、エンド型またはエキソ型のいずれのものであってもよい。
【0030】
デンプン分解酵素の例としては、6−α−グルカノトランスフェラーゼ、α−アミラーゼおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0031】
6−α−グルカノトランスフェラーゼは、デンプンのα−1,4グリコシド結合を切断し、生じた還元末端をα−1,6グリコシド結合で再結合させる転移酵素(EC2.4.1.18)であり、環状構造を有するデキストリンを生成する。本発明においては、生地中で、このようなデキストリンが生成されることにより、得られるパン類の物性に変化を与え、食感を向上させることができる。
【0032】
6−α−グルカノトランスフェラーゼは、例えば、微生物または植物に由来する種々のものを使用することができる。本発明においては、食品用途における汎用性に富み、入手が容易であるとの理由から、微生物由来の6−α−グルカノトランスフェラーゼであることが好ましい。由来となる微生物には、例えば、ゲオバシラス(Geobacillus)属、バシラス(Bacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、ゲオバシラス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、ストレプトコッカス・ミチス(Streptococcus mitis)が好ましく、ゲオバシラス・ステアロサーモフィルスがより好ましい。
【0033】
6−α−グルカノトランスフェラーゼは、市販製剤を利用することができる。更に、市販製剤における6−α−グルカノトランスフェラーゼの活性は、0.1%アミロース水溶液にこの酵素液を加え、50℃にて10分間反応させた後にヨウ素で呈色させた時、1分間あたりの吸光度(660nm)の減少率が1%である酵素量を1ユニット(U)として算出することができる。この場合、本発明のパン類品質改良剤に含有されていてもよい6−α−グルカノトランスフェラーゼの含有量は、例えば、本発明のパン類品質改良剤100gを基準とした場合、好ましくは2000ユニット(U)〜500000ユニット(U)であり、より好ましくは10000ユニット(U)〜300000ユニット(U)である。あるいは、本発明のパン類品質改良剤における6−α−グルカノトランスフェラーゼの含有量は、例えば、使用する小麦粉100ベーカーズ%を基準とした場合、好ましくは10ユニット(U)〜2500ユニット(U)であり、より好ましくは50ユニット(U)〜1500ユニット(U)となるように当該改良剤において調製されていてもよい。パン類品質改良剤に含まれる6−α−グルカノトランスフェラーゼの含有量が上記範囲内にあると、得られるパン類について、崩壊性および口溶けが一層向上する。
【0034】
α−アミラーゼは、デンプンのα−1,4−結合を不規則に切断して単糖および/または多糖を生成することのできるエンド型の酵素(EC3.2.1.1)である。このため、生地中のデンプンに適切に作用して、生地の伸展性を向上させ、得られるパン類のボリュームを高めることが可能となる。また、α−アミラーゼは、上記6−α−グルカノトランスフェラーゼとの併用によって、生地中に環状構造を有するデキストリンの生成を促すことができる。
【0035】
α−アミラーゼは、例えば、微生物、動物、または植物に由来する種々のものを使用することができる。本発明においては、食品用途における汎用性に富み、入手が容易であるとの理由から、微生物由来のα−アミラーゼであることが好ましい。由来となる微生物には、例えば、アルペルギルス(Aspergillus)属、およびバシラス(Bacillus)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バシラス・リチェニフォルミス(Bacillus licheniformis)が好ましく、アスペルギルス・オリゼがより好ましい。
【0036】
α−アミラーゼは、市販製剤を利用することができる。更に、市販製剤におけるα−アミラーゼの活性は、デンプン溶液にこの酵素液を添加し、pH5.0で30℃にて15〜25分間反応させた後にヨウ素で呈色させ、吸光度(620nm)における可溶性デンプンの変換率が毎時1.0gである酵素量を1ユニット(U)として算出することができる。この場合、本発明のパン類品質改良剤に含有されていてもよいα−アミラーゼの含有量は、例えば、本発明のパン類品質改良剤100gを基準とした場合、好ましくは50ユニット(U)〜11500ユニット(U)であり、より好ましくは125ユニット(U)〜4600ユニット(U)である。あるいは、本発明のパン類品質改良剤におけるα−アミラーゼの含有量は、例えば、使用する小麦粉100ベーカーズ%を基準とした場合、好ましくは0.1ユニット(U)〜100ユニット(U)であり、より好ましくは0.5ユニット(U)〜25ユニット(U)となるように当該改良剤において調製されていてもよい。パン類品質改良剤に含まれるα−アミラーゼの含有量が上記範囲内にあると、生地のイースト発酵が更に促され、得られるパン類のボリュームを高めることが可能となる。
【0037】
更に、本発明においては、生地の伸展性や、得られるパン類のボリュームおよび食感を一層向上させることができるという点から、デンプン分解酵素として、6−α−グルカノトランスフェラーゼおよびα−アミラーゼの両方を含有していることが好ましい。6−α−グルカノトランスフェラーゼおよびα−アミラーゼの含有比は、特に限定されるものではないが、例えば、6−α−グルカノトランスフェラーゼ100000ユニット(U)に対し、α−アミラーゼは、好ましくは500ユニット(U)〜2000ユニット(U)、より好ましくは900ユニット(U)〜1800ユニット(U)である。
【0038】
本発明のパン類品質改良剤はまた、必要に応じて改質グルテンを含有していてもよい。
【0039】
本発明において、改質グルテンは、生グルテンに処理を施すことにより、当該生グルテンとは異なる性質を有する、好ましくは粉末または顆粒状の加工されたグルテンである。
【0040】
改質グルテンの例としては、油脂改質グルテン、還元糖改質グルテンおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0041】
油脂改質グルテンは、生グルテンと、不飽和脂肪酸を例えば50重量%以上の割合で含有する油脂とを混練し、乾燥かつ粉砕することにより得られるものである。油脂改質グルテンを構成し得る油脂は、限定されるものではないが、例えば、牛脂、豚脂、魚油などの動物油脂;ヤシ油、パーム油、大豆油、菜種油、米油、サフラワー油、コーン油、紅花油、ピーナッツ油、綿実油、中鎖トリグリセライドなどの植物油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0042】
油脂改質グルテンは、例えば、特開2008−136481号公報に記載の方法にしたがって当業者が容易に製造することができる。
【0043】
還元糖改質グルテンは、生グルテンと還元糖とを混練し、乾燥かつ粉砕することにより得られるものである。還元糖改質グルテンを構成し得る還元糖は、限定されるものではないが、例えば、フルクトース、キシロース、グルコース、マルトース、ショ糖、ラクトース、キシロオリゴ糖、イソマルツロース、ラクトスクロース、ラムノース、N−アセチルグルコサミン、L−アラビノース、D−リボース、L−フコース、およびL−ソルボース、ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0044】
還元糖改質グルテンは、例えば、特開2012−044985号公報に記載の方法にしたがって当業者が容易に製造することができる。
【0045】
本発明のパン類品質改良剤に含有されていてもよい改質グルテンの含有量は、併用される上記タンパク質分解酵素、デンプン分解酵素の種類や量(ユニット数)、製造するパン類の種類等によって変動することがあるため、限定されるものではないが、パン類の原材料を基準として、好ましくは0.1ベーカーズ%〜3ベーカーズ%、より好ましくは0.4ベーカーズ%〜2ベーカーズ%である。また、改質グルテンとして、上記したような油脂改質グルテンと還元糖改質グルテンとが併用される場合、本発明のパン類品質改良剤に含有されていてもよい油脂改質グルテンと還元糖改質グルテンとの含有比(質量比)は、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは7:3〜8:2である。
【0046】
本発明のパン類品質改良剤は、上記成分以外に必要に応じてイーストフードを含有していてもよい。
【0047】
イーストフードは、生地に含まれるイーストの発酵を促し、生地の膨張を強化して得られるパン類のボリュームを向上させるための1種の食品添加剤である。イーストフードの例としては、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム(無水)、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、および焼成カルシウム、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0048】
本発明において、イーストフードは必須ではないが、上記タンパク分解酵素、デンプン分解酵素および/または改質グルテンが奏する各作用を阻害しない程度において含有することができる。
【0049】
本発明のパン類品質改良剤はまた、上記成分以外に必要に応じて賦形剤(例えば、デキストリン、および小麦粉)、pH調整剤、保存料などのその他の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分の含有量についても当業者が適宜設定することができる。
【0050】
本発明のパン類品質改良剤は、例えば、粉剤の形態で、上記各成分の混合物を、製造しようとするパン類の種類や生地の量に応じて予め小分けにして保管されていてもよい。あるいは上記各成分の混合物を1つの容器または袋に収納し、使用時に製造しようとするパン類の種類や生地の量に応じて適切な量が当業者によって計量され、使用されてもよい。
【0051】
本発明のパン類品質改良剤は、大規模な製パンのための工業的生産過程だけでなく、店舗や消費者においても使用することができる。
【0052】
2.パン類の製造方法
パン類の製造においては、はじめに小麦粉、イースト、および上記本発明のパン類品質改良剤が合わされ、生地が作製される。
【0053】
小麦粉には、例えば強力粉、中力粉、および薄力粉が挙げられ、製造するパン類の種類によって使用する小麦粉の種類や量(混合量を含む)が選択される。
【0054】
イーストは、通常の製パンにおいて使用可能なものを採用することができる。例えば、生イースト、ドライイースト、インスタントドライイーストのいずれをも使用することができる。
【0055】
生地は上記以外の成分を含有していてもよい。このような成分の例としては、限定されないが、砂糖、水飴、オリゴ糖、糖アルコールのような糖分;マーガリン、バター、ショートニングのような油脂;牛乳、生クリーム、脱脂粉乳、全粉乳などの乳成分;食塩;水;などが挙げられる。
【0056】
本発明のパン類の製造において、例えば中種法を用いる場合は、例えば、各成分が合わされて一旦中種を得た後、生地(中種)は更に当業者に公知の手段を用いて小麦粉等を混捏されてもよい。生地の発酵もまた、当業者に公知の手法を用いて行われる。発酵のために採用され得る条件は、例えば、パン類の種類や大きさ、成分によって変化するため、限定されるものではないが、例えば、22℃〜28℃の温度で1時間〜6時間である。発酵後、生地は適切な大きさに分けられ、必要に応じて成型される。上記では、中種法を用いた場合について説明したが、ストレート法その他当該分野において公知の方法が採用されてもよい。
【0057】
その後、生地は適切な加熱手段を用いて加熱される。
【0058】
加熱には、焼成、蒸し、およびフライ、ならびそれらの組合せによる種々の方法が採用され、この方法は、加熱に要する温度および時間とともに、例えば、パン類の種類や大きさ、成分によって当業者は任意に選択することができる。
【0059】
なお、上記パン類の製造方法については、上記本発明のパン類品質改良剤を用いる場合について説明したが、これに代わり、本発明のパン類品質改良剤を構成するタンパク質分解酵素、デンプン分解酵素、改質グルテン等を、それぞれ別々に小麦粉およびイーストに添加してもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【0061】
各実施例および比較例に使用した材料は、それぞれ以下の表1に示す通りであった。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1〜7
食パンを中種法により以下のようにして製造した。
【0064】
表2に示すサンプル材料をパン類改質改良剤(粉剤)として用いた。次に、これを中種材料に添加し、縦型ミキサー(株式会社品川工業所製卓上ミキサー(5DM型))を用いて、4分間ミキシング(L3H1)(捏上温度24℃)し、得られた中種生地を、温度27℃および湿度75%にて4時間発酵させた(生地温度28℃〜28.5℃)。その後、発酵させた中種生地に、表2に記載の本捏材料を添加し、上記縦型ミキサーを用いて、約12分間ミキシング(L3H2(油脂)L3H4)(捏上温度27℃)した。更に15分間発酵させて本捏生地を得た後、生地を分割(型生地比容積3.8)して丸め、20分間のベンチタイムでそのまま放置した。生地を成型した後、パン型に仕込んだ。この状態で、温度27℃および湿度85%にて約40分間ホイロ内で最終発酵を行い、固定オーブンにて210℃で40分間焼成し、食パンを製造した。
【0065】
焼成後、得られた食パンをパン型から取り出して2時間放冷し、袋に詰めて室温にて保管した。
【0066】
なお、この食パンの製造において、中種生地の状態、本捏生地の状態、および成型時の生地の状態を、当該分野におけるエキスパート10名が目視および触感にて観察し、後述する比較例1の結果を「標準的(□)」とした際の対比の結果として以下の基準で評価した。
【0067】
<各生地の評価>
(記号) (評価内容)
◎ 10人中7人以上が、非常に伸展性良好と判断した。
○ 10人中7人以上が伸展性良好と判断した。
□ 10人中7人以上が標準的と判断した。
△ 10人中7人以上がやや付着性ありと判断した。
× 10人中7人以上が非常に軟化しており、付着性ありと判断した。
【0068】
また、パン型から取り出し、袋に詰める直前の食パンのボリュームの状態を、当該分野におけるエキスパート10名が目視にて観察し、後述する比較例1の結果を「標準的(□)」とした際の対比の結果として以下の基準で評価した。
【0069】
<食パンのボリューム>
(記号) (評価内容)
◎ 10人中7人以上が非常に大きいと判断した。
○ 10人中7人以上がやや大きいと判断した。
□ 10人中7人が標準的と判断した。
△ 10人中7人以上がやや小さいと判断した。
× 10人中7人以上が非常に小さいと判断した。
【0070】
次に、焼成2日後に袋から食パンを取り出し、厚み2cm幅に切断した。この切断した食パンを、当該分野におけるエキスパート10名がそのまま食し、後述する比較例1の結果を「標準的(□)」とした際の対比の結果として、以下の基準でしっとり感および口溶け感についての各官能評価を行った。
【0071】
<官能評価(しっとり感)>
(記号) (評価内容)
◎ 10人中7人以上が非常に柔らかくてしっとりしていると判断した。
○ 10人中7人以上が柔らかくてしっとりしていると判断した。
□ 10人中7人が標準的と判断した。
△ 10人中7人以上がやや乾燥感ありと判断した。
× 10人中7人以上が乾燥感ありと判断した。
【0072】
<官能評価(口溶け感)>
(記号) (評価内容)
◎ 10人中7人以上が非常に口溶け良好と判断した。
○ 10人中7人以上が口溶け良好と判断した。
□ 10人中7人が標準的と判断した。
△ 10人中7人以上がやや凝集性ありと判断した。
× 10人中7人以上が凝集性ありと判断した。
【0073】
これらの結果を表2に示す。
【0074】
比較例1および2
表2に示す中種材料、および本捏材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして食パンを製造し、実施例1と同様にして各評価を行った。これらの結果を表2に示す。なお、比較例2ではイーストフードを使用した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、比較例1と対比して、実施例1〜7の中種生地および本捏生地は実質的に顕著な差異は生じていないものの、成型時の生地の伸展性が向上したか(実施例1〜7)またはボリュームが増大していた(実施例4、6および7)。焼成後のボリュームについては、特にグルタミナーゼとエキソペプチダーゼとを併用することによって向上する傾向にあることが見出された(実施例3〜7)。
【0077】
実施例8〜11
表3に示すサンプル材料、中種材料、および本捏材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして食パンを製造し、実施例1と同様にして各評価を行った。これらの結果を、比較例1および2の結果とともに表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すように、比較例1と対比して、実施例8〜11の中種生地および本捏生地は実質的に顕著な差異は生じていなかった。そして焼成後のボリュームについては、6−α−グルカノトランスフェラーゼ、α−アミラーゼを使用することによって、特に両者を併用することによって向上し、口溶けが良好である、しっとり感がある等の官能評価にも変化が現れていたことが見出された(実施例8〜11)。
【0080】
実施例12〜23、および比較例3〜7
表4および5に示すサンプル材料、中種材料、および本捏材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして食パンを製造し、実施例1と同様にして各評価を行った。これらの結果を、比較例1および2の結果とともに表4および5に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
表4および5に示すように、比較例1と対比して、実施例12〜23の中種生地および本捏生地は実質的に顕著な差異は生じていないものの、成型時の生地の伸展性が向上した(実施例12〜19)。そして焼成後のボリュームについては、特に油脂改質グルテンおよび還元糖改質グルテンを併用することによって更に向上し、口溶けが良好である、しっとり感がある等の官能評価にも変化が現れていたことが見出された(実施例12、13、および16〜23)。
【0084】
実施例24〜27
表6に示すサンプル材料をパン類改質改良剤(粉剤)として用いた。次に、これを中種材料の代わりに本捏材料に添加したこと以外は実施例1と同様にして食パンを製造し、実施例1と同様にして各評価を行った。これらの結果を、比較例1および2の結果とともに表6に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示すように、比較例1と対比して、サンプル材料(パン類品質改良剤)を本捏材料側に添加した実施例20の本捏生地および成型時の生地の伸展性が向上した。そして焼成後のボリュームも向上しており、口溶けが良好である、しっとり感がある、そして復元性がある点で官能評価にも変化が現れていたことが見出された(実施例24〜27)。
【0087】
実施例28〜31
食パンをストレート法により以下のようにして製造した。
【0088】
表7に示すサンプル材料をパン類改質改良剤(粉剤)として用いた。次に、これを表7に示す原材料に添加し、縦型ミキサー(株式会社品川工業所製卓上ミキサー(5DM型))を用いて、約15分間ミキシング(L5H3(油脂)L3H4)(捏上温度27℃)し、得られた生地を、温度28℃および湿度70%にて60分間発酵させた。その後、発酵させた生地を分割(型生地比容積3.8)して丸め、25分間のベンチタイムでそのまま放置した。生地を成型した後、パン型に仕込んだ。この状態で、温度38℃および湿度85%にて約40分間ホイロ内で最終発酵を行い、固定オーブンにて210℃で40分間焼成し、食パンを製造した。こうして得られた食パンについて、後述する比較例8の結果を「標準的(□)」とした際の対比の結果として、実施例1に記載の各評価を行った。これらの結果を表7に示す。
【0089】
比較例8および9
表7に示す原材料のみを用いたこと以外は実施例28と同様にして食パンを製造し、実施例1と同様にして各評価を行った。これらの結果を表7に示す。
【0090】
【表7】
【0091】
表7に示すように、比較例8と対比して、サンプル材料(パン類品質改良剤)を原材料に添加した実施例28および29の本捏生地および成型時の生地の伸展性が向上した。また、実施例31の成型時の生地の伸展性も向上した。そして焼成後のボリュームも向上しており、口溶けが良好である、しっとり感がある点で官能評価にも変化が現れていたことが見出された(実施例28〜31)。