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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-145872(P2017-145872A)
(43)【公開日】2017年8月24日
(54)【発明の名称】相対運動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20170728BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20170728BHJP
   F16N 39/00 20060101ALI20170728BHJP
   B60G 15/06 20060101ALI20170728BHJP
【FI】
   F16C33/10 Z
   F16C17/10 Z
   F16N39/00
   B60G15/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-27428(P2016-27428)
(22)【出願日】2016年2月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森重 晃一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 渉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 耕平
【テーマコード(参考)】
3D301
3J011
【Fターム(参考)】
3D301AB01
3D301AB02
3D301CA09
3D301DB11
3D301DB17
3D301EC01
3J011AA06
3J011BA06
3J011DA01
3J011JA02
3J011KA04
3J011MA12
3J011MA22
3J011RA02
3J011RA03
(57)【要約】
【課題】複数の部材が相対運動する相対運動部材において、当該複数の部材の運動時の摩擦抵抗の制御が可能な相対運動部材を提供する。
【解決手段】絶縁体からなる第1部材と、該第1部材に対して相対運動可能な絶縁体からなる第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に位置する空間に充填された潤滑剤と、を有する相対運動部材であって、前記潤滑剤はER流体を含み、前記空間に、前記第1部材及び前記第2部材の相対運動方向に対して垂直な方向成分を含む電界を形成するための一又は複数の電極が、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれに設けられている相対運動部材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体で構成される第1部材と、
該第1部材に対して相対運動可能な絶縁体で構成される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との摺動面間に介在する潤滑剤と、を有する相対運動部材であって、
前記潤滑剤はER流体を含み、
前記摺動面間に、前記第1部材及び前記第2部材の相対運動方向に対して垂直な方向成分を含む電界を形成するための一又は複数の電極が、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれに設けられていることを特徴とする相対運動部材。
【請求項2】
請求項1に記載の相対運動部材において、前記一又は複数の電極に印加される電圧が一定条件下で、前記第1部材及び前記第2部材を相対運動させたとき、前記一又は複数の電極により前記摺動面間に形成される電界強度が変化することを特徴とする相対運動部材。
【請求項3】
請求項2に記載の相対運動部材において、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の電極は離散した状態で複数設けられており、かつ前記第1部材及び前記第2部材の相対運動方向に対して垂直な方向において、前記第1部材及び前記第2部材の相対運動に応じて前記電極の重なり合う面積が変化するように設けられていることを特徴とする相対運動部材。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の相対運動部材において、前記第1部材及び前記第2部材の電極は、前記第1部材及び前記第2部材が一定方向に相対運動するとき、一方の電極と他方の電極との間隔の前記第1部材及び前記第2部材の相対運動行程に沿った積分値が変化するように設けられていることを特徴とする相対運動部材。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の相対運動部材において、前記第1部材及び前記第2部材を、ある位置を基準として第1方向に相対運動させたときと、該第1方向とは異なる第2方向に相対運動させたときとで、前記第1方向及び前記第2方向の前記第1部材及び前記第2部材の可動範囲の少なくとも一部において、前記電界強度の変化態様が対称性を有することを特徴とする相対運動部材。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の相対運動部材において、前記第1部材及び前記第2部材を、ある位置を基準として第1方向に相対運動させたときと、該第1方向とは異なる第2方向に相対運動させたときとで、前記第1方向及び第2方向の前記第1部材及び前記第2部材の可動範囲の少なくとも一部において、前記電界強度の変化態様が非対称性を有することを特徴とする相対運動部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の相対運動部材において、自動車のサスペンション用のスラスト滑り軸受として用いられることを特徴とする相対運動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対運動部材に関し、特に、自動車におけるサスペンションに使用し得るスラスト滑り軸受に適用可能な相対運動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪自動車の前輪に用いられるストラット型サスペンションは、一般に、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルばねを組合せた構造をもっている。かかるサスぺンションにおいては、ハンドル操作においてストラットアッセンブリがコイルばねと共に回る際に、ストラットアッセンブリのピストンロッドが回る形式のものと、ピストンロッドが回らない形式のものとがあるが、いずれの形式においてもストラットアッセンブリの円滑な回動を許容するべく、ストラットアッセンブリの車体への取付機構とコイルばねの一端を受容する板金製の上部ばね座部材との間に、合成樹脂製のスラスト滑り軸受が使用される場合がある(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
このようなスラスト滑り軸受においては、ハンドル操舵時に操舵フィーリングを良好にするため、ハンドルからの入力に対し可能な限り低い摩擦抵抗で稼働することが望まれる。一方、路面からの入力(障害物の乗り越し等による外乱)に対しては、直進安定性を良好にするため、一定以上の摩擦抵抗が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5157210号公報
【特許文献2】特許第5673110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のスラスト滑り軸受は、上記の相反する要求に対して操舵フィーリングと直進安定性とでいずれかを優先させて摩擦仕様を決めており、車両においては操舵フィーリングと直進安定性を両立させることが困難であった。従って、必要に応じて摩擦抵抗の制御が可能であれば、ハンドル操舵時には摩擦抵抗を小さくし、直進走行時には摩擦抵抗を大きくすることができ、上記のような問題を解決することができるため有用である。
【0006】
一方、このような摩擦抵抗の制御は、自動車のサスペンション用のスラスト滑り軸受においてのみならず、複数の部材が相対運動するものにおいても所望されることがあり、当該複数の部材の運動時の摩擦抵抗の制御が実現できれば有用である。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされてものであり、その目的は、複数の部材が相対運動する相対運動部材において、当該複数の部材の運動時の摩擦抵抗の制御が可能な相対運動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の相対運動部材は、絶縁体からなる第1部材と、該第1部材に対して相対運動可能な絶縁体からなる第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との摺動面間に介在する潤滑剤と、を有する相対運動部材であって、前記潤滑剤はER流体を含み、前記摺動面間に、前記第1部材及び前記第2部材の相対運動方向に対して垂直な方向成分を含む電界を形成するための一又は複数の電極が、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれに設けられていることを特徴とする。
【0009】
ER流体は、電界が印加されると電界に平行な鎖状の凝集体を形成する。また、ER流体は印加される電界強度の大小に応じて電界に平行な鎖状の凝集体の形成能が変化する。具体的には、電界強度が大きいと当該凝集体の形成能が大きく、逆に電界強度が小さいと当該凝集体の形成能が小さくなる。従って、本発明の相対運動部材において、第1部材と第2部材との摺動面間に介在する潤滑剤にER流体を含ませることで、第1部材及び第2部材に備えられた電極間に、第1部材及び第2部材の相対運動方向に対して垂直な方向成分を含む電界を形成すると、ER流体が電界に平行な鎖状の凝集体を形成し、前記潤滑剤の粘度が増大する。ひいては、前記潤滑剤に粘性抵抗が生じ、第1部材及び第2部材の相対的な運動に制動がかかる。また、電界強度の大小に応じて潤滑剤の粘性抵抗が変化する。従って、前記電極間の電界強度の大小の調整により、第1部材及び第2部材の相対運動に対しての摩擦抵抗の制御が可能となる。
【0010】
本発明の相対運動部材において、前記一又は複数の電極に印加される電圧が一定条件下で、前記第1部材及び前記第2部材を相対運動させたとき、前記一又は複数の電極により前記摺動面間に形成される電界強度が変化することが好ましい。このような構成においては、上記電極に印加される電圧が一定でも、第1部材及び第2部材が相対運動することで、前記摺動面間に形成される電界強度の変化により潤滑剤の粘性抵抗が変化し、第1部材及び第2部材の相対運動に対しての摩擦抵抗を変化させることが可能となる。このような一又は複数の電極により前記摺動面間に形成される電界強度が変化する構成としては、例えば、以下の構成が挙げられる。
(1)前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の電極は離散した状態で複数設けられており、かつ前記第1部材及び前記第2部材の相対運動方向に対して垂直な方向において、前記第1部材及び前記第2部材の相対運動に応じて前記電極の重なり合う面積が変化するように設けられる。一対の電極間の電界強度は、対向する電極の面積に比例して高くなるため、この構成では、第1部材及び第2部材の相対運動に応じて電極の重なり合う面積が変化することで電界強度が変化する。
(2)前記第1部材及び前記第2部材の電極は、前記第1部材及び前記第2部材が一定方向に相対運動するとき、一方の電極と他方の電極との間隔の前記第1部材及び前記第2部材の相対運動行程に沿った積分値が変化するように設けられる。一対の電極間の電界強度は、対向する電極の間隔に反比例して低くなるため、この構成では、一方の電極と他方の電極との間隔の第1部材及び第2部材の相対運動行程に沿った積分値が変化することで電界強度が変化する。
【0011】
本発明の相対運動部材において、前記第1部材及び前記第2部材を、ある位置を基準として第1方向に相対運動させたときと、該第1方向とは異なる第2方向に相対運動させたときとで、前記第1方向及び第2方向の前記第1部材及び前記第2部材の可動範囲の少なくとも一部において、前記電界強度の変化態様が対称性又は非対称性を有することが好ましい。第1部材及び第2部材を、ある基準位置から第1の方向に相対運動させた場合と、該第1方向とは異なる第2方向に相対運動させた場合とで、前記電界強度が非対称性を有する場合、第1部材及び第2部材の可動範囲の少なくとも一部において潤滑剤の粘性抵抗の変化態様は異なる。逆に、前記電界強度が対称性を有する場合、潤滑剤の粘性抵抗の変化態様は同じとなる。すなわち、前記積分値が対称性又は非対称性を有することにより、ある基準位置における第1部材と第2部材を第1方向及び第2方向のいずれかの方向に相対運動することにより潤滑剤の粘性抵抗の変化態様を同じとすることも異ならせることもできる。ひいては、ある基準位置において第1部材及び第2部材の相対移動方向に応じた摩擦抵抗の変化態様を同じ又は変化するといった構成とすることができる。例えば、ある基準位置において第1部材及び第2部材が、第1方向では摩擦抵抗が大きくなり、第2方向では摩擦抵抗が小さくなるといった構成とすることができる。従って、相対運動する複数の部材を有する装置などにおいて、複数の部材の摩擦抵抗の制御について様々な要望に応えることが可能となる。
【0012】
本発明の相対運動部材は、自動車のサスペンション用のスラスト滑り軸受として用いると、必要に応じてハンドル操舵に対する摩擦抵抗の制御が可能となり好ましい。例えば、ハンドル操舵時には摩擦抵抗を小さくし、直進走行時には摩擦抵抗を大きくするといった制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の相対運動部材を適用したスラスト滑り軸受の一実施形態を示す斜視図。
図2図1に示すスラスト滑り軸受において、電極を透視して示す上面図。
図3図2のA−B線の沿った断面図。
図4】下部ケースの電極の位置を、図3に示す位置とは異ならせた態様を示す断面図。
図5】上部ケース(5A)及び下部ケース(5B)に設けられた電極を上方からみた状態を示す模式図。
図6図5に示す電極を有するスラスト滑り軸受において、上部ケースの回動角度に対する抵抗力を示すグラフ。
図7】上部ケース(7A)及び下部ケース(7B)に設けられた電極を上方からみた状態を示す模式図。
図8図7の電極のP−Q線に沿った断面図(8A)、及びR−Sに沿った断面図(8B)。
図9図7、8に示す電極を有するスラスト滑り軸受において、上部ケースの回動角度に対する摩擦抵抗力を示すグラフ。
図10図7とは別の態様の電極のP−Q線に沿った断面図(10A)、及びR−Sに沿った断面図(10B)。
図11図10に示す電極を有するスラスト滑り軸受において、上部ケースの回動角度に対する摩擦抵抗力を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の相対運動部材の一実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明の相対運動部材を、自動車のサスペンション用のスラスト滑り軸受に適用した形態である。図1は、本発明を適用したスラスト滑り軸受10の斜視図である。図1に示すスラスト滑り軸受10は、絶縁体からなる環状の第1部材としての上部ケース12と、上部ケース12に重ね合わされる、絶縁体からなる環状の第2部材としての下部ケース14と、上部ケース12と下部ケース14との間に配された環状の軸受片16とを有する。上部ケース12及び下部ケース14は、軸受片16を介して相対的にスムースに回動するように適正なクリアランスを有した状態で重ね合わされている。また、軸受片16のスラスト部16Aには 径方向に放射状に伸びる、潤滑剤を保持し得る溝16Bが周方向に等間隔に複数設けられている。
【0015】
上部ケース12及び下部ケース14と軸受片16とのそれぞれの間に位置する摺動面間には、ER流体を含む潤滑剤が介在している。潤滑剤としては、グリースなど公知の潤滑剤を使用することができる。また、ER(エレクトロレオロジー)流体は、電界の印加、除去によってレオロジー特性が可逆的に変化するものであり、種々のものが知られている。例えば、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、イオン交換樹脂、セルロースなどが挙げられ、中でも、ポリエチレングリコールを用いることが好ましい。一般的なER流体は、分散粒子として固体状の微粒子を用いるが、固体状の微粒子をグリース中に分散させると、微粒子が摺動面に埋没し、摺動部の摩耗を促進させてしまう。それに対して、ポリエチレングリコールは液状であり、摺動面の摩耗を促進しないため好適に使用することができる。
【0016】
また、上部ケース12及び下部ケース14のそれぞれには、軸受片16を間に挟んで、上部ケース12及び下部ケース14の相対回動方向に対して垂直な方向成分を含む電界を形成する電極18、20が埋設されている。上部ケース12には、図2に示すように、電極18が周方向全体にわたり設けられており、図示しないが、下部ケース14にも電極20が上部ケース12と同様に周方向全体にわたり設けられている。そして、電極18、20は、図3に示すように、配線を介して電源21に接続される。図3においては、電極18が正極を、電極20を負極に接続された状態を示しているが、その逆としてもよい。また、電極18、20は、それぞれ、上部ケース12及び下部ケース14に埋設したが、上部ケース12及び下部ケース14に着接した状態で設けてもよい。
【0017】
以上の構成において、電極18、20に接続された電源21がオフの状態では、潤滑剤中のER流体は無秩序に流動している。そして、当該電源21をオンにし、電極18、20間に電界を形成すると、潤滑剤中のER流体が電界に平行な鎖状の凝集体を形成し、電源21がオフの状態よりも潤滑剤の粘度が増大するため粘性抵抗が増大する。従って、上部ケース12が、軸受片16を介して下部ケース14に対して相対回動するときER流体を含む潤滑剤により摩擦抵抗が生じ、上部ケース12及び下部ケース14に相対的な回動に制動がかかる。すなわち、電極18及び電極20に接続された電源21の調整により、換言すると両電極間の電界強度の大小の調整により、ER流体を含む潤滑剤の粘度を制御することができ、上部ケース12及び下部ケース14の相対的な回動に対しての摩擦抵抗の制御が可能となる。
【0018】
図3においては、下部ケース14に埋設する電極20を軸受片16の近傍に設けたが、図4に示すように下部ケース14の下部に設けてもよい。ただし、ER流体を含む潤滑剤中のER流体は、印加する電圧が一定であれば、電極との距離が近い程、上記のような、電界に平行な鎖状の凝集体を形成しやすいため図3に示す形態の方が好ましい。
【0019】
以上の実施形態では、上部ケース12及び下部ケース14の周方向の全体に電極を設ける形態を示したが、本発明はそれに限定されず、上部ケース12及び下部ケース14の少なくとも一方の周方向の一部に電極を設けてもよい。この場合、上部ケース12と下部ケース14とで、電極を設ける位置や面積を異ならせてもよい。
【0020】
また、以上の実施形態では、上部ケース12及び下部ケース14に電極を設ける形態を示したが、下部ケース14に設けた電極20は軸受片16に設けてもよい。この場合においても、上部ケース12と軸受片16との間の摺動面にER流体を含む潤滑剤が介在するため、上記実施形態と同様の効果を発揮する。さらに、上部ケース12と軸受片16とに電極を設ける形態の他、軸受片16と下部ケース14とに電極を設ける形態であってもよいし、上部ケース12と下部ケース14及び軸受片16の3つのいずれにも電極を設ける形態であってもよい。
【0021】
次いで、一又は複数の電極に印加される電圧が一定条件下で、上部ケース12及び下部ケース14を相対的に回動させたとき、一又は複数の電極により、上部ケース12と下部ケース14との間に形成される電界強度が変化する形態について説明する。
【0022】
図5は 上部ケース12(図5A)及び下部ケース14(図5B)の電極18、20を周方向に離散して複数(4つ)設けた形態を示す上面図(電極のみを透視して示す)であり、図1〜3と実質的に同じ構成要素には同じ符号を付している。図5に示すように、上部ケース12及び下部ケース14のいずれにも、同一径方向面積の電極が同じ間隔(45°に相当する間隔)で設けられている。図5において、上部ケース12及び下部ケース14の相対回動方向に対して垂直方向において、点Aと点Bとが一致する状態(θ=0°)で、上部ケース12及び下部ケース14の電極18、20の重なり合う面積が最大となる。従って、この状態で電極18、20に接続された電源をオンにすると、潤滑剤の粘性抵抗が最大となる。そして、電源をオンにした状態で上部ケース12が回動すると、電極18、20の重なり合う面積が減少し、電界が印加されるER流体が減少するため、潤滑剤の粘性抵抗が減少する。このような、上部ケース12の回動角度と、それに対する潤滑剤の粘性抵抗力の大きさをグラフで示したのが図6である。図6に示すように、例えば上部ケース12が0°から時計方向に回動することで粘性抵抗が減少し、45°回動したとき(θ=45°)、電極18、20の重なり合う面積は0となり、電源オンの状態における潤滑剤の粘性抵抗が最小となる。上部ケース12がさらに時計方向に回動すると粘性抵抗が増大する方向に転じ、90°回動したとき(θ=90°)、電極18、20の重なり合う面積は再び最大となる。すなわち、電源がオンの状態であっても、上部ケース12の回動により潤滑剤の粘性抵抗を変化させることができる。従って、例えば、電極18、20の重なり合う面積が最大の状態で電源をオンの状態からオフの状態にすると、急激に粘性抵抗が減少することとなるが、図5に示す形態では、上部ケース12を所定の角度だけ回動させた後に電源をオフにすることで潤滑剤の粘性抵抗は急激に減少することなく滑らかに減少させることが可能となる。そこで、例えば、四輪自動車の前輪に用いられるストラット型サスペンションに本実施形態のスラスト滑り軸受10を適用すると、ハンドリングを操作し、上部ケース12が回動した直後に電源がオフとなるように制御すると、ハンドルが急激に軽くなることなく、滑らかな操作感が得られるようになる。
【0023】
図5においては、電極18、20を、中心角45°の角度に対応する面積で設けたが、本発明は当該角度に限定されることはなく、任意の角度に対応する面積としてもよい。同様に、図5においては、電極18、20を、一定間隔で設けたが、当該間隔はランダムとしてもよい。また、上部ケース12と下部ケース14とで電極を同じ面積・間隔で設けなくてもよいし、それぞれ異ならせてもよい。
【0024】
また、図6に示すグラフにおいては、角度45°を基準として左右対称のグラフとなっているが、上部ケース12及び下部ケース14において、電極の数、面積、及び間隔のうちの少なくとも1つを変更することで、上記グラフの対称基準となる角度を変化させたり、上記グラフを非対称としたりすることができる。つまり、上部ケース12の相対回動により変化する潤滑剤の粘性抵抗の変化を調節することが可能となる。
【0025】
次いで、上部ケース12及び下部ケース14の電極が、上部ケース12及び下部ケース14が一定方向に相対回動するとき、一方の電極と他方の電極との間隔の上部ケース12及び下部ケース14の相対回動行程に沿った積分値が変化するように設けられている形態について図7〜11を参照して説明する。
【0026】
図7〜9は、上部ケース12及び下部ケース14が一定方向に相対回動するとき、上部ケース12及び下部ケース14の電極18、20の間隔が連続的に変化する形態である。上部ケース12の電極18の厚みは図8Aに示すように回動方向において連続的に変化するように形成されており、下部ケース14の電極20は図8Bに示すように厚みは一定である。上部ケース12の電極18は4つともすべて同じ形状であり、厚みが変化する方向も同じである。このような構成において、上部ケース12が下部ケース14に対して、例えば、図7において時計回りに回動すると、電極18、20の間隔が拡がるようになる。すなわち、上部ケース12及び下部ケース14の相対回動により、電極18、20は、それらの間隔の上部ケース12及び下部ケース14の相対回動行程に沿った積分値が変化するように設けられている。
【0027】
ここで、電極18、20の間隔の上部ケース12及び下部ケース14の相対回動行程に沿った積分値とは、電極18、20の間隔の周方向全体に沿った線積分である。上部ケース12及び下部ケース14の相対的な回動に伴って変化する前記間隔の積分値であり、図6に示されている変化と同様の傾向を示す。
【0028】
既述の通り、ER流体は、電極間同士の距離と反比例して電界に平行な鎖状の凝集体を形成しにくくなり、電極間同士の距離が大きくなると潤滑剤の粘度が低下する。従って、上部ケース12の回動に応じて電極間の間隔が変化することでも潤滑剤の粘性抵抗を変化させることができる。図7、8の形態においては、上部ケース12及び下部ケース14の相対回動方向に対して垂直方向において、点Aと点Bとが一致する状態(θ=0°)から上部ケース12を時計方向に回動させると、電極18、20の重なり合う面積が減少するため、電界が印加されるER流体が減少する。それとともに、電極18、20の間隔が上部ケース12の回動に応じて拡がるため、ER流体に印加される電界が弱くなる。従って、図5に示す形態と比較して、上部ケース12の回動角度に対する潤滑剤の粘性抵抗力の変化を示すグラフは図9に示すように急な勾配となる。
【0029】
なお、本実施形態では、電極18の周方向の傾斜角度を変更することで、上部ケース12及び下部ケース14の相対回動により変化する潤滑剤の粘性抵抗を調節することができる。また、図8においては、電極18のみを厚みが変化する形状としたが、電極20も同様な形状としてもよい。この場合も、電極20の周方向の傾斜角度を変更することで、上部ケース12及び下部ケース14の相対回動により変化する潤滑剤の粘性抵抗を調節することができる。
【0030】
図7〜9に示す形態においては、上部ケース12及び下部ケースの電極18、20の間隔が連続的に変化する形態を示したが、当該間隔は図10に示すように階段状に変化する形態としてもよい。本形態では、図7〜9に示す形態と同様に、上部ケース12及び下部ケース14の回動軸方向からみて、点Aと点Bとが一致する状態(θ=0°)から上部ケース12を回動させると、電極18、20の重なり合う面積が減少するため、電界が印加されるER流体が減少する。それとともに、電極18、20の間隔が上部ケース12の回動に応じて階段状に減少するため、当該間隔は段差部分で急激に広くなり、ER流体に印加される電界が急激に弱くなる。従って、図5に示す形態と比較して、上部ケース12の回動角度に対する潤滑剤の摩擦抵抗力の変化を示すグラフは図11に示すように急な勾配となり、かつ急激に変化する部分を有する。
【0031】
なお、本形態では、階段状の上部ケース12の段差部の位置、段差部の数、及び段差部における厚みの差のうちの少なくとも1つを変更することで、上部ケース12の相対回動により変化する潤滑剤の粘性抵抗を調節することができる。
【0032】
以上のように、上部ケース12、下部ケース14及び軸受片16の回動方向において、上部ケース12及び下部ケース14の電極の間隔を上部ケース12及び下部ケース14の相対回動行程に沿った積分値が変化するように設定することで、上部ケース12、下部ケース14及び軸受片16の相対的な回動により、潤滑剤の粘性抵抗を種々な態様で変化させることができる。
【0033】
また、上部ケース12及び下部ケース14を、ある位置を基準として第1方向に相対回動させたときと、該第1方向とは異なる第2方向に相対回動させたときとで、第1方向及び第2方向の第1部材及び第2部材の可動範囲の少なくとも一部において、電界強度の変化態様が対称性又は非対称性を有するように設定することができる。
【0034】
例えば、図9において、θ=20°の場合を基準とすると、上部ケース12が第1方向である時計回りに回動する場合と第2方向である反時計回りに回動する場合とで電極18、20間の電界強度の変化態様が異なる。具体的には、当該電界強度は、上部ケース12が時計回りに回動する場合は低くなり、反時計回りに回動する場合は高くなる。つまり、この場合、電界強度の変化態様が非対称性を有する。そしてこの場合、潤滑剤の粘性抵抗は、上部ケース12が時計回りに回動する場合は減少し、反時計回りに回動する場合は増大する。以上のように構成することで、例えば、ある基準位置において上部ケース12及び下部ケース14が、第1方向では摩擦抵抗が大きくなり、第1方向と異なる方向である第2方向では摩擦抵抗が小さくなるといった構成とすることができる。
【0035】
一方、図9において、θ=45°の場合を基準とすると、上部ケース12が第1方向である時計回りに回動する場合と第2方向である反時計回りに回動する場合とで電極18、20間の電界強度の変化態様は同じである。具体的には、当該電界強度は、上部ケース12が時計回りに回動する場合も、反時計回りに回動する場合も高くなる。つまり、この場合、電界強度の変化態様が対称性を有する。そしてこの場合、潤滑剤の粘性抵抗は、上部ケース12が時計回りに回動する場合も、反時計回りに回動する場合も増大する。
【0036】
以上のように、第1部材と第2部材との間に位置する摺動面間に形成される電界強度の変化態様の対称性を考慮し、基準位置を決定することで、第1部材及び第2部材の相対的な回動に応じた粘性抵抗の変化のバリエーションが増え、多様な制御が可能となる。
【0037】
以上の実施形態においては、本発明の相対運動部材をスラスト滑り軸受に適用した形態を示したが、本発明はそれに限定されることなく、2つの部材が相対的に運動するものであれば適用することができる。例えば、当該2つの部材の形状は環状でなくてもよく、円盤状、板状など、2つ部材間に潤滑剤の充填が可能で、かつ2つの部材に電極を設けることが可能な形状であれば本発明を適用することができる。また、2つの部材の相対的な運動は、回動に限定されることなく、直線的な運動、揺動などであってもよい。さらに、2つの部材が同じ方向又は反対方向に運動する並進運動であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
10 スラスト滑り軸受(相対運動部材)
12 上部ケース(第1部材)
14 下部ケース(第2部材)
16 軸受片
18 20 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11