【実施例1】
【0012】
本実施例は、本発明の車両用駐車支援装置を車両に実装して、車両の駐車動作を支援するシステムを構成したものである。
(実施例の装置構成の説明)
【0013】
まず、本装置の構成について
図1と
図2を用いて説明する。本実施例の車両用駐車支援装置10は、
図1に示すように、車両15に設置されて、車両15の周囲を監視して、目標駐車位置の検出と周囲の障害物の検出を行う周囲監視部20と、車両15の運転者の自動駐車開始スイッチ80b(
図2)の操作を検出することによって、自動駐車開始の指示を検出する自動駐車開始スイッチ操作検出部30と、運転者のブレーキ操作を検出するブレーキスイッチ90c(
図2)を有するブレーキ操作検出部40と、車両15が目標駐車位置O(
図3)の近傍位置Q(
図3)で停止した際に、近傍位置Qまで走行したときの車両15の車速の変化に基づいて、車両15が平坦路をクリープ状態で走行している際に発生する基準トルクT0に対するトルク変動量Tsumを検出するトルク変動量算出部50と、検出されたトルク変動量Tsumを記憶するトルク変動量記憶部60と、記憶されたトルク変動量Tsumに基づいて、車両15を、目標駐車位置Oの近傍位置Qから目標駐車位置Oまで、車両15が平坦路をクリープ状態で走行しているときの車速である所定車速V0で走行させるために車両15に加える必要がある制駆動力Fを算出する必要制駆動力算出部70と、車両15を目標駐車位置Oまで自動運転によって移動させる自動駐車実行部80と、からなる。
【0014】
なお、車両15は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンに代表される内燃機関からなるエンジン本体94b(
図2)を有して、その出力は、
図1,
図2に非図示のトルクコンバータを介して変速機本体96b(
図2)に伝達されるものとする。そして、運転者がアクセルペダルを踏んでいないとき、すなわち、エンジン本体94bがアイドリング状態にあるときであっても、クリープ力によって、車両15は微速で移動できるものとする。
【0015】
ここで、周囲監視部20は、車両15の周囲を撮像する複数のカメラを有している。詳しくは後述する。
【0016】
トルク変動量算出部50には、車両15の車速を検出する車速検出部24が接続されている。
【0017】
トルク変動量記憶部60には、車両15の車速を検出する車速検出部24と、車両15が制動状態にあるとき、車両15の停止距離を推定する停止距離推定部42が接続されている。
【0018】
また、自動駐車実行部80は、さらに、自動運転の開始を判断する自動駐車開始判断部82と、目標駐車位置Oを設定する目標駐車位置設定部84と、車両15の移動を制御する車両移動制御部86と、自動駐車が完了したか否かを判断する駐車完了判断部88と、車両15の制動力の制御を行うブレーキ制御部90と、車両15の操舵角の制御を行うステアリング制御部92と、車両15のエンジン回転数等の制御を行うエンジン制御部94と、車両15のシフトポジションや変速比等の制御を行う変速機制御部96と、を有している。
【0019】
図2は、車両用駐車支援装置10を構成するハードウェア要素を示すハードウェアブロック図である。
【0020】
車両用駐車支援装置10は、
図2に示すように、車両15に敷設されたCANバス110に接続された、車両用駐車支援装置10が備える各制御モジュールに対して制御指令を送る、カメラECU20aと、自動駐車システム制御ECU80aと、ブレーキECU90aと、電動パワステECU92aと、エンジンECU94aと、A/T ECU96aと、を有している。
【0021】
カメラECU20aには、車両15の前端を含む前方直近領域を撮影する前方カメラ20bと、車両の左端を含む左方直近領域を撮影する左方カメラ20cと、車両の後端を含む後方直近領域を撮影する後方カメラ20dと、車両の右端を含む右方直近領域を撮影する右方カメラ20eと、がそれぞれ接続されている。そして、カメラECU20aは、これらのカメラの撮像動作を制御する。
【0022】
カメラECU20aには、さらに、車両15の運転者が車両用駐車支援装置10の動作状況を確認するためのディスプレイ22が接続されている。
【0023】
自動駐車システム制御ECU80aには、車両15の運転者が容易に操作できる位置に設けられた、自動駐車の開始を指示する自動駐車開始スイッチ80bと、予期しない障害物の進入等によって自動駐車機能が停止した際に、運転者にその旨を報知する制御停止報知ブザー80cが、それぞれ接続されている。そして、自動駐車システム制御ECU80aは、車両用駐車支援装置10の全体の動作を司る。
【0024】
ブレーキECU90aには、各タイヤ90bに備えられたブレーキ装置(非図示)が接続されており、車両15の制動力の制御を行う。また、ブレーキECU90aは、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキスイッチ90cの出力と、ブレーキ操作時のブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキストロークセンサ90dの出力をモニタするようになっている。
【0025】
電動パワステECU92aには、パワステモータ92bが接続されており、駐車動作を行う際に、パワステモータ92bの回転方向と回転量を制御して、車両15の操舵制御を行う。
【0026】
エンジンECU94aには、車両15のエンジン本体94bが接続されており、エンジン回転数の制御を行う。また、エンジンECU94aは、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ94cの出力と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ94dの出力をモニタするようになっている。
【0027】
また、A/T ECU96aには、車両15の変速機本体96bが接続されており、シフトポジションの制御を行う。
(自動駐車の流れの説明)
【0028】
次に、
図3を用いて、車両用駐車支援装置10で行われる自動駐車の一連の流れについて説明する。
【0029】
周囲監視部20は、車両15の周囲の画像を常時撮像しながら、駐車可能な位置の検出を行う。具体的には、路面に描かれた駐車枠のうち車両が駐車していない駐車枠の位置や、駐車枠が描かれていないが、車両15が停車可能な路面上のスペースが検出される。なお、車載カメラで撮像された画像の中から車両周囲の駐車可能なスペースを検出する技術は、昨今数多く提案されているため、詳細な説明は省略する。
【0030】
車両15の運転者は、車両15を駐車させる必要があるときに、
図3に示すように、駐車枠100の近傍位置Qまで、移動経路P1に沿って車両15を移動させて停止させる。その後、運転者が目標駐車位置Oを指定、もしくは、車両用駐車支援装置10が自動的に目標駐車位置Oを設定する。そして、自動駐車実行部80(
図1参照)の作用によって自動駐車機能が作動する。すると、車両15は自動駐車経路P2に沿って移動して、目標駐車位置Oに自動駐車する。
【0031】
このとき、車両用駐車支援装置10は、車両15のトランスミッション(変速機)と、操舵角と、車速を制御する。なお、自動駐車を行っている際、車両15は所定車速V0を保つように速度制御される。ここで、所定車速V0は、例えば、車両15が平担路をクリープ状態で走行しているときの車速に設定される。
【0032】
なお、自動駐車実行部80で駐車動作を行っている最中に運転者がブレーキを操作した際には、安全のため、車両15はその場で停止するものとする。また、周囲監視部20は、自動駐車実行部80が自動駐車動作を行っている間、常に車両15の周囲の障害物検出を行う。そして、車両15と接触する可能性のある障害物が検出されたときには、ブレーキ制御部90の作用によって、即座に車両15を停止させるものとする。車両15が停止したときには、前述した制御停止報知ブザー80c(
図2)が鳴動して、自動駐車機能が停止したことを車両15の運転者に報知する。
【0033】
車両15の移動中の操舵制御は、具体的には、自動駐車実行部80において、目標駐車位置設定部84で設定された目標駐車位置Oに基づいて算出された目標移動経路に基づいて行われる。そして、目標移動経路を辿るために必要な操舵角が算出されて、目標移動経路と、過去の車速と操舵角を積分して得られる車両15の現在位置との差分値、および、目標操舵角を演算するための各種係数に基づいて操舵角の補正を行いながら、目標移動経路を辿るように操舵角が制御される。
【0034】
そして、決定された目標操舵角と実際の操舵角との差分値、および、操舵角サーボ量を演算するための各種係数に基づいて、
図2に示すパワステモータ92bに流す電流値を算出して、電動パワステECU92aに出力する。
【0035】
図2に示す電動パワステECU92aは、指示された電流をパワステモータ92bに流して、車両15の操舵角を制御する。
【0036】
なお、移動経路P1は、
図4Aに示すように平坦路とそれに続く上り勾配路、または
図5Aに示すように平坦路とそれに続く下り勾配路からなる。そして、近傍位置Qは、上り勾配路の途中または下り勾配路の途中にあるとする。
【0037】
以下、車両15が平坦路とそれに続く上り勾配路を前進して、近傍位置Qで停止した後、自動駐車経路P2を後退状態で進行して目標駐車位置Oまで移動する場合と、車両15が平坦路とそれに続く下り勾配路を前進して、近傍位置Qで停止した後、自動駐車経路P2を後退状態で進行して目標駐車位置Oまで移動する場合とに分けて、車両用駐車支援装置10の作用を説明する。
(上り勾配路を前進して停止した後、後退して駐車する際の動作の説明)
【0038】
まず、
図4Aに示す上り勾配路における車両用駐車支援装置10の動作について説明する。
【0039】
自動駐車を開始するにあたり、運転者は、自ら車両15を運転して、
図3に示す目標駐車位置Oの近傍位置Qまで車両15を移動させて停止させる。目標駐車位置Oと近傍位置Qとの位置関係に特別な制約はないが、車両15を後退させて目標駐車位置Oに駐車できるように、近傍位置Qは、車両15が目標駐車位置Oを通り越した位置とするのが望ましい。そして、車両15が近傍位置Qまで移動する際に車両15に発生する駆動力と、車両15が近傍位置Qに停止する際に車両15に発生する減速度をそれぞれ算出することによって、車両15が平坦路をクリープ状態に相当する車速で走行しているときに発生する基準トルクT0に対するトルク変動量Tsumを推定する。
【0040】
図4Aは、車両15を自動駐車させる場面の一例を示す図である。すなわち、車両15が平坦路を前進した後、時刻t=t0において上り勾配路に差し掛かり、その後、上り勾配路を前進して、時刻t=t1において、近傍位置Qにおいて停止した様子を示している。
【0041】
図4Bは、車両15が
図4Aの挙動をとった際に、車速検出部24で検出される車速Vの変化を示すグラフである。すなわち、車両15が平坦路を車速Vで前進して、時刻t=t0で上り勾配路に差し掛かった後、車速Vが減少して(
図4Bの点A1と点A2の間)、時刻t=t1において車速Vbになったところで、ブレーキを踏んで停止した(
図4Bの点A2と点A3の間)様子を示している。
【0042】
図4Cは、車両15の速度比(出力軸回転速度と入力軸回転速度の比)に対する、車両15の変速機に生じるトルク比(トルクコンバータの入力軸トルクと出力軸トルクの比)の変化を示すグラフである。トルク比τは、車速比eが0のときに最大値2程度の値となり、車速比eの増大とともに減少して、車速比eが0.85付近でトルク比τは1となる。そして、その後、車速比eが1になるまで、トルク比τは1を維持する。
【0043】
図4Cに示すように、車両15の車速が減少する(車速比eが小さくなる)と、車速の減少に伴ってトルク比τが増加する。そして、その変化率がトルク増加係数Kaを表す。
図4Cの例は、車両15の車速Vに対応する車速比がe1であるときにトルク比がτ1であることを示している。また、車速Vb(Vb<V)に対応する車速比がe2であるときにトルク比がτ2であることを示している。
【0044】
車両15のトルク変動量Tsumは、アクセルを踏んでいないとき(スロットル開度=0)、すなわち、クリープ状態で車両15が移動しているときに発生する駆動トルクT1(=基準トルクT0)と、ブレーキを踏んで車両15を減速させた際に発生する減速トルクT2と、アクセルを踏んでいる(スロットル開度≠0)ときに発生する駆動トルクT3を用いて、式1で算出することができる。
Tsum=T1+T2+T3 (式1)
【0045】
このうち、駆動トルクT1(=基準トルクT0)は、車両15が平坦路をクリープ状態で前進している際の車速である所定車速V0と、車両15の実際の車速Vを用いて、式2で算出することができる。
T1=(V0―V)*Ka (式2)
【0046】
ここで、Kaは前述したトルク増加係数を示す。トルク増加係数Kaは、
図4Cのグラフの傾き、すなわち、式によって算出された値である。
Ka=(τ2−τ1)/(e1−e2) (式3)
【0047】
また、減速トルクT2は、車両15の減速度Abと、車両15の車両重量Mと、から算出することができる。ここで、減速度Abは、式4で算出することができる。
Ab=(V−Vb)/(t1−t0) (式4)
【0048】
また、車両重量Mは、乗員数や荷物量によって変化するが、乗員数や荷物量による重量増加は、減速度Abの増加となって表れるため、ここでは車両重量Mとして、予め定めた基準となる重量を利用すればよい。基準となる重量としては、例えば、車両重量と運転者1人の重量を加えた重量を用いればよい。
【0049】
そして、減速トルクT2は、式5によって算出される。
T2=Ab*M (式5)
【0050】
移動経路P1に含まれる上り勾配路の勾配が大きいときには、車両15を近傍位置Qまで移動させるために、車両15の運転者はアクセルを踏み込む必要がある。したがって、車両15には、アクセルを踏み込んだ分に相当する駆動トルクT3の増加が発生する。この駆動トルクT3は、スロットル開度Opとエンジン回転数Enとから、
図4Dを用いて推定することができる。
【0051】
図4Dに示すように、発生するエンジントルクTは、例えばエンジン回転数4000rpm付近でピークを持ち、スロットル開度Opとエンジン回転数Enとから一意に決定される。したがって、
図4Dに示す、スロットル開度Op毎のエンジン回転数EnとエンジントルクTの関係を、トルク変動量算出部50(
図1)にマップ形式で記憶しておき、必要に応じて、スロットル開度Opとエンジン回転数Enに対応するエンジントルクTを参照して、そのときに発生しているエンジントルクTを推定することができる。なお、
図4Dに示す特性は車両によって異なるため、車両毎の特性を用意しておく必要がある。
【0052】
次に、必要制駆動力算出部70で行う、車両15をクリープ状態で移動させるために必要な制駆動力Fの算出方法について説明する。
【0053】
図4Aに示す場面にあるとき、目標駐車位置Oの近傍位置Qにおいて、車両15の制動力を解除すると、車両15は増速して上り勾配路を後退する。そして、そのままの状態を維持すると車速が増加してしまうため、目標駐車位置Oに至る自動駐車経路P2(
図3)を辿ることができなくなってしまう。
【0054】
そのため、自動駐車経路P2を辿る際には、車両15に適切な制駆動力F(この場合は制動力)を作用させる必要がある。以下、必要な制駆動力Fを発揮させるためのブレーキ液圧Bの算出方法について説明する。
【0055】
平坦路において車両15がクリープ状態で後退する際に、所定車速V0を維持するために必要なブレーキ液圧がB0であったとする。このとき、車両15が停止した近傍位置Qが上り勾配路であったときには、後退時の車速をクリープ状態の所定車速V0とするために、ブレーキ液圧B0に対して、車両15が近傍位置Qに停止したときに発生したトルク変動量Tsumに応じたブレーキ液圧分を増圧させる必要がある。
【0056】
すなわち、必要なブレーキ液圧B1は、式(6)で算出される。
B1=B0+Tsum*Kb (式6)
ここで、Kbは制動力増加係数を表している。この制動力増加係数Kbは車両毎に異なるため、予め、式6の関係式を車種毎に算出して、
図6に示す制駆動力算出マップMpを生成して必要制駆動力算出部70(
図1)に記憶しておく必要がある。
【0057】
なお、
図6からわかるように、駆動力側のトルク変動量Tsumが正の値であるときは、上り勾配が大きい路面であるときほど(
図6の右方向ほど)、その上り勾配路を下って自動駐車を行う際に、クリープ状態の車速を維持するために、より高いブレーキ液圧Bをかける必要があることがわかる。
(下り勾配路を前進して停止した後、後退して駐車する際の動作の説明)
【0058】
次に、
図5Aに示す路面状態であるときの動作について、同様に説明する。車両15を目標駐車位置Oの近傍位置Qまで移動させて停止させた際には、前述した上り勾配路において算出したトルク変動量Tsumに加えて、車両15の制動に伴う制動トルクT4が発生する。したがって、下り勾配路におけるトルク変動量Tsumは、式7で算出することができる。
Tsum=T1+T2+T3−T4 (式7)
【0059】
ここで、車両15の後方に働く力、すなわち、上り勾配路の抵抗を受けている場合に作用する力をプラス、車両15の後方に働く力、すなわち、下り勾配路の抵抗を受けている場合に作用する力をマイナスした。したがって、車両15に制動力が作用したときは、制動トルクT4の分だけトルク減少量となるマイナスの力が作用するため、トルク変動量Tsumが小さくなる。すなわち、式7において、駆動トルクT1,T3および減速トルクT2は正の値として加算されて、制動トルクT4は負の値として加算される。
【0060】
なお、制動トルクT4は、下り勾配路で車両15を停止させるために発生させた制動トルクTbを表しており、例えば
図5Bに示すように、ブレーキストローク量Bsに応じて単調に増大する量となる。
【0061】
この制動トルクT4(Tb)は、例えば、
図5Bをマップ形式で記憶しておき、ブレーキストロークセンサ90d(
図2)で検出したブレーキストローク量Bsに対応する制動トルクTbを読み取ることによって、容易に算出することができる。なお、
図5Bに示した特性は車種毎に異なるため、車両毎に専用のマップを作成しておく必要がある。
【0062】
次に、必要制駆動力算出部70(
図1)で行う、車両15をクリープ状態で移動させるために必要な制駆動力Fの算出方法について説明する。
【0063】
図5Aに示す場面にあるとき、目標駐車位置Oの近傍位置Qにおいて、車両15の制動力を解除すると、車両15は増速して、そのまま下り勾配を下ってしまうため、目標駐車位置Oに至る自動駐車経路P2(
図3)を辿ることができなくなってしまう。
【0064】
そのため、自動駐車経路P2を辿る際には、車両15に適切な制駆動力F(この場合は駆動力)を作用させる必要がある。以下、必要な制駆動力Fを発揮させるためのスロットル開度の算出方法について説明する。
【0065】
この場合には、先に説明した
図6を、トルク変動量Tsumが負の値となる領域にまで拡大することによって使用することができる。すなわち、
図5Aの場面にあるときは、式7によって算出したトルク変動量Tsumが負の値となるため、近傍位置Qで停止した後、下り勾配路を後退しながら登って自動駐車を行う際には、車両15のスロットルを開いて駆動力を発生させて、クリープ状態の車速を維持するために、適切なスロットル開度Opを与える必要がある。そして、そのときのスロットル開度Opは、
図6の第3象限Q3の領域の特性を参照して算出することができる。
(自動駐車開始時に与える制駆動力Fの算出方法の説明)
【0066】
車両15が上り勾配路または下り勾配路を走行して停止した後、自動駐車制御を開始して、その勾配路を後退する際には、運転者は車両15のアクセル,ブレーキ操作を行わないため、車両15を、平坦路をクリープ状態で走行しているときの車速である所定車速V0で移動させるためには、車両15に対して所定の制駆動力Fを加える必要がある。制駆動力Fの算出は必要制駆動力算出部70(
図1)で行うが、以下、その制駆動力Fを算出する方法について説明する。
【0067】
まず、トルク変動量算出部50(
図1)において、車両15が上り勾配路または下り勾配路を走行して停止した際に、停止する直前のトルク変動量Tsumを算出して、トルク変動量記憶部60に記憶する。
【0068】
図7(a)〜(d)は、車両15が停止する直前の時刻tにおけるトルク変動量Tsum(t)を算出して記憶するタイミングを説明する図である。
図7(a)に示すように、車速検出部24(
図1)で検出される、時刻tにおける車両15の車速V(t)は、停止直前にはほぼ単調に減少して、時刻t1で停止する。
【0069】
このとき、時刻tにおける車両15の減速度Ab(t)は、車速V(t)を時間微分することによって、
図7(b)のように算出される。
【0070】
図7(c)は、停止距離推定部42(
図1)において、時刻tにおける車速V(t)と減速度Ab(t)から推定される、車両15が停止するまでに要する距離A(t)を示す。
【0071】
図7(d)は、トルク変動量算出部50(
図1)で算出されるトルク変動量の一例である。特に、車両15が下り勾配路を下っているとき(
図5A)は、このトルク変動量Tsum(t)は制動力方向のトルク増加量となる。一方、
図7(d)には図示しないが、車両15が上り勾配路を登っているときは、トルク変動量Tsum(t)は駆動力方向のトルク増加量となる。
【0072】
ここで、必要制駆動力算出部70(
図1)において、自動駐車制御を開始した際に車両15に与える制駆動力Fを算出するためには、車両15が停止する直前のトルク変動量Tsum(t)を利用する必要がある。したがって、
図7(d)に示したトルク変動量Tsum(t)を記憶しておく必要がある。
【0073】
このとき、原理的には車両15が停止する直前のトルク変動量Tsum(t)を記憶すればよいが、停止直前の運転者の操作によっては、急制動がかかって車両15が急停止する虞がある。このような急制動を行った際のトルク変動量Tsum(t)を記憶してしまうと、自動駐車制御を開始した際に与える制駆動力Fが、本来与えるべき制駆動力Fと異なってしまう虞がある。すると、自動駐車制御を開始した際の車速Vが所定車速V0と異なってしまうため、その後の自動駐車制御において、車速Vのオーバーとアンダーが周期的に繰り返される、いわゆる制御の発散を招いてしまう虞がある。
【0074】
したがって、本実施例にあっては、車両15が停止するまでに要する距離A(t)が所定距離Athを下回った時刻(
図7(c)の点K1)から所定時間Δt前(
図7(d)の点K2)のトルク変動量Tsum(t)を記憶する。ここで、所定距離Athは、例えば1mに設定されて、所定時間Δtは、例えば、トルク変動量Tsum(t)の算出を行う1制御周期(例えば100msec)の時間に設定される。これによって、運転者個人の運転特性に影響されることのないトルク変動量Tsum(t)を算出し記憶することができる。
【0075】
なお、所定時間Δtが0、すなわち、車両15が停止するまでに要する距離A(t)が所定距離Athを下回った時刻(
図7(c)の点K1)におけるトルク変動量Tsum(t)を記憶しても構わない。
【0076】
このようにして記憶されたトルク変動量Tsum(t)に基づいて、必要制駆動力算出部70において、自動駐車開始時に与える制駆動力Fを算出する。具体的には、トルク変動量記憶部60(
図1)に記憶されたトルク変動量Tsumが正の値であるときは、
図6の第1象限Q1にプロットされた特性に基づいて、自動駐車開始時に与えるべき制駆動力Fとしてブレーキ液圧Bを算出する。
【0077】
一方、トルク変動量Tsumが負の値であるときは、
図6の第2象限Q2または第3象限Q3にプロットされた特性に基づいて、自動駐車開始時に与えるべき制駆動力Fとして、ブレーキ液圧Bまたはスロットル開度Opを算出する。
【0078】
すなわち、上り勾配路の勾配が緩やかになると、その上り勾配路を後退して下りながら自動駐車を行う際のトルク変動量Tsumが小さくなる。このとき、ブレーキ液圧B0以下の小さいブレーキ液圧を加えることによって、車両15は所定速度V0で緩やかな上り勾配を後退する。これが、
図6の第2象限Q2の状態である。
【0079】
そして、逆に下り勾配路になると、所定のスロットル開度Opを与えてエンジンの駆動力を発生させないと、車両15は下り勾配路を登って後退することができない。そのために必要なスロットル開度Opは、
図6の第3象限Q3の特性を参照して算出することができる。
【0080】
以上、車両用駐車支援装置10で行われる処理の概要を説明したが、次に、
図8のフローチャートを用いて、全体の処理の流れを説明する。
(車両用駐車支援装置で行われる処理の流れの説明)
【0081】
(ステップS10)目標駐車位置設定部84(
図1)において、目標駐車位置設定処理を行う。なお、カメラで撮像された車両周囲の画像の中から目標駐車位置を検出する処理は、昨今多くの方式が提案されているため、詳細な説明は省略するが、そのいずれの方法を用いて行っても構わない。
【0082】
(ステップS20)トルク変動量算出部50(
図1)において、トルク変動量算出処理を行う。トルク変動量算出処理の詳細な処理の流れについては後述する。
【0083】
(ステップS30)必要制駆動力算出部70(
図1)において、初期制駆動力算出処理を行う。初期制駆動力算出処理の詳細な処理の流れについては後述する。
【0084】
(ステップS40)自動駐車実行部80(
図1)において、自動駐車を実行する。具体的な制御は、前述した自動駐車システム制御ECU80a(
図2)で行われて、車両15の操舵角と制駆動力がそれぞれ制御される。
(トルク変動量算出処理の流れの説明)
【0085】
次に、
図9のフローチャートを用いて、トルク変動量算出処理の流れについて説明する。
【0086】
(ステップS100)トルク変動量算出部50(
図1)において、車両15の車速Vと、クリープ状態における車速である所定車速V0と、トルク増加係数Kaと、から駆動トルクT1を求める。
【0087】
(ステップS110)トルク変動量算出部50(
図1)において、車両15の減速度Abと、車両重量Mと、から減速トルクT2を求める。
【0088】
(ステップS120)トルク変動量算出部50(
図1)において、車両15のスロットル開度Opと、エンジン回転数Enと、から駆動トルクT3を推定する。
【0089】
(ステップS130)ブレーキストロークセンサ90d(
図2)で検出されたブレーキストローク量Bsを用いて制動トルクT4を推定する。なお、ブレーキストローク量Bsが0であるとき、すなわち、ブレーキが踏まれていないときはT4=0となる。
【0090】
(ステップS140)トルク変動量算出部50(
図1)において、駆動トルクT1,T3と、減速トルクT2,制動トルクT4からトルク変動量Tsumを求める。
【0091】
(ステップS145)算出されたトルク変動量Tsumをトルク変動量記憶部60(
図1)に記憶する。
【0092】
(ステップS150)車両15の変速機のシフトポジションに基づいて、車両15が前進方向にあるか否かを判定する。車両15が前進方向にあるときはステップS160に進み、それ以外のときは、
図9の処理を終了してメインルーチン(
図8)に戻る。
【0093】
(ステップS160)停止距離推定部42(
図1)において、車両15が停止するまでに要する距離Aが,所定距離Athを下回ったか否かを判定する。距離Aが所定距離Athを下回ったときはステップS170に進み、それ以外のときはステップS100に戻る。
【0094】
(ステップS170)車両15が停止するまでに要する距離Aが所定距離Athを下回った時刻から所定時間Δt前のトルク変動量Tsumの値を、トルク変動量記憶部60(
図1)から読み出して、トルク変動量T5(Tsum)とする。
【0095】
(ステップS180)ステップS170において読み出されたトルク変動量T5(Tsum)を、改めてトルク変動量記憶部60(
図1)に記憶する。その後、メインルーチン(
図8)に戻る。
(初期制駆動力算出処理の流れの説明)
【0096】
次に、
図10のフローチャートを用いて、初期制動力算出処理の流れについて説明する。
【0097】
(ステップS200)目標駐車位置設定部84(
図1)において、目標駐車位置Oが設定済みであるか否かを判定する。設定済みであるときはステップS210に進み、それ以外のときは、
図8の処理を終了してメインルーチン(
図8)に戻る。
【0098】
(ステップS210)車両15の変速機のシフトポジションに基づいて、車両15が後退方向にあるか否かを判定する。車両15が後退方向にあるときはステップS220に進み、それ以外のときは、
図8の処理を終了してメインルーチン(
図8)に戻る。
【0099】
(ステップS220)自動駐車開始スイッチ80b(
図2)が押されたか否かを判定する。自動駐車開始スイッチ80bが押されたときはステップS230に進み、それ以外のときは、
図8の処理を終了してメインルーチン(
図8)に戻る。
【0100】
(ステップS230)トルク変動量記憶部60(
図1)に記憶されたトルク変動量T5(Tsum)が0以上の値か否かを判定する。トルク変動量T5が0以上であるときはステップS240に進み、それ以外のときは、ステップS250に進む。
【0101】
(ステップS240)ブレーキスイッチ90c(
図2)の出力をモニターして、ブレーキスイッチ90cがOFFであるか否かを判定する。ブレーキスイッチ90cがOFF、すなわち車両15のブレーキが踏まれていないときはステップS260に進み、それ以外のときはステップS240を繰り返す。
【0102】
(ステップS250)必要制駆動力算出部70(
図1)において、トルク変動量T5(Tsum)に基づいてスロットル開度Opを推定する。具体的には、必要制駆動力算出部70に記憶された制駆動力算出マップMp(
図6)を参照して必要な駆動力を与えるスロットル開度を算出する。
【0103】
(ステップS260)必要制駆動力算出部70(
図1)において、ブレーキ液圧B0と、トルク変動量T5(Tsum)と、制動力増加係数Kbと、からブレーキ液圧B1を求める。具体的には、必要制駆動力算出部70に記憶された制駆動力算出マップMp(
図6)を参照して必要な制動力を与えるブレーキ液圧を算出する。
【0104】
(ステップS270)ブレーキ制御部90(
図1)において、ブレーキ液圧B1に相当する制動力を算出する。その後、メインルーチン(
図8)に戻る。
【0105】
(ステップS280)エンジン制御部94(
図1)において、スロットル開度Opに相当する駆動力を算出する。その後、メインルーチン(
図8)に戻る。
【0106】
以上説明したように、このように構成された実施例1の車両用駐車支援装置10によれば、車両15を目標駐車位置Oの近傍位置Qに停止させたときに、トルク変動量算出部50が車両15の車速Vの変化と車両15のスロットル開度Opとエンジン回転数En、およびブレーキストローク量Bsに基づいて、車両15が平担路を所定車速V0で走行しているときに発生する基準トルクに対するトルク変動量Tsumを算出する。次に、必要制駆動力算出部70が、先に算出されたトルク変動量Tsumに基づいて、車両15を目標駐車位置Oに向けて自動走行させた際に、所定車速V0を得るために、車両15に加える必要がある制駆動力Fを算出する。そして、自動駐車実行部80が、算出された制駆動力Fを車両15に加えることによって、車両15を所定車速V0で自動走行させる。したがって、車両15の停止位置の勾配状態に関わらず、車両15を停止させた直後には、自動駐車を行う際に車両を所定車速で移動させるために必要な制駆動力Fを算出することができるため、自動駐車時の速度制御を即座に開始することができる。
【0107】
また、実施例1の車両用駐車支援装置10によれば、トルク変動量算出部50は、車両15の車速Vと所定車速V0との車速差と、車両15の減速度Abと、車両15のスロットル開度Opと、車両15のエンジン回転数Enと、ブレーキストローク量Bsに基づいてトルク変動量Tsumを算出するため、車両15を減速させて、目標駐車位置Oの近傍位置Qに停止させさえすれば、トルク変動量Tsumを算出することができる。そして、このトルク変動量Tsumは、目標駐車位置Oの近傍位置Qに至る路面の勾配と相関の高いパラメータであるため、簡便な演算で、目標駐車位置Oに至る路面の勾配を推定することができる。
【0108】
そして、実施例1の車両用駐車支援装置10によれば、車両15が目標駐車位置の近傍位置で停止する際に、車両15の減速度Ab(t)から推定した車両15が停止するまでに要する距離A(t)(停止距離)が、所定距離Athを下回った時刻のトルク変動量Tsumまたはその時刻から所定時間Δt前のトルク変動量Tsumを算出して記憶するため、急制動を行う等の運転者個人の運転特性に影響されることのないトルク変動量Tsumを確実に算出することができる。
【0109】
さらに、実施例1の車両用駐車支援装置10によれば、必要制駆動力算出部70は、トルク変動量Tsumと、トルク変動量Tsumが発生した路面において、車両15を所定車速V0で移動させる際に必要な制駆動力Fと、の関係を記述した制駆動力算出マップMpを有して、この制駆動力算出マップMpに基づいて制駆動力Fを算出する。したがって、車両15に加える制駆動力Fを簡便に算出することができる。
【0110】
なお、実施例1は、本発明を、移動経路P1を前進した車両15が、目標駐車位置Oの近傍位置Qで一旦停止した後、後退して駐車を行う場面に適用した例であるが、これは、目標駐車位置Oの近傍位置Qで一端停止した後で、そのまま前進して駐車を行う場合であっても、同様にして適用することが可能である。
【0111】
また、実施例1では、自動駐車を行う際の所定車速V0を、車両15が平坦路をクリープ状態で走行しているときの車速に設定したが、その車速に限定されるものではない。すなわち、予め設定された一定の目標車速であれば所定車速V0の値は問わない。
【0112】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであるため、本発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。