【解決手段】 アルツハイマー病を診断する方法および処置する方法が提供される。特に、抗血管新生薬またはタイトジャンクション完全性を回復可能な薬剤を投与することによって、アルツハイマー病に罹患した人において血液脳関門の完全性を回復するおよび/または血管リバースを促進する方法。また、対象においてアルツハイマー病を予防する方法またはその発症を遅延する方法が提供される。
アルツハイマー病を有するまたは発症するリスクのある患者において、アルツハイマー病を処置するまたはその発症を遅延する方法であって、有効量の抗血管新生薬を対象に投与することを含む、前記方法。
アルツハイマー病を有するまたは発症するリスクのある患者において、血液脳関門(BBB)の完全性を維持するおよび/または回復する方法であって、有効量の抗血管新生薬および/またはAβアミロイド形成を抑制するまたは脳からのAβペプチドの除去を促進する薬剤を対象に投与することを含む、前記方法。
アルツハイマー病を有するまたは発症するリスクのある患者の脳において血管リバースを促進する方法であって、有効量の抗血管新生薬および/または脳からのAβペプチドの除去を促進する薬剤を対象に投与することを含む、前記方法。
前記抗血管新生薬が、ベキサロテン、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、イマチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レフルノミド(SU101)、ミドスタウリン(PKC412)、バタラニブ(PTK787/ZK222584)、AG013736、AZD2171、CP547,632、CP673,451、RPI.4610、VEGFトラップ、ZD6474、YM359445、SU5416、テムシロリムス(トリセル(登録商標))、バチマスタット、マリマスタット、ネオバスタット、プリノマスタット、カルボキシアミドトリアゾール、TNP−470、CM101、IFN−α、IL−12、血小板因子−4、スラミン、SU5416、トロンボスポンジン、アンジオスタチン、エンドスタチン、サリドマイド、テトラチオモリブデート、テコガラン、ラゾキサンまたはレスベラトロールである、請求項1、2または3に記載の方法。
アルツハイマー病を発症するリスクのあるまたは早期アルツハイマー病を有する対象を特定する方法であって、対象の脳における、血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊を検出することを含む、前記方法。
アルツハイマー病の処置に有望な治療薬を特定する方法であって、脳血管におけるタイトジャンクションを回復するまたは脳における血管リバースを促進する候補薬剤の能力をテストすることを含む、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の上記および他の特徴は、添付の図面を参照した以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0019】
【
図1】Tg2576ADマウスは、大脳タイトジャンクション病変を有する。この図は、オクルディンまたはZO−1(赤色)のどちからを免疫標識し、TOTO−3でDNA(青色)を対比染色した、老齢Tg2576および野生型マウスの脳血管の代表的な共焦点顕微鏡像を示す。野生型に示されているように、新皮質および海馬にみられる高強度の連続した直線状のオクルディン(A、C)またはZO−1(E、G)の発現を示す血管は、正常とみなされた。Tg2576脳血管構造に見られるような、オクルディン(B、F)およびZO−1(D、H)の異常な染色では、点状(白色矢頭)や不連続または断続(中空白色矢印)が示された。結果は、3つの別々の実験におけるそれぞれの群につき3匹のマウスから得た代表的なものである。目盛は20μmを示す。
【0020】
【
図2-1】老齢Tg2576マウスではタイトジャンクションの発現が減少した。新皮質(A、B)におけるオクルディンまたはZO−1の発現を、野生型およびTg2576マウス間で定量的に比較した。(A)ZO−1発現パターンに異常がみられる皮質の脳血管の割合は、同年齢野生型(***p<0.001)と比較して老齢Tg2576マウスにおいて有意に高かった。皮質におけるZO−1阻害の発生率も、若年Tg2576(若年野生型、n=4;若年Tg2576、n=3;老齢野生型、n=5;老齢Tg2576、n=4;*p<0.05)と比較して老齢Tg2576マウスにおいて有意に高かった。(B)老齢Tg2576マウスでは、同年齢野生型(n=7、**p=0.0072)と比較して、皮質におけるオクルディンタンパク質レベルが有意に減少した。数値は、平均値±SEMを示す。
【
図2-2】老齢Tg2576マウスではタイトジャンクションの発現が減少した。海馬(C、D)におけるオクルディンまたはZO−1の発現を、野生型およびTg2576マウス間で定量的に比較した。(C)ZO−1発現パターンに異常がみられる海馬の脳血管の割合が、同年齢野生型(***p<0.001)と比較して老齢Tg2576マウスにおいて有意に高かった。同様に、海馬におけるZO−1阻害の発生率も、若年Tg2576(若年野生型、n=4;若年Tg2576、n=3;老齢野生型、n=5;老齢Tg2576、n=4;*p<0.05)に比較して老齢Tg2576マウスにおいて有意に高かった。(D)老齢Tg2576マウスでは、同年齢野生型(n=7、**p=0.0076)と比較して、海馬におけるオクルディンタンパク質レベルが有意に減少した。数値は、平均値±SEMを示す。
【0021】
【
図3】アポトーシスではなく血管新生が、Tg2576マウスにおけるタイトジャンクション免疫反応性の変化を誘発する。この図は、老齢野生型およびTg2576マウスにおいて、血管新生またはアポトーシスのマーカーを二重染色したタイトジャンクション(ZO−1)の代表的な共焦点顕微鏡像を示す。すべての血管において、タイトジャンクション発現パターンにかかわらず、CD105が染色された。白色矢頭は、血管構造におけるタイトジャンクション異常領域を示す。野生型(a)およびTg2576(b)の新皮質におけるZO−1(赤色)およびCD105(緑色)を有する血管の二重染色。野生型(c)およびTg2576(d)の新皮質におけるZO−1(赤色)およびカスパーゼ3(緑色)を有する血管の二重染色。カスパーゼ3の染色がZO−1の染色と共存しなかったことは、血管構造におけるアポトーシスの不在を示唆した。(E、F)CD105およびカスパーゼ3のウェスタンブロット分析。結果は、3つの別々の実験において検査した脳組織のそれぞれの群につき3匹のマウスから得た代表的なものである。目盛は20μmを示す。
【0022】
【
図4-1】微小血管密度は、老齢Tg2576およびヒトAD患者において増加する。脳血管構造におけるCD105染色による微小血管密度およびCD105タンパク質発現を、老齢および若年Tg2576ならびに野生型において定量した。(A)老齢Tg2576マウスでは、同年齢野生型と比較して微小血管密度が有意に高かった(***p<0.001)。老齢Tg2576では、若年Tg2576と比較して、微小血管密度が有意に高かった(老齢野生型、n=5;老齢Tg2576、n=4;若年野生型、n=4;若年Tg2576、n=3;*p<0.05)。有意ではないが、若年Tg2576マウスでは、野生型と比較して平均微小血管密度が高い傾向があった。(B)老齢Tg2576マウスでは、同年齢野生型(野生型、n=5;Tg2576、n=6;***p<0.001)と比較して、皮質におけるCD105タンパク質レベルが有意に増加した。数値は、平均値±SEMを示す。
【
図4-2】微小血管密度は、老齢Tg2576およびヒトAD患者において増加する。脳血管構造におけるCD105染色による微小血管密度およびCD105タンパク質発現を、老齢および若年Tg2576ならびに野生型において定量した。(C)老齢Tg2576マウスでは、同年齢野生型(n=7、*p<0.05)と比較して、海馬におけるCD105タンパク質レベルが有意に増加した。(D)AD患者の皮質では、ND患者(n=4、*p<0.05)と比較して、ラミニン染色が占める面積率として測定した微小血管密度が有意に増加した。(E)AD患者の海馬では、ND患者(n=4、***p<0.001)と比較して、ラミニン染色が占める面積率として測定した微小血管密度が有意に増加した。数値は、平均値±SEMを示す。
【
図4-3】微小血管密度は、老齢Tg2576およびヒトAD患者において増加する。ND患者(F)およびAD患者(G)の皮質におけるラミニンの免疫組織化学染色の代表的な像。目盛は95μmを示す。
【0023】
【
図5】AβおよびPBS免疫Tg2576マウスは、共焦点顕微鏡により評価すると、正常および異常タイトジャンクション発現を示す。オクルディンまたはZO−1(赤色)のどちらかを免疫標識し、TOTO−3でDNA(青色)を対比染色したAβ免疫(予防的にまたは治療的に)Tg2576マウスの脳血管の代表的な共焦点顕微鏡像。正常なタイトジャンクションの発現は、血管における高強度の連続した直線状のオクルディンまたはZO−1発現を示した。(a)Aβで治療的に免疫したTg2576マウスの海馬の微小血管における正常なオクルディン発現。(b)Aβで予防的に免疫したTg2576マウスの皮質の微小血管における正常なZO−1発現。皮質および海馬の血管における異常なタイトジャンクション発現は、薄い、点状および不連続状の形態(白色矢頭)を示した。(c)治療的に免疫したTg2576マウスの皮質における異常なZO−1発現。(d)予防的に免疫したTg2576マウスの海馬における異常なオクルディン発現。(e)治療的に免疫したTg2576マウスにおける異常なオクルディン発現を示す大血管の横断面。(f)予防的に免疫したTg2576マウスにおける異常なZO−1発現を示す大血管の横断面。結果は、3つの別々の実験においてそれぞれの群につき3匹のマウスから得た代表的なものである。目盛は20μmを示す。
【0024】
【
図6】Aβで一年間予防的に免疫したTg2576マウスは、PBS免疫対照と比較して、タイトジャンクション異常を低減した。PBSまたはAβのどちらかで予防的に免疫したTg2576(Tg/+)および野生型(+/+)マウスの(a)皮質および(b)海馬におけるタイトジャンクションの異常の発生率を、定量的に比較した。グラフは、ZO−1発現パターンにより、タイトジャンクション異常を示す血管の割合を示す。(a)皮質においては、PBS+/+と比較して、PBS免疫Tg/+は、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に高かった(**p=0.0080)。Aβ免疫Tg/+マウスと比較しても、タイトジャンクション破壊の発生率は、PBS Tg/+において有意に高かった(*p=0.0188)。(b)海馬においては、PBS+/+と比較して、PBS免疫Tg/+は、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に高かった(****p=0.0006)。Aβ免疫Tg/+マウスと比較しても、タイトジャンクション破壊の発生率は、PBS Tg/+において有意に高かった(***p=0.0009)。数値は、平均値±SEMを示す。PBS+/+、n=3;PBS Tg/+、n=4;Aβ+/+、n=3;Aβ Tg/+、n=3。
【0025】
【
図7】Aβで4ヶ月間治療的に免疫したTg2576マウスは、PBS免疫対照と比較して、タイトジャンクション異常が減少した。PBSまたはAβで治療的に免疫したTg2576(Tg/+)および野生型(+/+)マウスの(a)皮質および(b)海馬におけるタイトジャンクションの異常の発生率を、定量的に比較した。グラフは、ZO−1発現パターンにより、タイトジャンクション異常を示す血管の割合を示す。(a)皮質においては、PBS+/+と比較して、PBS免疫Tg/+は、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に高かった(**p=0.0046)。Aβ免疫Tg/+マウスと比較しても、PBS Tg/+は、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に高かった(*p=0.0028)。(b)海馬においては、PBS+/+と比較して、PBS免疫Tg/+は、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に高かった(****p=0.0115)。Aβ免疫Tg/+マウスと比較しても、PBS Tg/+は、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に高かった(***p=0.0083)。PBS+/+、n=4;PBS Tg/+、n=3;Aβ+/+、n=4;Aβ Tg/+、n=5。数値は、を示す平均値±SEM。
【0026】
【
図8】Aβ免疫Tg2576マウスは、全体的に血管漏出が減少した。ZO−1(赤色)、マウスアルブミン(mAlb、緑色)またはAβ(緑色)に対して免疫標識した、Aβで予防的に免疫したTg2576マウスの脳血管の共焦点顕微鏡の代表的な像。微小血管(a)は典型的に正常なZO−1発現を示し、アルブミンの漏出を示さなかった。白色の矢印は、ZO−1を発現している2つの正常な微小血管を示している。アルブミン漏出は典型的には大血管と関連し(b)、タイトジャンクション異常を示している。漏出(白色矢頭)は、血管から拡散した濃度勾配のある染色として示される。(c)Aβの血管沈着を含む異常なタイトジャンクション発現(中空白色矢印)を有する大血管。結果は、3つの別々の実験においてそれぞれの群につき3匹のマウスから得た代表的なものである。目盛は20μmを示す。
【0027】
【
図9】Aβ免疫Tg2576マウスは、活性化カスパーゼ3染色を減少した。代表的な共焦点顕微鏡像(20xで撮影)は、オクルディン(occlu、赤色)タイトジャンクションとともに、活性化カスパーゼ3染色(casp3、緑色)を示す。(a)PBSで治療的に免疫したTg2576マウスの皮質における活性化カスパーゼ3染色は、タイトジャンクションハローを包囲した。(b)Aβで予防的に免疫した野生型マウスの海馬内の活性化カスパーゼ3染色。神経細胞に対応すると思われる糸状構造は、緑色で示される。オクルディンまたはZO−1のどちらかで標識した血管との重なりや共染色は見られなかった。(c)Aβで治療的に免疫したTg2576マウスの皮質における活性化カスパーゼ3染色。脳のこの領域では、カスパーゼ3染色が限定される。結果は、3つの別々の実験においてそれぞれの群につき3匹のマウスから得た代表的なものである。目盛は20μmを示す。
【0028】
【
図10】対照と比較して、Aβ免疫Tg2576マウスでは微小血管密度が減少した。AβまたはPBSで予防的または治療的免疫したTg2576(Tg/+)および野生型(+/+)マウスの脳血管構造における微小血管密度を、CD105染色により定量した。(a)PBSで予防的に免疫したTg/+マウスは、PBS免疫+/+と比較して、微小血管密度が有意に増加した(*p<0.0001、t検定)。Aβ免疫Tg/+は、PBSで免疫したTg/+と比較して、微小血管密度が有意に減少した(**p<0.0001、t検定)。PBS+/+、n=4;PBS Tg/+、n=4;Aβ+/+、n=4;Aβ Tg/+、n=4。(b)PBSで治療的に免疫したTg/+は、PBS免疫+/+と比較して、微小血管密度が有意に増加した(***p=0.0001、t検定)。Aβ免疫Tg/+は、PBSで免疫したTg/+と比較して、微小血管密度が有意に減少した(****p<0.0001、t検定)。PBS+/+、n=5;PBS Tg/+、n=4;Aβ+/+、n=4;Aβ Tg/+、n=3。数値は、平均値±SEMを示す。
【0029】
【
図11】Aβ免疫Tg2576マウスは、正常タイトジャンクション形態を有する。ZO−1(赤色)を免疫標識しDNA(青色)を対比染色した、AβまたはPBSで(予防的または治療的に)免疫した+/+およびTg/+マウスの脳血管構造の代表的な像。正常なZO−1発現は、+/+、PBS(A、B)、+/+、Aβ(C、D)およびTg/+、Aβ(G、H)で見られるような、高強度の連続した直線状の染色パターンを有した。横断(H)した血管において正常ZO−1は、ほぼ平行な線を生じた。異常なZO−1染色パターンは、Tg/+、PBS(E、F)の小血管およびTg/+、Aβ(I、J)の大血管で見られるような、点状、断続または不連続な(白色矢頭)として観察された。目盛は20μmを示す。
【0030】
【
図12-1】Aβ免疫Tg2576マウスは、タイトジャンクション異常が減少した。異常なZO−1発現パターンを有する血管の割合は、Tg/+、Aβおよび+/+、PBS免疫マウスと比較して、Tg/+、PBSにおいて有意に増加した。これらの知見は、免疫方法、(a、b)予防的および(c、d)治療的、ならびに脳領域、(a、c)皮質または(b、d)海馬において一貫していた。予防的方法では、+/+、PBS、n=3;Tg/+、PBS、n=4;Aβ、+/+、n=3;Tg/+、Aβ、n=3。治療的方法では、+/+、PBS、n=4;Tg/+、PBSn=3;+/+、Aβ、n=4;Tg/+、Aβ、n=5。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図12-2】Aβ免疫Tg2576マウスは、タイトジャンクション異常が減少した。異常なZO−1発現パターンを有する血管の割合は、Tg/+、Aβおよび+/+、PBS免疫マウスと比較して、Tg/+、PBSにおいて有意に増加した。これらの知見は、免疫方法、(a、b)予防的および(c、d)治療的、ならびに脳領域、(a、c)皮質または(b、d)海馬において一貫していた。予防的方法では、+/+、PBS、n=3;Tg/+、PBS、n=4;Aβ、+/+、n=3;Tg/+、Aβ、n=3。治療的方法では、+/+、PBS、n=4;Tg/+、PBSn=3;+/+、Aβ、n=4;Tg/+、Aβ、n=5。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0031】
【
図13-1】Aβ免疫Tg2576マウスは、微小血管密度を減少した。ZO−1(赤色)異常が(a)無しまたは(b)有り(白色矢頭)に関係なく、遍在性CD105(緑色)が脳血管構造を染色する代表的な像。目盛は20μmを示す。
【
図13-2】Aβ免疫Tg2576マウスは、微小血管密度を減少した。Tg/+、Aβおよび+/+、PBS免疫マウスと比較して、Tg/+、PBSで微小血管密度が有意に増加した。これらの知見は、(c)予防的(すべての群でn=4)および(d)治療的(+/+、PBS、n=4;Tg/+、PBS、n=3;+/+、Aβ、n=4;Tg/+、Aβ、n=4)免疫方法で一貫していた。*p<0.05、***p<0.001。
【
図13-3】Aβ免疫Tg2576マウスは、微小血管密度を減少した。(e)予防的(+/+、PBS、n=5;Tg/+、PBS、n=4;+/+、Aβ、n=5;Tg/+、Aβ、n=3)または(f)治療的(+/+、PBS、n=4;Tg/+、PBS、n=4;+/+、Aβ、n=5;Tg/+、Aβ、n=5)のどちらかで免疫したマウスの脳の体重比の平均には、有意差はなかった。*p<0.05、***p<0.001。
【0032】
【
図14】免疫Tg2576マウスにおけるAβ沈着は変化する。(a、b)治療的または(c、d)予防的のどちらかで免疫した(a、c)Tg/+、PBSマウスと比較して、(b、d)Tg/+、AβにおいてAβ沈着(緑色)の一般的な減少を示す代表的な像。
【0033】
発明の詳細な説明
血液脳関門の完全性の低減は、アミロイドプラークなどの他のアルツハイマー病の病変に先行するので、血液脳関門の完全性を維持または再建することが、アルツハイマー病の処置および/または予防において有用であろう。本発明は、本明細書に記載する、この血液脳関門の完全性の低減が脳における血管新生によるものであるという知見に関するものである。特に、脳における血管新生は、血液脳関門を維持するタイトジャンクションの破壊をもたらす。血管新生の抑制は、タイトジャンクションを回復させ、その結果、血液脳関門の「漏出」を減少させるであろう。さらに、Aβペプチドのワクチン接種は、血管リバースおよびタイトジャンクションの回復をもたらすことが示された。
【0034】
従って、ある態様では、脳における血管新生を抑制することにより、アルツハイマー病の病変を処置するおよび/またはその発症を遅延する方法が提供される。ある態様では、本発明は、脳における血管新生を抑制するおよび/または脳血管におけるタイトジャンクションを回復することにより、人において血液脳関門の完全性を維持するおよび/または回復する方法が提供される。ある態様では、これらの方法は、1つまたは2つ以上の抗血管新生薬、1つまたは2つ以上の脳からのAβペプチドの除去を促進する薬剤、1つまたは2つ以上のアミロイド形成を抑制する薬剤、1つまたは2つ以上の脳血管におけるタイトジャンクションを回復する薬剤、またはその組合せを投与することを含む。ある態様では、Aβペプチドを単独または1つまたは2つ以上の他の治療薬、例えば、1つまたは2つ以上の抗血管新生薬との組合せで投与することによって、アルツハイマー病を有する対象の脳における血管リバースを促進する方法が提供される。
【0035】
ある態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防および/または処置のための薬剤を特定する方法であって、候補薬剤の、脳における血管新生を抑制する能力、血液脳関門の完全性を維持または回復する能力および/または脳血管におけるタイトジャンクションを回復する能力をテストすることを含む、前記方法を提供する。
【0036】
本発明のある態様では、アルツハイマー病を発症するリスクのあるまたは早期アルツハイマー病を有する対象を特定する診断方法であって、対象の脳における血管新生、タイトジャンクション(TJ)破壊および/または脳における血液脳関門破壊を検出することを含む、前記方法を提供する。
【0037】
定義
特に定義されない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0038】
本明細書で互換可能に使用される「治療」および「処置」という用語は、対象の状態を改善する意図で行われる介入を意味する。改善は、主観的であっても客観的であってもよく、処置する疾患と関連する症状を改良すること、その発症を予防すること、その病状を変化させることに関係する。このように、治療および処置という用語は、最も広い意味で使用され、様々な段階の疾患の予防(病気の予防)、緩和、軽減、治癒を含む。対象の状態の悪化を予防することも、この用語に含まれる。従って、治療/処置を必要とする対象には、疾患を既に有するものだけでなく、疾患に罹りやすい、すなわち発症するリスクのあるもの、および疾患を予防すべきものが含まれる。
【0039】
本明細書で使用される「対象」および「患者」という用語は、処置を必要とする、哺乳類やヒトなどの動物を意味する。
【0040】
本明細書で使用される、「約」という用語は、所与の値のおよそ±10%の変動を意味する。かかる変動は、具体的な記載の有無にかかわらず、本明細書の任意の所与の値において含まれるものであることを理解すべきである。
【0041】
治療方法
本発明のある側面は、抗血管新生薬および/またはAβアミロイド形成を予防するおよび/またはAβペプチドの除去を促進する薬剤の単独使用または追加の治療薬との併用によって、アルツハイマー病を処置するまたはその発症を遅延する方法を提供する。ある態様では、抗血管新生薬および/またはタイトジャンクションの完全性を回復および/またはアミロイド形成を予防および/またはAβペプチドの除去を促進可能な薬剤の使用により、血液脳関門(BBB)の完全性を維持および/または回復するおよび/またはタイトジャンクション(TJ)の完全性を回復することによって、アルツハイマー病を予防および/または処置する方法が提供される。本発明によれば、かかる薬剤としては、従来の小分子薬剤だけでなく、核酸分子、組換えベクター、オリゴヌクレオチド阻害剤(アプタマー、アンチセンスおよびsiRNA)、ペプチド、タンパク質、抗体などの生物学的製剤が挙げられる。
【0042】
抗血管新生薬の例としては、限定されるものではないが、HDAC阻害剤、バルプロ酸;抗血管新生ケモカイン(IP−10、PF−4、MIPなど)、セツキシマブ、パニツムマブ、PI3K/AKT/mTOR経路阻害剤、MAPK−ファルネシル転移酵素RhoおよびRas阻害剤、エルロチニブ、ベキサロテン、パゾパニブ(ヴォトリエント(登録商標));エベロリムス(アフィニトール(登録商標));ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、イマチニブ、ソラフェニブ、レセプターチロシンキナーゼ阻害薬、2メトキシエストラジオール、スニチニブ、レフルノミド(SU101)、ミドスタウリン(PKC412)、バタラニブ(PTK787/ZK222584)、AG013736、AZD2171、CP547,632、CP673,451、RPI.4610、VEGFトラップ、ZD6474、YM359445、SU5416、テムシロリムス(トリセル(登録商標))、バチマスタット、マリマスタット、ネオバスタット、プリノマスタット、カルボキシアミドトリアゾール、フマギリン、TIMP、TNP−470、CM101、IFN−α、IL−12、血小板因子−4、スラミン、SU5416、トロンボスポンジン、アンジオスタチン、エンドスタチン、サリドマイド、テトラチオモリブデート、テコガラン、ラゾキサン;イスミン(isthmin);二重Met/VEGFレセプター2キナーゼ阻害薬E7050;リコリン塩酸塩、レスベラトロールが挙げられる。
【0043】
血管新生を抑制するペプチドの例としては、限定するものではないが、SPARCペプチド;細胞外基質タンパク質由来のペプチド(シレンジタイド(EMD121974);標的RGD;ATN−161;タムスタチンペプチド;タムスタチン断片;ペンタスタチン−1;エンドスタチンペプチド;エンドスタチン断片IV、IVox;エンドスタチンペプチド断片I(180−199);C16Y;C16S);成長因子またはそれらの受容体由来ペプチド(VEGF由来ペプチド
D(LPR)すなわちKSVRGKGKGQKRKRKKSRYK;FGF由来ペプチドAc−ARPCA;P144TSLDASIIWAMMQN);凝固カスケードに関与するタンパク質由来ペプチド(B9870;HPRG由来((HHPHG)
4);A−779;KV11;KPSSPPE;フィブリノーゲン由来ARPAKAAATQKKVERKAPDA)など);ケモカイン由来ペプチド(PF4由来(NGRKISLDLRAPLYKKIIKKLLES);ケモカイノスタチン−1;アンジネックスなど);TSP1ドメイン含有タンパク質由来ペプチド(DI−TSPa;ABT−510;ABT−526;プロペリジスタチンなど);セルピンタンパク質由来ペプチド(PEDF−TGA断片;PEDF34アミノ酸長断片PEDFP18;SvOrth−2など);pTnI;RC−3940−II;PAMP12−20;IM862;Aβ;テトラスタチン−1(LPVFSTLPFAYCNIHQVCHY);テトラスタチン−3(AAPFLECQGRQGTCHFFAN);ペンタスタチン−3(SAPFIECHGRGTCNYYANS);スロンボスタチンコン−3(SPWSPCSGNCSTGKQQRTR);ケモカイノスタチン−7(DGRKICLDPDAPRIKKIVQKKL);ケモカイノスタチン−8(DGRELCLDPKENWVQRVVEKFLK);セマスタチン−5A.1(GPWERCTAQCGGGIQARRR);セマスタチン−5B(TSWSPCSASCGGGHYQRTR);プロペリジスタチン(GPWEPCSVTCSKGTRTRRR);スコスポンジスタチン(GPWEDCSVSCGGGEQLRSR);ケモカイノスタチン−1(NGRKACLNPASPIVKKIIEKMLNS);ケモカイノスタチン−3(NGKKACLNPASPMVQKIIEKIL);ケモカイノスタチン−5(NGKEICLDPEAPFLKKVIQKILD);ケモカイノスタチン−6(NGKQVCLDPEAPFLKKVIQKILDS);セマスタチン−5A.2(SPWTKCSATCGGGHYMRTR);ネフロブラストスタチン(TEWTACSKSCGMGFSTRV);ウィスポスタチン−1(SPWSPCSTSCGLGVSTRI);スロンボスタチンコン−1(QPWSQCSATCGDGVRERRR);ネトリンスタチン−5C(TEWSVCNSRCGRGYQKRTR);スロンボスタチンコン−6、サイクリックCys4およびCys8(WTRCSSSCGRGVSVRSR);ウィスポスタチン−2(TAWGPCSTTCGLGMATRV);ウィスポスタチン−3(TKWTPCSRTCGMGISNRV);パピロスタチン−1(GPWAPCSASCGGGSQSRS);パピロスタチン−2(SQWSPCSRTCGGGVSFRER);ヘキサスタチン−2(YCNINEVCHYARRNDKSYWL);スポンジンスタチン−1(SEWSDCSVTCGKGMRTRQR);コネクトスタチン(TEWSACSKTCGMGISTRV);サイロスタチン(TSWSQCSKTCGTGISTRV);ネトリンスタチン−5D(TEWSACNVRCGRGWQKRSR);フィブロスタチン−6.1(SAWRACSVTCGKGIQKRSR);フィブロスタチン−6.2(ASWSACSVSCGGGARQRTR);フィブロスタチン−6.3(QPWGTCSESCGKGTQTRAR);カーティロスタチン−1(SPWSKCSAACGQTGVQTRTR);カーティロスタチン−2(GPWGPCSGSCGPGRRLRRR);アダムソスタチン−4(GPWGDCSRTCGGGVQFSSR);アダムソスタチン−16(SPWSQCTASCGGGVQTR);アダムソスタチン−18(SKWSECSRTCGGGVKFQER);アダムソスタチン様4(SPWSQCSVRCGRGQRSRQVR);コンプルスタチン−C6(TQWTSCSKTCNSGTQSRHR);テトラスタチン−2(YCNIHQVCHYAQRNDRSYWL);ヘキサスタチン−3(LPRFSTMPFIYCNINEVCHY) (Rosca et al. Curr Pharm Biotechnol. 2011 August 1; 12(8): 1101-1116 概説参照) が挙げられる。
【0044】
ある態様では、VEGF、FGF、FGFレセプター、EGF、EGFレセプター、TGFβ(限定されるものではないがTGFβ1など)、VEGFレセプター、PDGF、PDGFレセプター、一酸化窒素合成酵素、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−1β、MMP、TNFαまたはアンジオポエチン−2を抑制する薬剤の投与によりアルツハイマー病を処置する方法が提供される。かかる薬剤の例としては、限定するものではないが、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、イマチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レフルノミド(SU101)、ミドスタウリン(PKC412)、バタラニブ(PTK787/ZK222584)、AG013736、AZD2171、CP547,632、CP673,451、RPI.4610、VEGFトラップ、ZD6474、YM359445、インフリキシマブおよびレスベラトロールが挙げられる。ある態様では、γ−分泌酵素活性を刺激するおよび/またはノッチ標的遺伝子の発現を刺激する薬剤の投与により、アルツハイマー病を処置する方法が提供される。
【0045】
siRNAまたはアンチセンス技術の使用などの遺伝学的手法による血管新生分子の発現の抑制も考えられている。ベクターにより発現された単鎖抗体などの抗体やペプチドを使用した血管新生分子の活性の抑制も考えられている。
【0046】
いくつかの態様では、血管新生において役割を果たすことが示されているニューロピリン−1またはネスチンを抑制する薬剤の投与によって、アルツハイマー病を処置する方法が提供される。例えば、可溶性ニューロピリン−1は、血管新生を低減させることが知られている。
【0047】
本明細書で実証されるように、脳の微小血管構造からAβペプチドを除去することにより、血管リバースおよびタイトジャンクションの回復がもたらされる。従って、ある態様では、血管リバースを促進する方法は、例えば、Aβに選択的に結合する抗体や他の化合物などのAβペプチドを除去する薬剤、またはAβそれ自身を投与することを含む。本発明のいくつかの態様は、Aβペプチドに対する内因性抗体の産生を刺激する方法を提供する。いくつかの態様は、Aβペプチド単独または例えば抗血管新生薬などの他の治療薬を組み合わせて投与することによって、アルツハイマー病を有するまたはアルツハイマー病を発症するリスクのある対象の脳において血管リバースを促進する方法を提供する。
【0048】
血液脳関門の破壊は、アルツハイマー病における他の病変に先行することが知られている。従って、ある態様では、抗血管新生薬または脳血管におけるタイトジャンクションを回復する薬剤の投与により、患者における血液脳関門の完全性を回復することによって、アルツハイマー病と関連する1つまたは2つ以上の疾患病変の発症を遅延または予防する方法が提供される。ある態様では、かかる薬剤の投与により疾患予後を改変する方法が提供される。
【0049】
ある薬剤は、血液脳関門および/またはタイトジャンクション完全性の回復に作用することが当該分野で知られている。本発明のいくつかの態様は、これらの薬剤の使用を含む治療方法を提供する。かかる薬剤の例としては、限定するものではないが、ブリオスタチン−1、ブチリル酸ナトリウム、レスベラトロール、ケルセチン、デカルシンおよびクラスタリンが挙げられる。グルココルチコステロイド類も血液脳関門の完全性を回復することが示されおり (Marchi, et al., 2011, Cardiovascular Psychiatry and Neurology, Vol. 201, Article ID 482415)、本発明の治療方法での使用が考えられている。
【0050】
アルツハイマー病における血液脳関門およびタイトジャンクションの破壊は、滲出型黄プラーク変性症で起こる血液網膜関門(BRB)の破壊と類似している。従って、本発明のある態様では、例えばVEGF阻害剤や抗酸化剤などの、滲出型黄プラーク変性症の処置に使用されるまたはそのために開発中の薬剤を、アルツハイマー病を処置するために使用することが提供される。かかる薬剤の例としては、限定するものではないが、ラニビズマブ(ルセンティス(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ペガプタニブ(マクジェン(登録商標))、VEGFトラップ、ベバシラニブ、パゾパニブ(ヴォトリエント(商標))、RTP801i−14//PF−655、AGN−745/SIRNA−027、フェンレチニド、iSONEP(商標)、エビゾン(商標)が挙げられる。
【0051】
血液脳関門およびタイトジャンクションの破壊は、多発性硬化症(MS)において起こることが知られており、血液脳関門の完全性を改善する多くの薬剤が多発性硬化症の処置のために開発されている。従って、本発明のある態様では、多発性硬化症の処置またはその開発に使用される薬剤を、アルツハイマー病を処置するために使用することが提供される。例としては、限定するものではないが、インターフェロンβ1a(例、アボネックス(登録商標)、レビフ(登録商標)、シノベックス(登録商標))およびインターフェロンβ1b(例、ベタフェロン(登録商標)、ベータセロン(登録商標)、エクスタヴィア(登録商標)、ジフェロン(登録商標))などのインターフェロンβ類が挙げられる。ある態様では、グラチラマー・アセテート(コパクソン(登録商標))、ナタリズマブ(タイサブリ(登録商標))および/またはフィンゴリモド(ジレニア(登録商標))など、他の多発性硬化症の処置の使用も、これらの化合物の血液脳関門の完全性に対する有効性はあまり記述されてはいないが、本発明の治療方法での使用が考えられている。
【0052】
グルココルチコステロイド、抗酸化剤、抗炎症剤、免疫療法などの他の処置様式と抗血管新生薬の組合せのような、抗血管新生薬との併用も本発明のある態様において考えられている。本発明のいくつかの態様では、抗血管新生薬とAβペプチド免疫との併用が提供される。
【0053】
ある態様では、前記患者または対象が、アルツハイマー病に関連する公知のリスク因子を有さない、またはアルツハイマー病に関連するリスク因子を有すると特定されていない。他の態様では、前記患者または対象が、アルツハイマー病に関連する1つまたは2つ以上のリスク因子を有すると特定されている。これらのリスク因子としては、限定するものではないが、座りがちな生活様式、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、滲出型黄プラーク変性症、脳卒中、高コレステロール血症、脳アミロイド血管症、脳血管疾患、高血圧、低血圧、震盪症、手術、化学療法、麻酔剤暴露、代謝疾患またはメタボリック症候群、ダウン症、白内障、嗅覚および味覚の消失、歩行変化、認識・記憶能力の変化およびMRI測定脳容積(サイズ縮小またはサイズ変化)が挙げられる。
【0054】
診断方法
本発明のある側面は、アルツハイマー病を発症するリスクにあるまたは早期アルツハイマー病を有する対象を特定する診断方法であって、対象の脳における血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊を検出することを含む、前記方法を提供する。血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊は、例えば、血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門の破壊を示すバイオマーカーについて対象からの生物学的サンプルを分析試験すること、または当該分野で公知の医用画像技法を使用して血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門の破壊を分析試験することにより検出可能である。
【0055】
本発明の文脈において、生物学的サンプルは、生物学的材料を含むサンプルである。限定するものではないが具体例としては、血液、血清、血漿および脳脊髄液が挙げられる。生物学的サンプルには、例えば、脳組織などの生検サンプルも含まれる。
【0056】
血管新生の検出に使用可能なバイオマーカーの例としては、例えば、VEGF、FGF−2、MMP−9、IL−8、IL−6、HGFなどの循環血管新生因子;sVEGFR1、sVEGFR2、sVEGFR3、sTie−2、VCAM−1などの内皮細胞由来分子;エンドスタチン、タムスタチンなどの他の循環タンパク質またはペプチドが挙げられる。
【0057】
タイトジャンクション破壊の検出に使用可能なバイオマーカーの例としては、例えば、IL−8、シングリン、ZO−1、ZO−2、オクルディン、クローディン−6、Lfc、E−カドヘリン類、およびこれらのタンパク質の可溶化体または断片が挙げられる。
【0058】
血液脳関門破壊の指標として血液中に検出可能なバイオマーカーは通常、一般に通常脳脊髄液(CSF)に存在するタンパク質である。かかるバイオマーカーの例としては、例えば、トランスサイレチン (Marchi, et al, 2003, J. Neuroscience, 23(5): 1949-1955 参照 )、S−100β、可溶性接合部接着分子−3(sJAM−3) (Zrabquer, et al.,2010, J. Immunol., 185(3):1777-1785 参照) が挙げられる。
【0059】
サンプル中のかかるバイオマーカーをタンパク質またはDNA/RNAレベルで検出する方法は当該分野で公知であり、例えば、ELISA、ウェスタンブロット、プロテオミクス、様々なPCRに基づく技法および様々な配列技法が挙げられる (Ausubel et al. (1994 & updates) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons, New York, NY, and Current Protocols in Protein Science, ed. Coligan, J.E., et al., Wiley & Sons, New York, NY など参照)。
【0060】
好適な医用画像技法には、一般に(例えば、静脈内または髄腔内注射により)血管構造を増強する造影剤やトレーサーの投与が含まれる。画像は、例えば磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射型断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影法(CT)、超音波法などから選択された画像法で、造影剤の投与前および投与後に適切な時間間隔で取得される。造影剤およびトレーサーの例としては、限定するものではないが、ガドリニウムキレートトレーサー、ヨウ素に基づくトレーサー、H
215Oトレーサー、マイクロバブル、さらに血管標的に対するモノクロナール抗体またはペプチドに結合するトレーサーが挙げられる。
【0061】
所与の処置における有効性をモニタリングする方法も、本発明のひとつの態様で提供される。有効性は、例えば処置前および処置後の様々な時点で対象からサンプルを採取し、血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊に対する処置の効果を評価するために、上述のように血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊を示すバイオマーカーについてサンプルを分析試験することにより評価することが可能である。あるいは、血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊に対する処置の効果を評価するために、処置前および処置後の様々な時点で、前記対象を、上述したように血管新生、タイトジャンクション破壊および/または血液脳関門破壊を分析試験するための医用画像技法に付すことが可能である。
【0062】
スクリーニング法
本発明のある側面は、候補薬剤の、脳血管におけるタイトジャンクションを回復するおよび/または血管リバースを促進する能力をテストすることによって、アルツハイマー病の処置用の薬剤を特定する方法を提供する。ある態様では、前記方法が、脳血管におけるタイトジャンクションを回復するおよび/または血管リバースを促進する能力を有するものを選ぶために、公知の抗血管新生薬をスクリーニングするために用いられる。
【0063】
スクリーニング法は、生体外で適切な細胞培養物でまたは生体内で適切な動物モデルにおいて実施することが可能である。
【0064】
生体外テストのために、血液脳関門の機能的生体外モデルを提供可能な、脳毛細血管内皮細胞、不死化ヒト脳内皮株化細胞HCMEC/D3、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、不死化ヒト微小血管内皮株化細胞HMEC−1などの適切な株化細胞の培養物を、タイトジャンクションを破壊する薬剤、例えば血清または血清由来因子(リゾホスファチジン酸(LPA)、VEGFなど)、IL−2、またはインターフェロンガンマで処理してもよい。その後、培養物を候補薬剤と接触させ、タイトジャンクションの回復の程度を適切な時間間隔の後に測定する。タイトジャンクションの回復は、例えば、ZO−1、オクルディン、クローディンなどのタイトジャンクションタンパク質の局在を決定する免疫組織化学的方法、顕微鏡による視覚的観察、または経内皮電気抵抗(TER)により評価可能である。
【0065】
生体内テストのために、適切な動物モデルが使用される。アルツハイマー病の様々な動物モデルが当該分野で公知である(例えば、Handbook of Animal Models in Alzheimer's Disease,Ed. G. Casadesus, 2011, IOS Press, Inc., Fairfax, VA 参照)。好適なマウスモデルの例としては、本明細書に記載の例において記述されるTg2576マウスモデルだけでなく、Bri−wt−Aβ1−42A、PDAPP、APP−London、APP
NLh/NLh、C3−3、R.1.40、APP23、Tg−CRDN8、APPDutch、Tg−SweD1、Tg−ArcSwe、APParc、PSAPP、3xTg−AD、5xFAD、APP/PS1K1、TBA2が挙げられる。
【0066】
一般に、生体内テストのために、テスト動物を、テスト群と候補薬剤を投与しない対照群を含む複数の群に分別する。所望であれば、タイトジャンクション完全性を回復することが既知の薬剤を投与する陽性対照群を含んでもよい。前記候補薬剤をテスト群に投与し、例えば処置の結果として外部に出現した何らかの変化をチェックするなどして動物を定期的にモニタリングする。適切な時間の経過後、動物を屠殺し、脳血管におけるタイトジャンクションの完全性を定法で評価する。例えば、免疫組織化学的方法を使用して、ZO−1、オクルディン、クローディンなどのタイトジャンクションのタンパク質の局在を決定することが可能であり、あるいは生検で得たサンプルを顕微鏡で視覚的に観察してもよい。上述のような血液脳関門またはタイトジャンクションの完全性に関するバイオマーカーへの候補薬剤の有効性の評価と同じように、エバンスブルー染料に対する血液脳関門の透過率を測定して評価することも可能である。
【0067】
本発明のある態様では、血管新生を抑制する候補薬剤の能力をテストすることにより、アルツハイマー病の予防および/または処置に有用であろう薬剤を特定する方法が提供される。例えば、前記薬剤を、それらの内皮細胞増殖または毛細管形成を抑制する能力に関してテストしてもよい。ある態様では、血管新生タンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制するまたは血管新生の阻害剤をコードする遺伝子の発現を高める候補薬剤の能力をテストすることにより、アルツハイマー病の予防および/または処置に有用であろう薬剤を特定する方法が提供される。目的とする遺伝子のプロモーターをレポーター遺伝子(蛍光タンパク質など)へ連結するレポーター遺伝子アッセイが、当該分野で公知である。ある態様では、血管新生を抑制する候補薬剤の能力をテストする方法も提供される。具体的な態様では、前記テスト方法は、Aβまたはアミロイド誘引血管新生を抑制する候補薬剤の能力をテストする。血管新生を抑制する方法は当該分野で公知であり、限定するものではないが、内皮細胞増殖アッセイ、毛細管形成アッセイ、CAMアッセイ、角膜ポケットアッセイが挙げられる。
【0068】
本明細書に記載する本発明をより良く理解するために、以下に例を記載する。これらの例は本発明の例示的な態様の記載を意図するものであり、本発明の範囲の限定を意図するものでは決してないと理解されたい。
【0069】
例
例1:アルツハイマー病の病態生理における血管新生および血液脳関門タイトジャンクション破壊の併発
概要:
例1に記載する研究は、アポトーシスおよび血管新生のマーカーと組み合わせて、タイトジャンクション(TJ)のタンパク質であるオクルディンおよびZO−1の発現を調べることにより、スウェーデンの家系に見つかった早発性ADを引き起こす2つのミスセンス突然変異を含む、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)を過剰発現するTg2576ADモデルマウスにおける脳血管完全性をキャラクタリゼーションするために行った。同年齢の野生型同腹仔および両遺伝子型の若年マウスと比較して、老齢ADマウスにおけるタイトジャンクション破壊の発生率の有意な増加は、アポトーシスではなく微小血管密度の増加と直接関連しており、それは、血液脳関門破壊の根拠としてAβ(アミロイドβペプチド)誘因血管過多を強く支持するものである。ヒト患者における血管過多は、ADおよび対照の死後の脳組織の比較により実証された。ここに記載する結果は、Aβが血管新生に因る血液脳関門破壊を媒介し、関門を維持するタイトジャンクションの再分布をもたらすことを示している。
【0070】
本研究の目的は、Tg2576ADマウスにおけるタイトジャンクション形態によりAβと血液脳関門の完全性との関係をキャラクラリゼーションし、ADにおける血液脳関門破壊を説明可能な機序を見つけることである。本研究の結果は、Tg2576マウスが、血管新生増加に関連する血管密度増加に直接関連する顕著なタイトジャンクション破壊を有していたことを示している。
【0071】
材料と方法:
マウス
本研究では、Tg2576遺伝子導入(Tg/+)マウスを使用した。これらのマウスは、ハムスタープリオンタンパク質プロモーター(タコニック社)の制御下において、スウェーデンのミスセンス突然変異(K670N/M671L)を含む、ヒトAPP695を発現する [Hsiao et al. (1996) Science 274: 99-102]。マウスは、ヘテロ接合体Tg2576オスをC57Bl6/SJL F1メスと交配することによりC57Bl6/SJL混合型遺伝背景を維持した。野生型(+/+)同腹仔を対照として使用した。老齢マウスは、18〜24ヶ月齢であり、一方若年マウスは5ヶ月齢であった。マウスは標準的なラボ固形飼料と水を自由摂取で飼育し、12時間の明暗サイクルで保持した。
【0072】
ヒト脳組織の分類
キャラクタリゼーション済みの死後の内側皮質および海馬脳の組織参照標準物質は、ブリティッシュコロンビア大学のキンズメンラボラトリー脳バンク(バンクーバー、BC、カナダ)から入手した。無疾患(ND)およびAD患者からの脳の参照標準物質を使用した。各患者の臨床的および病理学的病歴の分類は、[Jantaratnotai et al. (2010) Curr Alzheimer Res 7: 625-636] に記載したものと同じである。
【0073】
組織調製
マウスはアベルチン(0.02mL/1g)で終末麻酔をした。脳を迅速に摘出し、嗅球を除去し、4℃で4日間4%パラフォルムアルデヒド中で後固定した。その後、脳をパラフィンに包埋し、5μmの連続切片を作成した。パラフィン包埋、切片作成、脱パラフィンは、ワックスイット・ヒストロジー・サービス社(バンクーバー、BC、カナダ)が行った。免疫ブロットのために、脳を迅速に摘出し、Hagihara et al.[Hagihara et al. (2009) J Vis Exp. 33: pii 1543] により示された方法を使用して海馬および新皮質を両大脳半球から単離した。
【0074】
免疫染色
脱パラフィン切片からの抗原回収は、従来の料理用圧力鍋で0.7mMのEDTA添加20mMトリスバッファー(pH9.0)を使用して、最大パワーで2分間行った。その後、冷却したスライドを、ブロッキングバッファー(25%正常ヤギ血清、3%BSA、0.3%トリトンX100、シグマ社)中で室温にて1時間インキュベートした。一次抗体としては、ウサギ抗ZO−1(1:200、インビトロジェン社)、マウス抗ZO−1(1:200、インビトロジェン社)、ウサギ抗オクルディン(1:200、インビトロジェン社)、ウサギ抗活性化カスパーゼ3(1:1000、イムジェネックス社)、マウス抗ヒトCD105(1:20、ダコ社)を使用した。一次抗体染色は、染色バッファー(10%正常ヤギ血清、3%BSA、0.3%トリトンX100)中で4℃で一晩行った。ヤギ一次抗体で染色するときは、正常ロバ血清を使用した。使用した二次抗体は、アレクサフルオル488または568(1:500、インビトロジェン社)のどちらかと結合したもので、一次抗体化学種に相補的なものであった。二次抗体染色は、染色バッファー中室温で1時間行った。TOTO−3(1:10000、インビトロジェン社)を核対比染色に使用した。切片は、各染色工程の間に、0.1%Tween20(シグマ社)添加PBSで3回各5分間洗浄した。染色した切片上に、フルオロマウントG(サザンバイオテック社)を使用してカバースリップを載せ、暗所で一晩風乾した。
【0075】
ヒト脳組織は、 [Ujiie (2003) et al. Microcirculation 10: 463-470] に記載の方法を使用して染色した。簡単に述べると、浮遊性の30μm厚の切片を、抗ラミニン一次抗体(1:100、ウサギ、シグマ社)で免疫標識した。その後、切片を適切なビオチン化二次抗体(1:1000、ダコ社)で室温で1時間処理後、アビジン・ビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(1:1000、ABCエリート、ベクターラボ社)中でインキュベートした。ペルオキシダーゼ標識は、0.01%の3,3−ジアミノベンジジン(DAB、シグマ社)溶液中でインキュベートすることにより可視化した。濃紫/黒色を呈示したとき、切片を洗浄し、ガラススライドにマウント、風乾し、エンテラン(EMDバイオサイエンス社)を使用してカバースリップを載せた。
【0076】
タイトジャンクション形態の共焦点および定量分析
脳切片としては、パラフィンブロックから得た5つ目毎の切片を分析した。40x/1.3Plan−Neoflaur油浸対物レンズを使用してツァイスLSM510Meta(ツァイス、ドイツ国)で撮像した画像が、Z面に沿って16スライスを用いて、4回平均化して得られた。合成投影画像を600dpiでアドビフォトショップ(登録商標)に取り込み、コントラストと輝度を最適化した。タイトジャンクション形態の定量分析は、Plumb et al. [Brain Pathol 12: 154-169] により開発された方法に従って分析した。共焦点データセットは、前頭皮質および海馬における若年および老齢Tg2576ならびに同腹仔対照の約100個の脳血管から得た。個々の血管は、ZO−1発現に関して正常(1)または異常(0)のどちからとして点数化した。正常ZO−1発現は、強く、連続した、顕著な、直線状染色として判断した。それとは対照的に、異常ZO−1発現は、弱く、点状および/または不連続な染色として判断した。異常ZO−1血管発現を、正常対照に見られた正常血管または疾患脳の正常血管と比較した。ZO−1染色において観察された「ギャップ」のために、不完全なまたは波状の血管を異常として記録することを避けるために、血管連続性の証拠を画像で確かめた。例えば、(TOTO−3で)染色された核または点状もしくは散在したZO−1残余物の存在を使用して、血管路に沿った異常ギャップの位置を決定した。タイトジャンクション破壊の発生率は、脳の所与の領域における異常タイトジャンクション形態を示した血管の割合の平均として定義した。
【0077】
マウス組織における微小血管密度定量
微小血管密度(MVD)の定量は、Guo et al. [Angiogenesis 4: 187-191] により開発された方法を多少改良して共焦点顕微鏡法により行った。血管新生脳血管構造のマーカーとしてCD105 [Holley et al. (2010) Neurosci Lett 470: 65-70] を使用し、ツァイスLSM510Metaソフトウェアを使用して蛍光強度が最大である画像を取得、分析した。高密度のCD105染色(「ホットスポット」)[Weidner et al. (1991) N Engl J Med 324: 1-8] を含む脳切片の区域を、前述の共焦点画像解析パラメーターを使用して20x/0.45N−アクロプラン対物レンズで画像化した。各ホットスポットについて前記ソフトウェアによりバックグラウンドより高い全蛍光面積(TFA、単位μm
2)を積分した。マウス一匹につき4つの異なるホットスポットの平均TFAを定量した。TFAを、CD105抗体により染色された全微小血管の数値表示として使用した。画像化した視野の微小血管密度は、画像の全面積に対するTFAの比として表した。
【0078】
ヒト組織における微小血管密度定量
マウスにおける微小血管密度を定量した方法と同様に、ホットスポット法を使用してMVDを定量した。簡単に述べると、高密度(「ホットスポット」)[Holley (2010) et al. Neurosci Lett 470: 65-70] ラミニン染色を含む脳切片内の区域を、DVCカメラ(ダイアグノスティック・インスツルメンツ社)搭載ツァイスアキシオプラン−2光学顕微鏡でオリンパスLCプランFL20x/0.40対物レンズを使用して画像化した。微小血管密度の定量は、ImageJ (Rasband, W.S., ImageJ v1.44p, U. S. National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA, http://rsb.info.nih.gov/ij/, 1997-2011) を使用して行った。バックグラウンド閾値レベルは、最初は、一次抗体なしに処理した対照スライドにおいて、元の白黒画像から得た8ビットグレースケールから決定した。対応する閾値よりも大きい染色強度を有するピクセルの割合を使用して、各ホットスポットに関してラミニン染色した面積の割合を積分した。一人の患者のひとつの脳領域につき4つの異なるホットスポットのラミニン染色した面積の割合の平均を定量した。画像化したフィールドの微小血管密度を、画像の全面積に対するラミニン染色した面積の割合として表した。
【0079】
定量ウェスタンブロット分析
単離した新皮質および海馬組織を、19Hzに設定したキアゲンティッシュライザーIIを使用して1%NP−40溶解バッファー(20mMのトリス塩基(pH8.8)、2mMのEDTA、150mMのNaCl、プロテアーゼ阻害剤添加1%NP−40(ロシェ社))中で20分間ホモジナイズした。ゲノムDNAをせん断するために、ホモジナイズしたサンプルを、21ゲージ針を10回通過させ、氷上で30分間インキュベートした。得られたホモジネートを、4℃、14000xgで30分間遠心分離した。上澄みのタンパク質濃度はBCAアッセイ(ピアス社)により決定し、サンプルはレーン毎に最終濃度を30μgに調整した。タンパク質を標準技法に従って10%SDS−PAGEゲル中で分解した。免疫ブロットは、ウサギ抗オクルディン(1:1000、インビトロジェン社)、マウス抗ヒトCD105(1:1000、ダコ社)およびマウス抗βアクチン(1:1000、サンタクルーズ社)を使用してニトロセルロース膜(ポール社)上で行った。アレクサフルオル680結合抗ウサギIgG(インビトロジェン社)およびIRダイ800結合抗マウスIgG(ロックランド社)を、二次抗体として使用した。すべての抗体希釈液はミルクタンパク質溶液で作成した。シグナル強度をオデッセイ赤外線イメージングシステム(LICOR社)を使用して分析した。
【0080】
統計分析
すべての実験は、3組ずつで少なくとも3回行った。老齢および若年Tg2576ADマウスならびに野生型対照同腹仔のデータの統計比較は、ボンフェローニ事後テストで不一致の値に対して、スチューデントt検定または2元配置分散分析のどちらかで行った。統計分析はすべてグラフパッドプリズム(Windows(登録商標)用v5.01、グラフパッドソフトウェア、サンディエゴ、カリフォルニア、米国、www.graphpad.com)を使用して行った。0.05未満のp値を有意とみなした。値は平均値±SEMで表した。
【0081】
結果:
Tg2576マウスは、脳血管タイトジャンクションにおける異常形態の発生率が高い。
タイトジャンクション形態の変化を評価するために、ともに確立されたタイトジャンクションマーカーであるオクルディンおよびZO−1の染色パターンを、共焦点顕微鏡で観察した。タイトジャンクション形態のキャラクタリゼーションは、野生型およびTg2576マウスの新皮質、海馬および脈絡叢を含むいくつかの脳領域において行った。観察したほぼすべての血管が長さ方向に切断されていた。横断された血管はまれであった。脳血管構造内の強い、連続した、直線状のオクルディンおよびZO−1の染色パターンは正常とみなされ、年齢または遺伝子型にかかわらず皮質または海馬の両方で区別不能であった[
図1:A、C、E、G]。血管路の薄い輪郭は核対比染色により強調することで、ジャンクションの異常を見つけることを容易にした。対照と比較して、Tg2576マウスは、新皮質および海馬のそれぞれにおけるオクルディン[
図1:BおよびF]およびZO−1[
図1:DおよびH]の点状染色の発生率が高かった。ADの影響を受けない脳の領域である脈絡叢は、すべてのマウスにおいてオクルディンおよびZO−1の両方で正常なタイトジャンクションパターンを示した(データ示さず)。
【0082】
タイトジャンクションの破壊は、異常形態を示す血管の割合の平均を計算することにより定量した。老齢Tg2576マウスの新皮質では、タイトジャンクション破壊が、野生型同腹仔(平均10%)と比較して有意に増加した(30.50±1.94%;***p<0.001、2元配置分散分析)[
図2:A]。また、老齢Tg2576と若年Tg2576マウスとの間でタイトジャンクション破壊の発生率に有意な差があった(*p<0.05、2元配置分散分析)[
図2:A]。
【0083】
同様の結果が海馬においても見られた。野生型同腹仔(平均10%)と比較して、老齢Tg2576マウス(24.75±2.32%;***p<0.001、2元配置分散分析)では、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に増加した[
図2:C]。若年Tg2576マウスと比較して、老齢Tg2576マウスにおいて、タイトジャンクション破壊の発生率が有意に増加した(*p<0.05、2元配置分散分析)[
図2:C]。皮質および海馬の両方において、両遺伝子型の若年マウスにおけるタイトジャンクション破壊の量は、平均約10%であり、有意ではなかった。
【0084】
老齢Tg2576マウスの新皮質および海馬におけるオクルディンタンパク質レベルを、ウェスタンブロットにより検討した。野生型(6.81±0.80、**p=0.0072、t検定)と比較して、皮質におけるβアクチンに対するオクルディンの比は、遺伝子導入マウス(3.78±0.49)ではほぼ半分に減少した[
図2:B]。海馬においても、野生型(10.31±1.15、**p=0.0076、t検定)と比較して、老齢Tg2576マウス(5.89±0.76)では、βアクチンに対するオクルディンの比に同様の減少が見られた[
図2:D]。
【0085】
老齢Tg2576の脳では、アポトーシスのシグナルが制限され、血管新生の脳血管シグナルが増加した。
老齢Tg2576マウスにおいて観察された脳血管タイトジャンクションの異常を説明するための機序の可能性として、アポトーシスおよび血管新生を調べた。活性化カスパーゼ3をアポトーシスのマーカーとして使用した[
図3:C−E]。調べたすべての切片において、内皮細胞における活性化カスパーゼ3免疫反応性はなかった。活性化カスパーゼ3染色は他の細胞タイプにおいてみられ、糸状形態であった。若年および老齢野生型マウスでは、新皮質内での活性化カスパーゼ3染色は大変限られていた[
図3:C]。タイトジャンクションの異常を示す皮質および海馬における血管は[
図3:D]、血管に隣接または重複する神経細胞様の染色を示した[
図3:D(白色矢印)]。すべてのマウスは、CA1、CA2、CA3、DG領域において様々な程度で活性化カスパーゼ3の海馬染色が見られた。若年Tg2576および野生型(若年および老齢の両方)では、皮質に比べて海馬において活性化カスパーゼ3染色濃度が有意に高かった。若年Tg2576および野生型(すべての年齢)マウスのカスパーゼ3海馬染色の全体の密度は、老齢Tg2576マウスのものよりも低いことがわかった。しかしながら、老齢Tg2576マウスは、新皮質および海馬内の両方において顕著な活性化カスパーゼ3染色を示し、それはおそらくプラークの位置を中心に集まる傾向があった。
【0086】
血管新生を評価するために、確立された内皮マーカーであるCD105を使用した [Duff et al. (2003) FASEB J 17: 984-992]。CD105は、年齢および遺伝子型にかかわらずすべての血管において均一な染色を示した。しかしながら、同年齢野生型同腹仔および両遺伝子型の若年マウスと比較して、老齢Tg2576では、CD105が染色された血管の割合が高かった[
図3:B]。
【0087】
老齢Tg2576マウスは微小血管密度が増加した。
老齢Tg2576マウスにおいてCD105が染色された血管の割合が高いことを先に指摘した。若年および老齢Tg2576マウスならびに同年齢野生型同腹仔の脳において、微小血管密度(MVD)をCD105染色により定量した。微小血管密度は、画像化したフィールドの全面積に対するTFAの比として定義し、血管新生の代理測定値として使用した。野生型と比較して、老齢Tg2576マウスの微小血管密度は有意に高かった。老齢Tg2576マウスの平均微小血管密度(0.4453±0.0146;***p<0.001、2元配置分散分析)は、野生型(0.1882±0.0010)[
図4:A]のものの2倍以上であった。若年Tg2576マウスと比較したとき、老齢Tg2576の微小血管密度は1.5倍以上であった(*p<0.05、2元配置分散分析)。若年Tg2576マウスは平均微小血管密度が高い傾向にあるが(0.2674±0.0161)、その差は、野生型(0.2321±0.0110)と比較して有意ではなかった[
図4:A]。
【0088】
老齢Tg2576および野生型マウスの新皮質および海馬の両方におけるCD105タンパク質発現レベルをウェスタンブロットにより定量した。皮質におけるβアクチンに対するCD105の比は、野生型(2.52±0.27、***p<0.001、t検定)と比較して、Tg2576マウス(4.57±0.27)ではほぼ2倍であった[
図4:B]。海馬におけるβアクチンに対するCD105の比は、野生型(3.53±0.46、*p<0.05、t検定)と比較して、老齢Tg2576マウス(5.66±0.62)では同様の増加を示した[
図4:C]。
【0089】
ヒト組織の予備的な観察では、無疾患(ND)およびAD患者の脳におけるラミニン染色量の数量化を、ブリティッシュコロンビア大学のキンズメンラボラトリー脳バンクから得た慎重に検証したケースで行った。脳血管密度の増加がADの動物モデルからヒトにおける臨床疾患までみられることを支持するために、これらのサンプルを、死後の内側皮質および海馬脳組織の参照標準物質として使用した [Jantaratnotai et al. (2010) Curr Alzheimer Res 7: 625-636]。AD参照標準の皮質では、面積率による平均微小血管密度は、ND患者(7.25±1.25%)と比較してほぼ2倍であった(12.23±1.28%、*p<0.05、t検定)[
図4:D]。同様に、AD参照の海馬は、ND参照(7.10±0.23%)と比較して、平均微小血管密度が2倍であった(11.35±0.60%、***p<0.001、t検定)[
図4:E]。AD患者におけるラミニン染色から求めた皮質脳血管密度の増加率は[
図4:G]、ND患者対照と比較して、代表的画像に視認可能である[
図4:F]。海馬組織は、ADおよびND患者で同様の染色パターンを示した(データ示さず)。
【0090】
考察
エバンスブルー染料法を使用した定量により、Tg2576ADモデルマウスにおいて血液脳関門が損なわれており、Aβで免疫することによりその崩壊が低減可能であることが既に証明されている [Ujiie et al. (2003) Microcirculation 10: 463-470; Dickstein et al. (2006) FASEB J 20: 426-433]。アミロイドプラークなどの他のAD神経病変に先行する血液脳関門の完全性の低下は、脳血管増生とアルツハイマー病(AD)との強い関連を示した。しかしながら、現在の定説では、ADにおける血液脳関門漏出は血管劣化およびアポトーシスによるらしいということになっている。例1に記載した本研究の目的は、血管新生および血管過多がADにおける血管透過性の増加の根底にあるという仮説をテストするためであった。血液脳関門の完全性は、スウェーデンの家系に見つかった早発性ADの原因となる2つのミスセンス突然変異を含む、ヒトAPPを発現するTg2576ADマウスにおけるタイトジャンクション形態を観察することにより評価した。5ヶ月齢(疾患発症前)および老齢18ヶ月齢以上(疾患発症のかなり後)の2つの別々の年齢群のマウスを観察した。老齢Tg2576マウスは、対照と比較して、異常なタイトジャンクションを有意に発現することがわかり、これは異常な血管新生増加と関連していた。合わせて考えると、Aβ誘引血管新生が、Tg2576マウスにおいて、タイトジャンクションのレベルで血液脳関門崩壊を引き起こしたようである。
【0091】
近年、AD病変の特徴である大きな塊状の細胞外Aβプラークが、ADにおいて神経変性作用を直接引き起こすかどうかが問われている。現在では、より小さく、より有毒な、可溶性のAβオリゴマーが直接疾患を開始すると考えられている (Sakono M, Zako T (2010) FEBS J 277: 1348-1358概説参照)。これら有毒なオリゴマーの存在が、内皮生存およびタイトジャンクションの発現に影響を及ぼす可能性がある。いくつかの生体外での証拠が、Aβによる内皮機能障害を示した。Marco et al. [Neurosci Lett 401: 219-224] は、Aβ1−42刺激内皮培養物が、クローディン、オクルディン、ZO−1などのタイトジャンクションタンパク質の異常な発現を誘引したことを示した。Gonzalez et al. [Gonzalez-Velasquez et al. (2008) J Neurochem 107: 466-477] は、より小さなAβ1−40凝集物が内皮細胞透過率およびZO−1の細胞質への再局在化を誘引することを示した。活性酸素種(ROS)を解毒する酵素の存在が、Aβが誘引する損傷に影響しなかったので、Aβ誘引ROSが血液脳関門漏出の原因である可能性は否定された [Nagababu et al. (2009) J Alzheimers Dis 17: 845-854]。しかしながら、細胞骨格タンパク質の再構築が、血液脳関門の完全性に直接影響していると考えられていた [Nagababu et al. ibid]。Aβ関連のROS産生の関与は現在再検討中であるが、ミクログリア活性および炎症などの他の起源や血清漏出によるROSが、血液脳関門の完全性に影響を及ぼす可能性はあるかもしれない [Pun et al. (2009) Free Radic Res 43: 348-364]。
【0092】
「Aβ*56」と呼ばれる、特定の毒性の高い十二量体の56kDaのAβオリゴマーと、Tg2576マウスにおける記憶喪失との直接の関与が示唆されている [Lesne et al. (2006) Nature 440: 352-357]。このオリゴマーは、Tg2576マウスの記憶欠損が最初に明らかになる約6ヶ月齢になったとき出現するが、それより若年のマウスには不在である [Lesne et al. ibid.]。本研究では、5ヶ月齢マウスが異常血管タイトジャンクションの増加傾向を示した。しかしながら、Tg2576マウスは、より早い4ヶ月齢から血液脳関門の完全性の損失を示し始める [Ujiie et al. (2003) Microcirculation 10: 463-470]。この間、毒性のより低いオリゴマーの堆積がこのマウスにおける血液脳関門の完全性に悪影響を与え始めている可能性がある。6ヶ月齢までに、有毒なAβ*56の存在がTg2576マウスに関連する一連の病理学的事象を開始すると仮定される。しかしながら、6ヶ月齢から13ヶ月齢までの間、Tg2576マウスにおけるAβ*56の相対レベルは不変であった [Lesne et al. ibid.]。この間におこるプラークおよび栄養障害性神経細胞の蓄積は、このマウスにおいて更なる病理学的損失を引き起こすのに十分である。これが、老齢Tg2576マウスにおいて異常な脳血管タイトジャンクションの発現が顕著となることを説明するかもしれない。
【0093】
例1に示す本研究では、活性化カスパーゼ3に対する抗体によっては、内皮アポトーシス性事象の検出はできなかった。しかしながら、若年(5ヶ月齢)および老齢(18〜24ヶ月齢)Tg2576ならびに対応する野生型マウスは、主として海馬内における非内皮の染色により活性化カスパーゼ3発現を示した。これらのデータは、広範な内皮細胞死の不在と一致する。アポトーシス性内皮細胞は本研究において観察されなかったが、生体外での証拠は、特にダッチ変異種に属する突然変異において、Aβが、培養した内皮細胞においてアポトーシスを誘引したことを示唆している [Fossati S, et al. (2010) FASEB J 24: 229-241; Miravalle et al. (2000) J Biol Chem 275: 27110-27116; Paris et al. (2005) Brain Res Mol Brain Res 136: 212-230]。
【0094】
血管新生も、脳血管内皮におけるタイトジャンクション破壊の機序のもう一つの可能性として検討した。ADの間に血管新生が起こることを示唆するいくつかの証拠がある。まず、神経炎症がADの病理学的特徴であり [Streit WJ, Mrak RE, Griffin WS (2004) J Neuroinflammation 1: 14]、血管新生を誘引可能なIL−1βなどのサイトカインの増加が随伴する [Pogue AI, Lukiw WJ (2004) Neuroreport 15: 1507-1510]。促進性血管新生成長因子薬であるVEGFも、これらのサイトカインにより誘発され [Schultheiss et al. (2006) Angiogenesis 9: 59-65] 、AD患者で増加する [Tarkowski et al. (2002) Neurobiol Aging 23: 237-243]。VEGFは内皮増殖を直接刺激する [Shibuya M (2009) FEBS J 276: 4636-4643]。Aβペプチド自身も、血管新生性を有することが示されている [Boscolo et al. (2007) Int J Mol Med 19: 581-587]。
【0095】
ここに記載する本研究では、CD105を、タイトジャンクションマーカーで標識した脳血管における血管新生を検討するために使用した。抗体染色は、タイトジャンクションの異常を有する血管を、異常を有さないものから区別することはできなかった [Duff et al. (2003) FASEB J 17: 984-992]。本研究では、CD105の明らかな汎内皮染色が、脳全体におけるCD105染色の密度、従って微小血管密度(MVD)を定量可能とするので大変有用であった。微小血管密度を、組織切片の所与の領域内に存在する血管新生の量の代理マーカーとして使用した。血管密度が大きいほど、血管新生がより多く起こったと考えられる。微小血管密度の測定は、標準化の欠如や、客観性の喪失をもたらす偏りを避けることを操作者に依存しているなど、限界がないわけではない [Goddard et al. (2002) Angiogenesis 5: 15-20]。にもかかわらず、老齢Tg2576マウスは、同年齢野生型マウスと比較して、微小血管密度がほぼ2倍であった。若年Tg2576マウスは微小血管密度に有意な差を示さなかったが、対照と比較して微小血管密度の増加の傾向があった。
【0096】
Tg2576マウスにおける血管新生には議論の余地がある。Paris et al [Neurosci Lett 366: 80-85] は、Tg2576マウスの血管新生が限定されていることを指摘した。汎内皮マーカーのPECAMを使用して、17ヶ月齢までのマウスにおける血管新生を定量した。文献においてどれが「最良の」抗体であるかについての合意はないが、PECAMは汎内皮発現に限定されず血漿や炎症細胞も通常免疫標識するので [Giatromanolaki et al. (1999) Oncol Res 11: 205-212]、PECAMはCD105と比較して血管新生マーカーとして支持されていない [El-Gohary et al. (2007) Am J Clin Pathol 127: 572-579]。一方、CD105は内皮細胞 [El-Gohary et al. ibid]、特に血管新生中のものと一貫して反応することを示しており、間質細胞や炎症細胞とは反応しない [Saad et al. (2003) J Gynecol Pathol 22: 248-253; Saad et al. (2004) Mod Pathol 17: 197-203]。ここに示すデータは、CD105関連微小血管密度の増加が、Tg2576マウスにおいて血管新生とタイトジャンクション異常が関連していることを間接的に示すことを、実証している。促進性血管新生シグナルがTg2576マウスにおいて検出されている。20ヶ月齢のTg2576マウスの皮質組織におけるVEGFの増加 [Burger et al. (2009) Int J Dev Neurosci 27: 517-523]は、血管新生がこのADモデルにおいて起きているという仮説を支持する。最後に、脳血管構造の血管新生と関連するマーカーの発現増加が、ヒトAD脳 [Jantaratnotai (2010) Curr Alzheimer Res 7: 625-636] (ラミニンまたはフォンウィルブランド因子発現)、 [Desai et al. (2009) J Neural Transm 116: 587-597] (インテグリンαV−β3発現)およびAPP23ADマウスモデル(β3−インテグリンサブユニット発現)において観察されている。しかしながら、これらの研究からの結論は、血管新生が、血管障害および血管死をもたらす神経炎症の結果として起こる血管の再構築の結果であることを教示している。
【0097】
ここに記載する研究では、Tg2576マウスにおける脳血管死の証拠は見つかっておらず、対照的に、両方のTg2576マウスにおける血管新生の大幅な増加の証拠が観察された。また、十分にキャラクタリゼーションされた死後の内側皮質および海馬脳組織の正常およびAD参照標準物質の予備的な観察では、これらの組織もADにおいて有意な血管過多が呈示されることを示している(
図4F−G)。
【0098】
要約すると、本研究は、Tg2576マウスにおいてタイトジャンクションの破壊が有意に増加し、これらの破壊は、加齢および疾患の重症化とともに現れる。これらのデータは、タイトジャンクション破壊が、Aβ産生の増加により引き起こされるADにおける極度の血管新生の間に起こる血管透過性の増加の結果であるというモデルを支持している。これらの病態生理的特徴は、顕著で重度であり、疾患発症の初期に現れ、ADの特徴的徴候としてタウおよびAβに匹敵する。
【0099】
例2:アミロイドβで免疫したアルツハイマー病マウスにおいて、血管過多およびタイトジャンクション破壊が解消する
概要:
例2に記載する研究は、アポトーシスおよび血管新生のマーカーと組み合わせてタイトジャンクション(TJ)タンパク質(オクルディンおよびZO−1)の発現を調べることにより、Tg2576ADモデルマウスにおける脳血管の完全性をキャラクタリゼーションすることである。老齢ADマウスにおいて、タイトジャンクション破壊の発生率の有意な増加は、微小血管密度の増加に直接関係していたが、アポトーシスには直接関係しておらず、これは、血液脳関門機能障害の根拠として血管過多を強く支持している。血管過多、タイトジャンクション組織化、および血液脳関門再シール形成のすべてが、Aβペプチドのワクチン接種により解決された。
【0100】
本研究は、能動的Aβ免疫ADマウスモデルにおいて、血液脳関門タイトジャンクションの完全性がAβの存在と関係していることを示した。脳実質からAβを除去すると、微小血管関連タイトジャンクション病変が消失し、血管新生を解消する。さらに、ヒト免疫試験において観察された脳アミロイド血管症(CAA)関連微小出血は、罹患した血管におけるタイトジャンクションの喪失により説明可能である。本研究は、血管再構築をADと関係付け、この再評価がAD患者の治療選択肢を改善するであろう。
【0101】
材料と方法
マウス
例1と同様。
【0102】
Aβワクチン接種
Aβワクチン接種は、Schenk et al. (Nature 400、173-177) により開発されたプロトコールを使用して、(Dickstein et al. (2006) FASEB J 20、426-433) に記載の方法で行った。簡単に述べると、治療的および予防的の2つの異なるワクチン接種方法を用いた。免疫の前に、マウスを伏在静脈から出血させ、血清を収集した。予防的アプローチでは、マウスは6週齢の初めにワクチンを接種し、12ヶ月で屠殺した。治療的方法で使用したマウスは、11ヶ月齢の初めにワクチンを接種し、15ヶ月で屠殺した。Aβペプチドは、各組の注射ごとに凍結乾燥粉末から新たに調製した。接種は、2mgのAβ(ヒトAβ1−40、ビーチャム社)を0.9mLの脱イオン水に添加し、完全に混合した。そして、100μLの10XPBSを添加し、最終的に1XPBS濃度を得た。溶液をボルテックスで攪拌し、翌日使用するまで37℃に一晩保った。1回目の免疫では、Aβ1−40(注射一回に付き抗原100μg)またはPBS(対照)を、フロイント完全アジュバント(CFA)と1:1(v/v)で混合した。この2週後およびその後1ヶ月毎に、Aβ1−40(100μg)またはPBSとフロイント不完全アジュバント(ICFA)の混合物1:1(v/v)を追加免疫した。5回目の免疫以降は、PBSまたはAβをそのまま注射した。注射は腹腔内に行った。
【0103】
組織調製
マウスはケタミン/キシラジン(100mg/kg;10mg/kg)で終末麻酔をした。脳を迅速に摘出し、嗅球を除去し、4℃で4日間4%パラフォルムアルデヒド中で後固定した。その後、脳をパラフィンに包埋し、5μmの連続切片を作成した。パラフィン包埋、切片作成、脱パラフィンは、ワックスイット・ヒストロジー・サービス社(バンクーバー)が行った。
【0104】
免疫染色
脱パラフィン切片からの抗原回収は、従来の料理用圧力鍋で0.7mMのEDTA添加20mMトリスバッファー(pH9.0)を使用して、最大パワーで2分間行った。その後、冷却したスライドを、ブロッキングバッファー(25%正常ヤギ血清;3%BSA;0.3%トリトンX100、シグマ社)中で室温にて1時間インキュベートした。一次抗体としては、ウサギ抗ZO−1(1:200、インビトロジェン社)、マウス抗ZO−1(1:200、インビトロジェン社)、ウサギ抗オクルディン(1:200、インビトロジェン社)、ウサギ抗活性化カスパーゼ3(1:1000、イムジェネックス社)、マウス抗ヒトCD105(1:20、ダコ社)を使用した。一次抗体染色は、染色バッファー(10%正常ヤギ血清;3%BSA;0.3%トリトンX100)中で4℃で一晩行った。ヤギ一次抗体で染色するときは、正常ロバ血清を使用した。使用した二次抗体は、アレクサフルオル488または568(1:500、インビトロジェン社)のどちらかと結合したもので、一次抗体化学種に相補的なものであった。二次抗体染色は、染色バッファー中室温で1時間行った。TOTO−3(1:10000、インビトロジェン社)を核対比染色に使用した。切片は、各染色工程の間に、0.1%Tween20(シグマ社)添加PBSで3回各5分間洗浄した。染色した切片上に、フルオロマウントG(サザンバイオテック社)を使用してカバースリップを載せ、暗所で一晩風乾した。
【0105】
タイトジャンクション形態の共焦点および定量分析
脳切片としては、パラフィンブロックから得た5つ目毎の切片を分析した。40x/1.3Plan−Neoflaur油浸対物レンズを使用してツァイスLSM510Meta(ツァイス、ドイツ国)で撮像した画像が、Z面に沿って16スライスを用いて、4回平均化して得られた。合成投影画像を600dpiでアドビフォトショップ(登録商標)に取り込み、コントラストと輝度を最適化した。タイトジャンクション形態の定量分析は、Plumb et al. (Brain Pathol 12: 154-169) により開発された方法に従って行った。共焦点データセットは、前頭皮質および海馬における若年および老齢Tg2576ならびに同腹仔対照の約100個の脳血管から得た。個々の血管は、ZO−1発現に関して正常(1)または異常(0)のどちからとして点数化した。正常ZO−1発現は、強く、連続した、顕著な、直線状染色として判断した。それとは対照的に、異常ZO−1発現は、弱く、点状および/または不連続な染色として判断した。異常ZO−1血管発現を、正常対照に見られた正常血管または疾患脳の正常血管と比較した。ZO−1染色において観察された「ギャップ」のために、不完全なまたは波状の血管を異常として記録することを避けるために、血管連続性の証拠を画像で確かめた。例えば、(TOTO−3で)染色された核または点状もしくは散在したZO−1残余物の存在を使用して、血管路に沿った異常ギャップの位置を決定した。タイトジャンクション破壊の発生率は、脳の所与の領域における異常タイトジャンクション形態を示した血管の割合の平均として定義した。
【0106】
微小血管密度定量
微小血管密度(MVD)の定量は、Guo et al. (Angiogenesis 4, 187-191) により開発された方法を多少改良して共焦点顕微鏡法により行った。血管新生脳血管構造のマーカーとしてCD105 (Masliah et al. (2005) Neurology 64, 129-131) を使用し、ツァイスLSM510Metaソフトウェアを使用して蛍光強度が最大である画像を取得、分析した。高密度のCD105染色(「ホットスポット」)(Bombois et al. (2007) Arch Neurol 64, 583-587) を含む脳切片の区域を、前述の共焦点画像解析パラメーターを使用して20x/0.45N−アクロプラン対物レンズで画像化した。各ホットスポットについて前記ソフトウェアによりバックグラウンドより高い全蛍光面積(TFA、単位μm
2)を積分した。マウス一匹につき4つの異なるホットスポットの平均TFAを定量した。TFAを、CD105抗体により染色された全微小血管の数値表示として使用した。画像化した視野の微小血管密度は、画像の全面積に対するTFAの比として表した。
【0107】
統計分析
すべての実験は、3組ずつで少なくとも3回行った。老齢および若年Tg2576ADマウスならびに野生型対照同腹仔のデータの統計比較は、ボンフェローニ事後テストで不一致の値に対して、スチューデントt検定または2元配置分散分析のどちらかで行った。統計分析はすべてグラフパッドプリズム(Windows(登録商標)用v5.01、グラフパッドソフトウェア、サンディエゴ、カリフォルニア、米国)を使用して行った。0.05未満のp値を有意とみなした。値は平均値±SEMで表した。
【0108】
結果
免疫Tg2576マウスは脳血管タイトジャンクション病変を低減する
タイトジャンクション(TJ)形態および病変のキャラクタリゼーションを、AβまたはPBSのどちらかで免疫したTg2576および野生型マウスの皮質および海馬において行った。脳血管構造内のオクルディンおよびZO−1の強く、連続した、直線状染色パターンは正常とみなされ(
図5a、b)、遺伝子型、免疫方法、または薬剤にかかわらず、皮質または海馬のどちらにおいても一貫しており区別不能であった。脳血管構造上のオクルディンおよびZO−1の両方の薄い点状およびまたは不連続な染色パターン(白色矢頭)は異常とみなした(
図5c、d)。タイトジャンクション異常の発現パターンは、遺伝子型、免疫方法、または薬剤にかかわらずすべてのマウスにおいて皮質および海馬において一貫しており区別不能であった。Aβ免疫Tg2576マウスにおいて観察した微小血管のほとんどは、正常なタイトジャンクションを有しており、タイトジャンクションの異常を示す血管はまれであった(
図5a、b)。しかしながら、予防的または治療的のどちらかでAβで免疫したTg2576マウスにおける大血管は、毛細血管と比較して、異常タイトジャンクション発現の割合が大きいようであった(
図5e、f、白色矢頭)。
【0109】
免疫マウスにおける脳血管タイトジャンクション病変の定量的評価
治療的または予防的方法の一環としてAβまたはPBSのどちらかで免疫したTg2576マウスにおいて、タイトジャンクション病変の発生率を共焦点顕微鏡により定量的に評価した。タイトジャンクションの病変の発生率は、異常タイトジャンクション形態を示す血管の割合の平均と定義した。PBSで予防的に免疫したTg2576マウスの皮質は、PBSの野生型(約10%)と比較して、破壊されたタイトジャンクション発現の割合が有意に高かった(29.00±4.02%;**p<0.05、2元配置分散分析)(
図6a)。Aβ免疫Tg2576マウスは、PBS遺伝子導入対応物と比較して、皮質における異常な血管タイトジャンクション発現の割合が有意に低かった(11.33±2.40%;*p<0.05、2元配置分散分析)(
図6a)。予防的に免疫したマウスでは、海馬におけるタイトジャンクション破壊の発生率は、皮質と同様であった。PBSで免疫したTg2576マウスは、PBSマウス(約10%)と比較して、有意に高い破壊を示した(29.75±1.89%;****p<0.05、2元配置分散分析)(
図6b)。Aβ免疫Tg2576マウスにおける海馬タイトジャンクション破壊は、PBS免疫Tg2576マウスと比較して有意に低かった(11.91±1.73%;***p<0.05、2元配置分散分析)(
図6b)。
【0110】
治療的に免疫したマウスは、予防的マウスと同様な血管タイトジャンクションの破壊の発生を示した。PBSで治療的に免疫したTg2576マウスの皮質では、PBS野生型(約10%)と比較して、破壊されたタイトジャンクション発現の割合が有意に高かった(28.67±4.91%;**p<0.05、2元配置分散分析)(
図7a)。Aβ免疫Tg2576マウスは、PBS遺伝子導入対応物と比較して、皮質における異常な血管タイトジャンクションの発現が有意に低かった(10.40±0.81%;*p<0.05、2元配置分散分析)(
図7a)。治療的に免疫したマウスでは、海馬におけるタイトジャンクション破壊の発生率は、皮質と同様であった。PBSで免疫したTg2576マウスは、PBS野生型マウス(約10%)と比較して、有意に高い破壊を示した(27.33±4.06%;****p<0.05、2元配置分散分析)(
図7b)。Aβ免疫Tg2576マウスにおける海馬のタイトジャンクション破壊は、PBS免疫Tg2576マウスと比較して有意に低かった(11.00±2.26%;***p<0.05、2元配置分散分析)(
図7b)。
【0111】
Aβ免疫Tg2576では、脳血管漏出が全体として減少した。
AβまたはPBSのどちらかで予防的または治療的に免疫したTg2576および野生型マウスにおいて、脳血管漏出およびタイトジャンクション異常を共焦点顕微鏡により評価した。マウスアルブミンを血管漏出のマーカーとして使用し、血管から発する拡散した濃度勾配のある染色として可視化した(
図8b、白色矢頭)。免疫方法や薬剤にかかわらず、観察したすべての野生型マウスが血管漏出を示さず、
図8aに類似した染色パターンを与えた。予防的または治療的のどちらかでPBSで免疫したTg2576マウスは、皮質または海馬において血管漏出の顕著なサインを示さなかった。PBS免疫Tg2576マウスでの血管漏出は、オクルディンおよびZO−1の両方での染色で決定されたタイトジャンクション異常と関連していた(図示せず)。
【0112】
Aβで免疫したTg2576マウスは、微小血管内の血管漏出はほとんどあるいは全く示さなかった(
図8a)。しかしながら、Aβ免疫Tg2576マウスの大血管は、周期的に血管漏出を示した(
図8b、白色矢頭)。オクルディン(図示せず)およびZO−1(
図8b)の両者で示された異常なタイトジャンクション発現は、血管漏出を有する大血管において一貫して見られた。Aβで免疫したTg2576マウスの大血管がタイトジャンクション破壊の病変を有することが、血管Aβ沈着物と関連しているかどうかを評価するために、タイトジャンクションおよびAβの2重染色を行った(
図8c)。予防的および治療的の両方のAβ免疫Tg2576マウスにおいては大血管でのみ、軽度の血管Aβ沈着が見られた。Aβの血管沈着を有する大血管は、オクルディン(図示せず)およびZO−1(
図8c、中空白色矢印)の両方で示されたように、タイトジャンクション病変も有した。Aβ免疫Tg2576マウスにおける大脳毛細血管においては、Aβ沈着は見られなかった。処置した野生型は血管Aβがなかった。1年または4ヶ月のどちらかの期間PBSで処理したTg2576は、極限られた血管Aβを有した。
【0113】
免疫Tg2576の脳における血管新生およびアポトーシス
AβまたはPBSのどちらかで予防的または治療的に免疫したTg2576マウスにおいて、アポトーシスおよび血管新生の発生を共焦点顕微鏡により観察した。抗活性化カスパーゼ3抗体をアポトーシスのマーカーとして使用した(
図9)。観察したすべての切片において、活性化カスパーゼ3は内皮を直接染色しなかった。老齢および若年Tg2576マウスに特徴的であった染色パターンでのように、活性化カスパーゼ3は、神経細胞と推定される糸状細胞体に見られた。すべての免疫マウスが、海馬におけるCA1、CA2、CA3およびDG領域でそれぞれ異なる量であるが活性化カスパーゼ3染色を示した。予防的および治療的の両方のPBS免疫Tg2576マウスが、皮質(
図9a)および海馬(図示せず)内で、おそらくAβプラークを囲む傾向を示す顕著な活性化カスパーゼ3染色を示した。野生型(AβおよびPBS)ならびにAβ免疫Tg2576マウスは、海馬に限定されたカスパーゼ3染色を示した(
図9b)。これらのマウスにおける活性化カスパーゼ3染色の全密度は、Aβで処置したTg2576より低いことが注目された。予防的および治療的の両方でAβ免疫したTg2576マウスの皮質では、カスパーゼ3染色は限定されていた(
図9c)。皮質の活性化カスパーゼ3染色は、Aβ免疫Tg2576で野生型変異体と同様である。これらの結果は、観察したすべてのマウスで一貫していた。
【0114】
CD105染色を血管新生内皮マーカーとして使用したが、CD105染色は、タイトジャンクションの異常の有無にかかわらず脳血管構造のすべてで見られた。CD105染色による微小血管密度(MVD)を、治療的または予防的方法の一環としてAβまたはPBSのどちらかで免疫したマウスにおいて、共焦点顕微鏡で定量した。微小血管密度は、画像化したフィールドの全面積に対するTFAの比として定義し、血管新生の代理測定値として使用した。PBSで予防的に1年間免疫したTg2576マウスの平均微小血管密度(0.4560±0.0072;*p<0.0001、t検定)は、PBSで免疫した野生型(0.1951±0.0123)と比較して有意に高かった(
図10a)。Aβで予防的に免疫したTg2576マウスは、PBSで免疫した遺伝子導入体と比較して、微小血管密度が有意に減少した(0.1972±0.0075;**p<0.0001、t検定)(
図10a)。治療的に免疫したマウスにおける微小血管密度は、予防的免疫群と同様であった。治療的に4ヶ月PBSで免疫したTg2576マウスにおける平均微小血管密度(0.4939±0.0077;***p=0.0001、t検定)は、PBSで免疫した野生型(0.2044±0.0222)と比較して有意に高かった(
図10b)。治療的にAβで免疫したTg2576マウスの微小血管密度(0.2180±0.0130;****p<0.0001、t検定)はPBSで免疫した遺伝子導入体と比較して有意に減少した(
図10b)。
【0115】
考察
予防的または治療的のどちらでもAβで免疫したマウスは抗Aβ抗体価の増加として測定されるように、このペプチドへの免疫応答を誘発することが既に示されている (Dickstein et al. (2006) FASEB J 20, 426-433)。病理学的にみると、これらのAβ免疫Tg2576マウスは、プラークバーデンおよび小膠細胞症が有意に減少した。これらの知見は、同様のADマウスモデルおよび免疫療法を使用した文献の結果と一致しており、血液脳関門の全体的な完全性は、Aβ免疫後のTg2576マウスで有意に改善していることを示している。
【0116】
本研究で提起された疑問は、改善された血液脳関門は、タイトジャンクションのレベルまで及ぶかどうかということであった。Aβ免疫Tg2576マウスは微小血管構造におけるタイトジャンクション病変を顕著に減少したことが示された。タイトジャンクション病変の低減は、新皮質および海馬の両方で見られたが、これらは通常ADにおいて重度に影響を受けている (Hsiao et al. (1996) Science 274, 99-102; Braak & Braak, E. (1991) Acta Neuropathol 82, 239-259)。Aβ免疫Tg2576マウスの微小血管からの血清マウスアルブミン漏出は最小であった。しかしながら、マウスアルブミン漏出の増加が大血管でみられ、そこでタイトジャンクションの異常および軽度のAβの血管沈着が示された。軽度の血管Aβ沈着および血清漏出が本研究で定性的に観察されたが、Wilcock et al. (J Neuroscinflammation 1, 24) は、同一のADマウス系統の受動免疫においてCAAおよびCAA関連微小出血が有意に増加することを記載している。この差異は、おそらくそれぞれのワクチン接種実験において使用したマウスの年齢に起因するであろう。本研究では、予防的に免疫したマウスは1年で屠殺した。治療的に免疫したマウスは15ヶ月で屠殺した。Tg2576マウスにおける血管沈着は15ヶ月ではほぼ「中度」であると考えられている (Domnitz et al. (2005) J Neuropathol Exp Neurol 64, 588-594)。上述のWilcock et al. の研究におけるTg2576免疫マウスは、CAAが「広範に及ぶ」と考えられている23ヶ月齢の初めにワクチンを接種した (Domnitz et al. (2005) J Neuropathol Exp Neurol 64, 588-594)。つまり、脳血管構造のタイトジャンクション破壊は、Aβの存在に直接関係しており、従ってAβの蓄積を予防することで微小血管構造の損傷の修復を可能とする。
【0117】
Aβ免疫療法の機序を説明するためにいくつかの仮説が提案されている。簡単に述べると、最も指示されている機序は、Aβプラークの小膠細胞による除去、触媒作用的溶解、末梢シンク仮説である。Aβの小膠細胞による除去の機序は、要約されている (Morgan, D. (2009) CNS Neurol Disord Drug Targets 8, 7-15)。簡潔に述べると、末梢循環する抗Aβ抗体が脳に入り、プラークをオプソニン化する。小膠細胞、すなわち脳常在マクロファージが、Fc−受容体媒介食作用によりプラークを除去する。触媒作用的溶解では、末梢循環する抗Aβ抗体が結合して、プラークの立体構造を破壊することでAβ凝集を破壊する (Solomon et al. (1997) Proc Natl Acad Sci U S A 94, 4109-4112)。最後の機序は、末梢シンク仮説である (DeMattos et al. (2001) Proc Natl Acad Sci U S A 98, 8850-8855)。この機序において、循環する抗Aβ抗体は、血液脳関門を通るAβの流出入の平衡を破壊する血漿Aβに結合してこれを隔離する。正味の結果は、Aβの脳からの除去である。この機序は、ヒトでのAβ免疫療法の試験においてCAAの発生率および関連する微小出血が増加したため、近年有望とされている (Masliah et al. (2005) Neurology 64, 129-131; Nicoll et al. (2006) J Neuropathol Exp Neurol 65, 1040-1048; Nicoll et al. (2003) Nat Med 9, 448-452; Ferrer et al. (2004) Brain Pathol 14, 11-20)。CAAは、Aβが血管構造に沈着し大脳動脈の肥厚を生ずる独立した疾患であり、タンパク質除去機能不全動脈症と記載される (Weller et al. (2009) Alzheimers Res Ther 1, 6)。免疫療法の結果として脳から除去されたAβは動脈に沈着して、観察されたように、免疫療法関連のCAAを悪化させる (Weller et al., ibid)。これらの機序のどれかがAβの低減または排除に卓越した役割を果たすのならばどれであるかは議論の余地がある。しかしながら、3つのすべての機序の組み合わせの可能性が高い。
【0118】
Aβ免疫の臨床試験の失敗で観察された副作用は、CAA関連大脳微小出血であった (Boche, D., Zotova, E., Weller, R. O., Love, S., Neal, J. W., Pickering, R. M., Wilkinson, D., Holmes, C., and Nicoll, J. A. (2008) Brain 131, 3299-3310)。いくつかの研究が、多様なADマウスモデルにおいて、能動免疫 (Wilcock et al. (2007) Neuroscience 144, 950-960; Petrushina et al. (2008) J Neuroinflammation 5, 42; Wilcock et al. (2009) J Neurosci 29, 7957-7965) および受動免疫 (Pfeifer et al. (2002) Science 298, 1379; Racke et al. (2005) J Neurosci 25, 629-636; Wilcock et al. (2004) J Neuroinflammation 1, 24) 後の脳血管構造上における微小出血に注目している。脳血管のタイトジャンクションの破壊が、末梢シンク仮説との関係でこの副作用を説明する。以下のAβ除去モデルが提案されている。免疫前に大量に存在するAβは、血液脳関門内皮の完全性に影響を与え、タイトジャンクションを破壊する。そして、微小血管の漏出が起こる。免疫の間は、小膠細胞による除去および抗体による脱凝集などの様々なAβ排除機序が活性化される。Aβプラークが溶解すると、溶解したAβは、血管周囲の排出路に沿って脳実質から除去される (Weller et al. (2009) Alzheimers Res Ther 1, 6)。何らかの理由により、Aβが血管周囲から排出されなくなり、大脳動脈に沈着し、CAAを引き起こす。CAAに罹患した血管構造に沈着しているのが見つかったAβ一次種は、より溶解性の高いAβ1−40であり、神経細胞由来であると考えられている (Herzig et al. (2006) Brain Pathol 16, 40-54)。Aβの沈着は周囲の内皮タイトジャンクションを損傷し微小出血を生じるが、これは、Aβが誘発するNADPHオキシダーゼ由来のROSにより媒介された可能性がある (Park et al. (2005) J Neurosci 25, 1769-1777)。このモデルは、ヒトADにおけるAβ免疫試験の失敗を説明すると思われる (Boche et al. (2008) Brain 131, 3299-3310)。
【0119】
活性化カスパーゼ3染色により測定可能な内皮アポトーシスは、すべてのマウスにおける活性化カスパーゼ3染色で観察されなかった。野生型およびTg2576のすべての免疫マウスは、海馬において神経細胞様の強度の活性化カスパーゼ3染色を呈示した。野生型およびTg2576マウスの両方の海馬における活性化カスパーゼ3の存在は、以前の研究 (Niu et al. (2010) Neurosci Bull 26, 37-46)と一致している。しかしながら、PBS免疫Tg2576では、皮質および海馬の全域で強度の神経細胞様活性化カスパーゼ3を示した。ほとんどのカスパーゼ染色は、タイトジャンクション(特にZO−1)ハローに関連するプラークを中心としてみられた。プラーク病変のないAβ免疫Tg2576では、海馬内でのみカスパーゼ3染色を示した。ADの間に起こる細胞死の正確な特性は依然議論の的であるが、アポトーシスが重要な役割を果たしていると考えられている (Rohn, T. T., and Head, E. (2008) アルツハイマー病におけるカスパーゼ活性化:早起きと夜更かし。Rev Neurosci 19, 383-393)。さらに、Tg2576マウスは神経細胞喪失を呈示しないと考えられている (Irizarry et al. (1997) J Neuropathol Exp Neurol 56, 965-973)。対照として処置したTg2576マウスの皮質に活性化カスパーゼ3が存在することは、おそらくAβのせいでアポトーシスのシグナルが増加していることを示唆している。いったんAβが除去されると、アポトーシスシグナルも減少すると推定される。
【0120】
Aβ免疫は、処置したマウスにおいて血管新生シグナルも調節するようであった。血管新生は、脳におけるCD105の平均微小胞染色濃度により定量化可能である (Holley et al. (2010) Neurosci Lett 470, 65-70; Barresi et al. (2007) Acta Neuropathol 114, 147-156)。血管新生の相対量は、CD105染色の微小血管密度により定量した。予防的および治療的の両方でPBSで処置したTg2576マウスは、野生型マウスおよびAβ処置Tg2576マウスと比較して血管濃度が有意に高かった。これは、Aβが除去されると血管新生シグナルが減少することを意味する。アミロイド免疫療法の結果、神経炎症が低減すると推定される。小膠細胞は、神経変性疾患における神経炎症の重要な源であると考えられている (Perry et al. (2010) Nat Rev Neurol 6, 193-201)。神経炎症およびAβの両方の減少は、直接または間接的に、両者に関連する血管新生シグナルを減少させるかもしれない (Pogue, A. I., and Lukiw, W. J. (2004) Neuroreport 15, 1507-1510; Naldini, A., and Carraro, F. (2005) Curr Drug Targets Inflamm Allergy 4, 3-8; Boscoloet al. (2007) Int J Mol Med 19, 581-587)。本研究とは反対に、APP+PS1マウスを使用した受動免疫研究は、神経発生関連血管新生を対象とした (Biscaro et al.(2009) J Neurosci 29, 14108-14119)。血管新生(複製)中の血管ではなくDNA修復中の細胞を標識可能なBrdU染色によって (Schmitz et al. (1999) Acta Neuropathol 97, 71-81)、遺伝子導入ADマウスにおける受動免疫後に海馬で血管新生が増加しているのが見つかった。
【0121】
例3:アミロイドβ免疫後のアルツハイマー病における血管リバース
アルツハイマー病(AD)は、不治の神経変性疾患であり、高齢者における痴呆の主要な原因である (Castellani et al., Dis Mon 56, 484-546 (2010))。ADの重要な神経病理学的特徴は、アミロイドβペプチド(Aβ)からなる細胞外神経老人斑の存在である (Castellani et al., Dis Mon 56, 484-546 (2010))。近年の研究では、ADの発病に不可欠な役割を果たすものとして、神経血管性機能障害 (Zlokovic, Nat Rev Neurosci 12, 723-738 (2011))と血管リスク因子 (Dickstein et al., Mt Sinai J Med 77, 82-102 (2010))とを結びつけた。アルツハイマー病の遺伝子導入マウスモデルにおけるAβワクチン接種は、アミロイド沈着を顕著に低減し、記憶喪失を予防可能である。近年、我々は、アミロイド形成が、ADにおける血管透過性の増加その後の血管過多へと導く広範な血管新生を促進することを提案した (Biron et al., PLoS ONE 6, e23789 (2011))。ここでは、我々は、免疫がADの病態生理学的特徴を解消するという仮説をテストする。我々は、ADマウスモデルにおいて、能動Aβ免疫がプラークバーデンを解消し、血管新生へと導くアミロイドトリガーを中和し、血管過多を逆行させることを示す。これらのデータは、血管新生がADにおけるプラーク形成の根底にある重要なプロセスであるという結論を支持する。これは、治療介入後に血管リバースが見られた最初の例と思われ、血管新生の調整が、AD脳における損傷を修復できるであろうという結論を支持する。
【0122】
Aβ免疫療法は、様々なADマウスモデルでの処置が成功したため (Golde et al., CNS Neurol Disord Drug Targets 8, 31-49 (2009))、AD修正処置方法として多大な注目を集めている (Morgan, J Intern Med 269, 54-63 (2011))。これらの知見を補足するために、我々は、ADマウスモデルにおいて能動Aβ免疫が血液脳関門(BBB)の完全性を回復することを既に実証した (Dickstein et al., FASEB J 20, 426-433 (2006))。前臨床動物試験でのAβ免疫の全体としてのポジティブな結果は、1999年後期におけるエラン/ワイスによるヒト臨床治験を促すこととなった (Wilcock & Colton, J Alzheimer’s Dis 15, 555-569 (2008))。未完となった臨床治験では、プラークの病変を低減したが、タウパシーおよび神経炎症は持続するという、複雑な結果となった (Masliah et al., Neurology 64, 129-131 (2005))。初期のヒト臨床治験においてみられた予期しなかった副作用は、AβおよびAD発病に関する我々の知識が不完全であることを実証している。
【0123】
方法
マウス:例1と同様。
【0124】
Aβワクチン接種:例2と同様。
【0125】
組織調製:組織は、Dickstein et al. (FASEB J 20, 426-433 (2006)) により既に報告されているように調製した。マウスはケタミン/キシラジン(100mg/kg;10mg/kg)で終末麻酔をし、PBSで5分間灌流した。脳を迅速に摘出し、嗅球を除去し、4℃で4日間4%パラフォルムアルデヒド中で後固定した。その後、脳をパラフィンに包埋し、5μmの連続切片を作成した。パラフィン包埋、切片作成、脱パラフィンは、ワックスイット・ヒストロジー・サービス社(バンクーバー)が行った。脳体重比を比較することにより、脳の平均重量を免疫マウス間で比較した。
【0126】
免疫染色:脱パラフィン切片からの抗原回収は、従来の料理用圧力鍋で0.7mMのEDTA添加20mMトリスバッファー(pH9.0)を使用して、最大パワーで5分間行った。その後、冷却したスライドを、ブロッキングバッファー(25%正常ヤギ血清、3%BSA、0.3%トリトンX100、シグマ社)中で室温にて1時間インキュベートした。一次抗体としては、ウサギ抗ZO−1(1:200、インビトロジェン社)、マウス抗ヒトCD105(1:20、ダコ社)、マウス抗Aβ
1−16(6E10)(1:2000、コーヴァンス社)を使用した。一次抗体染色は、染色バッファー(10%正常ヤギ血清、3%BSA、0.3%トリトンX100)中で4℃で一晩行った。使用した二次抗体は、アレクサフルオル488または568(1:500、インビトロジェン社)のどちらかと結合したもので、一次抗体化学種に相補的なものであった。二次抗体染色は、染色バッファー中室温で1時間行った。TOTO−3(1:10000、インビトロジェン社)を核対比染色に使用した。切片は、各染色工程の間に、0.1%Tween20(シグマ社)添加PBSで3回各5分間洗浄した。染色した切片上に、フルオロマウントG(サザンバイオテック社)を使用してカバースリップを載せ、暗所で一晩風乾した。
【0127】
タイトジャンクション形態の共焦点および定量分析:脳切片としては、パラフィンブロックから得た5つ目毎の切片を分析した。画像は、40x/1.3Plan−Neoflaur油浸対物レンズを使用してツァイスLSM510Meta(ツァイス、ドイツ国)で撮像した。合成投影画像を600dpiでアドビフォトショップ(登録商標)に取り込み、コントラストと輝度を最適化した。タイトジャンクション形態の定量分析は、前記の方法に従って分析した。共焦点データセットは、前頭皮質および海馬における若年および老齢Tg2576ならびに同腹仔対照の約100個の脳血管から得た。個々の血管は、ZO−1発現に関して正常(1)または異常(0)のどちからとして点数化した。正常ZO−1発現は、強く、連続した、顕著な、直線状染色として判断した。それとは対照的に、異常ZO−1発現は、弱く、点状および/または不連続な染色として判断した。異常ZO−1血管発現を、正常対照に見られた正常血管または疾患脳の正常血管と比較した。ZO−1染色において観察された「ギャップ」のために、不完全なまたは波状の血管を異常として記録することを避けるために、血管連続性の証拠を画像で確かめた。例えば、(TOTO−3で)染色された核または点状もしくは散在したZO−1残余物の存在を使用して、血管路に沿った異常ギャップの位置を決定した。タイトジャンクション破壊の発生率は、脳の所与の領域における異常タイトジャンクション形態を示した血管の割合の平均として定義した。Aβは、ツァイスLSM710レーザー走査により画像化した。
【0128】
微小血管密度定量:微小血管密度の定量は、公知の方法 (Biron et al., PLoS ONE 6, e23789 (2011)) を使用して共焦点顕微鏡法により行った。血管新生脳血管構造のマーカーとしてCD105 (Holley et al. Neurosci Lett 470, 65-70 (2010)) を使用し、ツァイスLSM510Metaソフトウェアを使用して蛍光強度が最大である画像を取得、分析した。高密度のCD105染色(「ホットスポット」)を含む脳切片の区域を、前述の共焦点画像解析パラメーターを使用して20x/0.45N−アクロプラン対物レンズで画像化した。全蛍光面積(TFA、単位μm
2)は、前記ソフトウェアを使用して、各ホットスポットについてバックグラウンドより上を積分した。マウス一匹につき4つの異なるホットスポットの平均TFAを求めた。得られたTFAを、CD105抗体により染色された全微小血管の数値表示として使用した。画像化した視野の微小血管密度は、画像の全面積に対するTFAの比として表した。
【0129】
統計分析:PBSまたはAβを使用した異なる免疫方法で免疫したTg2576(Tg/+)ADマウスと野生型(+/+)対照同腹仔のデータの統計比較は、ボンフェローニ事後テストで不一致の値に対して、2元配置分散分析で行った。
【0130】
すべての実験は、3組ずつで少なくとも3回行った。異なる免疫方法において、PBSまたはAβで免疫したTg2576(Tg/+)ADマウスと野生型(+/+)対照同腹仔の統計比較は、ボンフェローニ事後テストで不一致の値に対して、2元配置分散分析で行った。統計分析はすべてグラフパッドプリズム(Windows(登録商標)用v5.01、グラフパッドソフトウェア、サンディエゴ、カリフォルニア、米国、www.graphpad.com)で行った。0.05未満のp値を有意とみなした。値は平均値±SEMで表した。
【0131】
免疫Tg2576マウスは脳血管タイトジャンクションの病変の低減を呈示する:免疫はタイトジャンクション完全性を回復するのか? ZO−1発現パターンを、予防的および治療的の両方でAβおよびPBSで免疫したTg2576(Tg/+)マウスおよび野生型(+/+)同腹仔の新皮質および海馬における脳血管構造において評価した。正常なタイトジャンクションの発現は、強い、連続した、不断の染色パターンとして観察された。異常発現は、薄い、点状のおよび/または不連続な染色として確認された。AβまたはPBSで免疫した+/+マウスは、正常なZO−1染色パターンを有し、脳の領域にかかわらず区別不能であった(
図11a〜d)。予防的および治療的にAβで免疫したTg/+マウスは、+/+マウスと同様に毛細血管において正常なZO−1発現を呈示した(
図11g、h)。極まれに観察された正常な横断血管では、ZO−1の発現は、短く、通常は平行(
図11h)または放射状(図示せず)の腕部を有していた。PBSを投与したTg/+マウスは、タイトジャンクションの病変が顕著であった(
図11e、f)。興味深いことに、Aβで免疫したTg/+マウスは、主に大血管に何らかの異常タイトジャンクション病変を示した(
図11i、j)。Aβ免疫Tg/+マウスにおけるZO−1病変の毛細血管から大血管への移行は、他のAD免疫療法モデルで観察されたCAA病変の増加および臨床所見に類似している (Vasilevko et al., Annals of the New York Academy of Sciences 1207, 58-70 (2010) 概説参照)。
【0132】
免疫マウスにおける脳血管タイトジャンクション病変の定量的評価:タイトジャンクションの病変の発生率を、無傷対穿孔タイトジャンクションを有する脳血管の割合を数値化することにより定量した。予防的および治療的の両方でPBSで免疫したTg/+マウスは、PBSで免疫した+/+と比較して、新皮質および海馬において破壊されたタイトジャンクション発現の割合が有意に高かった(
図12)。血液脳関門病変に対するAβ免疫の利益を実証する我々の以前のデータ (Dickstein et al., FASEB J. 20, 426-433 (2006)) と一致して、6週齢の初めに予防的に免疫したTg/+マウスは、PBS遺伝子導入対応物と比較して、新皮質および海馬における異常血管タイトジャンクション発現の割合が有意に低かった(平均10%;*p<0.05、2元配置分散分析)(
図12a、b)。これらのマウスにおけるタイトジャンクション破壊のレベルは、AβおよびPBSを注射した+/+対照と同様であった。11ヶ月齢で治療的にAβで免疫したTg/+マウスのタイトジャンクション病変は、新皮質および海馬の両方において、PBSで免疫したTg/+マウスと比較して、タイトジャンクション病変が顕著に低減した(平均10%;*p<0.05、2元配置分散分析)(
図12c、d)。さらに、疾患発症後のAβでの免疫は、タイトジャンクションタンパク質発現を+/+と同様のレベルまで回復した(
図12c、d)。PBSまたはAβで処置した+/+マウスにおけるタイトジャンクション破壊が最小であったことは重要である。
【0133】
免疫Tg2576脳における血管新生:老齢Tg2576ADモデルマウスにおいて微小血管密度(MVD)が増加したことは (Biron et al., PLoS ONE 6, e23789 (2011))、疾患進行および重症化により血管新生が増加することを示唆している。能動的Aβ免疫は、ADマウスにおける血管密度を変化させるか? 新皮質および海馬における微小血管密度を、公知の血管新生内皮マーカーであるCD105の免疫蛍光染色パターンにより定量した。タイトジャンクションの異常の無し(
図13a)または有り(
図13b)にかかわらず、CD105染色部は脳血管構造において遍在していた。PBSで予防的に免疫したTg/+マウスは、PBS+/+と比較して(0.1951±0.0130)、微小血管密度が2倍以上であった(0.4560±0.0072;***p<0.001、2元配置分散分析)(
図13c)。これとは対照的に、Aβで予防的に免疫したTg/+マウスにおける微小血管密度は、同じ遺伝子型のPBS対照と比較して有意に減少し(0.1972±0.0075;*p<0.05、2元配置分散分析)(
図13c)、+/+の動物で観察されたレベルと同様であった。治療的に処置したマウスにおける微小血管密度は、予防的に免疫したマウスにおける観察結果と同様であった。疾患発症後にPBSで免疫したTg/+マウス(0.4939±0.0077)は、PBS+/+(0.2044±0.0222;***p<0.001、2元配置分散分析)と比較して、微小血管密度が2倍以上であった(
図13d)。疾患発症前に免疫したTg/+マウスで見られるように、疾患発症後にAβで免疫したTg/+マウスは、PBSで免疫したTg/+マウスと比較して、微小血管密度が有意に減少した(0.2180±0.0130;*p<0.05、2元配置分散分析)(
図13d)。血管密度の変化は、マウス脳の物理的大きさとは無関係のようである。平均脳体重比は、遺伝子型、免疫原あるいは免疫方法にかかわらず有意ではなかった(
図13e、f)。
【0134】
免疫Tg2576脳におけるAβ沈着:既に記述されているように (Dickstein et al., FASEB J 20, 426-433 (2006))、Aβで免疫したTg/+マウスは、脳実質のAβプラークが顕著に減少した(
図14a〜d)。Aβで予防的に免疫したTg/+マウスにおいて、Aβプラークの完全な消失が観察された(
図14d)。しかしながら、Aβで治療的に処置したTg/+では、Aβプラーク病変は顕著に低減した(
図14b)。
【0135】
考察
ADの実験的な処置の選択肢として、Aβ免疫療法の探求を続ける。ヒトADワクチンの初期臨床試験に見られた予期しなかったネガティブな血管副作用は、AβおよびAD発病に関する我々の知識が限定されていることを示している。既存のモデルには、これらの観察結果を説明できる教義が組み込まれていない。本研究は、能動的Aβ免疫ADマウスモデルにおいて、血液脳関門のタイトジャンクションの完全性が、アミロイド形成により促進される血管新生と関係していることを実証した。脳実質からAβを除去することで、微小血管関連タイトジャンクション病変が消失する。さらに、ヒト免疫試験において観察されたCAA関連微小出血が、罹患した血管におけるタイトジャンクションの損失により説明できるかもしれない。
【0136】
BBB機能障害は、ADの動物モデルで最初に特定され (Ujiie et al., Microcirculation 10, 463-470 (2003))、その後患者におけるADの顕著な、けれども説明不能な臨床的特徴として確認された (Farrall & Wardlaw, Neurobiol Aging 30, 337-352 (2009))。我々は、ADにおける血液脳関門に関するデータ内容と一致する新たな仮説、すなわちアミロイド形成が極度の血管新生を促進し、ADにおける血管透過性を増加し、引き続く血管過多へと導くことを最近提案した (Biron et al., PLoS ONE 6, e23789 (2011))。ここでは、我々は、早発性ADを発症させる、スウェーデンの2つのミスセンス突然変異を含む、ヒトAPP695を過剰発現するTg2576マウスにおいて、Aβ免疫処置が血管新生シグナルを調節することを実証する(K670N/M671L)。血管新生の相対量は、脳におけるCD105の微小血管染色濃度の平均値により定量可能である (Holley et al. Neurosci Lett 470, 65-70 (2010); Barresi et al., Acta Neuropathol 114, 147-156 (2007))。予防的および治療的の両方でPBSで処置したTg2576マウスは、野生型マウスおよびAβで処置したTg2576マウスと比較して血管密度が有意に高かった。血管密度の変化は、マウス脳の物理的大きさとは無関係のようであった。これは、Aβが除去されると血管新生シグナルが減少されることを意味している。アミロイド免疫療法の結果、神経炎症が低減されると推定される。神経炎症およびAβの両方の減少は、直接または間接的に両者に関連する血管新生シグナルを減少させる (Boscolo et al., Int J Mol Med 19, 581-587 (2007))。
【0137】
臨床Aβ免疫試験の失敗で見られた副作用は、CAA関連大脳微小出血の増加 (Boche et al., Brain 131, 3299-3310 (2008))であったが、これは能動免疫 (Wilcock et al., Neuroscience 144, 950-960 (2007); Petrushina et al., J Neuroinflammaton 5, 42 (2008); Wilcock et al., J Neurosci 29, 7957-7965 (2009)) および受動免疫 (Pfeifer et al., Science 298, 1379, (2002); Racke, M. M. et al., J Neurosci 25, 629-636 (2005) ; Wilcock, D. M. et al., J Neuroinflammation 1, 24 (2004)) 後の多様なADマウスモデルにおいてもみられた。血管新生による脳血管構造タイトジャンクションの破壊も、この副作用を説明する。以下のAβ除去モデルが提案される。免疫前に大量に存在するAβは血管新生を引き起こしてタイトジャンクションの破壊を生じることにより、血液脳関門内皮の完全性に影響を与える。そして、微小血管の漏出が起こり、末梢アミロイドが脳に進入し、神経毒性のアミロイドプラークとして癒着することを可能とする。脳血管の損傷は、Aβが誘発したNADPHオキシダーゼ由来ROSによりさらに悪化する (Park, L. et al., J Neurosci 25, 1769-1777 (2005))。血管過多へと導く血管新生の結果、弱まったタイトジャンクションが微小出血を起こす。免疫の間は、オプソニン化、小膠細胞による除去および抗体による脱凝集などの様々なAβ排除機序が活性化される。Aβプラークが溶解すると、溶解したAβは、血管周囲の排出路に沿って脳実質から除去される (Weller et al., Alzheimers Res Ther 1, 6 (2009))。従って、免疫は、Aβへの免疫応答を刺激することにより血管新生促進シグナルを中和するが、いったん形成された疾患の他の側面は、免疫では解消しないであろう。何らかの未知の理由により、おそらく血液脳関門の再シール形成により、Aβの血管周囲からの排出が停止され、大脳動脈に沈着し、CAAを引き起こす。CAA罹患血管構造に沈着が見つかった最初のAβは、より溶解性の高いAβ1−40であり、神経細胞由来であると考えられていることに留意すべきであろう (Herzig et al., Brain Pathol 16, 40-54 (2006))。このモデルは、ヒトADAβ免疫試験の失敗を説明していると思われる (Boche et al., Brain 131, 3299-3310 (2008))。
【0138】
我々の目的は、Tg2576ADマウスにおいて、Aβペプチドでの免疫が、アミロイド形成により引き起こされた血管新生および血管過多を解消できるかどうかを決定することであった。我々は、Aβでの免疫の後に、血管過多のリバースがおこることを見出した。これは、治療介入後血管密度が正常レベルまで戻った血管リバースの最初の例であると思われる。また、これらのデータは、以前に報告されていたよりもより大きい血管可変性が存在することを意味するものである。血管密度を解消せずに血管新生を停止することが想定できるが、これは、アミロイド形成シグナルが血管過多を維持するために必要であることを意味している可能性がある。いったんシグナルが除去されると、血管過多は鎮静する。これらのデータは明らかに、AD病態生理の血管新生モデルの根底となり、血管新生を調節することでAD脳の損傷を修復する最初の証拠を提供する。近年、経口抗がん薬である抗増殖剤ベキサロテンが、ADの動物モデルにおいてプラークバーデンを低減し記憶機能を向上することが示された (http://www.sciencemag.org/content/early/2012/02/08/science.1217697)。この研究は、ベキサロテンがレチノイドX受容体に作用してAPOE輸送に影響してプラーク蓄積や代謝回転を低減すると解釈するものであるが、ADにおける他の作用態様も可能である。ベキサロテン(タルグレチン)は、アポトーシスを増加させ、細胞サイクル制御、分化、転移抑制活性、そして最終的に血管新生抑制活性を変化させることも知られている (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3120806/)。それは、内皮細胞の増殖、接着、浸潤、遊走を直接抑制して血管新生を阻害し、VEGFの発現に影響する (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3120806/)。これらのデータおよび本明細書に提示したデータは、従って、ADの新たな治療様式として、脳血管構造での血管新生のリバースを直接指摘するものである。
【0139】
本明細書で参照したすべての特許、特許申請広報を含む刊行物、およびデータベース項目の開示は、それぞれの特許、刊行物、データベース項目が明白にかつ個々に参照により組込むことが表示されている場合と同じ程度に、そのすべてが参照により明白に組込まれるものである。
【0140】
本発明は、特定の具体的な態様を参照して記載されているが、その様々な変更は、本発明の主旨を超えない範囲で当業者には明らかであろう。当業者に明らかであろうそのようなすべての変更は、以下の請求の範囲内に含まれることを意図するものである。
アルツハイマー病を有するまたは発症するリスクのある患者において血液脳関門(BBB)の完全性を維持および/または回復することに使用するための、有効量の抗血管新生薬を含む組成物であって、該抗血管新生薬が、AG013736、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ベキサロテン、イマチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レフルノミド(SU101)、ミドスタウリン(PKC412)、バタラニブ(PTK787/ZK222584)、AZD2171、CP547,632、CP673,451、RPI.4610、VEGFトラップ、ZD6474、YM359445、SU5416、テムシロリムス(トリセル(登録商標))、バチマスタット、マリマスタット、ネオバスタット、プリノマスタット、カルボキシアミドトリアゾール、TNP−470、CM101、IFN−α、IL−12、血小板因子−4、スラミン、SU5416、トロンボスポンジン、アンジオスタチン、エンドスタチン、サリドマイド、テトラチオモリブデート、テコガラン、ラゾキサンまたはレスベラトロールである、前記組成物。