【課題】TCRベータ定常領域1(TRBC1)またはTRBC2に選択的に結合する抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR);細胞;そのようなCARを含むそのようなT細胞;および対象におけるT細胞リンパ腫または白血病を処置するための、そのような細胞の使用を提供すること。
【解決手段】本発明者らは、対象における悪性T細胞を、顕著な割合の健康なT細胞に影響を及ぼすことなく枯渇させることを可能にする方法を考案した。具体的には、T細胞悪性腫瘍の処置に使用するためのTRBC1特異的キメラ抗原受容体(CAR)およびTRBC2特異的キメラ抗原受容体(CAR)を開発した。
前記T細胞リンパ腫または白血病が、特定不能末梢性T細胞リンパ腫(PTCL−NOS);血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸疾患関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択される、請求項9または11に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、TRBC1またはTRBC2に選択的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)などの作用因子を提供する。そのような作用因子は、対象におけるT細胞リンパ腫または白血病を処置するための方法において有用である。T細胞悪性腫瘍はクローン性であり、したがって、TRBC1またはTRBC2のいずれかを発現する。TCRB1選択的作用因子またはTCRB2選択的作用因子を対象に投与することによって、当該作用因子は、悪性T細胞と、その悪性T細胞と同じTRBCを発現する正常T細胞との選択的な枯渇は引き起こすが、その悪性T細胞では発現されないTRBCを発現する正常T細胞の枯渇は引き起こさない。
【0043】
TCRβ定常領域(TRBC)
T細胞受容体(TCR)は、Tリンパ球の表面上に発現され、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与する。TCRが抗原性ペプチドおよびMHC(ペプチド/MHC)と会合すると、関連する酵素、補助受容体、特殊アダプター分子、および活性化または放出された転写因子によって媒介される一連の生化学的事象を通じてTリンパ球が活性化される。
【0044】
TCRは、通常、不変のCD3鎖分子との複合体の一部として発現される高度に可変性のアルファ(α)鎖およびベータ(β)鎖からなるジスルフィド連結した膜係留型ヘテロ二量体である。この受容体を発現するT細胞はα:β(またはαβ)T細胞と称される(総T細胞の約95%)。少数のT細胞は、可変性のガンマ(γ)鎖およびデルタ(δ)鎖によって形成される代替の受容体を発現し、これらはγδT細胞と称される(総T細胞の約5%)。
【0045】
各α鎖およびβ鎖は、2つの細胞外ドメイン:可変(V)領域および定常(C)領域で構成され、これらはどちらも、逆平行β−シートを形成する免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)ドメインである。定常領域は細胞膜に対して近位にあり、その後ろに膜貫通領域および短い細胞質尾部があり、可変領域は、ペプチド/MHC複合体に結合する(
図1参照)。TCRの定常領域は、システイン残基がジスルフィド結合を形成し、それにより2つの鎖間に連結が形成される、短い接続配列からなる。
【0046】
TCR α鎖およびβ鎖の可変ドメインはどちらも3つの超可変または相補性決定領域(CDR)を有する。β鎖の可変領域は、追加的な領域の超可変性(HV4)も有するが、これは通常は抗原と接触せず、したがって、CDRとはみなされない。
TCRはまた、最大5つの不変鎖γ、δ、ε(集合的にCD3と称される)およびζも含む。CD3およびζサブユニットは、αβまたはγδによる抗原の認識後に第2のメッセンジャーおよびアダプター分子と相互作用する特異的な細胞質ドメインを通じてTCRシグナル伝達を媒介する。TCR複合体の細胞表面発現の前に、サブユニットが対で集合し、そこではTCRαおよびβならびにCD3γおよびδの膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインの両方が役割を果たす。
【0047】
したがって、TCRは、一般にCD3複合体と、TCRα鎖およびβ鎖とで構成され可、それが今度は変領域および定常領域で構成される(
図1)。
【0048】
TCR β定常領域(TRBC)を供給する遺伝子座(Chr7:q34)は、進化の歴史の中で複製されて、2つのほぼ同一であり機能的に同等な遺伝子:TRBC1およびTRBC2を生じ(
図2)、これらは、各遺伝子から生じる成熟タンパク質内の4アミノ酸のみが異なる(
図3)。各TCRは、相互排他的にTRBC1またはTRBC2のいずれかを含み、したがって、各αβT細胞は、TRBC1またはTRBC2のいずれかを相互排他的に発現する。
【0049】
本発明者らは、TRBC1の配列とTRBC2の配列は類似しているにもかかわらず、それらを識別することが可能であることを決定した。本発明者らは、TRBC1のアミノ酸配列およびTRBC2のアミノ酸配列を、細胞、例えばT細胞の表面上でin situで識別することができることも決定した。
【0050】
悪性細胞
「悪性」という用語は、本明細書では、その標準の意味に従って使用され、その成長が自己限定されず、隣接組織内に侵入することができ、かつ、遠位組織に拡散することができる細胞を指す。そのように、「悪性T細胞」という用語は、本明細書では、リンパ腫または白血病の状況でクローン的に拡大したT細胞を指すために使用される。
【0051】
本発明の方法は、悪性T細胞のTRBCを決定することを伴う。これは、当技術分野で公知の方法を使用して実施することができる。例えば、これは、PCR、ウエスタンブロット、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法によって決定することができる。
【0052】
悪性T細胞によって発現されるTRBCが決定されたら、適切なTRBC1選択的作用因子またはTRBC2選択的作用因子を対象に投与する。「適切なTRBC選択的作用因子」とは、悪性T細胞がTRBC1を発現することが決定された場合にはTRBC1選択的作用因子を投与し、悪性T細胞がTRBC2を発現することが決定された場合にはTRBC2選択的作用因子を投与することを意味する。
【0053】
選択的作用因子
選択的作用因子は、TRBC1またはTRBC2のいずれかに相互排他的に結合する。
【0054】
上記の通り、各αβT細胞は、TRBC1またはTRBC2のいずれかを含むTCRを発現する。T細胞リンパ腫または白血病などのクローン性T細胞障害では、同じクローンに由来する悪性T細胞は全てTRBC1またはTRBC2のいずれかを発現する。
【0055】
したがって、本方法は、TRBC1選択的作用因子またはTRBC2選択的作用因子を対象に投与するステップを含み、当該作用因子により、悪性T細胞と、その悪性T細胞と同じTRBCを発現する正常T細胞との選択的な枯渇は引き起こされるが、その悪性T細胞とは他のTRBCを発現する正常T細胞の顕著な枯渇は引き起こされない。
【0056】
TRBC選択的作用因子により、悪性T細胞とは他のTRBCを発現する正常T細胞の顕著な枯渇は引き起こされないので、T細胞コンパートメント全体の枯渇は引き起こされない。対象のT細胞コンパートメント(すなわち、悪性T細胞と同じTRBCを発現しないT細胞)の割合を保持することにより、毒性が低下し、細胞性免疫不全および体液性免疫不全が低下し、それにより、感染のリスクが低下する。
【0057】
本発明の方法に従ってTRBC1選択的作用因子を投与することにより、TRBC1を発現するT細胞の5%、10%、20%、50%、75%、90%、95%または99%の枯渇、すなわち、数の減少をもたらすことができる。
【0058】
本発明の方法に従ってTRBC2選択的作用因子を投与することにより、TRBC2を発現するT細胞の5%、10%、20%、50%、75%、90%、95%または99%の枯渇、すなわち、数の減少をもたらすことができる。
【0059】
TRBC1選択的作用因子は、TRBC2よりも少なくとも2倍、4倍、5倍、7倍または10倍高い親和性でTRBC1に結合し得る。同様に、TRBC2選択的作用因子は、TRBC1よりも少なくとも2倍、4倍、5倍、7倍または10倍高い親和性でTRBC2に結合し得る。
【0060】
TRBC1選択的作用因子により、細胞集団においてTRBC2発現細胞よりも大きな割合のTRBC1発現T細胞の枯渇が引き起こされる。例えば、TRBC1発現T細胞の枯渇とTRBC2発現細胞の枯渇との比率は、少なくとも60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%または95%:5%である。同様に、TRBC2選択的作用因子により、細胞集団においてTRBC2発現細胞よりも大きな割合のTRBC1発現T細胞の枯渇が引き起こされる。例えば、TRBC2発現T細胞の枯渇とTRBC1発現細胞の枯渇との比率は、少なくとも60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%または95%:5%である。
【0061】
本発明の方法を使用すると、対象において、顕著な割合の健康なT細胞に影響を及ぼすことなく悪性T細胞が欠失する。「顕著な割合」とは、対象におけるT細胞機能を維持するために、悪性T細胞とは異なるTRBCを発現するT細胞が十分な割合で生存することを意味する。作用因子により、他のTCRBを発現するT細胞集団の20%未満、15%未満、10%未満または5%未満の枯渇が引き起こされ得る。
【0062】
選択的作用因子は、以下に列挙する残基を識別するので、TRBC1またはTRBC2のいずれかに対して選択的であり得る:
(i)TRBCの3位におけるNをKから識別;
(ii)TRBCの3位におけるKをNから識別;
(iii)TRBCの4位におけるKをNから識別;
(iv)TRBCの4位におけるNをKから識別;
(v)TRBCの36位におけるFをYから識別;
(vi)TRBCの36位におけるYをFから識別;
(vii)TRBCの135位におけるVをEから識別;および/または
(viii)TRBCの135位におけるEをVから識別。
【0063】
選択的作用因子は、上記の差異の任意の組合せを識別することができる。
【0064】
抗体
本発明の方法で使用する作用因子は、枯渇性モノクローナル抗体(mAb)もしくはその機能性断片、または抗体模倣物であってよい。
【0065】
「枯渇性抗体」という用語は、従来の意味で使用され、標的T細胞上に存在する抗原に結合し、標的T細胞の死滅を媒介する抗体に関する。したがって、枯渇性抗体を対象に投与することにより、対象内の標的抗原を発現する細胞の数の低下/減少がもたらされる。
【0066】
本明細書で使用される場合、「抗体」とは、少なくとも1つの相補性決定領域CDRを含む抗原結合部位を有するポリペプチドを意味する。抗体は、3つのCDRを含み、ドメイン抗体(dAb)のものと同等の抗原結合部位を有し得る。抗体は、6つのCDRを含み、古典的な抗体分子のものと同等の抗原結合部位を有し得る。ポリペプチドの残りは、抗原結合部位のための適切な足場をもたらし、抗原との結合のために適した様式でこれをディスプレイする任意の配列であってよい。抗体は、免疫グロブリン分子全体、または、Fab、F(ab)’2、Fv、単鎖Fv(scFv)断片またはナノボディなど、それらの一部であってよい。抗体は、二機能性抗体であってよい。抗体は、非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であってよい。
【0067】
したがって、抗体は、完全な抗体の抗原特異性を保持する任意の機能性断片であってよい。
【0068】
TRBC1選択的抗体
本発明の方法で使用するための作用因子は、以下の相補性決定領域(CDR):
VH CDR1:GYTFTGY(配列番号7);
VH CDR2:NPYNDD(配列番号8);
VH CDR3:GAGYNFDGAYRFFDF(配列番号9);
VL CDR1:RSSQRLVHSNGNTYLH(配列番号10);
VL CDR2:RVSNRFP(配列番号11);および
VL CDR3:SQSTHVPYT(配列番号12)
のうちの1つまたは複数を含む可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)を有する抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【0069】
1つまたは複数のCDRは、各々独立に、得られる抗体がTRBC1に選択的に結合する能力を保持するのであれば、配列番号7〜12で示される配列と比較して1つまたは複数のアミノ酸変異(例えば置換)を含んでもよく含まなくてもよい。
【0070】
試験により、CDR L3およびH3が抗原との高エネルギー相互作用に広く関与することが示されており、したがって、抗体またはその機能性断片は、上に概説されている通りVH CDR3および/またはVL CDR3を含んでよい。
【0071】
実施例12に記載の通り、ファージディスプレイを使用して、TRBC2よりもTRBC1に対して高度に選択的ないくつかの追加的な抗体結合ドメインが同定されている。
【0072】
当該作用因子は、表1に示されている相補性決定領域(CDR3)のうちの1つまたは複数を含む可変重鎖(VH)および/または可変軽鎖(VL)を有する抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【表1】
【0073】
当該作用因子がドメイン抗体である場合、3つのCDR、すなわち、VH CDR1〜CDR3またはVL CDR1〜CDR3のいずれかを含んでよい。
【0074】
当該作用因子は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する可変重鎖(VH)および配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する可変軽鎖(VL)を含む抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【化1】
【0075】
当該作用因子は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するScFvを含んでよい。
【化2】
【0076】
あるいは、当該作用因子は、
配列番号13〜22で示されるscFvのうちの1つからの
(i)重鎖CDR3および/もしくは軽鎖CDR3;
(ii)重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに/もしくは軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3;または
(iii)可変重鎖(VH)および/もしくは可変軽鎖(VL);
を含む抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【0077】
配列番号13〜22で示される配列では、配列のVH部分およびVL部分が太字で示されており、重鎖および軽鎖のCDR1配列およびCDR2配列に下線が引かれている。VHおよびVLのCDR3配列は表1に示されている。
【化3-1】
【化3-2】
【0078】
TRBC2特異的
実施例12に記載の通り、ファージディスプレイを使用して、TRBC1よりもTRBC2との結合に対して高度に選択的ないくつかの抗体結合ドメインが同定されている。
【0079】
当該作用因子は、表2に示されている相補性決定領域(CDR3)のうちの1つまたは複数を含む可変重鎖(VH)および/または可変軽鎖(VL)を有する抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【表2】
【0080】
当該作用因子は、
配列番号23〜32で示されるscFvのうちの1つからの
(i)重鎖CDR3および/もしくは軽鎖CDR3;
(ii)重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに/もしくは軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3;または
(iii)可変重鎖(VH)および/もしくは可変軽鎖(VL);
を含む抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【0081】
配列番号23〜32で示される配列では、配列のVH部分およびVL部分が太字で示されており、重鎖および軽鎖のCDR1配列およびCDR2配列に下線が引かれている。VHおよびVLのCDR3配列は表2に示されている。
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【0082】
上記のアミノ酸配列のバリアントも、得られる抗体がTRBC1またはTRBC2に結合し、顕著に交差反応しないのであれば、本発明において使用することができる。一般には、そのようなバリアントは、上記の配列のうちの1つと高程度の配列同一性を有する。
【0083】
比較のために配列をアラインメントする方法は当技術分野で周知である。
【0084】
NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)は、配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと関連して使用するために、National Center for Biotechnology Information(NCBI、Bethesda、Md.)を含めたいくつかの供給源から、およびインターネット上で利用可能である。このプログラムを使用して配列同一性をどのように決定するかについての記載は、インターネット上のNCBIウェブサイトで利用可能である。
【0085】
VLドメインまたはVHドメインまたはscFvのバリアントは、一般には、配列番号1〜3、13〜32で示される配列に対して少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0086】
一般には、バリアントは、元のアミノ酸配列または核酸配列と比較して1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を含有し得る。保存的置換とは、TRBC1またはTRBC2に結合する抗体の親和性に実質的に影響を及ぼさないまたはそれを低下させない置換である。例えば、TRBC1またはTRBC2に特異的に結合するヒト抗体は、配列番号1〜3または13〜32で示される配列のいずれかと比較して、VHまたはVLのいずれかまたはその両方の最大1個、最大2個、最大5個、最大10個、または最大15個の保存的置換を含んでよく、TRBC1またはTRBC2に対する特異的な結合を保持する。
【0087】
保存的置換によって交換することができる機能的に類似したアミノ酸は当業者には周知である。以下の6群は、互いに保存的置換とみなされるアミノ酸の例である:1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リシン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0088】
抗体の調製
抗体の調製は、標準の実験室技法を使用して実施することができる。抗体は、動物血清から得ることができ、あるいはモノクローナル抗体またはその断片の場合には、細胞培養物中で産生することができる。細菌または哺乳動物細胞培養物において、確立された手順に従って抗体を産生するために組換えDNA技術を使用することができる。
【0089】
モノクローナル抗体を産生するための方法は当技術分野で周知である。簡単に述べると、モノクローナル抗体は、一般には、骨髄腫細胞を、所望の抗原を用いて免疫したマウスまたはウサギ由来の脾臓細胞と融合させることによって作製される。本明細書では、所望の抗原はTRBC1ペプチドもしくはTRBC2ペプチド、またはTRBC1もしくはTRBC2のいずれかを含むTCRβ鎖である。
【0090】
あるいは、抗体および関連する分子、特にscFvは、VH鎖のライブラリーとVL鎖のライブラリーを組換え様式で組み合わせることによって免疫系の外で作製することができる。そのようなライブラリーは、実施例12に記載の通り、ファージディスプレイ技術を使用して構築し、スクリーニングすることができる。
【0091】
TRBC1/TRBC2選択的抗体の同定
TRBC1またはTRBC2のいずれかに対して選択的な抗体は、当技術分野における標準の方法を使用して同定することができる。抗体の結合特異性を決定するための方法としては、これだけに限定されないが、ELISA、ウエスタンブロット、免疫組織化学的検査、フローサイトメトリー、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)、ファージディスプレイライブラリー、酵母ツーハイブリッド法、免疫共沈降、二分子蛍光補完法およびタンデムアフィニティー精製が挙げられる。
【0092】
TRBC1またはTRBC2のいずれかに対して選択的な抗体を同定するために、抗体のTRBC1およびTRBC2の各々に対する結合を評価した。一般には、これは、抗体の各TRBCに対する結合を別々に決定することによって評価する。選択的な抗体は、TRBC1またはTRBC2のいずれかに、他のTRBCに顕著に結合することなく結合する。
【0093】
抗体模倣物
あるいは、作用因子は、免疫グロブリンに由来するものではないまたは免疫グロブリンに基づくものではない分子であってよい。非抗体ポリペプチドの結合能力を活用するためにいくつもの「抗体模倣」設計反復タンパク質(DRP)が開発されてきた。
【0094】
アンキリンまたはロイシンリッチ反復タンパク質などの反復タンパク質は、抗体とは異なり細胞内および細胞外に存在する遍在的な結合分子である。それらの独特のモジュラーアーキテクチャにより反復構造単位(反復)が特徴付けられ、それらが共に積み重なって可変性のモジュラー標的結合表面を提示する伸長した反復ドメインが形成される。このモジュール性に基づいて、高度に多様化した結合特異性を有するポリペプチドのコンビナトリアルライブラリーを生成することができる。DARPins(設計されたアンキリン反復タンパク質)はこの技術に基づく抗体模倣物の1つの例である。
【0095】
アンチカリン(anticalin)に関しては、結合特異性は、タンパク質のファミリーであるリポカリンに由来し、それは、化学的に感受性が高いまたは不溶性の化合物の生理的輸送および貯蔵に関連するin vivoにおけるある範囲の機能を果たす。リポカリンは、タンパク質の一末端において4つのループを支持する高度に保存されたβ−バレルを含むロバストな内因性構造を有する。結合ポケットへの入口のためのこれらのループおよび分子のこの部分におけるコンフォメーションの差異が、異なるリポカリン間で結合特異性が変動する原因になっている。
【0096】
アビマーは、ヒト細胞外受容体ドメインの大きなファミリーからin vitroにおけるエクソンシャッフリングおよびファージディスプレイにより進化させ、結合特性および阻害特性を有する複数ドメインタンパク質を生成したものである。
【0097】
バーサボディ(versabody)は、大多数のタンパク質に存在する疎水性コアを置き換えて、ジスルフィド密度の高い足場を形成するシステインを15%超有する3〜5kDaの小さなタンパク質である。疎水性コアを含む多数の疎水性アミノ酸を少数のジスルフィドで置き換えることにより、より小さく、より親水性であり、プロテアーゼおよび熱に対する抵抗性がより高く、T細胞エピトープの密度がより低いタンパク質がもたらされる。これら4つの性質の全てが、免疫原性が相当に低下したタンパク質をもたらす。それらは、E.coliにおいて製造することもでき、高度に可溶性かつ安定である。
【0098】
コンジュゲート
抗体または模倣物は、抗体または模倣物と、別の作用因子または抗体とのコンジュゲートであってよく、例えば、コンジュゲートは、検出可能な実体または化学療法用実体であってよい。
【0099】
検出可能な実体は、蛍光部分、例えば、蛍光ペプチドであってよい。「蛍光ペプチド」とは、励起後に検出可能な波長で光を放出するポリペプチドを指す。蛍光タンパク質の例としては、これだけに限定されないが、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強GFP、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)およびmCherryが挙げられる。
【0100】
検出可能な実体とコンジュゲートした選択的TRBC1またはTRBC2作用因子を使用して、悪性T細胞のTRBCを決定することができる。
【0101】
化学療法用実体とは、本明細書で使用される場合、細胞に対して破壊的である実体を指す、つまり、実体により細胞の生存能力が低下する。化学療法用実体は、細胞傷害性薬物であってよい。企図される化学療法剤としては、これだけに限定することなく、アルキル化剤、ニトロソウレア、エチレンイミン/メチルメラミン、スルホン酸アルキル、代謝拮抗薬、ピリミジン類似体、エピポドフィロトキシン(epipodophylotoxin)、L−アスパラギナーゼなどの酵素;IFNα、IL−2、G−CSFおよびGM−CSFなどの生物学的反応修飾物質;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金配位錯体、アントラセンジオン、ヒドロキシウレアなどの置換尿素、N−メチルヒドラジン(MIH)およびプロカルバジンを含めたメチルヒドラジン誘導体、ミトタン(o,p’−DDD)およびアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制薬;プレドニゾンおよび等価物などの副腎皮質ステロイドアンタゴニストを含めたホルモンおよびアンタゴニスト、デキサメタゾンおよびアミノグルテチミド;カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン;ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール等価物などのエストロゲン;タモキシフェンなどの抗エストロゲン薬;プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロン/等価物を含めたアンドロゲン;フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体およびロイプロリドなどの抗アントロゲン薬;ならびにフルタミドなどの非ステロイド性抗アントロゲン薬が挙げられる。
【0102】
化学療法用実体とコンジュゲートしたTRBC選択的作用因子により、TRBC1またはTRBC2のいずれかを発現する細胞に化学療法用実体を標的化送達することが可能になる。
【0103】
二重特異性T細胞エンゲージャー
抗体様結合ドメインを2つ有するという基本概念に基づく多種多様な分子が開発されてきた。
【0104】
二重特異性T細胞エンゲージ分子(Bispecific T−cell engaging molecule)は、主に抗がん薬として使用するために開発されてきた二重特異性抗体型分子のクラスである。これらは、宿主の免疫系、より具体的には、T細胞の細胞傷害活性をがん細胞などの標的細胞に対して方向付ける。これらの分子では、一方の結合ドメインがT細胞にCD3受容体を介して結合し、他方が腫瘍細胞などの標的細胞(腫瘍特異的分子を介して)に結合する。二重特異性分子は標的細胞およびT細胞の両方に結合するので、それにより標的細胞がT細胞と近づき、そうすることで、T細胞がその効果、例えば、がん細胞に対する細胞傷害効果を発揮することが可能になる。T細胞:二重特異性Ab:がん細胞複合体の形成により、T細胞におけるシグナル伝達が誘導され、それにより、例えば、細胞傷害性メディエーターの放出が導かれる。当該作用因子により標的細胞の存在下で所望のシグナル伝達のみが誘導され、選択的な死滅が導かれることが理想的である。
【0105】
二重特異性T細胞エンゲージ分子はいくつもの異なる構成で開発されてきたが、最も一般的なもののうちの1つは、異なる抗体の2つの単鎖可変断片(scFv)からなる融合物である。これらは、時には、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)として公知である。
【0106】
本発明の方法で使用する作用因子は、TRBC1またはTRBC2を選択的に認識し、T細胞を活性化することができる二重特異性分子であってよい。例えば、作用因子は、BiTEであってよい。方法において使用する作用因子は、
(i)TRBC1またはTRBC2のいずれかに結合する第1のドメイン;および
(ii)T細胞を活性化することができる第2のドメイン
を含んでよい。
【0107】
二重特異性分子は、その産生を補助するためにシグナルペプチドを含んでよい。シグナルペプチドにより、二重特異性分子を宿主細胞から分泌させることができ、そうすることで、二重特異性分子を宿主細胞上清から回収することができる。
【0108】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端にあってよい。二重特異性分子は、一般式:シグナルペプチド−第1のドメイン−第2のドメインを有してよい。
【0109】
二重特異性分子は、第1のドメインを第2のドメインと接続し、2つのドメインを空間的に分離するためのスペーサー配列を含んでよい。
【0110】
スペーサー配列は、例えば、IgG1ヒンジまたはCD8ストークを含んでよい。あるいは、リンカーは、長さおよび/またはドメイン間隔の性質がIgG1ヒンジまたはCD8ストークと同様である代替リンカー配列を含んでよい。
【0111】
二重特異性分子は、上で定義されたJOVI−1またはその機能性断片を含んでよい。
【0112】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体(CAR)は、キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体およびキメラ免疫受容体としても公知であり、任意の特異性を免疫エフェクター細胞に移植する、工学的に作製された受容体である。古典的CARでは、モノクローナル抗体の特異性がT細胞に移植されている。CARをコードする核酸を、例えば、レトロウイルスベクターを使用してT細胞に移入することができる。この方法では、養子細胞移入のための多数のがん特異的T細胞を生成することができる。この手法の第I相臨床試験では有効性が示されている。
【0113】
CARの標的抗原結合ドメインは、一般に、スペーサーおよび膜貫通ドメインを介して細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含むまたはそれと会合するエンドドメイン(endodomain)と融合させる。CARが標的抗原に結合すると、それを発現するT細胞に活性化シグナルが伝達される。
【0114】
本発明の方法で使用する作用因子は、TRBC1またはTRBC2を選択的に認識するCARであってよい。作用因子は、TRBC1またはTRBC2に選択的に認識するCARを発現するT細胞であってよい。
【0115】
CARは、膜にまたがる膜貫通ドメインも含んでよい。CARは、疎水性アルファヘリックスを含んでよい。膜貫通ドメインは、良好な受容体安定性をもたらす、CD28に由来するものであってよい。
【0116】
エンドドメインは、シグナル伝達に関与するCARの部分である。エンドドメインは、細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含むか、またはそれと会合する。抗原認識後、受容体が密集し、シグナルが細胞に伝達される。最も一般的に使用されるT細胞シグナル伝達成分は、3つのITAMを含有するCD3−ゼータのものである。これにより、抗原が結合した後、活性化シグナルがT細胞に伝達される。CD3−ゼータからは完全にコンピテントな活性化シグナルはもたらされず、追加的な共刺激シグナルが必要な場合がある。例えば、増殖/生存シグナルを伝達するためにキメラCD28およびOX40をCD3−ゼータと一緒に使用することができる、または3つ全てを一緒に使用することができる。
【0117】
CARのエンドドメインは、CD28エンドドメインおよびOX40およびCD3−ゼータエンドドメインを含んでよい。
【0118】
CARは、シグナルペプチドを含んでよく、そうすることで、CARがT細胞などの細胞の内部で発現すると、新生タンパク質が小胞体、その後、それが発現されている細胞表面に方向付けられる。
【0119】
CARは、TRBC結合ドメインを膜貫通ドメインに接続し、TRBC結合ドメインをエンドドメインから空間的に分離するためにスペーサー配列を含んでよい。柔軟なスペーサーにより、TRBC結性ドメインを異なる方向に向かせてTRBCとの結合を可能とすることが可能になる。
【0120】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジもしくはCD8ストーク、またはこれらの組合せを含んでよい。あるいは、リンカーは、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8ストークと長さおよび/またはドメイン間隔の性質が同様である代替リンカー配列を含んでよい。
【0121】
IgG1ヒンジまたはCD8ストークに基づくスペーサーを含むCARにより、ジャーカット細胞に対する最良の性能が示される(
図15)ことが見いだされた。したがって、スペーサーはIgG1ヒンジまたはCD8ストークを含んでもよく、これはIgG1ヒンジまたはCD8ストークと長さおよび/またはドメイン間隔の性質が同様であってもよい。
【0122】
ヒトIgG1スペーサーは、Fc結合モチーフが除去されるように変更することができる。
【0123】
CARは、上で定義されたJOVI−1抗体またはその機能性断片を含んでよい。
【0124】
CARは、配列番号33、34および35からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでよい。
【化5-1】
【化5-2】
【0125】
上記のCAR配列では、6つのCDRのうちの1つまたは複数は、各々独立に、得られるCARがTRBC1に結合する能力を保持するのであれば、配列番号7〜12で示される配列と比較して1つまたは複数のアミノ酸変異(例えば置換)を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0126】
上記のアミノ酸配列のバリアントも、得られるCARがTRBC1またはTRBC2に結合し、顕著に交差反応しないのであれば、本発明において使用することができる。一般には、そのようなバリアントは、配列番号33、34または35で示される配列のうちの1つに対して高程度の配列同一性を有する。
【0127】
CARのバリアントは、一般には、配列番号33、34および35で示される配列のうちの1つに対して少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0128】
核酸
本発明は、BiTEまたは本発明の第1の態様のCARなどの作用因子をコードする核酸をさらに提供する。
【0129】
核酸配列は、配列番号33、34および35で示されるアミノ酸配列のうちの1つを含むCARをコードし得る。
【0130】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、互いに同義であるものとする。
【0131】
遺伝暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードする可能性があることが当業者には理解される。さらに、当業者は、ポリペプチドを発現する任意の特定の宿主生物体のコドン使用を反映するために、常套的な技法を使用して本明細書に記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行うことができることが理解されるべきである。
【0132】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含んでもよい。核酸は一本鎖であっても二本鎖であってもよい。それは、合成または修飾されたヌクレオチドをその中に含むポリヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチドに対するいくつもの異なる型の修飾が当技術分野で公知である。これらとしては、メチルホスホネート骨格およびホスホロチオエート骨格、分子の3’末端および/または5’末端へのアクリジン鎖またはポリリシン鎖の付加が挙げられる。本明細書に記載の通り使用するために、当技術分野において利用可能な任意の方法によってポリヌクレオチドを修飾できることが理解されるべきである。そのような修飾は、目的のポリヌクレオチドのin vivoにおける活性または寿命を増強するために行うことができる。
【0133】
ヌクレオチド配列と関連した「バリアント」、「相同体」または「誘導体」という用語は、配列からまたは配列への1つ(または複数)の核酸の任意の置換、変動、修飾、置き換え、欠失または付加を含む。
【0134】
ベクター
本発明は、本発明の1つまたは複数の核酸配列を含むベクター、またはベクターのキットも提供する。そのようなベクターを使用して核酸配列を宿主細胞に導入し、そうすることで宿主細胞に本発明の第1の態様に記載のCARを発現させることができる。
【0135】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはレトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクター、またはトランスポゾンに基づくベクターまたは合成mRNAであってよい。
【0136】
ベクターは、T細胞またはNK細胞にトランスフェクトまたは形質導入することができるものであってよい。
【0137】
細胞
本発明は、本発明の第1の態様にしたがうCARを含む免疫細胞などの細胞にも関する。
【0138】
細胞は、本発明の核酸またはベクターを含んでよい。
【0139】
細胞は、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞であってよい。
【0140】
T細胞は、細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球の一種であるT細胞またはTリンパ球であってよい。これらは、細胞表面上にT細胞受容体(TCR)が存在することにより、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球と区別することができる。下に要約されている通り、種々の型のT細胞が存在する。
【0141】
ヘルパーT細胞(TH細胞)は、B細胞の形質細胞およびメモリーB細胞への成熟化、ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含めた免疫学的プロセスにおいて他の白血球を補助する。TH細胞は、表面上にCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上のMHCクラスII分子によってペプチド抗原が提示されると活性化される。これらの細胞は、異なる型の免疫応答を促進するような異なるサイトカインを分泌する、TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFHを含めたいくつかの亜型のうちの1つに分化し得る。
【0142】
細胞溶解性T細胞(TC細胞、またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また、移植拒絶にも関係づけられる。CTLは、表面上にCD8を発現する。これらの細胞は、全ての有核細胞の表面上に存在するMHCクラスIに付随する抗原に結合することによってそれらの標的を認識する。調節性T細胞から分泌されるIL−10、アデノシンおよび他の分子を通じて、CD8+細胞を不活性化してアネルギーの状態にすることができ、それにより、実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患を予防する。
【0143】
メモリーT細胞は、感染が消散した後、長期間存続する抗原特異的T細胞のサブセットである。これらは、同族抗原に再曝露されると直ちに増大して多数のエフェクターT細胞になり、そうすることで、過去の感染に対する「メモリー」による免疫系をもたらす。メモリーT細胞は、3つの亜型:セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)およびエフェクターメモリーT細胞の2つの型(TEM細胞およびTEMRA細胞)を含む。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。メモリーT細胞は、一般には、細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0144】
調節性T細胞(Treg細胞)は、以前はサプレッサーT細胞として公知であり、免疫寛容を維持するために極めて重要である。それらの主要な役割は、T細胞媒介性免疫をシャットダウンして免疫反応の終わりに向かわせること、および胸腺における負の選択のプロセスを免れた自己反応性T細胞を抑制することである。
【0145】
2種の主要なクラスのCD4+Treg細胞が記載されている−天然に存在するTreg細胞および適応性Treg細胞。
【0146】
天然に存在するTreg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても公知)は、胸腺において生じ、発達中のT細胞と、TSLPで活性化された骨髄樹状細胞(CD11c+)および形質細胞様樹状細胞(CD123+)との間の相互作用に関連付けられている。天然に存在するTreg細胞は、FoxP3と称される細胞内分子が存在することにより、他のT細胞と区別することができる。FOXP3遺伝子の変異により、調節性T細胞の発生が妨げられ、それにより、致死的な自己免疫疾患IPEXが引き起こされる可能性がある。
【0147】
適応性Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても公知)は、正常な免疫応答の間に生じる可能性がある。
【0148】
細胞は、ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)であってよい。NK細胞は、自然免疫系の一部を形成する。NK細胞により、ウイルス感染細胞からの生得的なシグナルに対する迅速な応答がMHC非依存的にもたらされる。
【0149】
NK細胞(生得的なリンパ系細胞の群に属する)は、大型顆粒リンパ球(LGL)と定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生成する共通のリンパ系前駆細胞から分化する第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺において分化および成熟し、次いでそこから循環中に入ることが公知である。
【0150】
本発明のCAR細胞は、上記の細胞型のいずれであってもよい。
【0151】
本発明の第1の態様にしたがうCARを発現するT細胞またはNK細胞は、患者自身の末梢血(第一者)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況で(第二者)、または無関係のドナー由来の末梢血(第三者)のいずれかからex vivoで創出することができる。
【0152】
あるいは、本発明の第1の態様にしたがうCARを発現するT細胞またはNK細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のT細胞またはNK細胞へのex vivoにおける分化から誘導されてもよい。あるいは、その溶解機能を保持し、治療薬としての機能を果たし得る不死化T細胞株を使用することができる。
【0153】
これらの実施形態の全てにおいて、CAR細胞は、ウイルスベクターを用いた形質導入、DNAまたはRNAを用いたトランスフェクションを含めた多くの手段のうちの1つによってCARをコードするDNAまたはRNAを導入することにより生成される。
【0154】
本発明のCAR細胞は、対象に由来するex vivoのT細胞またはNK細胞であってよい。T細胞またはNK細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)試料に由来するものであってよい。T細胞またはNK細胞は、本発明の第1の態様にしたがうCARをコードする核酸を用いて形質導入する前に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体を用いて処理することによって活性化および/または増大させることができる。
【0155】
本発明のT細胞またはNK細胞は、
(i)対象または上に列挙されている他の供給源由来のT細胞またはNK細胞を含有する試料の単離;および
(ii)T細胞またはNK細胞へに本発明のCARをコードする核酸配列の形質導入またはトランスフェクト
によって作製することができる。
【0156】
次いで、T細胞またはNK細胞を、精製、例えば、抗原結合ポリペプチドの抗原結合ドメインの発現に基づいて選択することができる。
【0157】
本発明は、本発明の第1の態様にしたがうCARを含むT細胞またはNK細胞を含むキットも提供する。
【0158】
医薬組成物
本発明は、本発明の第1の態様のCARを発現する複数の細胞を含有する医薬組成物にも関する。医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤をさらに含んでよい。医薬組成物は、任意選択で、1つまたは複数のさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含んでよい。そのような製剤は、例えば、静脈内注入に適した形態であってよい。
【0159】
T細胞リンパ腫および/または白血病
本発明は、T細胞リンパ腫および/または白血病を処置するための作用因子、細胞および方法に関する。
【0160】
T細胞リンパ腫および/または白血病を処置するための方法は、作用因子の処置的使用に関する。本明細書では、疾患に伴う少なくとも1つの症状を和らげる、軽減または改善するため、および/または疾患の進行を遅らせる、軽減または遮断するために、T細胞リンパ腫および/または白血病の現存する疾患を有する対象に作用因子を投与することができる。
【0161】
本発明の方法は、β定常領域を含むT細胞受容体(TCR)を発現する細胞のクローン性増大に関連する任意のリンパ腫および/または白血病を処置するために使用することができる。そのように、本発明は、TRBCを含むTCRを発現する悪性T細胞を伴う疾患を処置する方法に関する。
【0162】
本発明の方法は、悪性T細胞がTRBCを含むTCRを発現するT細胞リンパ腫を処置するために使用することができる。「リンパ腫」とは、本明細書では、その標準の意味に従って使用され、一般には、リンパ節において発生するが、脾臓、骨髄、血液および他の器官にも影響を及ぼす可能性があるがんを指す。リンパ腫は、一般には、リンパ系細胞の固形腫瘍として存在する。リンパ腫に関連する一次性症状はリンパ節腫脹であるが、二次性(B)症状として、発熱、寝汗、体重減少、食欲の喪失、疲労、呼吸窮迫およびそう痒を挙げることができる。
【0163】
本発明の方法は、悪性T細胞がTRBCを含むTCRを発現するT細胞白血病を処置するために使用することができる。「白血病」とは、本明細書では、その標準の意味に従って使用され、血液または骨髄のがんを指す。
【0164】
以下は、本発明の方法によって処置することができる疾患の例示的な、包括的ではない一覧である。
【0165】
末梢性T細胞リンパ腫
末梢性T細胞リンパ腫は、比較的稀なリンパ腫であり、全ての非ホジキンリンパ腫(NHL)の10%未満を占める。しかし、それらは侵攻性の臨床経過を伴い、大多数のT細胞リンパ腫の原因および正確な細胞起源は未だ十分に定義されていない。
【0166】
リンパ腫は、通常、まず頸部、脇の下または鼠径部の腫脹として現れる。例えば脾臓内など、他のリンパ節が位置する場所に追加的な腫脹が生じる可能性がある。一般に、腫大したリンパ節は、血管、神経、または胃の空間を侵害し、それぞれ腕および脚の膨張、刺痛およびしびれ、または満腹感が生じる可能性がある。リンパ腫の症状としては、発熱、悪寒、不明の体重減少、寝汗、嗜眠、およびそう痒などの非特異的な症状も挙げられる。
【0167】
WHO分類では、末梢性T細胞リンパ腫に関して予後および治療に意味のあるカテゴリー化を詳細に説明するために、形態的特徴および免疫表現型特徴と、臨床的態様およびいくつかの症例では遺伝学を併せて利用する(Swerdlowら;WHO classification of tumours of haematopoietic and lymphoid tissues. 第4版;Lyon:IARC Press;2008年)。腫瘍性T細胞の解剖学的局在化は、一部において、それらの提唱された正常細胞対応物および機能と並行し、そのため、T細胞リンパ腫はリンパ節および末梢血に関連する。この手法により、細胞分布、形態のいくつかの態様、さらには関連する臨床所見を含めた、T細胞リンパ腫の顕在化のいくつかをよりよく理解することが可能になる。
【0168】
最も一般的なT細胞リンパ腫は、特定不能末梢性T細胞リンパ腫(PTCL−NOS)であり、これが全体の25%を占め、その次に血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫(AITL)(18.5%)が続く。
【0169】
特定不能末梢性T細胞リンパ腫(PTCL−NOS)
PTCL−NOSは、全ての末梢性T細胞リンパ腫およびNK/T細胞リンパ腫の25%超を占め、最も一般的な亜型である。これは、除外診断によって決定され、現行のWHO 2008に列挙されている特定の成熟T細胞リンパ腫実体のいずれにも対応しない。そのため、これは、特定不能びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL−NOS)と類似している。
【0170】
大多数の患者は成人であり、年齢の中央値は60歳であり、男女比は2:1である。大多数の症例は結節起源であるが、患者のおよそ13%で結節外症状が生じ、最も一般的には皮膚および胃腸管が関与する。
【0171】
細胞学的スペクトルは非常に広範であり、多形から単一形までにわたる。リンパ類上皮(レンネルト)バリアント、Tゾーンバリアントおよび濾胞バリアントを含めた、3つの形態学的に定義されたバリアントが記載されている。PTCLのリンパ類上皮バリアントは、豊富なバックグラウンド類上皮細胞組織球を含有し、一般にCD8について陽性である。それは、より良い予後と関連付けられている。PTCL−NOSの濾胞バリアントは、潜在的に別個の臨床病理学的実体として出現し始めている。
【0172】
大多数のPTCL−NOSは成熟T細胞表現型を有し、大多数の症例はCD4陽性である。症例の75%で少なくとも1つの汎T細胞マーカー(CD3、CD2、CD5またはCD7)の可変性の喪失が示され、CD7およびCD5は、最もしばしば下方制御される。CD30および稀にCD15が発現する場合があり、CD15は有害な予後の特徴である。CD56発現も、稀であるが、負の予後の影響を有する。追加的な有害な病理的予後因子としては、KI−67発現に基づいて増殖率が25%を超えること、および形質転換された細胞が70%超存在することが挙げられる。これらのリンパ腫の免疫表現分析からもたらされるそれらの生物学への洞察はわずかである。
【0173】
血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)
AITLは、リンパ節が関与する多形浸潤、顕著な高内皮細静脈(HEV)および濾胞樹状細胞(FDC)網目構造の血管周囲増大を特徴とする全身性疾患である。AITLは、通常は胚中心において見いだされる、濾胞ヘルパー型のαβT細胞(TFH)に由来するデノボのT細胞リンパ腫と考えられる。
【0174】
AITLは、末梢性T細胞リンパ腫およびNK/T細胞リンパ腫の中で2番目に一般的な実体であり、症例の約18.5%を占める。それは、中年〜高齢の成人において生じ、年齢の中央値は65歳であり、発生率は男性と女性でほぼ同等である。臨床的に、患者は、通常、全身リンパ節腫脹、肝脾腫および顕著な体質性症状を伴う進行期疾患を有する。そう痒を伴う皮疹が一般に存在する。多くの場合、自己免疫性現象に関連したポリクローナル高ガンマグロブリン血症が存在する。
【0175】
AITLでは3つの異なる形態的パターンが記載されている。AITLの初期病変(パターンI)では、通常、特徴的な過形成性卵胞を伴う保存されたアーキテクチャが示される。腫瘍性増殖が卵胞の末梢に局在している。パターンIIでは、結節のアーキテクチャが部分的に消滅し、わずかに退行した卵胞が保持される。被膜下洞は保存され、さらには拡大する。傍皮質は分枝HEVを含有し、B細胞卵胞を超えてFDCが増殖する。新生物細胞は小〜中サイズであり、細胞学的な非定型性は最小である。それは、多くの場合、澄明〜ぼんやりした細胞質を有し、はっきりした細胞膜を示し得る。通常は多形炎症性バックグラウンドが明らかである。
【0176】
AITLはT細胞悪性腫瘍であるが、B細胞および形質細胞が特徴的に増大し、これは、新生物細胞のTFH細胞としての機能を反映すると思われる。EBV陽性B細胞およびEBV陰性B細胞が両方存在する。場合によって、非定型B細胞はホジキン/リード・シュテルンベルク様細胞と形態学的におよび免疫表現型的に類似するときがあり、時には、その実体との診断的錯乱が生じる。AITLにおけるB細胞増殖は広範囲にわたる可能性があり、一部の患者では二次性EBV陽性びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)またはより稀にEBV陰性B細胞腫瘍が発生し、多くの場合、形質細胞性分化を伴う。
【0177】
AITLの腫瘍性CD4陽性T細胞は、CD10およびCD279(PD−1)の強力な発現を示し、そして、CXCL13について陽性である。CXCL13により、HEVへの接着を介したリンパ節へのB細胞動員の増加、B細胞活性化、形質細胞性分化およびFDC網目構造の増大が導かれ、これらは全て、AITLの形態的特徴および臨床的特徴に寄与する。濾胞周囲の腫瘍細胞における強いPD−1発現が、AITLパターンIと反応性濾胞および傍皮質過形成との区別に特に役立つ。
【0178】
PTCL−NOSの濾胞バリアントは、TFH表現型を有する別の実体である。AITLと対比して、それは、顕著なHEVまたはFDC網目構造の濾胞外増大を有しない。新生物細胞が、B細胞濾胞性リンパ腫を模倣する濾胞内凝集体を形成する可能性があるが、濾胞間の成長パターンを有するまたは外套帯の増大を伴う可能性もある。臨床的に、PTCL−NOSの濾胞バリアントは、患者が部分的なリンパ節の関与を伴う初期疾患を示す頻度がより多く、そしてAITLに関連する体質性症状がない場合があるので、AITLとは別個のものである。
【0179】
未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)
ALCLは、ALCL−「未分化リンパ腫キナーゼ」(ALK)+またはALCL−ALK−に細分され得る。
【0180】
ALCL−ALK+は、末梢性T細胞リンパ腫の中で最もよく定義された実体の1つであり、蹄鉄形の核を有し、ALKおよびCD30を発現する特徴的な「特質細胞」を有する。それは、全ての末梢性T細胞およびNK−細胞リンパ腫の約7%を占め、人生の最初の30年で最も一般的なものである。患者は、多くの場合リンパ節腫脹を示すが、結節外の部位(皮膚、骨、軟部組織、肺、肝臓)への関与およびB症状が一般的である。
【0181】
ALCL、ALK+は広い形態スペクトルを示し、5つの異なるパターンが記載されているが、全てのバリアントが何らかの特質細胞を含有する。特質細胞は偏心性の蹄鉄形または腎臓形の核、および顕著な核周囲の好酸性ゴルジ領域を有する。腫瘍細胞は、洞関与に偏好した粘着性パターンで成長する。小細胞バリアントではより小さな腫瘍細胞が優性であり、リンパ組織球性バリアントでは、豊富な組織球により腫瘍細胞の存在が遮蔽され、その多くが小さなものである。
【0182】
定義によれば、全症例でALKおよびCD30陽性が示され、発現は、通常はより小さな腫瘍細胞においてより弱い。多くの場合、汎T細胞マーカーが欠如し、症例の75%でCD3の表面発現が欠如している。
【0183】
ALK発現は、キメラタンパク質の発現をもたらす、第2染色体p23上のALK遺伝子の、多くのパートナー遺伝子のうちの1つへの再構成からなる特徴的な再発性遺伝子変更の結果である。症例の75%において生じる最も一般的なパートナー遺伝子は、第5染色体q35上のヌクレオフォスミン(NPM1)であり、t(2;5)(p23;q35)をもたらす。異なる転座バリアントにおけるALKの細胞分布は、パートナー遺伝子に応じて変動し得る。
【0184】
ALCL−ALK−は、2008 WHO分類に暫定的なカテゴリーとして含まれる。それは、粘着性成長パターンおよび特質細胞の存在を伴い、形態学的にはALCL−ALK+と区別できないが、ALKタンパク質の発現を欠くCD30陽性T細胞リンパ腫と定義される。
【0185】
患者は、通常、40歳から65歳の間の成人であり、これは、小児および若年成人においてより一般的であるALCL−ALK+とは対照的である。ALCL−ALK−では、リンパ節および結節外組織のどちらも関与する可能性があるが、後者はALCL−ALK+において見られるよりも一般的でない。ALCL−ALK−の大多数の症例で、典型的な「特質」特徴を有する粘着性新生物細胞のシートによるリンパ節アーキテクチャの消滅が実証される。ALCL−ALK+とは対照的に、小細胞形態バリアントは認識されていない。
【0186】
ALCL−ALK−では、そのALK+対応物とは異なり、表面T細胞マーカー発現のより大きな保存が示されるが、細胞傷害性マーカーおよび上皮膜抗原(EMA)の発現は可能性がより低い。遺伝子発現シグネチャおよび再発性染色体不均衡はALCL−ALK−とALCL−ALK+とで異なり、これらが分子レベルおよび遺伝子レベルで別個の実体であることが確認される。
【0187】
ALCL−ALK−は、ALCL−ALK+およびPTCL−NOSのどちらとも臨床的に別個のものであり、これらの3つの異なる実体で予後に顕著な差がある。ALCL−ALK−の5年全生存率は49%と報告されており、これはALCL−ALK+の5年全生存率(70%)ほど良好ではないが、同時に、PTCL−NOSの5年全生存率(32%)よりも顕著に良好である。
【0188】
腸疾患関連T細胞リンパ腫(EATL)
EATLは、腸の上皮内T細胞に由来すると考えられる侵攻性新生物である。2008
WHO分類ではEATLの形態学的、免疫組織化学的かつ遺伝学的に別個の型が2種類認識されている:I型(大多数のEATLを表す)およびII型(症例の10〜20%を占める)。
【0189】
I型EATLは、通常、顕性または臨床的に無症候性のグルテン過敏性腸症を伴い、北欧人血統の患者において見られることがより多く、これは、この集団ではセリアック症の分布率が高いことに起因する。
【0190】
最も一般的に、EATLの病変は空腸または回腸において見られ(症例の90%)、稀に十二指腸、結腸、胃、または胃腸管の外部の領域において現れる。腸の病変は通常は多巣性であり、粘膜の潰瘍形成を伴う。EATLの臨床経過は侵攻性であり、大多数の患者が疾患または疾患の合併症で1年以内に死亡する。
【0191】
EATL I型の細胞学的スペクトルは広範であり、いくつかの症例は未分化の細胞を含有する場合がある。いくつかの症例では、腫瘍性成分を不明瞭にさせ得る多形炎症性バックグラウンドが存在する。腫瘍に隣接する領域内の腸粘膜は、多くの場合、病変性前駆細胞を表し得る絨毛の平滑化および上皮内リンパ球(IEL)の数の増加を伴うセリアック症の特徴を示す。
【0192】
免疫組織化学によると、新生物細胞は、多くの場合、CD3+CD4−CD8−CD7+CD5−CD56−βF1+であり、細胞傷害性顆粒関連タンパク質(TIA−1、グランザイムB、パーフォリン)を含有する。ほとんど全ての症例でCD30が部分的に発現される。粘膜ホーミング受容体であるCD103がEATLで発現される可能性がある。
【0193】
II型EATLは、単形性CD56+腸T細胞リンパ腫とも称され、CD8とCD56との両方を発現する小〜中型の単形性T細胞で構成される腸の腫瘍と定義される。多くの場合、粘膜内で腫瘍が側方拡散し、炎症性バックグラウンドは存在しない。大多数の症例でγδTCRが発現されるが、αβTCRを伴う症例もある。
【0194】
II型EATLは、I型EATLよりも世界的に分布しており、多くの場合、セリアック症が稀であるアジア人またはラテンアメリカ系集団において見られる。ヨーロッパ血統の個体では、EATL、IIは腸T細胞リンパ腫の約20%を表し、症例の少なくともサブセットにおいてセリアック症の病歴を伴う。臨床経過は侵攻性である。
【0195】
肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)
HSTLは、一般に自然免疫系のγδ細胞傷害性T細胞に由来する侵攻性の全身性新生物であるが、稀な症例ではαβT細胞に由来することもあり得る。これは最も稀なT細胞リンパ腫の1つであり、一般には、青年および若年成人(年齢の中央値、35歳)に影響を及ぼし、強力に男性優性である。
【0196】
節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型
節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型は、侵攻性疾患であり、多くの場合、破壊的な正中病変および壊死を伴う。大多数の症例はNK細胞に由来するが、いくつかの症例は細胞傷害性T細胞に由来する。これは、普遍的にエプスタイン・バーウイルス(EBV)に関連する。
【0197】
皮膚T細胞リンパ腫
本発明の方法は、皮膚T細胞リンパ腫を処置するためにも使用することができる。
【0198】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)は、悪性T細胞の皮膚への遊走を特徴とし、これにより種々の病変が出現する。これらの病変は疾患が進行するにつれて形状が変化し、一般には、発疹と思われるもので始まり、最終的にプラークおよび腫瘍が形成された後、体の他の部分に転移する。
【0199】
皮膚T細胞リンパ腫としては、以下の例示的な、包括的ではない一覧に記載されるものが挙げられる;菌状息肉腫、パジェット様細網症、セザリー症候群、肉芽腫様弛緩皮膚、リンパ腫様丘疹症、慢性苔癬状粃糠疹、CD30+皮膚T細胞リンパ腫、続発性皮膚CD30+大細胞型リンパ腫、非菌状息肉腫CD30−皮膚大T細胞リンパ腫、多形T細胞リンパ腫、レンネルトリンパ腫、皮下T細胞リンパ腫および血管中心性リンパ腫。
【0200】
CTCLの徴候および症状は、特定の疾患に応じて変動し、そのうち2つの最も一般的な型は菌状息肉腫およびセザリー症候群である。古典的な菌状息肉腫は3つの病期:
斑(萎縮性または非萎縮性):非特異的皮膚炎、体幹下部および臀部の斑;そう痒が最小/存在しない;
プラーク:強いそう痒性プラーク、リンパ節腫脹;および
腫瘍:潰瘍形成易発性
に分けられる。
【0201】
セザリー症候群は、紅皮症および白血病によって定義される。徴候および症状としては、浮腫状皮膚、リンパ節腫脹、手掌および/または足底の角質増殖、脱毛症、爪ジストロフィー、外反および肝脾腫が挙げられる。
【0202】
全ての原発性皮膚リンパ腫の中で、65%がT細胞型である。最も一般的な免疫表現型はCD4陽性である。皮膚T細胞リンパ腫という用語には多種多様な障害が包含されるので、これらの疾患には共通の病態生理は存在しない。
【0203】
皮膚T細胞リンパ腫(すなわち、菌状息肉腫)の発生についての一次的な病因機構は解明されていない。菌状息肉腫には、T細胞媒介性慢性炎症性皮膚疾患が先行する可能性があり、これは、場合によって、致死性リンパ腫に進行する場合がある。
【0204】
原発性皮膚ALCL(C−ALCL)
C−ALCLは、多くの場合、形態ではALC−ALK−と区別できない。これは、細胞の75%超がCD30を発現する未分化形態、多形性形態または免疫芽球性形態の大細胞の皮膚腫瘍と定義される。リンパ腫様丘疹症(LyP)と共に、C−ALCLは一次皮膚CD30陽性T細胞リンパ球増殖性障害のスペクトルに属し、これは群として、菌状息肉腫の次に2番目に多い皮膚T細胞リンパ球増殖の群を含む。
【0205】
免疫組織化学的染色プロファイルは、ALCL−ALK−とかなり類似しており、細胞傷害性マーカーについて染色陽性である症例の割合がより大きい。腫瘍細胞の少なくとも75%がCD30について陽性のはずである。CD15も発現し、そして、リンパ節の関与が生じた場合、古典的なホジキンリンパ腫との弁別が難しい可能性がある。ALCL−ALK+の稀な症例は、局在する皮膚病変を示す可能性があり、そしてC−ALCLと類似する可能性がある。
【0206】
T細胞急性リンパ芽球性白血病
T細胞急性リンパ芽球性白血病(T−ALL)は、小児コホートのALLの約15%を占め、成人コホートのALLの約25%を占める。患者は、通常、高白血球数を有し、そして臓器肥大、特に縦隔肥大およびCNSの関与を示す可能性がある。
【0207】
本発明の方法は、TRBCを含むTCRを発現する悪性T細胞に関連するT−ALLを処置するために使用することができる。
【0208】
T細胞前リンパ球性白血病
T細胞前リンパ球性白血病(T−PLL)は、侵攻性の挙動ならびに血液、骨髄、リンパ節、肝臓、脾臓、および皮膚の関与への偏好を伴う成熟T細胞白血病である。T−PLLは、主に30歳を超える成人に影響を及ぼす。他の名称として、T細胞慢性リンパ球性白血病、「こぶ状」型T細胞白血病、およびT前リンパ球性白血病/T細胞リンパ球性白血病が挙げられる。
【0209】
末梢血では、T−PLLは、場合によってブレブまたは突起を伴う単一の核小体および好塩基性細胞質を有する中型リンパ球からなる。核は、通常、丸形から卵形の形状であり、患者は場合によって、セザリー症候群において見られる大脳様核形状と同様の、核の輪郭がより不規則な細胞を有する。小細胞バリアントは全てのT−PLL症例の20%を占め、セザリー細胞様(大脳様)バリアントは症例の5%に見られる。
【0210】
T−PLLは成熟(胸腺後)Tリンパ球の免疫表現型を有し、新生物細胞は、一般には汎T抗原CD2、CD3、およびCD7について陽性であり、TdTおよびCD1aについては陰性である。免疫表現型CD4+/CD8−は症例の60%に存在し、CD4+/CD8+免疫表現型は25%に存在し、CD4−/CD8+免疫表現型は症例の15%に存在する。
【0211】
医薬組成物
本発明の方法は、当該作用因子を医薬組成物の形態で投与するステップを含み得る。
【0212】
作用因子は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントと共に投与することができる。医薬担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図された投与経路および標準の薬務に関して選択される。医薬組成物は、担体、賦形剤または希釈剤として(またはそれに加えて)、任意の適切な結合物質、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤、および他の担体剤を含んでよい。
【0213】
投与
当該作用因子の投与は、活性成分が生物により利用可能になるような種々の経路のいずれかを使用して実現することができる。例えば、当該作用因子は、経口経路および非経口経路によって、腹腔内に、静脈内に、皮下に、経皮的に、筋肉内に、局所送達によって、例えばカテーテルまたはステントによって投与することができる。
【0214】
一般には、個々の対象に最も適した実際の投与量は医師により決定され、投与量は、特定の患者の年齢、体重および応答によって変動する。投与量は、TRBC1またはTRBC2のいずれかを発現するクローン性T細胞の数を減少または枯渇させるために十分であるようなものである。
【0215】
使用
本発明は、第1の態様の方法に従ったT細胞リンパ腫の処置において使用するための作用因子も提供する。作用因子は上で定義された任意の作用因子であってよい。
【0216】
本発明は、第1の態様の方法に従ったT細胞リンパ腫の処置のための医薬の製造における、上で定義された作用因子の使用にも関する。
【0217】
キット
本発明は、第1の態様の方法に従ったT細胞リンパ腫の処置において使用するための、上で定義された作用因子を含むキットをさらに提供する。
【0218】
キットは、悪性T細胞のTRBCを決定するために適した試薬も含んでよい。例えば、キットは、TRBC1またはTRBC2のいずれかに特異的なPCRプライマーまたは抗体を含んでよい。
【0219】
T細胞リンパ腫および/または白血病を決定するための方法
本発明は、さらに、対象におけるT細胞リンパ腫または白血病の存在を決定するための方法であって、対象由来の試料中のTRBC1陽性またはTRBC2陽性のいずれかであるT細胞の割合を決定するステップを含む方法に関する。
【0220】
T細胞リンパ腫は、個々の悪性T細胞のクローン性増大を伴う。そのため、患者由来の試料中のTRBC1 T細胞またはTRBC2 T細胞のいずれかの割合を決定することによって、対象におけるT細胞リンパ腫の存在を同定することができる。
【0221】
試料は、末梢血試料、リンパ液試料または腫瘍から直接取得した試料、例えば、生検試料であってよい。
【0222】
T細胞リンパ腫または白血病の存在を示す、TRBC1陽性またはTRBC2陽性である総T細胞の割合は、例えば、総細胞集団の80%、85%、90%、95%、98%または99%であってよい。
【0223】
方法は、生検材料または試料中の別個のT細胞集団による浸潤を決定するステップを伴ってよい。本明細書では、T細胞リンパ腫または白血病の存在は、試料中のT細胞の総集団の80%、85%、90%、95%、98%または99%がTRBC1またはTRBC2のいずれかである場合に示される。
【0224】
試料中の総T細胞は、CD3、CD4、CD8および/またはCD45を発現する試料中の細胞の数を決定することによって同定することができる。これらのマーカーの組合せも使用することができる。
【0225】
TRBC1またはTRBC2のいずれかを発現する試料中の総T細胞の割合は、当技術分野で公知の方法、例えば、フローサイトメトリー、免疫組織化学または蛍光顕微鏡を使用して決定することができる。
【0226】
ここで本発明を実施例によってさらに記載し、これは、当業者が本発明を実行するのを補助するのに役立つように意味付けられ、いかなる形でも本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0227】
(実施例1)
TRBC1発現細胞およびTRBC2発現細胞の識別
JOVI−1抗体はVineyら(Hybridoma;1992年;11巻(6号);701〜713頁)によって以前に開示されており、市販されている(Abcam、ab5465)。本発明者らは、JOVI−1により、TRBC1またはTRBC2の特異的な発現に基づいて細胞を識別することができることを決定した。
【0228】
本発明者らは、TCRの完全な可変領域および定常領域を供給し、TRBC1またはTRBC2のいずれかの発現においてのみが異なる2種のプラスミドベクターを生成した。これらのプラスミドを使用して、293T細胞を一過性トランスフェクションすることによってレトロウイルス上清を生成した。この上清を使用して、ジャーカットTCRノックアウトT細胞(TCRベータ鎖遺伝子座に、この鎖の発現を妨げ、それにより、表面TCR/CD3複合体全体の発現を妨げる変異を有するT−ALL細胞株)に安定的に形質導入した。この結果、TRBC1またはTRBC2のいずれかの発現以外は同一である細胞株が生じた。これらの細胞株の染色により、表面TCR/CD3複合体の完全な発現、およびTRBC1を発現する細胞のみがJOVI−1抗体で染色されることが明らかになった(
図4)。
【0229】
(実施例2)
正常なドナーCD4+T細胞およびCD8+T細胞は、別々のTRBC1陽性集団およびTRBC1陰性集団を含有する
本発明者らは、JOVI−1抗体を正常ドナーの初代ヒトT細胞に対して試験した。これらの分析により、全てのドナーが、ある割合のTRBC1を発現するCD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方とある割合のTRBC1を発現しないそれぞれを有することが明らかになった。正常なCD4+T細胞およびCD8+T細胞のおよそ20〜50%がTRBC1+veである(
図6および7)。
【0230】
(実施例3)
TCRを発現するクローン性T細胞株は、TRBC1陽性または陰性である
細胞株は、患者における元のクローン性腫瘍集団に由来するものである。TCRを発現するT細胞株の染色により、T細胞がTRBC1またはTRBC2のいずれかを発現することが示され、これがクローン性のマーカーとして確認される。試験した3つのT細胞株のうち、ジャーカット細胞(TRBC1+であることが分かっている)はJOVI−1で染色され、HPB−ALL細胞またはHD−Mar−2細胞(TRBC2+であることが分かっている)はJOVI−1で染色されず、TRBC1またはTRBC2のいずれかが排他的に発現されることが支持される(
図8)。
【0231】
(実施例4)
T前リンパ球性白血病の患者における初代クローン性T細胞はTRBC1陽性または陰性である
T前リンパ球性白血病(T−PLL)の患者の末梢血から抽出したクローン性T細胞は、均一にTRBC1陽性またはTRBC1陰性のいずれかである。
【0232】
(実施例5)
TCBC1に独特の残基の変異の影響
TCRβ鎖定常領域におけるハイブリッドTRBC1/2変異以外は同一である、TCRをコードするプラスミドベクターを生成した。分析から、JOVI−1がTCRβ定常鎖の3位および4位の残基の差異を認識することが示され、これらの残基が抗体認識に利用可能なものであり、TRBC1をTRBC2から、またはTRBC2をTRBC1から識別する作用因子を生成するための最良の標的であり得ることが示された(
図5)。
【0233】
(実施例6)
TRBC1 TCR発現T細胞は特異的に溶解されるがTRBC2 TCR発現T細胞は特異的に溶解されない。
野生型ジャーカットT細胞(CD34−、TRBC1+)を、CD34マーカー遺伝子と同時発現させたTRBC2を用いて形質導入したTCRαβノックアウトジャーカットT細胞(CD34+TRBC2+)と混合した。これらの細胞を、1時間にわたり、JOVI−1のみと一緒に、またはJOVI−1および補体と一緒にインキュベートした。細胞を洗浄し、CD34、アネキシンVおよび7−AADについて染色した。細胞をフローサイトメトリーによって分析した。
【0234】
アネキシン−V陰性および71AAD暗集団によって定義される生集団におけるCD34発現が
図9に示されている。TRBC1 T細胞(CD34−)の選択的な死滅が観察された(
図9)。
【0235】
野生型ジャーカットT細胞は、天然にTRBC1+であり、切断型CD34マーカー遺伝子を発現しない。上記の通り、本発明者らは、TCRαβノックアウトジャーカットT細胞に、TRBC2 TCRならびに切断型CD34マーカー遺伝子をコードするレトロウイルスベクターを用いて形質導入することによってTRBC2+ジャーカット株を誘導した。次いで、これらのT細胞を混合した。次に、本発明者らは、T細胞を、1時間にわたり、JOVI−1のみと一緒に、またはJOVI−1および補体と一緒にインキュベートした。都合よく、本発明者らは、CD34マーカー遺伝子について染色することによってTRBC1集団とTRBC2集団とを識別することができ、そうすることで、抗TCR
mAbへの長期曝露後のTCR内部移行に起因するTRBC1 TCRの検出失敗を回避した。細胞を洗浄し、CD34、アネキシンVおよび7−AADについて染色した。細胞をフローサイトメトリーによって分析した。生細胞(すなわち、アネキシンV陰性および7−AAD暗である細胞)に関してゲーティングすることにより、本発明者らは、TRBC1 T細胞が補体の存在下でJOVI−1によって選択的に死滅することを決定することができた(
図9)。
【0236】
(実施例7)
ポリクローナルエプスタイン・バーウイルス(EBV)特異的T細胞は2つのほぼ同等のTRBC1/2集団に分割することができる。
正常血液ドナーから末梢血T細胞を採取した。単核細胞を単離し、細胞の大部分を凍結保存した。少数の細胞にEBVの実験室株(B95−8)を感染させた。数週間を越えて、リンパ芽球様細胞株(LCL)として公知の不死化EBV感染細胞株が現れた。そのような細胞株は、異なるEBV抗原の大きな集合を示すことが公知である。予め凍結保存しておいた単核細胞を解凍し、このLCL株を用い、IL2の存在下で週に1回、4週間にわたって繰り返し刺激した。このプロセスにより、末梢血単核集団からEBV特異的T細胞が選択的に増大する。そのようなプロセスにより、T細胞の90%超がEBV特異的であり、ドナーのEBV免疫系を表すポリクローナル株がもたらされることも公知である。この株の特異性は、自己由来LCLは高程度に死滅するが同種異系LCLまたはK562細胞は死滅しないことが示されることによって確認される(
図10a)。次いで、この細胞株をJOVI−1で染色し、TRBC1 T細胞およびTRBC2 T細胞のほぼ同等の混合物を含有することが示された(
図10b)。
【0237】
したがって、TRBC1コンパートメントまたはTRBC2コンパートメントのいずれかを枯渇させる治療剤を投与すると、適切なEBV免疫が残る。EBV免疫は免疫応答のモデル系とみなされるので、他の病原体に対するその免疫も同等に保存されると仮定することは妥当である。
【0238】
(実施例8)
循環末梢性T細胞リンパ腫のJOV1染色。
仮説は、クローン性であるT細胞リンパ腫は、TRB1 T細胞受容体またはTRBC2 T細胞受容体のいずれかを発現するが、ポリクローナルである正常T細胞は、TRBC1を有するものとTRBC2を有するものの混合物であるT細胞集団で構成されるというものであった。これを実証するために、リンパ腫が末梢血中を循環している患者からT細胞リンパ腫の血液試料を得た。末梢血単核細胞を単離し、CD5およびJOVI1を含む抗体のパネルを用いて染色した。T細胞の総集団(リンパ腫および正常T細胞の両方を含有する)を最初に同定した。この集団は、正常(明るい)CD5発現を有するT細胞および中間/暗いCD5発現を有するT細胞で構成されていた。前者は正常T細胞を代表し、後者はリンパ腫を代表する。次にJOVI−1結合を調査し、
図12に結果が示されている。
【0239】
CD5中間集団およびCD5暗集団(腫瘍)は全てTRBC2陽性であった。
【0240】
(実施例9)
JOVI−1のVH/VL配列の解明
マウスIgG CH1の定常領域およびマウスカッパの定常領域にアニーリングするプライマーを用いた5’RACEを使用して、本発明者らは、ハイブリドーマJOVI−1から単一の機能性VH配列および単一の機能性VL配列を単離した。VHおよびVLの配列はそれぞれ配列番号1および2である(上記を参照されたい)。VHおよびVLのアノテートされた配列が
図11に示されている。
【0241】
これらのVH配列およびVL配列をそれぞれマウスIgG重鎖およびカッパ軽鎖とインフレームでクローニングし戻した。さらに、VHおよびVLを融合して単鎖可変断片(scFv)を形成し、これをマウスIgG2aのヒンジ−CH2−CH3領域と融合してscFv−Fvを創出した。scFvのアミノ酸配列は発明の詳細な説明で配列番号3として示されている。組換え抗体および組換えscFv−Fcを293T細胞へのトランスフェクションによって生成した。ハイブリドーマ由来のJOVI−1と一緒に、以下の細胞を染色した:TCRがノックアウトされたジャーカット;野生型ジャーカット;eBFP2と共発現させたTRBC1を形質導入したTCRノックアウトジャーカットおよびeBFP2と共発現させたTRBC2を形質導入したTCRノックアウトジャーカット。組換え抗体およびJOVIに由来するscFv−FcはどちらもTRBC2に結合し、本発明者らが正確なVH/VLを同定し、そしてJOVI−1 VH/VLをscFvとしてフォールディングさせることができることを確認した。この結合データが
図13に示されている。
【0242】
(実施例10)
JOVI−1に基づくCARの機能
JOVI−1 scFvをCAR構成にクローニングした。いずれのスペーサー長により最適なJOVI−1に基づくCARがもたらされるかを解明するために、ヒトFcスペーサー、ヒトCD8ストークスペーサーまたはIgG1ヒンジに由来するスペーサーのいずれかを用いて第3世代CARを生成した(
図4)。正常ドナー由来の初代ヒトT細胞にこれらのCARを形質導入し、ジャーカットおよびTCRがノックアウトされたジャーカットの死滅を比較した。IgG1ヒンジスペーサーまたはCD8ストークスペーサーのいずれかを有するJOVI−1 scFvを有するCARにより、ジャーカットは死滅したが、TCRがノックアウトされたジャーカットは死滅せず(
図5)、これにより、予測された特異性が実証された。CARを形質導入した正常ドナーT細胞はTRB1/2 T細胞の混合物を有するはずであるので、培養物が「自己パージ」することが予測された。実際に、これが観察された。100%TRBC2陰性になったCAR T細胞培養物のJOVI−1染色が
図6に示されている。
【0243】
材料および方法
JOVI−1の特異性の実証
よく特徴付けられたヒトTCRならびに都合のよいマーカー遺伝子をコードするトリシストロン性レトロウイルスカセットを生成した。TCRα鎖およびβ鎖のコード配列を、デノボ遺伝子合成を使用してオーバーラッピングオリゴヌクレオチドから生成した。これらの鎖を口蹄疫2Aペプチドとインフレームで接続して共発現を可能にした。切断型CD34マーカー遺伝子をPCRによってcDNAからクローニングし、内部リボソーム進入配列(internal ribosome entry sequence)(IRES)を使用してTCR鎖と共発現させた。このカセットをレトロウイルスベクターに導入した。この構築物のバリアントを、所望の変異を導入するプライマーを用いたオーバーラップPCRによってスプライシングすることによって生成した。構築物の正確さを、サンガー配列決定によって確認した。ジャーカット76株は、TCRα鎖およびβ鎖の両方がノックアウトされた、ジャーカットT細胞株のよく特徴付けられた誘導体である。このジャーカット株に上記のレトロウイルスベクターを用いて、標準の技法を使用して形質導入した。
【0244】
ジャーカット、末梢血T細胞および細胞株の染色および分析
ジャーカットをECACCから得、上記の通り操作した。他のT細胞株もECACCから得た。正常ドナーから静脈穿刺によって末梢血を採取した。血液をフィコール処理して単核細胞を単離した。細胞をJOVI−1ならびに全てのTCRおよびCD3を認識する市販のモノクローナル抗体で染色した。操作したT細胞の場合には、細胞を、CD34を認識する抗体で染色した。末梢血単核細胞の場合には、細胞を、CD4およびCD8を認識する抗体で染色した。抗体は、適切なフルオロフォアとコンジュゲートした状態で購入し、そうすることで、フローサイトメーターを用いた細胞の分析中に独立した蛍光シグナルを得ることができた。
【0245】
TRBC1 T細胞の特異的な溶解の実証
野生型ジャーカットT細胞(TRBC1−TCR)、およびTRBC2 TCRを導入したジャーカットT細胞TCR KOを1:1の比率で混合した。次いで、このジャーカットの混合物を1ug/mlのJOVI−1モノクローナル抗体と一緒に、補体の不在下または存在下でインキュベートした。4時間後、細胞をアネキシン−Vおよび7AADおよびCD34で染色した。都合よく、マーカー遺伝子CD34により、野生型(TRBC1)ジャーカットとトランスジェニック(TRBC2)ジャーカットとを区別することができる。細胞集団をフローサイトメトリーによって分析した。生細胞を、アネキシン−V陰性かつ7AAD暗であるフローサイトメトリー事象に関してゲーティングすることによって選択的に試験した。このように、トランスジェニック(TRBC2)T細胞の生存と野生型(TRBC1)T細胞の生存を試験した。
【0246】
(実施例11)
T細胞リンパ球増殖性障害のクローン性の調査
悪性細胞が均一にTRBC1陽性または陰性のいずれかであることを確認するために、4名の患者:T細胞大型顆粒リンパ球増殖性障害(T−LGL)3名;および末梢性T細胞リンパ腫(PCTL)1名を試験した。
【0247】
Tリンパ球増殖性障害の患者から全血または骨髄を収集した。末梢血単核細胞(PBMC)をフィコール勾配遠心分離によって得た。新しく得たPBMCをペレット化し、適切な予めコンジュゲートした抗体を用いて20分にわたって染色した。次いで、細胞を洗浄し、BD LSR Fortessa IIでの即時フローサイトメトリー分析のためにリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁した。生リンパ球をFSc/SSc性質および死細胞識別色素を取り込めないことによって同定した。抗TCRアルファ/ベータ抗体を用いて染色することによってT細胞を同定した。各試料について、適切な細胞表面染色を使用し、臨床検査室分析によって予め同定された免疫表現型に基づいて、腫瘍T細胞集団および正常T細胞集団を同定した。
【0248】
結果が
図18〜21に示されている。
【0249】
患者A(T−LGL、
図18)では、正常T細胞はCD7明であり、混合CD4/CD8細胞、そしてTRBC1またはTRBC1−細胞の混合集団を含有した。対照的に、悪性細胞はCD7−またはCD7暗であり、均一にCD8+CD4−であり、均一にTRBC1−であった。
【0250】
患者B(T−LGL、
図19)では、悪性細胞はCD4−、CD8+、CD7+、CD57+により同定され、クローン性にTRBC1−であった(強調表示されているパネル)。正常なCD4+CD8−T細胞およびCD4−CD8+T細胞はTRBC1+集団およびTRBC1−集団を含有した。
【0251】
患者C(T−LGL、
図20)では、正常なCD4+T細胞およびCD8+T細胞集団は30〜40%TRBC1+であった。悪性細胞はCD4−、CD8+、CD7+、CD57+によって同定され、クローン性にTRBC1+であった(強調表示されているパネル、細胞の84%がTRBC1−であり残りの16%には「正常」T細胞が混入している可能性があることに留意されたい)。正常CD4+CD8−T細胞およびCD4−CD8+T細胞は、TRBC1+集団およびTRBC1−集団を含有した。
【0252】
患者D(PTCL−NOS、
図21)では、FSC高 CD5暗 CD4暗に基づいて同定された骨髄における悪性細胞は均一にTRBC1+であったが、CD4+CD8−T細胞およびCD4−CD8+T細胞はTRBC1+集団とTRBC1−集団との両方を含有した。
【0253】
(実施例12)
ファージディスプレイを使用した、T細胞受容体β鎖定常ドメインの2つのアイソフォームを区別するモノクローナルヒト抗体の生成
TRBC2ペプチドとTRBC1ペプチドとを区別する抗体を生成するために、2つのTRBCアイソフォームの間の領域の差異を包含する断片を合成した。TRBC2とTRBC1との間の4つのアミノ酸の差異のうち、2つは定常ドメインの始めに見いだされる。これらの領域を表すペプチド(以下を参照されたい)を合成し、抗体生成のために使用した。
【化6】
【0254】
これらのペプチドを、ビオチン化した形態、ビオチン化していない形態、システイン修飾した形態(C末端システインを付加することによる)で調製した。システイン修飾した形態のTRBC1およびTRBC2は、その後、改変ウシ血清アルブミン(Imm−Link BSA、Innova 462−001)またはオボアルブミン(Imm−Link Ovalbumin、Innova 461−001)と、製造者により推奨される条件に従ってコンジュゲートした。
【0255】
結果
抗体ファージディスプレイ選択
ヒトファージディスプレイライブラリーを構築し、(Schofieldら、2007年、Genome Biol 8巻、R254頁)に記載の通りファージ選択を行った。抗体ライブラリーからTRBC1特異的抗体およびTRBC2特異的抗体を同定するために、複数のラウンドのファージディスプレイ選択を行った。2つのファージ選択戦略を並行して使用して、特異的な結合物質の大きなパネルが生成する機会を最大限にした。これらの戦略は、固相選択および液相選択として公知である(
図21)。固相選択では、ファージ抗体を、固体表面に固定化した標的抗原に結合させる(Schofieldら、2007年、上記の通り)。液相選択では、ファージ抗体を溶液中のビオチン化した抗原に結合させ、次いで、ファージ抗体−抗原複合体をストレプトアビジンまたはニュートラアビジンでコーティングした常磁性ビーズによって捕捉する。固相選択戦略の中で、2つの異なる固定化または抗原提示手法を用いた。第1の手法を使用する場合、ウシ血清アルブミン(BSA)またはオボアルブミン(OA)とコンジュゲートしたTRBCペプチドをMaxisorp(商標)immunotube上に直接吸着によって固定化した。第2の手法を使用する場合、ビオチン化TRBCペプチドを、ストレプトアビジンまたはニュートラアビジンで予めコーティングしたMaxisorp(商標)immunotubeチューブ上に間接的に固定化した。
【0256】
所望のペプチドに特異的な抗体を選択するために、全ての選択を、過剰な対立するペプチドの存在下で行った。例えば、全てのTRBC1選択を、10倍モル過剰のビオチン化していないTRBC2の存在下で行った。この方法は、「選択解除」として公知であり、両方のTRBCペプチドに共有されるエピトープを認識する抗体が溶液中の過剰なTRBC2に優先的に結合するので、これらの抗体が枯渇することが予測された。担体タンパク質(BSAもしくはOA)または固定化パートナー(Thermo Fisher Scientificからのストレプトアビジンまたはニュートラアビジン)に結合する抗体クローンが濃縮されるのを回避するために、2つの戦略を組み合わせて用いた。
【0257】
第1の戦略は、コンジュゲーションまたは固定化パートナーを選択のラウンド間で切り換えることであった。直接固定化したペプチドについては、選択の第1のラウンドをBSA−ペプチドで行い、ラウンド2についてはOA−ペプチドコンジュゲートを使用した。同様に、ラウンド1についてはビオチン化TRBCペプチドをストレプトアビジンに固定化し、ラウンド2における固定化にはニュートラアビジンを使用した。
【0258】
第2の戦略は、ラウンド1において「選択解除」を実施することによって、コンジュゲーション/固定化パートナーに対する任意の結合物質のファージライブラリーを枯渇させることであった。直接固定化したペプチドについて、10倍モル過剰の溶液中遊離BSAの存在下でファージ−ペプチド結合ステップを実行することによって「選択解除」を実施した。ストレプトアビジンに固定化したビオチン化したペプチドの場合には、ファージライブラリーを、ストレプトアビジンでコーティングした常磁性ビーズと一緒にプレインキュベートした。ビーズを取り出した後、ファージを抗原チューブに添加し、それにより、ストレプトアビジン結合物質の選択への進入を制限した。使用した異なる選択条件が
図21に要約されている。選択条件に関する詳細な情報については表3を参照されたい。
【0259】
ラウンド2選択アウトプットから調製したポリクローナルファージを、ペプチドまたは支持タンパク質の種々の提示を使用してELISAで試験した。これには、BSAもしくはOAコンジュゲートのいずれかとして直接固定化したTRBCペプチドまたはストレプトアビジンもしくはニュートラアビジンに間接的に固定化したビオチン化したペプチドを含めた。含めた対照タンパク質は、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、BSAおよび無関連の抗原であった。マウス抗M13抗体(GE Healthcare)、その後、ユウロピウム(Perkin Elmers)で標識した抗マウスFc抗体を使用して、時間分解蛍光を使用してファージ結合を検出した(
図22)。この結果により、ポリクローナルファージ集団がそれぞれのTRBCペプチドに優先的に結合する(対立するTRBCペプチドと比較して)ことが実証された。例えば、TRBC1選択から調製されたポリクローナルファージでは、TRBC1に対してTRBC2よりも顕著に高い結合シグナルが示され、逆もまた同じであった。固定化またはコンジュゲーションパートナーおよび無関連の抗原に対しては結合が限定されたまたは結合しなかった。
【0260】
単鎖抗体(scFv)サブクローニングおよびモノクローナルスクリーニング
ラウンド2およびラウンド3選択アウトプットからのscFv集団をpSANG10−3F発現ベクターにサブクローニングし、E.coli BL21(DE3)細胞へと形質転換した。1128種の個々の形質転換体(564クローン/TRBCペプチド)を選び取って12×96ウェル培養プレート(94クローン/プレート)に入れ、自己誘導培地を使用して抗体発現を誘導した。一晩の誘導後に培養上清中に分泌された組換えモノクローナル抗体を、ニュートラアビジンでコーティングされたNunc Maxisorp(商標)96ウェルプレートに固定化したビオチン化TRBC1およびTRBC2への結合について試験した。TRBC1選択からスクリーニングされた564クローンのうち、255クローンが、TRBC1に特異的であることが見いだされた(TRBC1に対して>10000TRF単位およびTRBC2に対して<1000TRF単位)。TRBC2選択からスクリーニングされた564クローンから、138種のTRBC2特異的結合物質(TRBC2に対して>10000TRF単位およびTRBC1に対して<2000TRF単位)が同定された。
図24に、TRBC1(
図24A)またはTRBC2(
図24B)のいずれかに対する選択から生じた単一の96ウェルプレートからの代表的な結合プロファイルが示されている。異なる選択条件を使用して生成した特異的な結合物質の詳細が表5に要約されている。
【0261】
配列解析およびさらなる特徴付けのために、TRBC1選択およびTRBC2選択から、それぞれ142種および138種の特異的な結合物質を選び取った。入念に選び取ったクローンの配列を、BigDye(登録商標)terminator v3.1 cycle sequencing kit(Life technologies)を使用してサンガー配列決定によって生成した。DNA配列を分析してタンパク質配列を決定し、VHドメインおよびVLドメインのCDRを同定した。VH CDR3領域およびVL CDR3領域の分析により、74種の独特のTRBC1クローンおよび42種の独特のTRBC2クローンが同定された(独特とは、VH CDR3配列およびVL CDR3配列のいずれかの組合せと定義される)。TRBC1特異的クローンならびにそれらのVH
CDR3配列およびVL CDR3配列が上の表1に要約されている。TRBC2特異的クローンおよびそれらのVH CDR3配列およびVL CDR3配列が上の表2に要約されている。
【表3A】
【0262】
【表3B】
【0263】
【表4】
【0264】
【表5】
【0265】
(実施例13)
ウサギのペプチド免疫化によるTRBCポリクローナル抗体の産生
TRBC2とTRBC1とを区別する抗体を生成するために、2つのTRBCアイソフォーム間を区別する原理領域を包含する2つのペプチドを合成し、ウサギを免疫化するために使用した。以下のペプチド配列を使用した:
【化7】
【0266】
TRBC1ペプチドおよびTRBC2ペプチド15mgを合成した。キーホールリンペットヘモシアニンをTRBC1ペプチドおよびTRBC2ペプチドと、ペプチド上に存在するC末端システインを介してコンジュゲートした。各ペプチドについてニューイングランドウサギ2匹を、KLHコンジュゲートTRBC1またはTRBC2ペプチドを用いて合計3回免疫化した。3回目の免疫化後、ウサギを屠殺し、採血し、精製のために血清を収集した。ウサギから得た粗血清を、免疫化のために使用したペプチドをカップリングした、架橋したビーズアガロース樹脂カラムを通過させて、ペプチドの共通セグメントおよびTRBCアイソフォーム特異的エピトープに特異的な抗体を収集した。次いで、最初に精製された上清を、代替ペプチドを固定化したカラムをさらに通して精製して、ペプチドの共通セグメントに特異的な抗体を除去した。
ELISAの設定
コーティング抗原:A:ペプチドTRBC1
B:ペプチドTRBC2
コーティング濃度: 4ug/ml、100μl/ウェル
コーティング緩衝液: リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4
二次抗体:ペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗ウサギIgG(H&L)(ヤギ)抗体
【0267】
結果が
図25および26に示されている。この方法により、TRBC1特異的抗体またはTRBC2特異的抗体を含むポリクローナル血清を作製することが可能である。