【解決手段】ボールねじ溝10を外周面に有するねじ軸2と、このねじ軸2のボールねじ溝10に対応するボールねじ溝11を内周面に有するナット3と、ナット3のボールねじ溝11およびねじ軸2のボールねじ溝10の間に転動走行可能に配された複数のボール4と、ナット3のボールねじ溝11に連通する循環路を形成するボール循環路形成部材5とを備えてなり、少なくとも、ねじ軸2およびナット3が、実用金属中最も比重が小さく、比強度(=強度/比重)も最大で、振動吸収性(減衰能力)に優れているマグネシウム合金から形成されている。これにより、十分な強度を保持しつつボールねじの大幅な軽量化が実現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、大小を問わず、また種類を問わず、十分な強度を保持しつつ大幅な軽量化が可能な構造を備えたボールねじを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的とするところは、上記ボールねじの製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のもう一つ他の目的とするところは、上記ボールねじを主要部として備えるボールねじアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のボールねじは、ボールねじ溝を外径面に有するねじ軸と、このねじ軸のボールねじ溝に対応するボールねじ溝を内径面に有するナットと、上記ナットのボールねじ溝および上記ねじ軸のボールねじ溝の間に転動走行可能に配された複数のボールと、上記ナットのボールねじ溝に連通する循環路を形成するボール循環路形成部材とを備えてなり、少なくとも、上記ねじ軸およびナットがマグネシウム合金から形成されていることを特徴とする。
【0013】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記ボールがマグネシウム合金から形成されている。
【0014】
(2)上記ボール循環路形成部材がマグネシウム合金から形成されている。
【0015】
(3)上記マグネシウム合金からなる構成部品の表面に表面硬化処理が施されている。
【0016】
(4)上記マグネシウム合金からなる構成部品の表面に窒化膜が形成されている。
【0017】
(5)上記ボール循環路形成部材が、上記ナットのボールねじ溝に連通するようにナットに組み付けられるリターンチューブからなる、リターンチューブ循環方式である。
【0018】
(6)上記ボール循環路形成部材が、上記ナットに埋め込まれるこまからなる、こま循環方式である。
【0019】
(7)上記ボール循環路形成部材が、上記ナットの両端に取り付けられるエンドキャップからなる、エンドキャップ循環方式である。
【0020】
(8)上記ボール循環路形成部材が、上記ナットの両端に組み込まれるエンドデフレクタからなる、エンドデフレクタ循環方式である。
【0021】
(9)上記ボール循環路形成部材が、上記ナットに組み付けられたガイドプレートからなる、ガイドプレート循環方式である。
【0022】
本発明のボールねじの製造方法は、上記ボールねじを製造する方法であって、ボールねじを構成する構成部品のうち、マグネシウム合金からなる構成部品の製造に際して、切削加工は重切削を行うことを特徴とする。
【0023】
ここに「重切削」とは、マグネシウム合金の切削加工において、切削工具の送り量と切り込み量を、発生する切り屑の形状寸法が切削熱により発火しない大きさとなるように設定して行う切削をいう(以下、本明細書および特許請求の範囲において同様とする。)。
【0024】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記ねじ軸を製造するねじ軸製造工程と上記ナットを製造するナット製造工程は、切削加工により行う。
【0025】
(2)上記ねじ軸製造工程は、以下の工程を備えてなる。
(a)マグネシウム合金素材から切削加工によりねじ軸ブランクを製作する工程
(b)上記ねじ軸ブランクから切削加工によりねじ軸の外形輪郭形状を削り出す工程
(c)上記ねじ軸の外径面に切削加工によりボールねじ溝を形成する工程
(d)上記ねじ軸の表面を表面硬化処理により硬化させる工程
【0026】
(3)上記ナットの製造工程は、以下の工程を備えてなる。
(a)マグネシウム合金素材から切削加工によりナットブランクを製作する工程
(b)上記ナットブランクから切削加工によりナットの外形輪郭形状を削り出す工程
(c)上記ナットの内径面に切削加工によりボールねじ溝を形成する工程
(d)上記ナットの表面を表面硬化処理により硬化させる工程
(e)上記ナットにボール循環路形成部品を取り付ける工程
【0027】
(4)上記切削加工は、ポジティブタイプのスローアウェィチップを備えた切削工具により行う。
【0028】
本発明の第1のボールねじアクチュエータは、上記ボールねじと電動モータを備えてなり、上記ボールねじのねじ軸が上記電動モータの回転軸に同軸状に駆動連結されるとともに、上記ボールねじのナットが直動対象部に一体接続される構造とされていることを特徴とする。
【0029】
本発明の第2のボールねじアクチュエータは、上記ボールねじと電動モータを備えてなり、上記ボールねじのナットが上記電動モータに駆動連結されるとともに、上記ボールねじのねじ軸が直動対象部に一体接続される構造とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、本発明者による以下の着眼点に基づいた種々の試験研究の成果としてなされたものである。
【0031】
すなわち、本発明者は、近年の装置の高速化・高精度化・長寿命化に対するボールねじの需要の増加、さらには現在広く採用されている医療業界向けや福祉分野向けの介護ベットやロボット機器用の機能部品としての要請に十分に応えるためには、装置の軽量化構造と、すぐれた振動減衰特性とを備えることが求められるところ、従来の一般的な構成材料では構造的に限界があることに鑑み、近年注目されているマグネシウム合金を構成材料として用いる可能性について着目した。
【0032】
つまり、マグネシウム合金は、純マグネシウムの比重が1.78と実用金属中最も小さく(ちなみに、アルミニウムの比重は2.7、鉄の比重は7.8)、比強度(=強度/比重)も最大で、振動吸収性(減衰能力)に優れているなどの特性を有する一方で、活性な金属であることから、切削加工中に小さな切り屑や薄い切り屑が発生すると、その切り屑が発火して、周囲の切り屑や機械油などに引火して、火災につながり易いという危険性も有している。
【0033】
特に、ボールねじは、その構成部品の形状構造が細かくて複雑なため、切削加工中に小さな切り屑や薄い切り屑が発生しやすく、これが構成部品の構成材料としてのマグネシウム合金の採用を困難にし、さらには躊躇させており、実際、マグネシウム合金を使用したボールねじは従来存在しなかった。
【0034】
しかしながら、マグネシウム合金の特性を良く理解し、十分な知識と準備のもとに作業を実施すれば、他の形状構造が単純な機械部品等と同様にマグネシウム合金の構成部品としての採用を可能とし、マグネシウム合金の特性をボールねじに求められる軽量化実現と振動減衰能力を発揮するのではないかという点に着眼した。
【0035】
本発明者は、このようにして得られた知見に基づいて、さらなる試験・研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0036】
すなわち、本発明のボールねじによれば、ボールねじ溝を外径面に有するねじ軸と、このねじ軸のボールねじ溝に対応するボールねじ溝を内径面に有するナットと、上記ナットのボールねじ溝および上記ねじ軸のボールねじ溝の間に転動走行可能に配された複数のボールと、上記ナットのボールねじ溝に連通する循環路を形成するボール循環路形成部材とを備えてなり、少なくとも、上記ねじ軸およびナットがマグネシウム合金から形成されているから、以下に列挙するような優れた効果が発揮されて、大小を問わず、十分な強度を保持しつつ大幅な軽量化が可能な構造を備えたボールねじを提供することができる。
【0037】
(1)構成材料の大半を占めるねじ軸およびナットが、実用金属中最も比重が小さく、比強度も最大であるマグネシウム合金から形成されていることにより、十分な強度を確保しつつ、従来に比較して大幅なボールねじの軽量化を実現することができる。
【0038】
(2)しかも、ボールねじの構造ではなく、構成材料自体の改良に係るものであることから、ボール循環形式等の種類の如何にかかわらず、基本構造を同じくするすべてのボールねじの軽量化に寄与し得るものであり、汎用性に富む。
【0039】
(3)ねじ軸およびナットが振動吸収性(減衰能力)に優れているマグネシウム合金から形成されていることにより、特に、ボールの衝突により衝突音や振動を生じやすい部位である、ボールすくい上げ部における上記衝突音や振動が減少されないし減衰され得る。
【0040】
(4)本発明の製造方法によれば、活性な金属であるマグネシウム合金からなるボールねじの構成部品であっても、切削加工中に薄い切り屑や細かな切り屑の発生を最小限に抑えられて、切り屑の発火に起因する火災発生の危険性もなく、安全に製作することができ、その結果、上述した(1)および(2)の特有の効果が有効に発揮され得るボールねじを製造することができる。
【0041】
(5)本発明のボールねじアクチュエータによれば、上述した(1)〜(3)の特有の効果が有効に発揮される結果、工作機械や搬送機械などの大型の装置から、医療機器や航空宇宙機器などの精密機器や小型の装置まで、大小を問わずあらゆる装置の直動部位を有利に構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面全体にわたって同一の符号は同一の構成部材または要素を示している。
【0044】
実施形態1
本発明に係るボールねじが
図1〜
図3に示されており、このボールねじ1は、ボールねじ溝10を外径面に有するねじ軸2と、このねじ軸2のボールねじ溝10に対応するボールねじ溝11を内径面に有するナット3と、このナット3のボールねじ溝11および上記ねじ軸2のボールねじ溝10の間に転動走行可能に配された複数のボール4、4、…と、上記ナット3のボールねじ溝11に連通する循環路12を形成するボール循環路形成部材5とを備えてなり、このボール循環路形成部材5が、ナット3に組み付けられるリターンチューブ6からなるリターンチューブ循環方式とされている。
【0045】
具体的には、
図2(b)に示すように、ナット3の外周部に循環路12が形成されており、この循環路12により、ボール4、4,…が上記両ボールねじ溝10、11からなるボール軌道に沿って循環するようにされている。
【0046】
上記循環路12は、上記ボール軌道10、11の両端、つまりナット3のボールねじ溝11におけるボール転動部分の両端に連通されており、具体的には、上記リターンチューブ6から形成されている。
【0047】
リターンチューブ6は循環路12のほぼ全長を形成するもので、鋼製の円筒チューブが
図2(b)に示すように折曲形成されてなり、ナット3に設けられた取付け平面3aに、チューブクランプ13により取り付けられている。この場合、リターンチューブ6は、図示のように、ナット3の外径面輪郭(二点鎖線参照)の内径側に位置する形状寸法とされる。14はチューブクランプ13の締付けボルトを示す。
【0048】
また、ナット3には嵌合凹部15、15が設けられており、これら嵌合凹部15、15に、上記リターンチューブ6の両端部6a、6bが嵌合されて、位置決め固定されている。これらリターンチューブ6の両端部6a、6bは、嵌合凹部15に連続するボールガイド孔16を介して、上記ナット3のボールねじ溝11にそれぞれ連通されている。
【0049】
ボールガイド孔16、16は、それぞれ循環路12の両端部を形成しており、その円筒内径面が、上記ボール軌道10、11と面一にかつ同心状に、その接線方向へ延びて連続されている。また、このボールガイド孔16の一部はボールすくい上げ部17とされている。
【0050】
ナット3の構成材料としては、ボール4からの衝撃等に対する耐強度、耐磨耗に優れる材料が用いられ、本実施形態においては、後述するようにマグネシウム合金が用いられている。特に、ボールすくい上げ部17は、ボール4、4、…の衝突により衝突音や振動を生じやすい部位であるところ、ナット3が吸振性に優れるマグネシウム合金から構成されていることにより、その吸振効果により上記衝突音や振動が減少ないし減衰され得る。
【0051】
しかして、以上のように構成されたボールねじ1において、ねじ軸2とナット3との相対的な回転運動により、ボール4、4、…がボール軌道10、11に沿って移動しながら、ナット3は、ねじ軸2の軸線方向へ相対的に移動されることとなる。
【0052】
また、ボール軌道10、11の一端へ移動したボール4、4,…は、循環路12を介して上記ボール軌道10、11の他端へ戻って、再びこのボール軌道10、11を循環されることになる。この場合、ボール軌道10、11から循環路12へのボール4の移動は、ボールすくい上げ部17に衝接した後ボールガイド孔16に案内されて、リターンチューブ6へ導かれる。
【0053】
以上のように構成されるボールねじ1は、具体的には、
図3に分解して示される構成部品からなる。つまり、上述したように、主要構成部品としてのねじ軸2、ナット3、ボール4、4、…、リターンチューブ6(ボール循環路形成部材5)の他、ナット3の両端部分をシールするワイパーシール20がある。
【0054】
このワイパーシール20は、
図1に示すように、ナット3の両端部に装着されて、この部位におけるねじ軸2とナット3の境界を摺動可能に密封するもので、ナット3の内径面端部3b、3bに、ノックピン21、21により取り付け固定されている。
【0055】
そして、上記ボールねじ1は、上記構成部品のうち、少なくとも、構成材料の大半を占めるねじ軸2およびナット3が、実用金属中最も比重が小さく、比強度も最大であるマグネシウム合金から形成されてなる軽量化構造を備えてなる。本実施形態のボールねじ1においては、上記ねじ軸2とナット3がマグネシウム合金製とされている。また、これらマグネシウム合金からなるねじ軸2とナット3の表面には表面硬化処理として窒化加工が施されて、表面に窒化膜が形成されている。
【0056】
このようなボールねじ1の構成は、本発明者による以下の着眼点に基づいた種々の試験研究の成果としてなされたものである。
【0057】
すなわち、マグネシウム合金は、純マグネシウムの比重が1.78と実用金属中最も小さく(ちなみに、アルミニウムの比重は2.7、鉄の比重は7.8)、比強度(=強度/比重)も最大で、振動吸収性(減衰能力)に優れているなどのすぐれた特性を有する。
【0058】
一方で、マグネシウム合金は、活性な金属であることから、切削加工中に小さな切り屑や薄い切り屑が発生すると、その切り屑が発火して、周囲の切り屑や機械油などに引火して、火災につながり易いという危険性も有しており、安全管理が非常に難しい金属である。
【0059】
特に、ボールねじ1は、その構成部品の形状構造が細かくて複雑なため、切削加工中に小さな切り屑や薄い切り屑が発生しやすく、これが構成部品の構成材料としてのマグネシウム合金の採用を困難にしていた。
【0060】
本発明者は、これらマグネシウム合金の特性に基づいた種々の試験・研究を重ねた結果、以下に述べる製造方法を確立するに至り、細かく複雑な構造を有するボールねじ1の構成部品(本実施形態では、ねじ軸2およびナット3)を、他の単純な形状構造の機械部品等と同様にマグネシウム合金で形成することに成功した。
【0061】
次に、このマグネシウム合金製のねじ軸2とナット3の製造方法について説明する。
【0062】
A.
加工方法について:
(1)
切削加工:
ねじ軸2を製造するねじ軸製造工程が
図4に示されるとともに、ナット3を製造するナット製造工程が
図5に示されており、これらの製造工程は、切削加工により行われている。
【0063】
このように加工方法として切削加工が採用されているのは、構成材料であるマグネシウム合金の金属特性に関係している。
【0064】
すなわち、マグネシウム合金は活性な金属で、加工中に小さな加工屑や薄い加工屑が発生すると、その加工屑が発火して、周囲の加工屑や機械油などに引火して、火災につながり易いという危険性を有しているが、マグネシウム合金そのものがいきなり発火するようなことはない。むしろ、加工中に小さな加工屑や薄い加工屑が発生すると、その発生した加工屑が発火して、周囲の加工屑や機械油などに引火して、火災につながり易いという捉え方が正しい。
【0065】
したがって、加工中に発生する切り屑の形状寸法をうまく制御することで、加工屑の発火を有効に防止することができる。しかも、マグネシウム合金は、その切削抵抗がアルミニウム合金の2分の1程度と小さく快削素材である。
【0066】
このようなマグネシウム合金の特性を考慮すると、切削加工により加工する方法が最も加工が容易かつ迅速で、しかも加工中に発生する加工屑の形状寸法を確実に制御しやすい。
【0067】
以上から、本実施形態においては、ねじ軸2およびナット3の加工手段として切削加工が採用されている。
【0068】
(2)
重切削:
また、この切削加工は重切削を行うことが望ましい。この重切削は、前述したように、マグネシウム合金の切削加工において、切削工具の送り量と切込み量を、発生する切り屑の形状寸法が切削熱により発火しない大きさとなるように設定して行う切削である。
【0069】
なお、上記重切削における切削工具の送り量と切込量(切削条件)は、加工対象となる特定のマグネシウム合金材料を特定の切削工具を用いて実際に切削する実験を通じて、最適値にそれぞれ調整し設定されることとなる。
【0070】
具体的には、加工対象となる特定のマグネシウム合金材料・切削切粉の発熱・発火防止の目的、およびマグネシウム合金材料の切削性を考慮したうえで、特定の切削工具による通常の切削条件(送り量・切込量)に対して適宜調整を加えていきながら、上記重切削における最適な切削条件(送り量・切込量)を決定する。
【0071】
すなわち、マグネシウム合金を切削加工する際に、送り量を小さくし過ぎたり、切込み量を小さくし過ぎたりすると、薄い切り屑や微細な切り屑が発生する。
【0072】
例えば、マシニング加工においては、回転する正面フライスやエンドミル等の切削工具の刃先をマグネシウム合金素材に軽く当てる局面や、切削終了時に切削工具を回転したままで送りを停止させるドウエル(Do Well)時で危険な形状寸法の切粉が発生することが試験的に判明している。
【0073】
このため、ドゥエル時間をできるだけ少なくし、また、マグネシウム合金素材に切れ刃を当てるときは、薄い切り屑や微細な切り屑を発生させないように心掛ける必要がある。
【0074】
また、旋盤加工においては、回転する素材に切削工具であるバイトの刃先を軽く当てるといったような局面で発火しやすい薄い切り屑や微細な切り屑が生じやすいことが試験的に判明している。
【0075】
さらに、切削工具として、使い捨てのスローアウェイチップ(throw away tip)を有するつまりチップ交換式の切削工具が好適に使用され、この場合は、チップ自体に逃げ角がない(逃げ角=0°)ネガティブタイプ(negative type)でなく、チップ自体に逃げ角を有するポジティブタイプ(positive type)のものを選定することが望ましい。
【0076】
ちなみに、ネガティブタイプのものでは、切削抵抗が高くなる。一方、ポジティブタイプのものでは、水平に取り付けても切れ刃に逃げ角が確保され、切削抵抗を抑えたい場合に有利となる。
【0077】
B.
加工環境等について:
(1)
加工空間の清掃:
工作機械のテーブルや刃物台に排出された切り屑は素早く取り去って、テーブルや刃物台、その他を常に清掃した状態に保つよう心がける必要がある。
【0078】
切り屑が堆積した状態になっている場合、その上に発火した切り屑が落下すると、切り屑に引火する危険性が大きくなり、また、大量の切り屑が燃焼すると消火が困難になるからである。
【0079】
除去後の切り屑は工作機械回りに置かないで、延焼の心配のない場所へ移し、蓋のある乾燥した金属缶などの切り屑用容器を工作機械から離れた位置において、加工により生成された切り屑は、この切り屑用容器に入れて蓋をするという方法をとることが安全上望ましい。
【0080】
(2)
切り屑が発火したときの消化と発火予防:
慌てて水をかけることは絶対に避ける必要がある。発火したマグネシウム合金は、水を分解して水素ガスを発生させるので、燃焼を一層促進させてしまうからである。
【0081】
マグネシウム火災に備えて、乾燥した砂を用意しておく。発火や引火があったときは、広範囲に燃え広がる前に、速やかに砂を散布して消火するためである。
【0082】
この点に関して、マグネシウム合金に対して不活性な切削油剤の研究、開発が進んでおり、このような不活性な切削油の使用が望ましい。
【0083】
(3)
マグネシウム合金の切削に関するその他の注意事項:
一般切削用の水溶性の切削油剤は使用しない。上述したように、マグネシウム合金は水を分解して水素ガスを発生させやすいからである。
【0084】
マグネシウム合金の切削加工が多い場合には、工作機械を特定して、マグネシウム合金加工専用に充て、常に工作機械を清潔に乾燥した状態に保つ必要がある。
【0085】
また、切削油剤を使用する他材の切削と同一の工作機械を使用する場合には、工作機械をよく拭き取って、切り屑が湿気を帯びないように注意する必要がある。切り屑の保管にも注意が必要で、切り屑を他の材質のものと混合しないようにする。切り屑用容器に入れて保管する場合でも、容器に雨水が入ったり湿気を帯びないように注意する。
【0086】
C.
具体的な製造方法について:
以上のような加工条件の下、ねじ軸2とナット3の具体的な製造方法は以下のとおりである。
【0087】
(1)
ねじ軸2の製造方法:
ねじ軸2の製造工程は以下の工程からなる。
【0088】
(a)
ねじ軸ブランクの製作工程
マグネシウム合金素材から切削加工によりねじ軸ブランクを製作する工程で、具体的には、汎用のNC旋盤で棒状のマグネシウム合金素材から所定長さのねじ軸2のブランク(ねじ軸ブランク(ねじ軸原型))を製作する。
【0089】
この時に使用する切削工具は、ポジティブタイプのスローアウェィチップを有する切削工具が選定される。これは薄い切り屑や、細かい切り屑を極力発生させないためである。
【0090】
(b)
ねじ軸外形形状の削り出し工程
上記ねじ軸ブランクから切削加工によりねじ軸の外形輪郭形状を削り出す工程で、具体的には、汎用のNC旋盤でねじ軸ブランクの外径面を旋削する。
【0091】
この時に使用する切削工具も、ポジティブタイプのスローアウェィチップを有する切削工具が選定される。
【0092】
(c)
ボールねじ溝の形成工程
上記ねじ軸の外径面に切削加工によりボールねじ溝を形成する工程で、具体的には、汎用のNC旋盤でねじ軸2の外径面にボールねじ溝10を形成する。本実施形態においては、下ねじ切り工程、ねじ切り工程および軸端加工工程の3工程で構成されている。
【0093】
この時に使用する切削工具も、ポジティブタイプのスローアウェィチップを有する切削工具が選定される。
【0094】
(d)
ねじ軸表面の窒化加工工程
上記ねじ軸2の表面を表面硬化処理を施して硬化させる工程で、本実施形態においては窒化加工処理によりねじ軸2の表面を硬化させる。
【0095】
ねじ軸2の耐久性を向上させるために、ねじ軸表面を硬化する必要があり、一般的な鉄製のねじ軸では浸炭焼入れにより表面硬化を実現するが、マグネシウム合金は浸炭焼入れが不可能なので、窒化加工処理で表面硬化(窒化膜形成)を実現する。
【0096】
窒化加工処理は、ねじ軸2の表面をプラズマ加工にて窒素を定着させる加工方法で、ビッカース硬さで1,200を達成可能である。
【0097】
(2)
ナット3の製造方法:
ナット3の製造工程は以下の工程からなる。
【0098】
(a)
ナットブランクの製作工程
マグネシウム合金素材から切削加工によりナットブランクを製作する工程で、具体的には、汎用のNC旋盤でマグネシウム合金素材から所定形状寸法のナット3のブランク(ナットブランク(ナット原型))を製作する。
【0099】
この時に使用する切削工具は、ポジティブタイプのスローアウェィチップを有する切削工具が選定される。これは薄い切り屑や、細かい切り屑を極力発生させないためである。
【0100】
(b)
ナット外形形状の削り出し工程
上記ナットブランクから切削加工によりナットの外形輪郭形状を削り出す工程で、具体的には、マシニングセンターによるフライス加工によりナットブランクの外径面を削り出すとともに、ボール4、4、…の循環するリターンパイプ6が入る穴部を加工する。
【0101】
この時に使用するマシニングセンターの切削工具も、ポジティブタイプのスローアウェィチップを有する切削工具が選定されるとともに、マシニングセンターによる上記穴部の加工(穴あけ加工)では、刃物の動きを指定した時間だけ止めるドウエル(Do Well)加工は避ける。薄い切り屑や、細かい切り屑を極力発生させないためである。
【0102】
(c)
ボールねじ溝の形成工程
上記ナットの内径面に切削加工によりボールねじ溝を形成する工程で、具体的には、汎用のNC旋盤でナット3の内径面にボールねじ溝11を形成する。
【0103】
この場合、ナット3のパイプ穴(嵌合凹部15、ボールガイド孔16、ボールすくい上げ部17)とボールねじ溝11との位相関係がナット3の性能を左右するので、特に高精度での加工が行われる。
【0104】
この時に使用する切削工具も、ポジティブタイプのスローアウェィチップを有する切削工具が選定される。
【0105】
(d)
ナット表面の窒化加工工程
上記ナット3の表面を表面硬化処理を施して硬化させる工程で、本実施形態においては窒化加工処理によりナット3の表面を硬化させる。
【0106】
ナット3の耐久性を向上させるために、ナット表面を硬化する必要があり、一般的な鉄製のナットでは浸炭焼入れにより表面硬化を実現するが、マグネシウム合金は浸炭焼入れが不可能なので、窒化加工処理で表面硬化(窒化膜形成)を実現する。
【0107】
窒化加工処理は、ナット3の表面をプラズマ加工にて窒素を定着させる加工方法で、ビッカース硬さで1,200を達成可能である。
【0108】
(e)
ボール循環路形成部品5の取り付け工程
上記ナットにボール循環路形成部品5を取り付ける工程で、本実施形態においてはリターンチューブ6をナット3の取付け平面3aに、チューブクランプ13により取り付ける。
【0109】
この際、ナット3の嵌合凹部15、15に、上記リターンチューブ6の両端部6a、6bが嵌合されて、嵌合凹部15に連続するボールガイド孔16を介して、ナット3のボールねじ溝11にそれぞれ連通される。
【0110】
以上のように構成された本実施形態のボールねじ1は、例えば、
図6に示すようなボールねじアクチュエータ30の主要部として好適に使用されて、各種装置の直進動作部(図示省略)を構成する。
【0111】
上記ボールねじアクチュエータ30は、電動モータ31と上記ボールねじ1を主要部として備えてなり、ボールねじ1のねじ軸2が上記電動モータ31の回転軸31aにカップリング32を介して同軸状に駆動連結されるとともに、ボールねじ1のナット3が図外の直動対象部に一体接続される構造とされている。
【0112】
具体的には、本体ベース35上に、電動モータ31がモータブラケット36により水平状態で支持されるとともに、ボールねじ1のねじ軸2が軸受装置37、37を介して水平回転可能に軸承され、このねじ軸2の基端がカップリング32により電動モータ31の回転軸31aに同軸状にかつ一体回転可能に接続されている。
【0113】
また、ボールねじ1のナット3は、ナットハウジング38と一体結合されるとともに、このナットハウジング38が、移動ブロック39a、39aを介して、本体ベース35上に上記ねじ軸2と平行に延びて設けられたガイドレール39b、39bに沿って直線移動可能とされている。
【0114】
以上のように、本実施形態のボールねじ1によれば、ボールねじ溝10を外径面に有するねじ軸2と、このねじ軸2のボールねじ溝10に対応するボールねじ溝11を内径面に有するナット3と、このナット3のボールねじ溝11およびねじ軸2のボールねじ溝10の間に転動走行可能に配された複数のボール4、4、…と、上記ナット3のボールねじ溝11に連通する循環路12を形成するリターンチューブ6(ボール循環路形成部材5)とを備えてなり、上記ねじ軸2およびナット3がマグネシウム合金から形成されているから、以下に列挙するような優れた効果が発揮されて、大小を問わず、十分な強度を保持しつつ大幅な軽量化が可能な構造を備えたボールねじ1を提供することができる。
【0115】
(i)構成材料の大半を占めるねじ軸2およびナット3が、実用金属中最も比重が小さく、比強度も最大であるマグネシウム合金から形成されていることにより、十分な強度を確保しつつ、従来に比較して大幅なボールねじ1の軽量化を実現することができる。
【0116】
(ii)しかも、ボールねじ1の構造ではなく、その構成材料自体の改良に係るものであることから、ボール循環形式等の種類の如何にかかわらず、基本構造を同じくするすべてのボールねじの軽量化に寄与し得るものであり、汎用性に富む。
【0117】
(iii)ねじ軸2およびナット3が振動吸収性(減衰能力)に優れているマグネシウム合金から形成されていることにより、特に、ボール4、4、…の衝突により衝突音や振動を生じやすい部位である、ボールすくい上げ部17における上記衝突音や振動が減少されないし減衰され得る。
【0118】
(iv)本実施形態の製造方法によれば、活性な金属であるマグネシウム合金からなるボールねじ1の構成部品であっても、切削加工中に薄い切り屑や細かな切り屑の発生を最小限に抑えられて、切り屑の発火に起因する火災発生の危険性もなく、安全に製作することができ、その結果、上述した(i)および(ii)の特有の効果が有効に発揮され得るボールねじ1を製造することができる。
【0119】
(v)本実施形態のボールねじアクチュエータ30によれば、上述した(i)〜(iii)の特有の効果が有効に発揮される結果、工作機械や搬送機械などの大型の装置から、医療機器や航空宇宙機器などの精密機器や小型の装置まで、大小を問わずあらゆる装置の直動部位を有利に構成することができる。
【0120】
実施形態2
本実施形態においては、実施形態1のねじ軸2およびナット3に加えて、ボール4、4、…もマグネシウム合金から形成されている。
【0121】
ボール4の製造方法は、具体的には図示しないが、基本的に従来一般の鋼球の製造方法と同様であり、最後に表面を窒化加工して完成させる。
【0122】
しかして、以上のようにボール4、4、…もマグネシウム合金製とすることにより、実施形態1のボールねじ1よりもさらに軽量化構造のボールねじが得られる。
その他の構成および作用は実施形態1と同様である。
【0123】
実施形態3
本実施形態においては、実施形態2のねじ軸2、ナット3およびボール4,4、…に加えて、さらにボール循環路形成部材5を構成するリターンチューブ6もマグネシウム合金から形成されている。
【0124】
リターンチューブ6の製造方法は、具体的には図示しないが、基本的に従来一般の鋼管製リターンチューブの製造方法と同様であり、最後に表面を窒化加工して完成させる。
【0125】
しかして、以上のようにリターンチューブ6もマグネシウム合金製とすることにより、ボールねじ1のほとんどの構成部品がマグネシウム合金製となり、軽量化がさらに進んだボールねじが得られる。
その他の構成および作用は実施形態2と同様である。
【0126】
なお、上述した実施形態1〜3はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれに限定されることなく、その範囲内で種々の設計変更が可能である。例えば、以下に列挙するような改変例が可能である。
【0127】
(1)実施形態3のボールねじ1の軽量化構造よりもさらに進んで、チューブクランプ13、締付けボルト14およびノックピン21もマグネシウム合金で形成することにより、構成部品のほぼすべてがマグネシウム合金製のボールねじ1を提供することも可能である。
【0128】
(2)実施形態1〜3において、ねじ軸2およびナット3を含むマグネシウム合金製の構成部品の耐久性を向上させるための表面硬化処理として、窒化加工処理が施されているが、これに限定されず、例えば、セラミック被膜形成による表面硬化処理を施すこと可能である。
【0129】
(3)さらに、目的に応じて、上記表面硬化処理を省略することも可能である。
【0130】
(4)実施形態1〜3のボールねじ1は、ボール循環路形成部材5がリターンチューブ6からなる、リターンチューブ循環方式であるが、本発明のボールねじはこれに限定されることなく、以下に列挙するようなあらゆるボール循環方式のボールねじに適用可能である。なお、いずれのボール循環方式も従来周知の構造であるので具体的な構造の図示は省略する。
【0131】
(a)ボール循環路形成部材5が、ナット2に埋め込まれるこま(図示省略)からなる、こま循環方式のボールねじ。
【0132】
(b)ボール循環路形成部材5が、ナット3の両端に取り付けられるエンドキャップからなる、エンドキャップ循環方式のボールねじ。
【0133】
(c)ボール循環路形成部材5が、ナット3の両端に組み込まれるエンドデフレクタからなる、エンドデフレクタ循環方式のボールねじ。
【0134】
(d)ボール循環路形成部材5が、ナット3に組み付けられたガイドプレートからなる、ガイドプレート循環方式のボールねじ。
【0135】
(5)実施形態1に開示されるボールねじアクチュエータ30の構成は、駆動機構の概略構成を示すためのもので、具体的な構成は、組込み対象となる装置の直線動作部位の構造等、対象および目的に応じて設計変更される。
【0136】
(6)また、上記ボールねじアクチュエータ30は、ボールねじ1のねじ軸2が電動モータ31の回転軸31aに駆動連結されるとともに、ボールねじ1のナット3が直動対象部に一体接続される構成とされているが、これと逆の構成とされても良い。
【0137】
すなわち、具体的には図示しないが、ボールねじアクチュエータ30は、ボールねじ1のナット3が電動モータ31の回転軸31aに駆動連結されるとともに、ボールねじ1のねじ軸2が直動対象部に一体接続される構造とされても良い。