【課題】押出積層により良好な外観を有し、積層回数が大きな造形品でも反り変形や層間での割れが発生し難い樹脂造形物を得るための3次元造形物作成用樹脂フィラメント及びその押出積層による造形物を提供する。
【解決手段】特定の芳香族ビニル系樹脂(A)、特定のホスフェート化合物(B)からなり、特定のMVR値を保持する樹脂組成物からなる押出積層システムで使用する3次元造形物作成用樹脂フィラメント。
前記芳香族ビニル系樹脂(A)が、ABS樹脂とAS樹脂の混合物、ABS樹脂、AS樹脂およびHIPS樹脂の混合物、またはPS樹脂とHIPS樹脂の混合物である、請求項1記載のフィラメント。
前記ホスフェート化合物(B)が、トリフェニルホスフェート、トリキシリルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスジキシリルホスフェート、およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか1項記載のフィラメント。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂により造形物を作成する方法として、射出成形機等の成形機を使用する方法が幅広く知られている。射出成形機による造形物の作成は、先ずペレット状の熱可塑性樹脂をそのシリンダー内で加熱溶融し、次に溶融樹脂をシリンダー先端部のノズル口から射出成形機に設置された金型のキャビティ内に射出、更に射出された溶融樹脂を金型キャビティ内で冷却固化の後、金型キャビティ内で完成した造形物を金型から取り出すことによるものである。当該方法は同一の造形物を数多く作成する為に非常に有効な方法である為、様々な産業分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、例えば、各々形状が異なる造形物を作成する場合や形状を確認することを目的とする場合等のごく少ない数の造形物を作成する場合には、それぞれ異なる金型を用意する必要がある為、決して有効とはいえないものである。
【0004】
かかる問題点を解決する方法として、基本的に金型を使用せずに目的とする造形物を得る方法、すなわち、可動式のノズルから熱可塑性樹脂材料を押出することにより基板上に一層ずつ積層して造形物を作成する方法が米国特許第4,749,347号、米国特許第5,121,329号、米国特許第5,303,141号等に提案されている。
【0005】
当該方法は、目的とする造形物を水平な複数の層にスライスしたCADモデルに基づき、コンピュータ制御の可動式ノズルから熱可塑性樹脂材料を加熱溶融押出することにより基板上に第一層目を作成、その後、コンピュータ制御の可動式ノズルを垂直方向に移動し、第一層目の上に可動式ノズルから熱可塑性樹脂材料を溶融押出することによりCADモデルに基づき第二層目を積層するものであり、当該操作を繰り返し実施することにより目的とする造形物を作成するものである。かかる方法は前述の射出成形等の方法とは異なり、基本的に金型を準備する必要がない為、ごく少ない数の造形物を作成する為に有効な方法として近年、各分野で注目されている。
【0006】
当該方法では通常、熱可塑性樹脂はフィラメントの形態で使用される。当該熱可塑性樹脂フィラメントは押出積層による造形物作成装置に設けられているローラー対などのフィード装置により可動式ノズルに付随する溶融装置に送られ溶融される。樹脂フィラメントは連続して溶融装置にフィードされる為、それにより可動式ノズルから溶融状態で押し出され積層による造形物を作成することができる。
【0007】
当該方法に使用する樹脂として特表2006−525159号にはポリフェニルスルホンとポリカーボネートの混合物が、特表2004−532753号にはポリカーボネート樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等が、また、特表2010−521339号には特定のABS樹脂が提案されている。
これらの樹脂フィラメントは、高さの低い造形物、すなわち積層回数が比較的小さい造形物については特に問題なく造形することが可能であるが、高さが高い造形物、すなわち積層回数が大きい造形物の造形中に発生する応力により造形物に反り変形が発生したり、層間で割れが発生するなどの問題があるものであった。
以上の様に、押出積層により外観が良好で、特に積層回数が大きい場合においても反り変形や層間での割れが発生し難い樹脂造形物を得るための3次元造形物作成用樹脂フィラメントは提供されていないのが実情であった。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明で使用されるPS樹脂とは、主としてスチレン等の芳香族ビニル化合物を重合してなる樹脂である。
本発明で使用されるHIPS樹脂とは、スチレン等の芳香族ビニルとブタジエンゴム等のゴム状重合体から主としてなる熱可塑性樹脂である。
本発明で使用されるMS樹脂とは、アルキル(メタ)アクリレート単量体と芳香族ビニル単量体を重合してなる共重合体樹脂である。
AS樹脂とは、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体である。
ABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。
AES樹脂とは、エチレン−プロピレンゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。
ASA樹脂とは、アクリルゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。
MBS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にアルキル(メタ)アクリレート単量体、芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。
MABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にアルキル(メタ)アクリレート単量体、シアン化ビニル化合物、および芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。
MAS樹脂とは、アクリルゴム成分にアルキル(メタ)アクリレート単量体、芳香族ビニル単量体を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。
【0022】
上記の芳香族ビニル系樹脂はその製造時にメタロセン触媒等の触媒使用により、シンジオタクチックポリスチレン等の高い立体規則性を有するものであってもよい。更に場合によっては、アニオンリビング重合、ラジカルリビング重合等の方法により得られる、分子量分布の狭い重合体及び共重合体、ブロック共重合体、及び立体規則性の高い重合体、共重合体を使用することも可能である。
【0023】
本発明で使用されるPS樹脂とは、一種以上の芳香族ビニル化合物を溶液重合,塊状重合,懸濁重合,塊状−懸濁重合等の重合方法によって重合して得られる重合体である。好ましい芳香族ビニル化合物としては、スチレン,α−メチルスチレン,メチルスチレン,エチルスチレン,イソプロピルスチレン,ターシャリーブチルスチレンなどのアルキルスチレン、フェニルスチレン,ビニルスチレン,クロロスチレン,ブロモスチレン,フルオロスチレン,クロロメチルスチレン,メトキシスチレン,エトキシスチレン等があり、これらは一種または二種以上で使用される。これらのうち特に好ましい芳香族ビニル化合物は、スチレン,p−メチルスチレン,m−メチルスチレン,p−ターシャリーブチルスチレン,p−クロロスチレン,m−クロロスチレン,p−フルオロスチレンであり、特にスチレンが好ましい。
【0024】
本発明で使用されるPS樹脂の分子量については特に制限はないが、溶媒としてトリクロロベンゼンを用い、135℃において、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が100,000以上、好ましくは150,000以上である。さらに、分子量分布についてもその広狭は制約がなく、様々なものを充当することが可能である。
【0025】
本発明で使用されるHIPS樹脂とは、芳香族ビニル重合体のマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなる重合体である。例えば、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解し、攪拌して塊状重合、懸濁重合、溶液重合等を行うことにより得らことができる重合体である。更に、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解して得られた重合体に、別途得られた芳香族ビニル重合体を混合した混合物であってもよい。
【0026】
本発明で使用されるHIPS樹脂の芳香族ビニル重合体からなるマトリックス部分の分子量については特に制限ないが、溶媒としてトリクロロベンゼンを用い、135℃において、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が100,000以上、好ましくは150,000以上である。また、ゴム状重合体の平均粒子径については特に制限はないが、一般的には0.4〜6.0μmが適当である。
【0027】
上記の芳香族ビニル単量体としては、スチレン、およびその誘導体、たとえばo−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等が使用できるが、スチレンが最も好適である。また、これらの単量体から2種以上を併用して使用することも出来る。
【0028】
上記のゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体等が使用できる。ポリブタジエンとしてはシス結合の含有量が高いハイシスポリブタジエン、シス結合の含有量が低いローシスポリブタジエン等が挙げられる。用いられるゴム状重合体については特に制限はないが、中でも使用されるゴム状重合体として、シス−1,4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムをゴム状重合体100質量%中70質量%以上含有するポリブタジエンが好ましく使用される。具体的には、ハイシスポリブタジエンゴムを単独使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂でも、ハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを混合使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂でも、又はハイシスポリブタジエンゴムを使用して得られたゴム変性スチレン系樹脂とローシスポリブタジエンゴムを使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂の混合物においても、これらいずれのゴム変性スチレン系樹脂中に存在するゴム状重合体100質量%中にシス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存するゴム状重合体を70質量%以上含有することが好ましい。なお、ハイシスポリブタジエンゴムとは、シス−1,4結合を90モル%以上の比率で含有するポリブタジエンゴムを意味する。また、ローシスポリブタジエンゴムとは、1,4−シス結合含量が10〜40モル%であるポリブタジエンゴムを意味するものである。
【0029】
本発明で使用されるMS樹脂とは、アルキル(メタ)アクリート単量体と芳香族ビニル単量体を重合してなる共重合体樹脂である。
本発明で使用されるMS樹脂を形成するアルキル(メタ)アクリレート単量体は、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上のものである。尚(メタ)アクリレートの表記はメタクリレートおよびアクリレートのいずれをも含むことを示す。これらは単独または2種以上用いることができ、特にメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、およびメトキシスチレンなどが使用でき、特にスチレンが好ましい。これらは単独または2種以上用いることができる。
かかるMS樹脂の重量平均分子量とメチル(メタ)アクリレート/スチレンの組成比については、特に制限はされないが、重量平均分子量は、好ましくは80,000〜300,000、より好ましくは100,000〜200,000、メチル(メタ)アクリレート/スチレンの組成比率は、好ましくは80/20〜40/60、より好ましくは70/30〜50/50である。
【0031】
本発明で使用されるAS樹脂は、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体であるが、シアン化ビニル化合物としては、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。また芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく使用できる。AS樹脂中における各成分の割合としては、全体を100重量%とした場合、シアン化ビニル化合物が5〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、芳香族ビニル化合物が95〜50重量%、好ましくは85〜65重量%である。更にこれらのビニル化合物に、上記記載の共重合可能な他のビニル系化合物を混合使用することもでき、これらの含有割合は、AS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。また反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
【0032】
AS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよいが、好ましくは塊状重合によるものである。また共重合の方法も一段での共重合、または多段での共重合のいずれであってもよい。またかかるAS樹脂の還元粘度としては、0.2〜1.0dl/gであり、好ましくは0.3〜0.5dl/gである。還元粘度は、AS樹脂0.25gを精秤し、ジメチルホルムアミド50mlに2時間かけて溶解させた溶液を、ウベローデ粘度計を用いて30℃の環境で測定したものである。なお、粘度計は溶媒の流下時間が20〜100秒のものを用いる。還元粘度は溶媒の流下秒数(t
0)と溶液の流下秒数(t)から次式によって求める。
【0033】
還元粘度(η
sp/C)={(t/t
0)−1}/0.5
還元粘度が0.2dl/gより小さいと衝撃が低下し、1.0dl/gを越えると加工性が悪くなる。
【0034】
本発明で使用するABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体を主とする樹脂である。このABS樹脂を形成するジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン及びスチレン−ブタジエン共重合体等のガラス転移温度が−30℃以下のゴムが用いられる。ジエン系ゴム成分にグラフトされるシアン化ビニル化合物としては、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。またジエン系ゴム成分にグラフトされる芳香族ビニル化合物としては、特にスチレン及びα−メチルスチレンが好ましく使用できる。
【0035】
上記のABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂を形成するゴム成分の割合は樹脂成分100重量%中5〜80重量%であるのが好ましく、より好ましくは8〜50重量%、特に好ましくは10〜30重量%である。ゴム成分にグラフトされるシアン化ビニル化合物としては、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。またゴム成分にグラフトされる芳香族ビニル化合物としては、特にスチレン及びα−メチルスチレンが好ましく使用できる。更に、アルキル(メタ)アクリレート単量体としては、特にメチル(メタ)アクリレート及びエチルアクリレートが好ましく使用できる。
【0036】
かかるゴム成分にグラフトされる成分の割合は、樹脂成分100重量%中95〜20重量%が好ましく、特に好ましくは50〜90重量%である。
【0037】
更にかかる芳香族ビニル化合物等の合計量100重量%に対して、芳香族ビニル化合物以外が5〜50重量%、芳香族ビニル化合物が95〜50重量%であることが好ましい。
【0038】
更に上記のゴム成分にグラフトされる成分の一部について、無水マレイン酸、N置換マレイミド等を混合使用することもでき、これらの含有割合は上記樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。更に反応で使用する開始剤、連鎖移動剤、乳化剤等は必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
【0039】
本発明のABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂においては、ゴム粒子径は0.1〜5.0μmが好ましく、より好ましくは0.15〜1.5μm、特に好ましくは0.2〜0.8μmである。かかるゴム粒子径の分布は単一の分布であるもの及び2つ以上の複数のピークを有するもののいずれもが使用可能であり、更にそのモルフォロジーにおいてもゴム粒子が単一の相をなすものであっても、ゴム粒子の周りにオクルード相を含有することによりサラミ構造を有するものであってもよい。
【0040】
またABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂がゴム成分にグラフトされない芳香族ビニル化合物等を含有することは従来からよく知られているところであり、本発明のABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂においてもかかる重合の際に発生するフリーの重合体成分を含有するものであってもよい。かかるフリーの芳香族ビニル化合物等からなる共重合体の還元粘度は、先に記載の方法で求めた還元粘度(30℃)が0.2〜1.0dl/g、より好ましくは0.3〜0.7dl/gであるものである。
【0041】
またグラフトされた芳香族ビニル化合物等の割合はゴム成分に対して、グラフト率(重量%)で表して20〜200%が好ましく、より好ましくは20〜70%のものである。
【0042】
更にABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよい。特にABS樹脂は塊状重合によるものが好ましい。更にかかる塊状重合法としては代表的に、化学工学 48巻第6号415頁(1984)に記載された連続塊状重合法(いわゆる東レ法)、並びに化学工学 第53巻第6号423頁(1989)に記載された連続塊状重合法(いわゆる三井東圧法)が例示される。
【0043】
本発明のABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂としてはいずれも好適に使用される。また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。また、かかる製造法により得られたABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂に芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル成分等とを別途共重合して得られるビニル化合物重合体をブレンドしたものも好ましく使用できる。
【0044】
AS樹脂およびABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂は、アルカリ(土類)金属量が低減されたものが良好な熱安定性や耐加水分解性などの点からより好適である。スチレン系樹脂中のアルカリ(土類)金属量は、好ましくは100ppm未満であり、より好ましくは80ppm未満であり、更に好ましくは50ppm未満であり、特に好ましくは10ppm未満である。かかる点からも塊状重合法が好適に使用される。更にかかる良好な熱安定性や耐加水分解性に関連して、AS樹脂およびABS樹脂等において乳化剤を使用する場合には、該乳化剤は好適にはスルホン酸塩類であり、より好適にはアルキルスルホン酸塩類である。また凝固剤を使用する場合には、該凝固剤は硫酸または硫酸のアルカリ土類金属塩が好適である。
【0045】
上記芳香族ビニル系樹脂(A)に含まれるゴム成分としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体(例えば、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、並びに(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体など)、エチレンとα−オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体など)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、およびエチレン・ブチルアクリレート共重合体など)、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体など)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体など)、アクリル系ゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、およびブチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレートとの共重合体など)、並びにシリコーン系ゴム(例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるIPN型ゴム;すなわち2つのゴム成分が分離できないように相互に絡み合った構造を有しているゴム、およびポリオルガノシロキサンゴム成分とポリイソブチレンゴム成分からなるIPN型ゴムなど)が挙げられる。
【0046】
好ましくは前記ゴム成分は、ポリジエンゴム、アクリルゴム、およびエチレン−プロピレンゴムから成る群から選択される。ゴム成分のガラス転移温度は、典型的にはアクリルゴムについては−10〜−20℃、エチレンープロピレンゴムについては−50〜−58℃、ブタジエンゴムについては約−100℃である。
【0047】
本発明で使用される芳香族ビニル系樹脂(A)中のゴム質重合体の含有率は、樹脂組成物(A)の重量に基づいて5重量%〜15重量%である。ゴム成分の含有率は共重合の重合時のゴム成分の量を調整することにより調整できる。また本発明においては、ゴム成分を含有する芳香族ビニル共重合体と、ゴム成分を含有しない芳香族ビニル重合体または、共重合体を混合することによりゴム成分の含有率を調整することが可能である。
【0048】
芳香族ビニル系樹脂(A)中のゴム質重合体の含有率が5重量%よりも小さくなると可動式ノズルに付随する溶融装置への樹脂フィラメントの供給を停止しても可動式ノズルから少しずつ溶融樹脂が流出し続ける不良(糸引き)が発生するようになり好ましくない。芳香族ビニル系樹脂(A)中のゴム質重合体の含有率が15重量%よりも多くなると積層回数が大きい成形品での反りが大きくなり、また、層間での剥離が発生するようになり好ましくない。
【0049】
ホスフェート化合物
本発明で使用されるホスフェート化合物(B)は、下記一般式(1)で表される1種または2種以上からなるホスフェート化合物である。
【0051】
(但し上記式中のXは、二価フェノールから誘導される二価の有機基を表し、R
11、R
12、R
13、およびR
14はそれぞれ一価フェノールから誘導される一価の有機基を表し、nは0〜5の整数を表す。)
【0052】
式(1)のホスフェート化合物は、異なるn数を有する化合物の混合物であってもよく、かかる混合物の場合、平均のn数は好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.8〜1.2、更に好ましくは0.95〜1.15、特に好ましくは1〜1.14の範囲である。
【0053】
上記Xを誘導する二価フェノールの好適な具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、およびビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドが例示され、中でも好ましくはレゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルである。
【0054】
上記R
11、R
12、R
13、およびR
14を誘導する一価フェノールの好適な具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、およびp−クミルフェノールが例示され、中でも好ましくはフェノール、および2,6−ジメチルフェノールである。
【0055】
かかるホスフェート化合物は可塑化効果があるため、本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントの加工性を高められる点で有利である。
【0056】
ホスフェート化合物としては、トリフェニルホスフェートおよびトリ(2,6−キシリル)ホスフェートなどのモノホスフェート化合物、並びにレゾルシノールビスジ(2,6−キシリル)ホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、4,4−ジヒドロキシジフェニルビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマーが好適に使用される。
【0057】
ホスフェート化合物(B)の配合量は、樹脂組成物の5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%である。
【0058】
樹脂組成物中の芳香族ビニル系樹脂(A)の配合割合が95重量%よりも大きくなる、すなわち、ホスフェート化合物(B)の配合割合が5重量%よりも小さくなると積層回数が大きい成形品での反りが大きくなり、また、層間での剥離が発生するようになり好ましくない。また、樹脂組成物中の芳香族ビニル系樹脂(A)の配合割合が85重量%よりも小さくなる、すなわち、ホスフェート化合物(B)の配合割合が15重量%よりも大きくなると糸引き不良が発生するようになり好ましくない。
【0059】
本発明で使用される樹脂組成物は、ISO1133に準拠して220℃、5kg荷重で測定したMVR値が25〜40cm
3/10分であり、好ましくは、27〜37cm
3/10分である。
【0060】
ISO1133に準拠して220℃、5kg荷重で測定したMVR値が25cm
3/10分よりも小さくなると、造形時間を短縮する為に造形スピードを高速にした場合に可動式ノズルから、造形に必要な量の樹脂の吐出が間に合わなくなり、造形が正常に行えなくなる。また、40cm
3/10分よりも大きくなると糸引き不良が発生するようになる。
【0061】
本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントは、ホスフェート化合物(B)を5〜15重量%含むこと、芳香族ビニル系樹脂(A)中に芳香族ビニル系樹脂(A)の重量に基づいて5重量%〜15重量%でゴム成分を含み、且つ、ISO1133に準拠して220℃、5kg荷重で測定したMVR値が25〜40cm
3/10分であることが必須である。理論により拘束されるものではないが、MVR値は主として芳香族ビニル系樹脂の分子量などの特性とゴムの種類や含量などにより変化すると考えられ、これらの組み合わせを最適化することにより本発明で規定されるMVR値を得ることができると考えられている。
【0062】
本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントは、芳香族ビニル系樹脂(A)、ホスフェート化合物(B)より実質的に形成される。しかしながら、本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントの熱安定性を向上する為に熱安定剤等のその他の成分を本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。
【0063】
<熱安定剤>
本発明で使用される樹脂組成物は、製造時等の熱安定性を向上するため、任意成分として熱安定剤を含むことができる。熱安定剤は、1種または2種以上用いることができる。
【0064】
熱安定剤としては、リン系安定剤および/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、これらの併用がより好ましい。
【0065】
本発明で使用される樹脂組成物中のリン系安定剤および/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は特に制限されない。
【0066】
熱安定性の向上効果が効果的に得られ、かつ、上記の各必須成分の配合量に影響を与えないことから、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.6質量部である。
【0067】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸、およびこれらのエステル、ホスホナイト化合物および、第3級ホスフィン等が挙げられる。
亜リン酸エステル(ホスファイト化合物)としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0068】
亜リン酸エステル(ホスファイト化合物)としては、上記の他、二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。
【0069】
例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、および2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
【0070】
リン酸エステル(ホスフェート化合物)としては、トリフェニルホスフェート、およびトリメチルホスフェート等が挙げられる。
【0071】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、およびビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。
【0072】
ホスホナイト化合物は、アルキル基を2以上置換したアリール基を有する上記のホスファイト化合物との併用可能であり、好ましい。
【0073】
ホスホン酸エステル(ホスホネイト化合物)としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0074】
第3級ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0075】
上記リン系安定剤の中でも、ホスホナイト化合物、もしくは下記一般式(XI)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【0077】
(式(II)中、RおよびR’は炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0078】
上記の如く、ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0079】
上記式(XI)の中でもより好適なホスファイト化合物は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトである。
【0080】
ヒンダードフェノール化合物としては、テトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる
【0081】
本発明で使用される樹脂組成物は必要に応じて、リン系安定剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のその他の熱安定剤を含むことができる。
【0082】
他の熱安定剤は、リン系安定剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤のうち少なくとも一方と併用されることが好ましく、特に両者と併用されることが好ましい。
【0083】
他の熱安定剤としては、3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤(この安定剤の詳細については特開平7−233160号公報を参照されたい)が挙げられる。
【0084】
上記ラクトン系安定剤に関しては、Irganox HP−136(登録商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)等が市販されている。上記ラクトン系安定剤、ホスファイト化合物、およびヒンダードフェノール化合物を混合した安定剤として、Irganox HP−2921(登録商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)等が市販されている。
【0085】
ラクトン系安定剤の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0005〜0.05質量部、より好ましくは0.001〜0.03質量部である。
【0086】
その他の安定剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート等のイオウ含有安定剤が挙げられる。
【0087】
本発明で使用される樹脂組成物中のリン系安定剤および/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の他の安定剤の添加量は特に制限されず、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0005〜0.1質量部、より好ましくは0.001〜0.08質量部、特に好ましくは0.001〜0.05質量部である。
【0088】
<他の任意成分>
他の任意成分としては、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、および難燃剤等が挙げられる。
【0089】
3次元造形物作成用樹脂フィラメントの製造
本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントの製造には、任意の方法が採用される。例えば芳香族ビニル系樹脂(A)を構成する複数の芳香族ビニル系樹脂、ホスフェート化合物(B)および任意に他の添加剤の混合(いわゆるドライブレンド)物を押出機等で溶融混練しペレット化した後、押出機によりフィラメントを生産する方法やペレット化せずに混合物を押出機でフィラメント化する方法等が挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。これら溶融混練に際しての加熱温度は、通常180〜250℃の範囲で選ばれる。
【0090】
<3次元造形物作成用樹脂フィラメントによる造形>
本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントは、任意の押出積層による造形物作成装置を使用し、任意の温度で溶融押出して積層造形することができる。本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントの溶融押出温度については、通常230±10℃の範囲で選ばれる。溶融押出温度が220℃よりも低い温度で造形すると可動式ノズルに付随する溶融装置での樹脂フィラメントの溶融性が低下し溶融吐出不良により、造形品外観が悪化するようになる。また、240℃よりも高い温度で造形すると変色や焦げ付きなど造形品への悪影響や糸引き不良が発生するようになる。
【0091】
本発明の3次元造形物作成用樹脂フィラメントは、押出積層システムにより3次元の造形物を造形する為に有用であり、当該樹脂フィラメントを使用して押出積層により造形した造形品は、良好な外観であり、且つ、特に積層回数が大きい場合においても反り変形や層間での割れが発生し難いものである。したがって、各種アクセサリー、人形等の雑貨類、照明カバー等のインテリア器具類、カメラ、時計、計測器、表示器械等の精密機器等のケース及びカバー類等として好適であることから、本発明の奏する工業的効果は極めて大である。
【0092】
本発明者が現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
以下に実施例をあげて更に説明する。
【0094】
表1に示す芳香族ビニル系樹脂(A−1〜4)、ホスフェート化合物(B−1〜4)を、径30mmφの押出機((株)池貝FS30)を使用し、スクリュー回転数100rpmで径0.75mmの樹脂フィラメントを作成した。ホスフェート化合物(B−1〜4)の溶融押出機への供給は液注装置を使用して行われた。押出温度は、220℃で実施した。得られた樹脂フィラメントは、所定の3Dプリンター((株)ムトーエンジニアリング製Value 3D Magix MF−2000または、ニッポー(株)製SmartPrinter NF−700D)を用いて230℃にて、積層ピッチ0.4mmで評価用の試験片を成形した。
【0095】
使用された成分の詳細は以下の通りである。
(A)芳香族ビニル系樹脂
A−1:ABS樹脂[日本A&L(株)製 クララスチック SXH−330(商品名)、GPC測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量:90,000、ブタジエンゴム成分約17.5重量%、重量平均ゴム粒子径が0.40μm]
A−2:AS樹脂[IRPC Co.Ltd製 Porene AS102(商品名)、GPC測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量:120,000]
A−3:HIPS樹脂[IRPC Co.Ltd製 PoLymaxx HI830(商品名)、GPC測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量:223,000、ブタジエンゴム成分約7重量%、重量平均ゴム粒子径が1.4μm]
A−4:PS樹脂[IRPC Co.Ltd製 Porene GP150(商品名)、GPC測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量:213,000]
【0096】
(B)ホスフェート化合物
B−1:ホスフェート−1[ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル:大八化学工業(株)製 CR−741(商品名)]
B−2:ホスフェート−2[トリフェニルホスフェート:大八化学工業(株)製 TPP(商品名)]
B−3:ホスフェート−3[レゾルシノールビスジフェニルホスフェートを主成分とするリン酸エステル:大八化学工業(株)製 CR−733S(商品名)]
B−4:ホスフェート−4[レゾルシノールビスジキシリルホスフェートを主成分とするリン酸エステル:大八化学工業(株)製 PX200(商品名)]
【0097】
評価項目と評価方法
1) 反りおよび層間剥離
縦300mm×横5mm×高さ100mmの
図1に示す形状の造形物を、(株)ムトーエンジニアリング製Value 3D Magix MF−2000を使用して造形速度40mm/秒で基板上に一層ずつ積層することにより造形物を作成し、反り、層間剥離の評価を行った。反りの測定は造形終了後に基板から造形物を取り外し、最下層で測定した。評価の判定は造形物の長辺の長さの1%以内、すなわち本実施例においては反りが3mm以下であり、かつ層間剥離の発生が認められない場合を○、造形物の長辺の長さの1%よりも大きい場合、すなわち本実施例においては反りが3mmよりも大きい場合、または、層間剥離の発生が認められる場合を×とした。
【0098】
2)高速造形性
縦50mm×横5mm×高さ10mmの
図2に示す形状の造形物を、ニッポー(株)製Smart−3D Printer NF−700Dを使用して造形速度80mm/秒で基板上に一層ずつ積層することにより造形物を作成し、高速造形性の評価を行った。評価の判定は外観、形状に問題ない造形物が得られた場合は○、溶融吐出不良により良好な造形物を得ることが出来ない場合を×とした。
【0099】
3)糸引き性
高さ20mm×直径10mm×壁厚み0.55mmの、
図3に示すように同じ形状の造形物1と造形物2を、株)ムトーエンジニアリング製Value 3D Magix MF−2000を使用して造形速度40mm/秒で作成した。基板上に一層ずつ、造形物1と造形物2を交互に積層することにより作成し、造形物1および造形物2の間で糸引きの状態の評価を行った。評価の判定は糸引きがほとんど認められない場合は○、糸引きが認められる場合は×とした。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の結果より、本発明の樹脂組成物からなる樹脂フィラメントを使用した実施例1〜8は、本発明の範囲外である樹脂組成物からなる樹脂フィラメントを使用した比較例1〜9が、反り、層間剥離、高速造形性、糸引き性の全てが良好な状態とはならないのに対し、何れも良好な状態となることが確認できる。