【解決手段】フロントピラー30では、ピラー部32が中空構造を成しており、ピラー部32の外側壁36及び内側壁38が、透明のガラス繊維強化樹脂で構成されている。これにより、フロントピラー30の軽量化を図りつつ、ピラー部32を通して車両外側を視認できる。ここで、外側壁36の引張強度が内側壁38の引張強度に比べて低く設定されている。このため、前面衝突時において、外側壁36を折れ易くさせ且つ内側壁38を折れ難くできる。その結果、前面衝突時では、主として外側壁36が折れて、内側壁38の折れが抑制される。換言すると、ピラー部32が全体的に折れて破壊することを抑制できる。しかも、ピラー部32では、キャビンC側の内側壁38の折れが抑制されるため、運転者P(乗員)に対する保護性能を確保できる。
前記外側壁には、一対の前記側壁に架け渡された複数の外側梁が一体に形成されていると共に、前記内側壁には、一対の前記側壁に架け渡された複数の内側梁が一体に形成されており、
前記外側梁及び前記内側梁は、炭素繊維強化樹脂によって構成され、
前記外側梁及び前記内側梁の断面形状が同一の断面形状に設定されると共に、前記外側梁の本数が前記内側梁の本数に比べて少なく設定されている請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用ピラー構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記フロントピラーは中実構造を成しているため、フロントピラーの質量が増加するという問題がある。これに対して、例えば、フロントピラーを中空構造にすることで、フロントピラーの軽量化を図ることができるが、この場合には、フロントピラー全体の強度が低下するという問題がある。このため、例えば、車両の前面衝突時に、仮にフロントピラーが折れて破壊すると、乗員に対する保護性能が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、運転者のピラーを通した視認性及び軽量化を図りつつ乗員に対する保護性能を確保できる車両用ピラー構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両用ピラー構造は、ウィンドシールドガラスの車幅方向外側端部に沿って延在され且つ長手方向から見て閉断面を成すピラー部を有する車両用ピラー構造であって、前記ピラー部は、前記ピラー部における車両外側の壁部を構成する外側壁と、前記ピラー部における車室側の壁部を構成する内側壁と、前記外側壁と前記内側壁とを連結する一対の側壁と、を含んで構成され、前記外側壁の少なくとも一部が透明樹脂で構成された外側透明部とされると共に、前記内側壁の少なくとも一部が、透明樹脂で構成され且つ運転者から見て前記外側透明部とラップして配置された内側透明部とされており、前記外側壁の引張強度が前記内側壁の引張強度に比べて低く設定されている。
【0007】
請求項1に記載の車両用ピラー構造では、ウィンドシールドガラスの車幅方向外側端部に沿ってピラー部が延在されており、当該ピラー部は、その長手方向から見て閉断面を成している。すなわち、ピラー部が中空構造に構成されている。これにより、ピラー部が中実構造を成す場合と比べて、ピラー部の軽量化を図ることができる。
【0008】
また、ピラー部は、ピラー部における車両外側の壁部を構成する外側壁と、ピラー部における車室側の壁部を構成する内側壁と、外側壁と内側壁とを連結する一対の側壁と、を含んで構成されている。さらに、外側壁の少なくとも一部が、透明樹脂で構成された外側透明部とされ、内側壁の少なくとも一部が、透明樹脂で構成された内側透明部とされており、運転者から見て、内側透明部が、外側透明部とラップして配置されている。これにより、運転者が、ピラー部(外側透明部及び内側透明部)を通して車両外側を視認することができる。
【0009】
ところで、車両の前面衝突時では、車両後側への衝突荷重が、車室の前部に配置されたピラー部の前端部からピラー部に入力される。これにより、ピラー部の前端部が車両後側へ変位して、ピラー部の長手方向中間部が車両外側へ凸に折れるように作用する。また、車両の後面衝突時では、車両前側への衝突荷重が、車室の後部に配置されたピラー部の後端部からピラー部に入力される。これにより、ピラー部の後端部が車両前側へ変位して、ピラー部の長手方向中間部が車両外側へ凸に折れるように作用する。したがって、車両の前面衝突時又は後面衝突時には、ピラー部における外側壁に引張力が作用すると共に、ピラー部における内側壁に圧縮力が作用する。
【0010】
ここで、外側壁の引張強度が内側壁の引張強度に比べて低く設定されている。そして、上述のように、車両の前面衝突時又は後面衝突時では、外側壁に引張力が作用すると共に、内側壁に圧縮力が作用する。このため、車両の前面衝突時又は後面衝突時にピラー部に作用する力に対して、外側壁を折れ易くさせ且つ内側壁を折れ難くさせることができる。その結果、車両の前面衝突時又は後面衝突時では、主として外側壁が折れて、内側壁の折れが抑制されるため、ピラー部全体の破壊が抑制される。しかも、ピラー部の車室内側を構成する内側壁の折れが抑制されるため、車室内の乗員に対する保護性能を確保することができる。以上により、運転者のピラーを通した視認性及び軽量化を図りつつ、乗員に対する保護性能を確保することができる。
【0011】
請求項2に記載の車両用ピラー構造は、請求項1に記載の発明において、前記外側透明部及び前記内側透明部が、ガラス繊維強化樹脂で構成されており、前記外側透明部を構成するガラス繊維強化樹脂におけるガラス繊維の含有量が、前記内側透明部を構成するガラス繊維強化樹脂におけるガラス繊維の含有量に比べて少なく設定されている。
【0012】
請求項2に記載の車両用ピラー構造では、外側透明部及び内側透明部を構成する透明樹脂が、ガラス繊維強化樹脂とされている。このため、ピラー部全体の引張強度を高くすることができる。また、外側透明部を構成するガラス繊維強化樹脂におけるガラス繊維の含有量が、内側透明部を構成するガラス繊維強化樹脂におけるガラス繊維の含有量に比べて少なく設定されている。このため、簡易な構成で、外側壁の引張強度を内側壁の引張強度に比べて低く設定することができる。
【0013】
請求項3に記載の車両用ピラー構造は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記外側壁の上部には、前記外側壁の他の部分よりも引張強度の低い低強度部が設けられている。
【0014】
請求項3に記載の車両用ピラー構造では、外側壁の上部に、低強度部が設けられており、低強度部の引張強度が、外側壁の他の部分の引張強度よりも低く設定されている。このため、車室の前部に配置されたピラー部において、車両前側からのオフセット衝突時や微小ラップ衝突時における乗員の頭部に対する保護性能を向上することができる。
【0015】
すなわち、低強度部の引張強度が外側壁の低強度部以外の部分の引張強度よりも低く構成されているため、オフセット衝突や微小ラップ衝突では、外側壁が低強度部を起点に折れるように作用する。これにより、ピラー部では、低強度部の周辺部が車両外側へ凸となるように折れる傾向になる。
【0016】
一方、オフセット衝突や微小ラップ衝突では、慣性力によって、乗員の上半身が車両前側で且つ衝突側の車幅方向外側へ移動する。すなわち、衝突側の車両用シートに着座した乗員の頭部が、車室の前部に配置されたピラー部に接近する。このとき、上述のように、ピラー部では、低強度部の周辺部が車両外側へ凸となるように折れ曲がる。そして、低強度部は、ピラー部の上部に設けられている。このため、車両上下方向における低強度部の位置と乗員の頭部の位置とを合わせるように設定できる。これにより、オフセット衝突時や微小ラップ衝突時に前側且つ車幅方向外側へ移動する乗員の頭部に対して、ピラー部を離間させることができる。その結果、オフセット衝突時や微小ラップ衝突時における、乗員の頭部とピラー部との衝突を抑制できる。したがって、オフセット衝突時や微小ラップ衝突時における乗員の頭部に対する保護性能を向上することができる。なお、ピラー部の上部とは、ピラー部の長手方向中央部からピラー部の上端側の部分をいう。
【0017】
請求項4に記載の車両用ピラー構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の発明において、前記外側壁には、一対の前記側壁に架け渡された複数の外側梁が一体に形成されていると共に、前記内側壁には、一対の前記側壁に架け渡された複数の内側梁が一体に形成されており、前記外側梁及び前記内側梁は、炭素繊維強化樹脂によって構成され、前記外側梁及び前記内側梁の断面形状が同一の断面形状に設定されると共に、前記外側梁の本数が前記内側梁の本数に比べて少なく設定されている。
【0018】
請求項4に記載の車両用ピラー構造では、複数の外側梁が外側壁に一体に形成されており、外側梁は、ピラー部における一対の側壁に架け渡されている。また、内側壁には、複数の内側梁が一体に形成されており、内側梁は一対の側壁に架け渡されている。さらに、外側梁及び内側梁は、炭素繊維強化樹脂によって構成されている。これにより、ピラー部全体の曲げ強度を外側梁及び内側梁によって高く設定することができる。
【0019】
また、外側梁及び内側梁の断面形状が同一の断面形状に設定されると共に、外側梁の本数が内側梁の本数に比べて少なく設定されている。このため、ピラー部全体の曲げ強度を高く設定しつつ、外側壁の曲げ強度を、内側壁の曲げ強度に比べて低く設定することができる。これにより、車両の前面衝突時又は後面衝突時において、外側壁を折れ易くし且つ内側壁を折れ難くするピラー部の構造を維持しつつ、ピラー部全体の曲げ強度を外側梁及び内側梁によって高く設定することができる。
【0020】
請求項5に記載の車両用ピラー構造は、請求項4に記載の発明において、前記外側梁は、第1外側梁と、車両側面視で前記第1外側梁と交差する方向に延びる第2外側梁と、を含んで構成され、前記内側梁は、第1内側梁と、車両側面視で前記第1内側梁と交差する方向に延びる第2内側梁と、を含んで構成され、前記第1外側梁の長さが、前記第2外側梁、前記第1内側梁、及び前記第2内側梁のそれぞれの長さに比べて長く設定されている。
【0021】
請求項5に記載の車両用ピラー構造では、第1外側梁の長さが、第2外側梁、第1内側梁、及び第2内側梁のそれぞれの長さに比べて長く設定されている。このため、第2外側梁、第1内側梁、及び第2内側梁に比べて、第1外側梁をピラー部の長手方向に沿うよう配置させることができる。これにより、前面衝突時又は後面衝突時に引張力が作用する外側壁に対して、第1外側梁の耐引張性能を有効に活用できる方向に第1外側梁を配置することができる。これにより、前面衝突時又は後面衝突時における外側壁の極端な折れを抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の車両用ピラー構造によれば、運転者のピラーを通した視認性及び軽量化を図りつつ乗員に対する保護性能を確保することができる。
【0023】
請求項2に記載の車両用ピラー構造によれば、ピラー部全体の引張強度を高くしつつ、簡易な構成で、外側壁の引張強度を内側壁の引張強度に比べて低く設定できる。
【0024】
請求項3に記載の車両用ピラー構造によれば、オフセット衝突時や微小ラップ衝突時における乗員の頭部に対する保護性能を向上することができる。
【0025】
請求項4に記載の車両用ピラー構造によれば、車両の衝突時に外側壁を折れ易くし内側壁を折れ難くするピラー部の構造を維持しつつ、ピラー部全体の曲げ強度を外側梁及び内側梁によって高く設定することができる。
【0026】
請求項5に記載の車両用ピラー構造によれば、前面衝突時又は後面衝突時における外側壁の極端な折れを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施の形態)
以下、
図1〜
図6を用いて第1の実施の形態に係る車両用ピラー構造S1について説明する。なお、図面において、適宜示される矢印FRは、車両用ピラー構造S1が適用されたフロントピラー30を備えた車両(自動車)Vの車両前側を示し、矢印UPは車両上側を示し、矢印RHは車両右側を示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下、車両左右方向(車幅方向)の左右、を示すものとする。
【0029】
以下、始めに自動車Vの概略構成について説明する。
図2には、自動車VにおけるキャビンC内(車室内)の前部が模式的な平面図にて示されている。この図に示されるように、キャビンCの前部における右側部には、運転席用の車両用シート10が配設されている。この車両用シート10は、乗員P(以下、運転者Pという)が着座するシートクッション10Aと、運転者Pの背部を支えるシートバック10Bと、を含んで構成されており、シートバック10Bの下端部がシートクッション10Aの後端部に連結されている。
【0030】
また、キャビンCの前部における左側部には、助手席用の車両用シート12が配設されている。この車両用シート12は、車両用シート10と同様に、シートクッション12Aと、シートバック12Bと、を含んで構成されている。以上により、自動車Vは、右ハンドル仕様の車両とされている。
【0031】
自動車VのキャビンCの前端部には、ウィンドシールドガラス14(以下、「WSガラス14」という)が設けられている。このWSガラス14は、透明板状に形成されると共に、側面視で上側へ向かうに従い後側へ傾斜して配置されている(
図3参照)。また、WSガラス14は、車幅方向の中央部が前側へ凸に若干膨らむ湾曲形状に形成されている。そして、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aが、後述するフロントピラー30のピラー部32に保持されている。また、WSガラス14の下端部は、車幅方向に沿って延在されたカウル16に接着剤(図示省略)によって固定されている。なお、カウル16は、キャビンCの前部を構成する図示しないダッシュパネルの上端部に沿って配設されている。また、WSガラス14の上端部は、キャビンCの上部を構成するルーフ18の前端部において、車幅方向に沿って配設されたフロントヘッダ20に接着剤(図示省略)によって固定されている。
【0032】
また、
図3に示されるように、キャビンCの側部には、透明板状のサイドドアガラス22が設けられている。そして、サイドドアガラス22の前端部22AとWSガラス14の車幅方向外側端部14Aとの間に、フロントピラー30が配設されている。
【0033】
次に、本発明の要部であるフロントピラー30について説明する。
図2に示されるように、フロントピラー30は、WSガラス14の車幅方向両側にそれぞれ設けられている。そして、運転席側(右側)のフロントピラー30に、本実施の形態の車両用ピラー構造S1が適用されている。このため、以下の説明では、主として右側のフロントピラー30について説明する。
【0034】
フロントピラー30は樹脂製とされている。また、フロントピラー30は、中空柱状を成すピラー部32(
図4〜
図6参照)を有しており、ピラー部32は、WSガラス14の車幅方向外側に配置されて、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aに沿って延在されている。そして、ピラー部32の上端部が、フロントヘッダ20にブラケット等を介して固定されている。また、ピラー部32の下端部が、略上下方向に延在された金属製のフロントピラーロア(図示省略)の上端部に固定されている。
【0035】
ピラー部32は、上述のように、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aに沿って延在されている。このため、ピラー部32は、側面視で上側へ向かうに従い後側へ傾斜して配置されると共に、運転者Pから見て、前側且つ車幅方向外側(右側)に配置されている。これにより、ピラー部32に対して前側且つ車幅方向外側の運転者Pの視界がピラー部32によって遮られるが、後述するように、ピラー部32は透明の樹脂材によって構成されているため、乗員Pがピラー部32を通して車両外側を視認できるように構成されている。
【0036】
図1に示されるように、ピラー部32は、平断面視で、略車幅方向を長手方向とする略楕円形状の閉断面34を有する中空構造に構成されている。そして、閉断面34(ピラー部32の中空部分)の面積が、ピラー部32の下端側(前端側)へ向かうに従い、大きくなるように構成されている(
図4〜
図6参照)。換言すると、ピラー部32が、下端側(前端側)へ向かうに従い末広がりに形成されている。また、ピラー部32は、ピラー部32における車両外側の壁部を構成する外側壁36と、ピラー部32におけるキャビンC側の壁部を構成する内側壁38と、を含んで構成されている。また、ピラー部32は、外側壁36及び内側壁38を連結する一対の「側壁」としての第1側壁40及び第2側壁42を有している。そして、本実施の形態では、内側壁38と第1側壁40との境界部分を除いて、ピラー部32の板厚が一定の板厚(一例として5mm)に設定されている。
【0037】
外側壁36は、平断面視で、車両外側(詳しくは、前斜め右側)へ凸に若干膨らむ湾曲状に形成されている。一方、内側壁38は、平断面視で、キャビンC側(詳しくは、後斜め左側)へ凸に若干膨らむ湾曲状に形成されている。そして、外側壁36及び内側壁38の曲率半径が、ピラー部32の下端側(前端側)へ向かうに従い大きくなるように設定されている。
【0038】
また、ピラー部32における車幅方向内側(換言すると、WSガラス14側)を構成する第1側壁40は、平断面視で、前側且つ車幅方向内側へ開放された略逆L字形状に形成されている。換言すると、第1側壁40が、外側壁36及び内側壁38の車幅方向内側端に対してピラー部32の閉断面34の内側へ張出されている。そして、第1側壁40における外側壁36に接続される壁部(車両外側の部分を構成する壁部)が第1アウタ側壁40Aとされており、第1側壁40における内側壁38に接続される壁部(キャビンC側の部分を構成する壁部)が第1インナ側壁40Bとされている。第1アウタ側壁40Aは、WSガラス14に対して車幅方向外側において、平断面視でWSガラス14の板厚方向に対して直交方向する方向を板厚方向として配置されている。換言すると、第1アウタ側壁40Aは、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aの端面と略平行に配置されている。一方、第1インナ側壁40Bは、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aに対してキャビンC側(後側)に配置されて、WSガラス14の板厚方向においてWSガラス14と対向して配置されている。
【0039】
第1インナ側壁40BにおけるWSガラス14と対向する面には、ウレタンシーラント等の接着剤50が直接塗布されており、当該接着剤50を介して、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aが第1インナ側壁40Bに保持されている。この接着剤50は、伸縮性を有しており、WSガラス14とフロントピラー30との間をシールすると共に伸縮性を利用して気温の変化によるWSガラス14とフロントピラー30との伸縮差を吸収するようになっている。さらに、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aと第1インナ側壁40Bとの間には、接着剤50に対して車幅方向外側の位置において、モールディング52が配設されている。そして、当該モールディング52によってWSガラス14と第1インナ側壁40Bとの間が埋められるようになっている。
【0040】
一方、ピラー部32における車幅方向外側(換言すると、サイドドアガラス22側)を構成する第2側壁42は、ピラー部32の長手方向から見て、後側且つ車幅方向外側へ開放された略L字形状に形成されている。換言すると、第2側壁42は、外側壁36及び内側壁38の車幅方向外側端に対してピラー部32の閉断面34の内側へ張出されている。そして、第2側壁42における外側壁36に接続される壁部が第2アウタ側壁42Aとされており、第2側壁42における内側壁38に接続される壁部が第2インナ側壁42Bとされている。
【0041】
また、第2側壁42には、帯状のステンレス鋼等を折り曲げて形成されたリテーナ54が設けられており、当該リテーナ54は平断面視で車幅方向外側且つ後側へ開口された略U字状に形成されている。そして、当該リテーナ54の底壁が、図示しないネジ等の締結部材によって第2アウタ側壁42Aに固定されている。また、リテーナ54には、ドアシール56が装着されている。このドアシール56は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等の弾性部材で形成されている。これにより、ドアシール56が、リテーナ54を介して第2側壁42に保持されると共に、サイドドアガラス22の前端部22Aがドアシール56を介して第2側壁42に保持される構成になっている。
【0042】
ここで、フロントピラー30(ピラー部32)は、透明樹脂(本実施の形態では、ガラス繊維強化樹脂であり、例えば、ガラス繊維入りのポリカーボネート)で構成されている。より詳しくは、ピラー部32の外側部分(具体的には、外側壁36、第1アウタ側壁40A、及び第2アウタ側壁42Aにおける第2インナ側壁42Bとの接続部分を除く部分)では、ガラス繊維の含有量が20%のガラス繊維強化樹脂によって構成されている。一方、ピラー部32の内側部分(具体的には、内側壁38、第1インナ側壁40B、第2インナ側壁42B、及び第2アウタ側壁42Aにおける第2インナ側壁42Bとの接続部分)では、ガラス繊維の含有量が30%のガラス繊維強化樹脂によって構成されている。これにより、ピラー部32では、外側壁36の引張強度が内側壁38の引張強度に比べて低く設定されている。なお、
図1では、ピラー部32の外側部分と内側部分との境界部を理解し易くするために、当該境界部が実線にて図示されている。
【0043】
また、上述のように、フロントピラー30が、透明樹脂によって構成されているため、外側壁36及び内側壁38のそれぞれの全体が透明樹脂によって構成された透明部とされている。そして、外側壁36における透明樹脂で構成された部分が、外側透明部36Aとされており、内側壁38における透明樹脂で構成された部分が、内側透明部38Aとされている。また、フロントピラー30では、上述のように、運転者Pが、ピラー部32を通して車両外側を視認できるように構成されている。このため、外側透明部36A及び内側透明部38Aは、運転者Pから見て互いにラップして配置されている。
【0044】
すなわち、運転者PのアイポイントEP(
図2に示されるように、運転者Pの両眼の中間点であり、運転者Pの両眼を結ぶ線の中央点)の位置における平断面視で、アイポイントEPとピラー部32との対向方向(
図1に示される矢印OUT方向及び矢印IN方向参照)において、外側透明部36A及び内側透明部38Aが対向して配置されている。これにより、運転者Pが、ピラー部32を通して(詳しくは、ピラー部32におけるモールディング52とリテーナ54との間に位置する部分を通して)、車両外側を視認できるように構成されている。なお、運転者PのアイポイントEPの位置は、例えば、ダミー(一例として、欧米人型男性の体格の小さいほうから50%をカバーするAM50のダミー)を用いて、車両用シート10に着座したダミーの運転姿勢におけるアイポイントEPの位置に基づいて設定される。そして、
図1は、運転者PのアイポイントEPの位置における平断面図として図示されている。さらに、運転者Pが、ピラー部32を通して車両外側を視認できるよう、ガラス繊維強化樹脂で構成された外側壁36(外側透明部36A)及び内側壁38(内側透明部38A)の透過率が、一例として50%以上に設定されている。
【0045】
次に、本実施の形態に係る車両用ピラー構造S1の作用・効果について説明する。
【0046】
上記のように構成された車両用ピラー構造S1では、フロントピラー30がピラー部32を有しており、ピラー部32は、WSガラス14の車幅方向外側端部14Aに沿って延在されている。これにより、ピラー部32が運転者Pに対して前側且つ車幅方向外側に配置されているため、ピラー部32に対して前側且つ車幅方向外側の運転者Pの視界が遮られる。
【0047】
これに対して、ピラー部32は、透明樹脂によって構成されている。また、外側壁36(外側透明部36A)及び内側壁38(内側透明部38A)が、運転者Pから見て互いにラップして配置されている。このため、運転者Pが、ピラー部32(外側透明部36A及び内側透明部38A)を通して車両外側を視認できる。
【0048】
また、ピラー部32は、その長手方向から見て閉断面34を有している。すなわち、ピラー部32が中空構造を成している。そして、ピラー部32は、ピラー部32における車両外側の壁部を構成する外側壁36と、ピラー部32におけるキャビンC側の壁部を構成する内側壁38と、外側壁36と内側壁38とを連結する第1側壁40及び第2側壁42と、を含んで構成されている。これにより、ピラー部32を中実状に構成する場合と比べて、フロントピラー30の軽量化を図ることができる。
【0049】
次に、自動車Vの前面衝突時におけるフロントピラー30の変形について説明する。
図5に示されるように、自動車Vの前面衝突(オフセット衝突、更にはその一態様である微小ラップ衝突を含む)では、車両後側への衝突荷重Fが、ピラー部32の前端部(下端部)からピラー部32に入力される。そして、ピラー部32は、車両側面視で、上側へ向かうに従い後側へ傾斜して配置されており、ピラー部32の後端部(上端部)が、ブラケット等を介してフロントヘッダ20(車体)に固定されている。このため、自動車Vの前面衝突では、ピラー部32の前端部が後側へ変位して、ピラー部32の長手方向中間部が車両外側(
図5の矢印A方向)へ凸に折れるように作用する。具体的には、右側のピラー部32では、自動車Vの車幅方向中央側から見て、ピラー部32の前端部が、ピラー部32の後端部を中心に反時計回りに(
図5の矢印B方向側へ)回動するように変位して、ピラー部32の長手方向中間部が前斜め上側へ凸に折れるように作用する。したがって、外側壁36には、ピラー部32の長手方向外側への引張力が作用すると共に、内側壁38には、ピラー部32の長手方向内側への圧縮力が作用する。なお、オフセット衝突とは、車幅方向における衝突体とのラップ率が40%である前面衝突のことであり、微小ラップ衝突とは、車幅方向における衝突体とのラップ率が25%以下となる前面衝突のことである。
【0050】
ここで、ピラー部32では、外側壁36の引張強度が内側壁38の引張強度に比べて低く設定されている。このため、自動車Vの前面衝突時にピラー部32(外側壁36及び内側壁38)に作用する力に対して、外側壁36を折れ易くさせ且つ内側壁38を折れ難くさせることができる。その結果、自動車Vの前面衝突時では、主として外側壁36が折れて、内側壁38の折れが抑制される。換言すると、ピラー部32全体の折れを抑制することができる。しかも、ピラー部32では、キャビンC側の内側壁38の折れが抑制されるため、前面衝突時における運転者Pに対する保護性能を確保することができる。以上により、運転者Pのフロントピラー30(ピラー部32)を通した視認性及び軽量化を図りつつ、自動車Vの前面衝突時における運転者P(乗員)に対する保護性能を確保することができる。
【0051】
また、ピラー部32(外側壁36及び内側壁38)は、透明のガラス繊維強化樹脂によって構成されている。このため、ピラー部32の全体の引張強度を高くすることができる。さらに、外側壁36を構成するガラス繊維強化樹脂におけるガラス繊維の含有量が、内側壁38を構成するガラス繊維強化樹脂におけるガラス繊維の含有量に比べて少なく設定されている。このため、簡易な構成で、外側壁36の引張強度を内側壁38の引張強度に比べて低く設定することができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
次に、
図7及び
図8を用いて、第2の実施の形態に係る車両用ピラー構造S2が適用されたフロントピラー60について説明する。第2の実施の形態のフロントピラー60は、以下に示す点を除いて、第1の実施の形態のフロントピラー30と同様に構成されている。なお、以下に示すフロントピラー60では、第1の実施の形態と同様に構成されている部分には、同一の符号を付している。
【0053】
すなわち、
図7に示されるように、第2の実施の形態のフロントピラー60では、ピラー部32の幅方向一方側の側部62A(詳しくは、第1側壁40、外側壁36の車幅方向内側端部、及び内側壁38の車幅方向内側端部)が、黒色の炭素繊維強化樹脂によって構成されている。また、ピラー部32の幅方向他方側の側部62B(詳しくは、第2側壁42、外側壁36の車幅方向外側端部、及び内側壁38の車幅方向外側端部)が、側部62Aと同一の黒色の炭素繊維強化樹脂によって構成されている。そして、この炭素繊維強化樹脂は、外側透明部36A及び内側透明部38Aを構成するガラス繊維強化樹脂よりも引張強度及び曲げ強度が高く構成されている。
【0054】
これにより、外側壁36では、外側壁36の幅方向両端部を除く部分が、外側透明部36Aとされており、内側壁38では、内側壁38の幅方向両端部を除く部分が、内側透明部38Aとされている。換言すると、第2の実施の形態では、外側壁36の一部が外側透明部36Aとされており、内側壁38の一部が内側透明部38Aとされている。そして、内側透明部38Aと外側透明部36Aとが、第1の実施の形態と同様に、運転者Pから見て互いにラップして配置されている。また、運転者PのアイポイントEPの位置における平断面視で、外側透明部36A及び内側透明部38Aの幅寸法W1(運転者PのアイポイントEPとピラー部32との対向方向に対して直交する方向に沿った方向の寸法)が、一例として65mmに設定されている。
【0055】
また、ピラー部32の外側壁36には、外側梁66が一体に形成されている。この外側梁66は、ピラー部32の側部62A及び側部62Bに架け渡されている。換言すると、外側梁66が、外側壁36の幅方向両端部を介して第1側壁40及び第2側壁42に架け渡されている。また、ピラー部32の内側壁38には、内側梁68が一体に形成されている。この内側梁68は、ピラー部32の側部62A及び側部62Bに架け渡されている。換言すると、内側梁68が、内側壁38の幅方向両端部を介して第1側壁40及び第2側壁42に架け渡されている。そして、外側梁66及び内側梁68は、ピラー部32の側部62A及び側部62Bを構成する炭素繊維強化樹脂と同一の黒色(不透明)の炭素繊維強化樹脂によって構成されている。以下、外側梁66及び内側梁68について説明する。
【0056】
図8(A)に示されるように、外側梁66は、複数(本実施の形態では、4本)の第1外側梁66A1〜66A4と、第1外側梁66A1〜66A4とそれぞれ対を成す第2外側梁66B1〜B4と、を含んで構成されている。すなわち、第2外側梁66B1〜B4が4本形成されている。第1外側梁66A1〜66A4は、車両側面視で、ピラー部32の側部62Aに接続される端部を基端部として、当該基端部からピラー部32の側部62B側へ延出されると共に、ピラー部32の上端側へ傾斜されている。そして、第1外側梁66A1〜66A4が、所定の間隔を空けてピラー部32の長手方向に並んで配置されている。
【0057】
第2外側梁66B1〜B4は、それぞれ対を成す第1外側梁66A1〜66A4の基端部からピラー部32の側部62B側へ延出されると共に、外側壁36の略幅方向に沿って延在されている。これにより、第2外側梁66B1〜B4が、車両側面視で第1外側梁66A1〜66A4と交差する方向に延びると共に、第1外側梁66A1〜66A4に対応して、所定の間隔を空けてピラー部32の長手方向に沿って並んで配置されている。また、ピラー部32の下端側から3番目の第2外側梁66B3の先端部は、第1外側梁66A1の先端部に接続されており、ピラー部32の下端側から4番目の第2外側梁66B4の先端部は、第1外側梁66A2の先端部に接続されている。これにより、外側梁66では、第1外側梁66A1と第2外側梁66B2とが交差し、第1外側梁66A2と第2外側梁66B3とが交差し、第1外側梁66A3と第2外側梁66B4とが交差している。換言すると、外側梁66では、第2外側梁66B1及び第1外側梁66A4を除いて、第1外側梁がピラー部32の上端側に隣接する第2外側梁と交差するように配置されている。
【0058】
また、
図7に示されるように、外側梁66(第1外側梁66A1〜66A4及び第2外側梁66B1〜B4)は、その長手方向から見た断面視で略矩形状に形成されている。さらに、外側梁66は外側壁36の内周側(閉断面34側)の部分に埋設されており、外側梁66の閉断面34側の面が外側壁36の内周面と面一となるように配置されている。
【0059】
図8(B)に示されるように、内側梁68は、複数(本実施の形態では、5本)の第1内側梁68A1〜68A5と、複数(本実施の形態では、5本)の第2内側梁68B1〜68B5と、を含んで構成されている。すなわち、前述した外側梁66の本数が、内側梁68の本数に比べて少なく設定されている。
【0060】
第1内側梁68A1〜68A5は、車両側面視で、ピラー部32の側部62Aに接続される端部を基端部として当該基端部からピラー部32の側部62B側へ延出されると共に、ピラー部32の上端側へ傾斜されている。そして、第1内側梁68A1〜68A5が、所定の間隔を空けてピラー部32の長手方向に沿って並んで配置されている。
【0061】
第2内側梁68B1〜68B5のそれぞれは、第1内側梁68A1〜68A5と対を成すように設定されて、対を成す第2内側梁68B1〜68B5と第1内側梁68A1〜68A5とが、略X字形状に交差している。具体的には、第2内側梁68B1〜68B5は、車両側面視で、ピラー部32の側部62Aに接続される端部を基端部として当該基端部からピラー部32の側部62B側へ延出されると共に、ピラー部32の下端側へ傾斜されている。これにより、第2内側梁68B1〜68B5が、車両側面視で第1内側梁68A1〜68A5と交差する方向に延びている。そして、対を成す第1内側梁68A1〜68A5と第2内側梁68B1〜68B5が内側壁38の長手方向に隣接して配置されている。
【0062】
また、
図7に示されるように、内側梁68(第1内側梁68A1〜68A5及び第2内側梁68B1〜68B5)は、その長手方向から見た断面視で略矩形状に形成されている。さらに、内側梁68は内側壁38の内周側(閉断面34側)の部分に埋設されており、内側梁68の閉断面34側の面が内側壁38の内周面と面一となるように配置されている。
【0063】
さらに、第1外側梁66A1〜66A4、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5の幅寸法W2は、同じ寸法に設定されている。また、第1外側梁66A1〜66A4、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5の厚み寸法は、同じ寸法に設定されている。すなわち、第1外側梁66A1〜66A4、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5の長手方向から見た断面形状が同一形状に設定されている。そして、運転者Pが外側透明部36A及び内側透明部38Aを通して車両外側へ視認するときに、運転者Pの車両外側への視認性を阻害しないように、第1外側梁66A1〜66A4、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5の各幅寸法W2が設定されている。例えば、幅寸法W2が6mmに設定されている。また、
図8(A)及び(B)に示されるように、第1外側梁66A1〜66A4の長さが、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5のそれぞれの長さに比べて長く設定されている。これにより、内側梁68に比べて、第1外側梁66A1〜66A4が、ピラー部32の長手方向に沿うように配置されている。
【0064】
また、第1外側梁66A1〜66A4、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5は、トポロジー解析などの手法を用いて設定されている。そして、第2の実施の形態では、外側壁36の引張強度が、内側壁38の引張強度に比べて低く設定されると共に、外側壁36の曲げ強度が、内側壁38の曲げ強度に比べて低く設定されている。これにより、第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0065】
また、第2の実施の形態では、外側壁36に複数の外側梁66が一体に設けられており、外側梁66は第1側壁40及び第2側壁42に架け渡されている。さらに、内側壁38には、複数の内側梁68が一体に設けられており、内側梁68は第1側壁40及び第2側壁42に架け渡されている。そして、外側梁66及び内側梁68は、炭素繊維強化樹脂によって構成されている。これにより、ピラー部32の全体の曲げ強度を、外側梁66及び内側梁68によって高く設定することができる。
【0066】
さらに、外側梁66の本数が内側梁68の本数に比べて少なく設定されている。このため、外側壁36の曲げ強度を内側壁38の曲げ強度に比べて低く設定することができる。これにより、自動車Vの前面衝突時において、外側壁36を折れ易くし内側壁38を折れ難くするピラー部32の構造を維持しつつ、ピラー部32の全体の曲げ強度を外側梁66及び内側梁68によって高くすることができる。
【0067】
また、第1外側梁66A1〜66A4の長さが、第2外側梁66B1〜B4、第1内側梁68A1〜68A5、及び第2内側梁68B1〜68B5のそれぞれの長さに比べて長く設定されている。このため、内側梁68に比べて、第1外側梁66A1〜66A4をピラー部32の長手方向に沿うように配置することができる。これにより、前面衝突時に引張力が作用する外側壁36に対して、第1外側梁66A1〜66A4の耐引張性能を有効に活用できる方向に第1外側梁66A1〜66A4を配置することができる。これにより、例えば、自動車Vの前面衝突時における、外側壁36の極端な折れを抑制することができる。
【0068】
また、第2の実施の形態では、第1側壁40及び第2側壁42が、外側透明部36A及び内側透明部38Aよりも引張強度及び曲げ強度の高い炭素繊維強化樹脂によって構成されている。これにより、第1の実施の形態に比べて、ピラー部32の全体の曲げ強度を第1側壁40及び第2側壁42によって高くすることができる。その結果、自動車Vの前面衝突時において、ピラー部32全体が折れて破壊することを一層抑制できる。したがって、自動車Vの前面衝突時における、運転者P(乗員)に対する保護性能を一層向上することができる。
【0069】
(ピラー部32の変形例)
次に、ピラー部32の変形例を、
図6を用いて、第1の実施の形態に適用した例として説明する。第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、外側壁36における外側透明部36Aの引張強度が、ピラー部32の長手方向に亘って一定に設定されている。これに対して、本変形例では、外側壁36の上部36B(ピラー部32の長手方向中央部から上端側の部分であり、
図5及び
図6参照)に低強度部70(
図6のハッチングが施された部分を参照)が形成されている。そして、低強度部70の引張強度が、外側壁36における低強度部70以外の部分の引張強度よりも低く構成されている。
【0070】
この低強度部70は、ガラス繊維の含有量が20%よりも低いガラス繊維強化樹脂によって構成されると共に、外側壁36の幅方向に沿って延在されている。さらに、上下方向における低強度部70の位置が、運転者Pの頭部位置に略一致する位置に設定されている。上下方向における低強度部70のこの位置は、前述のダミー(一例として、欧米人型男性の体格の小さいほうから50%をカバーするAM50のダミー)を用いて、車両用シート10に着座したダミーの頭部位置に設定されている。
【0071】
そして、本変形例では、上述のように、低強度部70の引張強度が外側壁36の低強度部70以外の部分の引張強度よりも低く構成されているため、自動車Vの前面衝突時には、外側壁36が低強度部70を起点に折れるように作用する。これにより、ピラー部32では、低強度部70の周辺部が車両外側へ凸となるように折れ曲がる傾向になる。
【0072】
一方、例えば、自動車Vの右側におけるオフセット衝突や微小ラップ衝突では、慣性力によって、運転者Pの上半身が前側且つ車幅方向外側(
図2の矢印Cを参照)へ移動する。すなわち、運転者Pの頭部がピラー部32に接近する。このとき、上述のように、ピラー部32では、低強度部70の周辺部が車両外側へ凸となるように折れ曲がる。そして、低強度部70は、ピラー部32(の外側壁36)の上部36Bに形成されている。このため、上述のように、上下方向における低強度部70の位置と運転者Pの頭部の位置とを合わせることができる。これにより、自動車Vのオフセット衝突や微小ラップ衝突時に前側且つ車幅方向外側へ変位する運転者Pの頭部に対して、ピラー部32(の折れ部)を離間させることができる。その結果、自動車Vのオフセット衝突や微小ラップ衝突時における、運転者Pの頭部とピラー部32との衝突を抑制できる。したがって、本変形例によれば、自動車Vのオフセット衝突や微小ラップ衝突時における、運転者P(乗員)の頭部に対する保護性能を向上することができる。
【0073】
また、本変形例では、ガラス繊維の含有量が20%よりも低いガラス繊維強化樹脂によって低強度部70を構成して、低強度部70の引張強度を、外側壁36の低強度部70以外の部分の引張強度よりも低く構成している。これにより、ピラー部32の意匠性能を確保しつつ、外側壁36に低強度部70を設けることができる。すなわち、例えば、低強度部70の代わりに、外側壁36の外周面(意匠面)にスリットやノッチを形成することで、自動車Vの前面衝突時において、当該スリットやノッチを外側壁36の折れの起点にすることができる。しかしながら、ピラー部32の外周面は、自動車Vの意匠面を構成しているため、この場合には、自動車Vの意匠性が低下する。これに対して、本変形例では、ガラス繊維の含有量を低くして低強度部70を構成しているため、ピラー部32の意匠性に影響を与えることなく、外側壁36に低強度部70を設けることができる。
【0074】
なお、上述のように、本変形例では、ガラス繊維の含有量を低くすることで、低強度部70を構成しているが、低強度部70の構成はこれに限らない。例えば、外側壁36の内周面に凹部を形成して、当該凹部が形成された部分を低強度部70としてもよい。すなわち、外側壁36における低強度部70が形成された部位の板厚を薄くすることで、低強度部70を外側壁36に設けてもよい。この場合には、簡易な構成で低強度部70を外側壁36に設けることができる。
【0075】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、外側壁36におけるガラス繊維強化樹脂のガラス繊維の含有量が20%に設定され、内側壁38におけるガラス繊維強化樹脂のガラス繊維の含有量が30%に設定されているが、当該含有量は任意に設定することができる。
【0076】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、ガラス繊維強化樹脂のガラス繊維の含有量を異なる量に設定することで、外側壁36の引張強度を内側壁38の引張強度に比べて低く構成しているが、外側壁36の引張強度を内側壁38の引張強度に比べて低くする構成はこれに限らない。例えば、外側壁36及び内側壁38を同一の透明樹脂(例えば、ガラス繊維の含有量が30%のガラス繊維強化樹脂)で構成して、外側壁36の板厚を内側壁38の板厚に比べて薄く設定することで、外側壁36の引張強度を内側壁38の引張強度に比べて低く構成してもよい。また、例えば、外側壁36を構成する透明樹脂自体の引張強度を、内側壁38を構成する透明樹脂自体の引張強度に比べて低く構成してしてもよい。
【0077】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、外側壁36及び内側壁38がガラス繊維強化樹脂で構成されているが、外側壁36及び内側壁38の材料はこれに限らない。例えば、外側壁36を、繊維を含まない透明樹脂によって構成して、内側壁38をガラス繊維強化樹脂によって構成してもよい。
【0078】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、車両用ピラー構造S1、S2を運転席側のフロントピラー30に適用して例として説明したが、車両用ピラー構造S1、S2の適用はこれに限らない。例えば、助手席側のフロントピラー30に適用させてもよい。この場合においても、運転者Pのフロントピラー30(ピラー部32)を通した視認性の確保及び軽量化を図りつつ、自動車Vの前面衝突時における、助手席用の車両用シート12に着座した乗員に対する保護性能を確保することができる。また、例えば、図示は省略するが、キャビンCの後部に設けられたリヤのウィンドシールドガラスと、キャビンCの側部に設けられたサイドドアガラスとの間に配設されたリヤピラーに、車両用ピラー構造S1、S2を適用させてもよい。この場合には、自動車Vの後面衝突時において、リヤピラーの全体の折れ及び破壊を抑制することができる。これにより、運転者Pのリヤピラーを通した視認性及び軽量化を図りつつ、後面衝突時における乗員に対する保護性能を確保することができる。
【0079】
また、本実施の形態では、車両用ピラー構造S1、S2が右ハンドル仕様の自動車Vに適用されているが、車両用ピラー構造S1、S2を左ハンドル仕様の自動車に適用してもよい。