【実施例】
【0064】
本実施例では、吊り下げ式の捕虫器51等を用いて、補助誘引構造部41の配置による本体52の内部への誘引効果と、補助誘引構造部41へのコントラスト強調部C1の付与(視覚的エッジの付与)による誘引効果とを検証するための実験を行った。
ここでは、飛翔性の昆虫M(具体的には、ガの一種であって害虫であるイネヨトウ)を暗室内にて自由飛翔させて、以下の3つのタイプの捕虫器を用いて捕獲するようにした。
図6に示されるように、「捕虫器3(実施例)」は基本的に
図5に示す捕虫器51と同等のものであって、主誘引光源39と、表面にコントラスト強調部C1を付与した補助誘引構造部41とを備えるものとした。これに対し、「捕虫器2(比較例2)」は、主誘引光源39と、表面にコントラスト強調部C1を付与していない補助誘引構造部41とを備えるものとした。「捕虫器1(比較例1)」は、主誘引光源39を備える一方、補助誘引構造部41を備えていないものとした。
【0065】
主誘引光源39としては、375nmの光を発するチップ型の紫外LED(ナイトライドセミコンダクター社製、NS375L−6SVG)を1灯用いることとした。反射によるコントラスト強調部C1を付与した補助誘引構造部41は、直径15cm、高さ15cmの円錐形として、その表面にデュポン株式会社製の高密度ポリエチレン不織布シートである「タイベック(登録商標;400WP)」を貼り付けて光反射可能なものとした。また、円錐形の構造の下端から3cmの位置に、タイベックの上から3cmの幅をもつ黒色低反射の布(近江ベルベット株式会社製、布ハイミロン裏地ベンベルグタイプ12(ただし「ベンベルグ」は旭化成せんい株式会社の登録商標))を水平帯状に貼り付けた。これにより水平方向に延びるコントラスト強調部C1を付与した。
【0066】
次いで、暗室内にガを飛翔させる飛翔台を設置し、それを中心にして60度の角度を保って3つの捕虫器を配置した(
図6参照)。飛翔台は捕虫器の本体52の下端の高さ(70cm)と同じ高さとした。飛翔台から各捕虫器中心までの距離は90cmとした。飛翔台にガを1個体ずつ配置し、5分以内に飛翔したもののみを実験データとして用いた。飛翔しなかった個体は、時間を置いて再度使用した。飛翔台から飛翔するガは、赤外線暗視モードのビデオカメラで撮影し、個体の選択光源と内部侵入との様子を撮影した。このとき、捕虫器の周囲10cmの仮想的な枠内に侵入した場合を「誘引」、捕虫器の本体52あるいは補助誘引構造部41に接触した場合を「接触」、本体52内の内部に侵入した場合を「捕獲」として、それぞれ頻度をカウントした。2つ以上の捕虫器が選択された場合には、両者ともにカウントするようにした。個体が一旦どこかに停止したときには観察を終了するものとした。ただし、殆どの場合、1分程度でガはどこかに付着して行動を停止した。そして、この実験では合計123個体のガの行動を観察し、捕虫器への誘引反応を144回、捕虫器への接触行動を61回、捕虫器による捕獲を22回観察した。
【0067】
図7(a)〜(c)は上記実験の結果を示すグラフである。
図7(a)における縦軸は3つの捕虫器それぞれの誘引率(%)を示し、
図7(b)における縦軸は3つの捕虫器それぞれの接触率(%)を示し、
図7(c)における縦軸は3つの捕虫器それぞれの捕獲率(%)を示している。
【0068】
誘引率に関しては、捕虫器1にて20.1%、捕虫器2にて42.2%、捕虫器3にて37.5%となり、補助誘引構造部41を持たない捕虫器1の誘引率が最も低くなった。また、補助誘引構造部41を持つものにおいては、コントラスト強調部C1を付与していない捕虫器2のほうが、誘引率が高くなった。
【0069】
一方、捕虫器本体52及び補助誘引構造部41に接触した個体の割合は、捕虫器1、2、3につき、それぞれ13.1%、37.7%、49.2%となった。そして、コントラスト強調部C1を付与した捕虫器3のほうが、コントラスト強調部C1を付与していない捕虫器2よりも接触率が高くなった。また、補助誘引構造部41を持たない捕虫器1の接触率は、これらのものよりも明らかに低くなった。
【0070】
さらに、捕獲率に関しては、捕虫器1、2、3につき、それぞれ4.5%、36.4%、59.1%となり、同様に捕虫器3の捕獲率が最も高かった。
【0071】
以上の結果から、捕虫器3の補助誘引構造部41は、誘引及び捕獲において有効に機能することが実証された。また、補助誘引構造部41はコントラスト強調部C1を付与しない場合でも誘引には寄与するものの、付与した場合には正確な定位を成立せしめることで、より近傍への接触及び捕獲部への誘導に効果を示すことが明らかとなった。
【0072】
以下、本発明の各実施形態の捕虫器11,31,51の効果について述べる。各実施形態の捕虫器11,31,51によると、昆虫Mは、補助誘引構造部17,41の発する光L2によって、遠距離から補助誘引構造部17,41にまず引き寄せられる。すると、補助誘引構造部17,41の近傍に到った昆虫Mは、誘引力の高い光L1を発する主誘引光源13,39を視認することが可能となる。ゆえに、昆虫Mは、補助誘引構造部17,41から離れて、次に捕虫器11,31,51の内部の主誘引光源13,39に引き寄せられた後、捕虫手段14,35により捕獲されることになる。これらの捕虫器11,31,51では、捕虫手段14,35が外部にむき出しとなっていないことから、捕獲後の昆虫Mも捕獲される瞬間の昆虫Mも、利用者にとって視認されない。よって、利用者が不潔で不快な印象を抱くことはないという利点がある。
【0073】
また、捕虫手段14,35が捕虫器11,31,51の内部に配置されていることから、捕獲された昆虫Mが逃げ出したり、周囲に昆虫Mの死骸が飛び散ったりするリスクが低減される。
【0074】
さらに、紫外領域を含む短波長の波長帯の光が使用されることが多い光源を、主誘引光源13,39として捕虫器11,31,51の内部に配置したことで、捕虫器11,31,51が存在することを人に認知されにくくすることができる。また、紫外線光源を直接見ることにより健康被害が生じるのではないかという心理的負担を軽減することができる。
【0075】
ところで、このような捕虫器11,31,51では、主誘引光源13,39自体が捕獲対象である昆虫Mからも視認されにくくなる。このため、捕獲性能が低下することが懸念され、補助誘引構造部17,41の誘引力をいかに高めるかが重要となるが、上記各実施形態ではそのために補助誘引構造部17,41の表面にコントラスト強調部C1を付与するものとしている。ちなみに、特願2012−049842では、昆虫Mが紫外と緑のエッジに誘引されやすいことが示されており、また他の文献では、昆虫Mは明暗のエッジに対しても誘引されることが様々な種類の昆虫Mで報告されている。補助誘引構造部17,41の平面あるいは緩やかな曲面に配置された視覚的なエッジは、近くに寄るほど検出が困難になる。それゆえ、誘引された昆虫Mに対して誘導の手がかりとしての機能を失うことから、補助誘引構造部17,41に対する昆虫Mの定着を促すものではない。また、主誘引光源13,39と視覚的エッジを含めた補助誘引構造部17,41には誘引力の差が存在することから、昆虫Mは補助誘引構造部17,41に定着せずに、速やかに主誘引光源13,39の方向に誘導されることができる。
【0076】
従って、このような捕虫器11,31,51を利用することで、工場や一般家庭では、飛翔性の侵入害虫の密度を低下させることが可能となる。それにより、殺虫や防虫のための化学物質の利用を低減させることができる。また、農業現場では捕虫器11,31,51の利用により、農家の防除コスト軽減や労力軽減が図られる。例えば、キャベツ栽培においては、コナガ、ヨトウムシ、ハスモンヨトウなどのガ類害虫の防除を1作あたり10回程度行うが、捕虫器11,31,51を発生予察に用いることで、初期の3回の散布を省略することが可能になると予想される。
【0077】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0078】
・吊り下げ式の捕虫器31,51における本体32,52の形状は第2及び第3実施形態のようなものに限定されるわけではなく、例えば、
図8(a)〜(d)に示す別の実施形態の捕虫器71A〜71Dにおける本体72のような円柱状であってもよい。なお、
図8(a)に示す捕虫器71Aの補助誘引構造部41Aには、第2実施形態のものと同じパターンのコントラスト強調部C1が、反射率の異なる2つの素材によって付与されている。例えばこのパターンは以下のように変更してもよい。
図8(b)に示す捕虫器71Bの補助誘引構造部41Bでは、水平方向に延びる一定幅かつ帯状の低輝度領域R2を3つ配置したパターンを採用している。
図8(c)に示す捕虫器71Cの補助誘引構造部41Cでは、頂部を中心として放射状に延びる低輝度領域R2を複数箇所に配置したパターンを採用している。なお、帯状の低輝度領域R2の延びる方向は水平方向や垂直方向に限らず、斜め方向であってもよい。また、帯状の低輝度領域R2は直線的なものに限らず、曲線的なものであってもよい。
図8(d)に示す捕虫器71Dの補助誘引構造部41Dでは、円形状の低輝度領域R2を複数箇所にて散点的に配置したパターンを採用している。なお、円形状に代えて三角形状や四角形状などにしてもよい。
【0079】
・上記第2実施形態における吊り下げ式の捕虫器31では、複数本の棒状の接続部材40によって本体32と補助誘引構造部41とを接続していたが、これに限定されない。例えば、
図9に示す別の実施形態の捕虫器91のように、変形自在な吊下部材である糸92を用いてこれら部材同士を接続してもよい。具体的にいうと、捕虫器91において、糸92の上端側は光源配置部37の下面側にて中央部を避けた位置に繋がれている。一方、開口34を介して下方に到った糸92の下端側は、補助誘引構造部41の頂部に繋がれている。従って、フック42を用いて捕虫器91を設置したときには、糸92が伸びた状態となって補助誘引構造部41が吊り下げられ、本体32における開口34の外側かつ下方に配置された状態となる(
図9(a)参照)。一方、捕虫器91を取り外したときには糸92が緩んだ状態となるため、捕虫器91を上下方向に縮めることができ、不使用時にコンパクトな形態とすることができる(
図9(b)参照)。
【0080】
・
図10(a),(b)に示す別の実施形態の捕虫器111では、主誘引光源115を配置可能な光源側部分113と、捕虫手段35を配置可能な捕虫側部分114とに分離交換可能な本体112を備えたものとなっている。光源側部分113の上端部には、例えば発光部118を先端に有する主誘引光源115(例えば市販品のライト等)を着脱可能に取り付けるための挿入孔が設けられている。捕虫側部分114における上端には、中央部に貫通孔116を有する板状の光源配置部117が配設されている。
図10(b)に示す使用時には、本体112の内部に配置された発光部118が外部から視認不能な状態で固定される。また、その発光部118の発する光L1が貫通孔116及び開口34を介して補助誘引構造部41に照射されるようになる。そして、このような構造の捕虫器111では、例えば、主誘引光源115が故障等した場合に、光源側部分113全部ではなく主誘引光源115のみを交換することができるようになる。また、捕虫手段35が汚損、劣化等した場合には、捕虫側部分114を交換することが可能となる。さらに、このような構造であると、市販品のライトを流用して主誘引光源115とすることも可能となり、利便性が向上する。
【0081】
・
図11(a)に示す別の実施形態の捕虫器131のように、開口34の周縁に折り返し部132を形成してもよい。また、
図11(b)に示す別の実施形態の捕虫器151のように、昆虫Mが通過できる程度の孔を有するメッシュ部材152を開口34に設けてもよい。これらの構成を採用した場合、捕獲された昆虫Mが逃げ出しにくくなるというメリットがある。なお、メッシュ部材152を構成する素材は任意に選択されうるが、光L1を通過させることができる透明な素材であることが好ましい。
【0082】
・
図12に示す別の実施形態の捕虫器171のように、上記第1実施形態の捕虫器11で用いた補助誘引構造部17とは異なる形状の補助誘引構造部172を採用してもよい。即ち、
図3に示す縦断面において第1実施形態の補助誘引構造部17は表面が平坦なものであったが、この捕虫器171の補助誘引構造部172は表面が湾曲した凹面状になっている。従って、この捕虫器171の場合には、誘引のための光L2の装置前方への指向性を高めることができる。
【0083】
・上記第1実施形態では開口16を本体12の底部に設けた構造を採用したが、例えば
図13に示す別の実施形態の捕虫器191のように、開口16を本体12の上部に設けたものとしてもよい。
【0084】
・上記第1実施形態の補助誘引構造部17や上記別の実施形態の補助誘引構造部172は、立体的な形状を有するものであったが、これに限定されない。例えば、
図14に示す別の実施形態の捕虫器211のように、単なる平板状(舌状)の補助誘引構造部212を用い、これを装置直下に突出させるように配置してもよい。
【0085】
・上記各実施形態では、いずれも主誘引光源の光L1に基づいて受動的に光L2を発する補助誘引構造部を採用したが、例えば、自身のなかに何らかの発光手段を有していて、主誘引光源に依存せず能動的に光ることが可能な補助誘引構造部を採用してもよい。
【0086】
・例えば上記第1実施形態の捕虫器11等は、本体12内に内部電源を持つものとしたが、例えば内部電源を持たず外部電源を利用して主誘引光源13を発光させるものとしてもよい。この場合、本体12から外部電源供給部(例えばコンセント挿入部)を突出させておく等の構造を採用すればよい。内部電源を持たない構成の利点は小型化等に向くことである。一方、内部電源を持つ構成の利点は外部電源のない屋外などでも使用できることである。