【実施例】
【0029】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各実験において、試薬は特に記載の無い限り、市販の特級試薬を用い、その他の材料及び装置は、文中に記載した。
【0030】
(実験1 低温低酸素処理)
((方法))
本実験では、培養時ではなく細胞を低酸素に曝露する際の温度を、ユーグレナの培養至適温度である27℃と、ユーグレナが増殖しない低温である16℃として低酸素処理を行い、ワックスエステル合成におよぼす影響について調べた。
・材料及び試薬
本実験では、葉緑体を有するEuglena gracilis Z株(以下ユーグレナ野生株)をstreptomycin処理で人工的に葉緑体を永久欠損させた変異体Euglena gracilis SM-ZK株(以下ユーグレナ葉緑体欠損株)(Oda Y. et. al., (1982) : J Gen Microbiol, 128, 853-858.)を使用した。
【0031】
・ユーグレナの培養方法
従属栄養培地として表1のKoren-Hutner培地(KH培地)を用いた。
【0032】
【表1】
【0033】
500ml容坂口フラスコに、pHを5.0に調整した150mlの表1のKH培地を分注し、121℃、15分のオートクレーブにより滅菌した。この培地に、4〜5日間程度の培養で定常期に達したユーグレナ(15〜20×10
6cells/ml)を1ml接種し、24時間の連続光照射条件下、27℃で振盪培養した。
【0034】
細胞数計測には、粒子計数分析装置(CDA-1000)を用いた。10倍ルゴール液を、ヨウ素1g,ヨウ化カリウム2gにH
2Oを全量が300mlになるよう添加して調製した。
ユーグレナの培養液とルゴール液を1:1の割合で混合することで細胞を固定し、この細胞液を適宜希釈して使用した。生存率測定はPropidium iodide(PI, Life Technologies
TM)による死細胞染色を蛍光観察することにより行った。
【0035】
・細胞数の測定および生存率測定
細胞数計測では、ユーグレナ培養液を100μl採取し、0.5μlのPIを添加して約15分間静置した。その後、プレパラートを作製してHSオールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察した。撮影した写真をもとに、(全細胞数−PI染色細胞数)/全細胞数で生存率を算出した。
【0036】
・ユーグレナ低酸素曝露方法
本実験で原料ユーグレナ細胞として用いたユーグレナ葉緑体欠損株は、静置すると培養容器の底へ沈む性質があった。静置して沈降した条件では、通気が悪く、さらに溶存酸素は自らの呼吸によって消費されることから、細胞は低酸素状態にあると考えられる。そこで、本実験では、低酸素状態とは、ユーグレナ細胞を静置した状態と規定した。
【0037】
好気状態で対数増殖期後期まで生育させたユーグレナ細胞1.5 mlを1.5mlエッペンドルフチューブに移し、温度を16℃(低温)、27℃(通常時の培養温度)に設定したインキュベーター内で静置することにより低酸素処理を行った。
【0038】
・パラミロンの抽出・定量
遠心分離(17400×g,1分)により、約0.5×10
6cellsのユーグレナを回収し、蒸留水で洗浄した後、上清を完全に除去した。パラミロン抽出はYokotaらの方法(Yokota A et. al., (1982) : Arch. Biochem. Biophys. 213 (2), 530-537.)に従って行った。定量はフェノール硫酸法(Hodge J. E., Hofreiter, B. T. (1962) In Method in Carbohydrate Chemistry, 1, 380-394.)により行い、既知濃度のグルコース水溶液をスタンダードとして用いた。
【0039】
・ワックスエステル抽出分析法
1.5 mlエッペンドルフチューブにユーグレナ培養液1.5 mlを移し、24h静置して低酸素処理を行った。その後遠心分離(17400×g,1分,4℃)し上清を除去した後、蒸留水で洗浄し、完全に上清を除去した。ワックスエステル抽出及び定量は、Inuiらの方法(Inui, H et.al.,(1982))に従って行った。ガスクロマトグラフィーはGC-2014を用い、2.5% Thermon-3000カラムで、235℃の恒温分析により測定した。スタンダードには、既知濃度のC14:0-C14:0Alcを用いた。
【0040】
・ワックスエステルの精製
粗抽出ワックスエステルをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。シリカゲルカラムは脱脂綿で先細部を密栓したパスツールピペット(直径5mm)にシリカゲル60(230-400mesh、Merck)を充填することにより作製した。溶媒はヘキサン、溶出は1%ジエチルエーテルを含むヘキサンで行った。
・ワックスエステルのケン化
ワックスエステルのケン化はInuiらの方法(Inui H et al. (1983))に従って行い、脂肪酸画分(FA)と脂肪アルコール画分(FAlc)を獲得した。
【0041】
・脂肪酸のメチル化
ワックスエステルのケン化により獲得した脂肪酸に対して、トリメチルシリルジアゾメタンによるメチル化処理を行い、脂肪酸メチルエステルを獲得した。まず、トルエン、ヘキサン、メタノールを1:1:1で混合し、混合液200μlで脂肪酸サンプルを溶解させた。トリメチルシリルジアゾメタンを10μl添加して数分放置した。反応後、飽和食塩水を200μl加えて混合後遠心し、有機相(上層)と水相(下層)を分離させた。有機相を回収・乾固し、脂肪酸メチルエステル画分(FAME)とした。
【0042】
・脂肪アルコール、メチル化脂肪酸の分析
ガスクロマトグラフィーはGC-2014を用い、2.5%Thermon-3000カラムで、155℃の恒温分析により脂肪酸メチルエステル、脂肪アルコールを測定した。保持時間のスタンダードとしてC12-Alc、C14-Alc、C12-FAME、C14-FAMEを用いた。
【0043】
・示差走査熱量計(DSC)によるモデル燃料作製の熱特性解析
モデル燃料を用いて示差走査熱量測定(DSC6100、Seiko Instruments Inc.)により熱分析を行った。
示差走査熱量計(DSC)とは、一定の熱を与えながら、基準物質と試料の温度を測定して、試料の熱物性を温度差として捉え、試料の状態変化による吸熱反応や発熱反応を測定する装置である。
目的ワックスエステルの脂肪酸・脂肪アルコール組成をもとに市販の脂肪酸メチルエステルと脂肪アルコールを混合後湯煎により融解し、DSCサンプルとした。
-150℃から80℃までを5℃/分で加熱し、続けて-150℃まで冷却する2ステップのプログラムで凝固点、融点の測定を行った(Dunn RO, (1999) : Thermal analysis of alternative diesel fuels from vegetable oils., J AM oil Chem Soc, 76, 109-115.)。
【0044】
((結果))
・培養温度が低酸素状態のパラミロン分解におよぼす影響
対数増殖期後期まで27℃振盪培養したユーグレナ細胞を27℃(対比例1)、16℃(実施例1)の温度条件で低酸素処理し、処理前(0時間)および24時間後の細胞の貯蔵パラミロン量を、((方法))の「・パラミロンの抽出・定量」に示した方法で測定した。結果を、
図3に示す。
図3の結果より、16℃での低酸素処理(実施例1)により、27℃(対比例1)と比べてパラミロン分解量は減少した。
【0045】
・培養温度によるワックスエステル合成への影響
27℃で3日間振盪培養したユーグレナ細胞を27℃(対比例1)、16℃(実施例1)の温度条件で低酸素処理した。
24時間後に細胞ワックスエステルを抽出し、((方法))の「・ワックスエステル抽出分析法」に示した方法で測定した。ワックスエステルの総量を
図4、鎖長ごとのワックスエステル量を
図5に示した。ここでのワックスエステル総量とは、炭素鎖長20から32の各鎖長ワックスエステル量の合計とする。
【0046】
図4に示すように、16℃での低酸素処理(実施例1)により、ワックスエステル総量は27℃低酸素処理区(対比例1)の約50%となった。
図5に示すように、27℃低酸素処理区(対比例1)では、最も量の多いワックスエステル分子種(以下ワックスエステル組成ピークと記載)はC28であったが、16℃低酸素処理区(実施例1)ではC26に変化した。C24、C25のワックスエステルは16℃処理区(実施例1)において、27℃処理区(対比例1)と比較して絶対量が増加していた。
【0047】
・脂肪酸組成、脂肪アルコール組成の変動
粗抽出ワックスエステルを((方法))の「・ワックスエステルの精製」「・ワックスエステルのケン化」に示した方法で精製、ケン化し、脂肪アルコールと脂肪酸を獲得した。脂肪酸は((方法))の「・脂肪酸のメチル化」に示した方法でメチル化した。脂肪酸メチルエステル、脂肪アルコールを((方法))の「・脂肪アルコール、メチル化脂肪酸の分析」に示した方法で測定した。脂肪酸組成の測定結果を
図6に、脂肪アルコール組成の測定結果を
図7に示す。
【0048】
図6より、16℃での低酸素処理(実施例1)により、脂肪酸組成は、27℃低酸素処理(対比例1)と比べC12、C13の割合が増加し、C14より長鎖脂肪酸の占める割合は減少した。
図7より、16℃での低酸素処理(実施例1)により、脂肪アルコール組成は、27℃低酸素処理(対比例1)と比べC12、C13の割合が増加し、C14より長鎖脂肪アルコールの占める割合は減少した。
【0049】
・低温処理によるモデル燃料の凝固点変化
図4の脂肪酸組成、
図5の脂肪アルコール組成をもとに脂肪酸メチルエステルと脂肪アルコールを混合し、27℃処理区モデル燃料(対比例1)と低温処理区モデル燃料(実施例1)を作製した。
((方法))の「・示差走査熱量計(DSC)によるモデル燃料作製の熱特性解析」の方法により、モデル燃料の凝固点を測定した。測定結果を、
図8に示す。
27℃処理モデル燃料(対比例1)の凝固点は20℃、低温処理モデル燃料(実施例1)の凝固点は15.7℃であり、低温処理を行うことで約4℃凝固点が低下した。
【0050】
ユーグレナの増殖過程を含めて16℃の低温で行う場合には、ユーグレナの増殖が遅く、全体として培養日数が長くなることが予想されるが、本実験では、実施例1において、予めユーグレナを27℃で振盪培養にすることで、4日目に定常期となり、定常期後の細胞に低酸素処理を行うことにより、培養日数を減らしつつ低温適性が向上したワックスエステルの獲得に成功した。
【0051】
低温条件で低酸素曝露を行うと、パラミロンの分解量が減少した。そして、ワックスエステルの総量が減少してワックスエステル組成が短鎖側にシフトした。パラミロン分解量の減少およびワックスエステル総量の減少はユーグレナが低温に曝されたことにより代謝が低下したためだと考えられる。
【0052】
(実験2 低温処理とEgKAT1ノックダウンの組み合わせがワックスエステル発酵に及ぼす影響)
実験1にて、ユーグレナを低温(16℃)に曝して低酸素処理すると、低分子化したワックスエステルが得られた。そこで、本実験では、低温処理とEgKAT1ノックダウンの組み合わせがワックスエステル発酵に及ぼす影響を解析した。
【0053】
((反応機序))
ユーグレナ細胞が低酸素状態に陥ると、
図1に示すように、細胞内に貯蔵されていたパラミロンがグルコース単位に分解され、解糖系を経てピルビン酸となり、ミトコンドリアに輸送された後、ピルビン酸:NADP+酸化還元酵素の作用によってアセチルCoAに酸化的脱炭酸される。その後、ミトコンドリアに局在するde novo脂肪酸合成系でアシルCoAへと変換され、ミクロソームでワックスエステルへと合成される。ユーグレナの細胞内には、細胞内局在の異なる3種の脂肪酸合成系が存在する。一つは細胞質に存在する動物型脂肪酸合成系(FAS I)、もう一つは葉緑体に存在する植物型のACP依存型脂肪酸合成系(FAS II)、そして上に述べたミトコンドリア局在アセチルCoA依存型脂肪酸合成系である。
【0054】
このように、細胞内に複数の脂肪酸合成系が存在する生物は非常に珍しい。FAS IとFAS IIはアセチルCoAのマロニルCoAへの活性化のステップから開始され、この反応でATPを消費する。そのため、解糖と組み合わせても正味のATPを獲得できない。
しかしミトコンドリアに存在する脂肪酸合成系は、
図2に示すように、アセチルCoAの二分子縮合から始まる脂肪酸β酸化の逆行で脂肪酸が合成され、この反応ではATPを消費しないため、低酸素状態でも脂肪酸を合成とエネルギー獲得を両立することができる。一般的な生物でのβ酸化の逆行反応において、エノイルCoAの還元によるアシルCoA合成を触媒するエノイルCoAレダクターゼは、C4基質であるクロトニルCoAに作用しない。そのため、この系でのde novo脂肪酸合成はできず、中鎖脂肪酸の伸長反応系として機能している。
【0055】
一方、ユーグレナにおいては基質特異性の異なる3種のアイソザイムが存在し、そのうち1種がC4基質クロトニルCoAに高い基質特異性を持つ。このことによりユーグレナでは、β酸化の逆行経路で脂肪酸のde novo合成が可能となっている。
【0056】
3-ケトアシルCoAチオラーゼ(KAT)は脂肪酸β酸化及びその逆行経路で機能する酵素であり、
図2において、アシルCoAとアセチルCoAのクライゼン縮合反応を触媒し3-ケトアシルCoAを合成する。この反応によりアシルCoAの炭素鎖長は2個分伸長する。
一般的な生物は基質特異性の異なるKATアイソザイムを複数持っている。ユーグレナワックスエステル合成系においても基質特異性の異なる複数のKATアイソザイムが機能していると考えられる。本発明者らは、これらのKATアイソザイムを制御することはワックスエステル組成の改変につながると考えた。
【0057】
本発明者らは、調査を行ったところ、ユーグレナESTデータベース上(TBestDB)で6種のEgKATアイソザイム(EgKAT1〜6)の存在を見出した。
本実験では、ワックスエステル生産において機能するEgKATアイソザイムを特定し、それらの発現制御がワックスエステル生産に及ぼす影響を明らかにするために、RNAiによるEgKAT遺伝子のノックダウンを行った。
【0058】
((EgKAT遺伝子のノックダウン))
・半定量RT-PCR
好気状態で3日間培養したユーグレナからtotal RNAを抽出し、逆転写によりcDNAを獲得した。半定量RT-PCRによって各遺伝子の発現量を調べた。
以下、半定量RT-PCRについて説明する。
-ユーグレナ細胞からのtotal RNAの抽出
RNAの抽出にはISOGEN II(NIPPON GENE)を用いた。試薬は、原則としてRNase freeのものを用い、水はDEPC処理したものを使用した。
500μlのユーグレナ培養液から遠心によりユーグレナ細胞ペレットを回収し、500μlのISOGEN IIを加えて完全に懸濁した。200μlのDEPC水を加え、15秒間激しく攪拌し、室温で15分静置した。遠心分離(17400×g、15℃、15分)を行った後、沈殿付近を取らないように上清画分から500μl回収した。これに2.5μlのp-ブロモアニソールを加え、15秒間激しく撹拌し、室温で5分静置した。遠心分離(17400×g、15℃、10分)を行った後、沈殿付近を取らないように上清画分から300μl回収した。回収した液量と同量のイソプロパノールを添加し、転倒混和後、室温で10分静置した。遠心分離(17400×g、15℃、10分)後、上清を捨て、沈殿に対して500μlの75%エタノールを加え、遠心分離した(7700×g,15℃,3 分)。75%エタノールで再度沈殿を洗浄し、遠心分離した(7700×g,15℃,3分)。上清を完全に取り除き、12μlのDEPC水で溶解した。RNA濃度は分光光度計によって、A260値を測定することで求めた。
【0059】
-逆転写反応
total RNAを鋳型として、PrimeScriptR RT reagent Kit with gDNA Eraser(Perfect Real Time)により逆転写反応を行った。
表2の反応液(1)を42℃で2分インキュベートし、氷上で急冷した。
【0060】
【表2】
【0061】
反応液(1)に、表3の反応液(2)を加え混合後、37℃で15分、85℃で5秒インキュベートすることで、cDNAを得た。
【0062】
【表3】
【0063】
-半定量PCR
合成したcDNAを鋳型として、表4〜表6の条件で半定量PCRを行った。また、反応後の確認は1%ゲルを用いたアガロースゲル電気泳動により行った。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
また、ハウスキーピング遺伝子としてα-チューブリンを採用した。α-チューブリンcDNA断片の増幅には表7のプライマーを用い、18サイクルの反応により行った。
【0068】
【表7】
【0069】
-二本鎖RNA(以下dsRNA)の作製
逆転写により獲得したcDNAを用い、両端にT7配列を付加したEgKAT cDNA部分断片をPCRにより増幅、精製した。精製後のcDNA断片500ngもしくは1μgをT7転写反応に用いた。T7転写反応以降はMEGAscript(登録商標)RNAi Kit(Applied Biosystems)を用いて各EgKATに対応するdsRNAを作製した。
dsRNA用プライマーを、表8に示す。
【0070】
【表8】
【0071】
-エレクトロポレーション法を用いたRNAi
PBS(+)で二度洗浄した10×10
6cells/mlのユーグレナ細胞400μl、15μg分の二本鎖RNAをキュベットに入れ、軽くピペッティングした。PBS(+)の組成は、表9の通りである。
【0072】
【表9】
【0073】
その後、装置にBMS-ECM630を用い、二本鎖RNA15μgについて、抵抗50Ωで、エレクトロポレーションを行った。この際、ネガティブコントロールにはdsRNAの代わりにTE buffer(0mM Tris-HCl(pH8.0),1mM EDTA(pH8.0))を15μl使用した。
なお、同じ反応系に対して電圧と電気容量の組合せを、1回目0.5kV,120μF,2回目1.2kV,50μFに変えて2回の電気パルスを与えた。
【0074】
キュベットはGap長さが2mmのものを用いた。パルス後の細胞を回収し、KH培地1mlが入った5mlプラスチックチューブに移した後、蓋をパラフィルムで固定し、ローテーターで旋回培養した。27℃で、3h旋回培養した後、KH培地3mlが入った試験管に150μl移すことで継代し、27℃で振盪培養した。
【0075】
((結果))
・RNAiによるEgKAT mRNA発現抑制効果の確認
((方法))の「-二本鎖RNA(以下dsRNA)の作製」「-エレクトロポレーション法を用いたRNAi」により、EgKAT RNAiを行った細胞およびコントロール細胞を対数増殖期後期まで振盪培養した。((方法))の「-ユーグレナ細胞からのtotal RNAの抽出」により、培養後の細胞からtotal RNAを抽出し、「-逆転写反応」により逆転写を行った後、半定量RT-PCRによってEgKAT mRNA発現量を調べた。
結果を、
図9に示す。
図9のように、EgKATノックダウン細胞が得られていた。
【0076】
・EgKATのノックダウンによる細胞の生育、生存への影響
RNAiを行った細胞の好気状態における増殖曲線を測定した。測定結果を、
図10のグラフに示す。
図10の結果より、好気状態の生育において、コントロール細胞とEgKATノックダウン細胞の間に差は認められなかった。このことから、好気状態において、EgKATのノックダウンはユーグレナの生育に影響を及ぼさないことが明らかになった。
【0077】
次に、3日間振盪培養した細胞を低酸素処理し、48時間後の細胞の生存率を測定した。表10に、結果を示す。
【0078】
【表10】
【0079】
表10の結果より、低酸素状態において、EgKAT3ノックダウン細胞では生存率が約50%にまで低下していた。また、コントロール細胞とEgKAT3を除くEgKATアイソザイムノックダウン細胞では生存率は70%以上であり、ほぼ同等の生存率を示した。
【0080】
・EgKATのノックダウンによるパラミロンの合成・分解への影響
EgKAT RNAiを行った細胞およびコントロール細胞を3日間振盪培養した後、低酸素処理し、0時間および48時間後に細胞内パラミロン量を実験1((方法))の「・パラミロンの抽出・定量」に示した方法で測定した。結果を、
図11のグラフに示す。
図11の結果より、低酸素培養0時間および48時間後のパラミロン量はコントロール細胞とノックダウン細胞の間で大きな差はなかった。
【0081】
・低温処理とEgKAT1ノックダウンの組み合わせがワックスエステル総量におよぼす影響
EgKAT1 RNAiを行った細胞およびコントロール細胞を好気状態で4日間生育させた細胞を27℃または16℃で低酸素処理し、24時間後の細胞内に存在するワックスエステルを実験1と同様の方法で抽出し、分析した。
図12に、27℃・コントロール細胞(対比例2)および16℃・EgKAT1ノックダウン細胞(実施例2)のワックスエステル総量、
図13に炭素鎖長別のワックスエステル量を示す。
【0082】
図12に示すように、二つの因子を組み合わせた16℃・EgKAT1ノックダウン細胞(実施例2)において、ワックスエステル総量は27℃・コントロール細胞(対比例2)の約40%となった。
図13に示すように、ワックスエステル組成ピークは27℃・コントロール細胞(対比例2)ではC28であることに対して、組み合わせた16℃・EgKAT1ノックダウン細胞(実施例2)において、C24、C25の割合が高くなり、C21〜C25の絶対量も27℃・コントロール細胞(対比例2)と比べて高くなった。
【0083】
・低温処理とEgKAT1のノックダウンの組み合わせが脂肪酸、脂肪アルコール組成におよぼす影響
粗抽出ワックスエステルを実験1の((方法))「ワックスエステルの精製」「ワックスエステルのケン化」に示した方法で精製、ケン化し、脂肪アルコールと脂肪酸を獲得した。脂肪酸は実験1の((方法))「脂肪酸のメチル化」に示した方法でメチル化した。脂肪酸メチルエステル、脂肪アルコールを実験1の((方法))「脂肪アルコール、メチル化脂肪酸の分析」に示した方法で精製し、脂肪酸組成は
図14、脂肪アルコール組成は
図15に示す。
【0084】
図14より、27℃・コントロール(対比例2)の脂肪酸組成ではC14の割合が最も高いが、16℃・EgKAT1 RNAi(実施例2)ではC12の割合が最も高くなり、C11の割合も増加した。
図15より、脂肪アルコールについても、16℃・EgKAT1 RNAi(実施例2)によりC11、C12の割合が増加した。
【0085】
・DSCによるモデル燃料の熱特性解析
図14の27℃・Control(対比例2)、16℃・EgKAT1 RNAi(実施例2)の脂肪酸組成、
図15の脂肪アルコール組成をもとに脂肪酸メチルエステルと脂肪アルコールを混合し、27℃・Controlモデル燃料(対比例2)と16℃・EgKAT1 RNAiモデル燃料(実施例2)を作製した。実験1の((方法))の「・DSCによるモデル燃料の熱特性解析」の方法により、モデル燃料の凝固点・融点を測定した。
結果を
図16に示す。
図16に示すように、コントロールモデル燃料(対比例2)の凝固点は20℃、低温処理モデル燃料(実施例2)の凝固点は7.2℃であり、低温処理を行うことで約13℃凝固点が低下した。
【0086】
(実験1及び2まとめ)
ユーグレナのKATに関し、ワックスエステル合成経路で機能するKATアイソザイムは知られていない。本発明者らは、ワックスエステル合成系で機能するKATアイソザイムを探索するとともに、各KATアイソザイムの役割を明らかにするために研究を進めた。さらにRNAiを用いたノックダウンによりワックスエステル生産量や組成の制御を行い、ユーグレナが生産するワックスエステルを改変することを目指した。
その結果、ユーグレナESTデータベース上(TBestDB)で6種のEgKATアイソザイム(EgKAT1〜6)の存在を見出した。表11,表12のように、EgKAT1およびEgKAT2のノックダウンにより、ワックスエステル総量はほとんど変化しなかったが、ワックスエステルが低分子化した。
【0087】
【表11】
【0088】
【表12】
【0089】
このことから、EgKAT1、EgKAT2が中鎖から長鎖のアシルCoA合成に関与することが分かった。
また、EgKAT1、EgKAT2のノックダウンを比較すると、EgKAT1をノックダウンした際、C12、C13の割合がより増加した。このことからEgKAT1がより中鎖側、EgKAT2が長鎖側のアシルCoA合成に寄与していると考えられた。
EgKAT3ノックダウン細胞を低酸素培養したとき、表10及び表11のように、生存率とワックスエステル総量が減少したが、表12のように、ワックスエステル組成はほとんど変化しなかった。このことから、表13に示すように、EgKAT3が短鎖のアシル-CoA合成に関与し、アシルCoA伸長反応における律速段階であると推測された。
【0090】
【表13】
【0091】
EgKAT3のノックダウンにより短鎖アシルCoA合成が抑制された結果、ワックスエステル合成が継続できず、細胞は低酸素状態での酸化還元バランスを保つことが困難となり、生存率が減少したと考えられる。
脂質代謝酵素の代謝制御によるワックスエステル組成の改変というアプローチから、実験2ではEgKAT1の発現抑制がワックスエステルの低分子化に有効であることを明らかとした。ここで、実験1の培養条件によるワックスエステル組成改変のアプローチにおいて、同様にワックスエステル低分子化に有効な因子であった低温でのワックスエステル生産と、EgKAT1ノックダウンを組み合わせることにより、ワックスエステル組成がどのように変化するかを調べた。
その結果、ワックスエステル組成のピークは27℃・コントロール(対比例2)のC28からC24(実施例2)までシフトしており、2つの異なる低分子化のアプローチを組み合わせることによってワックスエステルのさらなる低分子化に成功した。
以上の結果より、低酸素状態のユーグレナ細胞においてワックスエステル生産量および組成に影響を与える因子を見出した。さらに、複数のアプローチによって見出したこれらの因子を組み合わせることにより、低温特性が大幅に向上したワックスエステル由来燃料を生産することに成功した。
つまり、低酸素状態のユーグレナ細胞において、EgKAT1及び/又はEgKAT2をノックダウンしたユーグレナ細胞を増殖至適条件で培養し、定常期に達した後、低酸素処理を27℃(対比例2)よりも低く、ユーグレナ細胞の増殖至適温度より低い16℃で低酸素処理を行うことにより(実施例2)、低温特性が大幅に向上したワックスエステル由来燃料を生産することができた。
【0092】
(実験3 ビタミンB
12量を制限することがユーグレナのワックスエステル発酵に与える影響)
ビタミンB
12を添加しない培地やビタミンB
12を通常量より減らした培地でユーグレナを生育させると、細胞が肥大化することが知られている。その理由として、補酵素型ビタミンB
12を要求するメチオニンシンターゼが葉酸代謝経路において重要な役割を果たしており、葉酸が関与する核酸合成が低下するため、細胞分裂が阻害されることが一因であると考えられている。
また、ビタミンB
12はメチルマロニルCoAムターゼの補酵素としても機能している。メチルマロニルCoAムターゼはスクシニルCoAとメチルマロニルCoAの相互変換反応を触媒する酵素である。この酵素は、従来プロピオン酸を炭素源として細胞が生育する際に、プロピオン酸をプロピオニルCoAに変換後、コハク酸まで代謝する経路内で機能することが知られてきた。
また、代謝予測からこの経路の逆向き反応、つまりコハク酸からプロピオニルCoAを生成する経路に寄与することも示唆されているが、実験的な証明はされてこなかった。プロピオニルCoAはワックスエステルの奇数鎖アシル基原料として重要な化合物であるため、ビタミンB12の細胞内量はワックスエステル代謝に大きく影響するのではないかと考えた。
本実験では、培地中のB
12量を制限することがユーグレナのワックスエステル発酵に与える影響を解析した。
【0093】
((方法))
材料および実験方法に関して、以下に記載のない部分は、実験1及び2と同様の方法で行った。
・ユーグレナの培養方法
従属栄養培地として、表1のKoren-Hutner培地(KH培地)を用いた。ビタミンB
12制限KH培地(B
12-limited培地)は従来のKH培地中に含まれるB
12を1/10量に調製した。500ml容坂口フラスコに、pHを5.0に調整した150mlのKH培地を分注し、121℃、15分のオートクレーブにより滅菌した。この培地に、4〜5日間程度の培養で定常期に達したユーグレナ(通常KH培地:15〜20×10
6cells/ml、B
12-limited培地:6〜8×10
6cells/ml)を1ml接種し、24時間の連続光照射条件下、27℃で振盪培養した。
【0094】
((結果))
・ビタミンB
12制限による生育への影響
KH培地(コントロール)またはB
12-limited培地で振盪培養を行い、培養日数ごとに細胞を回収して細胞数を実験1((方法))の「・細胞数の測定および生存率測定」に示した方法で測定した。
測定結果を、
図17に示す。
図17の結果より、ビタミンB
12制限培地での生育により、定常期での細胞数はコントロールの約50%となった。
また、細胞体積を測定したところ、ビタミンB
12制限培養4日目の細胞の細胞体積はコントロールの同日の細胞と比較して約2倍に増加していた。
【0095】
・ビタミン B
12 制限によるパラミロン分解への影響
好気状態で対数増殖期後期まで生育させたユーグレナ細胞を、27℃、16℃で低酸素処理し、0時間または24時間後に細胞の貯蔵パラミロン量を実験1((方法))の「・パラミロンの抽出・定量」に示した方法で測定した。
測定結果を、
図18に示す。
図18の結果より、ビタミンB
12制限は好気状態での細胞内パラミロン蓄積量を増加させた(コントロール細胞の約5倍)。また、このときコントロール細胞との体積差は2倍程度であったことから、細胞体積の差以上にビタミンB
12制限細胞は多量のパラミロンを細胞内に蓄積していることが明らかとなった。27℃低酸素処理を行うと、パラミロンは両細胞内でともに分解されていた。
【0096】
・ビタミンB
12制限によるワックスエステル発酵への影響
好気状態で4日間生育させたユーグレナ細胞(コントロール、ビタミンB
12制限細胞)を27℃で低酸素処理し、24時間後に細胞を回収後、ワックスエステルを抽出し、測定した。
ワックスエステルの総量を、
図19に、鎖長ごとのワックスエステル量を、
図20に示す。
図19のように、ビタミンB
12制限により細胞あたりのワックスエステル総量は増加した(通常KH培地の約1.4倍)。この増加は、細胞体積の増加によるものである。また、
図20のように、ビタミンB
12制限により、奇数鎖ワックスエステル量(C27、C29)が減少し、奇数鎖ワックスエステルの占める割合は約5.5%となった。
【0097】
・脂肪酸組成、脂肪アルコールの変動
「・ビタミンB
12制限によるワックスエステル発酵への影響」で得た粗抽出ワックスエステルを精製、ケン化し、脂肪アルコールと脂肪酸を獲得した。さらに脂肪酸はメチル化し、脂肪酸メチルエステルとした。得られた脂肪アルコールと脂肪酸メチルエステルをGCにより分析した。
結果を、
図21,
図22に示す。
図21,
図22に示すように、ビタミンB
12制限により奇数鎖脂肪酸・脂肪アルコールの割合が大きく減少した(全体の約5.5%)。
【0098】
((実験3まとめ))
本実験では、培地中のビタミンB
12量を通常KH培地の1/10に制限した際、低酸素状態のワックスエステル発酵におよぼす影響を調査した。
本実験では、ビタミンB
12制限は好気状態の生育に影響を与えていた。定常期の細胞数が減少し(通常KH培地の約50%)、細胞内パラミロン量が増加した。ビタミンB
12制限細胞を低酸素処理すると、通常KH培地での低酸素処理と比べて、ワックスエステル総量は増加し(通常KH培地の約1.4倍)、奇数鎖脂肪酸・脂肪アルコールの割合が大きく減少していた(全体の約5.5%)。
【0099】
本発明者らは、ビタミンB
12はメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であり、本酵素が奇数鎖脂肪酸合成の出発物質を合成する反応にて作用すると予測し、B
12制限はワックスエステル発酵での奇数鎖脂肪酸合成に影響を与えると推測していた。
本実験を行ったことにより、実際にビタミンB
12制限により、奇数鎖脂肪酸・脂肪アルコールの割合が減少することが明らかになった。ビタミンB
12はワックスエステル発酵において奇数鎖脂肪酸を合成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。培地成分を制限することによってワックスエステル組成を改変することは、コストを抑えて目的用途にあったバイオ燃料を作り出すという観点から、非常に有効であることが分かった。
【0100】
(実験4 低温条件(16℃),ビタミンB
12欠乏条件及びEgKAT1のノックダウンとの組合せによる影響の検討)
本実験では、低温条件(16℃)によるワックスエステルの低分子化、ビタミンB
12欠乏による奇数鎖脂肪酸・脂肪アルコールの割合減少、EgKAT1のノックダウンによるワックスエステルの低分子化をそれぞれ組み合わせた場合のワックスエステル組成変化について検討した。
((方法))
材料および実験方法は、実験1〜3と同様の方法を用いて行った。
((結果))
・RNAiによるEgKAT1 mRNA発現抑制効果の確認
EgKAT1のノックダウンを行った細胞およびコントロール細胞を、好気状態で4日間生育させ、同様に半定量RT-PCRによってEgKAT mRNA発現量を調べた。結果を、
図23に示す。
図23に示すように、EgKAT1 mRNAの発現が抑制されていることが確認された。
【0101】
・ワックスエステル量の変化
4日間27℃でKH培地で振盪培養した細胞を27℃(対比例3)、16℃(実施例3)で24時間低酸素処理し、細胞内ワックスエステルを解析した。同様の試験を、EgKAT1ノックダウン細胞についても行った(対比例4,実施例4)。また、同様の試験を、KH培地の代わりにB
12-limited培地を用いて行った(対比例5,実施例5)。
結果を、
図24に示す。
図24の結果より、低温(16℃)下で低酸素処理を行った際のワックスエステル量は、他の条件(EgKAT1ノックダウン、B
12制限)との組み合わせの場合も含め(実施例3〜5)、減少していた。EgKAT1ノックダウンはワックスエステル量には大きな影響は及ぼさなかった。
ビタミンB
12の制限では、細胞体積の変化(B
12制限で約2倍に増加)とほぼ同等で、10
6細胞あたり約2倍量となった。
【0102】
・ワックスエステル組成の変化
図25に、各因子の組み合わせによる各炭素鎖長別ワックスエステル量のグラフを示す。
図25Aのように、コントロール細胞を用いた27℃低酸素処理時(対比例6)において、C28であったワックスエステル組成ピークが、
図25AのEgKAT1のノックダウン細胞を用いた27℃低酸素処理時(実施例6)ではC26がワックスエステル組成ピークとなり、更に、EgKAT1のノックダウン細胞を用いた16℃低酸素処理時(実施例8)では、C24がワックスエステル組成ピークとなっていた。
このように、低温処理とEgKAT1のノックダウンとの組合せ(実施例8)により、ワックスエステル組成ピークが、C28から、C24にシフトした。
【0103】
また、
図25Cにおいて、コントロール細胞を用いたビタミンB
12欠乏条件における27℃低酸素処理時(対比例7)において、ワックスエステル組成ピークはC28であったが、ビタミンB12欠乏条件とEgKAT1のノックダウンを組合せた結果(実施例9)、C26がワックスエステル組成ピークとなった。
また、
図25Cにおいて、C28が大部分を占めていたコントロール細胞を用いた27℃・ビタミンB
12制限(対比例7)と比べて、
図25Dのコントロール細胞を用いた16℃・ビタミンB
12制限(実施例10)では、C24・C26のワックスエステル量が増加していた(全体の約66%)。ビタミンB12制限と16℃低温処理の組合せ(実施例10)により、ワックスエステル組成ピークはC26となった。
さらに、ビタミンB12制限と16℃低温処理にEgKAT1のノックダウンを組合せると(実施例11)、
図25Dに示すように、C24がワックスエステル組成ピークとなった。
【0104】
・EgKAT1のノックダウンと低温低酸素処理による脂肪酸画分、脂肪アルコール画分組成の変化
4日間27℃で振盪培養した細胞を、27℃、16℃で24時間低酸素処理し、細胞内ワックスエステルを実験1に示す方法により抽出し、精製とケン化を行った。脂肪酸はメチル化を行い、実験1に示す方法により脂肪酸、脂肪アルコールを解析した。
図26に脂肪酸組成の解析結果、
図27に脂肪アルコール組成の解析結果を示す。
【0105】
図26Aのように、27℃において、コントロール細胞(対比例6)及びEgKAT1ノックダウン細胞(実施例6)では、それぞれ、C14,C13が脂肪酸組成のピークであったが、低温処理とEgKAT1のノックダウンを組合せることにより(実施例8)、
図26Bのように、C12へと脂肪酸組成ピークがシフトした。
脂肪アルコールについても同様に、
図27Aで、27℃コントロール(対比例6)の脂肪アルコール組成のピークがC14であったのに対し、低温処理とEgKAT1ノックダウンの組合せにより(実施例8)、
図27Bのように、C12が脂肪アルコール組成のピークとなった。
ビタミンB
12欠乏コントロール細胞(対比例7)ではC14が脂肪酸組成のピークであったが、ビタミンB
12欠乏とEgKAT1のノックダウンを組合せたところ(実施例9)、
図26Cのように、C12が脂肪酸組成のピークとなった。ビタミンB
12欠乏とEgKAT1のノックダウンに低温処理を加える(実施例11)と、
図26Dのように、C12の割合がさらに増加した。脂肪アルコールの組成も脂肪酸と似た傾向を示した。
【0106】
本実験では、ワックスエステル組成に変化を与える因子の中から、次の3つの因子について着目した。すなわち、
1:低温条件(16℃)での低酸素処理によるワックスエステルの低分子化
2:EgKAT1のノックダウン細胞低酸素処理によるワックスエステルの低分子化
3:ビタミンB
12制限細胞の低酸素処理による奇数鎖脂肪酸・脂肪アルコール減少
である。
これらの3つの因子について、組合せ実験を行った際、それぞれの特徴を併せ持ったワックスエステルが生産されると推測した。そこで、本実験では、各因子を組み合わせ、ワックスエステル組成におよぼす影響を解析した。
ワックスエステルの低分子化を引き起こす2つの因子(低温条件、EgKAT1ノックダウン)を組合せた際(実施例8〜実施例10)、ワックスエステル組成ピークはそれぞれの因子を単独で行った場合(実施例6,実施例7,対比例7)のC26から、C24へとシフトし、ワックスエステルの更なる低分子化が起きた。このことから、低温条件、EgKAT1のノックダウンによるワックスエステル低分子化は異なるメカニズムによって起こっており、組合せることで相加効果がうまれることがわかった。
ビタミンB
12制限とEgKAT1のノックダウンを組合せた際(実施例9)、ビタミンB
12制限のみ(対比例7)でのワックスエステル組成ピークであるC28から、C26にピークがシフトした。さらに、上記3種の因子を組み合わせた際(実施例11)、ワックスエステル組成ピークはC24となった。
低酸素処理にビタミンB12制限を組み合わせることにより(対比例7,実施例9〜実施例11)、偶数鎖の脂肪酸・アルコールを選択的に得ることができた。さらに、低分子化を引き起こす因子を組合せることで(実施例8〜実施例11)、C12とC14の割合が変化したワックスエステルの獲得が可能であると分かった。また、培地成分を制限することはコスト削減に有用であり、ワックスエステルを低コストで改変する手段になると期待される。