【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例1の収音装置の全体図である。
図2は実施例1の音響レンズの説明図であり、
図2Aは外観図、
図2Bは導波管部分の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の収音装置1は、音源2に対して間隔をあけて配置された音響レンズ3を有する。
図1、
図2において、実施例1の音響レンズ3は、音源2に対向する平面状の第1の端面4を有する。第1の端面4は円形状に形成されている。また、音響レンズ3は、全体として、頂点が切除された円錐状、いわゆる切頂円錐状に形成されている。したがって、音響レンズ3は、音源2側の第1の端面4に対して、音源2とは反対側の第2の端面6に行くに連れて細くなる錐状に形成されている。
【0014】
第1の端面4には、複数の開口11が形成されている。実施例1では、第1の端面4の中央部に第1の開口11aが形成されている。また、第1の開口11aの外側には、第1の開口11aを囲むように6つの第2の開口11bが形成されている。さらに、第2の開口11bの外側には、第2の開口11bを囲むように6つの第3の開口11cが形成されている。実施例1では、開口11は円形状に形成されている。また、実施例1では、第1の開口11aと第2の開口11bは同一径の円形状に形成され、第3の開口11cは、第1の開口11aおよび第2の開口11bに比べて大径の円形状に形成されている。
【0015】
図3は実施例1の収音装置の導波管部分の概念説明図である。
図2、
図3において、第2の端面6の内側には、マイクロホン装置12が収容されている。マイクロホン装置12は、配線13を介して、処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータPCに接続されている。パーソナルコンピュータPCは、マイクロホン装置12が収音した音声信号を音声データとして記録する。なお、処理装置は、パーソナルコンピュータPCに限定されず、例えば、音楽レコーダ等の録音機器を使用可能である。
【0016】
各開口11(11a〜11c)と、マイクロホン装置12との間は、導波管(伝声管)21で接続されている。
図2、
図3において、第1の開口11aとマイクロホン装置12とは第1の導波管21aで接続されている。また、第2の開口11bのそれぞれとマイクロホン装置12とは第2の導波管21bで接続されている。さらに、第3の開口11cのそれぞれとマイクロホン装置12とは第3の導波管21cで接続されている。
図2において、第3の導波管21cは、第3の開口11cからマイクロホン装置12に向けて直線状の管路で構成されている。また、第2の導波管21bは、第2の開口11bからマイクロホン装置12に対して、一度外側に張りだした後に、途中で屈曲してマイクロホン装置12に向かう管路により構成されている。したがって、第2の導波管21bの長さは、第3の導波管21cに比べて長く構成されている。また、第1の導波管21aは、第1の開口11aからマイクロホン装置12に対して、第2の導波管21bおよび第3の導波管21cにより囲まれた内側の空間において、2回屈曲してマイクロホン装置12に向かう管路により構成されている。したがって、第1の導波管21aは、第2の導波管21bに比べて長く構成されている。
【0017】
図3において、実施例1の第1の導波管21a〜第3の導波管21cの長さは、音源2からマイクロホン装置12までの音波の経路長が一致するように設定されている。実施例1では、第1の開口11aの中心に対して、第1の端面4の法線4a上に音源2が存在する場合において、第1の開口11aと音源2までの距離L1を予め設定すると、第2の開口11bと音源2との距離は、L1+L2となり、第3の開口11cと音源2との距離は、L1+L3となる。したがって、第1の導波管21aの管路の経路長をL4とした場合に、音源2からマイクロホン装置12までの経路長L1+L4に基づいて、第2の導波管21bの経路長は、L4−L2となるように設定され、第3の導波管21cの経路長は、L4−L3となるように設定される。
【0018】
図4は実施例1の導波管の入口部分の説明図である。
図4において、実施例1では、各導波管21a〜21cの入口部分は、内表面22の断面が内部に行くに連れて、指数関数の曲線に沿って構成されている。すなわち、音源2に接近、離間する方向をX軸とし、第1の端面4に沿った方向をY軸とした場合に、y=exp(x)の曲線に沿った内表面22に形成されている。
なお、実施例1の音響レンズ3は、樹脂製であり、市販の3Dプリンタにより作製したが、これに限定されない。例えば、音響レンズ3を2つ以上に分割して、導波管21a〜21cを切削加工や型抜きで形成して接合して作製することも可能である。なお、材料も樹脂に限定されず、金属で構成することも可能である。さらに、音響レンズ3は、切頂円錐状に構成したが、これに限定されず、切頂六角錐等の多角錐状にしたり、円柱状、多角柱状等、任意の外形形状とすることも可能である。
【0019】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の収音装置1では、音響レンズ3から予め設定された距離(特定の距離)L1離れた位置の音源2からの音は、第1の導波管21a、第2の導波管21b、第3の導波管21cを通じてマイクロホン装置12に導かれる。このとき、各導波管21a〜21cを通過した音波は、経路長が同一となるため、マイクロホン装置12の位置では、同位相の波が合成される。よって、音源2からの音は、増幅されて、マイクロホン装置12で収音される。ここで、法線4a上であり且つ音源2とは異なる位置、すなわち、音源2よりも音響レンズ3に近い位置または遠い位置にある雑音源からの音波では、第1の開口11aに対する第2の開口11b、第3の開口11cまでの各経路差が、L2,L3とは異なる。したがって、雑音源からマイクロホン装置12までの経路長が、各導波管21a〜21cを通過する際に異なり、マイクロホン装置12では、位相の異なる波が合成されやすい。したがって、雑音源からの音は、増幅はされにくく、減衰されてマイクロホン装置12で収音されやすい。また、法線4a上ではない雑音源からの雑音も、各開口11a〜11cまでの経路差がL2,L3とは異なる。よって、マイクロホン装置12において、雑音が減衰されて収音されやすい。
【0020】
指向性マイクロホン装置を使用する場合は、音源2と同じ方向(法線4a上)に雑音源が存在する場合に、雑音も収音されるが、実施例1の収音装置1では、音源2と同じ方向に雑音源が存在する場合でも、音源2の音が増幅され、雑音(音源2以外からの音)が減衰された状態で収音される。また、実施例1では、音響レンズ3を音が通過する際に目的の音(音源2からの音)が増幅されるとともに雑音(音源2以外からの音)が減衰されて、マイクロホン装置12で収音される。したがって、収音された音の信号に対して信号処理を行う必要がなく、計算処理を行うための回路や装置も必要なく、計算処理のための時間的な遅延も無い。よって、指向性マイクロホンを使用する場合や信号処理を行う場合に比べて、実施例1の収音装置1は、雑音が存在する環境下において目的の音(音源2からの音)を収音する精度を向上させることができる。
【0021】
したがって、例えば、自動車において、運転者の位置を音源2の位置に合わせた音響レンズ3を使用することで、同乗者の発言やラジオ等の音、空調の音等を減衰させつつ運転者の発言のみを効率的に収音することができる。よって、雑音が低減された状態で運転者の発言の音声認識の精度が向上しやすく、ハンズフリー通話やカーナビゲーションの操作の音声指示等の精度も向上させることが可能である。
また、例えば、会議場において、演壇の位置を音源2の位置に合わせた音響レンズ3を使用することで、会議場の観覧者の発言や入退出時の音等を減衰させつつ、演壇での発表者(特定の人)の発言のみを効果的に収音することが可能である。他にも、例えば、野球場において、ホームベースの位置を音源2の位置に合わせた音響レンズ3を使用することで、観客の歓声を減衰させつつバットで球を打つ音を収音させることが可能である。
【0022】
また、実施例1では、開口11a〜11cの入口部分の内表面22が、指数関数の曲線にそって構成されている。したがって、開口11a〜11cに到達した音波が導波管21a〜21cの内部に案内されやすくなっている。よって、指数関数の曲線に沿って内表面22が構成されていない場合に比べて、目的の音を収音する効率、精度を向上させることが可能である。
さらに、実施例1では、導波管21a〜21cは、3種類の長さを有している。導波管の種類が多いほうが、合成可能な波の種類(経路差(時間差)の異なる波の種類)が多くなり、マイクロホン装置12の位置における波の合成の効果(目的の音の増幅および雑音の減衰の効果)が期待できる。よって、2種類しか無い場合に比べて、実施例1の音響レンズ3では、波の合成の効果が期待できる。なお、導波管の種類(長さの違い)は、前述のように多いほうが望ましく、実施例1のように3種類に限定されず、4種類以上とすることも可能である。なお、導波管の種類が多くなると、3次元空間において、導波管を配置、設計することが困難になり、音響レンズ3が大型化する恐れもあるため、音響レンズ3の大きさと種類の数とのバランスが必要となる。よって、音響レンズ3の大きさを小型化するために、導波管の種類は2種類とすることも可能である。
【0023】
なお、実施例1では、外側の開口11cが、内側の開口11a,11bよりも大きく形成されており、開口11a〜11cの大きさが同一の場合に比べて、第3の開口11cの中心が、第2の開口11bの中心よりも離れやすい。したがって、開口11a〜11cの大きさが同一の場合に比べて、音源2から第1の開口11aまでの経路と、音源2から第3の開口11cまでの経路との経路差L3が大きくなりやすく、音源2から第2の開口11bまでの経路と音源2から第3の開口11cまでの経路との経路差L3−L2も大きくなりやすい。経路差が大きくなると、合成される音波の位相差が大きくなり、位相差(経路差)補正が行われていない音波は合成時に減衰されやすくなる。一方、位相差補正が行われ、同相加算される音波は増幅される。よって、雑音の音波は、位相差が大きくなって減衰されやすくなり、目的の音の音波が選択的に増幅されやすくなる。したがって、実施例1では、開口の大きさが同一の場合に比べて、目的の音を収音する精度を向上させることができる。
【実施例3】
【0026】
図7は実施例3の収音装置の説明図である。
図7において、実施例3の収音装置1″では、音響レンズ3は、第1の端面4が音源2に対向せず、反対側を向いている。そして、音響レンズ3を挟んで、音源2の反対側には、距離変更部材の一例としての反射板31が配置されている。反射板31は、放物面状に形成されている。そして、反射板31の放物面の焦点の位置に対応して、音響レンズ3が配置されている。
【0027】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の収音装置1″では、音源2で発生した音は、放物面状の反射板31で反射され、音響レンズ3の位置に向けて集束される。よって、反射板31を使用すると、音響レンズ3に向けて音が集束されやすいので、集束されない場合に比べて、目的の音を収音する効果が大きくなることが期待できる。また、音源2との距離に合わせた曲率の放物面を選択することで、音響レンズ3の構成(距離L1)を変えなくても、任意の位置の音源2の音を収音することが可能である。さらに、距離L1が異なる音響レンズ3と曲率の異なる反射板31との組み合わせにより、任意の位置の音源2の音を効率的に収音することも可能である。
【0028】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例では、例示した具体的な数値は、例示した数値に限定されず、設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。例えば、音源2までの距離L1は、任意に設定可能である。
(H02)前記実施例において、マイクロホン装置12に対して1つの音響レンズ3を使用する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、マイクロホン装置12と音源2との間に、複数の音響レンズを多段に配置して、1段目の音響レンズで経路差の一部除去し、2段目、3段目、…の音響レンズのすべてを利用して経路差を除去することで、目的の音を効率的に収音する構成とすることも可能である。
【0029】
(H03)前記実施例において、反射板の形状をパラボラ状とすることを例示したが、これに限定されない。音響レンズ3との組あわせで最適な反射面とすることが可能であり、例えば、6次非球面や楕円面等に変更することも可能である。
(H04)前記実施例において、第1の端面4が平面状の構成を例示したが、これに限定されない。凹面状や凸面状、凸球面状、凹球面状等、任意に変更可能である。なお、第1の端面4の形状に応じて、導波管の長さも調整可能であり、例えば、第1の端面4の形状で経路差が除去される場合、導波管の長さがすべて同一の音響レンズとすることも不可能ではない。