【解決手段】一実施形態に係る光学式センサー10は、所定の被検査物20を検出する光学式センサーであり、フォトニック結晶構造14が主面12aに形成されている基板12を備え、フォトニック結晶構造の表面の材料は、フッ素系樹脂であり、所定の被検査物を認識する認識素子22がフォトニック結晶構造の表面に直接固定されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0017】
図1及び
図2に模試的に示した光学式センサー10は、所定の被検査物20を検出するためのセンサーである。光学式センサー10は、例えばガン診断、生活習慣病、感染症等の医療診断、食品衛生検査、環境モニタリングなどに使用されるバイオセンサーであり得る。光学式センサー10は、基板12を備える。
【0018】
基板12の主面12aには、フォトニック結晶構造14が形成されている。フォトニック結晶構造14は、
図1に模式的に一点鎖線で示したように、主面12aにおけるセンサー領域16に形成されてもよいし、又は主面12a全体に形成されてもよい。
【0019】
フォトニック結晶構造14は、フォトニック結晶として機能する凹凸構造を有する。本実施形態では、基板12の主面12aに複数の孔18が2次元的に周期配列されることによって、フォトニック結晶構造14が形成されている。
【0020】
孔18の形状及び大きさ並びに周期pは、フォトニック結晶として機能するように設定されればよい。孔18の平面視形状(基板12の厚さ方向から見た形状)の例は、所定の直径dを有する円である。上記所定の直径dの例は、50nm〜500nmである。複数の孔18は、所定の周期pで配列されている。所定の周期pの例は、50nm〜1000nmである。孔18の深さDは、例えば100nm〜2000nmである。一実施形態において、平面視形状が円形である孔18の直径d及び周期pは共に230nmであり、孔18の深さDは、200nmである。周期pは、隣接する孔18の中心線間の距離、又は、隣接する孔18の中心線を含む平面で基板12を切断した場合の断面において、隣接する孔18の対応する面の間の距離である。
【0021】
上記フォトニック結晶構造14は、例えばナノインプリント技術を利用して形成される。ナノインプリント技術としては、熱インプリント技術でもよいし、又は、光インプリント技術でもよい。フォトニック結晶構造14は、その他の微細加工技術を用いて形成されてもよい。
【0022】
基板12の平面視形状は、限定されない。基板12の平面視形状は、例えば正方形又は矩形といった四角形又は円形である。基板12の大きさは、フォトニック結晶構造14を形成可能であると共に、光学式センサー10として取り扱いが容易なように設定されていればよい。基板12は、例えばチップ状を呈する。光学式センサー10は、基板12を支持しる支持板を備えていてもよい。その場合、支持板は例えば基板12を脱着自在に取り付けられるように構成されてもよい。
【0023】
基板12の材料の例は、フッ素系モノマー又はその重合体(フッ素系樹脂)である。より具体的には、基板12は、フッ素原子を含まないモノマーを主成分として含むと共に、含フッ素モノマーを含む組成物(以下、「基板用組成物」と称す)により形成される。基板用組成物における主成分とは、その成分の含有量が基板用組成物の総量に対して50質量%以上であることを意味しており、含有量は、例えば50質量%以上98質量%以下であり、80質量%以上90質量%以下であり得る。含フッ素モノマーの含有量は、例えば0.1質量%以上40質量%以下であり、5質量%以上15質量%以下であり得る。上記基板用組成物は、実質的に溶剤を含まなくてもよい。実質的に溶剤を含まないとは、溶剤を全く含まないことと共に、組成物の調製において使用された溶剤がほとんど除去されていることを含む意味である。
【0024】
[フッ素原子を含まないモノマー]
フッ素原子を含まないモノマーは、基板用組成物における主成分であり、重合性基を有するモノマーであればよい。基板用組成物における主成分であるモノマーとしては、例えばアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するモノマー、ビニル基を有するモノマー、アリル基を有するモノマー、オキシラニル基を有するモノマー、アダマンチル基を有するモノマー等が挙げられる。フッ素原子を含まないモノマーにおける重合性基の数は、例えば1〜4個である。基板用組成物における主成分であるモノマーは、主成分用の1種のモノマーでもよいし、又は主成分用の2種以上のモノマーを含んでもよい。基板用組成物における主成分であるモノマーの分子量は、例えば100以上500以下であり、200以上400以下とし得る。
【0025】
重合性基を有するモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、スチレン系化合物等が挙げられる。本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸の総称であり、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドとメタクリルアミドの総称である。
【0026】
(メタ)アクリレートとしては、例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルアダマンチル(メタ)アクリレート、エチルアダマンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアダマンチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリレートの他の例としては、 1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリレートの更に他の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタアエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の重合性基を4個以上有する(メタ)アクリレートであってもよい。
【0029】
ビニルエーテルとしては、例えばエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等の(ヒドロキシアルキル)ビニルが挙げられる。
【0030】
ビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(イソ)酪酸ビニル、吉草酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステルが挙げられる。
【0031】
アリルエーテルとしては、例えばエチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、(イソ)ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテルが挙げられる。
【0032】
オキシラニル基を有するモノマーとしては、例えばエポキシ基を有するモノマー、オキセタン基を有するモノマー、オキサゾリン基を有するモノマーが挙げられる。
【0033】
[含フッ素モノマー]
含フッ素モノマーは、重合性基を有する含フッ素モノマーであればよい。含フッ素モノマーとしては、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する含フッ素モノマー、ビニル基を有する含フッ素モノマー、フルオロビニル基を有する含フッ素モノマー、アリル基を有する含フッ素モノマー、オキシラニル基を有する含フッ素モノマー等が挙げられる。含フッ素モノマーにおける重合性基の数は、例えば1〜4個である。
【0034】
含フッ素モノマー中のフッ素含有量は、例えば40質量%以上70質量%以下であり、45質量%以上65質量%以下であり得る。フッ素含有量とは、含フッ素モノマーを構成するすべての原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合である。含フッ素モノマーの分子量は、例えば200以上5000以下であり、250以上1000以下であり得る。含フッ素モノマーは1種の含フッ素モノマーでもよいし、2種以上の含フッ素モノマーを含んでもよい。
【0035】
含フッ素モノマーは、下記式(1)又は式(2)で表される化合物であり得る。
CF
2=CA
a1−A
b−CA
a2=CH
2 (1)
(CH
2=CA
cCOO)
nA
aF (2)
【0036】
上記式(1)において、A
a1は、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のフルオロアルキル基を示しており、A
a2は、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のフルオロアルキル基を示しており、A
bは酸素原子、式−NA
a3−(A
a3は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、アルキルカルボニル基又はトシル基を示している)で表される基、又は、官能基を有していてもよい2価有機基を示している。本明細書において、以下同様である。
【0037】
上記式(2)において、nは1〜4の整数を示しており、A
cは水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を示しており、A
aFは炭素数1〜30のn価含フッ素有機基を示している。
【0038】
式(1)で表される化合物におけるA
bが2価有機基である場合、A
bは、例えば、メチレン、ジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン、オキシメチレン、オキシジメチレン、オキシトリメチレン及びジオキシメチレンからなる群から選ばれる基を主鎖とし、その主鎖中の水素原子が、フッ素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のアルキル基、及び炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基から選ばれる基で置換された基であり、かつ、その基中の炭素原子−水素原子結合を形成する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基である。よって、A
bは、−CF
2C(CF
3)(OH)CH
2−、−CF
2C(CF
3)(OH)−、−CF
2C(CF
3)(OCH
2OCH
3)CH
2−、−CH
2CH(CH
2C(CF
3)
2OH)CH
2−、又は−CH
2CH(CH
2C(CF
3)
2OH)−であり得る。ただし、基の向きは左側がCF
2=CA
a1−に結合することを意味する。
【0039】
式(2)で表される化合物におけるnは、例えば1又は2である。A
cは、例えば水素原子又はメチル基である。A
aFの炭素数は、例えば4〜24である。
【0040】
nが1である場合、A
aFは1価含フッ素有機基である。1価含フッ素有機基は、例えば炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよいポリフルオロアルキル基を有する1価含フッ素有機基であり得る。そのような1価含フッ素有機基としては、例えば式−(CH
2)
f1A
aF1、−SO
2NA
a4(CH
2)
f1A
aF1、又は−(C=O)NA
a4(CH
2)
f1A
aF1で表される基(ただし、f1は、1〜3の整数を示しており、A
aF1は、炭素数4〜16の炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよいポリフルオロアルキル基を示しており、A
a4は水素原子、メチル基、又はエチル基を示している)であり得る。ポリフルオロアルキル基(A
aF1)としては、例えばペルフルオロアルキル基であり、より具体的には、例えば直鎖状ペルフルオロアルキル基である。
【0041】
nが2である場合、A
aFは2価含フッ素有機基である。2価含フッ素有機基は、例えば炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよいポリフルオロアルキレン基であり得る。より具体的には、2価含フッ素有機基は、式−(CH
2)
f2A
aF2(CH
2)
f3−で表される基(ただし、f2及びf3のそれぞれは、1〜3の整数を示しており、A
aF2は、炭素数4〜16の炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよいポリフルオロアルキレン基を示している)であり得る。ポリフルオロアルキレン基(A
aF2)としては、例えばペルフルオロアルキレン基であり、より具体的には例えば直鎖状ペルフルオロアルキレン基、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されかつトリフルオロメチル基を側鎖に有するペルフルオロオキシアルキレン基等が挙げられる。
【0042】
基板用組成物は、含フッ素界面活性剤及び含フッ素ポリマーのうちの少なくとも一方を0.1質量%以上10質量%以下含んでもよい。基板12用の組成物が含フッ素界面活性剤及び含フッ素ポリマーを含む場合、上記含有量は、含フッ素界面活性剤及び含フッ素ポリマーの総量の含有量である。
【0043】
含フッ素界面活性剤としては、1種の含フッ素界面活性剤でもよいし、2種以上の含フッ素界面活性剤を含んでもよい。同様に、含フッ素ポリマーとしては、1種の含フッ素ポリマーでもよいし、2種以上の含フッ素ポリマーを含んでもよい。
【0044】
基板用組成物が含フッ素界面活性剤を含む場合、含フッ素界面活性剤の含有量の例は、0.1質量%以上10質量%以下であり得る。
【0045】
上記含フッ素界面活性剤は、例えばフッ素含有量が10質量%以上70質量%以下の含フッ素界面活性剤であり、フッ素含有量が20質量%以上40質量%以下の含フッ素界面活性剤であり得る。含フッ素界面活性剤は、水溶性であってもよいし又は脂溶性であってもよい。
【0046】
含フッ素界面活性剤としては、例えばアニオン性含フッ素界面活性剤、カチオン性含フッ素界面活性剤、両性含フッ素界面活性剤、ノニオン性含フッ素界面活性剤等が挙げられる。
【0047】
本明細書において、「含フッ素ポリマー」は、ノニオン性含フッ素界面活性剤として挙げたフルオロアルキル基を有するモノマーに基づくモノマー単位を含むオリゴマー又はポリマー以外のものを意味する。
【0048】
基板用組成物が含フッ素界面活性剤を含む場合、含フッ素ポリマーの含有量の例は、例えば0.1質量%以上10質量%以下であり得る。
【0049】
含フッ素ポリマーの重量平均分子量は、例えば500〜100000であり、1000〜100000であり得る。よって、含フッ素ポリマーの重量平均分子量は3000〜50000でもよい。
【0050】
含フッ素ポリマーのフッ素含有量は例えば30質量%以上70質量%以下である。よって、含フッ素ポリマーのフッ素含有量は、例えば45質量%以上70質量%以下であり得る。含フッ素ポリマーとしては、例えばヘテロ原子を含有する含フッ素ポリマーである。より具体的には、含フッ素ポリマーは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子を含有する含フッ素ポリマーであってもよく、水酸基、エーテル性酸素原子、エステル基、アルコキシカルボニル基、スルホニル基、燐酸エステル基、アミノ基、ニトロ基又はケトン基を含有する含フッ素ポリマーであり得る。
【0051】
上記含フッ素ポリマーとしては、例えば式CF
2=CA
a1−A
b−CA
a2=CH
2で表される化合物を重合させて得た含フッ素ポリマー、CF
2=CF
2とCH
2=CHOCOCH
3を共重合させて得た含フッ素ポリマーが挙げられる。式CF
2=CA
a1−A
b−CA
a2=CH
2で表される化合物の例は、上記化合物である。式CF
2=CA
a1−A
b−CA
a2=CH
2において、A
a1はフッ素原子、A
a2は水素原子であり、A
bは、−CF
2C(CF
3)(OH)CH
2−、−CF
2C(CF
3)(OH)−、−CF
2C(CF
3)(OCH
2OCH
3)CH
2−、−CH
2CH(CH
2C(CF
3)
2OH)CH
2−、又は−CH
2CH(CH
2C(CF
3)
2OH)−から選ばれる基であり得る。
【0052】
基板用組成物における、含フッ素界面活性剤及び含フッ素ポリマーの総量に対する含フッ素モノマーの量は、例えば1〜100倍質量である。よって、含フッ素界面活性剤及び含フッ素ポリマーの総量に対する含フッ素モノマーの量は、例えば1〜20倍質量でよく、1〜10倍質量であり得る。
【0053】
基板12に形成されるフォトニック結晶構造14を例えば光インプリント技術で形成する場合、基板用組成物は、光重合開始剤を含み得る。光重合開始剤の含有量の例は、0.1質量%以上10質量%以下である。本明明細書において、光重合開始剤とは、光によりラジカル反応又はイオン反応を引き起こす化合物を意味する。光重合開始剤の例としては、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤及びフッ素原子を含有する光重合開始剤が挙げられる。
【0054】
基板用組成物が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤としては、上記例示した光重合開始剤の他、例えばα−アシルオキシムエステル、ベンジル−(o−エトキシカルボニル)−α−モノオキシム、アシルホスフィンオキサイド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート等も挙げられる。
【0055】
基板用組成物は、光増感剤、無機材料、炭素材料、導電性高分子、フタロシアニン等の色素材料、ポルフィリン等の有機金属錯体、有機磁性体、有機半導体、液晶材料等を含んでもよい。
【0056】
無機材料としては、例えばケイ素化合物(ケイ素単体、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、シリコンゲルマニウム、鉄シリサイド等)、金属(白金、金、ロジウム、ニッケル、銀、チタン、ランタノイド系元素、銅、鉄、亜鉛等)、金属酸化物(酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、ITO、酸化鉄、酸化銅、酸化ビスマス、酸化マンガン、酸化ホフニウム、酸化イットリウム、酸化スズ、酸化コバルト、酸化セリウム、酸化銀等)、無機化合物塩(チタン酸バリウム等の強誘電体材料、チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電材料、リチウム塩等の電池材料等)、金属合金(フェライト系磁石、ネオジウム系磁石等の磁性体、ビスマス/テルル合金、ガリウム/砒素合金等の半導体、窒化ガリウム等の蛍光材料等)等が挙げられる。
【0057】
炭素材料としては、例えばフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、ダイヤモンド又は活性炭等が挙げられる。
【0058】
フッ素系樹脂は、フッ素を含む樹脂であれば、上記例示した組成物からなる樹脂に限定されない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(略称:PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(略称:PCTFE, CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(略称:PVDF)、ポリフッ化ビニル(略称:PVF)でもよく、フッ素化共重合体である、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(略号:PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(略称:FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(略称:ETFE)及びエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略称:ECTFE)でもよい。
【0059】
基板12の主面12a、より具体的には、フォトニック結晶構造14の表面14aには、
図2及び
図3に示したように、光学式センサー10が検出すべき所定の被検査物(被検査物質)20と特異的に結合(又は吸着)する認識素子(認識物質又は吸着物質)22が直接固定されている。具体的には、疎水性相互作用により表面14aに固定されている。
図2及び
図3では、被検査物20及び認識素子22を模式的に示している。フォトニック結晶構造14は主面12aに形成されているため、フォトニック結晶構造14の表面14aは、基板12の表面の一部でもある。
【0060】
認識素子22は、被検査物20を特異的に結合でき、かつ、フォトニック結晶構造14の表面14aに直接固定できる物質又は分子であれば限定されない。前述したように、認識素子22が疎水性相互作用で表面14aに固定される場合、認識素子22は、被検査物20との結合部位とは別の部位(例えば、結合部位と反対側)に、疎水性を有する素子(物質又は分子)であり得る。
【0061】
被検査物20に対する認識素子22の対応関係の例、すなわち、被検査物20の例とそれに対応する認識素子22の例は表1のとおりである。
【表1】
【0062】
通常、フォトニック結晶構造14の表面14aにおける認識素子22が固定されていない領域には、被検査物20が表面14aに付着すること、すなわち、被検査物20の非特異吸着を防止するために、ブロック材24が固定されている。ブロック材24は、被検査物20の非特異吸着を防止可能な材料から構成されていればよい。例えば、光学式センサー10がバイオセンサーである場合、公知のバイオセンサーに使用されているブロック材24が採用され得る。ブロック材24の例は、ウシ血清アルブミン、カゼイン、ゼラチン等である。
図2及び
図3では、ブロック材24を模式的に層状に図示している。
【0063】
次に、光学式センサー10の製造方法の一例について説明する。
図4は、光学式センサー10の製造方法のフローチャートである。
【0064】
図4に示したように、光学式センサー10の製造方法は、認識素子固定工程S10を備える。
図4に示したフローチャートは、フォトニック結晶構造14が形成された基板12を利用して光学式センサー10を製造する方法を示している。基板12は、前述したように例えばナノインプリント技術によって形成される。光学式センサー10の製造方法は、基板12の製造工程を含んでもよい。
【0065】
光学式センサー10の製造方法は、第1洗浄工程S12、ブロック材固定工程S14及び第2洗浄工程S16を備えてもよい。以下では、フォトニック結晶構造14が形成された基板12から光学式センサー10を製造する形態であって、第1洗浄工程S12、ブロック材固定工程S14及び第2洗浄工程S16を備える形態について説明する。
【0066】
[認識素子固定工程]
認識素子固定工程S10では、認識素子22を含む溶液を基板12の主面12a、具体的には、フォトニック結晶構造14の表面14aに滴下する。その後、所定時間、基板12を静置する。所定時間は、認識素子22が表面14aに例えば疎水性相互作用で固定される時間であればよく、例えば30分〜12時間であり、一実施形態において30分〜1時間であり得る。基板12は、例えば室温下で静置されればよい。本明細書において室温とは25℃を意味する。
【0067】
[第1洗浄工程]
第1洗浄工程S12では、緩衝液(例えばリン酸緩衝液)で基板12を洗浄する。洗浄回数は、1回以上であればよいが、検査中における認識素子22の剥離を抑制するために、2回以上であることが好ましい。この第1洗浄工程S12により、認識素子固定工程S10で基板12に滴下した溶液中の認識素子22のうち表面14aに固定されなかった認識素子22又は吸着力(又は固定力)が弱く基板12から剥離し易い認識素子22が除去される。
【0068】
[ブロック材固定工程]
ブロック材固定工程S14では、ブロック材24を含む溶液を基板12の主面12aのうち少なくともフォトニック結晶構造14の表面14aに滴下する。その後、所定時間、基板12を静置する。ブロック材固定工程S14における所定時間は、ブロック材24が基板12の主面12a(又は表面14a)に固定される時間であればよく、例えば30分〜12時間であり、一実施形態において30分〜1時間であり得る。基板12は、例えば室温下で静置されればよい。
【0069】
[第2洗浄工程S16]
第2洗浄工程S16では、緩衝液(例えばリン酸緩衝液)で基板12を洗浄する。洗浄回数は、1回以上であればよい。この第2洗浄工程S16により、ブロック材固定工程S14で基板12に滴下した溶液中のブロック材24のうち主面12a(又は表面14a)に固定されなかったブロック材24又は吸着力(又は固定力)が弱く基板12から剥離し易いブロック材24が除去される。
【0070】
上記のように、認識素子固定工程S10、第1洗浄工程S12、ブロック材固定工程S14及び第2洗浄工程S16を順次実施することで、認識素子22及びブロック材24が表面14aに固定された基板12を備えた光学式センサー10が製造され得る。
【0071】
光学式センサー10の基板12は、フォトニック結晶構造14を有する。フォトニック結晶構造14は、孔18の直径d、周期p、フォトニック結晶構造14の屈折率等に応じて規定される所定の波長の光を反射する特性を有する。このようなフォトニック結晶構造14の特性に応じた所定の波長の光は、構造色として知られている。
【0072】
認識素子22が固定された基板12に、検査対象物としての検査液を滴下した場合、検査液に認識素子22と特異的に結合する所定の被検査物20が含まれていれば、検査液の滴下前後において、フォトニック結晶構造14に光学的変化が生じる(具体的には、屈折率変化が生じる)。したがって、フォトニック結晶構造14の光学的変化を測定することで、被検査物20を検出できる。フォトニック結晶構造14の光学的変化は、例えば基板12に光を照射した際の反射光のスペクトル(以下、反射スペクトルとも称す)又は透過光のスペクトルで測定され得る。
【0073】
光学式センサー10を用いた検査方法の一例について説明する。
図5は、検査に使用する検査装置26の模式図である。検査装置26は、反射型の検査装置である。検査装置26は、ファイバ型分光装置28を備える。ファイバ型分光装置28は、マルチチャンネルファイバ30と、光源部32と、分光器34とを有する。
【0074】
マルチチャンネルファイバ30は、一端が光源部32に光学的に結合した少なくとも一本の光照射用ファイバ30aと、一端が分光器34に光学的に結合された少なくとも一本の受光用ファイバ30bとを含む。光照射用ファイバ30a及び受光用ファイバ30bの他端はプローブ部30cとして一体化されている。
【0075】
光源部32は、光学式センサー10が有する基板12のフォトニック結晶構造14に、検査光L1を出力する。光源部32の例は白色光源である。光源部32には、例えばタングステン・ハロゲン光源が用いられる。分光器34は、フォトニック結晶構造14からの反射光を分光する。分光器34は、情報処理装置36に電気的に接続されており、分光器34での分光結果を情報処理装置36に入力する。情報処理装置36は例えばパーソナルコンピュータであり、分光結果を解析したり又は分光結果を表示したりする機能を有する。
【0076】
本実施形態では、分光器34が情報処理装置36に接続されている例をしているが、例えば、分光器34に情報処理部が内蔵されていてもよいし、又は、分光器34で取得した情報を情報記録媒体に格納して、情報記録媒体を介して分光結果を情報処理装置36に入力してもよい。
【0077】
図5に示した検査装置26及び光学式センサー10を用いた所定の被検査物20の検査方法の一例について説明する。所定の被検査物20を検査する場合、検査液を基板12に滴下する前に、認識素子22が固定されたフォトニック結晶構造14の反射スペクトルを基準反射スペクトルRS(
図6参照)として取得する。
【0078】
具体的には、
図5に示したように、基板12の主面12a(より具体的には、フォトニック結晶構造14)に対して、検査装置26の光源部32からの検査光L1を、プローブ部30cを介して垂直入射する。このように検査光L1が基板12に照射すると、検査光L1のうちフォトニック結晶構造14で規定される所定の波長の光が反射する。フォトニック結晶構造14からの反射光L2はプローブ部30cで受光される。プローブ部30cで受光した反射光L2を分光器34で分光することで、認識素子22が固定されたフォトニック結晶構造14の反射スペクトル(基準反射スペクトルRS)が得られる。この基準反射スペクトルRSは、例えば情報処理装置36に格納しておけばよい。
【0079】
次いで、光学式センサー10が有する基板12に検査液を滴下し、一定時間、基板12を静置する。静置時間は、検査液に、所定の被検査物20が含まれていると仮定した場合に、所定の被検査物20が認識素子22に結合する時間であればよい。また、基板12の静置する際の基板12の周囲の温度は、被検査物20と認識素子22との結合に要する反応に適した温度であればよい。
【0080】
その後、基準反射スペクトルRSを取得した方法と同様にして、検査液が滴下された後のフォトニック結晶構造14の反射スペクトルを取得する。この反射スペクトルを検査用反射スペクトルRD(
図6参照)と称す。
【0081】
図6は、基準反射スペクトルと検査用反射スペクトルの模式図である。検査液に認識素子22と特異的に結合する所定の被検査物20が含まれている場合、検査液が基板12に滴下されると、所定の被検査物20が認識素子22に結合し、フォトニック結晶構造14の光学的特性(例えば屈折率)が変化する。これによって、
図6に模式的に示したように、基準反射スペクトルRSに対して検査用反射スペクトルRDが変化する。よって、基準反射スペクトルRSに対する検査用反射スペクトルRDの変化に応じて検査液に所定の被検査物20が含まれているか否かを判定できる。また、例えば、反射ピーク強度の変化の大きさにより、検査液に含まれる所定の被検査物20の量を推定することも可能である。
【0082】
検査装置26では、分光器34を利用しているが、フォトニック結晶構造14で反射する光が可視光である場合、フォトニック結晶構造14から反射する色(構造色)の違いを目視により確認することも可能である。このように目視で確認する場合、人間の目は緑色に対する感度が高いため、フォトニック結晶構造14は、緑色の波長領域(例えば、波長範囲495nm〜570nm)の光を反射するように設計されていることが好ましい。
【0083】
従来のバイオセンサーといった光学式センサーでは、認識素子を基板に固定するために、基板の表面に認識素子と化学的に結合する官能基を現出させるために、基板12のプラズマ処理、化学的な修飾処理などが必要であり、その作業のために光学式センサーの製造が煩雑であると共に、センサーの製造に時間を要していた。更に、基板12をプラズマ処理する場合には、フォトニック結晶構造が劣化する場合もあった。
【0084】
これに対して、光学式センサー10では、基板12がフッ素系樹脂から構成されているため、フォトニック結晶構造14の表面14aの材料もフッ素系樹脂であり、表面14aは疎水性を有する。したがって、認識素子22を例えば疎水性相互作用により基板12に直接固定できる。すなわち、光学式センサー10の製造方法で説明したように、基板12に対して認識素子22を含む溶液を滴下することで認識素子22をフォトニック結晶構造14の表面14aに直接固定できる。したがって、従来、必要であった認識素子固定のための下処理が不要であり、光学式センサー10の製造工程が簡略化されている。このように、光学式センサー10は、その製造が容易なセンサーであり、光学式センサー10の製造に要する時間を短縮可能なセンサーでもある。
【0085】
光学式センサー10の製造工程を簡略化できているので、光学式センサー10の品質コントロールもし易く、品質チェックに要する時間も低減可能である。よって、光学式センサー10の製造方法は製造歩留まりの向上も図れている。
【0086】
更に、光学式センサー10を製造する際には、基板表面のプラズマ処理も不要であることから、プラズマ処理に起因したフォトニック結晶構造14の劣化も防止できる。よって、光学式センサー10は、所望の品質(例えば検出感度)を実現し易い。
【0087】
本実施形態のフォトニック結晶構造14は、凹凸構造を有するため、表面14aの面積が増大している。したがって、認識素子22を固定させるための領域が広くなり、認識素子22がより多く基板12に固定(例えば吸着)する。その結果、光学式センサー10の検出感度が向上する。
【0088】
本発明者らの知見によれば、フッ素系樹脂を用いて基板12を構成することにより、より多くの認識素子22を基板12に固定できる。更に、認識素子22を強固に基板12に固定できる、これらの点を、実験によって検証した。
【0089】
[検証1]
検証1では、フィルムF1、フィルムF2及びフィルムF3を準備した。フィルムF1はポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称す)からなる。フィルムF2は、環状オレフィン開環重合/水素添加体(以下、「COP」と称す)からなる。フィルムF3は、フッ素系樹脂であるフッ化アクリル樹脂からなる。具体的には、フィルムF3は、アクリルモノマーを主成分として含むと共に、含フッ素モノマー、ラジカル系光重合開始剤、及び界面活性剤等添加物を含む光硬化性組成物を紫外線で硬化させた光硬化物であった。フィルムF1、フィルムF2及びフィルムF3を単にフィルムFと称し、検証1での実験手順について説明する。
【0090】
<実験手順>
(ステップ1)フィルムFを直径11mmの円形に裁断した。
(ステップ2)円形のフィルムFの表面に蛍光色素であるフルオレセイン(FITC)で修飾された抗ヒトIgG抗体(以下、「FITC修飾抗ヒトIgG抗体」と称す)の溶液を10μm滴下した。FITC修飾抗ヒトIgG抗体溶液は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の濃度が15μg/mlとなるように超純水で希釈された溶液である。
(ステップ3)その後、FITC修飾抗ヒトIgG抗体を疎水性相互作用によって表面に直接固定するために、フィルムFを、室温下にて30分間静置した。
(ステップ4)ステップ3を経たフィルムFを超純水により洗浄し、乾燥させた。
(ステップ5)ステップ4を経たフィルムFを蛍光顕微鏡にて画像観察した。蛍光顕微鏡には、キーエンス社製VB−G−25を用いた。画像観察時の積算時間は5秒であり、ISO感度は200であった。
(ステップ6)得られた画像を、アメリカ国立衛生研究所(NIH)で開発された画像解析ソフトであるImage Jにて解析した。
【0091】
図7は、フィルムF1を蛍光顕微鏡で観察して得られた画像であり、(a)は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の固定前の画像であり、(b)は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の固定後の画像である。
図8は、フィルムF2を蛍光顕微鏡で観察して得られた画像であり、(a)は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の固定前の画像であり、(b)は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の固定後の画像である。
図9は、フィルムF3を蛍光顕微鏡で観察して得られた画像であり、(a)は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の固定前の画像であり、(b)は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の固定後の画像である。
【0092】
図7(a)、
図8(a)及び
図9(a)は、ステップ2を実施する前に、ステップ5と同様の条件で得られた画像である。
図7(b)、
図8(b)及び
図9(b)において、
図7(a)、
図8(a)及び
図9(a)と比較した際に画像中央部に現れている円形の領域が、FITC修飾抗ヒトIgG抗体溶液が滴下された領域であり、色の濃さは、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の吸着量を示している。具体的には、色がより濃い方がFITC修飾抗ヒトIgG抗体の吸着量が多い。
図7〜
図9は、FITC修飾抗ヒトIgG抗体の吸着領域と、その周囲との差を明確にするために画像処理が施された図面である。
図7〜
図9に対しては同じ画像処理が施されている。
【0093】
図10は、
図7(b)、
図8(b)及び
図9(b)に基づいた蛍光強度の解析結果を示すグラフである。縦軸は、蛍光強度(任意単位)を示している。
【0094】
図7(b)、
図8(b)及び
図9(b)の比較及び
図10の結果より、FITC修飾抗ヒトIgG抗体は、フィルムF1及びフィルムF2よりフィルムF3において、FITC修飾抗ヒトIgG抗体が多く(具体的には、2倍以上)固定されていることが理解され得る。よって、基板12の材料にフッ素系樹脂を用いることで、認識素子22を基板12により多く吸着できる。その結果、光学式センサー10による所定の被検査物20の検出精度が向上する。
【0095】
[検証2]
検証2では、フッ素系樹脂であるフッ化アクリル樹脂を含み、光インプリントによって主面12aにフォトニック結晶構造14が形成された基板12を準備した。検証2におけるフォトニック結晶構造14は、直径230nm且つ深さ200nmの孔18が周期230nmで二次元配列されることで形成されていた。
【0096】
基板12は、アクリルモノマーを主成分として含むと共に、含フッ素モノマー、ラジカル系光重合開始剤、及び界面活性剤等添加物を含む光硬化性組成物を、フォトニック結晶構造14を形成するための型(モールド)における直径10mmの領域に塗布した後、PETフィルム(東洋紡株式会社製、コスモシャインA−4100)でラミネートし、紫外線を照射し、光硬化性組成物の光硬化物とPETフィルムとが一体になったものを上記型から剥離することで得られた基板12である。このようにして作製された基板12のフォトニック結晶構造14の表面14aの材料は、フッ化アクリル樹脂である。
【0097】
検証2では、認識素子22としての抗ヒト血清アルブミン抗体を使用した。抗ヒト血清アルブミン抗体の濃度が1μg/mlとなるように超純水で希釈した抗ヒト血清アルブミン抗体溶液を、基板12の表面上に50μl滴下した。抗ヒト血清アルブミン抗体溶液の基板12への滴下後、30分間、室温下にて静置くことで、抗ヒト血清アルブミン抗体を基板12表面に固定した。その後、蒸留水による基板12の洗浄工程を実施した後、基板12を室温下で乾燥させた。洗浄工程では、基板12を激しく振動させた。
【0098】
洗浄工程を経た後の基板12に対して、光学式センサー10の検査方法において説明した基準反射スペクトルRSを、
図5に示した検査装置26で取得した。検査装置26が有するマルチチャンネルファイバ30には、Ocean Optics社製のR200−7UV/VISを使用し、光源部32が有する白色光源には、Ocean Optics社製のタングステン・ハロゲン光源であるLS−1を使用し、分光器34には、Ocean Optics社製のマルチチャンネル分光器であるUSB4000を使用した。
【0099】
基準反射スペクトルRSの測定後、上記洗浄工程と、基準反射スペクトルRSの測定との組を、4回繰り返した。すなわち、検証2では、基板12の洗浄工程を5回実施し、各洗浄工程後に、基準反射スペクトルRSを取得した。
【0100】
図11は、得られた5つの基準反射スペクトルRSの反射ピーク強度の変化を示すグラフである。
図11の横軸は、洗浄回数を示し、縦軸は、各洗浄後に取得された反射ピーク強度(任意単位)を示している。
図11より、一回目の洗浄以降、反射ピーク強度が安定していることが理解される。すなわち、認識素子22は、基板12に強固に固定されていることがわかる。また、
図11より、検査中の認識素子22の基板12からの剥離を確実に防止するためには、少なくとも2回、基板12を洗浄することが好ましい。認識素子22は、基板12に強固に吸着していることがわかる。フォトニック結晶構造14の表面14aに認識素子22が強固に固定されていることから、認識素子22が表面14aから剥離し難い。よって、光学式センサー10の品質の向上が図れている。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形され得る。例えば、フォトニック結晶構造は、複数の孔の代わりに複数の柱を周期的に配列して構成されてもよい。
【実施例】
【0102】
次に実施例について、説明する。本発明は以下に説明する実施例に限定されない。
[光学式センサー]
光学式センサー10として、フッ化アクリル樹脂からなり、光インプリントによってフォトニック結晶構造14が形成された基板12の主面12aに、認識素子22として、抗ヒト血清アルブミン抗体が直接固定されると共に、ブロック材24としてウシ血清アルブミンが固定された光学式センサーを使用した。実施例におけるフォトニック結晶構造14は、直径230nm且つ深さ200nmの孔18が周期230nmで二次元配列されることで形成されていた。
【0103】
実施例で使用した光学式センサー10が有する基板12は次のようにして製造された基板である。すなわち、アクリルモノマーを主成分として含むと共に、含フッ素モノマー、ラジカル系光重合開始剤、及び界面活性剤等添加物を含む基板用組成物を、フォトニック結晶構造14を形成するための型における直径10mmの領域に塗布した後、PETフィルム(東洋紡株式会社製、コスモシャインA−4100)でラミネートし、紫外線を照射し、光硬化性組成物の光硬化物とPETフィルムとが一体になったものを上記型から剥離することで基板12を得た。このようにして作製された基板12のフォトニック結晶構造14の表面14aの材料は、フッ化アクリル樹脂である。
【0104】
(実施例1)
実施例1の実験手順は次のとおりである。
(ステップa)抗ヒト血清アルブミン抗体の濃度が1μg/mlとなるように超純水で希釈した抗ヒト血清アルブミン抗体溶液を、基板12の表面上に50μl滴下した。
(ステップb)ステップaを経た基板12を、室温下で1時間静置し、抗ヒト血清アルブミン抗体を基板12に固定した。
(ステップc)ステップbを経た基板12を、phが7.4であり10mMのリン酸緩衝液で3回洗浄した。
(ステップd)ステップcを経た基板12の表面に、ウシ血清アルブミンの濃度が10μg/mlとなるように超純水で希釈したウシ血清アルブミン溶液を、60μl滴下した。
(ステップe)ステップeを経た基板12を室温下で、1時間静置し、ウシ血清アルブミンを基板12に固定した。
(ステップf)ステップeを経た基板12である光学式センサー10を、図に示した検査装置にセットし、基板12に垂直に光を照射し、フォトニック結晶構造14からの反射スペクトルを取得した。ステップfで得られる反射スペクトルが基準反射スペクトルRSである。
(ステップg)ステップfで基準反射スペクトルRSを得た後の基板12を、phが7.4であり10mMのリン酸緩衝液で3回洗浄した。
(ステップh)ステップfを経た基板12の表面に、ヒト血清アルブミンの濃度10pg/mlとなるように超純水で希釈したヒト血清アルブミン溶液を、基板12の表面上に70μl滴下した。
(ステップi)ステップhを経た基板12を、抗原抗体反応によりヒト血清アルブミンを抗ヒト血清アルブミン抗体に吸着させるために、42℃で20分間静置した。
(ステップj)ステップgと同様に、ステップiを経た基板12(光学式バイオセンサー)を図に示した検査装置26にセットし、基板12に垂直に光を照射し、フォトニック結晶構造14からの反射スペクトルを取得した。ステップjで得られる反射スペクトルが検査用反射スペクトルRDである。
【0105】
基準反射スペクトルRS及び検査用反射スペクトルRDの反射ピーク強度の差をΔR、基準反射スペクトルRSの反射ピーク強度をR0とし、反射強度変化をα(%)としたとき、反射強度変化αを、
α={(ΔR)/R0}×100
で定義し、αを算出した。
【0106】
(実施例2)
実施例1のステップhにおけるヒト血清アルブミンの濃度が100pg/mlであった点以外は、実施例1と同様の実験手順で実験を行い、反射光強度変化αを算出した。
【0107】
(実施例3)
実施例1のステップhにおけるヒト血清アルブミンの濃度が10ng/mlであった点以外は、実施例1と同様の実験手順で実験を行い、反射光強度変化αを算出した。
【0108】
実施例1、実施例2及び実施例3で得られた反射光強度変化αは、
図12に示したとおりであった。
図12に示したように、抗原(所定の被検査物20)であるヒト血清アルブミンの濃度が高くなるにつれて、反射光強度変化αが増加しており、抗原(所定の被検査物20)であるヒト血清アルブミンを検出できていることがわかる。
【0109】
更に、ヒト血清アルブミンの濃度が10pg/mlであってもヒト血清アルブミンを、反射光強度変化αを有意に検出できている。抗原の濃度10pg/mlは、従来のELISA法の検出限界とほぼ同等である。よって、実施例1〜3の光学式センサー10では、従来の従来のELISA法の検出限界と実質的に同等の精度を有する。
【0110】
更に、従来では、認識素子である抗体を基板に固定するために、表面に官能基を出現させるための様々な表面処理(例えばプラズマ処理)を施すのに、例えば半日など要していた。これに対して、実施例1〜3の光学式センサー10では、認識素子22である抗体を含む溶液を基板12に滴下することで固定できる。すなわち、本発明に係る光学式センサーの製造方法では、高感度な光学式センサーを、短時間で製造することができ、本発明に係る光学式センサーは、製造が容易なセンサーである。
【0111】
例えば、医療現場のような光学式センサー10を使用する現場においては、基板12に、所定の被検査物20に特異的に吸着する認識素子22を固定させる作業も行う場合もある。このような場合、基板12に対して認識素子22を固定することで光学式センサー10とした後に、所定の被検査物20の検出を行うという一連の作業をより短時間(例えば3時間程度)で実施でき、結果として、検査に要する時間を短縮できる。