【課題】レーザー溶着した溶着体は、高い引張強度を有し、更に、着色力の優れた黒色着色を示し、更に優れたレーザー溶着加工性を有するレーザー溶着用のポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】レーザー光による溶着に用いる樹脂組成物であって、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、(B)ニグロシン0.0005〜0.5質量部及び(C)特定の1:1型アゾメチンニッケル錯体を少なくとも含有する着色剤0.01〜2質量部を含有することを特徴とするレーザー溶着用樹脂組成物。
前記樹脂組成物からなる1mm厚の成形板の940nmのレーザー光に対する入射率Kが、20〜80%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
但し、入射率K(%)=100−透過率−反射率とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、レーザー光による溶着に用いる樹脂組成物であって、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、(B)ニグロシン0.0005〜0.5質量部及び(C)式(1)に示す1:1型アゾメチンニッケル錯体を少なくとも含有する着色剤0.01〜2質量部を含有することを特徴とする。
【化2】
[式(1)中、R
1〜R
8は、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基またはハロゲン原子である。]
【0015】
[(B)ニグロシン]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、(B)ニグロシンを、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.0005〜0.5質量部含有し、好ましくは0.001〜0.1質量部、更に好ましくは0.003〜0.05質量部含有する。
ニグロシンは、レーザー光吸収性を有する染料として働き、800nm〜1200nm範囲のレーザー光の範囲に、緩やかな吸収を有している。
ニグロシンは、C.I.Solvent Black 5やC.I.Solvent Black 7として、Color Indexに記載されているような、黒色のアジン系縮合混合物である。これは、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩及びニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160〜190℃で酸化及び脱水縮合することにより合成できる。ニグロシンの市販品としては、例えば、「NUBIAN(登録商標) BLACK シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業社製)等が挙げられる。
【0016】
(B)ニグロシンの含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.0005〜0.5質量部であり、発熱量がコントロールできる好適な条件としては、0.001〜0.1質量部、より好ましくは0.003〜0.05質量部であり、更に好ましくは0.005〜0.03質量部である。このような範囲にニグロシンの含有量を調整することで、レーザー溶着用樹脂組成物の入射率Kを20〜80%、好ましくは、40〜70%とすることができる。
なお、上記含有量は、後記するような(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリカーボネート樹脂及び/又は芳香族ビニル樹脂を併せて含有する場合には、これら樹脂の合計100質量部に対する量である。
【0017】
また、レーザー溶着用樹脂組成物は、本発明を実施できる有効範囲でレーザー光に対するその他の吸収性染料またはレーザー光吸収剤を含んでいてもよい。
なお、入射率K(単位:%)は、以下の式で定義される。
入射率K(%)=100−透過率−反射率
【0018】
[(C)着色剤]
本発明の樹脂組成物に用いる着色剤(C)は、下記式(1)に示す1:1型アゾメチンニッケル錯体を少なくとも含有する着色剤である。
【化3】
[式(1)中、R
1〜R
8は、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基またはハロゲン原子である。]
【0019】
式(1)におけるR
1〜R
8中の炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、neo−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基等が好ましく挙げられ、炭素数1〜18のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、neo−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基等が好ましく、アルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ、ジエチルアミノ等が好ましく挙げられ、ハロゲン原子は、例えば、F、Cl、Br等である。
【0020】
1:1型アゾメチンニッケル錯体に用いるアゾメチン色素は、公知の方法で製造出来る。例えば、以下の反応式で示すようなジアミノマレオニトリルと置換基を有しても良いサリチルアルデヒドを反応させることで得られる。
【0021】
【化4】
式(2)中、R
1〜R
8は、前記式(1)と同義である。
【0022】
このアゾメチン色素をニッケル化剤、例えば、酢酸ニッケルを用いて金属化することにより、下記に示すように、1:1型アゾメチンニッケル錯体が得られる。
【0023】
【化5】
式(3)中、R
1〜R
8は、前記式(1)と同義である。
得られたニッケル錯体は、アゾメチン色素がキレート性の4配位子として働き、安定な錯体を構成する。
【0024】
1:1型アゾメチンニッケル錯体は、耐熱性、耐光性等の堅牢性が良好であるため、屋外の部材や熱にさらされる部材用樹脂組成物に有用であり、レーザー溶着時の溶融時に熱変化が起こりにくく、レーザー溶着部材用の着色剤として好適である。
【0025】
前記式(1)に示す1:1型アゾメチンニッケル錯体の具体例としては、R
1〜R
8が以下のとおりである下記表1の化合物例1〜7等が好ましく挙げられる。
なお、本発明で用いるアゾメチンニッケル錯体はこれらに限定されるものではない。
【0027】
本発明に用いる(C)着色剤は、1:1型アゾメチンニッケル錯体を少なくとも含有する着色剤である。前記アゾメチンニッケル錯体は、例えば、上記化合物例1が褐色、化合物例2が褐色、化合物例3が赤褐色、化合物例6が紫色を示し、黒色を示す着色剤とするためには、他の色材を混合する必要がある。
【0028】
前記着色剤としては、前記アゾメチンニッケル錯体を少なくとも含む混合染顔料を挙げることができる。例えば、青色染料、紫色染料、緑色染料を配合し、必要に応じ、赤色染料または黄色染料を配合し、色調を調整する方法が例示される。
このように配合できる染顔料としては、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料等染料や有機顔料が挙げられる。
【0029】
前記染料の具体例としては、アゾ染料、キナクリドン染料、ジオキサジン染料、キノフタロン染料、ペリノン染料、ペリレン染料、イソインドリノン染料、アゾメチン染料、トリフェニルメタン染料、アントラキノン染料等の染料が挙げられる。前記の着色剤の中で、アントラキノン染料またはトリフェニルメタン染料が好ましい。アントラキノン染料としては、最大吸収波長が590〜635nmの範囲にあるものが好ましく、最大吸収波長が577〜628nmの範囲にあるものがより好ましい。トリフェニルメタン染料は青色であることが好ましく、アントラキノン染料は青色であることが好ましい。
前記着色剤としては、黒色度の高いポリエステル系樹脂を得るためには、アントラキノン染料またはトリフェニルメタン染料の含有割合としては、着色剤100質量%中、15〜45質量%であることが好ましく、更に20〜40質量%が好ましい。
【0030】
前記顔料の具体例としては、アゾ顔料、縮合アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクドリン顔料、イソインドリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、各種レーキ顔料等の有機顔料が挙げられる。
【0031】
(C)着色剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.01〜2質量部であり、好ましくは0.05〜0.8質量部、更に好ましくは0.1〜0.5質量部である。着色剤の含有量をこのような範囲に調整することで、黒色着色力の高いレーザー溶着用樹脂組成物を得ることができる。
なお、上記含有量は、後記するような(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリカーボネート樹脂及び/又は芳香族ビニル樹脂を併せて含有する場合には、これら樹脂の合計100質量部に対する量である。
【0032】
[(A)熱可塑性ポリエステル樹脂]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物が含有する(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0033】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4’−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0034】
これらの芳香族ジカルボン酸は、2種以上を混合して使用しても良い。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等をエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して、使用することができる。
【0035】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400〜6000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0036】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため、脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0037】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、即ち樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0038】
好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートである。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分及び1,4−ブタンジオールまたはエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、主成分がポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。また、レーザー溶着性の観点から、イソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されたポリブチレンテレフタレートも好ましい。
なお、本発明において、主成分とは、樹脂組成物中の樹脂成分100質量%中、50質量%以上であることを意味する。
【0040】
ポリブチレンテレフタレートとして、ポリテトラメチレングリコールを共重合したものを用いる場合は、共重合体中のテトラメチレングリコール成分の割合は3〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜25質量%が更に好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性と耐熱性とのバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0041】
ポリブチレンテレフタレートとして、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるダイマー酸成分の割合は、カルボン酸基として0.5〜30モル%であることが好ましく、1〜20モル%がより好ましく、3〜15モル%が更に好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、長期耐熱性及び靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0042】
ポリブチレンテレフタレートとして、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるイソフタル酸成分の割合は、カルボン酸基として1〜30モル%であることが好ましく、1〜20モル%がより好ましく、3〜15モル%が更に好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、耐熱性、射出成形性及び靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0043】
これら共重合の中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合した共重合ポリブチレンテレフタレートあるいはイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0044】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、0.5〜2dl/gであるものが好ましい。成形性及び機械的特性の点から、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものが好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械的強度の低いものとなりやすい。また、2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化したり、レーザー溶着性が低下する場合がある。
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0045】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることが更に好ましい。50eq/tonを超えると、樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
【0046】
なお、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLに(A)熱可塑性ポリエステル樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0047】
本発明においては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーとポリブチレンテレフタレートコポリマーを含むことも好ましい。この際、ポリブチレンテレフタレートコポリマーの含有量は、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーとポリブチレンテレフタレートコポリマーの合計100質量%に対して、ポリブチレンテレフタレートコポリマーが5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜65質量%であり、更に好ましくは20〜60質量%であり、特に好ましくは30〜55質量%である。ポリブチレンテレフタレートコポリマーの含有量が5質量%未満であると、レーザー透過率、レーザー溶着強度が低下しやすく、70質量%を超えると、成形性が低下しやすい。
【0048】
また、本発明においては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを含むことも好ましい。この際、ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量%に対して、5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜45質量%であり、更に好ましくは15〜40質量%である。ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が5質量%未満であると、レーザー光透過性、レーザー溶着強度が低下しやすく、50質量%を超えると、成形性が低下しやすい。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5〜2dl/gであることが好ましく、成形性及び機械的特性の点から、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物の成形体が機械強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
【0050】
また、本発明においては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、更にポリカーボネート樹脂を併せて含むことも好ましい。その場合、ポリカーボネート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の合計100質量%に対し10〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜45質量%であり、更に好ましくは20〜40質量%である。ポリカーボネート樹脂の含有量が10質量%未満であるとレーザー光透過性、レーザー溶着強度が低下しやすく、50質量%を超えると成形性が低下する場合がある。
【0051】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、5000〜30000であることが好ましく、10000〜28000であることがより好ましく、14000〜24000であることが更に好ましい。粘度平均分子量が5000より低いものを用いると、得られる溶着用部材が機械的強度の低いものとなりやすい。また30000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化したり、レーザー溶着性が低下する場合がある。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算される粘度平均分子量[Mv]である。
【0052】
また、ポリカーボネート樹脂のゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)は、2〜5であることが好ましく、2.5〜4がより好ましい。Mw/Mnが過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、Mw/Mnが過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0053】
また、ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量は、熱安定性、加水分解安定性、色調等の点から、100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは200質量ppm以上、更に好ましくは400質量ppm以上、最も好ましくは500質量ppm以上である。但し、通常1500質量ppm以下、好ましくは1300質量ppm以下、更に好ましくは1200質量ppm以下、最も好ましくは1000質量ppm以下である。ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量が過度に小さいと、レーザー透過性が低下しやすい傾向にあり、また、成形時の初期色相が悪化する場合がある。末端ヒドロキシ基量が過度に大きいと、滞留熱安定性や耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0054】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融重合法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。中でも、ポリカーボネート樹脂としては、溶融重合法で製造したポリカーボネート樹脂が、レーザー光透過性、レーザー溶着性の点から好ましい。
【0055】
また、本発明においては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、そして更に芳香族ビニル系樹脂を含むことも好ましい。この際芳香族ビニル系樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂と芳香族ビニル系樹脂の合計100質量%に対し、10〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜45質量%であり、更に好ましくは20〜40質量%である。芳香族ビニル系樹脂の含有量が10質量%未満であるとレーザー光透過性、レーザー溶着強度が低下しやすく、50質量%を超えると耐熱性、耐熱変色性が低下しやすい。
【0056】
芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体であり、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等を挙げることができ、好ましくは、スチレンである。芳香族ビニル系樹脂としては、ポリスチレン(PS)が代表的なものである。
また、芳香族ビニル系樹脂としては、芳香族ビニル化合物に他の単量体を共重合させた共重合体も用いることができる。代表的なものとしては、スチレンとアクリロニトリルを共重させたアクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)が挙げられる。
【0057】
芳香族ビニル系樹脂としては、ゴム成分を共重合またはブレンドしたゴム含有芳香族ビニル系樹脂も好ましく使用することができる。ゴム成分の例としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンなどの共役ジエン系炭化水素が挙げられるが、本発明においてはブタジエン系ゴムが好ましく用いられる。ゴム成分としてアクリル系のゴム成分も可能ではあるが、靱性面にて乏しくなるので好ましくない。
ゴム成分を共重合又はブレンドする場合、ゴム成分の量は、芳香族ビニル系樹脂全セグメント中の通常1質量%以上50質量%未満であり、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。
ゴム成分含有芳香族ビニル系樹脂としては、ゴム含有ポリスチレンが好ましく、ブタジエンゴム含有ポリスチレンがより好ましく、靱性の点から、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)が特に好ましい。
芳香族ビニル系樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)及びブタジエンゴム含有ポリスチレンが好ましく、中でも、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)が好ましい。
【0058】
芳香族ビニル系樹脂としては、GPCにより測定した質量平均分子量が50000〜500000であることが好ましく、中でも100000〜400000、特に150000〜300000が好ましい。分子量が50000より小さいと、成形品でブリードアウトが見られたり、成形時に分解ガスが発生して十分なウエルド強度が得られにくく、また分子量が500000より大きいと、十分な流動性やレーザー溶着強度の向上が図りにくい。
【0059】
芳香族ビニル系樹脂は、200℃、98Nで測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.5〜30g/10分であることがより好ましく、1〜20g/10分であることが更に好ましい。MFRが0.1g/10分より小さいと、(A1)ポリブチレンテレフタレート樹脂と相溶性が不十分となりやすく、射出成形時に層剥離の外観不良が生じる場合がある。またMFRが50g/10分より大きいと、耐衝撃性が大きく低下する場合があり好ましくない。
特に、芳香族ビニル系樹脂がポリスチレンである場合は、MFRは1〜50g/10分であることが好ましく、3〜35g/10分であることがより好ましく、5〜20g/10分であることが更に好ましい。芳香族ビニル系樹脂がブタジエンゴム含有ポリスチレンである場合は、MFRは0.1〜40g/10分であることが好ましく、0.5〜30g/10分であることがより好ましく、1〜20g/10分であることが更に好ましい。
【0060】
更に、本発明においては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、更に芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂を含むことも好ましい。その場合の含有割合は、これらの樹脂の合計100質量%基準で、ポリブチレンテレフタレート樹脂が30〜90質量%であり、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂がそれぞれ多くとも50質量%であることが好ましい。
【0061】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂を含む場合のポリブチレンテレフタレート樹脂のより好ましい含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂の合計100質量%基準で、40〜80質量%であり、更には50〜70質量%が好ましい。含有量が30質量%未満であると耐熱性が低下しやすく、90質量%を超えるとレーザー透過性が低下しやすい。
【0062】
また、芳香族ビニル系樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂の合計100質量%に対し、より好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは3〜45質量%、特に好ましくは5〜40質量%である。含有量が1質量%未満では、レーザー溶着性、靱性が乏しくなり、50質量%を超えると耐熱性が低下しやすい。
【0063】
また、ポリカーボネート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂の合計100質量%に対し、より好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは3〜45質量%、特に好ましくは5〜40質量%である。含有量が1質量%未満では、レーザー光透過性、レーザー溶着性が低下しやすく、また、芳香族ビニル系樹脂の分散が不良となり、成形品の表面外観が低下しやすい。50質量%を超えると、ポリブチレンテレフタレート樹脂とのエステル交換が進み、滞留熱安定性が低下しやすい。
【0064】
また、芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂の合計含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂の合計100質量%に対し、10〜55質量%であることが好ましく、20〜50質量%がより好ましく、25〜45質量%が更に好ましい。このような含有量とすることにより、耐熱性とレーザー光透過性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0065】
また、芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂成分の含有割合は、質量比で5:1〜1:5であることが好ましく、4:1〜1:4であることがより好ましい。このような含有比とすることにより、耐熱性とレーザー光透過性のバランスに優れる傾向にあり好ましい。
【0066】
ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂を含む場合、得られる樹脂組成物の結晶化温度(Tc)が190℃以下であることが好ましい。すなわち、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とのエステル交換反応を適度に抑制し、結晶化温度を適度に低下させることにより、レーザー透過性をより向上させることができる。結晶化温度(Tc)はより好ましくは188℃以下、更に好ましくは185℃以下、特に好ましくは182℃以下、最も好ましくは180℃以下である。また、その下限は、通常160℃、好ましくは165℃以上である。
なお、結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量測定(DSC)機を用いて、窒素雰囲気下、30〜300℃まで昇温速度20℃/minで昇温し、300℃で3分保持した後、降温速度20℃/minにて降温した際に観測される発熱ピークのピークトップ温度として測定される。
【0067】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、所望に応じ、種々の添加剤を配合することも可能である。このような添加剤としては、例えば、強化充填材、耐衝撃改良剤、流動改質剤、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤、難燃剤、及びエポキシ化合物等が挙げられる。
【0068】
本発明の樹脂組成物が含有する強化充填材としては、樹脂に配合することにより得られる樹脂組成物の機械的性質を向上させる効果を有するものであり、常用のプラスチック用無機充填材を用いることができる。好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の充填材を用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の充填材;タルク等の板状の充填材;ガラスフレーク、マイカ、グラファイト等の鱗片状の充填材を用いることもできる。中でも、レーザー光透過性、機械的強度、剛性および耐熱性の点からガラス繊維を用いるのが好ましい。
強化充填材は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れるので好ましい。
【0069】
表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤が好ましく挙げられる。これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
【0070】
また、その他の表面処理剤として、ノボラック型等のエポキシ樹脂系表面処理剤、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂系表面処理剤等も好ましく挙げられ、特にノボラック型エポキシ樹脂系表面処理剤による処理が好ましい。
シラン系表面処理剤とエポキシ樹脂系表面処理剤は、それぞれ単独で用いても複数種で用いてもよく、両者を併用することも好ましい。
【0071】
ガラス繊維は、レーザー溶着性及び耐ヒートショック性の点から、断面における長径と短径の比が1.5〜10である異方断面形状を有するガラス繊維であることも好ましい。断面形状は、断面が長方形または長円形のものであり、また、長径/短径比が2.5〜8、更には3〜6の範囲にあるものが好ましい。長径をD
2、短径をD
1、平均繊維長をLとするとき、アスペクト比((L×2)/(D
2+D
1))が10以上であることが好ましい。このようにこのような扁平状のガラス繊維を使用すると、成形品の反りが抑制され、特に箱型の溶着体を製造する場合に効果的である。
【0072】
強化充填材の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、5〜150質量部であることが好ましい。強化充填材の含有量が、5質量部を下回ると、十分な強度や耐熱性が得られにくく、150質量部を上回ると、流動性やレーザー溶着性が低下しやすい。強化充填材のより好ましい含有量は15〜130質量部であり、更に好ましくは30〜120質量部、特には40〜100質量部である。
なお、上記含有量は、前記した(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリカーボネート樹脂及び/又は芳香族ビニル樹脂を併せて含有する場合には、これら樹脂の合計100質量部に対する量である。以下、他の添加剤の含有量を説明する場合も同様である。
【0073】
本発明の樹脂組成物が含有する耐衝撃改良剤は、樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させるように機能する。耐衝撃改良剤としては、樹脂の耐衝撃性改良効果を奏するものであれば、特に制限はないが、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー、アクリル系のコア/シェル型エラストマー等、公知のものが挙げられるが、好ましくは、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマーが挙げられる。
【0074】
ポリエステル系エラストマーは、常温でゴム特性をもつ熱可塑性ポリエステルであり、好ましくは、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした熱可塑性エラストマーであり、ハードセグメントとして高融点・高結晶性の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとして非晶性ポリエステルや非晶性ポリエーテルを有するブロック共重合体であるものが好ましい。ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントの含有量は、少なくとも全セグメント中の20〜95モル%であり、ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体(PBT−PTMG共重合体)の場合は50〜95モル%である。好ましいソフトセグメントの含有量は50〜90モル%、特に60〜85モル%である。中でも、ポリエステルエーテルブロック共重合体、特にPTMG−PBT共重合体が、透過率の低下が少なくなることから好ましい。
【0075】
ポリエステル系エラストマーの具体例としては、「プリマロイ」(三菱化学社製、商品名、登録商標(以下同じ))、「ペルプレン」(東洋紡社製)、「ハイトレル」(東レ・デュポン社製)、「バイロン」(東洋紡社製)、「ポリエスター」(日本合成化学工業社製)等が好ましく挙げられる。
【0076】
また、スチレン系エラストマーとしては、スチレン成分とエラストマー成分からなり、スチレン成分を通常5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%、特に15〜30質量%の割合で含有するものが好ましい。この際のエラストマー成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン系炭化水素が挙げられ、より具体的にはスチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマー等が挙げられる。
また、上記のSBSエラストマーやSISエラストマーに水素添加して水素化した樹脂(SEBS、SEPS)を用いることも好ましい。
【0077】
スチレン系エラストマーの具体例としては、「ダイナロン」(JSR社製、商品名、登録商標(以下同じ))、「タフテック」(旭化成ケミカルズ社製)、「ハイブラー」、「セプトン」(クラレ社製)等が挙げられる。
【0078】
また、耐衝撃改良剤として、エポキシ基を含有する共重合型エラストマーも、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂との反応性がよく、レーザー透過率の低下が少ないので好ましい。
エポキシ基を含有する共重合型エラストマー自体の種類は問わない。例えば、上記したスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー等にエポキシ基を導入したものが好ましく挙げられる。例えば、ハードセグメントとしてポリスチレン、ソフトセグメントとしてブタジエンを共重合したスチレン−ブタジエン共重合体の場合、ジエン成分の不飽和二重結合部分をエポキシ化することでエポキシ基含有エラストマーが得られる。
また、オレフィン系エラストマーは軟質相にポリオレフィン部があればよく、EPR、EPDM等が好ましく使用できる。
エポキシ基を導入する方法は特に制限はなく、主鎖中に組み入れてもよく、また、エポキシ基を含有するポリマーをブロックもしくはグラフト形態でオレフィン系エラストマーに導入してもよい。好ましくはエポキシ基を有する(共)重合体をグラフト形態で導入するのがよい。
【0079】
エポキシ基を含有する共重合型エラストマーの具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学社製、商品名、登録商標(以下同じ))、「ロタダー」(アルケマ社製)、「エルバロイ」(三井デュポンポリケミカル社製)、「パラロイド」(ロームアンドハース社製)、「メタブレン」(三菱レイヨン社製)、「エポフレンド」(ダイセル化学工業社製)等が挙げられる。
【0080】
耐衝撃改良剤は、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。耐衝撃改良剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0〜20質量部、好ましくは1〜18質量部、より好ましくは2〜15質量部、更に好ましくは3〜12質量部、特に好ましくは3〜7質量部である。耐衝撃改良剤の含有量が20質量部を超えると耐熱剛性が低下しやすくなる。
【0081】
エポキシ化合物は、樹脂組成物のレーザー溶着性、耐湿熱特性を向上させ、また、成形品のウエルド部の強度、耐久性をより向上させるように機能する。
エポキシ化合物としては、一分子中に一個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類またはカルボン酸等とエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
エポキシ化合物の好ましい具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
脂環化合物型エポキシ化合物としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド等が挙げられる。
【0082】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、グリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0083】
また、エポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β−不飽和酸のグリシジルエステルと、α−オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0084】
エポキシ化合物は、エポキシ当量100〜500g/eq、数平均分子量2000以下のエポキシ化合物が好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、ウエルド部の密着性を低下させる原因となりやすい。逆にエポキシ当量が500g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、樹脂組成物の耐湿熱特性を向上させる効果が十分に発現しない傾向にある。また、数平均分子量が2000を超えるものは、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性が低下し、成形品の機械的強度が低下する傾向にある。
エポキシ化合物としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が特に好ましい。
【0085】
エポキシ化合物の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0〜5質量部であるが、効果を発現させるには0.1質量部以上含有させるのが好ましい。含有量が3質量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなる場合があるので、0.2〜3質量部、特には0.2〜2質量部含有することが好ましい。
【0086】
流動改質剤としては、スチレン系オリゴマー、オレフィン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、多官能化合物、分岐状ポリマー(デンドリマー(樹状高分子)、高度分岐型、ハイパーブランチ型および環状オリゴマーを含む。)等が好適に例示され、流動性を付与し且つ機械強度を保持する役割を果たす。特に、箱型の溶着体や、流動長が70mm以上である部分を有する溶着体を製造する場合に、流動改質剤の添加は効果的である。
【0087】
スチレン系オリゴマーは、ビニル芳香族化合物を主成分とする重合体であり、ビニル芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等を挙げることができ、好ましくは、スチレンである。スチレン系オリゴマーとしては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン、アクリロニトリル−アクリル酸−スチレン、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体のオリゴマー、また、その水素化物等が代表的なものである。このなかでも特に物性面、コスト面から、スチレンオリゴマー、アクリロニトリル−スチレンオリゴマーが好ましい。
スチレン系オリゴマーは、市販品として入手することも可能であり、市販品としては、例えば、東亜合成社製、商品名「アルフォン(登録商標)UP−1150」、ヤスハラケミカル社製、商品名「YSレジンSX−100」等が好ましく挙げられる。
【0088】
スチレン系オリゴマーは、質量平均分子量が比較的小さいものが好ましく、具体的には質量平均分子量が1000〜10000であり、中でも1500〜7500、特に2000〜6000が好ましい。質量平均分子量が1000より小さいと、成形品でブリードアウトが生じたり、成形時に分解ガスが発生して十分なウエルド強度が得られにくくなる。また、質量平均分子量が10000より大きいと、十分な流動性やウエルド強度の向上が図りにくくなりやすい。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の値をいう。
【0089】
スチレン系オリゴマーの含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜10質量部、更に好ましくは3〜7質量部である。
【0090】
オレフィン系オリゴマーは、モノマー単位に炭素数2〜5のα―オレフィンを使用したものがよく、中でもエチレン、プロピレンが好ましく、特にこれを他の共重合モノマーと共重合したオリゴマーが好ましい。
共重合モノマーとしては、アクリル系モノマー、特にアクリル酸アルキルまたはメタクリル酸アルキルが好ましく、例えばメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2―エチルヘキシルが挙げられる。また、(無水)マレイン酸等で末端変性されていてもよい。
オレフィン系オリゴマーは、市販品として入手することも可能であり、市販品としては、例えば、アルケマ社製、商品名「ロトリル(登録商標)37EH550」、「35BA320」、日本ユニカー社製、商品名「NUC−6070」等が好ましく挙げられる。
【0091】
オレフィン系オリゴマーは、質量平均分子量が2000〜20000程度であることが好ましく、中でも3000〜15000、特に5000〜15000が好ましい。分子量が2000より小さいと、成形品でブリードアウトが生じたり、成形時に分解ガスが発生して十分なウエルド強度が得られにくくなる。また、分子量が20000より大きいと、十分な流動性やウエルド強度の向上が図りにくくなりやすい。
また、オイレフィン系オリゴマーのメルトフローレート(MFR)は、50g/10分以上であることが好ましく、100g/10分以上であることがより好ましい。MFRが50g/10分より小さいと、レーザー溶着性が低下する傾向がある。なお、オレフィン系オリゴマーのMFRは、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した値をいう。
オレフィン系オリゴマーの含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜10質量部、更に好ましくは3〜7質量部である。
【0092】
アクリル系オリゴマーとして、好ましくはアクリル酸系またはメタクリル酸系アルキルエステルのオリゴマーである。このようなアクリル酸系またはメタクリル酸系アルキルエステルの重合体は、他のビニルモノマー、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィン、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、ブタジエン、ビニルアルコール、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸またはこれらのエステル等の単量体単位を含有していてもよい。
アクリル系オリゴマーは、市販品として入手することも可能であり、市販品としては、例えば、東亜合成社製、商品名「アルフォン(登録商標)UP−1050」、「UH−2032」、綜研化学社製、商品名「UMB−1001」、「UMB−2005」、「UT−2001」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブ(登録商標)FC−112」、「FC−113」、「LS−3」、三菱レイヨン社製、商品名「メタブレン(登録商標)L1000」等が好ましく挙げられる。
【0093】
アクリル系オリゴマーは、GPCで測定されるポリスチレン換算の質量平均分子量が1000〜10000程度であることが好ましく、中でも1500〜7500、特に2000〜6000が好ましい。質量平均分子量が1000より小さいと、成形品でブリードアウトが生じたり、成形時に分解ガスが発生して十分なウエルド強度が得られにくくなる。また、質量平均分子量が10000より大きいと、十分な流動性やウエルド強度の向上が図りにくくなりやすい。
【0094】
アクリル系オリゴマーの含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜10質量部、更に好ましくは3〜7質量部である。含有量が0.5質量部未満では流動性の向上効果が小さく、10質量部を超えると溶融混練が困難となり、混練できても染み出しや成形加工時のガス発生等が起こり易く、金型に汚れが付着するおそれが生じる。
【0095】
多官能化合物としては、好ましくは、3つ以上の官能基を有する化合物が好ましく、中でも3つ以上の水酸基を有する多価アルコール化合物を配合することがより好ましい。
水酸基を3つ以上有する多価アルコール化合物の例としては、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、トリエタノールアミン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、スクロース、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトール等が挙げられる。中でもペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトールが好ましい。
【0096】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がカルボキシル基の場合は、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−2,5,7−トリカルボン酸、ピリジン−2,4,6−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸等の多価カルボン酸やアクリル酸、メタクリル酸等のポリマーが挙げられ、それらの酸無水物も使用できる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有するプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸およびその酸無水物が好ましい。
【0097】
多官能化合物の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部、更に好ましくは0.2〜3質量部である。
【0098】
また、流動改質剤として、分岐状ポリマーも使用できる。分岐状ポリマーとは、枝分かれ構造を有するポリマーのことであり、詳しくは多分岐構造を有するポリマーのことをいい、枝分かれ構造としては、中心のコアから放射状に複数の直鎖状セグメントを分岐鎖として有するスターポリマー、幹となる直鎖状ポリマー鎖に多数の分岐点を有しそこから枝鎖となるポリマーが導入された構造を有するグラフトポリマー、3次元的に枝分かれを有し、繰り返し単位に枝分かれ構造を有するハイパーブランチポリマーおよび更に分子量分布や分岐度を精密に制御したデンドリマー等が挙げられ、スターポリマーおよびハイパーブランチポリマーが好ましく、流動性の点で、ハイパーブランチポリマーがより好ましく、生産性の面から超分岐ポリマーが好ましい。
このような分岐状ポリマーとしては、ポリエステル系或いはポリウレタン系の分岐状ポリマー等が挙げられる。市販の超分岐ポリマーとしては、Perstorp社の商品名「Boltorn(登録商標)」等が挙げられる。
【0099】
分岐状ポリマーの含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部、更に好ましくは0.2〜3質量部である。
【0100】
これらの流動改質剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、0〜10質量部であるが、効果を発現させるには、0.1質量部以上含有させるのが好ましい。前記含有量が10質量部より多いと機械的特性が悪くなる場合があるので、0.2〜10質量部、特には0.3〜7質量部含有することが特に好ましい。
【0101】
安定剤としては、リン系安定剤、イオウ系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物または有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0102】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R
9O)
3−nP(=O)OH
n ・・・(4)
(式(4)中、R
9は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を示す。)で表される化合物である。より好ましくは、R
9が炭素数8〜30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素数8〜30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0103】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましい。
【0104】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは下記一般式:
R
10O−P(OR
11)(OR
12) ・・・(5)
(式(5)中、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、R
10、R
11及びR
12のうちの少なくとも1つは炭素数6〜30のアリール基である。)で表される化合物が挙げられる。
【0105】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0106】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R
13−P(OR
14)(OR
15) ・・・(6)
(式(6)中、R
13、R
14及びR
15は、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、R
13、R
14及びR
15のうちの少なくとも1つは炭素数6〜30のアリール基である。)で表される化合物が挙げられる。
【0107】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0108】
イオウ系安定剤としては、従来公知の任意のイオウ原子含有化合物を用いることが出来、中でもチオエーテル類が好ましい。具体的には例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイトが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)が好ましい。
【0109】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ネオペンチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0110】
安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0111】
安定剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、好ましくは0.001〜1質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001〜0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005〜0.5質量部である。
【0112】
離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましい。
【0113】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、GPCで測定される質量平均分子量が、700〜10000、更には900〜8000のものが好ましい。また、側鎖に水酸基、カルボキシル基、無水酸基、エポキシ基等を導入した変性ポリオレフィン系化合物も特に好ましい。
【0114】
脂肪酸エステル系化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられ、中でも、炭素数11〜28、好ましくは炭素数17〜21の脂肪酸で構成される脂肪酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン−12−ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0115】
また、シリコーン系化合物としては、ポリエステル樹脂との相溶性等の点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端及び/または片末端に有機基を導入したシリコーンオイル等が挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等が挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0116】
離型剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.05〜2質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、一方、2質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、また、成形品表面に曇りが見られる場合がある。離型剤の含有量は、好ましくは0.07〜1.5質量部、更に好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0117】
また、本発明の樹脂組成物には、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0118】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸または二軸押出機で溶融混練する。また、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。更には、熱可塑性ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、ガラス繊維等の繊維状の強化充填材を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0119】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220〜300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0120】
[レーザー溶着用成形体]
成形体の製造方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
【0121】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、入射率Kが20〜80%の範囲にあるように調整されていることが好ましい。
入射率Kは、成形品の1mm厚に換算した、波長940nmのレーザー光に対する入射率であり、
入射率K(%)=100−透過率−反射率
として定義される。
【0122】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物を成形した成形体は、入射率Kが、好ましくは20〜80%の範囲、更に好ましくは40〜70%、特に好ましくは45〜65%の範囲にあり、これによりレーザー光の透過量とレーザー光の吸収量を調整しているので、従来のレーザー溶着のようにレーザー光透過性樹脂からなる成形体とレーザー光吸収性樹脂からなる成形体の2種を用いる必要はなく、1種類の樹脂材料のみでレーザー溶着が可能なポリエステル系レーザー溶着用成形体を提供することが可能となる。特に、同種の樹脂材料からなる溶着体同士を溶着させる場合に、本発明の効果は顕著である。
レーザー溶着用成形体の形状等は任意であり、端部を突き合わせて溶着に供するような異形押出品(棒、パイプ等)でもよく、特に高い防水性、気密性が必要とされる通電部品、電子部品等に用いられる金属インサートされた成形品も好ましい。
【0123】
[レーザー溶着体]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、入射率Kが20〜80%の範囲(940nmのレーザー光に対する入射率K、1mm厚み換算)の範囲に調整されていることが好ましい。このため、上記したように、レーザー光透過性樹脂からなる成形体とレーザー光吸収性樹脂からなる成形体の2種を用いる必要はなく、また、レーザー光の透過深さが大きく、そのため大きい溶融深さを確保することができるので、重ね合わせ溶着は勿論、今まで出来なかったレーザー溶着用成形体の端部同士の突き合わせ溶着でも、十分高い溶着強度を達成することができる。また、成形体が、成形時のヒケや反りにより接合用部に仮に隙間が生じた場合にも、隙間が0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、更には0.5mm以上、特には1mm以上もある場合であっても、レーザー溶着が可能である。
【0124】
照射するレーザー光の種類は、近赤外レーザー光であれば任意であり、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶)レーザー(波長1064nm)、LD(レーザーダイオード)レーザー(波長808nm、820nm、840nm、880nm、940nm)等を好ましく用いることができる。
【0125】
レーザー溶着された溶着体の形状、大きさ、厚み等は任意であり、溶着体の用途としては、自動車等の輸送機器用部品、電気電子機器部品、産業機械用部品、その他民生用部品等に好適である。
【0126】
レーザー溶着する方法としては、突き合わせ溶着や重ね合わせ溶着等を好ましく挙げることができる。
突き合わせ溶着は、
図1に示すように、2枚の成形体1と2を突き合わせ、走査しながら、レーザー光4を照射し、溶着部5が生成することにより、レーザー溶着体ができる。
重ね合わせ溶着は、
図2に示すように、2枚の前記成形体1と2を重ね合わせ、走査しながら、レーザー光4を照射し、溶着部5が生成することにより、レーザー溶着体ができる。
【0127】
本発明の着色樹脂組成物で得られた成形体を、突き合わせして、レーザー溶着することにより、得られたレーザー溶着体は、引張強度がかなり向上し、レーザー溶着体に対して要求される実用強度を満たす。また、レーザー溶着条件を考えると、レーザー光によるエネルギー量の許容範囲が、格段に広い範囲を有していることが分かり、このような、広いレーザー溶着要件に対応できる成形体は、複雑な構造の成形体溶着や、厚みの変化した成形体溶着等に対する実用性の高いレーザー溶着を提供できる。
【実施例】
【0128】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0129】
以下に、実施例に使用した着色剤例1〜3の製造例及び比較例に使用した比較着色剤例1の製造例を示す。
【0130】
(製造例1:着色剤例1の製造)
1:1型アゾメチンニッケル錯体(前記表1における化合物例1、即ちR
1〜R
9=H、C.I.ソルベント ブラウン53)0.38質量部とトリフェニルメタン染料1(C.I.ソルベント ブルー23)0.22質量部を配合機に入れて、5時間攪拌して、着色剤例1 0.60質量部を得た。
【0131】
(製造例2:着色剤例2の製造)
製造例1において、配合組成を、1:1型アゾメチンニッケル錯体(C.I.ソルベント ブラウン53)1.14質量部とトリフェニルメタン染料1(C.I.ソルベント ブルー23)0.66質量部に変えて、着色剤例2 1.80質量部を得た。
(製造例3:着色剤例3の製造)
製造例1において、配合組成を、1:1型アゾメチンニッケル錯体(C.I.ソルベント ブラウン53)1.90質量部とトリフェニルメタン染料1(C.I.ソルベント ブルー23)1.10質量部に変えて、着色剤例3 3.00質量部を得た。
【0132】
(比較製造例1:比較着色剤例1の製造)
製造例1において、配合組成を、トリフェニルメタン染料1(C.I.ソルベント ブルー23)0.66質量部とペリノン染料1(最大吸収波長472nm C.I.ソルベント レッド179)0.57質量部とアントラキノン染料3(最大吸収波長446nm C.I.ソルベント イエロー163)0.57質量部に変えて、比較着色剤例1 1.80質量部を得た。
【0133】
上記で製造した着色剤例1〜3を用いて、実施例1〜3を行い、成形体例1〜3を製造した。また、本発明適用外の比較着色剤例1を用いて、比較例1を行い、比較成形体例1を得た。
【0134】
(実施例1:成形体例1の製造)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ノバデュラン(登録商標)5010G30X4)600質量部と、ニグロシン(オリヱント化学工業社製、NUBIAN(登録商標) BLACK TH−807)0.06質量部、及び着色剤例11 0.60質量部を、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機Si−50を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横20mm×厚さ2mmの黒色の成形体例1(成形体例1−1、成形体例1−2)を2枚作製した。
更に入射率測定用試験片として、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmと1mmの2段形状の黒色の成形体例1Kを作製した。
透過率、反射率及び入射率Kは、以下のとおりであった。
透過率:24.5%、反射率:30.0%、入射率K:45.5%
【0135】
(入射率Kの算出方法)
入射率K(%)の算出方法は、以下の通りである。
分光光度計(日本分光社製、V−570)を用いて、入射率用測定片成形体例について、940nmでの透過率と反射率を測定し、以下の式より入射率K(単位:%)を算出した。
入射率K(%)=100−透過率−反射率
【0136】
(実施例2:成形体例2の製造)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン5010G30X4)600質量部と、ニグロシン(NUBIAN BLACK TH−807)0.06質量部、及び着色剤例2 1.8質量部を、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機Si−50を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横20mm×厚さ2mmの黒色の成形体例2(成形体例2−1、成形体例2−2)を2枚作製した。
更に入射率測定用試験片として、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmと1mmの2段形状の黒色の成形体例2Kを作製した。
透過率、反射率及び入射率Kは、以下のとおりであった。
透過率:22.4%、反射率:27.8%、入射率K:49.8%
【0137】
(実施例3:成形体例3の製造)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン5010G30X4)600質量部と、ニグロシン(NUBIAN BLACK TH−807)0.06質量部、及び着色剤例3 3.0質量部を、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機Si−50を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横20mm×厚さ2mmの黒色の成形体例3(成形体例3−1、成形体例3−2)を2枚作製した。
更に入射率測定用試験片として、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmと1mmの2段形状の黒色の成形体例3Kを作製した。
透過率:18.8%、反射率:24.4%、入射率K:56.8%
【0138】
(比較例1:比較成形体例1の製造)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン5010G30X4)600質量部と、ニグロシン(:NUBIAN BLACK TH−807)0.06質量部、及び比較着色剤例1 0.6質量部を、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機Si−50を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横20mm×厚さ2mmの黒色の比較成形体例1(比較成形体例1−1、比較成形体例1−2)を2枚作製した。
更に入射率測定用試験片として、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmと1mmの2段の段付き形状の黒色の比較成形体例1Kを作製した。
透過率:24.8%、反射率:30.7%、入射率K:44.5%
【0139】
上記で作製した成形体例1、成形体例2、成形体例3及び比較成形体例1を用い、成形体を突き合わせ溶着したレーザー溶着体の製造を行い、得られたレーザー溶着体を下記に示す方法で評価した。その結果を表2及び表3に示した。
【0140】
(実施例A1)
2枚の成形体例2(成形体2−1・成形体2−2同士)を、
図1のように突き合わされたまま当接させ、突き合わされた成形体1と2の界面に沿って、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](ファインディバイス社製)によるレーザービーム4を、走査速度を11mm/secで、15mm走査させて、照射すると、一体化したレーザー溶着体を得た。
【0141】
(実施例A2)
2枚の成形体例3(成形体3−1・成形体3−2同士)を、
図1のように突き合わされたまま当接させ、突き合わされた成形体1と2の界面に沿って、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](ファインディバイス社製)によるレーザービーム4を、走査速度を11mm/secで、15mm走査させて、照射すると、一体化したレーザー溶着体を得た。
【0142】
(実施例A3)
2枚の成形体例2(成形体2−1・成形体2−2同士)を2枚の成形体例1(成形体1−1・成形体1−2同士)に代え、レーザービームの走査速度を6mm/secに変更した以外は実施例A1と同様に操作を行い、一体化したレーザー溶着体を得た。
【0143】
(実施例A4)
レーザービームの走査速度を6mm/secに変更した以外は実施例A1と同様に操作を行い、一体化したレーザー溶着体を得た。
【0144】
(比較例A1)
2枚の比較成形体例1(比較成形体1−1・比較成形体1−2同士)を、
図1のように突き合わされたまま当接させ、突き合わされた成形体1と2の界面に沿って、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](ファインディバイス社製)によるレーザービーム4を、走査速度を11mm/secで、15mm走査させて、照射すると、一体化したレーザー溶着体が得られた。
【0145】
(比較例A2)
レーザービームの走査速度を6mm/secに変更した以外は比較例A1と同様に操作を行い、一体化したレーザー溶着体を得た。
【0146】
レーザー溶着条件の詳細は以下のとおりである。
レーザー溶着機;ファインディバイス社製 FD−200 (50W機)
出力 ;50W(設定)
スポット径 ;1mmφ
走査速度 ;表2または表3に記載の走査速度(mm/sec)
走査距離 ;15mm
【0147】
得られたレーザー溶着体について、JIS K7161−1994に準じ、引張試験機(島津製作所社製、AG−50kNE)にて、溶着体の長手方向(溶着部を引離す方向)に試験速度10mm/minで引張試験を行って、引張強度(単位:N)を測定した。
結果を表2と表3に示した。
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
上記表2及び表3で示す結果のとおり、実施例A1〜実施例A4で得られたレーザー溶着体は、比較例A1及び比較例A2で得られたレーザー溶着体に比べて、引張強度が高く、実用的に、充分なレーザー溶着強度が得られた。