【解決手段】エンジン30は、動力軸3と、動力軸3を中心とした所定の円周に沿って配置され、それぞれが動力軸3に対し略平行に設けられた複数のシリンダー2と、複数のシリンダー2の各々に設けられた複数のピストン21と、複数のピストン21の各々に接続され、ピストン21の往復運動を回転運動に変換する複数のクランク機構5,6と、複数のクランク機構の各々によって変換された回転運動を動力軸3に伝達させて動力軸3を回転させる動力伝達機構17,18とを備えている。
前記複数のシリンダーの各々のシリンダーヘッドに設けられた吸気バルブ又は排気バルブの少なくとも一方を駆動対象としており、前記動力軸に一体化されて該動力軸を中心に回転し、各シリンダーについてシリンダーヘッドに対面する位置で、駆動対象のバルブをピストン側に押して移動させるバルブ押付部を備え、
前記駆動対象のバルブは、前記バルブ押付部によって押されて前記ピストン側へ移動する期間に開弁し、前記バルブ押付部が離れると弾性部材によって元の位置に戻って閉弁することを特徴とする、請求項1に記載のエンジン。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態1>
以下、
図1−
図10を参照しながら、本発明の実施形態1を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0015】
[1.内燃機関の構成について]
エンジン30は、レシプロタイプの4サイクル多気筒エンジンである。エンジン30は、例えば、自動車やオートバイなどの移動体の動力源として用いられる。エンジン30は、
図1などに示すように、真っすぐなシャフトにより構成された動力軸3(出力軸)と、動力軸3を中心とした所定の円周(単一の円周)に沿って配置された複数のシリンダー2と、複数のシリンダー2の各々に設けられた複数のピストン21(
図6などを参照)とを備えている。
【0016】
動力軸3は、動力軸3を回転自在に支持する軸受8が中心部に設けられた第1〜第3の支持板31〜33に支持されている。3枚の支持板31〜33は、動力軸3の軸方向に間隔を開けて配置され、動力軸3に対し垂直に設けられている。各支持板31〜33には、各シリンダー2の外側を覆う矩形板状のハウジング1が取り付けられている。
図3及び
図4では、切断面を含めてハウジング1にハッチングを付している。
【0017】
各シリンダー2は、略円筒状に形成されている。各シリンダー2内には、略円柱状のピストン21が軸方向に摺動自在に設けられている。各シリンダー2内には、ピストン21によって燃焼室が区画形成されている。各シリンダー2は、軸方向が動力軸3と略平行で、且つ、シリンダーヘッド2aが動力軸3の一端側(
図1において手前側)を向くように設けられている。全てのシリンダー2は、シリンダーヘッド2aが同じ側を向いている。全てのシリンダー2は、動力軸3の軸方向において同じ位置に配置されている。
【0018】
各シリンダー2は、第1の支持板31及び第2の支持板32の取付穴に嵌め込まれて固定されている。
図3に示す第1の支持板31は、各シリンダー2におけるシリンダーヘッド2a側を支持している。
図4に示す第2の支持板32は、各シリンダー2におけるシリンダーヘッド2aとは反対側を支持している。
【0019】
本実施形態では、エンジン30が4つのシリンダー2を備えている。4つのシリンダー2は、動力軸3を中心とした同一半径の円周上に、等角度間隔(90度間隔)で配置されている。なお、エンジン30におけるシリンダー2の個数は、4つに限定されず、例えば2つ、3つ、6つ又は8つであってもよいし、これら以外の個数であってもよい。
【0020】
各シリンダーヘッド2aの中心部には、
図3に示すように、燃焼室の混合気に点火する点火プラグ12が設けられている。また、各シリンダーヘッド2aには、燃焼室に混合気を吸入するための吸気マニホールド10の枝管と、燃焼室の燃焼ガスを排出するための排気マニホールド9の枝管が接続されている。吸気マニホールド10の各枝管には、燃料を噴射する燃料噴射器(図示省略)が設けられている。
【0021】
なお、吸気マニホールド10では、例えば、動力軸3の近傍で、各シリンダー2に接続された4本の枝管が1本の上流側配管に繋がっている。また、排気マニホールド9では、例えば、各シリンダー2に接続された4本の枝管のうち2本が、
図3におけるエンジン30の上側で合流し、残りの2本が、
図3におけるエンジン30の下側で合流している。なお、吸気マニホールド10及び排気マニホールド9の各構成は、本実施形態に限定されない。
【0022】
各シリンダーヘッド2aには、吸気マニホールド10の出口(吸気ポート)を開閉する吸気バルブ22と、排気マニホールド9の入口(排気ポート)を開閉する排気バルブ23が設けられている。各吸気バルブ22は、コイルバネなどの弾性部材(図示省略)によってシリンダー2の外側(
図6において右側)に付勢され、バルブフェースが各吸気ポートの縁部のバルブシートに押し付けられている。各排気バルブ23は、コイルバネなどの弾性部材(図示省略)によってシリンダー2の外側に付勢され、バルブフェースが各排気ポートの縁部のバルブシートに押し付けられている。各吸気バルブ22及び各排気バルブ23は、バルブ駆動機構によって開期間及び閉期間が制御される。バルブ駆動機構についての詳細は後述する。
【0023】
各シリンダーヘッド2aでは、
図3に示すように、動力軸3側から、吸気バルブ22、点火プラグ12、排気バルブ23がこの順番で並んでいる。各シリンダー2では、排気バルブ23よりも吸気バルブ22の方が動力軸3側に設けられている。全ての吸気バルブ22の吸気バルブロッド16(バルブステム)は、動力軸3を中心とした第1の円周(動力軸3の軸心から吸気バルブロッド16の軸心までの距離を半径とする円周)上に配置されている。全ての排気バルブ23の排気バルブロッド11(バルブステム)は、動力軸3を中心とした第2の円周(動力軸3の軸心から排気バルブロッド11の軸心までの距離を半径とする円周)上に配置されている。第2の円周は、第1の円周より半径が大きい。なお、各シリンダー2において、吸気バルブ22よりも排気バルブ23の方を動力軸3側に設けてもよい。
【0024】
図5は、方向変換ギアボックス4を第2の支持板32側から見た図である。各ピストン21には、ピストンピン19によってコンロッド6の一端側が連結されている。コンロッド6の他端側は、クランクピン20によってクランク5のクランクアーム5aに連結されている。コンロッド6及びクランク5は、クランク機構を構成している。本実施形態では、エンジン30が、複数のピストン21の各々に接続され、ピストン21の往復運動を回転運動に変換する複数のクランク機構をさらに備えている。4つのクランク5は、動力軸3の周囲に等角度間隔で配置されている。
【0025】
各クランク5のクランク軸5bは、
図5に示すように、動力軸3に略垂直に設けられている。各クランク軸5bの軸心の延長線上に、動力軸3の軸心が存在する。各クランク軸5bは、動力軸3側から見て反時計回りに回転する。各クランク軸5bは、ハウジング1の内面に取り付けられたクランク軸受7によって回転自在に支持されている。また、各クランク軸5bは、矩形筒状の方向変換ギアボックス4の周壁部4aを貫通し、その周壁部4aにも回転自在に支持されている。方向変換ギアボックス4は、第3の支持板33の内面に取り付けられている。
【0026】
各クランク軸5bには、
図5に示すように、方向変換ギアボックス4の内側においてクランク軸側ベベルギア18が固定されている。各クランク軸側ベベルギア18は、ギア形成面が動力軸3側を向いている。4つのクランク軸側ベベルギア18は、動力軸3の周囲に等角度間隔で配置されている。
【0027】
また、動力軸3には、クランク軸側ベベルギア18よりも大径でギア数が多い動力軸側ベベルギア17が固定されている。動力軸側ベベルギア17は、方向変換ギアボックス4の内側において第3の支持板33側に配置され、ギア形成面がシリンダー2側(動力軸3の一端側)を向いている。
【0028】
方向変換ギアボックス4の内側では、動力軸側ベベルギア17に各クランク軸側ベベルギア18が噛み合わされている。4つのクランク軸側ベベルギア18及び1つの動力軸側ベベルギア17は、動力伝達機構を構成している。本実施形態では、エンジン30が、複数のクランク機構の各々によって変換された回転運動を動力軸3に伝達させて動力軸3を回転させる動力伝達機構をさらに備えている。動力伝達機構は、各クランク軸5bの回転運動を、各クランク軸5bに垂直な動力軸3の回転運動へ変換する。
【0029】
エンジン30は、吸気バルブ22及び排気バルブ23の各々を駆動対象とするバルブ駆動機構をさらに備えている。バルブ駆動機構は、動力軸3に一体化されている。バルブ駆動機構は、動力軸3を中心に動力軸3と共に回転する。バルブ駆動機構は、
図2に示すように、動力軸3に固定されたバルブ駆動用円板13と、バルブ駆動用円板13の内面(シリンダー2側の面)から突出する吸気用凸部15(吸気カム)と、バルブ駆動用円板13の内面から突出する排気用凸部14(排気カム)とを備えている。吸気用凸部15及び排気用凸部14は、バルブ押付部に相当する。吸気用凸部15は、バルブ駆動用円板13の内面において、排気用凸部14よりも動力軸3側に配置されている。
【0030】
バルブ駆動用円板13は、吸気バルブ22及び排気バルブ23のうち外側のバルブを覆うだけの大きさ(半径)を有し、各シリンダー2のシリンダーヘッド2aに間隔を開けて対面するように設けられている。バルブ駆動用円板13は、バルブ駆動用板を構成し、本実施形態のように円形の板状部材を用いてもよいし、他の形状(例えば多角形)の板状部材を用いてもよい。
【0031】
吸気用凸部15は、バルブ駆動用円板13の内面において、動力軸3を中心として第1の円周と同一半径の円周上に沿って部分的に形成された円弧状の凸部である。吸気用凸部15は、動力軸3及びバルブ駆動用円板13と共に回転し、各シリンダー2についてシリンダーヘッド2aに対面する位置で、そのシリンダーヘッド2aに設けられた吸気バルブ22の吸気バルブロッド16の端をピストン21側へ押して、吸気バルブ22を移動させる。
【0032】
吸気バルブ22は、吸気用凸部15によって押されてピストン21側へ移動する期間に亘って開弁する。この期間は、吸気バルブ22のバルブフェースをバルブシートに押し付けていた弾性部材が収縮する。そして、シリンダーヘッド2aに対面する位置を吸気用凸部15が通過して、吸気用凸部15が吸気バルブロッド16から離れると、弾性部材の復元力によって吸気バルブ22が元の位置に戻って閉弁する。なお、吸気用凸部15は、少なくとも、回転方向の先頭側が斜面になっている。
【0033】
排気用凸部14は、バルブ駆動用円板13の内面において、動力軸3を中心として第2の円周と同一半径の円周上に沿って部分的に形成された円弧状の凸部である。排気用凸部14は、動力軸3及びバルブ駆動用円板13と共に回転し、各シリンダー2についてシリンダーヘッド2aに対面する位置で、そのシリンダーヘッド2aに設けられた排気バルブ23の排気バルブロッド11の端をピストン21側へ押して、排気バルブ23を移動させる。
【0034】
排気バルブ23は、排気用凸部14によって押されてピストン21側へ移動する期間に亘って開弁する。この期間は、排気バルブ23のバルブフェースをバルブシートに押し付けていた弾性部材が収縮する。そして、シリンダーヘッド2aに対面する位置を排気用凸部14が通過して、排気用凸部14が排気バルブロッド11から離れると、弾性部材の復元力によって排気バルブ23が元の位置に戻って閉弁する。なお、排気用凸部14は、少なくとも、回転方向の先頭側が斜面になっている。
【0035】
図2に示すバルブ駆動用円板13には、点火位置に対応する位置に突起を便宜的に設けている。
図2では、バルブ駆動用円板13が反時計回りに回転する。各シリンダー2では、突起が点火プラグ12の真横に来たタイミング(ピストン21が圧縮上死点近傍に来たタイミング)で、点火プラグ12が混合気に点火する。なお、クランク軸側ベベルギア18の歯数と動力軸側ベベルギア17の歯数との比率を1:2となっている。そのため、クランク軸側ベベルギア18が2回転すると、動力軸側ベベルギア17が1回転する。つまり、ピストン21が2往復すると(吸入、圧縮、膨張、排気の4つの行程が行われると)、動力軸3が1回転する。ピストン21が半往復すると、バルブ駆動用円板13が90度回転する。
【0036】
突起は、排気用凸部14の先頭よりも反時計回りに略90度(例えば90〜100度)進角した位置に設けられている。そのため、各シリンダー2では、点火プラグ12による点火後にバルブ駆動用円板13が略90度回転して、排気用凸部14の先頭側が排気バルブ23の真横に来たタイミング(ピストン21が下死点に到達したタイミング)で、排気バルブ23が排気用凸部14に押されて開弁する。排気用凸部14は、動力軸3を中心とした略90度(例えば90〜100度)の角度範囲に亘って形成されている。そのため、各シリンダー2では、排気バルブ23の開弁後にバルブ駆動用円板13が略90度回転して、排気用凸部14の後尾が排気バルブ23の真横を通過したタイミング(ピストン21が上死点に到達したタイミング)で、排気バルブ23から排気用凸部14が離れて排気バルブ23が閉弁する。なお、厳密には、ピストン21が上死点を通過したタイミングの少し後に、排気バルブ23は閉弁する。
【0037】
ここで、バルブ駆動用円板13の回転方向において、吸気用凸部15の先頭は、排気用凸部14の後尾と略同じ角度位置になっている。そのため、排気バルブ23が閉弁するタイミングと、吸気バルブ22が開弁するタイミングとがほぼ同じである。厳密には、排気バルブ23が閉弁する少し前に吸気バルブ22が開弁するように、バルブ駆動用円板13の回転方向において、吸気用凸部15の先頭は、排気用凸部14の後尾よりも少しだけ排気用凸部14の先頭側まで延びている。
【0038】
各シリンダー2では、吸気用凸部15の先頭側が吸気バルブ22の真横に来たタイミング(ピストン21が上死点に到達したタイミング)で、吸気バルブ22が吸気用凸部15に押されて開弁する。吸気用凸部15は、動力軸3を中心とした略90度(例えば90〜100度)の角度範囲に亘って形成されている。そのため、各シリンダー2では、吸気バルブ22の開弁後にバルブ駆動用円板13が略90度回転して、吸気用凸部15の後尾が吸気バルブ22の真横を通過したタイミング(ピストン21が下死点に到達したタイミング)で、吸気バルブ22から吸気用凸部15が離れて吸気バルブ22が閉弁する。なお、厳密には、ピストン21が下死点を通過したタイミングの少し後に、吸気バルブ22は閉弁する。
【0039】
[2.内燃機関の動作について]
各シリンダー2では、吸気行程、圧縮行程、爆発行程(膨張行程)、排気工程の4つの工程が、この順番で繰り返し行われる。
【0040】
具体的に、各シリンダー2では、
図6に示すように、吸気用凸部15によって吸気バルブ22がピストン21側へ押されて開弁し、ピストン21が下死点側へ移動することで、吸気行程が行われる。吸気行程では、吸気マニホールド10を通じて、燃料噴射器から噴射された燃料が混ざった混合気が燃焼室に流入する。
【0041】
続いて、吸気用凸部15が通過して吸気バルブ22が元の位置に戻って閉弁し、
図7に示すように、ピストン21が上死点側へ移動することで、圧縮行程が行われる。圧縮行程では、排気バルブ23も閉じられている。圧縮行程では、吸気行程で燃焼室に吸入された混合気が圧縮される。
【0042】
続いて、ピストン21が上死点付近に到達したタイミングで点火プラグ12によって混合気に点火することで、混合気が燃焼をする爆発行程が行われる。爆発行程では、吸気バルブ22及び排気バルブ23が閉じており、
図8に示すように、燃焼室のガスが燃焼によって膨張してピストン21が下死点側へ押される。
【0043】
続いて、
図9に示すように、排気用凸部14によって排気バルブ23がピストン21側へ押されて開弁し、ピストン21が上死点側へ移動することで、排気行程が行われる。排気行程では、排気マニホールド9を通じて、燃焼行程で燃焼した燃焼ガスが燃焼室から排出される。排気用凸部14が通過すると、排気バルブ23が元の位置に戻って閉弁する。
【0044】
図10は、エンジン30の各シリンダー2における行程の遷移を示す図であり、シリンダーヘッド2a側から見た図である。
図10では、動力軸3は時計回りに回転する。バルブ駆動用円板13も時計回りに回転するため、時計回りに各行程が4つのシリンダー2で行われる(
図10では、吸気行程のシリンダー2が、時計回りに(右下、左下、左上、右上の順番に)記載されている)。また、吸気行程のシリンダー2、圧縮行程のシリンダー2、爆発行程のシリンダー2、排気工程のシリンダー2が反時計回りに並んでいる。4つのシリンダー2で互いに異なる行程が行われる。動力軸3が90度回転するごとに、各シリンダー2における工程が、吸気行程、圧縮行程、爆発行程、排気工程の順番で変化する。
【0045】
[3.実施形態の効果等]
本実施形態では、ピストン21毎にクランク機構をそれぞれ設けて、ベベルギア17,18を用いて各クランク機構のクランク軸5bの回転運動を、クランク軸5bに垂直な動力軸3に伝達させている。そのため、複数のピストンに対して1本のクランク軸を設ける従来のエンジンに比べて、各クランク機構の構成部品を簡素化及び小型化することができる。また、各シリンダー2が動力軸3に対し略平行に設けられ、各ピストン21の移動方向が動力軸3に対し略平行となる。そのため、動力軸3に対して垂直な方向の振動を抑制することができる。本実施形態によれば、クランク機構の構成部品を簡素化及び小型化でき、動力軸3に対して垂直な方向の振動を抑制することができるエンジン30を提供することができる。
【0046】
また、本実施形態では、複数のシリンダー2が動力軸3を中心として周方向に等角度間隔で配置されているため、エンジン30を全体的にコンパクトに纏めることができ、エンジン30の軽量化を図ることができる。すなわち、立体思考の構造によりエンジン30をコンパクトに設計でき、メインテナンスが容易であると共に、エンジン30の軽量化を図ることが可能である。従って、エンジン30を搭載した移動体の燃費を向上させて、排気ガスを削減することが可能である。
【0047】
また、本実施形態では、各シリンダー2の中心が同一の円周上にある。そのため、各シリンダー2の排気ポート又は吸気ポートから延びるマニホールド9,10における配管の取り回しが容易である。
【0048】
また、本実施形態では、エンジン30の動作中に、動力軸3と一体化された凸部14,15(バルブ押付部)が、動力軸3を中心に回転する。その際、凸部14,15は、シリンダーヘッド2aに対面する位置で、駆動対象のバルブ22,23をピストン21側へ押して開弁させる。そして、凸部14,15が駆動対象のバルブ22,23から離れると、弾性部材が駆動対象のバルブ22,23を閉弁させる。従来のエンジンとは異なり、タイミングベルトやプーリーなどを設ける必要がない。そのため、従来のエンジンに比べて、バルブ駆動機構を簡素化させることができ、バルブ駆動機構におけるエネルギーロスを低減させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、クランク機構やバルブ駆動機構を簡素化することができるため、部品点数を削減することができる。また、エンジン30の部品の製造及び組み立てを容易化することができる。従って、エンジン開発費等を含めエンジン自体のコストを低減させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、各シリンダー2が動力軸3と平行であり、各シリンダー2の中心が動力軸3を中心とする同一の円周上に配置されている。そのため、バルブ駆動用円板13の片面上において半径と円弧の長さを変えて形成した二列の凸部14,15によって、全てのシリンダー2の吸気バルブ22及び排気バルブ23を開閉させることができる。すなわち、凸部14,15を全てのシリンダー2で共用することができる。また、本実施形態では、ピストン21の半往復がバルブ駆動用円板13の90度回転に対応しており、クランク角の変化量に対するバルブ駆動用円板13の回転角度を目視で理解しやすく、吸気バルブ22と排気バルブ23のオーバーラップ等の調整も容易である。
【0051】
また、本実施形態では、動力軸3を挟んで対向する一対のシリンダー2で、ピストン21のクランク角が360度異なるように設定されている(この場合、クランク軸を中心とするクランクピンの角度位置は同じである)。
図10において、右上のシリンダー2と左下のシリンダー2とでピストン21のクランク角が360度異なり、左上のシリンダー2と右下のシリンダー2とでピストン21のクランク角が360度異なる。動力軸3を挟んで対向する一対のシリンダー2では、一方のピストン21がシリンダーヘッド2a側へ前進する際にもう一方のピストン21も前進し、一方のピストン21が後退する際にもう一方のピストン21も後退する。また、動力軸3を挟んで対向する一対のシリンダー2では、
図10に示すように、これらのシリンダー2の中心間を結ぶ直線に対し、ピストン21が前進中又は後退中にコンロッド6が反対側を向く。また、動力軸3を中心とする周方向において隣り合うシリンダー2では、ピストン21のクランク角が180度異なるように設定され、ピストン21の移動方向が逆向きになる。以上より、4つのピストン21において振動が互いに打ち消し合い、エンジン30の振動を低減することができる。
【0052】
また、本実施形態では、クランク軸側ベベルギア18の歯数と動力軸側ベベルギア17の歯数との比率(ギア比)を1:2にすることで、動力軸側ベベルギア17が1回転する期間に、4つの行程が行われる。4つのシリンダー2では、
図10に示すように、動力軸3の角度位置について90度毎に順番に爆発行程が行われる。そのため、動力軸3をスムーズに回転させることができる。なお、エンジン30では、シリンダー2の数(気筒数)、上述のギア比、及び、クランク軸側ベベルギア18と動力軸側ベベルギア17との噛み合わせ位置によって任意にサイクルを変更できる。
【0053】
[4.変形例1]
変形例1に係るエンジン30では、動力軸側ベベルギア17と向かい合わせに支持用ベベルギアを設けて、動力軸側ベベルギア17と支持用ベベルギアとによって各クランク軸側ベベルギア18を挟み込んでいる。支持用ベベルギアは、動力軸3とは別の回転軸に取り付けて空転させる。これにより、動力軸側ベベルギア17に対する各クランク軸側ベベルギア18の噛み合わせを安定化させることができ、両ベベルギア17、18の摩耗を低減させることができる。
【0054】
[5.変形例2]
変形例2に係るエンジン30では、バルブ駆動用円板13上における径方向の所定の範囲(凸部14,15の幅程度の範囲)において、吸気用凸部15及び排気用凸部14の各々が可動に設けられている。
【0055】
弾性部材によって吸気用凸部15は内側へ押し付けられている。そのため、動力軸3の回転速度が上昇して遠心力が大きくなるに従って、弾性部材が収縮して吸気用凸部15は外側へ移動する。この場合、吸気用凸部15の幅方向において内側ほど突出高を高くすることで、吸気用凸部15が所定の範囲において径方向の外側へ移動するほど、吸気バルブ22のリフト量を大きくすることができる。また、吸気用凸部15の先頭側において斜面を長くすることで(先頭の位置を進角させることで)、吸気用凸部15が径方向の外側へ移動するほど、吸気バルブ22の開弁開始タイミングを早めることができる。
【0056】
同様に、弾性部材によって排気用凸部14は内側へ押し付けられている。そのため、動力軸3の回転速度が上昇して遠心力が大きくなるに従って、弾性部材が収縮して排気用凸部14は外側へ移動する。この場合、排気用凸部14の幅方向において内側ほど突出高を高くすることで、排気用凸部14が所定の範囲において径方向の外側へ移動するほど、排気バルブ23のリフト量を大きくすることができる。また、排気用凸部14の先頭側において斜面を長くすることで(先頭の位置を進角させることで)、排気用凸部14が径方向の外側へ移動するほど、排気バルブ23の開弁開始タイミングを早めることができる。変形例2によれば、簡素な構成で、吸気バルブ22及び排気バルブ23を高低速の可変バルブに構成することができる。高低速の可変バルブは、上述の方法以外にも遠心力を利用した可動構成で実現することができる。
【0057】
なお、他の手段を用いて、吸気バルブ22及び排気バルブ23を可変バルブにしてもよい。例えば、吸気用凸部15の先頭側又は後尾側を分割して、その分割体をバルブ駆動用円板13から突出する状態と突出しない状態とに切り替えることで、バルブ駆動用円板13の周方向における吸気用凸部15の長さを変更するようにしてもよい。すなわち、吸気用凸部15の本体の先頭側又は後尾側に連続して、モーターなどによってバルブ駆動用円板13の厚さ方向に移動する分割体を設けてもよい。モーターは、エンジン30の運転状態などに基づいて任意に制御可能である。なお、排気用凸部14についても同様の構成を採用することができる。
【0058】
[6.その他の変形例]
上記実施形態において、エンジン30は発電機(エンジン発電機)として用いてもよい。
【0059】
上記実施形態において、ベベルギアの代わりに、減速比が大きいウォームギアを用いてもよい。また、ベベルギアやウォームギア以外の歯車を用いて、各クランク機構のクランク軸5bの回転運動を、クランク軸5bに垂直な動力軸3に伝達させてもよい。
【0060】
上記実施形態では、エンジン30が4気筒4サイクルエンジンであったが、これに限定されず、クランク軸側ベベルギア18の歯数と動力軸側ベベルギア17の歯数との比率(ギア比)を変更して多サイクルエンジンにしてもよい。例えば、6気筒エンジンにおいて、前述のギア比を1:3として6サイクルエンジンとしてもよい。この場合、排気工程後に、掃気吸入工程と掃気排気工程とを行うことができるように、バルブ駆動用円板13において、排気用凸部14及び吸気用凸部15に加えて、吸気用凸部15の後尾と略同じ角度位置から略60度の角度範囲に亘って形成された掃気吸入用凸部と、掃気吸入用凸部の後尾と略同じ角度位置から略60度の角度範囲に亘って形成された掃気排気用凸部を設ける。排気用凸部14及び吸気用凸部15も、略60度の角度範囲に亘って形成する。これにより、自動車などの移動体の燃費を向上させて、排気ガスを削減することが可能である。
【0061】
上記実施形態では、エンジン30がガソリンエンジンであったが、ディーゼルやHCCIなど他のタイプのエンジンであってもよい。また、過給器を使用してもよい。
【0062】
<実施形態2>
図11を参照しながら、本発明の実施形態2を説明する。実施形態2は、レシプロタイプの多気筒圧縮機130である。圧縮機130は、真っすぐなシャフトにより構成された駆動軸103(入力軸)と、駆動軸103を中心とした所定の円周(単一の円周)に沿って配置された複数のシリンダー2と、複数のシリンダー2の各々に設けられた複数のピストン21とを備えている。
図11では1つのシリンダー2のみを記載しているが、
図1と同様に、複数のシリンダー2は、駆動軸103を中心とした同一半径の円周上に、等角度間隔で配置されている。
【0063】
各シリンダー2内には、ピストン21が軸方向に摺動自在に設けられている。各シリンダー2内には、ピストン21によって圧縮室が区画形成されている。各シリンダー2は、軸方向が駆動軸103と略平行で、且つ、シリンダーヘッドが駆動軸103の一端側(
図11において右側)を向くように設けられている。全てのシリンダー2は、駆動軸103の軸方向において同じ位置に配置されている。
【0064】
各シリンダー2には、圧縮室に圧縮前のガスを吸入するための吸気管110と、圧縮室から圧縮後の高圧ガスを吐出するための吐出管109が接続されている。各シリンダー2には、吸気管110の出口(吸気ポート)を開閉する吸気バルブ122と、吐出管109の入口(吐出ポート)を開閉する吐出バルブ123が設けられている。
【0065】
また、圧縮機130は、複数のピストン21の各々に接続され、自らの回転運動をピストン21の往復運動に変換する複数のクランク機構5,6と、駆動軸103の回転運動を複数のクランク機構5,6の各々の回転運動に変換して、駆動軸103の回転力を各クランク機構5,6に伝達させる動力伝達機構とを備えている。クランク機構5,6と動力伝達機構とは、上述の実施形態1と同じ構成を採用している。
【0066】
圧縮機130では、各吸気バルブ122が、コイルバネなどの弾性部材(図示省略)によって各吸気ポートのバルブシートに押し付けられている。この状態からピストン21が下死点側へ移動することで、圧縮室の内圧が低下して吸気バルブ122が開弁し、吸気管110から圧縮室にガスが吸入される吸気行程が行われる。また、各吐出バルブ123は、コイルバネなどの弾性部材(図示省略)によって各吐出ポートのバルブシートに押し付けられている。吸入行程後にピストン21が上死点側へ移動すると圧縮行程が行われ、圧縮室の内圧が所定値を超えると吐出バルブ123が開弁して、高圧ガスが圧縮室から吐出管109に吐出される。