(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-152094(P2017-152094A)
(43)【公開日】2017年8月31日
(54)【発明の名称】端子部材
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20170804BHJP
H01R 4/20 20060101ALI20170804BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R4/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-31060(P2016-31060)
(22)【出願日】2016年2月22日
(71)【出願人】
【識別番号】390033318
【氏名又は名称】日本圧着端子製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 輝雄
【テーマコード(参考)】
5E085
【Fターム(参考)】
5E085BB02
5E085BB27
5E085DD16
5E085FF08
5E085HH06
5E085HH34
5E085JJ06
5E085JJ38
(57)【要約】
【課題】
接続する導体線が被覆電線と電線のとき接続できる端子部材。
【解決手段】
周面をエナメル被膜で被覆されたエナメル被覆平角線40をヒュージング処理する熱かしめ接続部10を有し前方から後方へ軸状に延びる端子部材1であって、熱かしめ接続部10の後方に導線をかしめ接続するかしめ接続部20が備わる。熱かしめ接続部10は上面部12、下面部13、及び湾曲部11からなる断面U字状の重ね合わせ構造であり、かしめ接続部20は中空の筒状体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面を絶縁被膜で被覆された被覆導線をヒュージング処理する熱かしめ接続部を有し前方から後方へ軸状に延びる端子部材であって、
前記熱かしめ部の後方に導線をかしめ接続するかしめ接続部が備わるところに特徴を有する端子部材。
【請求項2】
前記熱かしめ部は断面U字状で重ね合わせ構造であるところに特徴を有する請求項1記載の端子部材。
【請求項3】
前記かしめ接続部は中空の筒状体であるところに特徴を有する請求項1又は2記載の端子部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は裸体導線とエナメル被覆導線とを接続する端子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
この分野の技術として、特許文献1記載の技術が知られている。この技術によるとヒュージング処理によってエナメル被覆導線のエナメル被膜を除去し内部の導線と端子部材との間で良好な圧着接続が得られる。このように、従来からエナメル被覆導線と端子部材とを接合する有効な手段の一つとしてヒュージング処理が広く用いられている。
【0003】
また、エナメル被膜やホルマール被膜等の絶縁被膜を有する導線を複数本束ねた導線束に、ヒュージング処理により各導線の絶縁被膜を溶融又は炭化させて端子部材と導線束とを導電接合する技術も一般的に知られた技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−175413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
棒状の電磁石の周りに巻かれてモーターのコイル材に用いられるエナメル被覆導線は、その端部で裸体導線に接続され整流子より電流を受ける。このつなぎ目でエナメル被覆導線と裸体導線とを電気的に接続するために例えば一つの筒状の端子部材でヒュージング処理する場合が知られているが、このとき表面状態が相違する2種類の導線を共通の接続手段で接続しようとすると端子部材との間で適切な接続状態が得られない場合がある。
【0006】
たとえば、エナメル被覆導線のエナメル被膜が炭化し飛散する条件で通電時間、電流値、かしめ荷重等ヒュージング条件を設定したときには、同時にヒュージング処理される裸体導線に対しては過剰な電流が流れることとなり過熱し溶断する場合がある。また溶断にいたらないまでも裸体導線が高温にさらされことにより線材強度が低下し品質が低下する場合が生じうる。あるいは裸体導線の線材強度が低下しない程度の条件で通電した場合には、エナメル被覆導線の絶縁被膜が炭化除去されないこととなりエナメル被覆導線と端子部材との間で良好な電気的接続が得られない場合がある。
【0007】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、裸体導線の端末とエナメル被覆導線の端末とを電気的機械的に接続する場合であっても裸体導線の強度を低下させることがなく且つエナメル被覆導線の絶縁被膜をヒュージング処理によって適切に炭化し除去できる端子部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の端子部材は、(1)周面を絶縁被膜で被覆された被覆導線をヒュージング処理する熱かしめ接続部を有し前方から後方へ軸状に延びる端子部材であって、前記端子部材の後方に導線をかしめ接続するかしめ接続部が備わるところに特徴を有するものである。
【0009】
この発明によれば、端子部材はヒュージング処理するための熱かしめ接続部の後方にかしめ接続部が備わるので、前方でエナメル被覆導線など導線の周囲が絶縁被膜で被覆された被覆導線をヒュージング処理して接続することができ、後方で絶縁被膜が被覆されていない裸体導線をかしめ接続することができる。これにより通電による加熱で裸体導線が溶
断したり線材強度が低下したりすることがなく、エナメル被覆導線など絶縁被膜で被覆された被覆導線をヒュージング処理により適切に電気的接続することができる。
【0010】
熱かしめ接続部は、かしめ接続部と同じ接続構造のもの例えば双方とも筒状体であってよく、また異なる構造のもの例えばかしめ接続部は筒状体で熱かしめ接続部は別の構造のものの場合であってもよい。また、端子部材に対する被覆導線及び導線(以下裸体導線と言う場合がある)の接続する方向は突合せ方向の場合、あるいは同じ方向を向く場合であってよい。
【0011】
好ましくは、本発明の端子部材は、(2)前記熱かしめ接続部は断面U字状で重ね合わせ構造であるところに特徴を有する(1)記載のものである。
【0012】
この発明によれば、端子部材の熱かしめ接続部は断面U字状で上下面が重ね合わさる構造なので、たとえば断面矩形のエナメル被覆平角線をヒュージング処理する場合、エナメル被覆平角線の大きさに応じた通電時間、電流値、荷重を設定することで適切な熱かしめ条件によるヒュージング処理ができる。これにより接続界面に原子拡散による合金層が形成され信頼性のある電気的機械的接続が得られる。
【0013】
好ましくは、本発明の端子部材は、(3)前記かしめ接続部は中空の筒状体であるところに特徴を有する(1)又は(2)記載のものである。
【0014】
この発明によれば、かしめ接続部は中空の筒状体なので、裸体の導線をかしめるのに適している。導線は複数が束になった状態の導線束であってよく束の径に応じた筒状体を選択することで最適のかしめ条件によるかしめ処理ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る端子部材の外観斜視図である。
【
図2】
図2は、同端子部材にエナメル導線と裸体導線が接続する外観斜視図である。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係る端子部材の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る端子部材の外観斜視図である。
図2は、同端子部材にエナメル導線と裸体導線が接続する外観斜視図である。
図3は、
図2のIII−III断面図である。
図4は、
図2のIV−IV断面図である。
図5は、
図2のV−V断面図である。
図6は、他の実施形態に係る端子部材の外観斜視図である。
図7は、
図6のVII−VII断面図である。
【0017】
端子部材1は、金属材料の圧延材から展開形状に型抜きされ必要な塑性加工によって形成される。端子部材1に要求される導電性、加工性、耐食性などを考慮して一般的にりん青銅、黄銅などの銅合金或いは純銅が使用されるがSUS(ステインレス)などの鉄系金属であってよい。耐食性や電気的性能の目標達成のため母材金属表面は金あるいは錫めっきで処理されることがある。
【0018】
端子部材1は、銅合金の圧延板材から一体的に形成されるもので、
図1に示されるよう
に、前方に熱かしめ接続部10、後方にかしめ接続部20を備えている。熱かしめ接続部10とかしめ接続部20は間に備わる連結部60で連なりそれぞれ端子部材1の軸方向の端部に形成されている。熱かしめ接続部10はエナメル被覆平角線40と電気的機械的に接続する部分である。かしめ接続部20は裸体の導線30と電気的機械的に接続する部分である。
【0019】
熱かしめ接続部10は、
図1に示されるように、断面U字状の左側面が開かれた重ね合わせ構造であって、右側面に湾曲部11を形成し上端部及び下端部から上面部12及び下面部13が連なる。熱かしめ接続部10は前方及び後方に開口部を備え、左側面に上面部12及び下面部13の端部からなる開口部が形成されている。
【0020】
熱かしめ接続部10は、
図2に示されるように、中にエナメル被覆平角線40を保持した状態で湾曲部11を支点にして上面部12及び下面部13により押圧されてヒュージング処理される。ヒュージング処理による熱と荷重で、エナメル被覆平角線40の絶縁被覆が溶融除去され裸体の平角線41の表面が露出し端子部材1の表面と直接接触することとなり、新たにできた接触界面が通電による加熱で融接する。
【0021】
エナメル被覆平角線40は、断面矩形の圧延銅板の周面がエナメル被膜で被覆されたものである。使用環境に応じて例えば耐薬品性、耐熱性など化学的機械的特性を備えたエナメル材が準備されこれより適宜選定された最適のエナメル材が圧延銅板の周面に被覆される。
【0022】
エナメル被覆平角線40は、ヒュージング処理をおこなうことで事前のエナメル被膜除去工程を経ることなく、エナメル被膜が除去された状態で端子部材1に接続される。ヒュージング処理によりエナメル被膜は熱により炭化され平角線41の母材表面から離脱する。これにより平角線41は裸体の母材銅が表面に現れる。
【0023】
ヒュージング装置は、図示しないが、かしめ装置にセットされた端子部材の上下方向に備わるかしめ部材である金属構造物が電極の機能をも備えたものであり、通電による加熱条件下でかしめ処理がおこなえるものである。ヒュージング条件は通電時間、電流値、荷重などが主なパラメーターとなりエナメル被膜材種、エナメル被覆平角線、端子部材など各材料によって条件が最適化されるものである。
【0024】
ヒュージング工程は、図示しないが、エナメル被覆平角線40を熱かしめ接続部10で保持した状態の端子部材1を上下電極の間にセットし、この状態で端子部材1の表面に電極を通して荷重をかけるとともに比較的大きな電流を通電する。これにより、エナメル被膜は炭化し除去される。エナメル被膜が除去されるとほぼ同時に裸体の平角線41及び端子部材1は通電により赤色化するほどまでに加熱されている。そのとき接触界面は原子拡散による合金層が形成されている。このように、ヒュージング処理による熱と荷重で接続部材1と平角線41との接触界面には合金層が形成されるのでかしめ処理に比べて強固な接続状態が形成されるものである。
【0025】
熱かしめ接続部10は、
図3、
図5に示されるように、ヒュージング処理によって、平角線41と上面部12及び下面部13との界面に合金層が形成され信頼性のある接続状態が得られる。接続材料は融着により界面が密接に接合することで空隙の少ない接続構造が得られる。上面部12、下面部13の形状など熱かしめ接続部10の各部のデザインは、ヒュージング処理するエナメル被覆平角線40の条件に応じて適宜設計しうるものである。
【0026】
熱かしめ接続部10は、
図3、
図5に示されるように、ヒュージング処理によって上面
部12及び下面部13の平角線41に当接する部分は融着した状態でくぼみ変形しやや肉厚が薄くなっている。上面部12、下面部13、及び平角線41はヒュージング処理による赤色化で軟化し同時に受ける上下方向の荷重により変形が生じ上述のくぼみが形成される。接触界面は融着による原子拡散で新たにCu−Sn合金層が形成されている。
【0027】
熱かしめ接続部10は、
図3、
図5に示されるように、下面部13及び上面部12の左右幅および前後長を適宜設計することでエナメル被覆平角線40の接続範囲を最適値に制御することができる。
【0028】
かしめ接続部20は、
図1に示されるように、中空の筒状体21であって、かしめる導線束35に適した筒状体21が得られるように板材の型抜き、塑性加工、端縁のロウ付けなどの工程を経て形成される。裸体の導線30の導線束35が中空部に収容され、上下方向からのかしめにより電気的機械的に接続される。
【0029】
かしめ接続部20は、
図4、
図5に示されるように、中に裸体の導線30の導線束35がセットされた状態で固定されている。
【0030】
かしめ接続装置は、図示しないが、裸体の導線束35がセットされている状態の筒状体21に上下方向から荷重を加えて筒状体21の所定の部分を凹状に変形させて導線束35を圧着するものである。圧着により導線束35とかしめ接続部20は電気的機械的に接続される。
【0031】
かしめによる接続条件は、筒状体21のデザイン、導線束サイズ、かしめ条件などがパラメーターになり適宜設定することで最適化されるものである。
【0032】
<効果>
本実施形態の端子部材1は、熱かしめ接続部10がヒュージング処理されるのでエナメル被覆平角線40の被覆剥離作業を省略できる。
本実施形態の端子部材1は、熱かしめ接続部10とかしめ接続部20が備わるので熱の影響による裸体の導線30の強度低下が抑制できる。
【0033】
本実施形態の端子部材1は、断面U字状で重ね合わせ構造なのでエナメル被覆平角線40に対して信頼性のある形状が確保できる。
本実施形態の端子部材1は、エナメル被覆平角線40のサイズに合わせて熱かしめ接続部0の形状を適宜選択することで最適化されたヒュージング条件が得られる。
【0034】
<他の実施形態>
エナメル被覆導線がエナメル被覆された導線50の導線束55である場合を
図6、
図7に示す。
図6は、他の実施形態に係る端子部材の外観斜視図である。
図7は、
図6のVII−VII断面図である。
端子部材100は、
図6、
図7に示されるように、熱かしめ接続部110とかしめ接続部20とを備えている。熱かしめ接続部110は、中空の筒状体である。
【0035】
エナメル被覆導線は、
図7に示されるように、表面がエナメル被覆された導線50の導線束55である。筒状体にセットされたエナメル被覆導線はヒュージング処理されてエナメル被覆が炭化除去され、裸体の導線50が加熱加圧されて導線50同士及び導線50と筒状体内周面との界面で融着が生じ電気的機械的に接続する。
このように実施形態を変更しても上述した効果は概ね得られる。
【符号の説明】
【0036】
1、100 端子部材
10、110 熱かしめ接続部
11 湾曲部
12 上面部
13 下面部
20 かしめ接続部
21 筒状体
30 導線
35 導線束
40 エナメル被覆平角線
41 平角線
50 エナメル被覆導線
55 エナメル被覆導線束
60 連結部