【解決手段】液体と気体との界面の位置を測定する変位測定手段を備える圧力計本体と、変位測定手段により測定された界面の位置と圧力計本体の環境温度より圧力計本体内の気体の圧力を演算する演算手段と、を備える圧力計であって、圧力計本体はその底面に開口部が形成され、水平断面積の大きな下部と該下部より水平断面積の小さな上部とを備える容器からなり、該上部の内側に前記変位測定手段が配置される。
前記容器の内壁面が、水平方向において、前記容器の軸線に対して等距離を保つようにその姿勢を制御する姿勢制御手段が更に備えられる、請求項1に記載の圧力計本体。
前記容器の内壁面の形態が、該内壁面の上縁を規定する任意の長さの直線と、該直線の両端に接する平行平面と、該直線と平行な開口底面と、該底面に平行な断面が該底面と相似形で、該断面積が該直線からの距離に比例して大きくなる、請求項1又は2に記載の圧力計本体。
前記容器の内壁面が、水平方向において、前記容器の軸線に対して等距離を保つようにその姿勢を制御する姿勢制御手段が更に備えられる、請求項7に記載の圧力計本体。
前記容器の内壁面の形態が、該内壁面の上縁を規定する任意の長さの直線と、該直線の両端に接する平行平面と、該直線と平行な開口底面と、該底面に平行な断面が該底面と相似形で、該断面積が該直線からの距離に比例して大きくなる、請求項7又は8に記載の圧力計本体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、圧力計では、部材の内圧がゼロに近い状態(真空に近い状態の場合)に保たれていることから、部材には内側に向かう力が加わり続け、時間の経過と共に部材がクリープすることは避けられない。また、部材に弾性限界を超える圧力が加わると塑性変形することもあり、部材のヒステリシスも大きくなる。これらの影響を受けることで時間と共に測定される圧力の値がずれてしまう。以下ではこのずれをドリフトという。(特許文献2,3)
高圧下では部材に作用する力が大きくなり、クリープ量や塑性変形量が増大しヒステリシスも大きくなる。このため測定誤差やドリフトが大きくなる。高精度の圧力測定を実施する場合には、測定の前にこのドリフトを調整しなければならない。一方、部材の弾性変形をセンサ等で電気信号に変換する場合、検出センサ、アンプ、A/D変換器のダイナミックレンジ等の制約があり、圧力計のダイナミックレンジを広くすると、その分解能を下げなければならなくなる。
【0005】
通常の変位センサは空気中における測定が前提で開発されてきたし、それらの変位センサを用いる測定システムも空気中で使用することが前提になっている。本発明は液体が受ける圧力の変化を液体と気体との界面の位置から測定する圧力計で、液体に接する状態で使用することになるが、界面の位置を測定する変位センサや信号増幅用のアンプ等は液体中の使用を避け空気中で使用することが好ましい。また、同じ大きさの圧力が加わった場合、界面の位置の変化が大きければ分解能が上げられ、高精度の圧力計が製作できる。逆に界面の位置の変化が小さければダイナミックレンジを広くできる。
【0006】
図1で示す如く、開口された底面の第1の辺の辺長がa、第2の辺の辺長がb、高さがhの直方体(a>bとする)が1気圧(約0.1メガパスカル、以下では気圧を単位として用いる。)の空気(以下では気体という。)で満たされた状態であったと仮定する。この直方体を静水圧が100気圧になる深度(約990m)まで、底面を下にして液体中(以下では海水を例にして海水中という。)に沈めたとする。この容器内部の残存気体は深度の増加と共に圧縮され、ボイルシャルルの法則にしたがって体積が減少する。このとき、100気圧で圧縮されれば残存気体は100分の1まで収縮するが、容器の断面が同じであることから、高さも100分の1になる。つまり、容器上部から液面(海水との界面)までの距離(以下では気相の距離という)h0は以下のようになる。
h0=h/100=0.01*h (1)
【0007】
図1で示した如く、直方体は断面が一定しており開口された下面から加えられる静水圧の大きさに反比例して残存気体の体積が減少する。すなわち、容器の上部から界面までの残存気体の占める距離h
0(以下ではこの距離を気相の距離という。)が短くなる。変位センサや変位測定システムを設ける場合、気相の距離が長いことが好ましいが、高圧の液体中で気相の距離を確保するためには高さが高い容器が必要とされる。例えば、100気圧の静水圧を受けている状態で10cmの気相の距離を確保するためには、海面における容器の高さを
10cm*100=10m
としなければならない。つまり、1〜100気圧の圧力を容器内部の気相の距離から測定する場合には、10mの高さの容器が必要であるし、10mの間の水位を測定することが必要であり実用的ではない。
【0008】
海水中で圧縮されても気相の距離を長く保つ構成であれば、気相の距離を直方体の場合と同じになるまで圧縮するには、大きな圧力で圧縮する必要がある。言い換えれば、大きな圧力で圧縮されても気相の距離を長く保つ構成であればサイズが小さな圧力計でも大きな圧力が測定できることを意味しており、ダイナミックレンジが広くできることになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は,上記の問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記の発明に想達した。すなわち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
液体と気体との界面の位置を測定する変位測定手段を備える圧力計本体と、
前記変位測定手段により測定された前記界面の位置と前記圧力計本体の環境温度より前記圧力計本体内の気体の圧力を演算する演算手段と、を備える圧力計であって、
前記圧力計本体はその底面に開口部が形成され、水平断面積の大きな下部と該下部より水平断面積の小さな上部とを備える容器からなり、該上部の内側に前記変位測定手段が配置されることを特徴とする圧力計。
【0010】
このように規定される第1の局面における圧力計を海中に沈める場合を例にして説明すれば以下のようになる。
底部が開口されるかその一部が開口されその上部が狭くなっている形態の容器を海中に降下させれば、容器内部に海水が浸入し、容器内部の気体と海水との界面(以下では単に界面という。)に加わる静水圧が増加し内部の気体が圧縮され、その体積がボイルシャルルの法則にしたがい減少する。そして、容器内部の残存気体の圧力と界面に加わる静水圧とが釣り合うまで界面は上昇する。容器の内壁の形態が既知であれば、界面の位置より残存気体の体積が分かる。ここに、残存気体が残る上部の水平断面積が小さくされているので、その体積の変化が界面の高さ方向の変化へと大きく反映される。
したがって、界面の位置を変位測定手段で測定すれば、残存気体の体積Vを求めることができ、その体積Vと温度測定手段で測定した残存気体の温度Tから、ボイルシャルルの法則、
V=k(T/P) kは常数
に基づいて残存気体の圧力Pを求めることができる。残存気体の圧力Pは海水の静水圧と釣り合っていることから、海水中の静水圧Pの値が分かる。
【0011】
容器の底部は開放されており、容器の内側と外側から加わる圧力が釣り合うまで残存気体が圧縮されることから、容器のどの位置でも圧力は同じであるとする。厳密には容器の外側から加わる静水圧は、海水の深さに応じて異なることから容器の上部と下部とでは静水圧に差があるがその差は僅かであり、以下では差がないとして扱う。つまり、先行技術の場合は、圧力を検出する部材には部材内部に向かう大きな力が作用し、部材が塑性変形する要因になっているが、本発明の場合は、圧力を検出する容器には内側と外側から同じ大きさの応力が作用することから、容器を構成する部材に生じるクリープや塑性変形は無視できる程度に小さい。
【0012】
容器を海水へ沈めるときは、容器内部の周壁(内壁面)が、水平方向において、容器の軸線に対して等距離を保つようにその姿勢が制御される。これにより、変位測定手段の配設位置の如何に拘わらず界面の高さが正確に測定される。他方、容器が傾いてその軸線に対する水平方向の内壁面の距離が変化すると、変位測定手段の配設位置の如何で検出された界面の高さにずれが生じるおそれがある。
容器の内壁面が、水平方向において、容器の軸線に対して等距離を保つと、結果的に底面に形成された開口部が水平方向に維持されることとなる。ここに、容器の軸線に対して底面は垂直方向に配置されているものとし、当該底面の一部又は全部に開口部が形成される。
容器の底面が軸線に対して傾斜しているときは、底面に形成された開口部の上縁を含む仮想平面が水平に保つように姿勢制御されることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
簡単のために、第1の容器が
図2で示すように円錐で、開口された底面1の半径がr、高さがhである円錐を仮定する。さらに、
図2で示す第1の容器において、r=hであるとすれば、第1の容器の容積V1は
V1=π*h*h*h/3 (2)
となる。水圧が100気圧になる深度(約990m)にあるとすれば、残存気体の体積がV1’で残存気体の底面の半径がr1、高さがh1になったとする。r=hであるからr1=h1となり、
V1’=π*h1*h1*h1/3 (3)
となる。V1=100*V1’であるから、
h^3=100*h1^3 (4)
となり、h1は(h^3/100)の3乗根なることから
h1=h/4.6416=0.2154*h (5)
となる。(100の3乗根を4.6416と近似した)。
なお、第1の容器の任意の高さの断面積は底面と相似形であることからr=hが成り立たない場合でもr=k1*h(k1は定数)の関係にあるから、(10)式はr=hでない場合でも成立する。
【0015】
図2で示した錐体容器でなくても、同じ圧力を受けた場合に、その体積変化が大きな界面高さの変化へ反映される構成の容器であればよい。
そこで、この発明の第2の実施の形態の容器はその内壁面が次のように規定される。
任意の長さの直線と、該直線の両端に接する平行平面と、該直線と平行な開口底面と、該底面に平行な断面が該底面と相似形で、該断面積が該直線からの距離に比例して大きくなる形態である。
【0016】
図3で示す第2の容器は、その底面2が
図1で示した直方体と同じ形状で少なくともその一部が開口されており、辺長bは一定であるが辺長aが上部からの高さに比例する錐体状形態の容器であるとする。この第2の容器が海面下の深さ990mの位置にあるとすれば、直方体と同様に開口された底面2から浸透した海水の圧力で第2の容器内部の残存気体は圧縮されて体積が減少する。この場合も、残存気体の圧力が容器に加わる圧力と釣り合うまで界面がh1まで上昇する。この場合、第2の容器は錐体状形態の容器であることからその断面積は、上部からの高さに比例して小さくなり、気相の距離は上記の(1)式とは異なる距離となる。簡単のために第2の容器の形態が、長さaの二等辺三角形の側面で、a=hであるとする。すなわち、第2の辺の辺長bは高さが変わっても変化しないが、第1の辺長aは高さと共に短くなる二等辺三角形の形状であるとする。
第2の容器の体積V2は以下である。
V2=a*b*h/2 (6)
圧縮された後の残存気体の辺長をa1、高さをh1とする。残存する気体の体積V2’は以下となる。
V2’=a1*b*h1/2 (7)
体積V2とV2’の間の関係は、V2=100*V2’であるから、
a*h=a1*h1*100 (8)
となるが、a1とbとが形成する面は底面2と相似形の関係にあり、h=aであるからh1=a1となり、(8)式から、
h1^2=h^2/100 (9)
となり、h1は(h^2/100)の2乗根になり、
h1=h/10=0.1*h (10)
となる。
なお、第2の容器の任意の高さの断面積は底面2と相似形であることからa=hが成り立たない場合でもa=k1*h(k1は定数)の関係にあるから、(10)式はa=hでない場合でも成立する。
【0017】
上記の(1)式と(10)式の比較から分かるように、
図1で示した直方体の場合は加えられる圧力の大きさに反比例して気相の距離が減少するが、
図3で示した側面が三角形の形状である第2の容器の場合は気相の距離は圧力の2乗根に反比例して減少する。つまり、同じ圧力が加わった場合、直方体と比較すると第2の容器の気相の距離が長く、両者の差は圧力が増すほど大きくなる。気相の距離を測定すれば、その距離から残存気体の体積が分かり、その体積と残存気体の温度からボイルシャルルの法則を用いて残存気体の圧力が求められる。(1)式と(10)式の比較から分かるように、圧力が100倍になれば気相の距離の差は10倍になる。
【0018】
上記では、辺の長さがaである面が三角形であるとしたが、辺の長さaが高さによらず一定で、辺の長さがbである面が三角形であってもよい。
残存気体と海水との界面の高さから容器内部の残存気体の体積を求める際に、容器の開口部と界面の形状が相似形であるとその演算が容易になる。よって、第2の容器の底面2が水平になるようにその姿勢制御をすることが好ましい。
【0019】
上記の(1)式、(10)式、(5)式の比較から分かるように、1気圧の圧力下で直方体の場合における気相の距離を100とすれば、100気圧になれば、直方体の気相の距離は1となるが,第2の容器である側面が三角形である錐体状形態の容器内の気相の距離は10、第1の容器である円錐容器内の気相の距離は約21.54になることが分かる。したがって、直方体に比較すれば円錐容器内は、圧力を測定するためのセンサや測定システムを設置しやすく、かつ、圧力測定のダイナミックレンジが広くできることになる。
【0020】
先行技術であるダイヤフラム式、ベローズ式、ブルドン管式等の圧力計では大きな圧力がセンシングを行う部材に加わる構成である。しかし、本発明の容器内の残存気体の圧力及び、界面に作用する圧力は、海水中の静水圧と釣り合いの状態である。したがって、容器を構成する金属等には大きな力が加わらず、クリープないしは塑性変形することはなく、測定結果が乱されることはない。このため、ドリフトの調整をする必要がない圧力計が製作できる。
厳密に言えば高圧下では大きな静水圧を受けることから、容器を構成する金属等が圧縮力を受けて収縮するが、ダイヤフラム、ベローズ、ブルドン管のクリープや塑性変形に比較すれば桁違いに小さく、クリープや塑性変形の量も桁違いに小さく無視できる大きさである。また、容器に加わる静水圧は容器の上部と下部とでは異なるがその差は僅かであり、その差による力で第1や第2の容器がクリープや塑性変形するとしても従前の技術と比較すれば桁違いに小さく無視できる大きさである。
【0021】
従前の技術で実施する高圧測定では、ドリフトやヒステリシスが避けられずあまり高感度にできなかったし、圧力の測定範囲を限定した(ダイナミックレンジを狭くした)測定が実施されてきた。
この発明の第3の実施形態ではその容器の内壁面が次のように規定される。すなわち、
密閉された上部容器と、
底面が開口部を有する下部容器と、
前記上部容器と前記下部容器と連結し、前記上部容器及び前記下部容器の断面積より断面積が小さくその大きさが位置によらず一定であるパイプ、又はその断面積が上側へ漸減するパイプとで形成され、
前記パイプに前記変位測定手段が配置される。
【0022】
第3の容器の上部容器及び下部容器の体積を選び、測定対象の圧力が加わった場合、気体と液体の界面が上部容器の断面積より小さな断面積のパイプの内部に位置するようにする。簡単のために、上部容器は円筒形であり半径がR2、高さがH2であり、下部容器も円筒計でありその半径はR1>R2であり、パイプも円筒形であり半径がr、高さがh4の位置に界面がある場合について説明する(
図4)。この時の容器内部の温度をTとする。かかる状態(R2>>rの場合)であれば、下部容器の開口された底部に加えられている圧力Pが増加して残存気体の体積が減少する場合、第3の容器の残存気体の体積は概略で上部容器の体積と同じと見なせるから(厳密にはパイプ内部の残存気体の体積が加わるがR2>>rの場合は無視できるとする)、体積の減少に関与するのは、上部容器の体積、
V=π*R2^2*H2
となる。圧力の増加に伴い第3の容器の体積がΔV減少したとする。この場合、上部容器の高さ方向が圧縮されることになり、圧力Pに反比例して減少した残存気体の体積ΔVは、
ΔV=π*R2^2*L
となる。上記の式におけるLは仮想的な界面の移動距離である。
一方、実際にパイプ内部における界面の移動量をH4とすると、移動した海水の体積は圧縮された残存気体の体積ΔVと同じであるから
H4*π*r^2=L*π*R2^2
が成立し、
H4=L*(R2^2/r^2)
となり、圧力Pの増減に対応して変化する界面の移動量が、R2^2/r^2の割合で拡大されることになる。
【0023】
Lの測定をする場合より、R2^2/r^2の割合で拡大され移動量H4を測定する方が精度よく測定できることから、第3の実施形態における圧力測定は高精度で実施できることを意味している。仮にR2=10rであったとすれば、L=100*h4であるから、測定精度が100倍になる。
【0024】
上記の各圧力計の場合、高圧下では残存気体も高圧になることから界面の位置を測定する手段も高圧に耐える構成が望まれる。変位測定手段と温度測定手段に電子回路を使用する場合、常圧で使用する前提で製造された部品を使用できれば、安価であるし、耐圧テスト等をする必要がない。
かかる変位測定手段として容量変化型変位測定手段を採用することが好ましい。より具体的にはこの容量変化型変位測定手段は、
表面を絶縁物で覆った導電性の第1電極及び第2電極を水平断面積が小さな容器の上部に設け、
該界面の位置に応じて変化する該第1電極と第2電極、及び該電極間の液体が形成する容量変化の検出手段と、
該容量変化検出手段で検出したデータに基づき該界面の位置を求める演算手段と、で構成される。
【0025】
このように構成される容量変化型変位センサを備えた圧力計本体を海中に沈める場合を例にして説明すれば以下のようになる。
かかる容量変化型変位センサでは、容器内で界面が上昇すると、第1の電極と第2の電極の間の液体の体積が変わる。液体の体積が変われば誘電率が変化しその容量が変わる(容量変化型センサ)。その容量変化から、予め求めた容量変化と気相の距離の関係から、気相の距離が測定できる。この気相の距離が分かれば残存気体の体積が分かり、この体積と残存気体の温度とから、残存気体の圧力が求められる。この圧力は海水に加わる静水圧と釣り合っているから、静水圧が求まる。
【0026】
気相の距離を測定する容器内部には、第1の電極と第2の電極を設ければよく、リード線を用いて気相の距離を測定する容器に隣接した耐圧容器内部の電子回路と接続すれば、変位測定手段を常圧の空気中で使用することができる。気相の距離を測定する容器内部の温度は、隣接した耐圧容器の壁面に温度検出手段を近接させて測定する。熱伝導率が高い金属等で隔壁を構成すれば、気相の温度を求めることができる。
【0027】
容量変化型変位センサを備える圧力計の場合、容器内部に電極を設ける構成で、容器の底面と平行な断面を底面と相似形にするためには、容器内部に設ける電極も錐体にする必要があるが錐体構造の電極を設けることは容易ではない。地球上に多量に存在する水や海水には導電性であり、この導電性を利用すれば、容器内部に容積が大きな電極を設けない構成にでき圧力計を簡素化できる。
【0028】
この発明の他の実施の形態では。容量変化型変位センサを構成する電極の一方が、表面を絶縁物で覆わない導電性の電極とする。
このように規定される変位センサを備えた圧力計を海中に沈める場合を例にして説明すれば以下のようになる。
容器内部に設ける表面を絶縁物で覆わない電極と導電性の液体は等電位となり、表面を絶縁物で覆った電極と液体との間では誘電体である絶縁物が電極に挟まれる状態となり電気容量が構成される。この電気容量は、容器内部の界面の位置の変化(気相の距離)に対応して変化する。すなわち、界面の高さの変化に対応して電極の面積が変化することで、電極間に挟まれる誘電体の体積が変化し、誘電体の体積の変化に対応して電気容量が変わる(容量変化型センサ)。予めこの容量変化と気相の距離との関係を求めておけば、容量変化から気相の距離が測定できる。この気相の距離が分かれば残存気体の体積が分かり、この体積と残存気体の温度とから、残存気体の圧力が求められる。この圧力は海水に加わる静水圧と釣り合っているから、静水圧が求まる。
【0029】
かかる容量変化型変位センサを用いる場合、容器中央に電極を設ける構成で、容器の底面と平行な断面を底面と相似形にするためには、中央に設ける電極も錐体にする必要があるが錐体構造の電極を設けることは容易ではない。
そこで、液体と気体との界面が形成される容器、第1の電極、及び、第2の電極、第1の電極を被う誘電体の少なくとも1つが3Dプリンターにより作成される。
このようにして容器等を形成すると、容器中央に設ける電極を錐体にすることが容易になる。そして、容器の底面と平行な断面を容器の底部と相似形にすることができる。
【0030】
地球上に多量に存在する水や海水には導電性であり、この導電性を利用すれば、容器の中央に電極を設けない簡素化した他の構成の圧力計を製作できる。そこで、この発明の他の実施の形態の変位測定センサは次のように規定される。すなわち、
変位測定センサは、容器の面に設ける抵抗体と、該容器の上部で該抵抗体と接する第1の電極と、液水と接する第2の電極と、該第1電極と第2電極間の抵抗値変化の検出手段とを備え、
演算装置は、該検出手段で検出したデータに基づき該界面の位置を求める。
【0031】
このような抵抗変化型変位センサを備える圧力計を海中に沈める場合を例にして説明すれば以下のようになる。
抵抗変化型変位センサでは、界面が下方にあると抵抗体の上部と海水との接触面までの距離が長く、抵抗体の抵抗値が大きい。しかし、海水面が上昇し、接触面までの距離が短くなると抵抗体の抵抗値が小さくなる。したがって、容器の上部で抵抗体と接触している第1の電極と、海水と接している第2の電極間の抵抗値も小さくなる。以下では、海水中では電気が流れやすく海水の抵抗値は、容器側面に設けた抵抗体の抵抗値より小さく海水の抵抗が無視できると想定して説明する。
海水が上昇すれば容器の上部と界面との距離が短くなり抵抗体の抵抗値が小さくなる。前もって気相の高さと抵抗値の関係を求めておけば、その関係から抵抗値から気相の高さが求められる。この気相の高さから残存気体の体積が求められ、この体積と残存気体の温度との関係よりボイルシャルルの法則に従って残存気体の圧力が求められる。求めた圧力は海水に加わる静水圧と釣り合っているから、静水圧が求まる。
【0032】
かかる圧力計の場合、容器の内面に抵抗体を設ける構成であるが、抵抗体の抵抗値は大きい方が望ましいが、抵抗値を大きくするためには抵抗体を細くする必要がある。また、長期間使用するためには強靱であることが望ましい。そこで、容器と抵抗体の少なくとも1つが3Dプリンターにより作成されることが好ましい。
【0033】
このようして形成される圧力計であれば、細い抵抗体を容器側面に形成できることから抵抗値を大きくできる。また、抵抗体の素材を強靱にしたり、抵抗体の周辺の素材を盛り上げる等すれば、抵抗体に力が加わったりした場合に破損し難くなる。また、表面に異物が接触しても削り取られる確率が下がり、結果的に抵抗体が強靱になる。
なお、上記では、容器の内面に抵抗体を形成する実施例について述べたが、容器の内面に抵抗体を形成するのではなく、海水と接する電極に抵抗体を設けて、その抵抗体と界面の接する位置を抵抗値の変化として検出してもよいし、容器内面と海水と接する電極の双方に抵抗体を形成してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、この発明の実施例について説明する。
図5(a)は本発明の第1の実施例の模式図で、海中に圧力計が吊り下げられた状態を示す。容器21と錘22を図示し、吊り下げているワイヤーの上部や温度測定手段等は省略してある。容器21の開口された底部は長方形(辺の長さa1、及び、b1)であり、容器21は高さh2の二等辺三角形の側面を備えている。この容器21の下方には鎖等で吊り下げられた錘22がある。この錘の作用で容器21は水平に保たれる。
図5(b)は容器の断面図である。
【0035】
図5(b)において、容器21の中央に備えられた円筒状の第1の電極23と容器21の側面に設けられた第2の電極24間には、下部の海水と上部の気体が誘電体となり、電気容量が形成される。海水の誘電率は空気の誘電率の約80倍であり、以下では、圧力計の電気容量は海水の占める体積に依存していると考える。つまり、気体の体積による誘電率の寄与は無視できる程度に小さいと考える。
【0036】
圧力計が海水中に沈められると界面が上昇し、容器21内部の電極間では海水の体積が増加し、電気容量が大きくなる。気相の距離と電気容量の関係を予め測定して両者の関係式を求めておけば、容量変化の検出手段により求めた電気容量C1から気相の距離h1が求まり、その距離から残存気体の体積V1を求めることができ、ボイルシャルルの法則から、残存気体の圧力P1が求められ、このP1と釣り合っている液体の静水圧P1が求められる。
仮に気相の距離h1が1気圧の時の10分の1であるとすれば、式(2)から式(6)までの如く、体積が1/100になり、容器内部の残存気体の圧力は100気圧となる。もちろん、残存気体の温度を測定し、第1の容器21を海中に沈める際に測定した温度と残存気体の温度が違っていれば、温度の影響を演算で補正する必要がある。
【0037】
側面が三角形の容器21は、開口した底面が長方形で側面が2等辺三角形の容器を例にして説明した。容器21では底面に平行な断面が底面と相似形で、その面積が錐体状形態の頂点をなす直線からの距離に比例する大きさである条件を備えていれば、底面と交差する1組の平面をなす側面が不等辺三角形でもよいし、その側面の面積が無限に小さい三角形(言い換えれば直線)でもよい。また、錐体状形態の容器が底面と直交する必要はなく、底面に対して斜行していてもよい。
このような形態の容器であれば、頂点をなす直線からの距離の2乗に比例して容器の体積が増加することから、液体による圧力を受けた場合、頂点をなす直線から界面までの距離は圧力の2乗に反比例することになる。したがって、同じ圧力を受けても圧力に反比例して距離が変わる直方体等の角柱や円柱の容器のとは異なり、気相の距離は圧力の2乗に反比例して変わることから、気相の距離を長く保つことができる。
【0038】
上記の実施例では、第1の電極や第2の電極を第1の容器内部に設ける場合、残存気体中の第1や第2の電極の体積に相当する体積を演算時に残存気体の体積から差し引く演算をする必要がある。あるいは、第1の容器の上部に残存気体中の第1や第2の電極の体積に相当する体積の空域を設け、該当する体積の代替えをしてもよい。
【0039】
図6で示した容器211は、
図5(a)で示した側面が三角形の容器21を高さがh
23である位置で上部と下部に切断し、切り取った上部の部分と同じ体積の容器(側面が矩形)に上部の部分を変更した構成である。高さh
23までの界面の位置を求める場合であれば、上部の体積が同じであればその形状には関わりなく界面の位置は同じになることから気相の距離を求めることができ、その距離は海水(液体)による圧力の2乗に反比例する。
この場合、第1の電極や第2の電極を第1の容器内部に設けた場合、第1の電極や第2の電極が占める体積に該当する体積も、上部の容器の体積に含めることが好ましい。そうすれば気相の距離から残存気体の体積の演算がし易くなる。
【0040】
図7で示した容器212は、
図6で示した容器211を高さがh
24である位置で上部と下部に切断し、下部の部分と同じ体積の容器(側面が三角形ではない)に下部の部分を変更した構成である。界面の位置がh
23からh
24間の容器内部にあれば、界面の位置を求め下方に取り付けた容器の体積を考慮して、気相の距離を求め、その気相の距離から求めた体積と残存気体の温度からボイルシャルルの法則に従って残存気体の圧力が求められ、その圧力と釣り合っている海水の静水圧P1が求められる。このように、容器の中間部の側面が三角形の一部をなしている構成であればよい。
【0041】
図8(a)は、本発明の他の実施例の模式図で、海中に圧力計が吊り下げられた状態を示す。円錐である容器31と錘32を図示し、ワイヤーの上部や温度測定手段等は省略してある。この容器31の底部は開口されているものとする。容器31の下方には鎖等で吊り下げられた錘32がある。この錘の作用で容器31は水平に保たれる。
【0042】
図8(b)は、容器31の断面図で、気相の距離がh3である。容器31の中央に備えられた円筒状の電極33と、容器31の側面に設けられた電極34間には、下部の海水と上部の気体が誘電体となり、電気容量が形成される。海水の誘電率は空気の誘電率の約80倍であり、以下では、第1の圧力計の場合の容器21と同様に、第2の圧力計の容器31の電気容量は海水の占める体積に依存していると考える。
【0043】
この圧力計が海水中に沈められると容器31内部の界面は上昇し、容器31内部の電極間では海水の体積が増加し、電気容量が大きくなる。電気容量C2と気相の距離との関係から気相の距離h3を出し、その高さから残存気体の体積V2を求める。
仮に気相の距離h3が1気圧の時の10分の1であるとすれば、式(6)から式(10)までの如く、体積が1/1000になり、容器内部の残存気体の圧力は1000気圧(深度に換算すれば9990m相当)となる。もちろん、残存気体の温度を測定し、第2の容器31を海中に沈める際に測定した温度と残存気体の温度が違っていれば、温度の影響を演算で補正する必要がある。
【0044】
この実施例の容器31は、開口した底面が円形の円錐容器を例にして説明した。円錐容器に限らず錐体容器は底辺に平行な断面が底辺と相似形で、その面積が錐体の頂点からの距離の2乗に比例する大きさである条件を備えていることから、底面と平行な断面が楕円でもよいし、多角形でもよい。もちろん錐体容器が底面と直交する必要はなく斜行していてもよい。
このような錐体容器であれば、頂点からの距離の3乗に比例して錐体容器の体積が増加することから、海水(液体)による圧力を受けた場合、頂点から界面までの距離は圧力の3乗に反比例することになる。したがって、同じ圧力を受けても圧力に反比例して距離が変わる直方体等の角柱や円柱の容器、圧力の2乗に反比例して距離が変わる第1の実施例の錐体状形態の容器とは異なり、気相の距離を長く保つことができる。
【0045】
図9で示した容器311は
図8で示した容器31を高さh
33の位置で下部の円錐台と上部の円錐に切断し、切り取った円錐の体積と同じ体積で形状が異なる容器を、切り取った下部の円錐台に取り付けた構成である。界面の位置が円錐台内の位置h3にあれば、高さh
33より上部の容器の体積が、円錐台の上部に該当する円錐と体積と同じであることから、あたかも円錐内部の気相の距離がh3であると見なすことができ、残存気体の体積が求められる。この残存気体体積と残存気体の温度T2とからボイルシャルルの法則に従って、容器311内部の残存気体の圧力P2と釣り合っている海水の静水圧P2が求められる。
【0046】
上記では、底面と直交する円錐台を例にして説明したが、底面に平行な断面が底辺と相似形で、断面の面積が頂点からの距離の2乗に比例する条件を備えた錐体台であればよく、底面が楕円や多角錐であってもよい。また、底面と斜行していても効果は同じである。もちろん錐体台の上部には、上部の錐体の体積と同じ体積の容器を備えていなければならないし、界面の位置を検出する変位検出用の電極等を第2の容器内部に設けた場合、その電極等が占める体積に該当する体積も含めることが好ましい。このような対策を取れば演算時に気相の距離から残存気体の体積を求め易い。
【0047】
図10に示す容器312は
図9示した容器311を、高さh
34の位置で切断し、その下部と同じ体積であって形状が異なる下方が開口された容器を取り付けた構成である。界面の位置が、h
34からh
33間の円錐台の容器内部にあれば、下方に取り付けた容器の体積を考慮して、界面の位置から気相の距離を求め、その距離から残存気体の体積を求め、その体積と残存気体の温度からボイルシャルルの法則に従って残存気体の圧力P2が求められ、その圧力と釣り合っている静水圧P2が求められる。このように、容器の中間部が円錐台であればよい。
【0048】
上記では円錐台を例にして説明したが、容器の中間部の断面が楕円である楕円錐台でもよいし角錐台であってもよい。また、錐体は直立である必要はなく底面に対して斜行していてもよい。下方に取り付けた容器の体積さえ既知であれば、容器の体積を考慮して、残存気体の体積と残存気体の温度からボイルシャルルの法則に従って残存気体の圧力P2が求められ、静水圧P2が求められる。
【0049】
図11は圧力測定の形態を示すブロック図である。ここでは図示しない円錐台等の容器内における海水と残存気体との間の界面の位置が変われば、容器の側面に設けた第1の電極41と容器の中央部分に設けた第2の電極42との間の海水の量が変化する。海水の比誘電率は大きな値であり、第1の電極41と第2の電極42の間の誘電体である海水の量が変化すれば電極間の電気容量43が変化する。この電気容量43の変化(バリコンとみなす)を例えば発振回路44で発振周波数の変化として検出し、カウンタ45でカウントし、そのカウント値から気相距離演算部46で気相の距離を求める。気相の距離が分かればその体積が求まり、その体積及び温度測定手段47により測定した残存気体の温度から、残存気体の圧力P3を演算手段48より求める。この圧力P3は、海水の静水圧と釣り合っており静水圧P3が求められる。
【0050】
容器内部では海水による静水圧と残存気体の圧力が釣り合っており、容器内部では高低差に起因する僅かな圧力差が生じるだけである。したがって、第1及び第2の電極が変形し、誘電率が変わることはない。言い換えれば、高圧下であっても第1の電極と第2の電極で構成される容量が影響を受けることはない。
【0051】
容量変化を測定する場合、第1の電極と第2の電極を静水圧が加わる容器内部に設け、常圧に保たれた計測室内の容量変化の検出手段と該電極を信号線で接続し容量変化を検出する。このような場合は、第1と第2の電極のみを静水圧が加わる場所に設置すればよく、容量変化検出手段には通常の電子部品を使用することができる。
【0052】
上記の実施例では第1の電極を円柱ないしは多角柱とし第2の電極を容器側面に設け電極間の容量変化を検出したが、第1と第2の電極を平行平板とし容器内部に向かい合わせて配置し、界面が電極間を移動する構成として電極間の容量変化を検出してもよい。また、第1の電極である導電性の物体を誘電体として使用する非導電性の物体で覆い、海水を第2の電極とする方法で電極間の容量変化を検出してもよい。すなわち、第1の電極である導電性物体と第2の電極である海水との間には、非導電性の物体があり電気容量が構成されている。したがって、第2の電極である海水の位置が変われば、電極間の非導電性の物体の体積が変わり電極間の電気容量が変化することから、気相の距離を電気容量から検出できる。この場合、気相の距離と電気容量の変化との関係を予め求めておき、その関係を用いて演算により気相の距離を求めることになる。
【0053】
図12は圧力測定の形態を示す他のブロック図である。ここでは図示しない容器の内面に抵抗体53を設け、抵抗体53の端を第3の電極51とし、抵抗体に接触する海水を第4の電極52とし、気相の距離の違いを抵抗体53の抵抗値の変化(可変抵抗と見なす)として検出する。例えば抵抗体53の抵抗値の変化を発振回路54で発振周波数の変化として検出し、カウンタ55でカウントし、そのカウント値から気相距離演算部56で距離を求める。海水の抵抗値は比較的小さいことから、大きな抵抗値の抵抗体を容器の内面に設ければ、第3の電極51と第4電極間52との間の抵抗体の抵抗値は、第3の電極51から海水と抵抗体53の接触面までの抵抗値となり、気相の距離と抵抗値が比例する。この抵抗値より気相の距離を求め、その距離より残存気体の体積を求め、その体積と温度測定手段57により残存気体の温度とから、残存気体の圧力P4を演算手段58により求める。この圧力P4は、海水の静水圧と釣り合っており静水圧P4が求められる。この場合、気相の距離と抵抗値の変化との関係を予め求めておき、その関係を用いて演算により気相の距離を求めることになる。
【0054】
上記では海水中における測定の実施例について記載したが、本発明は海水中における使用に限定されず、河川や湖沼中でも使用できるし、オイル等の液体中であれば使用できる。また、センシング部分を構成する容器に加わる圧力が平衡状態であればよいことから、気体中であっても、液体を介して容器の下方から圧力を作用させれば、上記と同様の測定ができる。
【0055】
図13は高圧の気体の圧力を測定する実施例である。耐圧容器61の内部に第2の実施例(円錐型容器)の圧力計60を入れ、下方に液体を入れた構成である。耐圧容器61に設けたパイプ63とホース64を接続し、被測定対象の気体(図示しない)をホース64介して耐圧容器61に誘導する。
耐圧容器61内部では、高圧の気体により底部の液体に圧力が加わり、その圧力で圧力計1内部の残存気体が、高圧の気体の圧力と釣り合うまで圧縮される。釣り合い状態になれば、上記した実施例と同様にして、高圧の気体の圧力を求めることができる。