特開2017-145475(P2017-145475A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-145475(P2017-145475A)
(43)【公開日】2017年8月24日
(54)【発明の名称】イルメナイト鉱石の高品位化方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20170728BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20170728BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20170728BHJP
【FI】
   C22B34/12 101
   C22B3/10
   C22B5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-29255(P2016-29255)
(22)【出願日】2016年2月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義浩
(72)【発明者】
【氏名】飯島 勝之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】高井 徹
(72)【発明者】
【氏名】中村 宣雄
(72)【発明者】
【氏名】長坂 徹也
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA27
4K001BA02
4K001BA05
4K001CA15
4K001DA10
4K001DB04
4K001DB14
4K001HA09
4K001JA01
(57)【要約】
【課題】TiO品位の低いイルメナイト鉱石を湿式リーチング処理によって高品位化する方法であって、高TiO濃度チタン原料を効率的に得るイルメナイト鉱石の高品位化方法を提供すること。
【解決手段】イルメナイト(FeTiO)から鉄成分を分離除去することにより、高TiO濃度チタン原料を得るイルメナイト鉱石の高品位化方法であって、原料イルメナイトの酸化処理を行う酸化工程、前記酸化工程後に、還元処理を行う還元工程、及び前記還元工程後に、酸により前記鉄成分を溶解除去する抽出工程を含むイルメナイト鉱石の高品位化方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イルメナイト(FeTiO)から鉄成分を分離除去することにより、高TiO濃度チタン原料を得るイルメナイト鉱石の高品位化方法であって、
原料イルメナイトの酸化処理を行う酸化工程、
前記酸化工程後に、還元処理を行う還元工程、及び
前記還元工程後に、酸により前記鉄成分を溶解除去する抽出工程
を含むことを特徴とするイルメナイト鉱石の高品位化方法。
【請求項2】
前記酸化工程において、酸に難溶なシュードブルッカイト相(FeTiO)を形成させることなく、イルメナイト相(FeTiO)をヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)に相変化させることを特徴とする請求項1に記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
【請求項3】
前記還元工程において、前記ヘマタイト相(Fe)が金属鉄(Fe)まで還元されることを特徴とする請求項2に記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
【請求項4】
前記酸化工程を600℃以上800℃未満で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
【請求項5】
前記還元工程を500〜900℃で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イルメナイト鉱石の高品位化方法に関し、より詳しくは、チタン及び鉄を含有するイルメナイト鉱石をアップグレードしてTiO品位の高い鉱石を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは軽量である一方、強度、耐熱性及び耐食性に非常に優れ、また非磁性や高い生体親和性などの性質があり、金属・合金として航空機材料、化学装置用耐食材料、医療機器からゴルフ、眼鏡フレームなどに至るまでの様々な分野で利用されている。
【0003】
チタンの製造原料としては、天然ルチル、合成ルチルおよび高チタンスラグが用いられており、そこに主に含まれるチタン酸化物を塩素化し、得られた塩素化物(四塩化チタン)を金属マグネシウムで還元するクロール法により金属としてのチタンを得ている。
【0004】
チタン製造原料にはFe、Al、SiやMnなどの酸化物が不純物として含有されるため、これらは四塩化チタン精製工程において分離除去され廃棄物となる。廃棄物低減による環境負荷低減や製造コスト削減のためには、チタン製造原料にはTiO品位が高いこと(TiO≧93%)が望まれる。しかし、TiO品位の高いチタン製造原料は、商業的観点(採掘量と採掘コストのバランス)において枯渇傾向にあり、近年では急激な価格の高騰も起き、安定的なチタン製造原料の確保が困難になる恐れがある。
【0005】
このため、従来より、豊富に産出するTiO品位の低いイルメナイト鉱石(TiO:30〜65質量%)を、湿式のリーチング処理(ベニライト法やビーチャー法)や乾式での溶融製錬(チタンスラグ法)を行うことで不純物を分離除去し、高TiO品位化する方法が実施されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、湿式リーチング処理法の効率化について、酸化処理と還元処理の組み合わせや、酸化処理後に多段式のリーチング処理を行う方法などが従来から検討されている。例えば、特許文献1には、湿式法によるチタン製錬用原料の高品位化に供されるチタン製錬用原料の製造方法であって、少なくともチタン、鉄、ケイ素の酸化物を含むチタン製錬用原料の元原料を酸化焙焼した後、還元焙焼するチタン製錬用原料の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、湿式法におけるチタン製錬原料の高品位化方法であって、チタン製錬原料の酸化処理を行い、続いて反応容器内にチタン製錬原料および酸を投入し、チタン製錬原料の高品位化処理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−234547号公報
【特許文献2】特開2014−234548号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】友成忠雄編著、「チタン工業とその展望」、第1版、日本チタン協会、2001年1月10日、p.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の湿式リーチング処理では、事前の熱処理方法によりリーチングの効率に更なる改善の余地があるだけでなく、用いるイルメナイト鉱石の風化度合いが低い(酸化が十分に進んでいない)場合は生産効率の低下などが発生するため、工業的には風化の進んだイルメナイト鉱石が用いられており、資源活用の点でも改善の余地が残されている。
【0010】
本発明は、豊富に産出するTiO品位の低いイルメナイト鉱石を湿式リーチング処理によって高品位化する方法に関し、高TiO濃度チタン原料をより効率的に得るイルメナイト鉱石の高品位化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題について検討を重ねたところ、チタン製造原料であるイルメナイト鉱石を比較的低温域で酸化処理することによりイルメナイト相(FeTiO)をヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)の2相に変化させ、この酸化処理を施した後に還元処理することによりヘマタイト相(Fe)を金属鉄(Fe)に変化させること、及びこれら熱処理の後に湿式リーチング処理を行うことで、効果的に鉄成分等の不純物を溶解除去でき、高品位なチタン製造原料を得ることが可能であることを発見し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(5)に存する。
(1)イルメナイト(FeTiO)から鉄成分を分離除去することにより、高TiO濃度チタン原料を得るイルメナイト鉱石の高品位化方法であって、原料イルメナイトの酸化処理を行う酸化工程、前記酸化工程後に、還元処理を行う還元工程、及び前記還元工程後に、酸により前記鉄成分を溶解除去する抽出工程を含むことを特徴とするイルメナイト鉱石の高品位化方法。
(2)前記酸化工程において、酸に難溶なシュードブルッカイト相(FeTiO)を形成させることなく、イルメナイト相(FeTiO)をヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)に相変化させることを特徴とする前記(1)に記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
(3)前記還元工程において、前記ヘマタイト相(Fe)が金属鉄(Fe)まで還元されることを特徴とする前記(2)に記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
(4)前記酸化工程を600℃以上800℃未満で行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
(5)前記還元工程を500〜900℃で行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のイルメナイト鉱石の高品位化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化処理を行うことで、還元工程においてイルメナイトに含まれる主な不純物である鉄酸化物を、酸に易溶な金属鉄まで還元できるため、抽出工程において酸による鉄成分の溶解除去が容易に行え、TiO品位の高い(TiO:97質量%以上)のイルメナイト鉱石を得ることができる。
よって、本発明の方法により得られたイルメナイト鉱石は、チタン製造原料として有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】原料イルメナイト鉱石の、各温度での酸化処理における重量変化率を示す図である。
図2】各温度での酸化処理したイルメナイト鉱石と原料イルメナイト鉱石のXRDパターンを示す図である。
図3】酸化処理後のイルメナイト鉱石の、各温度での還元処理における重量変化率を示す図である。
図4】酸化処理後のイルメナイト鉱石(a)と未処理のイルメナイト鉱石(b)の、700℃での還元処理におけるXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について以下に説明する。
【0016】
本発明のイルメナイト鉱石の高品位化方法は、イルメナイト(FeTiO)から金属成分を分離除去することにより、高TiO濃度チタン原料を得る方法であって、原料イルメナイトの酸化処理を行う酸化工程、該酸化工程後に、還元処理を行う還元工程、及び該還元工程後に、酸により金属成分を溶解除去する抽出工程を含むものである。
以下、各工程について説明する。
【0017】
<酸化工程>
原料イルメナイトは、鉄とチタンの複合酸化物であり、原料イルメナイトには、TiOが30〜65質量%程度、Fe換算で30〜60質量%程度含まれている。
酸化工程では、原料としてのイルメナイト鉱石におけるイルメナイト相(FeTiO)をヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)の2相に変化させる。本発明の酸化処理において、酸に難溶なシュードブルッカイト相(FeTiO)を形成することなく、イルメナイト相(FeTiO)をヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)の2相に変化させることにより、抽出工程での湿式リーチング処理において金属成分、具体的には鉄(Fe)成分を容易に除去できるという効果を奏する。
【0018】
酸化工程では、原料イルメナイトを、酸化性雰囲気下で、600℃以上800℃未満の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0019】
酸化性雰囲気とは、酸化性ガスを含む雰囲気をいう。酸化処理における雰囲気ガス(酸化性ガス)としては、大気、酸素ガス、酸素ガスを不活性ガスで希釈したガス等が挙げられ、汎用性の観点から、大気雰囲気下で行うことが好ましい。
また、酸化処理における雰囲気ガスの分圧は、0.01〜0.1MPaが好ましい。酸化工程における雰囲気ガスの分圧が前記範囲であると、効果的に酸化を促進させることができる。
【0020】
酸化処理における温度条件は、上記したように600℃以上800℃未満の範囲が好ましい。600℃以上で酸化処理を行うことによりイルメナイト相(FeTiO)のヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)への分解を開始させることができ、800℃未満で行うことにより酸に難溶なシュードブルッカイト相(FeTiO)を形成することなく、イルメナイト相をヘマタイト相とルチル相の2相に変化させることができる。酸化処理の温度は、600〜770℃の範囲であることがより好ましく、更に好ましくは600〜750℃の範囲である。
【0021】
また、加熱方法としては、例えば、流動層を形成しながら加熱する流動層加熱やマイクロ波照射による加熱等を挙げることができる。これらの方法を用いることにより処理時間を短縮することができる。
処理時間は、原料イルメナイト中の亜酸化チタンが4価の酸化チタンに転化するまで行えばよく、例えば、10分〜100時間で行うことが好ましい。
【0022】
本発明の酸化工程により、原料イルメナイト中のチタン低級酸化物(チタン価数<4)を酸化チタン(チタン価数=4)に変化させることができ、抽出工程での湿式リーチング処理におけるチタン低級酸化物の溶出によるチタン成分のロスを防止できるという効果を奏する。
【0023】
<還元工程>
本発明では、酸化工程後に還元工程を行う。還元工程では、酸化工程で生成したヘマタイト相(Fe)を金属鉄(Fe)に変化させる。
本発明では、酸化工程でイルメナイト相(FeTiO)がヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)に変化しているので、このヘマタイト相(Fe)を効果的に金属鉄(Fe)まで還元することができ、続く抽出工程における湿式リーチング処理の反応速度を飛躍的に高めることができるという効果を奏する。
【0024】
還元工程では、酸化工程で酸化処理されたイルメナイト鉱石を、還元性雰囲気下で500〜900℃の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0025】
還元性雰囲気とは、還元性ガスを含む雰囲気をいう。還元処理における雰囲気ガス(還元性ガス)としては、COガス、水素ガス、炭化水素ガス等が挙げられ、還元の効率化の観点から、水素ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
また、還元処理における雰囲気ガスの分圧は、0.01〜0.1MPaが好ましい。還元工程における雰囲気ガスの分圧が前記範囲であると、効率的に還元を促進することができる。
【0026】
還元処理における温度条件は、上記したように、500〜900℃の範囲が好ましい。500℃以上で還元処理を行うことによりヘマタイトから金属鉄への還元を促進することができ、900℃以下で行うことにより完全にヘマタイトを鉄に還元することができる。還元処理の温度は、より好ましくは600〜700℃の範囲である。
【0027】
また、加熱方法としては、例えば、流動層を形成しながら加熱する流動層加熱やマイクロ波照射による加熱等を挙げることができる。これらの方法を用いることにより処理時間を短縮することができる。
処理時間は、求めるチタン原料の品位によって適宜設定すればよく、例えば、10分〜100時間の範囲で行うことができる。
【0028】
本発明において、酸化工程の後に還元工程を行うことで、ヘマタイト相(Fe)から金属鉄(Fe)への還元による鉄成分の体積変化に伴い、鉱石粒子表面から内部に通じる細孔を生じさせることができる。これにより抽出工程での湿式リーチング処理における反応速度を飛躍的に高めることができる。
【0029】
また、酸化工程を実施しない場合ではイルメナイト相(FeTiO)が十分に還元されないが、事前に酸化工程を行うことにより、還元工程において効果的に金属鉄(Fe)まで還元でき、続く抽出工程の湿式リーチング処理における反応速度を飛躍的に高めることができる。
【0030】
<抽出工程>
本発明では、還元工程後に酸を用いて処理(湿式リーチング)する抽出工程を行う。抽出工程では、酸により鉄成分等の不純物を溶解除去させ、高品位なイルメナイト鉱石を得る。
【0031】
抽出工程で使用する酸としては、無機酸及び有機酸のうちの少なくとも1種が挙げられる。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ素酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、クエン酸等が挙げられる。中でも、鉄の溶解性の観点から、酸として無機酸を用いることが好ましく、鉄への選択的な溶解性が優れるため、塩酸を用いることがより好ましい。
【0032】
用いる酸は、処理液中の濃度が10〜35質量%となるように用いることが好ましい。処理液中の酸の濃度が10質量%以上であると、鉄への溶解性を向上させることができる。処理液中の酸濃度の上限は用いる酸の飽和濃度を考慮して適宜設定することができ、例えば塩酸を用いる場合、飽和濃度は約35質量%である。酸濃度の上限は、処理液中20質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
抽出方法としては、例えば、酸を含有する処理液に還元工程後のイルメナイト鉱石を接触させ、イルメナイト鉱石と酸を反応させる方法が挙げられる。前記接触させる方法としては、例えば、処理液にイルメナイト鉱石を浸漬・静置する方法、処理液を充填した容器にイルメナイト鉱石を投入して撹拌混合させる方法、処理液にイルメナイト鉱石を投入して加圧しながら処理する(塩酸蒸気圧で加圧する)方法等が挙げられる。
【0034】
抽出工程における温度条件は、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、130〜150℃が更に好ましい。100℃以上で抽出工程を行うことにより、抽出力を促進させることができる。
【0035】
抽出工程における圧力条件は、大気圧以上が好ましく、0.01〜0.4MPaがより好ましい。抽出工程を大気圧以上の圧力下で行うことで、抽出を効率的に行える。
【0036】
処理時間は、十分に抽出が完了するまで行えばよく、例えば、1〜3時間が好ましく、1〜2時間がより好ましい。
【0037】
本発明において、酸化工程でイルメナイト相(FeTiO)をヘマタイト相(Fe)とルチル相(TiO)に変化させ、続く還元工程にてヘマタイト相(Fe)から金属鉄(Fe)に還元させている。よって、酸化・還元工程後のイルメナイトは鉄成分の体積変化に伴い、鉱石粒子表面から内部に通じる細孔が生じており、抽出工程における反応速度が飛躍的に高まる。よって、抽出工程が素早く進み、高TiO濃度のイルメナイト鉱石(アップグレードイルメナイト:UGI)を得ることができる。
【0038】
本発明で得られる高TiO濃度のイルメナイト鉱石は、TiO含有量が97質量%以上であり、本発明の方法により、チタン製造原料の高品位化をより効率的かつ効果的に実施できる。
【0039】
なお、本発明において、抽出工程でイルメナイト鉱石を処理する際に発生するガスを、水素ガスと塩酸ガスに分離し、得られた水素ガスを還元工程で、塩酸ガスを抽出工程でそれぞれ再利用することが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
以下の実施例において本発明を具体的に説明するが、この実施例はあくまで参考であり、実施例の内容により本発明の範囲を限定または制限することを表すものではない。
【0041】
本発明のイルメナイトの高品位化方法の効果を確認するため、下記の試験を実施した。
【0042】
<試験例1>
TiO品位が約50質量%のイルメナイト鉱石を出発原料とし、酸化処理を施した。大気雰囲気下にて、温度を600℃、700℃、750℃、800℃及び1000℃の5条件で酸化処理を行い、経時的な重量変化を測定した。また、十分に酸化処理され重量増加が収束したイルメナイト鉱石と原料イルメナイト鉱石をそれぞれX線回析によって解析した。X線回析(XRD)は、粉末X線回折分析装置「D8 ADVANCE」(BRUKER社製、線源Cu−Kα)を用いて測定した。各温度におけるイルメナイト鉱石の重量変化率を図1に、各温度で酸化処理した後のイルメナイト鉱石と原料イルメナイト鉱石のX線回折パターン(XRDパターン)を図2にそれぞれ示す。
【0043】
図1より、重量変化率が約3.5質量%増加したあたりで収束傾向を示すことがわかり、この重量変化率付近で酸化反応が完了したと考えられる。
また、図2より、800℃と1000℃で酸化処理したイルメナイト鉱石では酸に難溶なシュードブルッカイト(FeTiO)のピークが確認され、750℃以下では同ピークが確認されないことがわかった。この結果より、酸化処理は800℃未満で行うことが好ましく、600〜750℃の範囲が好適であることが確認された。
【0044】
<試験例2>
試験例1において750℃で酸化処理したイルメナイト鉱石を用い、還元処理を施した。水素ガス雰囲気下にて、温度を400℃、500℃、600℃及び700℃の4条件で還元処理を行い、イルメナイト鉱石の経時的な重量変化を測定した。イルメナイト鉱石の重量変化を図3に示す。
【0045】
また、700℃で還元処理した検体について、十分に還元処理され重量減少が収束したイルメナイト鉱石をX線回析によって解析した。また、酸化処理の効果を確認すべく、酸化処理を実施していないイルメナイト鉱石を、水素ガス雰囲気下、700℃の条件で30分還元処理した後、X線回析によって解析した。
X線回析(XRD)は、粉末X線回折分析装置「D8 ADVANCE」(商品名、BRUKER社製、線源Cu−Kα)を用いて測定した。
還元処理後のイルメナイト鉱石と酸化処理せずに還元処理したイルメナイト鉱石のX線回折パターン(XRDパターン)を図4に示す。
【0046】
図3より、重量変化率が約14質量%低下したあたりで収束傾向を示すことがわかり、この重量変化率付近で還元反応がほぼ完了したと考えられる。
また、図4の(a)より、酸化工程を経ることにより、鉱石中の鉄成分が酸に易溶な金属鉄まで還元されたことが確認された。一方、図4の(b)より、酸化処理を経ない場合では、鉱石にイルメナイト結晶相の残留が確認され、後工程のリーチング効率の低下が容易に推測され、還元処理前の酸化処理が必須であることが確認された。
【0047】
<試験例3>
(実施例1)
試験例1において750℃で酸化処理したイルメナイト鉱石を、水素ガス雰囲気下、700℃の条件で3時間、還元処理したイルメナイト鉱石10gを用いた。このイルメナイト鉱石10gを濃度18%の塩酸処理液50ccと混合して、大気雰囲気下、150℃(加熱機器設定温度)に維持し、1時間湿式リーチング処理を実施した。リーチング処理後のイルメナイト鉱石の成分をICP分析(「株式会社島津製作所製」)により測定した。成分分析結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
イルメナイト鉱石をベニライト法でリーチング処理した製品(購入品)であるインド産合成ルチルUGI(DCW社製)の成分をICP分析(「株式会社島津製作所製」)により測定した。成分分析結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
イルメナイト鉱石をビーチャー法でリーチング処理した製品(購入品)であるオーストラリア産合成ルチルSREP(ILUKA社製)の成分をICP分析(「株式会社島津製作所製」)により測定した。成分分析結果を表1に示す。
【0050】
(参考例1)
原料であるイルメナイト鉱石(TiO品位:約50質量%)について、実施例1と同様に成分分析した。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1より、従来の合成ルチル(UGI)と比較しても、実施例1は非常にTiO品位が高いことがわかった。よって、本発明の方法により、高TiO濃度のイルメナイト鉱石が得られることが確認された。
【0053】
<試験例4>
試験例2において、400℃、500℃、600℃及び700℃で還元処理した各検体(イルメナイト鉱石)を用い、各検体10gを濃度18%の塩酸処理液50ccと混合して、大気雰囲気下、150℃(加熱機器設定温度)に維持し、1時間湿式リーチング処理を実施した。1時間処理後の塩酸処理液中の成分をICP分析(「株式会社島津製作所製」)により測定した。成分分析結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、還元温度700℃で処理した検体において、塩酸処理液中の鉄成分の溶出が最も多く、チタン成分のロスが最も少ないことから、還元温度は700℃近傍が好適であることが確認された。
図1
図2
図3
図4