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特開2017-152465ダイヤモンド発光整流素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-152465(P2017-152465A)
(43)【公開日】2017年8月31日
(54)【発明の名称】ダイヤモンド発光整流素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/34 20100101AFI20170804BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20170804BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20170804BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170804BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20170804BHJP
   C01B 32/90 20170101ALI20170804BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20170804BHJP
【FI】
   H01L33/34
   H05B33/14 Z
   H05B33/26 Z
   H05B33/10
   H05B33/04
   C01B31/30
   H01L21/28 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-31787(P2016-31787)
(22)【出願日】2016年2月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、日本学術振興会、科学研究費助成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚秀
(72)【発明者】
【氏名】竹屋 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
【テーマコード(参考)】
3K107
4G146
4M104
5F241
【Fターム(参考)】
3K107AA02
3K107AA06
3K107BB02
3K107BB04
3K107BB05
3K107CC04
3K107CC05
3K107CC07
3K107CC23
3K107CC36
3K107CC45
3K107DD44Z
3K107DD45Z
3K107DD54
3K107EE48
3K107FF04
3K107FF19
3K107GG28
4G146AA04
4G146MA09
4G146MA19
4G146MB03
4G146MB12
4G146MB23
4G146NA01
4G146NA02
4G146NA21
4G146NB01
4G146NB06
4G146NB16
4G146NB18
4G146PA09
4G146PA12
4G146PA15
4M104AA10
4M104BB02
4M104BB06
4M104BB07
4M104BB09
4M104BB34
4M104BB36
4M104CC01
4M104DD22
4M104DD78
4M104DD83
4M104GG04
5F241AA03
5F241AA14
5F241CA02
5F241CA33
5F241CA77
5F241CA83
5F241CA99
5F241CB36
(57)【要約】
【課題】 ボロンやリンなどのドーピング層を有することなく、深紫外発光が可能なダイヤモンド発光整流素子を提供すること。
【解決手段】
ダイヤモンドの表面を水素で終端した領域1、当該水素終端した領域に隣接すると共に、前記ダイヤモンドの表面を酸素で終端した領域2、当該水素終端した領域1に設けられた水素終端側電極3、当該酸素終端した領域2に設けられた酸素終端側電極4とを備え、水素終端側電極3と酸素終端側電極4との間を流れる電流に対して、整流特性を示すことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドの表面を水素で終端した領域、
当該水素終端した領域に隣接すると共に、前記ダイヤモンドの表面を酸素で終端した領域、
当該水素終端した領域に設けられた水素終端側電極、
当該酸素終端した領域に設けられた酸素終端側電極とを備え、
前記水素終端側電極と前記酸素終端側電極との間を流れる電流に対して、整流特性を示すことを特徴とするダイヤモンド発光素子。
【請求項2】
前記水素終端側電極は、加熱処理により前記ダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成する金属、並びに、Au、Pd又はPtの少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド発光素子。
【請求項3】
前記酸素終端側電極は、Ca並びに、Mg、Ba、Y、Al等の低仕事関数の金属の少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド発光素子。
【請求項4】
ダイヤモンドの表面を水素で終端した領域、
前記ダイヤモンドの表面であって、当該水素終端した領域に隣接したフッ素で終端した領域、
当該水素終端した領域に設けられた水素終端側電極、
当該フッ素終端した領域に設けられたフッ素終端側電極とを備え、
前記水素終端側電極と前記フッ素終端側電極との間を流れる電流に対して、整流特性を示すことを特徴とするダイヤモンド発光素子。
【請求項5】
酸素終端した領域を表面に有するダイヤモンドを準備する工程と、
この酸素終端領域のうち水素終端側電極となる領域に前記ダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成する金属層を積層する工程と、
この金属層を加熱処理して、当該金属層と前記ダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成してオーミック電極を形成する工程と、
この酸素終端領域を水素終端した領域に変換処理する工程と、
この水素終端した領域のうち、水素終端した領域として保持すべき領域をマスクする工程と、
このマスク処理されておらず、露出した水素終端した領域を酸素終端した領域に変換処理する工程と、
前記マスク処理された水素終端した領域のマスク剤を除去する工程と、
この酸素終端領域のうち酸素終端側電極となる領域に仕事関数の低い電極金属層を積層する工程と、
を有することを特徴とするダイヤモンド発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記仕事関数の低い金属は、Ca、Mg、Ba、Y、Alの少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項5に記載のダイヤモンド発光素子の製造方法。
【請求項7】
水素終端した領域を表面に有するダイヤモンドを準備する工程と、
この水素終端領域のうち水素終端側電極となる領域にAu、Pd、Ptの少なくとも一種類を含む金属層を積層する工程と、
この水素終端した領域のうち、水素終端した領域として保持すべき領域をマスクする工程と、
このマスク処理されておらず、露出した水素終端した領域を酸素終端した領域に変換処理する工程と、
前記マスク処理された水素終端した領域のマスク剤を除去する工程と、
この酸素終端領域のうち酸素終端側電極となる領域に仕事関数の低い金属を含む電極金属層を積層する工程と、
を有することを特徴とするダイヤモンド発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記仕事関数の低い金属は、Ca、Mg、Ba、Y、Alの少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載のダイヤモンド発光素子の製造方法。
【請求項9】
さらに、電極金属層を積層する工程の後に、封止用のAl膜の成膜処理をする工程を含むことを特徴とする請求項5乃至8の何れか1項に記載のダイヤモンド発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロンやリンなどのドーパントを用いずに作製するダイヤモンド発光整流素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長が350nm以下の深紫外領域の光は、高密度光記録や微細加工、殺菌、環境汚染物質の分解など多くの応用が考えられる。ダイヤモンドは室温で5.47eVの広いバンドギャップを持ち、深紫外発光が期待できる。このバンドギャップは間接遷移であるが、大きな束縛エネルギーを持つ自由励起子による再結合発光を使えば、高強度発光も期待できる。
【0003】
そこで、特許文献1には、水素終端ダイヤモンド膜を用いたダイヤモンド紫外線発光素子が開示されている。しかし、当該発光素子は、電流注入によって発光する自由励起子再結合発光(波長235nm)が当該ダイヤモンド膜上の電極端部から放射されており、当該ダイヤモンド単結晶膜の表面に対して法線方向に放射するものではないため、例えば発光パネルの様な用途に適する発光形態でないという課題があった。(また、整流作用もほとんど見られなかった。)
【0004】
また、ボロンドープ(p型)およびリンあるいは硫黄ドープ(n型)のダイヤモンドを使ったpn接合およびpin接合が開発され、波長235nm(5.27eV)の励起子発光が観測されている。(例えば、特許文献2、3、4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−340837号公報
【特許文献2】特開2002−231996号公報
【特許文献3】特開2003−347580号公報
【特許文献4】特開2008−78611号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Maier et al. Phys. Rev. Lett. 85, 3472 (2000)
【非特許文献2】Sque et al. Phys. Rev. B 73, 085313 (2006)
【非特許文献3】Mizuochi et al. Nature Photonics 6, 299 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、リンや硫黄のドーピングによるn型ダイヤモンドの合成には、猛毒のホスフィンや硫化水素を使う必要がある。そこで、このようなpn接合およびpin接合のn型ダイヤモンドの合成には、密閉性の高い製造設備および除害(ガス浄化)設備が必要になるという課題があった。
またボロンおよびリンドープによる縦型pn接合の構造の場合、発光部が電極によって隠される。また、ダイヤモンドは高い屈折率をもち全反射の臨界角が小さい。(波長235nmの場合22°)そのため発光部から表面に対してこれ以上の角度をもって出射しようとする光は、ダイヤモンド表面で全反射され外に出ない。これらの理由により、光の外部への取り出し効率が低いという課題があった。
本発明は、上記の課題を解決するもので、ボロンやリンなどのドーピング層を有することなく、深紫外発光が可能なダイヤモンド発光整流素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ダイヤモンド表面の終端の違いによるエネルギーバンドのシフトに着目して、本願発明をするに至った。
そもそも、ダイヤモンドは各炭素原子が周りの4つの原子と共有結合で結び付いた結晶からなる。ダイヤモンドの表面では、結合手が余る。この未結合手は不安定で、水素や酸素などの元素と結合し安定化する。講学上は、この未結合手を安定化した状態を終端と言う。例えば、化学気相合成したダイヤモンドの表面は、合成中に水素プラズマに晒されるため水素終端となる。一方、酸素プラズマ照射などによって、酸素終端を作ることもできる。これらの水素および酸素終端は、大気中でも安定に保持される。
【0009】
ここで、水素終端ダイヤモンドは、負の電子親和力を持ち、また、大気に数時間晒すと表面にp型の伝導層が生じるという性質をもつ。これらの特性は、水素と炭素の電気陰性度の違いによって、水素側が正、炭素側が負の電気双極子が生じ、ダイヤモンドのエネルギーバンドが全体的に持ち上げられることによる。すなわち、伝導帯の底が真空準位より上に持ち上げられ、負の電子親和力(−1.3eV)となり、また、表面に吸着した水の層の中のHイオンの酸化還元準位に価電子帯の上部から電子が移動してホールが蓄積すると考えられている[非特許文献1参照]。
【0010】
一方、酸素終端表面では、水素終端の場合と逆向きの電気双極子が生じ、エネルギーバンドが下にシフトする。そのため正の電子親和力(+1.7eV)となり。このような酸素終端表面ではp型表面伝導は現れず、n型キャリア蓄積に有利となる[非特許文献2参照]。
このように、表面に生じる電気双極子によって、水素終端ではエネルギーバンドが上にシフトし、酸素終端では下にシフトする。
【0011】
即ち、本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成としたダイヤモンド発光素子である。
本発明の第一のダイヤモンド発光素子は、例えば図1に示すように、当該ダイヤモンドの表面を水素で終端した領域1、当該水素終端した領域1に隣接すると共に、前記ダイヤモンドの表面を酸素で終端した領域2、当該水素終端した領域1に設けられた水素終端側電極3、当該酸素終端した領域2に設けられた酸素終端側電極4とを備え、水素終端側電極3と酸素終端側電極4との間を流れる電流に対して、整流特性を示すことを特徴とする。
本発明では、このような水素終端の領域と酸素終端の領域をダイヤモンド表面に隣接して形成することによって、pn接合と同様の内蔵電位差を生じさせ、発光整流素子を実現する(図4参照)。
【0012】
本発明の第一のダイヤモンド発光素子において、好ましくは、前記水素終端側電極は、加熱処理により前記ダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成する金属、並びに、Au、Pd又はPtの少なくとも一種類を含むとよい。
本発明の第一のダイヤモンド発光素子において、好ましくは、前記酸素終端側電極は、Ca並びに、Mg、Ba、Y、Al等の低仕事関数の金属の少なくとも一種類を含むとよい。
【0013】
本発明の第二のダイヤモンド発光素子は、当該ダイヤモンドの表面を水素で終端した領域1、前記ダイヤモンドの表面であって、当該水素終端した領域に隣接したフッ素で終端した領域2、当該水素終端した領域1に設けられた水素終端側電極3、当該フッ素終端した領域2に設けられたフッ素終端側電極4とを備え、水素終端側電極3とフッ素終端側電極4との間を流れる電流に対して、整流特性を示すことを特徴とする。
【0014】
本発明の第一のダイヤモンド発光素子の製造方法は、例えば図2に示すように、酸素終端した領域を表面に有するダイヤモンドを準備する工程と(S100)、この酸素終端領域のうち水素終端側電極となる領域に加熱処理により前記ダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成する金属を含む金属層を積層する工程と(S102)、この金属層を加熱処理して、当該金属層と前記ダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成する工程と(S104)、この酸素終端領域を水素終端した領域に変換処理する工程と(S106)、この水素終端した領域のうち、水素終端した領域として保持すべき領域をマスクする工程と(S108)、このマスク処理されておらず、露出した水素終端した領域を酸素終端した領域に変換処理する工程と(S110)、前記マスク処理された水素終端した領域のマスク剤を除去する工程と(S112)、この酸素終端領域のうち酸素終端側電極となる領域に仕事関数の低い金属を含む電極金属層を積層する工程と(S114)を有することを特徴とする。
本発明の第一のダイヤモンド発光素子において、好ましくは、前記仕事関数の低い金属は、Ca、Mg、Ba、Y、Alの少なくとも一種類を含むとよい。
【0015】
本発明の第二のダイヤモンド発光素子の製造方法は、例えば図3に示すように、水素終端した領域を表面に有するダイヤモンドを準備する工程と(S200)、この水素終端領域のうち水素終端側電極となる領域にAu、Pd、Ptの少なくとも一種類を含む金属層を積層する工程と(S202)、この水素終端した領域のうち、水素終端した領域として保持すべき領域をマスクする工程と(S204)、このマスク処理されておらず、露出した水素終端した領域を酸素終端した領域に変換処理する工程と(S206)、前記マスク処理された水素終端した領域のマスク剤を除去する工程と(S208)、この酸素終端領域のうち酸素終端側電極となる領域に仕事関数の低い金属を含む電極金属層を積層する工程と(S210)を有することを特徴とする。
本発明の第二のダイヤモンド発光素子において、好ましくは、前記仕事関数の低い金属は、Ca、Mg、Ba、Y、Alの少なくとも一種類を含むとよい。
【0016】
本発明の第一又は第二のダイヤモンド発光素子の製造方法において、好ましくは、前記Caを含む電極金属層は、Ca並びに、Mg、Ba、Y、Alの少なくとも一種類を含むとよい。
本発明の第一又は第二のダイヤモンド発光素子の製造方法において、好ましくは、さらに、電極金属層を積層する工程の後に、封止用のAl膜の成膜処理をする工程(S116、S212)を含むとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のダイヤモンド発光素子によれば、不純物濃度の低い純粋なダイヤモンドを用いることができるため、結晶欠陥(窒素などの不純物を含む)由来の可視域の発光を抑えることが可能であり、深紫外発光の効率を上げることができるという効果がある。さらに、本発明のダイヤモンド発光素子によれば、発光部は水素終端−酸素終端の境界であり表面(表面から数nmまでの深さ)に存在する。そのため電極に隠されることなく、効率的に光を取り出せるという効果がある。
また、本発明のダイヤモンド発光素子の製造方法によれば、ボロンやリンなどのドーパントを用いずに、ノンドープの(不純物濃度が非常に小さい)ダイヤモンドのみを使って発光整流素子を作製できるため、猛毒ガスであるホスフィンや硫化水素などを使ったドーピングを行う必要がなく、これらのガスの除害設備を有さない簡便な製造設備でダイヤモンド発光素子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施の形態によるダイヤモンド発光素子の構造模式図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態によるダイヤモンド発光素子の製造工程を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の他の実施の形態によるダイヤモンド発光素子の製造工程を示すフローチャートである。
図4図4は、ダイヤモンド表面に隣接して形成された水素終端の領域と酸素終端の領域のエネルギー分布(バンド)を示す図である。
図5図5は、本発明の第一の実施例による発光整流素子の室温における電流電圧特性を示す図である。
図6図6は、本発明の第一の実施例による発光整流素子の正の電圧印加時に観測された220−700nmの波長範囲の発光スペクトルを示す図である。
図7図7は、本発明の第二の実施例による発光整流素子の室温における電流電圧特性を示す図である。
図8図8は、本発明の第二の実施例による発光整流素子の正の電圧印加時に観測された220−700nmの波長範囲の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態によるダイヤモンド発光素子の構造模式図である。図において、ダイヤモンド発光素子は、水素終端領域1、酸素終端領域2、水素終端側電極3、酸素終端側電極4ならびに単結晶ダイヤモンド5を有している。
単結晶ダイヤモンド5は、例えば工業的に製造された人工ダイヤモンドを用いるものである。イリジウム等の金属やSiC等の上にヘテロエピタキシャル成長したダイヤモンドでも良い。なお、単結晶ダイヤモンド5に代えて、多結晶ダイヤモンドを用いても良い。多結晶ダイヤモンドの場合には、例えば化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)を用いてシリコン等の基体の表面に膜状に生成されるとよい。
【0020】
水素終端領域1は、単結晶ダイヤモンド5の表面を水素で終端した領域である。酸素終端領域2は、水素終端領域1に隣接した、単結晶ダイヤモンド5の表面を酸素で終端した領域である。水素終端側電極3は、水素終端領域1に設けられたものである。酸素終端側電極4は、酸素終端領域2に設けられたものである。そして、水素終端側電極3と酸素終端側電極4との間を流れる電流に対して、整流特性を示す。
【0021】
図2は、本発明の一実施の形態によるダイヤモンド発光素子の製造工程のフローチャートである。
最初に、単結晶ダイヤモンド5の表面の研磨および清浄化を行う。続いて、単結晶ダイヤモンド5の表面を水素プラズマに晒したのちにUVオゾン処理して、全面を酸素終端とする(S100)。なお、酸素中加熱などによる酸素終端処理済みダイヤモンドを用いても良い。
【0022】
続いて、この酸素終端領域のうち水素終端側電極となる領域に、Tiを含む金属層を積層する(S102)。次に、この金属層をアルゴンあるいは水素雰囲気下で熱処理して、当該金属層とダイヤモンドとの境界に炭化金属(TiC)層を形成する(S104)。Tiを用いる場合には、炭化金属層はTiCとなる。また、加熱処理の温度は、例えば400℃から600℃、好ましくは420℃から480℃、特に好ましくは440℃から460℃の範囲とする。加熱処理の時間は、当該金属層とダイヤモンドとの境界に炭化金属層を形成してオーミック電極を形成するのに充分な時間であればよく、例えば10分から1時間とし、好ましくは20分から40分の範囲とする。連続プロセスであれば、加熱処理の時間が短い場合には処理効率が上がるため、一般的には加熱処理の時間の時間は短い方が良い。
【0023】
次に、この酸素終端領域を水素終端した領域に変換処理する(S106)。この変換処理には、例えば水素プラズマに5分ないし10分程度晒すとよい。次に、この水素終端した領域のうち、水素終端した領域として保持すべき領域をマスクする(S108)。このマスク剤としては、例えばAlを用いるが、酸素終端処理に酸素プラズマ照射を行う場合はフォトレジストでも良い。
【0024】
次に、このマスク処理されておらず、露出した水素終端した領域を酸素終端した領域に変換処理する(S110)。酸素終端処理では、例えばUVオゾン処理や酸素プラズマ照射等を用いる。そして、マスク処理された水素終端した領域のマスク剤を除去する(S112)。マスク剤としてAlを使用する場合は、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)のようなエッチング剤を用いてマスク剤を除去する。
【0025】
続いて、この酸素終端領域のうち酸素終端側電極となる領域にCaを含む電極金属層を積層する(S114)。Caを含む電極金属層としては、Caを保護するためと金線をボンディングするために、Caの上にAl、Ti、Auを積むのが良い。そして、電極金属層を積層する工程の後に、封止用のAl膜の成膜処理をする(S116)。この封止膜を設けることで、電流印加時の経時的な劣化(抵抗増加)を防止できる。
【0026】
図3は、本発明の他の実施の形態によるダイヤモンド発光素子の製造工程のフローチャートである。ここでは、水素終端側電極となる領域に仕事関数の高い金属であるAu、Pd、Ptを電極材料として蒸着した場合を示している。水素終端側は仕事関数が高い金属の方が、オーミックになりやすく、好ましい。また、Au、Pd、Ptなどの金属は、蒸着するだけ(加熱処理することなく)、水素終端面の表面伝導とオーミックコンタクトが取れるので、製造工程が省エネルギーとなる。
【0027】
まず、水素終端した領域を表面に有するダイヤモンドを準備する(S200)。次に、この水素終端領域のうち水素終端側電極となる領域にAu、Pd、Ptの少なくとも一種類を含む金属層を積層する(S202)。続いて、この水素終端した領域のうち、水素終端した領域として保持すべき領域をマスクする(S204)。このマスク剤としては、例えばAlを用いるが、酸素終端処理に酸素プラズマ照射を行う場合はフォトレジストでも良い。
【0028】
このマスク処理されておらず、露出した水素終端した領域を酸素終端した領域に変換処理する(S206)。酸素終端処理では、例えばUVオゾン処理や酸素プラズマ照射等を用いる。次に、マスク処理された水素終端した領域のマスク剤を除去する(S208)。マスク剤としてAlを使用する場合は、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)のようなエッチング剤を用いてマスク剤を除去する。
【0029】
次に、この酸素終端領域のうち酸素終端側電極となる領域にCaを含む電極金属層を積層する(S210)。Caを含む電極金属層としては、Caを保護するためと金線をボンディングするために、Caの上にAl、Ti、Auを積むのが良い。そして、電極金属層を積層する工程の後に、封止用のAl膜の成膜処理をする(S212)。この封止膜を設けることで、電流印加時の経時的な劣化(抵抗増加)を防止できる。
【実施例】
【0030】
1.1 ダイヤモンド表面の前処理
IIa型単結晶ダイヤモンド(エレメントシックス社製CVDダイヤモンド、スタンダードグレード、面方位(100)、2.5×2.5×0.3mm;窒素濃度1ppm以下、ボロン濃度0.05ppm以下)の表面を研磨したものを、CVD装置(アステックス社製を改造)に入れ、水素プラズマに1時間晒す。(水素ガス流量400sccm(standard cubic centimeter per minute)、35Torr)その後、UVオゾンクリーナー(サムコ社UV-1)を使い、UVオゾン処理を1時間行う。ここでは面方位(100)の単結晶ダイヤモンドを使用したが、(111)など異なる面方位でも良い。
【0031】
1.2 水素終端側電極の作製
ダイヤモンド表面にレジストLOR5Aをスピンコートし180℃で5分ベークする。その後、フォトレジストAZ5214Eをスピンコートし110℃で2分ベークする。レーザー露光装置(ナノシステムソリューションズ社DL−1000)によって、水素終端側の電極パターンを描画する。TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)2.38%で90秒現像し、蒸留水で30秒洗浄の後、窒素ガスでブローする。スパッタ装置(ビームトロン社)によって、Ti50nm/Pt50nm/Au200nm/Pt30nm/Ti5nm/SiO 50nmを成膜する。80℃のNMP(N-メチルピロリドン)に1時間浸したあと、アセトン、イソプロピルアルコールに浸し、窒素ガスでブローすることでリフトオフを行う。ArあるいはHガス雰囲気下で、450℃で30分間加熱し、Tiとダイヤモンドの境界にTiCを形成させる。これにより、水素終端側のオーミック電極が形成される。
TiCの代わりに、水素終端面の表面伝導とオーミックコンタクトの取れるAu、Pd、Ptなどの金属を蒸着するだけ(加熱しない)でも良い。
【0032】
1.3 水素終端形成
上記CVD装置にて、水素プラズマに10分間晒し、ダイヤモンド表面を水素終端化する。
【0033】
1.4 酸素終端形成
1.2と同様のレーザーリソグラフィーによって、酸素終端しない部分のパターンを描画する。1.2と同様に現像をしたあと、電子銃型蒸着装置(エイコーエンジニアリング社)によってAl100nmを成膜する。1.2と同様にリフトオフを行う。UVオゾンクリーナー(サムコ社UV-1)を使い、UVオゾン処理を1時間行うことで、Alによってマスクされていないダイヤモンド表面を酸素終端化させる。マスクとして使ったAlはTMAH2.38%でエッチングして除去する。
酸素終端化の方法は、このようなUVオゾン処理に限らない。酸素プラズマ照射等によっても可能である。
【0034】
1.5 酸素終端側電極の作製
1.2と同様のレーザーリソグラフィーによって、酸素終端側の電極パターンを描画する。1.2と同様に現像する。真空蒸着装置にてCaを成膜する。Caの保護のため真空を破らずに連続してAlを成膜する。Alの上にさらにTiおよびAuを蒸着する。電子を注入するために仕事関数の低いCaを酸素終端側の電極材料として選んだが、これに限らない。
酸素終端領域の抵抗値を下げて動作電圧を下げるため、水素終端領域と酸素終端領域の境界から酸素終端側電極までの距離は1〜10μm程度と短くすることが望ましい。水素終端領域の抵抗値を下げるため、水素終端領域と酸素終端領域の境界から水素終端側電極までの距離も短くすることが望ましい。
【0035】
1.6 封止用のAl膜の成膜
表面を封止するために原子層堆積装置(Picosun社、SUNALE R-100B)によって、Al 30nmを成膜する。
【0036】
次に、上記の製造工程で製造したダイヤモンド発光素子の物理的な特性について説明する。図4は、ダイヤモンド表面に隣接して形成された水素終端の領域と酸素終端の領域のエネルギー分布を示す図である。表面終端の違いによる内蔵電位差は、伝導帯と価電子帯の両方とも、水素終端の領域と酸素終端の領域との間で、3eVである。伝導帯と価電子帯とのバンドギャップは、5.47eVである。本発明のダイヤモンド発光素子では、水素終端の領域と酸素終端の領域をダイヤモンド表面に隣接して形成することによって、pn接合と同様の内蔵電位差を生じさせ、発光整流素子を実現している。
【0037】
次に、図5は本実施の形態のダイヤモンド発光素子における、室温での電流電圧特性を示す図である。ここで示した電圧は、水素終端側電極に正、酸素終端側電極に負の電圧をかけた場合、正とした。負の電圧印加の場合には、50Vをかけても電流は10−11Aより小さい。一方、正の電圧印加によって電流が増加し、50Vにおいて10−4A以上である。すなわち±50Vにおいて7桁以上の整流比をもつ。
【0038】
正の電圧印加時に観測された220−700nmの波長範囲の発光スペクトルを図6に示す。深紫外領域の235nmの自由励起子再結合による発光ピークが見られる。389、533、575nmなどのピークおよび500nm以上のブロードなピークは、ダイヤモンド中の窒素に由来するものである。より窒素濃度の低いダイヤモンドを使って素子を作製することで、これらの発光を抑え、深紫外発光の効率を高めることも可能である(第二の実施例参照)。
逆に、窒素に由来する欠陥(例えば窒素−空孔欠陥)からの発光を、本発明の発光整流素子の構造を使って積極的に制御することも可能である。窒素-空孔欠陥からの発光は、量子情報処理などの応用が考えられる単一光子源として利用可能である[非特許文献3参照]。
【0039】
以下、本発明の第二の実施例について説明する。
第一の実施例で使用したダイヤモンドに比べてより窒素およびボロン濃度の低い以下に示すダイヤモンドを使って、発光整流素子を作製した。使用したダイヤモンドは、IIa型単結晶ダイヤモンド(エレメントシックス社 CVDダイヤモンド エレクトロニックグレード 面方位(100)2.0×2.0×0.5mm; 窒素濃度5ppb以下、ボロン濃度1ppb以下)である。作製方法は、第一の実施例のレーザーリソグラフィーを電子線リソグラフィーに代えたこと以外は、第一の実施例と同様である。電子線リソグラフィーは以下のように行った。ダイヤモンド表面にレジストPMGI−SF6sをスピンコートし180℃で5分ベークする。その後、レジストgl2000−8をスピンコートし180℃で5分ベークする。その後、帯電防止用のエスペイサー300Zをスピンコートし、110℃で1分ベークする。電子ビーム描画装置(エリオニクス社ELS−F125)によって、電極パターン等を描画する。蒸留水に1分浸しエスペイサーを除去したのち、キシレンで60秒現像し、蒸留水で30秒洗浄の後、窒素ガスでブローする。その後、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)2.38%に30秒浸しPMGI−SF6sをエッチングし、蒸留水で30秒洗浄の後、窒素ガスでブローする。
【0040】
作製した発光整流素子の室温における電流電圧特性を図7に示す。図5と同様に電圧は、水素終端側電極に正、酸素終端側電極に負の電圧をかけた場合、正とした。負の電圧印加の場合には、電流はおよそ3×10−13A以下である。一方、正の電圧印加によって電流が増加し、10Vにおいて7×10−4Aである。すなわち±10Vにおいて9桁以上の整流比をもつ。
正の電圧印加時に観測された220−700nmの波長範囲の発光スペクトルを図8に示す。深紫外領域の235nmの自由励起子再結合による発光ピークが見られる。第一の実施例に比べて、可視域の発光が小さい。これは、第一の実施例に比べてより低い不純物濃度のダイヤモンドを使用したことによる。
【0041】
なお、上記の本発明の実施の形態においては、水素終端と酸素終端の組合せを例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば酸素終端の代わりに、酸素以上に電気陰性度の大きなフッ素を使ったフッ素終端を用いても良い。
【0042】
また、水素終端および酸素終端の領域の形状には大きな自由度がある。円形状の素子にすることも、また櫛形にすることも可能である。さらに、水素終端および酸素終端の形状により、微小な領域に発光を制限することもできる。これにより、量子情報処理への応用が可能なダイヤモンド中の単一の窒素−空孔欠陥からの発光を電流注入によって行うことも原理的には可能である。また、櫛形構造において、水素終端と酸素終端の領域の周期を微細化することにより、発光面密度を高めることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のダイヤモンド発光素子は、高密度光記録や微細加工、殺菌、環境汚染物質の分解、情報処理などに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 水素終端の領域
2 酸素終端の領域
3 水素終端側電極
4 酸素終端側電極
5 単結晶ダイヤモンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8