【課題】エナンチオマー(S,S)のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールの合成法及びデクストロファセトペラン[(S,S)エナンチオマーのフェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート]の合成法の提供。
【解決手段】式(V)で表される化合物をトリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩により還元する工程を含む、方法。更に前記化合物を無水酢酸又は塩化エタノイルと反応させるアセチル化工程を経て、R
ADHDの処置における、請求項1に記載の使用のための、トレオ型のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート(ファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩。
ADHDの処置における、請求項2に記載の使用のための、トレオ型のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート(ファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩(前記ファセトペランはその右旋型である)。
ADHDの処置における、請求項2に記載の使用のための、トレオ型のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート(ファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩(前記ファセトペランはその左旋型である)。
成人のADHDの処置における、請求項1〜4の1項に記載の使用のための、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールまたはその薬学的に許容される塩およびエステル、特にアセテート誘導体またはその薬学的に許容される塩。
経口経路による投与に適した形態の、請求項1〜5の1項に記載の使用のための、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールまたはその薬学的に許容される塩およびエステル、特にアセテート誘導体またはその薬学的に許容される塩。
徐放に適した形態の、請求項6に記載の使用のための、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールまたはその薬学的に許容される塩およびエステル、特にアセテート誘導体またはその薬学的に許容される塩。
速放のための微粒剤および徐放のための微粒剤の組合せまたは混合物の形態の、請求項6に記載の使用のための、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールまたはその薬学的に許容される塩およびエステル、特にアセテート誘導体またはその薬学的に許容される塩。
(S,S)エナンチオマーのα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート(デクストロファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩の調製法であって、以下の工程:
− 請求項9に定義された方法に従って(S,S)エナンチオマー形の式(VI)の化合物を調製する工程、および
− 式(VI)の化合物をアセチル化し、場合によりその後、ピペリジン基のアミン官能基を脱保護する工程(R1が保護基である場合)
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1はT型迷路試験の図解であり;c0、c1およびc2はギロチンドアの境界である。
【
図2】
図2は、ADHDのモデルであるT型迷路試験にかけられた幼若ラットにおける、行動試験の棒グラフによる比較を示す。それは、「薬物療法前」の期間(左欄)、「薬物療法」の期間(中央欄)、および「薬物療法後」の期間(右欄)の結果を示す。ラットが、大きいが30秒間遅い報酬を選ぶ回数は、衝動性レベルの指標である(選択回数が多ければ多いほど、動物の衝動性はより低いと考えられる)。ファセトペランをメチルフェニデートと比較する。
【0011】
発明の詳細な説明:
定義
本発明によると、「処置」という用語は、ADHDまたはその症候の1つ、特に注意欠陥、多動性、または衝動性の治療的または予防的処置を意味する。この用語は、疾病の症候の改善を含む。
【0012】
ADHDに罹患した「患者」はヒトであり、すなわち小児、青年または成人である。より特定すると、患者は知能指数検査によって(例えばWISC−IVなどの知能の評価によって)80を超えると評価された平均的な知能の被験者である。それ故、被験者は、神経学的な原因の精神遅滞または運動亢進などの精神の発達の遅れ(知恵遅れ)に関連した行動疾患または運動疾患を含む、あらゆる精神的機能障害または発達の遅れを示さない。
【0013】
本発明によると、2つの不斉炭素を有する化合物の「エリトロジアステレオ異性体」は、前記化合物の(R,S)エナンチオマーおよび(S,R)エナンチオマー、並びに、そのラセミ混合物を含む。
【0014】
2つの不斉炭素を有する化合物の「トレオジアステレオ異性体」は、前記化合物の(R,R)エナンチオマーおよび(S,S)エナンチオマー、並びに、そのラセミ混合物を含む。
【0015】
本発明の脈絡において、式(A):
【化1】
で示される化合物は、無差別的に、α−フェニル−2−ピペリジンメタノールまたはフェニル(ピペリジン−2−イル)メタノール、またはα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールとして示される。
【0016】
「ファセトペラン」は、α−フェニル−2−ピペリジンメタノールアセテートのトレオジアステレオ異性体を意味する。α−フェニル−2−ピペリジンメタノールアセテートはまた、本明細書において以後、フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテートまたはα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテートと呼ばれ、そして式(B)
【化2】
によって示される。
【0017】
本明細書において以後、レボファセトペランは、ファセトペランの左旋エナンチオマー、すなわち(R,R)エナンチオマーを意味する。
【0018】
同様に、デクストロファセトペランは、ファセトペランの右旋エナンチオマー、すなわち(S,S)エナンチオマーを意味する。
【0019】
本発明に使用するための化合物:
本発明に使用するための化合物は、単独でのまたは混合された、式(A)
【化3】
で示されるα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノール、またはその薬学的に許容される塩およびエステルである。
【0020】
特に、アセテート形のエステルが好ましい。
【0021】
式(B)
【化4】
で示されるα−フェニル−2−ピペリジンメタノールアセテートは、1950年代に、コード7890RPの下で、Research Laboratories of the company Rhone Poulenc (米国特許第2,928,835号参照) によって合成された。
【0022】
本発明は、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールの種々のトレオおよびエリトロジアステレオ異性体、その薬学的に許容される塩およびエステル(ラセミ形またはエナンチオマー形)に関する。
【0023】
好ましくは、本発明は、これらの化合物のトレオジアステレオ異性体に関する。
【0024】
好ましい態様において、本発明は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の処置に使用するための、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテートのトレオジアステレオ異性体またはその薬学的に許容される塩に関する。
【0025】
特定の態様において、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテートのトレオジアステレオ異性体またはその薬学的に許容される塩は、ラセミ形で、すなわち、その(S,S)および(R,R)エナンチオマーの混合物の形で使用される。
【0026】
別の態様において、左旋型のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルトレオ−アセテートまたはその薬学的に許容される塩が使用される。左旋型は(R,R)エナンチオマーに対応する。この型は、最初8228RPとコードされ、その後、レボファセトペランと示された(式I)。
【化5】
【0027】
追加の態様において、右旋型のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルトレオ−アセテート、すなわち(S,S)エナンチオマーが使用され、これは本明細書において式(II)
【化6】
で示されるデクストロファセトペランと呼ばれ得る。
【0028】
任意の理論で固めたくはないが、出願人は、ファセトペランの右旋エナンチオマーまたはファセトペランの右旋エナンチオマーの強化されたラセミ混合物の使用は、患者に鎮静作用を引き起こすことなくADHDを処置したい場合には有利であるという意見である。
【0029】
「右旋エナンチオマーの強化されたファセトペランのラセミ混合物」は、右旋エナンチオマー(すなわち(S,S))のモル比率が50%を超える、好ましくは70%を超える、さらにより好ましくは90%を超えている混合物を意味し、右旋エナンチオマーのモル比率は、前記混合物中のファセトペランの総モル数と比較して計算される。
【0030】
90%を超える右旋エナンチオマーのモル比率としては、92%を超える、93%を超える、94%を超える、95%を超える、96%を超える、97%を超える、98%を超える右旋エナンチオマーの比率が挙げられる。
【0031】
好ましくは、デクストロファセトペランは、本発明の脈絡において、より好ましくは塩の形態で、例えば塩酸塩の形態で使用される。
【0032】
本発明の化合物の合成法:
本発明の化合物は、当業者に公知の任意の方法によって産生することができる。当業者は、特に、米国特許第2,928,835号を参照することができ、これはラセミ形および左旋形のファセトペランの産生を記載している。
【0033】
一般的に、ラセミ形または(S,S)もしくは(R,R)エナンチオマー形のファセトペランまたはその塩は、トレオ型のα−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールから得ることができる。
【0034】
トレオ−α−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールは、以下の反応スキームに従って得ることができる:
【化7】
【0035】
この反応スキームは、以下の工程を含む:
1. N−Bocピペリジン誘導体(III)のα−リチオ化、続いて、ベンズアルデヒドの存在下で形成された中間体の求電子置換、これにより、N−(Boc)−α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノール誘導体(IV)が得られる。言うまでもなく、Boc基は、アミン官能基を保護するために当業者に公知の任意の他の保護基でも置換することができ、
2. 塩基性媒体中でのN−(Boc)−α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノール誘導体(IV)の処理により、ジアステレオ異性体混合物の形のフェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールが得られ、そして
3. α−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールのエリトロジアステレオ異性体からトレオジアステレオ異性体を分離し、これは、任意の適切な分離法によって行なうことができる。それは、例えば、適切な溶離液を使用して、工程2で得られたジアステレオ異性体の混合物のシリカカラムクロマトグラフィーの工程であり得る。
【0036】
ラセミ形のファセトペランは、工程3で得られたα−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールのジアステレオ異性体のアセチル化によって得ることができる。
【0037】
(R,R)または(S,S)エナンチオマー形のファセトペランを:
− ラセミ形のファセトペランを分割することによって、または
− ラセミ形のトレオ−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールを分割し、続いて、単離されたエナンチオマーをアセチル化することによって
得ることができる。
【0038】
ファセトペランまたはトレオ−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールの分割は、慣用的なエナンチオマー分割法によって、例えばキラル固定相クロマトグラフィーによって、または、分割剤、一般的にはキラル化合物、例えば酒石酸、ショウノウスルホン酸、ジベンゾイル酒石酸またはN−アセチルロイシンを使用した優先的な再結晶化によって行なうことができる。
【0039】
一例として、米国特許第2,928,835号は、(−)ジベンゾイル酒石酸のプロパノール溶液を使用した分別再結晶によるトレオ−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールの(S,S)および(R,R)エナンチオマーの分離を記載している。米国特許第2928835号に記載された特定の条件において、右旋エナンチオマーは溶液中に留まり、一方、左旋エナンチオマーは、ジベンゾイル酒石酸塩の形で沈降する。同様に、(+)−ジベンゾイル酒石酸の使用は、ファセトペランの右旋エナンチオマーの選択的再結晶化を可能とすることが予想される。
【0040】
出願人は、リチウムトリ−sec−ブチルボロヒドリド(L−セレクトリド(登録商標))によるフェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノンのBoc誘導体の還元は、デクストロファセトペラン、すなわち所望により保護形の、(S,S)エナンチオマー形のα−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノールを得るための重要な中間体を与えることを示した。
【0041】
従って、本発明による追加の目的は、式(VI):
【化8】
(式中、
R
1は、水素または保護基を示す)
で示される(S,S)エナンチオマー形の化合物を調製する方法であり、前記方法は、式(V)
【化9】
で示される化合物を、トリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩により還元することを含む。
【0042】
トリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩は、リチウム塩、カリウム塩およびナトリウム塩を含む。
【0043】
好ましい態様において、トリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩は、リチウムトリ−sec−ブチルボロヒドリドである。
【0044】
保護基は、当業者に公知のアミン官能基の任意の保護基であり得る。特に、それは、立体障害を生じる基であり得る。特に、それはBoc基(tert−ブチルオキシカルボニル)であり得る。
【0045】
この方法の特定の態様において、R
1はBoc基であり、そしてトリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩はリチウムトリ−sec−ブチルボロヒドリドである。
【0046】
式(V)の化合物は、保護形または非保護形の(S)−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノンに対応する。(S)−フェニル−(ピペリジン−2−イル)−メタノンは、当業者に公知の任意の方法によって得ることができる。
【0047】
出願人は、この化合物を、有利には、ワインレブアミドと適切な有機金属化合物との反応によって得ることができることを示した。
【0048】
特定の態様において、本発明による方法は、以下の工程を含む:
(i)式(VII)
【化10】
(式中、
R
1は、Hまたは保護基を示し、そしてYはOH、F、Cl、BrまたはOCH
3を示す)
で示される化合物を、式NHR
2OR
2(R
2は、アルキル、好ましくはC
1〜C
6を示す)で示されるN,O−ジアルキルヒドロキシルアミンと反応させて、式(VIII)
【化11】
で示される化合物を得る工程、
(ii)式(VIII)で示される化合物を、有機金属化合物PhM(Phはフェニル基を示し、そしてMはLi、MgXまたはZnXを示し、XはI、BrおよびClから選択されるハロゲン化物である)と反応させて、式(V)
【化12】
で示される化合物を得る工程、
(iii)式(V)で示される化合物を、トリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩によって還元して、(S,S)エナンチオマー形の、式(VI)
【化13】
で示されるアルコールまたはその塩を得る工程。
【0049】
本発明による方法の特定の態様において、前記方法の工程(i)は、以下の特徴の1つ、いくつかまたは全てによって特徴付けられる:
− YはOHであり、
− R
2はMeであり、そして
− PhMはフェニルリチウムである。
【0050】
工程(i)において、式(VII)の化合物がカルボン酸(Y=OH)である場合、前記カルボン酸とN,O−ジアルキルヒドロキシルアミンとの反応は、カルボジイミドおよびホスホニウム塩などの1つ以上のペプチドカップリング剤を使用して行なうことができる。本発明者らは、ペプチドカップリング剤の一例として、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェートを記載し得る。
【0051】
言うまでもなく、本発明による方法の各工程は、溶媒の存在下、場合により、塩基または酸の存在下で行なうことができる。
【0052】
(S,S)エナンチオマー形の式(VI)の化合物の調製法を、有利には、(S,S)エナンチオマー形のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールアセテートの調製に使用することができる。
【0053】
従って、本発明の追加の目的は、(S,S)エナンチオマーのα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールアセテート(デクストロファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩の調製法であり、前記方法は、以下の工程を含む:
− 上記で開示したような(S,S)エナンチオマー形の式(VI)の化合物を調製する工程、および
− 式(VI)の化合物のアセチル化、続いて、ピペリジン基のアミン官能基を脱保護する工程(R
1が保護基である場合)。
【0054】
別の言葉で言えば、本発明による(S,S)エナンチオマーのα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート(デクストロファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩の調製法は、以下の工程を含む:
− 式(V)
【化14】
(式中、
R
1はHまたは保護基を示す)
で示される化合物を、トリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩によって還元して、式(VI)
【化15】
で示される(S,S)エナンチオマー形のアルコールまたはその塩を得る工程:
−式(VI)のアルコールをアセチル化し、場合により続いてピペリジン基のアミン官能基を脱保護する工程(R
1が保護基である場合)。
【0055】
アセチル化工程は、当業者に周知の方法によって、特に、式(VI)のアルコールを無水酢酸または塩化エタノイルと反応させることによって行なうことができる。
【0056】
アミン官能基の保護基並びにその導入法または切断法に関して、Greene (Greene's Protective Groups in Organic Synthesis, 2006, John Wiley & Sons Inc;第4版)による参照研究を参照することができる。R
1がBoc基である場合、ピペリジン基の脱保護の工程は、例えば塩酸またはトリフルオロ酢酸の存在下で酸加水分解によって行なうことができる。
【0057】
特定の態様において、本発明による方法は、以下の工程を含む:
(i)式(VII)
【化16】
(式中、
R
1はHまたは保護基を示し、そしてYはOH、F、Cl、BrまたはOCH
3を示す)
で示される化合物を、式NHR
2OR
2(R
2はアルキル、好ましくはC
1〜C
6アルキルを示す)で示されるN,O−ジアルキルヒドロキシルアミンと反応させ、式(VIII)
【化17】
で示される化合物を得る工程、
(ii)式(VIII)で示される化合物を、有機金属化合物PhM(Phはフェニル基を示し、そしてMはLi、MgXまたはZnXを示し、XはI、BrおよびClから選択されたハロゲン化物である)と反応させて、式(V)
【化18】
で示される化合物を得る工程、
(iii)式(V)で示される化合物を、トリ−sec−ブチルボロヒドリドのアルカリ塩によって還元して、(S,S)エナンチオマー形の、式(VI)
【化19】
で示されるアルコールまたはその塩を得る工程、および
(iv)式(VI)のアルコールをアセチル化し、続いて場合によりピペリジン基のアミン官能基の脱保護を行ない(R
1が保護基を示す場合)、(S,S)エナンチオマーのα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールアセテートを得る工程。
【0058】
(S,S)エナンチオマー形の式(VI)の化合物を調製するために記載された特定の態様は、本発明によるデクストロファセトペランの調製法に転用することができる。
【0059】
言うまでもなく、本発明による方法の各工程は、溶媒の存在下、場合により、塩基または酸の存在下で行なうことができる。
【0060】
製剤
本発明は、単独のまたは混合された前記した化合物および薬学的に許容されるビヒクルを含む、薬学的組成物を提供する。
【0061】
本発明による組成物は、種々の方法および種々の形態で投与することができる。従って、それらは、経口経路によって、吸入によって、または注射によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、経皮、動脈内経路などによって全身投与することができ、静脈内、筋肉内、皮下および経口経路および吸入が好ましい。注射のために、前記化合物は、一般的に、液体懸濁液の形態で梱包され、これは、例えばシリンジまたは点滴によって注入することができる。これに関して、前記化合物は、一般的に、薬学的使用に適合し、そして当業者に公知である、食塩水溶液、生理学的溶液、等張液、緩衝液などに溶解される。従って、前記組成物は、分散剤、溶解剤、安定剤、保存剤などから選択された1つ以上の薬剤またはビヒクルを含んでいてもよい。液剤および/または注射製剤に使用され得る薬剤またはビヒクルは、特に、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、ラクトース、植物油、アカシアなどである。
【0062】
前記化合物はまた、徐放および/または遅延放出を確実とする剤形または装置などを場合により用いて、ゲル、油状物、錠剤、坐剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、エアゾールなどの剤形で投与することもできる。この種類の製剤のために、セルロース、カーボネートまたはデンプンなどの薬剤が有利には使用される。
【0063】
好ましい態様において、前記化合物は、経口経路による投与に適した剤形で使用される。
【0064】
好ましくは、それは、徐放に適した剤形であり得る。
【0065】
より好ましくは、それはさらに、速放のための微粒剤および徐放のための微粒剤の組合せまたは混合物の形態であり得る。
【0066】
治療適用
本発明は、α−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールまたはその薬学的に許容される塩およびエステル、特にアセテート誘導体、より特定するとデクストロファセトペランを用いての、注意力の障害、より特定すると注意欠陥多動性障害(ADHD)の処置に関する。
【0067】
前記化合物は、単独療法または1つ以上の他の有効成分(覚醒剤(メチルフェニデートまたはアンフェタミンなど)を含む)と組み合わせて投与され得る。
【0068】
一般的に、本発明の化合物は、任意の被験者(成人または小児)における、睡眠障害または覚醒状態を維持する障害(ナルコレプシー、過眠症)、気分障害、行動障害(不穏、不安定)、反抗性障害(挑発を伴うまたは伴わない)、不安障害、人格障害(広汎性発達障害、境界状態、統合失調症)、アルツハイマー病、老人性認知症(前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、レビー小体病)、パーキンソン病、ジル・ドゥ・ラ・トゥレット症候群、本態性振戦、および下肢静止不能症候群(RLS)を処置するのに有用であり得る。
【0069】
最後に、このような処置を必要とする患者における、これらの疾患または疾病、特に注意欠陥多動性障害(ADHD)を処置するための方法が記載され、前記方法は、前記患者に、治療有効量のα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メタノールまたはその薬学的に許容される塩およびエステル、特にアセテート誘導体、より特定するとデクストロファセトペランを投与することを含む。
【0070】
注意力の障害、特にADHDを処置するために、約5〜1000mg、好ましくは約5〜500mg、より好ましくは5〜100mg、より好ましくは約5〜30mg、5〜20mgまたは5〜10mgの1日量が好ましい。分割投与量が、好ましくは患者に投与される。
【0071】
実施例および図面は、その範囲を制限することなく本発明を説明する。
【0072】
1. デクストロファセトペラン塩酸塩の合成例
デクストロファセトペラン塩酸塩は、以下の合成スキームに従って、白色粉末の形態で、20%〜25%の全収率で97%を超える純度で得られた。
【化20】
【0073】
窒素雰囲気下で、酸(1)(0.5g、2.13×10
−3mol)をCH
2Cl
2に溶解する。N−O−ジメチルヒドロキシルアミン塩酸塩(0.254g、2.55×10
−3mol)およびトリエチルアミン(7.51×10
−3mol)をこの溶液に加える。その後、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロリン酸(BOP)(1.06g、2.343×10
−3mol)を加え、そして反応混合物を6時間撹拌する。その後、反応混合物をCH
2Cl
2中で希釈し、そして1M HClを含む滴下漏斗に移す。有機相をNaHCO
3で洗浄し、その後、飽和NaClで洗浄し、そして最後に水で洗浄する。それをNa
2SO
4で乾燥させ、そしてその後、溶媒の濾過および蒸発後、得られた油状物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル8:2)によって精製すると、ヒドロキサメート(2)(0.479g、83%)が得られる。
【0074】
ヒドロキサメート(2)(0.470g、1.72×10
−3mol)をエチルエーテルに溶解し、窒素雰囲気下に置き、そして−23℃まで冷却する。その後、フェニルリチウム(1.8Mのジブチルエーテル溶液、0.955mL、1.72×10
−3mol)を加える。3時間撹拌した後、反応混合物を、砕いた氷と共に、1MのKH
2PO
4溶液に加える。水相を酢酸エチルを用いて抽出し、乾燥させ、濾過し、そして蒸発させる。得られた油状物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル8:2)によって精製すると、ケトン(3)(0.253g、52%)が得られる。
【0075】
無水THF中、窒素雰囲気下のケトン(3)(0.365g、1.26×10
−3mol)を−78℃まで冷却する。その後、L−セレクトリド(1MのTHF溶液、3.79mL、3.78×10
−3mol)を加える。この温度で5時間撹拌した後、水およびその後、35%の過酸化水素を反応混合物に加え、これをその後、2時間撹拌する。その後、得られた溶液を水および酢酸エチルで希釈し、そして水相を酢酸エチルを用いて抽出する。合わせた有機相を水で洗浄し、その後、飽和NaClで洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、その後、濾過し、そして最後に蒸発させる。得られた油状物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル8:2)によって精製すると、アルコール(4)(0.277g、76%)が得られる。
【0076】
アルコール(4)(0.265g、0.91×10
−3mol)、トリエチルアミン(0.378mL、2.73×10
−3mol)、4−DMAP(5.55mg、4.55×10
−5mol)および無水酢酸(0.516mL、5.46×10
−3mol)を室温で14時間撹拌する。その後、溶液を10%K
2CO
3を用いて塩基性とし、そしてエチルエーテルを用いて抽出する。合わせた有機相をNa
2SO
4で乾燥させ、その後、濾過し、そして蒸発させる。得られた生成物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル8:2)によって精製すると、アセテート(5)(0.291g、95%)が得られる。
【0077】
アセテート(5)(5.7mg、1.71×10
−5mol)をエチルエーテルに溶解し、そしてその後12N塩酸(0.02mL)を加える。15分間撹拌した後、溶液を蒸発させ、そしてベーンポンプを使用して乾燥させると、白色粉末の形態のデクストロファセトペラン(4mg、87%)が得られる。
【0078】
得られた生成物は以下の特徴を有する:
1H NMR (300 MHz, MeOD), δ in ppm: 7.46 (m, 5H), 5.73 (d, J=9Hz, 1H), 3.69 (m, 1H), 3.50 (d, J=12Hz, 1H), 3.36 (重水素化メタノール中の水), 3.11 (t, J=9Hz, 1H), 2.18 (s, 3H), 1.52-1.97 (m, 6H)。
【0079】
3C NMR (75 MHz, MeOD), δ in ppm: 171.2, 136.9, 130.5, 130.1 (2C), 128.6 (2C) 77.5, 60.5, 46.3, 26.5, 23.2, 22.5, 20.9。
【0080】
IR (cm
-1): 1741, 1223, 1023, 769, 703。
旋光度:[α]
589D= +40 (c=0.05 MeOH)
不斉収率>90%
TLC:Rf=DCM/MeOH溶離液を用いて0.43
質量分析(ESI):234([M+1]+
【0081】
2. 生物学的試験の例:ADHDのモデルであるT型迷路試験にかけられたラットの行動試験
2.1. モデル:
T型迷路行動試験は、幼若動物(ここではラット)が、迅速で即座の食物の報酬か、大きいが遅れる報酬かの選択を与えられた場合に、前記動物によって示される待つ能力を測定することを可能とする。この試験は、待つ能力の評価、すなわち衝動性のレベルの評価を可能とする。若いウィスターラットにおいては、メチルフェニデート(リタリン(登録商標))は、大きいが遅い報酬が選ばれる回数を増加させるようである。この結果はまた、他のアンフェタミン型の中枢刺激剤(アンフェタミン)でも見られ、「非中枢刺激剤」のノルアドレナリン再取り込み阻害剤(アトモキセチン、マジンドール)でも見られるが、刺激剤(ユーグレゴリック(eugregoric)剤)(モダフィニル、ラウフルミド(lauflumide))でも見られる。
【0082】
これらの薬物は症候(例えばADHDの衝動性など)を低減させるので、幼若動物におけるT型迷路試験は、ADHDの処置のための薬物による衝動性の制御の改善について試験するのに適切である。
【0083】
2.2. 目的:
メチルフェニデートと等価な投与量を腹腔内(IP)に投与されたファセトペランが、T型迷路試験にかけられた若いウィスターラットの待つ能力を改善させるかどうかを示すため。この化合物による待つ能力の改善は、この化合物が、衝動性を減少させ、結果として、ADHDの処置に有用であり得ることを示す。メチルフェニデートは、この実験における基準製品として使用される。
【0084】
2.3. プロトコール:
実験は、8時間から18時間かけて、室温で(22±1.5℃)、人工照明下で、穏やかな条件で実施された。
【0085】
実験開始時に22日令であり、そして前記分子の投与時に30〜42日令である雄AFウィスターラットを使用した(Centre d'Elevage Rene Janvier, France)。
【0086】
試験した分子は以下である:
− メチルフェニデート(MPH):3mg/kgを腹腔内(IP)に
− ファセトペラン(この試験でBLK−010と称されたラセミ形の化合物):1mg/kgを腹腔内(IP)に
− プラセボ:1mL/kgを腹腔内(IP)に。
【0087】
実験を、スタートエリア(長さ30cm)、透明なプラスチックのボックス(幅10cm、深さ10cm、高さ10cm)および2つのアーム(長さ35cm)(各々は、黒いプラスチック製の長方形のボックス(幅18cm、深さ30cm、高さ10cm)に至る)からなる不透明な灰色のプラスチックチューブ(内径:7.5cm)で作られた2つの同一なT型迷路装置で実施された。
図1参照。灰色のプラスチックの取り外し可能なギロチン型ドアを、スタートエリアの入り口およびアームの各末端に位置する、垂直のスリットに挿入することができる。ゴールのボックスの1つ(ラットに依存して、左または右)に常に大きな報酬を供給し、他方には小さな報酬を供給する。大きな報酬および小さな報酬は、それぞれ、5つのペレットおよび1つのペレット(20mg、Technical & Scientific Equipment GmbH, Germany)からなる。ペレットは、各試験前に半透明皿に置かれている。
【0088】
トレーニング期
第1期−慣れさせる。動物をまず、5分間の2〜6回の慣れさせるセッションにかける。ラットをスタートエリアに静かに置き、これをその後、スリットに挿入されたギロチン型ドアを用いて閉める。動物に装置を自由に探索させ、そして皿に置かれた報酬を食べさせる。
【0089】
第2期−プレトレーニング。ドアを各ゴールボックス付近のスリットc2に配置した後、ラットをスタートエリアに置く。ラットが2つのアームの一方に進入すると、ドアを、マウスの後ろの、選択エリア付近のスリットc1に挿入し、そしてスリットc2に配置したドアを除去する。一旦動物がゴールボックスに進入すると、ドアをスリットc2に再配置する。一旦ラットがペレットを食べれば、ラットをゴールボックスから取り出す。その後、動物を2〜3分間の間、そのケージに戻す。各ラットは、1日あたり1〜3回、5回の試験セッションにかける。4〜12回のセッションで、ラットは、試験の80%超において大きな報酬に近づくアームを選択する。その後、トレーニングを始める。
【0090】
第3期:トレーニング。ラットは、1〜4回/日の5回の試験のトレーニングセッションを受け、その試験中に、大きな報酬に近づく前に遅延時間が導入されている。ドアを、各ゴールボックス付近のスリットc2に配置した後、ラットをスタートエリアに置く。そのラットが2つのアームの一方に進入すると、第2のドアを、そのマウスの後ろの、選択エリア付近のスリットc1に挿入し、よって、大きな報酬に至るアームを選んだラットは、強化のために、このアームにおいて30秒間の間(待ちながらの遅延時間)近づくまで引き留められ得る。さもなくば、動物が小さな報酬に至るアームを選んだ場合、スリットc2に配置されたドアは直ちに開き、動物はゴールボックスに進入することができる。薬物試験は、動物が、2つの連続したセッション中の5回中2回(またはそれ以下)の試験、および次のセッション中の5回中1回(またはそれ以下)の試験において、大きな報酬を30秒間遅れて選択した場合に始められる。12回のセッションにおいてこの基準を満たさない動物は、実験から除外される。
【0091】
試験期間は以下の通りに行われる:
「薬物療法前」対照の2回のセッション(「cont-pre」)
2回の「薬物療法」セッション
「薬物療法後」対照の2回のセッション(「cont-post」)。
【0092】
薬物療法前対照の2回のセッションは、同じ日に2〜4時間の間隔を置いて行なわれる。薬物療法セッション1および2は、薬物療法前対照セッションの後、それぞれ、1日間および2日間かけて行なわれる。薬物療法後対照の2回のセッションは、薬物療法セッション2の後に1日間かけて行なわれる。BLK−10、メチルフェニデートまたはプラセボが、各薬物療法セッション前に投与される。
【0093】
動物は、無作為に3つの群(1群あたりn=6匹の動物)に分配され、そして以下の合計で2回の腹腔内投与を受ける(各薬物療法セッションの前に):
− 試験の30分前にメチルフェニデート群(3mg/kg)、
− 試験の30分前にBLK−010群(1mg/kg)。
【0094】
2.4 結果
データの分析は、各動物について行なわれ、そして「大きいが遅れた報酬」の選択の比率が同様に計算された。
【0095】
結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
基準製品として使用されたメチルフェニデート、およびBLK−010は、試験前に投与される。これらの2つの分子は、対照と比べて、T型迷路試験にかけられた若いウィスターラットにおける待つ能力を改善させる。
【0098】
化合物BLK−010は、T型迷路試験にかけられた若いウィスターラットにおける待つ能力に関して、メチルフェニデートよりも有意かつ統計学的により効果的であるようである。
【0099】
化合物BLK−010は、「処置前」の幼若ラットと「処置後」の幼若ラットの間の行動の有意な改善をもたらす唯一の分子であり、そしてT型迷路試験にかけられた若いウィスターラットにおける待つ能力に関して、メチルフェニデートよりも有意かつ統計学的により効果的であるようである(p=0.042)。
【0100】
衝動性の改善は、化合物BLK−010(ファセトペラン)(1mg/kg)で処理された全ての動物(n=6)で見られる。後者は、メチルフェニデート(3mg/kg)で見られたものよりも有意により良好である(
図2参照)。
【0101】
ファセトペラン(1mg/kg)は、習慣性もさらには消費性ももたらさない(処置前後)。それは経時的にも頑強であり(種々の試験の間も)、そして常に、メチルフェニデート(3mg/kg)よりも効果的であることが判明している。
(S,S)エナンチオマーのα−フェニル(ピペリジン−2−イル)メチルアセテート(デクストロファセトペラン)またはその薬学的に許容される塩を調製する方法であって、以下の工程:
− 請求項1〜5のいずれか一項に定義された方法に従って(S,S)エナンチオマー形の式(VI)の化合物を調製する工程、および
− 式(VI)の化合物をアセチル化し、場合によりその後、ピペリジン基のアミン官能基を脱保護する工程(R1が保護基である場合)
を含む、方法。