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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-149245(P2017-149245A)
(43)【公開日】2017年8月31日
(54)【発明の名称】車両空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20170804BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20170804BHJP
【FI】
   B60H1/00 102P
   B60H1/32 613M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-32979(P2016-32979)
(22)【出願日】2016年2月24日
(71)【出願人】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】林 直人
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA52
3L211BA60
3L211CA05
3L211DA08
(57)【要約】
【課題】 棒状のシール部材の欠品確認を容易化した車両用空調装置において、ユニットケースの内圧が上昇しても、シール部材を収容する嵌合部に滞留した水がユニットケースの外部空間に漏れることを防止する。
【解決手段】 車両用空調装置は、縦方向の分割面10a、11aを有する複数のケース部材が組み付けられて構成され、内部空間80を有するユニットケースCと、複数のケース部材の一方の分割面に設けられた凹状溝10bと、他方の分割面に設けられ凹状溝に挿入される凸状部11bとを有する嵌合部12と、嵌合部の底部B且つ内部に圧縮されて配置されるシール部材30と、を備える。ユニットケースは、凹状溝と外部空間19とを連通し、シール部材の端部30a、30bを外部空間へと導く導出部50と、凹状溝と内部空間とを連通する連通部40とを備え、連通部は導出部よりも下方に設けられる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向の分割面(10a、11a)を有する複数のケース部材(10、11)が組み付けられて構成され、内部空間(80)を有するユニットケース(C)と、
前記複数のケース部材の一方(10)の分割面に設けられた凹状溝(10b)および前記複数のケース部材の他方(11)の分割面に設けられ前記凹状溝に挿入される凸状部(11b)を有する嵌合部(12)と、
前記嵌合部の底部(B)且つ内部に圧縮されて配置される棒状のシール部材(30)と、を備え、
前記ユニットケース(C)は、
前記凹状溝と前記ユニットケースの外部空間(19)とを連通し、前記棒状のシール部材の端部(30a、30b)を前記外部空間へと導く導出部(50)と、
前記凹状溝と前記内部空間とを連通し、前記導出部よりも下方に設けられた連通部(40)と、
を備えたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記連通部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)と、他方側に設けられた他方側の連通部(40b)とを有し、
前記一方側の連通部は、前記他方側の連通部よりも通気抵抗が高いこと
を特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記連通部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)と、他方側に設けられた他方側の連通部(40b)とを有し、
前記一方側の連通部は、前記他方側の連通部よりも下方に設けられたこと
を特徴とする請求項1または請求項2に記載された車両用空調装置。
【請求項4】
前記導出部は、前記嵌合部の底部に対して他方側に設けられた他方側の導出部(50b)を有し、
前記連通部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)を有し、
前記一方側の連通部は、前記他方側の導出部よりも下方に設けられたこと
を特徴とする請求項1に記載された車両用空調装置。
【請求項5】
前記導出部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の導出部(50a)と、他方側に設けられた他方側の導出部(50b)とを有し、
前記連通部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)と、他方側に設けられた他方側の連通部(40b)とを有し、
前記一方側の連通部は、前記一方側の導出部よりも下方に設けられ、
前記他方側の連通部は、前記他方側の導出部よりも下方に設けられたこと
を特徴とする請求項1に記載された車両用空調装置。
【請求項6】
前記導出部と前記シール部材との間は、前記連通部よりも通気抵抗が高いこと
を特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載された車両用空調装置。
【請求項7】
前記嵌合部と前記シール部材とは、前記シール部材よりも前記内部空間の側に内側隙間(S1)を形成し、
前記連通部は、前記内側空間と前記内部空間とを連通するよう設けられたこと
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載された車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置は、ユニットケースの内部空間に空気を流し、温度調和したのち、車室内に調和空気を吹出すもので、車両外部の雨水や霧、雪などを吸い込む場合がある。また、温度調和の過程で、内部空間に配置した蒸発器を稼働して空気を冷却し、凝縮水が発生する場合もある。
【0003】
ところで、ユニットケースは、例えば左右に分割可能な縦割れタイプとして構成された場合、垂直な分割面が形成されるため、雨水や凝縮水がユニットケースの底部から漏れることのないような工夫が必要となる。この点、例えば特許文献1に開示されるように、ユニットケースの下部の凝縮水が貯まる部位に、棒状のシール部材を圧縮して保持する凸凹嵌合部を設ける構成が知られている。
【0004】
また、特許文献1には、凸凹嵌合部には圧縮された棒状のシール部材の他に、シール部材により充填しきれずに残る隙間が存在し、凝縮水が浸入し、ユニットケース内の内圧が上昇した場合に、隙間に侵入した水が、凝縮水が貯まる部位よりも上方に配置されたシール部材の端部にまで到達することが示されている。そして、特許文献1によれば、行き場を失った水はシール部材の先端を回り込み、左右のユニットケースの嵌合部から外壁側に漏れるおそれがあるとされ、これを防止するため、ユニットケースの内部空間と隙間とを連通する連通部を、凸凹嵌合部の一部であってシール部材を収容する収容凹溝の両端部に設ける構成が提案されている。そして、このように連通部を構成すれば、ユニットケース内の内圧が上昇しても、両連通部間に滞留した水の両端に作用する圧力をユニットケースの内圧と同圧にすることができ、隙間に侵入した水がシール部材の端部まで到達することを防止できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4072301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、ユニットケース内の内圧が上昇する際に、内圧が不均等に上昇することが考慮されていない。凝縮水は蒸発器の上流側から下流側に跨って貯留されるため、原則としては、凝縮器の上流側の空間の圧力が上昇しやすい。しかし、凝縮器の下流側に配置される吹出ドアの開度が制御されると、瞬間的には蒸発器の下流側の空間の圧力が上昇することもある。このように、ユニットケース内の内圧の上昇や下降は、不均等に発生するので、特許文献1のように連通部を設けたとしても、両連通部間に滞留した水の両端に作用する圧力をユニットケースの内圧と同圧にできるとは限らず、間に侵入した水がシール部材の端部まで到達することを完全には防止することはできない。
【0007】
また、特許文献1では、棒状のシール部材がすべて収容凹溝の内部に収容されているため、生産工程で車両用空調装置の組み付けが終了し、シール部材の有無を検査する際に、ユニットケースの外部からシール部材の有無を判別できず、欠品につながるおそれがある。そこで、収容凹溝とユニットケースの外壁面とを連通する引出穴を設け、棒状のシール部材の端部をユニットケースの外壁面側(外部空間の側)に引き出して、目視検査を可能とする構成が考えられる。
【0008】
しかしながら、ここで特許文献1のように収容凹溝の両端部に連通穴を設けると、連通穴を介して収容凹溝にユニットケース内の内圧の上昇が伝わり、さらに引出穴を介してユニットケースの外部空間に空気が漏れて、このときに隙間に侵入した水も引出穴からユニットケースの外部空間に漏れるおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、棒状のシール部材の端部をユニットケースの外部空間に引き出してシール部材の欠品確認を容易化した車両用空調装置において、ユニットケースの内圧が上昇しても、収容凹溝に滞留した水がユニットケースの外壁面側に漏れることのない構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、縦方向の分割面(10a、11a)を有する複数のケース部材(10、11)が組み付けられて構成され、内部空間(80)を有するユニットケース(C)と、複数のケース部材の一方(10)の分割面(10a)に設けられた凹状溝(10b)および複数のケース部材の他方(11)の分割面(11a)に設けられ凹状溝(10b)に挿入される凸状部(11b)を有する嵌合部(12)と、前記嵌合部の底部(B)且つ内部に圧縮されて配置される棒状のシール部材(30)とを備え、ユニットケース(C)は、前記凹状溝と前記ユニットケースの外部空間(19)とを連通し、前記棒状のシール部材の端部(30a、30b)を前記外部空間へと導く導出部(50)と、前記凹状溝と前記内部空間とを連通し、前記導出部よりも下方に設けられた連通部(40)と、を備えたことを特徴としている(請求項1)。
【0011】
これにより、シール部材の端部をユニットケースの外部空間へと導出したので、シール部材の欠品の確認を容易に行うことができる。また、シール部材をユニットケースの外部空間に導出する導出部よりも、凹状溝とユニットケースの内部空間とを連通する連通部を下方に設けたので、ユニットケースの底部に貯まった水が、ユニットケース内の内圧の上昇によって凹状溝を伝わりシール部材の上方に導かれるとしても、導出部よりも下方すなわち上流に設けられた凹状溝に先に到達する。そして、上方に導かれた水は、連通部を通じてユニットケースの内部空間に排出されるので、凹溝部に滞留した水が外部空間に漏れることを防止できる。
【0012】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記連通部について、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)と、他方側に設けられた他方側の連通部(40b)とを有し、前記一方側の連通部は、前記他方側の連通部よりも通気抵抗が高いよう構成することが好ましい(請求項2)。
【0013】
ユニットケースの内部空間の圧力が上昇するとしても、均一に上昇するとは限らず、従って凹状溝に貯留した水が内部空間の圧力の上昇によりユニットケースの上方へ移動するとしても、ユニットケースの底部に対してどちらの方向に移動するか、不明である。その点、請求項2の発明によれば、一方側の連通部を他方側の連通部よりも通気抵抗を高くしたので、他方の連通部を通じた水位の変化を鋭敏とし、一方の連通部に向けて水位が上昇するよう構成できる。これにより、内部空間の圧力の上昇が均一ではなくとも、内部空間に排出される水の出口を常に一方側の連通部として、品質の向上を図ることができる。
【0014】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記連通部について、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)と、他方側に設けられた他方側の連通部(40b)とを有し、前記一方側の連通部は、前記他方側の連通部よりも下方に設けることが好ましい(請求項3)。一方側の連通部を他方側の連通部よりも下方に設けたので、内部空間の圧力の上昇が均一ではなくとも、内部空間に排出される水の出口を常に一方側の連通部として、品質の向上を図ることができる。
【0015】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記導出部について、前記嵌合部の底部に対して他方側に設けられた他方側の導出部(50b)を有し、前記連通部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)を有し、前記一方側の連通部は、前記他方側の導出部よりも下方に設けることが好ましい(請求項4)。何らかの事情により、嵌合部の底部に対して連通部を他方側に設けることができないとしても、一方側の連通部を他方側の導出部よりも下方に設けることで、凹状溝に貯留した水が分割面の他方側を上昇するとしても、ユニットケースの底部に貯まった水の水面から導出部までの高低差を大きく設定することができ、外部空間への水の漏れを防止できる。
【0016】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記導出部について、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の導出部(50a)と、他方側に設けられた他方側の導出部(50b)とを有し、前記連通部は、前記嵌合部の底部に対して一方側に設けられた一方側の連通部(40a)と、他方側に設けられた他方側の連通部(40b)とを有し、前記一方側の連通部は、前記一方側の導出部よりも下方に設けられ、前記他方側の連通部は、前記他方側の導出部よりも下方に設けることが好ましい(請求項5)。ユニットケース内の圧力の上昇により、凹状溝に貯留した水が分割面の底に対して一方側、他方側のいずれを上昇しても、導出部に到達することを防止できる。
【0017】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記導出部と前記シール部材との間について、前記連通部よりも通気抵抗が高いよう構成することが好ましい(請求項6)。凹状溝を上昇した水を、より確実にユニットケースの内部空間へ排出することができる。
【0018】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記嵌合部と前記シール部材とについて、前記シール部材よりも前記内部空間の側に内側隙間(S1)を形成し、前記連通部は、前記内側空間と前記内部空間とを連通するよう設けられるものである(請求項7)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シール部材の欠品の確認を容易に行うことができるとともに、ユニットケースの内圧が上昇しても、ユニットケースの外部空間に水が漏れることを防止した車両用空調装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係る車両用空調装置の側面を示す、側面概略図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る車両用空調装置の正面の一部を示す、正面概略図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る車両用空調装置であり、図1内にて符号1aで示した部分から蒸発器カバーを取り除いた、部分説明図である。
図4図3中の棒状のシール部材を示す斜視図である。
図5図3のX−X断面図に、蒸発器カバーを加えた説明図である。
図6図3のY−Y断面図に、蒸発器カバーを加えた説明図である。
図7図3にて符号Eで示した部分を拡大した、部分説明図である。
図8】本発明の第一実施形態に係る車両用空調装置を示す模式図である。
図9】本発明との比較例を示す模式図である。
図10】本発明の第二実施形態に係る車両用空調装置を示す模式図である。
図11】本発明の第三実施形態に係る車両用空調装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して本発明の一態様を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書および図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0022】
<第一実施形態>
図1から図3は、いずれも本発明の第一実施形態に係る車両用空調装置1を示すもので、図1は側面を示す側面概略図、図2は正面の一部を示す正面概略図、図3図1内にて符号1aで示した部分から蒸発器カバー11を取り除いた部分説明図である。本実施形態に係る車両用空調装置1は車両の前方に搭載されるもので、ケース部材(ケース本体)10とケース部材(蒸発器カバー)11とを備え、ケース本体10に蒸発器カバー11を取り付けることでユニットケースCを構成する。ユニットケースCは内部空間80と外部空間90とを区画する。内部空間80には、図3に示すように、蒸発器20が配置される。
【0023】
車両用空調装置1は送風装置(図示せず)を有する。送風装置により送風された空気は内部空間80を通流し、車室内へ吹き出される途中で、蒸発器20により冷却される。
【0024】
内部空間を通流する空気は、車両が走行時に受ける外気の圧力(ラム圧)、送風装置の稼働状態、車室内へ吹き出す配風状態などの因子の影響により、内部空間80にて、圧力(静圧、動圧)が変化している。例えば図3において、蒸発器20は通気抵抗体となるため、蒸発器20の上流(図中、蒸発器20の右側)の空気は蒸発器20の下流(図中、蒸発器20の左側)の空気よりも一般に圧力が高いが、前記した因子の影響によってはこの関係が逆転し、瞬間的に蒸発器20の下流側の空気の圧力が高くなることもある。
【0025】
蒸発器20は、公知の工程で製造されるもので、例えばアルミ合金や銅合金で構成される。また、冷凍サイクルの一部として構成されており、冷媒は配管21により供給されて、周囲の空気と熱の交換を行い、配管22を通じて排出される。蒸発器20と熱の交換がされた空気は冷却されるとともに凝縮水を発生し、蒸発器20の下方に流れ、図示しないドレイン部を通じて外部空間90へ排出される。
【0026】
ケース本体10と蒸発器カバー11は、ポリプロピレンやABSなどの樹脂で構成され、射出成型工程により製造される。本実施形態では、ケース本体10と蒸発器カバー11とはそれぞれ縦方向の分割面を有し(10a、11a)、ケース本体10に蒸発器カバー11を取り付けることでユニットケースCを構成する。ケース本体10と蒸発器カバー11とは、後述する嵌合部12を構成する。
【0027】
図3に示すように、ケース本体10の内部空間80に配置された蒸発器20からは、熱の交換により発生する凝縮水が流れ、嵌合部の底部Bの上に貯まる。嵌合部の底部Bには、図4に示される棒状のシール部材30が圧縮されて配置され、凝縮水がユニットケースCの外部空間へ漏れることを防止する。なお、シール部材の材料は、NBRやEPDMなどの車両用空調装置に一般的に用いられる弾力性を備えたゴムが用いられる。
【0028】
図5は、図3のX−X断面図に、蒸発器カバー11を加えた説明図である。ケース本体10と蒸発器カバー11とは、図示しないネジやボルト、その他ツメ嵌合などの公知の固定手段により固定される。ケース本体10は縦方向の分割面10aを有し、分割面10aの内部には凹状溝10bが設けられている。蒸発器カバー11は縦方向の分割面11aを有し、分割面11aから突出する凸状部11bが設けられている。凸状部11bは凹状溝10bに挿入され、分割面10aと分割面11aとが当接することで、嵌合部12を構成している。凹状溝10bには棒状のシール部材30が収容されつつ、凸状部11bの先端と凹状溝10bとにより圧縮される。凹状溝10bと凸状部11bとの間の空間には、圧縮されたシール部材30の他に隙間Sが存在し、シール部材30よりも内部空間80の側には内側隙間S1が、シール部材30よりも外部空間90の側には外部隙間S2が存在する。
【0029】
嵌合部の底部Bの上方には、送風装置を経由して流入した雨水や蒸発器20から流れた凝縮水等Aqが貯まる。嵌合部12では、ケース本体の分割面10aと蒸発器カバーの分割面11aとが当接しているが、水分子が移動可能な程度の表面粗さが存在するため、毛細管現象と相まって、水は、内側隙間S1にまで到達する。このため、内部空間80の内圧が上昇し、雨水や蒸発器20から流れた凝縮水等Aqに圧力がかかると、内側隙間S1に入り込む水の容積が増大し、内側隙間S1を沿って水位が上方に向かって上昇することとなる。一方、凹状溝10bと凸状部11bとの間でシール部材30を圧縮しているので、水は、外側隙間S2に到達することがなく、従って外部空間90に漏れることが防止される。
【0030】
図6は、図3のY−Y断面図に、蒸発器カバー11を加えた説明図である。基本的な構成は図5で示した嵌合部12と同様であるが、相違点はケース本体10の一部が切り欠かれ、連通部40が設けられていることである。連通部40が設けられたことで、内部空間80と内側隙間S1とは、毛細管現象によらずに水が移動できる程度に連通している。すなわち、通気抵抗や通水抵抗は、低いものとされている。
【0031】
図7は、図3にて符号Eで示した部分を拡大したもので、棒状のシール部材30の一方の端部30aの近傍を示す部分説明図である。ケース本体の分割面10aは凹状溝10bを有し、シール部材30が収容されている。凹状溝10bの上側端部は、凹状溝10bと外部空間90とを連通する導出部50が設けられる。シール部材30は、導出部50から外部空間90に延出されており、一方側の端部30aは外部空間90に露出されている。これにより、ケース本体10に蒸発器カバー11を取り付けた後であっても、嵌合部12の内部にシール部材30を収容しているか、容易に確認することができる。
【0032】
導出部50は円形またはこれに準じた形状とされている。そして、導出部50の断面積は、シール部材30の断面積よりも小さく設定されている。これにより、ユニットケースCの内部空間80の内圧が変動し、連通部40を通じて導出部50に内圧の変動が伝搬したとしても、シール部材30が導出部50により圧縮されて導出部50の通気抵抗や通水抵抗が高められているので、内部空間80と外部空間90との空気の通流が防止される。そして、連通部40との関係においては、導出部50の方が、通気抵抗や通水抵抗が高められている。
【0033】
図7において連通部40は、導出部50から距離D1離れた下方に設けられる。このように連通部40を導出部50よりも下方に設けて、連通部40と導出部50とをクランク状に配置したので、内部空間80の内圧が変化して連通部40から内側隙間S1に動圧の影響が与えられても、導出部50に及ぼされる影響を減少することができ、内部空間80と外部空間90との空気の通流をより確実に防止できる。
【0034】
図8は、本発明の第一実施形態に係る車両用空調装置を示す模式図である。この図を用いて、ユニットケースCの内部空間80の内圧が部分的に急上昇した場合の挙動を説明する。
【0035】
まず、内部空間80の内圧が上昇し、圧力Pが嵌合部12の内側にかかる。このとき、瞬間的には、内部空間80のうち、特に図の左側(他方側)の圧力が上昇したとする。すると、連通部40bを経由して内側隙間S1に空気A(内側隙間に流入する空気)が流入する。そして、空気Aは内側隙間S1を下方に向かって流れ(白抜矢印)、嵌合部12の底部Bに浸透した水を水位W1から水位Wdまで押し出す。空気Aにより押し出された水は、図の右側(一方側)の内側隙間S1を上昇し(黒実線矢印)、連通部40aに到達する。ここで、押し出された水は、連通部40aから内部空間80へ排出される経路と導出部50aに向かう経路のいずれかに向かおうとする。そして、導出部50aの通気抵抗や通水抵抗が高いために、水は、導出部50aに到達することなく、符号W3で示されるように連通部40aから内部空間80へ排出される。
【0036】
なお、この挙動が発生しているときも、シール部材30が嵌合部12の内部に圧縮されて収容されているから、内部隙間S1から外部隙間S2への水の移動はなく、従って内部空間80の内圧の変動が発生しても、水は外部空間90に漏れることは防止されている。
【0037】
また、図8では、内部空間80のうち、特に図の左側(他方側)の圧力が上昇した場合として説明したが、図の右側(一方側)の圧力が上昇した場合には、左右で逆の挙動が発生し、水の外部空間90への漏れは防止される。
【0038】
図9は、本発明との比較例を示した模式図である。図8の模式図との相違点は、連通部40aよりも導出部50aが下方に設けられたことである。内部空間80の内圧が上昇し、空気Aが内側隙間S1に流れ込み、嵌合部の底部Bに浸透した水を押し出して、一方側の内側隙間S1を上昇するまでの点で、図8図9とは同じ挙動をとる。
【0039】
しかしながら、図9では、導出部50aが連通部40aよりも下方に設けられているので、水位W2で示されるように、水は導出部50aの位置に到達する。上記したように、シール部材30が圧縮されて導出部50から延出されるよう構成されたとしても、符号W4で示すように毛細管現象により水が外部空間ににじみ出る可能性がある。このように図9で示す比較例では確実な水漏れの防止が行えず、従って図7図8で示すように、連通部40aを導出部50aよりも下方に設けることが必要である。
【0040】
<第二実施形態>
図10は、本発明の第二実施形態に係る車両用空調装置を示す模式図である。図8で示す第一実施形態との相違点は2つあり、第一の相違点は一方側の連通部40aが他方側の連通部40bよりも断面積が小さいことであり、第二の相違点は一方側の連通部40aが他方側の連通部40bよりも下方に設けられたことである。
【0041】
まず、第一の相違点について説明する。図10に示される一方側の連通部40aは、他方側の連通部40bよりも断面積が小さいものとして示されている。より詳しくは、一方側の連通部40aは、他方側の連通部40bよりも通気抵抗が高いものとして設けられる。このように構成することで、内部空間80の内圧が不均等に上昇しても、一方側の連通部40aを介した圧力の変化は内側隙間S1に伝搬しにくく、従って、連通部40から水が排出されるとしても、符号W3で示されるように排出部を常に連通部40aとすることができる。車両用空調装置1においては、蒸発器20の下流側に電気発熱装置やイオン発生器などの電子部品が配置されることもあり、液体の水の飛散を防止したいところ、水の排出部を電子部品からより離れた部位に設けることで、車両用空調装置1の信頼性を向上することができる。
【0042】
続いて、第二の相違点について説明する。図10に示される一方側の連通部40aは、他方側の連通部40bよりも距離D2だけ下方に設けられている。このように構成することで、水は、下方に設けられた一方側の連通部40aから排出されやすくすることができる。そして、第一の相違点で説明したように、内部空間80の内圧が不均等に上昇しても、符号W3で示されるように常に連通部40aとして、車両用空調装置1の信頼性を向上することができる。
【0043】
以上、第一の相違点と第二の相違点とをそれぞれ分けて説明したが、図10に示すように、2つの相違点ともに反映した構成とすることがより好ましい。より確実に、車両用空調装置1の信頼性を向上することができる。
【0044】
<第三実施形態>
図11は、本発明の第三実施形態に係る車両用空調装置を示す模式図である。図8で示す第一実施形態との相違点は2つあり、第一の相違点は一方の導出部50aが他方の導出部50bよりも下方に設けられたこと、第二の相違点は連通部が一方側の連通部40aとして設けられるのみで他方側(図の左側)には設けられていないことである。
【0045】
このように第一と第二の相違点を反映して、連通部40aを導出部50の低い側へ設けることで、内圧の変動により仮に内側隙間S1に浸透した水が内側隙間S1の一方側(図の右側)を上昇しても連通部40aから排出することができる。逆に、内側隙間S1に浸透した水が内側隙間S1の他方側(図の左側)を上昇しても、内圧の変動が発生する前の水位W1に対して他方側の導出部50bは距離D4ほど高く、すなわち一方側の連通部40aよりも距離D3ほど高いので、符号W5で示されるように、水が導出部50bに到達することを高い確率で防止することができる。そして、射出成型上や内部空間への水の排出部に関する制約のために他方側の連通部を設けられない場合にも、第三実施形態を採用することで、シール部材の容易な欠品確認と外部空間への水の漏れ防止を図ることができる。
【0046】
以上、ケース本体10の側面に蒸発器カバー11を取り付ける形態を例に挙げて説明してきたが、本発明の趣旨を逸脱しない変更は本発明の範囲に含まれることはもちろんである。例えば、図示の各実施形態とは逆に、ケース本体10に凸状部を設けて蒸発器カバー11に凹状溝を設けたり、また、本体ケース10を複数のサブケースにより構成し、これら複数のサブケースが縦方向の分割面を有して、分割面の嵌合部の上に雨水や凝縮水が貯まる構成の車両用空調装置に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る車両用空調装置は、工業的に製造することができ、また商取引の対象とすることができるから、経済的価値を有して産業上利用することが出来る発明である。
【符号の説明】
【0048】
1 車両用空調装置
1a 車両用空調装置の一部(蒸発器カバーの下部)
10 ケース部材(ケース本体)
10a 分割面(ケース本体の分割面)
10b 凹状溝
11 ケース部材(蒸発器カバー)
11a 分割面(蒸発器カバーの分割面)
11b 凸状部
12 嵌合部
20 蒸発器
30 棒状のシール部材
30a シール部材の一方側の先端
30b シール部材の他方側の先端
40 連通部
40a 一方側の連通部
40b 他方側の連通部
50 導出部
50a 一方側の導出部
50b 他方側の導出部
80 内部空間
90 外部空間
A 内側隙間に流入する空気
Aq 雨水や凝縮水等
B 嵌合部の底部
C ユニットケース
E 車両用空調装置の一部(導出部近傍)
S 隙間
S1 内側隙間
S2 外側隙間
P 内圧(ユニットケース内の内圧)
W1 水位
W2 水位
W3 排出された水
W4 排出された水
W5 水位
Wd 水位
D1 高低差
D2 高低差
D3 高低差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2017年2月1日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項7
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項7】
前記嵌合部と前記シール部材とは、前記シール部材よりも前記内部空間の側に内側隙間(S1)を形成し、
前記連通部は、前記内部空間と前記内側隙間とを連通するよう設けられたこと
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載された車両用空調装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
しかしながら、ここで特許文献1のように収容凹溝の両端部に連通を設けると、連通を介して収容凹溝にユニットケース内の内圧の上昇が伝わり、さらに引出穴を介してユニットケースの外部空間に空気が漏れて、このときに隙間に侵入した水も引出穴からユニットケースの外部空間に漏れるおそれがある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
これにより、シール部材の端部をユニットケースの外部空間へと導出したので、シール部材の欠品の確認を容易に行うことができる。また、シール部材をユニットケースの外部空間に導出する導出部よりも、凹状溝とユニットケースの内部空間とを連通する連通部を下方に設けたので、ユニットケースの底部に貯まった水が、ユニットケース内の内圧の上昇によって凹状溝を伝わりシール部材の上方に導かれるとしても、導出部よりも下方すなわち上流に設けられた凹状溝に先に到達する。そして、上方に導かれた水は、連通部を通じてユニットケースの内部空間に排出されるので、凹状溝に滞留した水が外部空間に漏れることを防止できる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
本発明に係る車両用空調装置(1)は、前記嵌合部と前記シール部材とについて、前記シール部材よりも前記内部空間の側に内側隙間(S1)を形成し、前記連通部は、前記内部空間と前記内側隙間とを連通するよう設けられるものである(請求項7)。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
図7は、図3にて符号Eで示した部分を拡大したもので、棒状のシール部材30の一方の端部30aの近傍を示す部分説明図である。ケース本体の分割面10aは凹状溝10bを有し、シール部材30が収容されている。凹状溝10bの上側端部は、凹状溝10bと外部空間90とを連通する導出部50が設けられる。シール部材30は、導出部50から外部空間90に延出されており、一方側の端部30aは外部空間90に露出されている。これにより、ケース本体10に蒸発器カバー11を取り付けた後であっても、嵌合部12の内部にシール部材30を収容しているか、容易に確認することができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
なお、この挙動が発生しているときも、シール部材30が嵌合部12の内部に圧縮されて収容されているから、内隙間S1から外隙間S2への水の移動はなく、従って内部空間80の内圧の変動が発生しても、水は外部空間90に漏れることは防止されている。