特開2017-146102(P2017-146102A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-146102放射線位置特定装置、放射線位置特定方法、及び放射線位置特定用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-146102(P2017-146102A)
(43)【公開日】2017年8月24日
(54)【発明の名称】放射線位置特定装置、放射線位置特定方法、及び放射線位置特定用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/29 20060101AFI20170728BHJP
【FI】
   G01T1/29 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-25618(P2016-25618)
(22)【出願日】2016年2月15日
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】国司 洋介
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA27
2G188BB04
2G188BB18
2G188EE10
2G188EE25
2G188EE35
2G188EE39
2G188GG04
(57)【要約】
【課題】面状に広がる放射線源を特定することができるようにする。
【解決手段】電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンが天球面に投影されて生成される複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報を記憶する記憶部22と、天球面を複数の区分に分ける複数の区分図形を生成する生成部231と、複数のイベントサークル情報に基づいて、複数のイベントサークルのうち、複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差するイベントサークルの数である交差数を計数する計数部232と、計数部232が計数した交差数に基づいて、複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出部233と、複数の区分図形から、評価値が所定の条件を満たす一以上の区分図形を選択する選択部234と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンが天球面に投影されて生成される複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報を記憶する記憶部と、
前記天球面を複数の区分に分ける複数の区分図形を生成する生成部と、
前記複数のイベントサークル情報に基づいて、前記複数のイベントサークルのうち、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差するイベントサークルの数である交差数を計数する計数部と、
前記計数部が計数した前記交差数に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出部と、
前記複数の区分図形から、前記評価値が所定の条件を満たす一以上の区分図形を選択する選択部と、
を備える放射線位置特定装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記交差数を、当該イベントサークルと交差する前記区分図形の周の長さに基づいて補正することにより、前記評価値を算出する、
請求項1に記載の放射線位置特定装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記複数の区分図形に対応する複数の前記評価値の分布に基づいて、前記一以上の区分図形を選択する、
請求項1又は2に記載の放射線位置特定装置。
【請求項4】
前記区分図形が円形である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の放射線位置特定装置。
【請求項5】
前記複数のイベントサークルのうち、前記選択部が選択した前記区分図形と交差するイベントサークルを除去する除去部をさらに備え、
前記計数部は、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差する、前記除去部が前記イベントサークルを除去した後に残ったイベントサークルの数を計数する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の放射線位置特定装置。
【請求項6】
前記評価値が同じ前記区分図形が複数ある場合、前記除去部は、ランダムに選択された一の区分図形と交差する前記イベントサークルを除去する、
請求項5に記載の放射線位置特定装置。
【請求項7】
電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンを投影して複数のイベントサークルを生成する天球面を複数の区分に分ける、複数の区分図形を生成する生成手順と、
前記複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差する前記複数のイベントサークルの数を計数する計数手順と、
前記計数手順において計数した前記複数のイベントサークルの数に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出手順と、
前記複数の区分図形から、前記評価値が所定の条件を満たす区分図形を選択する選択手順と、
を備える放射線位置特定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンを投影して複数のイベントサークルを生成する天球面を複数の区分に分ける、複数の区分図形を生成する生成手順と、
前記複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差する前記複数のイベントサークルの数を計数する計数手順と、
前記計数手順において計数した前記複数のイベントサークルの数に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出手順と、
前記複数の区分図形から、前記評価値が所定の条件を満たす区分図形を選択する選択手順と、
を実行させるための放射線位置特定用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の発生源の位置を特定するための放射線位置特定装置、放射線位置特定方法、及び放射線位置特定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
γ線のような短波長電磁波は物質を透過するので、レンズや反射鏡などの結像素子により線源を特定することができない。そこで、天文分野において、パルサーや超新星残骸などから発生されるγ線の天球上の位置を特定する方法として、いわゆるコンプトンカメラが利用されている。
【0003】
コンプトンカメラは、特許文献1に開示されているように、入射したγ線によりコンプトン散乱が生じる複数のゲルマニウム半導体検出器により構成されている。それぞれのゲルマニウム半導体検出器は、マトリクス状に配置された複数の電極を有している。入射したγ線は、ゲルマニウム半導体検出器の中の電子によって散乱され、散乱角に応じた位置の電極から、γ線を検出したことを示す信号が出力される。この信号を出力した電極の位置に基づいて、コンプトン散乱の角度(コンプトン散乱角)を特定することができる。1つの測定事象において計測されるコンプトン散乱角に基づいて、電離放射線の線源が存在し得る領域の境界を示す円錐である1つのコンプトンコーンが定められる。
【0004】
電離放射線の線源は、散乱角に基づく形状のコンプトンコーンと称される円錐面上のいずれかの位置に存在する。したがって、天球面を視野面とすると、天球面とコンプトンコーンの交わる円であるイベントサークル上に線源が存在することを特定できる。
【0005】
図13は、コンプトンカメラ1とコンプトンコーンとの関係を示す図である。図13に示すコンプトンカメラ1は、半導体検出器11及び半導体検出器12を備えており、γ線源Sから放射されたγ線は、半導体検出器11に到達した後に、半導体検出器12に到達する。コンプトンカメラ1は、半導体検出器11においてγ線を検出した位置と、半導体検出器12においてγ線を検出した位置とに基づいて、散乱角θ、及びθ’を特定する。このようにして特定される複数の散乱角に基づいて、複数のコンプトンコーンCN1、CN2と、複数のコンプトンコーンが天球面と交わる位置に対応する複数のイベントサークルC1、C2とが特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−208057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
天文分野で特定するべき放射線源は点線源なので、線源から到達する複数の放射線のイベントサークルの交点を求めることで、天球面上の線源の位置を特定することができる。すなわち、天球面を平面上に投影した視野面で考えると、2つのイベントサークルの交点は1個又は2個程度であり、このうちの1個が線源であると考えられる。したがって、例えば、複数のピクセルに分割された視野内に複数のイベントサークルを表示すると、線源を含むピクセルにおけるイベントサークルの交点数が、他のピクセルにおけるイベントサークルの交点数より多くなる。その結果、交点数が多いイベントサークルを特定することにより、線源を容易に特定することが可能になる。
【0008】
図14は、複数のコンプトンコーンに基づいて点線源Sの位置を特定する方法を示す図である。図14には、3つのイベントサークルC1、C2、C3が描かれている。点線源Sは、3つのイベントサークルC1、C2、C3のいずれにも含まれる。したがって、線源Sが点線源である場合は、3つのイベントサークルの交点の位置であると特定することができる。
【0009】
しかしながら、石油採掘プラントのセパレータ中に堆積する自然由来の放射性物質を含有するスライムや、事故等により地上に堆積した人工放射性物質などに起因する、面状に広がる放射線源を特定の対象とする場合、イベントサークル同士の交点は、線源領域の内部及び外部に広く分布する。したがって、イベントサークル同士の交点を計数する従来の方法では、大量のイベントサークルを処理しないと線源の位置を特定することができないため、計測に時間がかかるとともに、膨大な計算量が必要になるという問題があった。
また、大量のイベントサークルを処理したとしても、イベントサークルの交点が線源領域外にも広く分布するため、線源領域の特定が困難であるという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明は、面状に広がる放射線源を特定するための放射線位置特定装置、放射線位置特定方法、及び放射線位置特定用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様においては、電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンが天球面に投影されて生成される複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報を記憶する記憶部と、前記天球面を複数の区分に分ける複数の区分図形を生成する生成部と、前記複数のイベントサークル情報に基づいて、前記複数のイベントサークルのうち、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差するイベントサークルの数である交差数を計数する計数部と、前記計数部が計数した前記交差数に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出部と、前記複数の区分図形から、前記評価値が所定の条件を満たす一以上の区分図形を選択する選択部と、を備える放射線位置特定装置を提供する。上記の区分図形は、例えば円形である。
【0012】
また、前記算出部は、前記交差数を、当該イベントサークルと交差する前記区分図形の周の長さに基づいて補正することにより、前記評価値を算出してもよい。前記選択部は、前記複数の区分図形に対応する複数の前記評価値の分布に基づいて、前記一以上の区分図形を選択してもよい。
【0013】
上記の放射線位置特定装置は、前記複数のイベントサークルのうち、前記選択部が選択した前記区分図形と交差するイベントサークルを除去する除去部をさらに備え、前記計数部は、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差する、前記除去部が前記イベントサークルを除去した後に残ったイベントサークルの数を計数してもよい。前記除去部は、前記評価値が同じ前記区分図形が複数ある場合、ランダムに選択された一の区分図形と交差する前記イベントサークルを除去してもよい。
【0014】
本発明の第2の態様においては、電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンを投影して複数のイベントサークルを生成する天球面を複数の区分に分ける、複数の区分図形を生成する生成手順と、前記複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差する前記複数のイベントサークルの数を計数する計数手順と、前記計数手順において計数した前記複数のイベントサークルの数に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出手順と、前記複数の区分図形から、前記評価値が所定の条件を満たす区分図形を選択する選択手順と、を備える放射線位置特定方法を提供する。
【0015】
本発明の第3の態様においては、コンピュータに、電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンを投影して複数のイベントサークルを生成する天球面を複数の区分に分ける、複数の区分図形を生成する生成手順と、前記複数のイベントサークルを特定する複数のイベントサークル情報に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差する前記複数のイベントサークルの数を計数する計数手順と、前記計数手順において計数した前記複数のイベントサークルの数に基づいて、前記複数の区分図形のそれぞれの評価値を算出する算出手順と、前記複数の区分図形から、前記評価値が所定の条件を満たす区分図形を選択する選択手順と、を実行させるための放射線位置特定用プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、面状に広がる放射線源を特定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の概要を説明するための図である。
図2】第1の実施形態に係る放射線位置特定装置の構成を示す図である。
図3】線源の位置を特定する動作のフローチャートである。
図4】複数の区分図形を示す図である。
図5】区分図形の生成と評価について説明するための図である。
図6】イベントサークルと区分図形との交差数について説明するための図である。
図7】複数の区分図形に対応する評価値と選択結果との関係を示す図である。
図8】区分図形が選択された状態を示す図である。
図9】第2の実施形態に係る放射線位置特定装置の構成を示す図である。
図10】線源を通過するイベントサークルと、線源を通過しないイベントサークルを処理した結果を示す図である。
図11図11に示した区分図形の評価値を2次元平面にプロットした図である。
図12】線源を特定するための画像の例を示す図である。
図13】コンプトンカメラとコンプトンコーンとの関係を示す図である。
図14】点線源の位置を特定する原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施形態>
[発明の概要]
図1は、本発明の概要を説明するための図である。図1には、天球面上の領域aに、電離放射線の線源が存在し得る領域を示すコンプトンコーンが天球面と交わる円である、複数のイベントサークルC1、C2、C3、C4、C5が描かれている。図1に描かれているイベントサークルは、面状の線源Sから放射された放射線による散乱角に基づいて生成されたコンプトンコーンが天球面と交わる円である。それぞれのイベントサークルのいずれかの位置に線源Sが含まれているという性質から、イベントサークルの密度が高い領域に線源Sがあると推定される。本発明は、この原理を用いることにより、面状の線源Sの存在の確認と境界線の特定を行うためのものである。
【0019】
図2は、第1の実施形態に係る放射線位置特定装置2の構成を示す図である。放射線位置特定装置2は、コンプトンカメラ1から放射線の測定データを取得し、取得した測定データに基づいて、線源Sの位置を特定する。放射線位置特定装置2は、取得部21と、記憶部22と、制御部23とを備えている。
【0020】
取得部21は、コンプトンカメラ1から測定データを取得する。測定データは、例えば、コンプトンカメラ1において放射線を検出した位置及び散乱角を示す情報である。測定データは、コンプトンカメラ1において放射線を検出した位置及び散乱角に基づいて生成されたイベントサークルの中心位置及び半径を示す情報であってもよい。取得部21は、例えばLANコントローラのように通信回線を介して情報を取得する通信デバイス、又はUSBインターフェイスのように記憶媒体を介して情報を取得するインターフェイスデバイスを含んで構成される。
【0021】
記憶部22は、ハードディスク又はメモリ等の記憶媒体である。記憶部22は、制御部23により実行されるプログラムを記憶している。また、記憶部22は、コンプトンコーンが天球面に投影されて生成される複数のイベントサークルを特定するための複数のイベントサークル情報を記憶する。イベントサークル情報とは、イベントサークルの中心位置の座標、及びイベントサークルの半径を含む。記憶部22は、コンプトンカメラ1により生成されたイベントサークル情報を記憶してもよく、コンプトンカメラ1から取得した測定データに基づいて制御部23が生成したイベントサークル情報を記憶してもよい。また、記憶部22は、各イベントサークルに関連する情報として、イベントサークルがカウント対象であるか否かを示すカウント対象判定情報を記憶することができる。
【0022】
制御部23は、放射線位置特定装置2を動作させるCPUである。制御部23は、記憶部22に記憶されたプログラムを実行することにより、生成部231、計数部232、算出部233及び選択部234として動作する。
【0023】
図3は、制御部23が生成部231、計数部232、算出部233及び選択部234として動作する場合の、線源Sの位置を特定する動作のフローチャートである。制御部23は、処理に先立ち、記憶部22に、イベントサークルの中心座標及び半径などの情報を書き込むとともに、カウント対象判定情報を初期化し、すべてのイベントサークルをカウント対象とした後、生成手順S1、計数手順S2、算出手順S3、選択手順S4を順次実行する。
以下、図2及び図3を参照して、制御部23が線源Sの位置を特定する動作について説明する。
【0024】
まず、生成部231は、天球面の処理対象である領域aを区分する区分図形候補を生成する(S1)。
図4は、図1に示したイベントサークルが存在する天球面上の領域aを分けることにより生成された区分図形を示す図である。図4においては、領域aが、縦方向及び横方向に、それぞれ27×32個のメッシュに区分される。区分図形は円とし、その中心座標はメッシュの中心として、半径はメッシュに内接する円の半径の整数倍に量子化する。図4においては、一例として、左上のメッシュの1区画の大きさに対応する区分図形を示している。
【0025】
図5は、区分図形候補の生成と評価について説明するための図である。生成部231は、乱数で、半径及び中心座標が異なる複数の区分図形候補P01〜P07を、既に存在する区分図形と重ならないように生成する。
【0026】
生成部231は、領域aを区分したすべてのメッシュに内接する円を区分図形候補としてもよい。また、イベントサークルとの交差を最も簡便に判定するために、区分図形として円を採用したが、六角形、正方形、三角形などの区分図形を生成してもよい。
【0027】
計数部232は、複数の区分図形候補のそれぞれの境界線と交差するイベントサークルの数である交差数を計数する(S2)。具体的には、計数部232は、まず、記憶部22に記憶されている複数のイベントサークル情報を記憶部22から読み出す。次に、計数部232は、複数のイベントサークルに複数の区分図形候補を重ね合わせる。
【0028】
計数部232は、読み出したイベントサークル情報に基づいて、図5に示す複数のイベントサークルのうち、複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差するイベントサークルの数である交差数を計数する。
より具体的には、計数部232は、複数の区分図形候補から一の区分図形(例えば、区分図形P01)を選択し、選択した区分図形の境界線と交差するイベントサークルの数を計数する。計数部232は、順次、残りの複数の区分図形から一の区分図形(例えば、区分図形P02、P03、・・・)を選択し、選択した区分図形の境界線と交差するイベントサークルの数を計数する。
なお、区分図形として円を採用することで、区分図形候補と各イベントサークルの中心間距離及び両者の半径から容易に交差の有無を算出できる。
【0029】
図6は、イベントサークルと区分図形候補との交差数について説明するための図である。
図6(a)は、イベントサークルC1と区分図形P1とが交差していない状態を示しており、計数部232は、この場合の交差数を0と計数する。図6(b)は、イベントサークルC1と区分図形P2とが交差している状態を示しており、計数部232は、この場合の交差数を1と計数する。図6(c)は、イベントサークルC1及びC5と区分図形P3とが交差している状態を示しており、計数部232は、この場合の交差数を2と計数する。例えば、図5の区分図形候補P01は、イベントサークルC1,C2,C3と交差するので、P01と交差するイベントサークル数は3である。同様にP02と交差するイベントサークル数は1、P05と交差するイベントサークル数は0である。
【0030】
算出部233は、計数部232が計数した交差数に基づいて、複数の区分図形候補のそれぞれの評価値を算出する(S3)。具体的には、算出部233は、交差するイベントサークルの数が多い区分図形の評価値が、交差するイベントサークルの数が少ない区分図形の評価値よりも大きくなるように評価値を算出する。算出部233は、例えば、算出部233は、それぞれの区分図形とイベントサークルとの交点の数を評価値として算出する。
【0031】
ここで、図5では、評価値を算出する対象となる複数の区分図形候補に、異なる大きさのものが含まれている。このため、大きな区分図形候補は、より多くのイベントサークルと交差しやすくなる。したがって、イベントサークルの密度が同じだとしても、大きな区分図形におけるイベントサークルとの交差数は、小さな区分図形におけるイベントサークルとの交差数よりも大きくなるので、公平な比較をできない。そこで、算出部233は、イベントサークルとの交差数を、当該イベントサークルと交差する区分図形の周の長さに基づいて補正することにより評価値を算出する。
【0032】
算出部233は、例えば、イベントサークルとの交差数が同じ場合、比較対象となる区分図形の周長のn倍の周の長さの区分図形の交差数を1/n倍に補正することにより、評価値を算出する。区分図形が円の場合、周の長さは円の直径に比例する。したがって、算出部233は、イベントサークルとの交差数を、区分図形の直径に基づいて補正することにより評価値を算出してもよい。区分図形が長方形の場合、周の長さは長方形の対角線の長さに比例する。したがって、算出部233は、イベントサークルとの交差数を、区分図形の対角線の長さに基づいて補正することにより評価値を算出してもよい。
【0033】
選択部234は、複数の区分図形から、評価値が所定の条件を満たす一以上の区分図形を選択する(S4)。例えば、選択部234は、評価値が所定の閾値以上の区分図形を、線源に対応する位置を示す区分図形として選択する。選択部234は、複数の区分図形に対応する複数の評価値の分布に基づいて、一以上の区分図形を選択してもよい。
【0034】
図7は、複数の区分図形に対応する評価値と選択結果との関係を示す図である。図7においては、7個の区分図形(P01〜P07)のそれぞれの評価値及び選択結果が示されている。評価値は、それぞれの区分図形とイベントサークルとの交差数、区分図形候補の半径、及び評価値を示す。
図7におい区分図形候補P01とP03とは、交差数が3で等しい。しかし、それぞれの区分図形候補の交差数を、区分図形候補の半径に基づいて補正することにより得られた評価値を比較すると、区分図形候補P01の評価値が最も高いことが判明する。したがって、選択部234は、区分図形候補P01を選択する。
【0035】
図8は、複数の区分図形候補から、最も評価値の高い区分図形候補P01が選択され、これを区分図形P0とした図である。区分図形は、最も放射線源である蓋然性が高いため、放射線位置特定装置2は、その座標と大きさと、さらに必要に応じて、カウントされた交差するイベントサークル数を記録するとともに、当該領域のメッシュにマーキングを行うことで、線源の可視化を可能にする。
【0036】
なお、放射線位置特定装置2は、線源の位置を特定しやすく着色した画像データを生成する画像生成部(不図示)を有してもよい。具体的には、画像生成部は、コンプトンカメラ1において放射線を測定した領域を示す画像データを取得し、当該画像データを、複数の区分図形に対応する複数の領域に分割する。そして、画像生成部は、選択部234が選択した区分図形に対応する領域の画像データを、それ以外の領域の画像データと異なる色の画像に変更した画像データを生成する。このようにすることで、コンプトンカメラ1が放射線を測定した領域のうち、どの領域から放射線が放射されているかを視覚的に把握することが可能になる。
【0037】
放射線位置特定装置2は、以上のプロセスを区分図形の評価値が十分小さくなるまで繰り返す。なお、区分図形候補の生成と区分図形の選定方法としては、区分図形候補の中心座標と大きさをランダムに生成し選抜する所謂ランダムサーチ、区分図形候補の中心座標と大きさを遺伝子とし、複数の区分図形候補の交配を繰り返す、遺伝的アルゴリズムなどの手法が例示される。以上のとおり、第1の実施形態によれば、複数のイベントサークルのうち、複数の区分図形のそれぞれの境界線と交差するイベントサークルの数である交差数に基づいて算出される評価値が所定の条件を満たす一以上の区分図形を、線源に対応するものとして選択することにより、線源が面状である場合であっても、線源を高い精度で推定することが可能になる。
【0038】
<第2の実施形態>
図9は、第2の実施形態に係る放射線位置特定装置2の構成を示す図である。放射線位置特定装置2は、制御部23が除去部235を有する点で第1の実施形態に係る放射線位置特定装置2と異なり、他の点で同じである。第2の実施形態に係る放射線位置特定装置2は、区分図形候補から、区分図形を選定した後、除去部235において、複数のイベントサークルのうち、選択部234が選択した区分図形と交差するイベントサークルを除去することにより、放射線位置を特定するために必要な計算量を低減することができる。
すなわち、図8において、区分図形P0と交差するイベントサークルC1,C2,C3に対し、除去部235は、カウント対象判定情報をカウント済に書き換えることで、以降の区分図形評価の際に、交差のカウント対象としない判定を可能にする。なお、複数の区分図形候補の評価値が同一の最高値である場合は、区分図形の選択のために、評価値が同一の区分図形候補のうち、カウント対象判定情報がカウント済みであるものもカウント対象とすることができる。
【0039】
選択部が選択した区分図形と交差するイベントサークルを除去した後に、計数部232は、残りの区分図形又は残りの複数の区分図形から選択した一部の区分図形と交差するイベントサークルの数を計数する。除去部235は、評価値が同じ区分図形が複数ある場合、ランダムに選択された一の区分図形と交差するイベントサークルを除去してもよい。このような手順を繰り返すことにより、計数部232における計数における計算量を低減することができ、かつ、高頻度で現れる線源由来のイベントサークルと、低頻度の環境由来のイベントサークルを区分図形で判別することも可能になる。
【0040】
<実施例>
図10は、線源を通過する1024個のイベントサークルと、線源を通過しない77個の計1101個のイベントサークルを第2の実施形態の方法で処理した結果を示す図である。図10においては、本発明に基づいて得られたID1〜25までの区分図形が処理順に並べられている。なお、IDは区分図形を得られた順番に対応しており、IDにX、Y座標、半径R及び算出した評価値が関連付けられている。本実施例における区分図形は円形であり、図11におけるXは、区分図形の中心のX軸方向(水平方向)の座標、Yは、区分図形の中心のY軸方向(垂直方向)の座標、Rは、区分図形の円の半径を示している。また、「通過数」は、それぞれの区分図形を通過するイベントサークルの数を示している。また、「評価値」は、区分図形の円の周長に比例する半径に基づいて通過数を補正することにより算出された値を示している。
【0041】
なお、領域aは縦横それぞれ0〜99のメッシュ正方形のメッシュで分割され、区分図形候補の中心座標は各メッシュの中心に一致しているものとし、半径もメッシュに内接する円の半径の整数倍に量子化されている。区分図形候補から区分図形を選定する方法は、中心のX座標、Y座標、半径を遺伝子とする遺伝的アルゴリズムにより、具体的には、600個の区分図形候補から乱数で1200組の候補を選定、交配し、評価値の高い上位600個を選抜する処理を600世代繰り返した。
【0042】
ID19の区分図形は、半径Rが2となっている。したがって、ID19の区分図形の通過数が、ID18の区分図形(半径Rは1)の通過数と等しいにもかかわらず、ID19の区分図形の評価値は、ID18の区分図形の評価値の2分の1の値になっている。同様に、ID23の区分図形は、半径Rが3となっている。したがって、ID23の区分図形の通過数が、ID22の区分図形(半径Rは1)の通過数と等しいにもかかわらず、ID23の区分図形の評価値は、ID22の区分図形の評価値の3分の1の値になっている。
【0043】
ここで、図11に示した全ての区分図形を、少なくとも1つのイベントサークルが通過しているので、選択部234が、どの区分図形を選択するかが問題になる。そこで、選択部234は、線源が含まれると考えられる区分図形を選択する。
【0044】
図11は、図10に示した区分図形の評価値を2次元平面にプロットした図である。図11の横軸は区分図形のIDを示しており、評価値の大きい順に等間隔で並べられている。縦軸は区分図形の評価値を示している。選択部234は、得られた区分図形の数nと区分図形をIDの小さい順に連続して区分点sまで選ぶ残差平方和記録部(図示せず)を有する。選択部234は、区分点sの値を2〜n−1の間で変化させて、区分図形をID値の小さい方、すなわち、評価値の大きい方から順番に選ばれた第1のグループG1と、残余の評価値の低い第2のクループG2に分割する。
【0045】
次いで、選択部234は、第1のグループG1に基づき生成した第1の回帰直線k1と第2のグループG2に基づき生成した第2の回帰直線k2とを生成する。G1−k1の残差平方和をRSS1、G2−k2間の残差平方和をRSS2として、総残差平方和RSSTをRSST=RSS1+RSS2としたときの最も小さなRSSTの区分点sminを区分点記録部(図示せず)に記録する。これで求めた1〜smin番目の区分図形を線源位置としてプロットする。図11において、n=25、smin=8である。
【0046】
選択部234は、第1の回帰直線及び第2の回帰直線に基づいて、複数の区分図形のうち、どの区分図形を選択するかを決定することができる。具体的には、選択部234は、第1の回帰直線と第2の回帰直線との交点を求め、交点に対応する区分図形のIDを特定する。そして、選択部234は、特定したIDに対応する区分図形よりも小さなID、すなわち、特定したIDに対応する区分図形の評価値よりも大きな評価値を有する区分図形に含まれるメッシュを、線源に含まれる区分図形として選択する。
【0047】
図11に示す例においては、第1の回帰直線と第2の回帰直線との交点は、ID7とID8との間である。そこで、選択部234は、ID1からID7までの区分図形を選択する。このようにして、線源が存在すると考えられる区分図形を特定することができた。
【0048】
図12は、線源を特定するための画像の例を示す図である。図12(a)は、イベントサークルの交点の数を計数し、数が大きい場所を線源と評価する従来の方法により作成した画像である。図12(a)においては、評価値の高い領域が、線源領域の周辺に広く分布し、線源領域の特定は困難であった。
【0049】
これに対して、図12(b)は、本実施形態に係る方法を用いて作成した画像である。図12(b)においては、評価値の高い領域が、線源領域に限定されているので、線源領域を明確に特定できることがわかる。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0051】
1 コンプトンカメラ
2 放射線位置特定装置
3 閾値
11 半導体検出器
12 半導体検出器
21 取得部
22 記憶部
23 制御部
231 生成部
232 計数部
233 算出部
234 選択部
235 除去部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14