【実施例】
【0050】
<iPS細胞の作製>
[iPS細胞の作製]
下記の方法でiPS細胞を作製した。
1. POIETICS(登録商標)CORD BLOOD CD34+ Cells (Cat. No. 2C-101A)、POIETICS(登録商標) Mobilized CD34+ Cells (Cat. No. 2G-101B) を解凍する.
2. CytoTune(登録商標)-iPS 2.0 Sendai Reprogramming Kitを用い、キットに付属のプロトコールに従い、iPS細胞を作製する.
【0051】
[iPS細胞の確認]
下記を行い、iPS細胞が得られたことを確認した。
【0052】
免疫染色:
1. 253G1(理研より入手)及びCiPSをCytoSpin(登録商標)でスライドガラスに貼り付ける(800rpm, 5min)
2. 4%パラフォルムアルデヒド(ナカライテスク)で固定(15min, 室温)
3. PBSで3回洗浄
4. ブロッキング(0.3% TritonX-100, 1% BSA, 10% AB serum 又はBlockingOne-Histo(ナカライテスク))10〜20min, 室温
5. 0.1% Tween PBS処理 5min, 室温
6. R&D, Human Pluripotent stem cell 3 color Immunocytochemistry kit 各10倍希釈、3hr, 室温又はo/n, 4℃
7. PBSで洗浄
8. VECTA SHIELD(登録商標)Hard Set with DAPIで封入
9. オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察
【0053】
フローサイトメトリー:
1. 253G1(理研より)及びCiPSをAccutase処理37℃, 5minで剥離させ、回収
2. SSEA-4 FITC, SSEA-3 PE, TRA-1-81 PE(各終濃度1μg/ml)抗体で染色(4℃, 30min)
3. FACSCaliburで測定
4. CellQuest或いはFlowJoで解析
【0054】
形態観察:
後述の培養法において、定期的にオールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察
【0055】
SeVベクター(CytoTune#iPS2.0)の脱落確認:
1. 12-well plateでiPS細胞を培養
2. PBSで洗浄
3. 10% 中性ホルマリン 1ml/wellで固定(5min, 室温)
4. PBSで洗浄
5. Anti-Sev抗体(0.1% TritonX-100/PBSで1/500希釈)500μl添加
6. 37℃, 1h反応
7. PBSで洗浄
8. Dyelight550標識anti-rabbit IgG抗体(0.1% TritonX-100/PBSで1/500希釈)500μl添加
9. 37℃, 1h反応
10. PBSで洗浄
11. オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察
【0056】
結果:
免疫染色及びフローサイトメトリーの結果を
図1に、定期的に細胞の形態を観察した結果を
図2に、CiPS細胞からのrSeVベクターの脱落を確認した結果を
図3に示した。CiPS細胞は、作製から拡大培養の全工程において、フィーダーレスであった。また、感染からおよそ3か月の継代で、sReVが脱落したCiPSを取得できた。
【0057】
<CiPS-Hepを誘導するためのiPS細胞の準備>
下記の方法で、iPS由来高機能肝細胞(CiPS-Hep)を誘導するためのiPS細胞を準備した。なお、iPS細胞コロニー観察等、上記の作製されたiPS細胞の確認においては、本項に示した方法を実施した。
【0058】
[ラミニンコートディッシュ作製]
1. Laminin-5
1) (−80℃)を4℃で融解しておく.手で温めないように注意.
2. 6ウェルプレート
2)にPBS
3)を1ml/well入れ、全体に行き渡らせる.
3. PBSの入った6ウェルプレートと200μlチップを4℃で冷やしておく.
4. 融解したLaminin-5をPBSの入ったウェルに回し入れ、素早く10回程度ゆらし、全体に行き渡らせる.Laminin-5は吸着性が非常に強いため、ピペッティングは絶対にしない.
5. 4℃で一晩、又は37℃で2時間以上インキュベートしてコーティングする.37℃で放置しないこと.
6. すぐに使用しない場合はパラフィルムで2重にシールし、4℃で保存できる.(1週間)
【0059】
[凍結細胞の解凍と培養]
1. P2の遠心分離機を20℃に設定する.
2. 各種阻害剤(以下の工程9で使用の4種)を−30℃のフリーザーから出しておく.
3. 培養メディウムを調製する(以下ReproFF2と記載).
【0060】
【表1】
【0061】
4. ReproFF2を15mlチューブ
7)に,9ml及び4mlずつ分注し,37℃で温める.
5. ラミニンコートディッシュをPBS(-)で2回すすぎ,1mlのPBS(-)をウェルにいれておく.
6. 凍結細胞を液体窒素から取り出し、37℃のウォーターバスに2minつけて溶解する.凍結細胞の容量が少ない場合は,温めた培地を適量加え、優しくピペッティングすることにより素早く解凍させる.
7. 解凍した細胞を回収し培養メディウム9mlを入れた15mlチューブに移し、優しく転倒混和し混ぜる.
8. 遠心分離 条件:160g, 5min, R.T. アクセル有,ブレーキ有
9. 遠心中に培養メディウム+各種阻害剤を4ml調製する.
【0062】
【表2】
【0063】
10. 遠心後の15mlチューブを回収し、上清を慎重に除去する.
11. 阻害剤培養メディウムを1ml加え細胞ペレットをピペッティングにより優しくほぐす.
12. ラミニンコートディッシュのPBS(-)を除去し、細胞懸濁培養液をウェルに移す.残りの阻害剤培養メディウムで15mlチューブを洗い、ウェルへ移す.
13. ディッシュを揺らし、細胞を均一に広げ、37℃,5%CO
2でインキュベートする.
14. 翌日,優しくウェル中の培地を混ぜた後、上清を除去する.
15. 再び培養メディウム+各種阻害剤4mlを加え37℃,5%CO
2で培養する.
【0064】
[培地交換]
1. 培養上清を除去する
2. 新鮮な培養メディウムReproFF2を4ml/wellで加える.
3. 上記の操作を2〜3日おき(月,水,金)に行う.
【0065】
[細胞の継代]
1. ラミニンコートディッシュを作製する.
2. 培養上清を除去する.
3. PBS(-) 1mlを加え細胞表面を洗浄する.
4. PBS(-)を除去し、ESGRO Complete Accutase
12)を1ml/wellで加え、37℃,5%CO
2,5minインキュベートする.
5. ウェル中の剥がれきれていない細胞をピペッティングによりはがし、細胞溶液を15mlチューブへ回収する.
6. ウェルにReproFF2を1ml加え、ウェル内を洗浄し15mlチューブへ溶液を回収し、さらに15mlチューブへReproFF2をもう1ml加え、Total volumeを3mlにする.
7. 調整した細胞懸濁液をよく混和後、トリパンブルー染色液
13)で2倍希釈しセルカウントを行う.
8. 継代するウェル数に応じて5x10
5cells/wellになるように細胞懸濁液を新たな15mlチューブへ分注する.必要に応じて残りの細胞は凍結保存する.
9. 遠心分離する.条件:160g, 5min, R.T. アクセル有,ブレーキ有
10. 遠心中に培養メディウム+阻害剤を4ml/wellになるように調整する.
【0066】
【表3】
【0067】
11. 遠心後上清を除去し、培養メディウム+阻害剤を用いて細胞ペレットをピペッティングによりほぐし,各ラミニンコーティングウェルに播種する.
12. 培養プレートに日付、iPS細胞の名前、継代数を記載し37℃,5%CO
2で培養する.
月→金→水→月の間隔で継代を続ける.
【0068】
[細胞の凍結保存]
1. 細胞継代時と同様に細胞をはがし、カウントする.
2. 細胞懸濁液を遠心分離する.条件:160g, 5min, R.T. アクセル有、ブレーキ有
3. 凍結に用いるセラムチューブ
14)に日付、細胞名、継代数をラベルする.
4. 遠心後、上清をしっかり除き、1x10
6 cells/500μlになるようにSTEM-CELLBANKER
15)に細胞を懸濁させる.
5. 細胞懸濁液をラベリングしたセラムチューブに500μl/本ずつ分注していく.
6. 分注後、セラムチューブを-80℃のディープフリーザーに入れる.
7. 1〜3日後以内に凍結した細胞を-80℃から液体窒素細胞保存システムへ移動させ保管する.
【0069】
<CiPS-Hepの誘導>
下記の方法で、CiPS細胞から高機能肝細胞(CiPS-Hep)を分化誘導した。
【0070】
[Day1:iPS由来高機能肝細胞分化誘導step1;iPS由来高機能肝細胞分化誘導メディウムI(以下メディウムI)へメディウムチェンジ]
1. メディウムIを必要量(4ml/well)調製する.
【0071】
【表4】
【0072】
2. 上清を除去し、無血清RPMI1640を1ml加え細胞表面を洗浄する.
3. メディウムIを4ml/wellになるように加える.
4. Day6まで毎日上清を除去し、新鮮なメディウムIを加える作業を行う.
【0073】
[Day7:iPS由来高機能肝細胞分化誘導step2;iPS由来高機能肝細胞分化誘導メディウムII(以下メディウムII)へメディウムチェンジ]
1. メディウムIIを必要量(4ml/well)調製する.
【0074】
【表5】
【0075】
2. 優しく培養上清をピペッティングした後,上清を除去し、メディウムIIを4ml/wellになるように加える.
3. Day9まで毎日上清を除去し、新鮮なメディウムIIを加える作業を行う.
【0076】
[Day10:iPS由来高機能肝細胞分化誘導step3]
1. 培養プレートのマトリゲルコーティング
1.1. BD matrigel growth factor reduced
20) 300μlを4℃で解凍する.
1.2. 24 well-plate dish
21)、KnockOut-DMEM
22)を4℃で冷やしておく.
1.3. マトリゲルが融解されたら、KnockOut-DMEMを等量加え、ピペッティングによりよく混和する.
1.4. マトリゲル希釈液を24 well-plate dishへ1wellあたり200μlずつ入れwell全体に行き渡らせる.
1.5. 24 well-plate dishを常温で3時間以上静置しコーティングする.
【0077】
2. iPS細胞由来高機能肝細胞の継代
2.1. iPS由来高機能肝細胞分化誘導メディウムIII(以下メディウムIII)を1ml/wellになるように調製する.
【0078】
【表6】
【0079】
2.2. 培養上清を除去し、PBS(-)1mlで細胞表面を洗浄する.
2.3. ESGRO Complete Accutaseを1ml加え、37℃で5minインキュベートする.
2.4. 念入りにピペッティングして細胞をはがし、細胞溶液を15mlチューブへ回収する.
2.5. HCM 1mlでウェル内を洗浄し15mlチューブへ溶液を回収し、さらに15mlチューブへHCMをもう1ml加え、Total volumeを3mlにする.
2.6. 細胞懸濁液をよく混和し、トリパンブルー2倍希釈でセルカウントする.
2.7. 継代するウェル数に応じて1.0x10
6cells/wellになるように新たな15mlチューブへ必要量を分注する.
2.8. 160g, 5min, R.T.で遠心分離する.
2.9. 遠心中にマトリゲルコーティングウェルにPBS(-)を1ml加え、洗浄し上清を除去する.この洗浄作業を2回繰り返し、ウェルにPBS(-)を1ml加える.
2.10.遠心後上清を除去し、Adhesion cultivationを行う場合にはマトリゲルコーティングウェルの上清も除去後、メディウムIIIを用いて細胞ペレットをピペッティングによりほぐし,マトリゲルコーティングウェルに播種する.
Floating cultivateonを行う場合には、メディウムIIIを用いて細胞ペレットをピペッティングによりほぐし、MPC treatment plate(MD6 with Lid Low-Cell Binding; Nalge Nunc International, Japan)に播種する.
HUVEC及びMSCをフィーダー細胞として用いる場合には、Adhesion cultivationとして適宜共培養を行う(後掲非特許文献1参照).
2.11.培養プレートに日付、細胞の名前等記載し、37℃,5%CO
2インキュベータ内で培養する.
2.12.Day17まで隔日で上清を除去し、新鮮なメディウムIIIを加える作業を行う.
【0080】
[Day17:
CiPS-Hep完成 → アンモニア代謝テスト]
1. HBM(カクテル−)+ アンモニア水(以下アンモニア培地)を1ml/well×2になるように調製する.
【0081】
【表7】
【0082】
2. 培養上清を除去し、HBM 1mlで1回,アンモニアHBMで1回、細胞表面を洗浄する.
3. 上清を除去し、アンモニア培地を1ml/wellで加える.
4. 空きのウェルにアンモニア培地及びHBMを1mlずつ入れ、ポジコン及びネガコンとする.
5. 37℃,5%CO
2で24hr培養する.
【0083】
[Day18:アンモニア代謝テストサンプル回収]
1. 上清をエッペンチューブに回収し、500g,5min遠心分離する.
2. 上清を新しいエッペンチューブ3本に300μlずつ回収し、−80℃で凍結する.
3. ウェルをPBSで洗浄し、トリプシンEDTA
30) 1mlを加え、37℃で5minインキュベートする.
4. 念入りにピペッティングして細胞をはがし、細胞溶液をFACSチューブ
31)に通す.
5. HBM 1mlで洗浄し、Total volumeを2mlにする.
6. トリパンブルーでカウントする.
【0084】
<iPS−HEP細胞の確認>
下記を行い、iPS細胞が得られたことを確認した。
【0085】
アンモニアテストワコー32):
1. 上清を溶解させる.
2. 遠心 8000rpm 5min 4℃
3. アンモニア希釈液を作製する.キット内の標準液及び標準希釈液は使用しない.HBM(無添加)960μlにアンモニウムイオン標準液 (1000mg/L) 40μlを添加し、ボルテックスし,標準液とする.
【0086】
【表8】
【0087】
4. サンプルの上清及びアンモニア希釈液それぞれ200μlを新しいエッペンに移す
5. 800μlの除タンパク液を加え、ボルテックスする.
6. 遠心 8000rpm 5min 4℃
7. 遠心中にマイクロプレートリーダー及びパソコンの電源を入れ、Tecan i-controlを選択しておく.
8. 上清を60μlずつ96well 平底プレートへ分注していく.Duplicate
9. 発色試液Aを60μlずつ各ウェルに加えていく.
10. 蓋を外してマイクロプレートリーダーにセットし、プレートを撹拌する.(Shakingをダブルクリック,10sec,Normalにセットし、Statをクリック)
11. 発色試液Bを30μlずつ各ウェルに加えていく.
12. マイクロプレートリーダーにセットし、プレートを撹拌する.
13. 発色試液Cを60μlずつ各ウェルに加えていく.なるべく速く.
14. マイクロプレートリーダーにセットし、プレートを撹拌する.
15. 37℃,CO
2 5%インキュベータで20minインキュベートする.
16. 4℃で10min以上冷やし反応を止める.
17. プレートの底面をきれいに拭き,左上を合わせて、マイクロプレートリーダーにセットする.
18. 吸光度(620 or 630nm)を測定する.(MeasureのAbsorbanceをダブルクリック.620nm.Detailsで測定するwellを選択.Startをクリック)
【0088】
RT-PCR:
1. ISOGEN II(ニッポンジーン)を用い、付属のプロトコールに従い、RNA抽出
2. ナノドロップ(登録商標)でRNA濃度測定
3. PrimeScript High Fidelity RT-PCR kitでcDNAを合成
4. Veriti 96-well Thermal Cycler(Applied Biosystems)でPCR実施
5. プライマーセットは以下の通り
【0089】
【表9】
【0090】
7. RT-PCR産物を1% アガロースゲルで電気泳動
8. Gel Redで染色し、観察
【0091】
結果:
得られたiPS-HEP細胞の写真を、
図4に示した。得られた細胞は、特徴的な網状構造体を構成するものであった。空隙の直径は約300〜1000μmであり、網部分の幅は約20〜200μmであった。細胞1〜3個分の厚み約10〜60μmを有していた。
【0092】
得られたアンモニア代謝テスト及びRT-PCRの結果を
図5〜9に示した。iPS-HEP細胞は、培養条件によっては、初代肝細胞の代謝能(160〜200μg/dl/24h)と同程度のアンモニア代謝機能を有することが分かった。また、フィーダー細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells, HUVECs))、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells, MSCs))を用いるよりも化合物(FH1、FPH1)を用いたほうが、アンモニア代謝機能の増強効果が高かった。
【0093】
<実施例で用いた資材の一覧>
【0094】
【表10】
【0095】
<実施例で引用した文献>
非特許文献1:T. Takebe et al. Vascularized and functional human liver from an iPSC-derived organ bud transplant. Nature 499, 481-484 (2013), doi:10.1038/nature12271, Published online 03 July 2013