【解決手段】非伸縮性の編糸11と伸縮性の芯糸12、13、14とによって編成される伸縮性経編地1であって、芯糸12、13、14は、複数種類の挿入によってメッシュ組織に編成され、少なくとも2種類の芯糸12、13、14が同行する線接触部31が1コース毎に形成される。これにより、伸縮性経編地1を裁断した際のほつれが抑制され、裁断後に縁始末を行う必要がない。また、伸縮性経編地1は、複数種類の芯糸12、13、14が挿入されているため、縦、横、斜め方向の伸縮性能に優れると共に、メッシュ状に編成されるので通気性及び意匠性に優れる。また、伸縮性経編地1の一方の主面に芯糸12、13、14が突出するため、一方の主面が滑り難くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、衣類等に用いられる経編地には、多彩な意匠性が求められる。しかしながら、上記した従来技術のフリーカットの経編地は、何れも、いわゆるプレーンな生地、即ち無地であり、メッシュ状の伸縮性経編地ではなかった。そのため、縫製加工等の縫い目を減らすことのできるフリーカットの経編地であり、伸縮性及び通気性に優れ、且つ網目模様等の意匠的表現が可能な伸縮性経編地が求められていた。
また、従来、滑り難い特徴を兼ね備えている伸縮性経編地はなかった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、裁断されたままの状態で縁始末を行う必要が無く、優れた伸縮性を有し、通気性及び意匠性に優れる伸縮性経編地及びそれを用いた衣料を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、裁断後の縁始末が不要で、且つ滑り止め効果を有する伸縮性経編地及びそれを用いた衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の伸縮性経編地は、非伸縮性の編糸と伸縮性の芯糸とによって編成される伸縮性経編地であって、前記芯糸は、複数種類の挿入によってメッシュ組織に編成され、少なくとも2種類の前記芯糸が同行する線接触部が1コース毎に形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の衣料は、上記の本発明に係る伸縮性経編地を用いた衣料であって、裁断されたままの状態で縁始末されていない縁部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の伸縮性経編地によれば、非伸縮性の編糸と伸縮性の芯糸とによって編成され、前記芯糸は、複数種類の挿入によってメッシュ組織に編成される。これにより、伸縮性経編地は、縦、横、斜め方向に優れた伸縮性能を発揮すると共に、通気性に優れる。
【0012】
また、少なくとも2種類の前記芯糸が同行する線接触部が1コース毎に形成される。これにより、挿入される芯糸は、線接触部で重なり、抜け難くなる。そのため、伸縮性経編地を裁断した際に形成される縁部のほつれを抑制することができる。
【0013】
このように、裁断されて形成される縁部のほつれが抑制されるため、縁部のほつれを防止するための縫製加工等の仕上げを行う必要がなく、衣類等への加工等を容易に行うことができる。即ち、伸縮性経編地をフリーカットの経編地として用いることができる。
【0014】
そして、本発明の伸縮性経編地は、複数種類の伸縮性の芯糸を有し、夫々の芯糸が重なり合って挿入されている。これにより、伸縮性経編地は、メッシュ状に編成される。そのため、伸縮性経編地の通気性及び意匠性が向上し、フリーカットで、伸縮性、通気性及び意匠性に優れる伸縮性経編地が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記線接触部の前記芯糸は、熱融着によって互いに接合されても良い。これにより、裁断される縁部のほつれを抑制する効果を高めることができる。
また、線接触部において芯糸同士が融着されて固定されることにより、芯糸の糸抜けが抑制される。これにより、伸縮性経編地を編成する際の編糸及び芯糸のテンションを低く抑えることもできる。その結果、編成条件の設定の幅が広がり、伸縮性経編地の伸縮性やパワー等を自在に調節することができる。
【0016】
また、線接触部の融着により芯糸の糸抜けが抑制されるので、例えば、編糸として糸抜けし易いポリエステル繊維等からなる糸や、従来技術の経編地よりも細い糸等、用途に応じて各種の太さ及び材質の糸を用いることができる。これにより、夫々の用途に適した伸縮性経編地の多彩な意匠的表現が可能となる。
【0017】
また、本発明によれば、少なくとも2種類の前記芯糸が交差する点接触部が形成されても良い。これにより、点接触部において、芯糸同士が融着するため、縁部のほつれを抑制する効果が得られる。
【0018】
また、点接触部が形成されることにより、伸縮性の芯糸が伸縮性経編地の一方の主面に突出する。そのため、伸縮性経編地の芯糸が突出する前記一方の主面が滑り難くなる。即ち、滑り止め機能を有するフリーカットの伸縮性経編地が得られる。
また、伸縮性の芯糸が伸縮性経編地の一方の主面に突出することにより、伸縮性経編地は、ドット柄等に編成される。これにより、意匠的な効果が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、少なくとも2種類の前記芯糸は、同一の編組織でコース方向にずらされて挿入されても良い。これにより、少なくとも2種類の芯糸が重なり合い、点接触部が形成される。そのため、形成される点接触部によって、ドット柄等を編成することができると共に、ほつれを抑制する効果を更に高めることができる。
【0020】
また、少なくとも2種類の芯糸を同一の編組織で編成することにより、伸縮性経編地を編成する際に用いられる前記2種類の芯糸の長さは、略同じになる。そのため、この同一の編組織で編成される2種類の芯糸として、同一のビームから供給される同一の糸を用いることもできる。即ち、1つのビームから供給される糸によって2種類の芯糸を挿入することができる。その結果、編機に装着可能なビームの数よりも多くの種類の編糸及び芯糸を編成することが可能となり、効率的である。
【0021】
また、本発明によれば、前記芯糸は、1コース毎に同一のウェール方向に振られて挿入されても良い。これにより、芯糸同士が接触して重なり合う線接触部及び点接触部を多く形成することができる。そのため、熱融着により芯糸同士が接合される部分が増えるため、裁断された際にほつれが発生する範囲を小さくすることができ、裁断の向きや形状等によらず、伸縮性経編地の縁部からのほつれを抑制することができる。
【0022】
また、本発明によれば、前記芯糸は、ポリウレタン繊維を含んでも良い。これにより、伸縮性経編地に熱を加えて、芯糸同士を容易に融着させることができる。また、ポリウレタン繊維は伸縮性に優れるため、伸縮性経編地の伸縮性を更に高めることができる。
【0023】
また、本発明によれば、抜糸を挿入して編成された後に前記抜糸を除去して形成されるヘムを有しても良い。これにより、伸縮性経編地の前記ヘムは、衣類等への加工の際に、はさみ等による裁断を必要としない。そのため、衣類等への加工を容易に行うことができる。また、ヘムが編成されることにより、伸縮性経編地の縁部のよれが少なくなり、縁部が綺麗に整えられる。そのため、縫製仕上げ加工等を減らすことができる。また、衣類の縁部等の折り返しや縫い目を減らすことができるので、着用した際の肌触りを良くすることができると共に、意匠性が向上する。
【0024】
また、本発明の衣料によれば、上記の伸縮性経編地を用いた衣料であって、裁断されたままの状態で縁始末されていない縁部を有しても良い。これにより、縫製の手間を省くことができ、衣料の生産性を高めることができる。また、裁断された縁部の縫製加工等が行われないため、縁部近傍の縫い目を減らすことができ、意匠性が高められると共に、着用した際の肌触りを良くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る伸縮性経編地を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る伸縮性経編地1の編組織分解図である。なお、
図1ないし
図5は、編糸及び芯糸が下方から上方向に編み込まれる際にどのような編み方をされるかを示している。また、
図1ないし
図5において、点Hは、経編地を編成する際に針が通る場所を示している。
【0027】
なお、以下の説明において、コース方向とは、伸縮性経編地1が編み込まれる方向であり
図1ないし
図5において上下方向である。また、ウェール方向とは、筬の振れ方向であり
図1ないし
図5において左右方向である。
【0028】
伸縮性経編地1は、メッシュ状の経編地であり、例えば、ソフトガードル等の下着、手袋等のスポーツ用製品、サポータ等のメディカル用製品に用いられる。
図1に示すように、伸縮性経編地1は、1種類の編糸と、3種類の芯糸と、により編成される。具体的には、伸縮性経編地1は、編糸11と、第1の芯糸としての芯糸12と、第2の芯糸としての芯糸13と、第3の芯糸としての芯糸14と、を有する。
【0029】
編糸11は、非伸縮性の糸であり、編糸11として、例えば、ポリエステルやナイロン等の合成繊維、または綿や絹等の天然繊維等からなる糸が用いられる。なお、編糸11の太さは、例えば、22dtex(デシテックス)から78dtexが好ましい。
【0030】
編糸11は、針列Y1から針列Y6を繰り返しの単位とするパワー編の編組織21により編成される。詳しくは、編組織21は、6コースのパワー編に編成される一対の編糸のうちの一方と同じ編組織である。即ち、編糸11によって編成される編組織21は、1コース編み込まれる毎に開き目若しくは閉じ目となるループを形成する。
【0031】
具体的には、編糸11は、針間A3を通り、針間A2と針間A3の間の針に対して開き目を形成する(針列Y1)、次に、編糸11は、針間A2を通り、針間A2と針間A3の間の針に対して閉じ目を形成する(針列Y2)。次に、編糸11は、針間A2を通り、針間A1と針間A2の間の針に対して閉じ目を形成する(針列Y3)。
【0032】
次に、編糸11は、針間A2を通り、針間A2と針間A3の間の針に対して開き目を形成する(針列Y4)。次に、編糸11は、針間A3を通り、針間A2と針間A3の間の針に対して閉じ目を形成する(針列Y5)。次に、編糸11は、針間A3を通り、針間A3と針間A4の間の針に対して閉じ目を形成する(針列Y6)。
なお、伸縮性経編地1に用いられる編糸11は、その他の編組織によって編成されても良い。
【0033】
芯糸12は、伸縮性の糸である。芯糸12としては、ポリウレタン繊維を含む糸が好ましく、例えば、ポリウレタン繊維であるスパンデックス等が用いられる。なお、芯糸12の太さは、用途に応じて適宜選定され、例えば、33dtexから620dtexが好ましい。
【0034】
芯糸12は、針列Y1から針列Y12を繰り返しの単位とする12コースの編組織22によって挿入される。編組織22は、ループが形成されない編組織であり、1コース毎に1針から2針分、ウェール方向に交互に振られる略蛇行状の編組織である。
【0035】
具体的には、芯糸12は、針間B3を通り(針列Y1)、針間B4を通る(針列Y2)。次に、芯糸は、針間B2を通り(針列Y3)、針間B3を通る(針列Y4)。次に、芯糸12は、針間B1を通り(針列Y5)、針間B2を通る(針列Y6)。次に、芯糸12は、針間B1を通り(針列Y7)、針間B3を通る(針列Y8)。次に、芯糸12は、針間B2を通り(針列Y9)、針間B4を通る(針列Y10)。次に、芯糸12は、針間B3を通り(針列Y11)、針間B5を通る(針列Y12)。
【0036】
芯糸13は、芯糸12と同一の伸縮性の糸が用いられる。即ち、芯糸13は、例えば、ポリウレタン繊維であるスパンデックス等からなる糸であり、芯糸13の太さは、33dtexから620dtexが好ましい。
【0037】
芯糸13は、芯糸12と同一の編組織22によって編成され、芯糸12に対してコース方向に6コース分ずらされて挿入される。即ち、芯糸12及び芯糸13は、編組織22が共通し、挿入されるコース方向の位置のみが異なる。
【0038】
詳しくは、芯糸13は、針間C1を通り(針列Y1)、針間C3を通る(針列Y2)。次に、芯糸は、針間C2を通り(針列Y3)、針間C4を通る(針列Y4)。次に、芯糸13は、針間C3を通り(針列Y5)、針間C5を通る(針列Y6)。次に、芯糸13は、針間C3を通り(針列Y7)、針間C4を通る(針列Y8)。次に、芯糸13は、針間C2を通り(針列Y9)、針間C3を通る(針列Y10)。次に、芯糸13は、針間C1を通り(針列Y11)、針間C2を通る(針列Y12)。このように、芯糸13は、針列Y1から針列Y12を繰り返しの単位として挿入される12コースの編組織22によって編成される。
【0039】
上記のように、芯糸12及び芯糸13は、同一の編組織22によって挿入されるため、伸縮性経編地1内に用いられる芯糸12及び芯糸13の夫々の長さが略同じになる。具体的には、1つの繰り返しの単位、即ち針列Y1から針列Y12において、用いられる芯糸12及び芯糸13の長さは、夫々略同じになる。
【0040】
これにより、伸縮性経編地1の編成時に、芯糸12及び芯糸13として、同一のビームから供給される同一の糸を用いることもできる。換言すれば、1つのビームから供給される同一の糸によって2種類の芯糸、即ち芯糸12及び芯糸13を挿入することができる。
【0041】
このような構成により、伸縮性経編地1を編成する際に、編機に装着可能なビームの数よりも多くの種類の編糸及び芯糸を編成することが可能となる。その結果、伸縮性経編地1の芯糸12や芯糸13等の重なりを増やして、フリーカット性を高めることができる。
【0042】
また、芯糸12及び芯糸13等の多くの種類の芯糸を用いることにより、多彩な意匠的表現を行うことができ、意匠性を高めることができる。また、利用可能なビームの数が少ない編機であっても、フリーカット性及び意匠性に優れる伸縮性経編地1を編成することができる。
【0043】
なお、上記の例では、芯糸12及び芯糸13として、同一のビームから供給される同一の糸が用いられるとしたが、芯糸12及び芯糸13としては、例えば、異なるビームから供給される異なる種類の糸が用いられても良い。
【0044】
芯糸14は、伸縮性の糸である。芯糸14としては、ポリウレタン繊維を含む糸が好ましく、例えば、ポリウレタン繊維であるスパンデックス等が用いられる。なお、芯糸14の太さは、用途に応じて適宜選定され、例えば、78dtexから620dtexが好ましく、芯糸12及び芯糸13とは異なる太さであっても良い。
【0045】
芯糸14は、針列Y1から針列Y6を繰り返しの単位とする6コースのサテン編の編組織24によって挿入される。具体的には、芯糸14は、針間D2を通り(針列Y1)、針間D3を通る(針列Y2)。次に、芯糸14は、針間D1を通り(針列Y3)、針間D3を通る(針列Y4)。次に、芯糸14は、針間D2を通り(針列Y5)、針間D4を通る(針列Y6)。
【0046】
また、伸縮性経編地1は、
図5に示すヘム41及びヘム42を編成するための芯糸15を有する。芯糸15としては、例えば、ポリエステル等の合成繊維等が用いられる。芯糸15は、針列Y1から針列Y2を繰り返しの単位とする鎖編の編組織25によって編成される。
【0047】
詳しくは、芯糸15は、針間E1を通り、針間E1と針間E2の間の針に対して開き目を形成する(針列Y1)。次に、芯糸15は、針間E2を通り、針間E1と針間E2の間の針に対して開き目を形成する(針列Y2)。
【0048】
図2は、伸縮性経編地1の一部分を示す組織図である。
図2に示すように、伸縮性経編地1は、編糸11、芯糸12、芯糸13及び芯糸14により編成される。
編糸11は、フルセットで挿入される。即ち、編組織21を編成する編糸11は、編糸11を編成する筬の全てのガイドに挿入される。このように、編糸11は、全ての針間に対して挿入され、前述のとおり、各針に対して、開き目若しくは閉じ目となるループを形成している。
【0049】
芯糸12は、いわゆる2in2outで挿入される。具体的には、芯糸12は、ウェール方向において、2つの針間に連続して挿入され、その横に2つ分の針間を空けて、次の2つの針間に連続して挿入される。即ち、芯糸12は、芯糸12が挿入される筬の2つの連続して並ぶガイドに挿入され、その横の2つのガイドには挿入されず、これを繰り返してセットされる。
【0050】
また、芯糸13は、芯糸12と同様に、2in2outで挿入される。具体的には、芯糸13は、芯糸12と同様に、2つの針間に連続して挿入され、その横に2つ分の針間を空けて、次の2つの針間に連続して挿入される。即ち、芯糸13は、芯糸13が挿入される筬の2つの連続して並ぶガイドに挿入され、その横の2つのガイドには挿入されず、これを繰り返してセットされる。
【0051】
また、芯糸12及び芯糸13は、1コース進む毎に、ウェール方向に交互に、即ち左右交互に振られて略蛇行状に挿入される。ここで、針列Y1から針列Y6において、芯糸12は、ウェール方向の左に振られる場合には1針分振られ、右に振られる場合には2針分振られて挿入される。
【0052】
このように、芯糸12は、針列Y1から針列Y6において、左方向よりも右方向に大きく振られて挿入されるため、ウェール方向の左側から右側に向かって斜めに挿入されることになる。即ち、芯糸12は、針列Y1から針列Y6において、コース方向に対して右斜め方向、即ち
図2において右斜め上方向に向かって挿入される。
【0053】
また、針列Y6から針列Y12において、芯糸12は、ウェール方向の左に振られる場合には2針分振られ、右に振られる場合には1針分振られる。このように、芯糸12は、針列Y6から針列Y12において、右方向よりも左方向に大きく振られて挿入されるため、ウェール方向の右側から左側に向かって斜めに挿入されることになる。即ち、芯糸12は、針列Y6から針列Y12において、コース方向に対して左斜め方向、即ち
図2において左斜め上方向に向かって挿入される。
【0054】
また、同じ編組織22によって挿入される芯糸13も、芯糸12と同様に斜め方向に向かって交互に挿入される。具体的には、芯糸13は、針列Y1から針列Y6において、コース方向に対して左斜め方向に挿入され、針列Y6から針列Y12において、コース方向に対して右斜め方向に挿入される。上記のように、芯糸12及び芯糸13が振り幅を変えて交互に斜め方向に向かって挿入されるため、伸縮性経編地1は、コース方向、ウェール方向及び斜め方向に優れた伸縮性が発揮される。
【0055】
また、芯糸12及び芯糸13は、前述のとおり、夫々ウェール方向に大きく振られる同一の編組織22を有し、コース方向に6コース分ずれて挿入されるため、芯糸12及び芯糸13が互いに重なり合う部分が形成される。
【0056】
芯糸14は、フルセットで挿入される。即ち、芯糸14は、ウェール方向において、全ての針間に対して挿入される。つまり、芯糸14は、芯糸14が挿入される筬の全てのガイドに挿入される。
【0057】
上記のように3種類の芯糸、即ち芯糸12、芯糸13及び芯糸14が挿入されることにより、芯糸12、芯糸13及び芯糸14が夫々重なり合ってメッシュ組織を編成し、伸縮性経編地1は、メッシュ状に編成される。これにより、伸縮性経編地1には、多数の編目が形成されるため、通気性に優れる。また、伸縮性経編地1は、多彩な意匠性を発揮することができる。なお、伸縮性経編地1に、更に他の種類の編糸若しくは芯糸等を追加しても良い。即ち、伸縮性経編地1は、2種類以上の編糸によって編成されても良く、また、3種類以上の芯糸が挿入されて編成されても良い。
【0058】
図3は、
図2に示す伸縮性経編地1の芯糸12、芯糸13及び芯糸14のみを抜き出した組織図である。なお、
図3及び
図4において1点鎖線の楕円によって示すF部は、後述する線接触部31が形成される箇所の近傍を示している。
【0059】
図3に示すように、芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、夫々が重なり合う箇所が形成されるよう挿入されている。具体的には、伸縮性経編地1には、芯糸12、芯糸13及び芯糸14のうち2種類の芯糸が同行する線接触部31が形成される。ここで、同行とは、1コース分編み込まれる際に、同じ針間から同じ針間を通過し重なり合って挿入されることである。
【0060】
具体的には、針列Y3から針列Y9において、芯糸13と芯糸14とがF部において同行し、線接触部31が形成される。また、針列Y9から針列Y15において、芯糸12と芯糸14とがF部において同行し、線接触部31が形成される。なお、針列Y13から針列Y15までの編組織は、針列Y1から針列Y3までの編組織と同じである。このように、伸縮性経編地1は、芯糸12、芯糸13及び芯糸14のうち何れか2本が同行し、1コース分編み込まれる際に、必ず1つ以上の線接触部31が形成される。
【0061】
線接触部31が形成されることにより、芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、線接触部31において重なり合った状態になる。そのため、伸縮性経編地1を裁断した際のほつれを抑制することができる。これにより、伸縮性経編地1は、裁断された際に形成される縁部の縫製加工等の縁始末を行う必要がなく、伸縮性経編地1は、衣類等への加工等を容易に行うことができる。
【0062】
なお、線接触部31は、芯糸12、芯糸13及び芯糸14の何れか2本が同行して形成されているが、これに限らず、例えば、更に他の芯糸を加えて、3本以上の芯糸が同行して線接触部31が形成されても良い。これにより、複数の芯糸を接触させて重なり合わせることができ、裁断された際のほつれを抑制する効果を高めることができる。
【0063】
図4は、
図3に示す芯糸12、芯糸13及び芯糸14の拡大組織図である。なお、
図4において破線の円によって示すG部は、点接触部32が形成される箇所の近傍を示している。
図4に示すように、伸縮性経編地1には、芯糸12、芯糸13及び芯糸14うち少なくとも2種類の芯糸が重なり交差する点接触部32が形成される。
【0064】
例えば、
図4に示すG1部において、芯糸13及び芯糸14が同じ針間に挿入されている。芯糸14は、針列Y1からG1部に向かって挿入される際に、芯糸13よりもウェール方向の左側の針間から挿入される。また、芯糸14は、G1部からその先の針列Y3に向かって挿入される際に、芯糸13よりもウェール方向の右側の針間に挿入される。これにより、G1部において、芯糸13と芯糸14とが交差し、点接触部32が形成される。
【0065】
また、例えば、G2部において、芯糸12及び芯糸14は、同じ針間に挿入されている。芯糸14は、針列Y3からG2部に向かって挿入される際に、芯糸12よりもウェール方向の右側の針間から挿入される。また、芯糸14は、G2部からその先の針列Y5に向かって挿入される際に、芯糸12よりもウェール方向の左側の針間に挿入される。これにより、芯糸12と芯糸14とが交差し、点接触部32が形成される。
【0066】
上記のように、点接触部32で芯糸12、芯糸13及び芯糸14同士が交差することにより、交差した芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、伸縮性経編地1の一方の主面に突出する。伸縮性の糸である芯糸12、芯糸13及び芯糸14が一方の主面に突出することにより、伸縮性経編地1の一方の主面の摩擦係数が大きくなり、伸縮性経編地1の一方の主面が滑り難くなる。即ち、上記の点接触部32が形成される構成により、滑り止め機能を有するフリーカットの伸縮性経編地1が得られる。
【0067】
これにより、伸縮性経編地1は、例えば、手袋等のスポーツ用製品やサポータ等のメディカル用製品のように、伸縮性に加えて、滑り止め機能が要求される衣料等に用いられる生地として好適である。なお、伸縮性経編地1は、上記の手袋やサポータ等の布製品に限られず、様々な製品の滑り止め部材として利用可能である。
【0068】
また、規則的な配列で形成されて伸縮性経編地1の一方の主面に突出する点接触部32によって、視覚的な効果が得られる。即ち、点接触部32よって、伸縮性経編地1にドット柄等の模様が表れ、伸縮性経編地1の意匠性が高められる。
【0069】
また、一方の主面の反対側となる他方の主面には、芯糸12、芯糸13及び芯糸14が突出しない。これにより、他方の主面は、滑らかに形成されるため、衣類等として着用した際の肌触りが良くなる。
【0070】
また、上記のように編成された伸縮性経編地1には、編成工程の後に、その形態や寸法の安定性を保つための工程であるヒートセット処理が施される。ヒートセット処理では、編成された後の伸縮性経編地1を、適度な張力の下で形を整えてセットし、熱を加えることにより、伸縮性経編地1の編目の安定性を高めることができる。
【0071】
特に、本実施形態に係る伸縮性経編地1では、ヒートセット処理によって、芯糸12、芯糸13及び芯糸14の熱融着が行われる。具体的には、
図3及び
図4に示す線接触部31及び点接触部32において、芯糸12、芯糸13及び芯糸14が融着によって接合される。なお、芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、編糸11よりも融点の低い繊維を含む。前述のとおり、芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、ポリウレタン繊維を含む糸によって形成されるため、芯糸12、芯糸13及び芯糸14同士の熱融着を容易に行うことができる。
【0072】
ここで、伸縮性経編地1のヒートセット処理は、一般的な染色等の前工程等として編地に施されるヒートセット処理の温度よりも高い温度で行われる。具体的には、ヒートセット処理における加熱温度は、185℃から210℃が好ましい。加熱温度が185℃よりも低いと、線接触部31及び点接触部32における芯糸12、芯糸13及び芯糸14の熱融着が不十分となり、裁断された縁部のほつれを抑制する効果が小さい。他方、加熱温度が210℃を超えると、芯糸12、芯糸13及び芯糸14が融けて形状を維持できない恐れがある。
【0073】
より好ましい条件として、ヒートセット処理における加熱温度は、190℃から200℃であり、より好ましくは、194℃から198℃である。
このような条件によってヒートセット処理が施されることにより、線接触部31及び点接触部32における、芯糸12、芯糸13及び芯糸14同士の融着による結合が良好になり、芯糸12、芯糸13及び芯糸14が離れ難くなる。よって、裁断された際の縁部のほつれを抑制する効果が高められる。
【0074】
このように、線接触部31及び点接触部32において芯糸12、芯糸13及び芯糸14同士が融着されて固定されることにより、芯糸12、芯糸13及び芯糸14の糸抜けが抑制される。これにより、伸縮性経編地1を編成する際の編糸11、芯糸12、芯糸13及び芯糸14のテンションを低く抑えることができる。その結果、編成条件の設定の幅が広がり、伸縮性経編地1の伸縮性やパワー等を自在に調節することができる。
【0075】
また、従来の一般的なメッシュ状の経編地は、非伸縮性の糸によって編目が編成される。このような非伸縮性の糸によって編成される経編地において、メッシュ状の構造を維持しつつ且つフリーカットである経編地を作ることは容易ではなかった。本実施形態では、上記のように、伸縮性の芯糸12、芯糸13及び芯糸14によってメッシュ状の編目が編成される。これにより、伸縮性経編地1は、メッシュ状で且つフリーカットであるという従来にない全く新しい経編地となった。
【0076】
また、線接触部31及び点接触部32における融着により芯糸12、芯糸13及び芯糸14の糸抜けが抑制される。そのため、例えば、編糸11として糸抜けし易いポリエステル繊維等からなる糸や、従来技術の経編地よりも細い糸等、用途に応じて各種の太さ及び材質の糸を用いることができる。これにより、様々な用途に適した伸縮性やパワー等を有する伸縮性経編地1が編成されると共に、多彩な意匠的表現が可能となる。
【0077】
また、一般的な非伸縮性の糸によって編成されるメッシュ状の経編地に伸縮性の糸を挿入して編み込む場合、経編地の伸縮性及びパワーの調節は、容易ではなかった。上記のように、伸縮性経編地1は、フリーカットであると共に、従来の一般的な非伸縮性の糸によって編成されるメッシュ状の経編地と比べて、伸縮性及びパワーの調節が容易である。
【0078】
また、
図3に示すように、芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、1コース毎に同じウェール方向に振られて挿入されているため、芯糸12、芯糸13及び芯糸14同士が接触して重なり合う線接触部31及び点接触部32(
図4参照)が、多く形成されている。これにより、裁断された際にほつれが発生する範囲を小さくすることができる。そのため、裁断の向きや形状等によらず、伸縮性経編地1の縁部からのほつれを抑制することができる。
【0079】
上記のように、伸縮性経編地1は、裁断されることにより形成される縁部のほつれ防止のための縫製仕上げ加工等が必要ないため、裁断されたままの状態、即ちフリーカットで縁始末を行う必要がない。そのため、例えば、伸縮性経編地1が衣料の一部に利用された際に、裁断された縁部の縫製加工等を行う工程を減らすことができる。その結果、衣料の生産性を高めることができる。
【0080】
また、伸縮性経編地1は、裁断された縁部の縫製加工等を必要としないため、例えば、折り返し等によって形成される縫い目等を減らすことができる。これにより、衣料等の意匠性が向上する。また、縁部の縫い目等がないことにより、衣料等を着用した際の肌触りを良くすることができる。そのため、伸縮性経編地1は、例えば、ソフトガードルや下着等、編地が直接肌に触れる衣料等に特に適している。
【0081】
なお、伸縮性経編地1は、上記の例とは異なる位置に線接触部31及び点接触部32が形成されるように編成されても良い。即ち、芯糸12、芯糸13及び芯糸14は、上記の例に対して、コース方向またはウェール方向にずれた位置に挿入されても良い。
【0082】
例えば、伸縮性経編地1は、芯糸12がウェール方向にずらされて挿入された場合、芯糸12によって形成される線接触部31及び点接触部32も同様にウェール方向に位置がずれる。また、芯糸14がコース方向に偶数コース分ずらされて挿入された場合、芯糸14によって形成される線接触部31及び点接触部32も同様にコース方向に偶数コース分ずれた位置に形成される。これにより、異なる網目模様が形成され、多彩な意匠的表現が実現される。
【0083】
図5は、伸縮性経編地1のヘム41及びヘム42近傍の組織図である。
図5に示すように、伸縮性経編地1は、ヘム41及びヘム42を有する。ヘム41及びヘム42には、芯糸15が編成されており、これにより、ヘム41及びヘム42の近傍が補強され、強度が高められる。
【0084】
また、ヘム41及びヘム42の間、即ちヘム41の右側でヘム42の左側には、抜糸16が編成される。抜糸16は、例えば、ポリエステル等の合成繊維や天然繊維等からなる各種の糸であり、芯糸15と同じ編組織25によって編成される。抜糸16は、芯糸14のみに重なり合うようにして編成される。
【0085】
このように、抜糸16は、重なり合う糸が少なく編成されるため、伸縮性経編地1から抜糸16を容易に引き抜くことができる。抜糸16が引き抜かれることにより、伸縮性経編地1は、ヘム41を有する伸縮性経編地1aと、ヘム42を有する伸縮性経編地1bと、に分割される。即ち、ヘム41及びヘム42は、伸縮性経編地1の縁部となる。
【0086】
上記のように、ヘム41及びヘム42を設けることにより、伸縮性経編地1は、衣類等への加工の際に、ヘム41及びヘム42おいて、はさみ等による裁断を必要としない。そのため、伸縮性経編地1は、裁断により形成されて縁始末を必要としない縁部と、裁断を必要としないヘム41及びヘム42による縁部と、を用いることができる。これにより、衣類等への加工を容易に行うことができる。なお、抜糸16に交差する芯糸14は、2本の伸縮性の糸によって挿入されても良い。これにより、抜糸16が引き抜かれた際に形成される縁部の強度を更に高めることができる。
【0087】
また、ヘム41及びヘム42が編成されることにより、伸縮性経編地1の縁部のよれが少なくなり、縁部が綺麗に整えられる。そのため、縫製仕上げ加工等を減らすことができる。また、衣類の縁部等の折り返しや縫い目を減らすことができるので、着用した際の肌触りを良くすることができると共に、意匠性が向上する。
【0088】
[実施例1]
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下に挙げる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0089】
先ず、伸縮性経編地1の伸縮性についての評価試験及びその結果について説明する。
図2に示す編組織によって伸縮性経編地1を編成した。ここで、編糸11として、ポリエステル繊維により形成され、太さが56dtexの糸を用いた。また、芯糸12及び芯糸13として、ポリウレタン繊維により形成され、太さが78dtexの糸を用い、芯糸14として、ポリウレタン繊維により形成され、太さが156dtexの糸を用いた。
そして、編成された後の伸縮性経編地1には、196℃の加熱条件の下、ヒートセット処理が施された。
【0090】
上記のとおり編成された伸縮性経編地1から、幅25mm、つかみ間隔100mmの試験片を形成した。そして、JIS L1096のA法(ストリップ法)に基づき、引張試験機によって伸長率(伸び率)の測定を行った。なお、試験片を変えて縦方向及び横方向について夫々5回の測定を行い、伸長率として、5回の測定値の平均値を算出した。
【0091】
上記試験の結果、伸縮性経編地1は、22.05Nの荷重により、縦方向に247%、横方向に189%の伸長率であることが確認された。これは、下着やスポーツ用品等に用いられる伸縮性経編地として十分な伸長率である。
【0092】
次に、上記のとおり編成された伸縮性経編地1を用いて、生地のほつれ及びカールについての評価試験を行った。その評価試験及びその結果について説明する。
伸縮性経編地1を30cm角にカットした5枚の試験片、及び直径30cmの円形にカットした5枚の試験片を準備した。その試験片について、洗濯10分、第1すすぎ10分、第2すすぎ5分及び脱水20分を1セットとする洗濯工程を30回実施し、タンブル乾燥80分の工程を前記洗濯工程6回毎に1回、計5回併せて実施した。
【0093】
上記の洗濯工程及び乾燥工程を実施した後の伸縮性経編地1の試験片を目視により確認し、縁部のほつれやカール等の有無を判断した。
その結果、試験片の縁部には、ほつれやカール等は確認されなかった。これにより、伸縮性経編地1は、フリーカットの生地として適正であると判断した。
【0094】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。