特開2017-148847(P2017-148847A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-148847(P2017-148847A)
(43)【公開日】2017年8月31日
(54)【発明の名称】プレス成形型
(51)【国際特許分類】
   B21D 19/08 20060101AFI20170804BHJP
【FI】
   B21D19/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-34578(P2016-34578)
(22)【出願日】2016年2月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山田 豊
(72)【発明者】
【氏名】紀藤 航
(72)【発明者】
【氏名】柴田 聡
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 岳
(57)【要約】
【課題】コーナーフランジ部を一工程で成形することができ、伸び変形によるコーナー中心及びその近傍でのひずみの局在化を抑制して伸びフランジ割れを防止し、品質と生産性を両立可能なプレス成形型を提供すること。
【解決手段】内向きコーナー部41の内端縁43から起立するコーナーフランジ部42を成形可能なプレス成形型1は、ダイコーナー部21を有するダイ2と、パンチコーナー部31を有するパンチ3とを備える。該パンチコーナー部は、ストローク方向Xの先端面33において、コーナー中心C1の両側の2つの弧状凸部32a、32bの間に凹部32cを有する輪郭形状であり、上記先端面と平行な断面の輪郭形状は、上記断面が上記先端面から離れるにつれて上記凹部が小さくなると共に上記2つの弧状凸部が接近して外向きコーナー形状に収束する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内向きコーナー部の内端縁から起立するコーナーフランジ部を成形可能なプレス成形型であって、
上記内向きコーナー部に沿うダイコーナー部を有するダイと、該ダイコーナー部と協働するパンチコーナー部を有するパンチとを備えており、
該パンチコーナー部は、上記パンチの相対的なストローク方向の先端面において、コーナー中心の両側に配置される2つの弧状凸部と、当該2つの弧状凸部の間に形成される凹部とからなる輪郭形状を有し、
上記先端面と平行な断面の輪郭形状は、上記断面が上記先端面から離れるにつれて上記凹部が小さくなると共に上記2つの弧状凸部が接近して、外向きコーナー形状に収束する、プレス成形型。
【請求項2】
上記パンチコーナー部における、上記先端面と側端面が交わる部分であるパンチ肩部は、上記コーナー中心に近いほど肩半径が大きい、請求項1に記載のプレス成形型。
【請求項3】
上記パンチコーナー部は、コーナー両端部であるR止まりにおける肩半径が、上記内向きコーナー部のコーナー半径の20%以下である、請求項1又は2に記載のプレス成形型。
【請求項4】
上記パンチコーナー部は、上記コーナー中心における肩半径が、上記内向きコーナー部のコーナー半径の80%〜100%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレス成形型。
【請求項5】
上記内向きコーナー部を設けるブランクシートは、アルミニウム合金板からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレス成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーナー部の端縁から起立するフランジ部を伸びフランジ成形するためのプレス成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体軽量化のために、自動車部品にアルミニウム合金板が適用されるようになっている。自動車部品として、例えばサンルーフ用のガラス開口部にフランジ部を成形する場合、一般に、矩形バーリング加工によって矩形穴に沿う縦壁状のフランジ部が成形される。アルミニウム合金板には、予め打ち抜き加工や切削加工によって矩形穴が設けられ、矩形穴より大きい矩形パンチを押し込むことによって、矩形穴の穴縁部をパンチ進行方向に押し曲げ、フランジ部が成形される。
【0003】
その際、アルミニウム合金板は軟鋼板と比較して伸びフランジ性に劣るため、コーナー部での伸びフランジ割れが問題となりやすい。例えば、矩形穴では、直辺部の穴縁はパンチの進行方向に押し曲げられる単純なフランジ成形となるが、コーナー部の穴縁はパンチの進行方向に対してブランクシートが垂直方向に伸ばされながら押し曲げられる伸びフランジ成形となる。そのため、コーナー部でコーナー半径やフランジ長さが制限される。
【0004】
一方、伸びフランジ成形を伴うプレス成形において、伸びフランジ割れ防止技術が種々検討されている。例えば、特許文献1には、予め設定した以上の伸び変形をするフランジ部の位置を最大伸びフランジ変形部として特定する工程と、特定した最大伸びフランジ変形部の両側若しくは片側に対し板厚方向に変形した予変形部を形成する予変形工程と、を備え、予変形部を形成後に、最終成形工程であるフランジ成形加工を施す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−139783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、予変形工程において予変形部を板縁側で変形を大きくし、予変形工程での断面線長増加量を成形品での断面線長増加量以下に設定するとしているものの、そのための具体的な成形方法については示されていない。また、予変形工程と最終成形工程の複数の工程が必要となり、設備コスト及び生産性の観点から不利である。さらに、鋼板に比べアルミニウム合金板は成形し難いため、前記方法では所望の成形が出来ない等の問題がある。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、伸びフランジ成形を伴うコーナーフランジ部を、一工程で成形することができ、ひずみが局在化することを抑制して伸びフランジ割れを防止可能であり、品質と生産性を両立させることができるプレス成形型を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、内向きコーナー部の内端縁から起立するコーナーフランジ部を成形可能なプレス成形型であって、
上記内向きコーナー部に沿うダイコーナー部を有するダイと、該ダイコーナー部と協働するパンチコーナー部を有するパンチとを備えており、
該パンチコーナー部は、上記パンチの相対的なストローク方向の先端面において、コーナー中心の両側に配置される2つの弧状凸部と、当該2つの弧状凸部の間に形成される凹部とからなる輪郭形状を有し、
上記先端面と平行な断面の輪郭形状は、上記断面が上記先端面から離れるにつれて上記凹部が小さくなると共に上記2つの弧状凸部が接近して、外向きコーナー形状に収束する、プレス成形型にある。
【発明の効果】
【0009】
上記プレス成形型は、パンチコーナー部の先端面が、2つの弧状凸部とその間の凹部からなる輪郭形状を有するので、ダイとブランクホルダーでブランクシートを挟持してパンチがダイに対して相対動作するとき、まず、コーナー中心の両側において、2つの弧状凸部がブランクシートと先に接触する。また、2つの弧状凸部の間の凹部は、先端面からストローク方向に離れるほど小さくなるので、ブランクシートと当接する領域は、プレス成形の進行につれて、徐々にコーナー中心へ広がる。したがって、パンチコーナー部が、ブランクシートの内向きコーナー部の内端縁を押し広げながら前進するとき、当初は、ブランクシートのコーナー中心に対応する部位は成形されず、コーナーの両端の部位が、2つの弧状凸部によって成形される。
【0010】
その後、2つの弧状凸部が接近して外向きコーナー形状に収束することにより、コーナー中心においても成形されるが、それまでにコーナー両端及びその近傍の部位で伸びフランジ成形によりフランジ部の線長が増加しているので、コーナー中心及びその近傍の部位においてフランジ部の線長の増加が抑制される。その結果、ひずみの局在化が抑制されて、伸びフランジ割れが防止可能となる。よって、内向きコーナー部の内端縁から起立するフランジ部を、一工程で成形し、しかも高品質な製品を生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における、プレス成形型の主要部の概略構造を示す斜視図。
図2】実施形態1における、プレス成形型を構成するパンチの主要部の構造を示す全体斜視図。
図3】実施形態1における、プレス成形型で成形されるブランクシートの全体形状を示す平面図。
図4】実施形態1における、プレス成形型で成形されるブランクシートの成形前後の形状を示す要部拡大平面図。
図5】実施形態1における、パンチの先端面におけるパンチコーナー部の輪郭形状と、先端面に平行な断面におけるパンチコーナー部の輪郭形状変化を示す平面図。
図6】実施形態1における、プレス成形型を構成するパンチとダイの成形前の位置関係を示す主要部斜視図。
図7】実施形態1における、プレス成形方法を説明するための主要部斜視図。
図8】実施例1における、パンチとブランクシートの成形前の位置関係を示す要部拡大斜視図。
図9】実施例1における、パンチとブランクシートの成形途中の状態を示す要部拡大斜視図。
図10】実施例1における、パンチとブランクシートの成形完了後の状態を示す要部拡大斜視図。
図11】実施例1における、パンチのストロークに伴うパンチのコーナー中心とR止まりの位置におけるブランクシートの成形状態を示す要部拡大断面図。
図12】比較例1における、従来のパンチの構造を示す全体斜視図。
図13】比較例1における、従来のパンチとブランクシートの成形前の位置関係を示す主要部斜視図。
図14】比較例1における、従来のパンチとブランクシートの成形途中の状態を示す要部拡大斜視図。
図15】比較例1における、従来のパンチとブランクシートの成形途中の状態を示す要部拡大斜視図。
図16】比較例1における、パンチのストロークに伴うパンチのコーナー中心とR止まりの位置におけるブランクシートの成形状態を示す要部拡大断面図。
図17】実施例及び比較例における、パンチのコーナー中心、コーナー1/4及びR止まりの位置における肩半径の、パンチコーナー部のコーナー半径に対する比率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記プレス成形型においては、上記パンチコーナー部における、上記先端面と側端面が交わる部分であるパンチ肩部は、上記コーナー中心に近いほど肩半径が大きいことが好ましい。これにより、プレス成形の進行につれて凹部が小さくなる輪郭形状となり、ひずみを抑制する効果が高い。
【0013】
また、上記パンチコーナー部は、コーナー両端部であるR止まりにおける肩半径が、上記内向きコーナー部のコーナー半径の20%以下であることが好ましい。この場合は、R止まりの近傍において、プレス成形が早期に進行する。これにより、比較的ひずみが小さくなるR止まりにおいて、積極的に伸びフランジ成形を施し、コーナー中心及びその近傍の部位においてひずみの増大を防止できる、すなわち、ひずみの局在化を抑制できる。
【0014】
また、上記パンチコーナー部は、上記コーナー中心における肩半径が、上記内向きコーナー部のコーナー半径の80%〜100%であることが好ましい。この場合は、コーナー中心において、凹部がより大きくなる。これにより、コーナー中心での伸びフランジ成形を遅らせることができ、コーナー中心に至るまでの間に積極的な伸びフランジ成形を行うことによりコーナー中心及びその近傍の部位においてひずみの局在化を抑制できる。
【0015】
また、上記内向きコーナー部を設けるブランクシートとしては、種々の金属板を採用可能であるが、特に、アルミニウム合金板の場合は、上記プレス成形型の利用が有効である。
【0016】
(実施形態1)
次に、プレス成形型に係る実施形態1について、図面を参照しながら説明する。
図1図2に示すように、プレス成形型1は、ダイコーナー部21を有するダイ2と、該ダイコーナー部21と協働するパンチコーナー部31を有するパンチ3とを備えている。ダイ2とパンチ3との間には、内向きコーナー部41を有するブランクシート4が配置される。プレス成形型1は、ブランクシート4の板面に垂直な方向をストローク方向X(すなわち、図中の上下方向)として、ダイ2に対してパンチ3を相対移動させることにより、ブランクシート4の内向きコーナー部41及びその両端の直辺部4Sを、所望のフランジ形状にプレス成形する。
【0017】
なお、図1図2は、4隅がR形状である矩形穴を有するブランクシート4のプレス成形型1の主要部分を示すものである。図3は、ブランクシート4の一例であり、その1/4形状(例えば、図3中の点線で区画される形状)を成形する成形型1の一部を図1図2に示している。図4は、ブランクシート4の内向きコーナー部41の1つを拡大して示している。
【0018】
図3図4に示すように、ダイコーナー部21の輪郭線(例えば、図3図4中に破線で示す)は、ブランクシート4の内向きコーナー部41に沿う形状となっている。ブランクシート4のプレス成形により、内向きコーナー部41は、ダイコーナー部21の輪郭線の位置で折り曲げられ、折り曲げ位置を内端縁43として起立するコーナーフランジ部42が形成される。コーナーフランジ部42は、ブランクシート4の2辺の方向であり互いに直交するa方向とb方向を含むab平面から、ストローク方向Xに立ち上がる。このようなコーナーフランジ部42を有する内向きコーナー部41は、例えば、車両サンルーフ用のガラス開口部等において、矩形の開口部の各コーナー部を構成することができる。
【0019】
ブランクシート4は、アルミニウム合金以外の材料からなる板材、例えば、軟鋼板等で構成されていてもよい。アルミニウム合金板は、軽量化に有効であるが、伸びフランジ性が軟鋼板に比べて劣ることから、本発明を適用することによる効果が大きい。プレス成形型1のダイ2及びパンチ3は、公知の金型用鋼材等にて構成することができる。
【0020】
図1において、ブロック状のダイ2は、ブランクシート4の4隅がR形状である矩形穴4A(例えば、図3参照)と略相似形状で、矩形穴4Aより一回り大きい矩形筒穴2Aを有している。ダイ2は、矩形筒穴2Aの筒壁を構成する内向きのコーナー部を、ブランクシート4の内向きコーナー部41に沿うダイコーナー部21としている。この矩形筒穴2Aの内側に、ブランクシート4の矩形穴4Aが位置している。また、矩形筒穴2Aの内側には、ブロック状のパンチ3が配置され、矩形筒穴2Aの軸方向をストローク方向Xとして、相対動作可能となっている。パンチ3は、外向きコーナー形状の外形を有するパンチコーナー部31が、ダイコーナー部21に対向して配置される。
【0021】
ダイ2の下方には、ブランクシート4が載置されるブランクホルダー5が、昇降可能に設けられる。図示するプレス成形前の状態において、ブランクシート4は、ダイ2とブランクホルダー5との間に挟持され、矩形穴4Aに沿う所定幅の穴縁部が、ダイ2の内側に突出して、パンチ3の上方に位置している。
【0022】
図2において、パンチ3は、相対的なストローク方向Xにおける先端面(すなわち、図中の上面)33につらなる、パンチコーナー部31の両側に直辺部35を有する。パンチコーナー部31は、コーナー中心C1の両側に配置される2つの弧状凸部32a、32bと、当該2つの弧状凸部32a、32bの間に形成される凹部32cとからなる輪郭形状を有する。パンチコーナー部31の両端部、すなわち2つの弧状凸部32a、32bと直辺部35との境界は、それぞれR止まりC2、C3となる。なお、パンチ3は、ダイ2の矩形筒穴2Aに沿う矩形ブロック状であり、図中には、1つのパンチコーナー部31を有するパンチ3の一部を示している。
【0023】
具体的には、図5に示すように、パンチコーナー部31は、先端面33と平行な断面の輪郭形状が、先端面33から離れるにつれて凹部32cが小さくなると共に、2つの弧状凸部32a、32bが接近する形状となっている。2つの弧状凸部32a、32bは、最終的に一体となって凹部32cが消失し、所定の外向きコーナー形状に収束する。パンチ3は、凹部32cが消失する断面から、先端面33とは反対側の端面までは、ダイ2の矩形筒穴2Aと相似形状の外形を有し、ダイコーナー部21に沿う所定の外向きコーナー形状を有する。
【0024】
パンチ3は、先端面33と側端面34が交わる部分を、曲面状のパンチ肩部3Sとしており、パンチ肩部3Sの肩半径Rsは、直辺部35においては一定である。パンチ肩部3Sの肩半径Rsは、パンチコーナー部31においては、コーナー中心C1に向けて肩半径Rsが滑らかに変化し、コーナー中心C1に近いほど肩半径Rsが大きくなる。好適には、パンチコーナー部31のR止まりC2、C3からコーナー1/4(すなわち、R止まりC2、C3と、コーナー中心C1の中間位置)にかけては、肩半径Rsが緩やかに漸増し、コーナー1/4からコーナー中心C1にかけては、肩半径Rsの変化がより大きくなるように漸増する。
【0025】
図6に示すように、ダイ2は、曲面状のダイ肩部2Sを有している。ダイ肩部2Sは、ダイコーナー部21とその両側の直辺部22とからなり、ダイ肩部2Sの肩半径は一定である。ダイ肩部2Sに対してパンチ肩部3Sが相対移動すると、所定の肩半径Rsを有する形状のパンチコーナー部31と、ダイコーナー部21とが協働して、ブランクシート4の内向きコーナー部41を、所望のコーナーフランジ形状のコーナーフランジ部42とする。コーナーフランジ部42を成形する際のひずみと、パンチ肩部3Sの肩半径Rsとの関係については、後述する。
【0026】
次に、上記構成のプレス成形型1を用いて、ブランクシート4をプレス成形する方法について説明する。
図7の上図に示すように、ブランクシート4の下方にパンチ3を配置し、図示しないパンチ駆動部を用いて、パンチ3を、上下方向をストローク方向Xとして昇降動作させる。パンチ3が上昇すると、先端面において、パンチ肩部3Sが進行方向に位置するブランクシート4の穴縁部に当接する。図7の下図に示すように、パンチ3が上昇するにつれて、パンチ肩部3Sがブランクシート4の矩形穴4Aを押し広げる。これに伴い、ダイ肩部2S(例えば、図6参照)に沿って、ブランクシート4の穴縁部が折り曲げられ、内端縁43から所定高さで立ち上がるフランジ部4Fが形成される。フランジ部4Fには、ダイコーナー部21とパンチコーナー部31とによって、内向きコーナー部41にコーナーフランジ部42が形成されると共に、ダイ肩部2Sの直辺部22とパンチ肩部3Sの直辺部35とによって、コーナーフランジ部42に続く直辺状のフランジ部44が形成される。なお、図7はダイ2とブランクホルダー5の記載は省略している。
【0027】
このとき、上記した図4中に矢印で示すように、コーナーフランジ部42は、周方向に広がりながら、ダイコーナー部21のコーナー形状(例えば、コーナー半径RcDie=70mm)に沿うように立ち上がる。つまり、成形前後において、コーナーフランジ部42となるブランクシート4の内向きコーナー部41は、フランジ部の線長が増加する、伸びフランジ成形となる。成形前の内向きコーナー部41の内端縁部(例えば、コーナー半径RcBlank sheet=70mm)が、伸びフランジ成形される場合、成形後のコーナーフランジ部42のコーナー半径Rcが小さく、フランジ長さLが大きいほど、ひずみが大きくなることが確認されている。なお、コーナー半径Rcは、ダイコーナー部21のコーナー半径RcDieと概略等しく、フランジ長さLは、内向きコーナー部41の両端部及び直辺部4Sのフランジ長さLsと概略等しい。フランジ長さLsは、コーナー中心部のフランジ長さLc(例えば、16mm)に対して、Lc/√2(例えば、8√2mm=11.3mm)で表される。
【0028】
一方で、例えば、車両サンルーフ用の開口部等に適用される場合には、開口部に形成されるコーナーフランジ部42は、コーナー半径Rがより小さく、フランジ長さLがより大きいことが望まれている。そのため、伸びフランジ成形による割れが懸念され、コーナーフランジ部42において、伸びフランジ成形によるひずみを極力小さくすることが求められる。このことは、伸びフランジ成形性が乏しいアルミニム合金板で特に重要視されている。
【0029】
そこで、上記図2に示したパンチコーナー部31は、R止まりC2、C3側に2つの弧状凸部32a、32bを有し、その間の凹部32cは、ブランクシート4に当接しない。2つの弧状凸部32a、32bは、積極的に伸びを付与しながら、プレス成形の進行につれて接近しているため、コーナー中心C1における伸びを抑制できる。これにより、ダイコーナー部21とパンチコーナー部31が協働して、ブランクシート4の矩形穴4Aの穴縁部を押し広げながら、コーナーフランジ部42をプレス成形する際の、コーナー中心C1におけるひずみの局在化を抑制することができる。
【0030】
パンチコーナー部31の2つの弧状凸部32a、32bと凹部32cからなる輪郭形状は、パンチ肩部3Sの肩半径Rsによって決まる。好適には、コーナーフランジ部42のコーナー半径Rcに対して、肩半径Rsを適切に調整することで、ひずみをより小さくできる。例えば、コーナー半径Rcに対するパンチコーナー部31のR止まりC2、C3における肩半径Rsの比率(すなわち、Rs/Rc)は、20%以下とすることが望ましい。これにより、パンチコーナー部31と直辺部35とのR止まりC2、C3において、肩半径Rsが比較的小さくなり、直辺部35と同等のタイミングで、コーナーフランジ部42を円周方向に伸ばしながら立ち上げることができる。
【0031】
また、パンチコーナー部31のコーナー中心C1におけるRs/Rcは、好適には、80%〜100%とすることが望ましい。これにより、コーナー中心C1の近傍において、肩半径Rsの大きさに応じて凹部32cが大きくなり、ブランクシート4の成形されない部位が広くなる。また、プレス成形の進行と共に凹部32cが徐々に小さくなって、所定の形状を付与することができる。パンチコーナー部31のコーナー1/4におけるRs/Rcは、R止まりC2、C3とコーナー中心C1におけるRs/Rcの間にあればよく、好適には、40%〜60%とすることが望ましい。
【実施例】
【0032】
次に、上記構成のプレス成形型1を用いて、ブランクシート4の4つの内向きコーナー部41にコーナーフランジ部42をプレス成形した実施例について、コーナーフランジ部42に発生するひずみの抑制効果を評価した。
(実施例1〜実施例8)
ブランクシート4は、厚さ1.2mmのアルミニウム合金(例えば、6000系アルミニウム合金)からなる板材を用いた。成形後のコーナーフランジ部42のコーナー半径Rcを、70mmとし、コーナー中心のフランジ長さLcは、16mmとし、R止まり及び直辺部4Sのフランジ長さLsは、11.3mmとした。パンチ3は、パンチコーナー部31のコーナー中心C1におけるRs/Rcを、80.2%〜98.4%、コーナー1/4におけるRs/Rcを、43.7%〜56.5%の範囲となるように、パンチ肩部3Sの形状を変化させた(すなわち、実施例1〜実施例8)。パンチ肩部3SのR止まりC2、C3におけるRs/Rcは、14.6%で一定とした。
【0033】
上記図7に示したプレス成形方法により、ダイ2とブランクホルダー5の間にブランクシート4を挟持し、パンチ3を上昇させて、矩形穴4Aの穴縁部にフランジ部4Fを形成したときの、成形過程における最大主ひずみの推移を調べた。最大主ひずみは、有限要素法を用いた成形シミュレーションにより、パンチ3の上昇に伴いコーナーフランジ部42の各部位に生じる歪み分布から求められ、成形完了時の最大値を最大主ひずみε1とした。表1に、実施例1〜実施例8のパンチ3について、各部におけるRs/Rcと、コーナーフランジ部42に生じる最大主ひずみε1の関係を示した。
【0034】
図8図10には、一例として、実施例1のパンチ3を用いたコーナーフランジ部42の成形過程を示している。図8に示す成形前の状態において(すなわち、ストローク量=0mm)、ブランクシート4の矩形穴4Aから露出するパンチ3の先端面33には、内向きコーナー部41のコーナー中心C1の近傍に凹部32cが位置する。この状態から、図9に示すようにパンチ3が上昇するとき(すなわち、ストローク量=20mm)、凹部32cの両側の2つの弧状凸部32a、32bが、ブランクシート4に当接し、内向きコーナー部41にコーナーフランジ部42を徐々に立ち上げる。
【0035】
パンチ肩部3Sは、直辺部35との境界となりひずみが相対的に小さい部位であるR止まりC2、C3で、先にブランクシート4に当接し、コーナーフランジ部42の成形が進行する。このとき、2つの弧状凸部32a、32bは、R止まりC2、C3側でRs/Rcが小さく、コーナー中心C1に向かってRs/Rcが滑らかに漸増するので、成形が進行するにつれて、2つの弧状凸部32a、32bの輪郭線は外側へ大きくなる。これにより、2つの弧状凸部32a、32bに当接する領域が徐々に広がる。一方、凹部32cに対応するコーナー中心C1及びその近傍では、ブランクシート4に当接していない。
【0036】
さらにパンチ3が上昇すると、2つの弧状凸部32a、32bが接近すると共に、凹部32cが小さくなり、成形される領域が、コーナー中心C1側へ広がる。図10に示すように、コーナー中心C1においてパンチ肩部3Sの下端が露出する位置まで上昇すると(すなわち、ストローク量=90mm)、コーナーフランジ部42の成形が完了する。
【0037】
図11には、実施例1のパンチ3による成形過程を、コーナー中心C1とその両側のR止まりC2、C3における断面で比較して示している。図中の工程S1(すなわち、ストローク量=10mm)では、R止まりC2、C3においては、パンチ3の上昇と共に、ブランクシート4の成形が開始されるが、コーナー中心C1においては、凹部32cにより、パンチ3とブランクシート4は離れている。図中の工程S2(すなわち、ストローク量=30mm)において、R止まりC2、C3ではコーナーフランジ部42が略直角に立ち上がっているが、コーナー中心C1では、パンチ3とブランクシート4は離れたままである。ただし、R止まりC2、C3での成形の進行に伴い、コーナー中心C1においても、ダイコーナー部21のダイ肩部2Sに沿って、ブランクシート4が徐々に立ち上がる。
【0038】
図中の工程S3(すなわち、ストローク量=50mm)では、コーナー中心C1における成形が進行しているが、パンチコーナー部31の凹部32cが徐々に小さくなることにより、ブランクシート4の変形も徐々に進行する。図中の工程S4(すなわち、ストローク量=70mm)のように、凹部32cがコーナーフランジ部42の上端位置に達すると、成形がほぼ完了し、内端縁43から略直角に起立するコーナーフランジ部42が形成される。
【0039】
このように、パンチ3の肩半径Rsがコーナー中心C1側ほど大きく、コーナー中心C1の位置に、ストローク方向Xに大きさが変化する凹部32cを有することで、ブランクシート4と接触するタイミングが制御可能となる。具体的には、先端面33側では、パンチコーナー部31の直辺部35との境界となるR止まりC2、C3及びその近傍が、ブランクシート4と接触し、先端面33から離れるにつれて、接触領域がコーナー中心C1側へ広がる。その際に、R止まりC2、C3でフランジ成形が完了しても、コーナー中心C1及びその近傍ではフランジ成形は完了しておらず、成形のタイミング差が生じることで、先にフランジ成形が施されるR止まりC2、C3及びその近傍でのフランジ部の線長の増加に寄与する。その後、パンチ3の上昇に伴い、次第にコーナー中心C1に向かって成形領域が拡大するが、それまでに、R止まりC2、C3側で優先的にフランジ部の線長が増加しているので、コーナー中心C1及びその近傍でのフランジ部の線長の増加が抑制される。その結果、コーナー中心C1及びその近傍にひずみが局在化するのを抑制することができると考えられる。
【0040】
【表1】
【0041】
(比較例1)
比較のため、パンチ3の形状を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ブランクシートのプレス成形を行った。図12に示すように、パンチ6は、パンチ肩部6Sの肩半径を一定とし、パンチコーナー部61のコーナー中心C1、コーナー1/4、R止まりC2、C3におけるRs/Rcを、いずれも14.6%とした。パンチ6以外のプレス成形型1の構成は、同様とし、ブランクシート4にコーナーフランジ部42を形成した時の最大主ひずみε1を求めて、結果を表1に併記した。
【0042】
図13図16には、比較例1のパンチ6を用いたコーナーフランジ部42の成形過程と、各部の断面を示している。図13に示す成形前の状態から(すなわち、ストローク量=0mm)、図14図15図16に示すようにパンチ6が上昇するとき(すなわち、ストローク量=8mm、16mm)、パンチコーナー部61のパンチ肩部6Sが一定であるために、コーナー中心C1においても同時に成形が進行する。その場合、コーナー中心C1及びその近傍でフランジ部の線長の増加が、特に大きくなる。
【0043】
表1に示すように、比較例1では、Rs/Rcが14.6%で一定であり、最大主ひずみε1は0.233となっている。これに対して、実施例1では、コーナーフランジ部42の各部のRs/Rcを、コーナー中心C1へ向けて大きくすることにより、最大主ひずみε1は0.209に低減している。実施例2〜実施例8についても、最大主ひずみε1が0.210〜0.222と、いずれも比較例1よりもひずみが抑制されている。
【0044】
図17には、実施例1〜実施例4におけるコーナーフランジ部42の各部のRs/Rcを、比較例1のコーナーフランジ部42のRs/Rcと比較して示している。実施例1〜実施例4では、コーナーフランジ部42のR止まりC2、C3におけるRs/Rcは、比較例1と同じで20%以下の範囲にあり、コーナー1/4では、Rs/Rcが40%〜60%の範囲内に、コーナー中心C1では、Rs/Rcが80%〜100%の範囲内にある。このように、好適には、R止まりC2、C3から、コーナー1/4、コーナー中心C1へ向けて、Rs/Rcが大きくなり、さらに各部におけるRs/Rcが上記範囲内にあるときに、比較例1に対するひずみの抑制効果が得られる。
【0045】
上記実施形態においては、4つの内向きコーナー部41を有する矩形穴に4つのコーナーフランジ部42を形成する場合について説明したが、プレス成形型1は、少なくとも1つの内向きコーナー部41をプレス成形するものであればよい。このとき、ブランクシート4は、矩形穴のような穴状の開口部に限らず、長手方向に湾曲した形状で、1つ又は2つ以上の内向きコーナー部41を有する開口部であってもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、車両サンルーフ用のガラス開口部に設けた内向きコーナー部に、その内端縁から起立するコーナーフランジ部42を形成する場合について説明したが、これに限るものではない。本発明のプレス成形型1及びそれを用いたプレス成形方法は、車両用又は車両用以外の種々の部材に設けた開口部に適用することができ、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0047】
1 プレス成形型
2 ダイ
21 ダイコーナー部
2S ダイ肩部
3 パンチ
31 パンチコーナー部
3S パンチ肩部
4 ブランクシート
41 内向きコーナー部
42 コーナーフランジ部
5 ブランクホルダー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17