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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-153387(P2017-153387A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】高機能肝細胞及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20170810BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20170810BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   C12N5/10ZNA
   C12N5/071
   C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-37518(P2016-37518)
(22)【出願日】2016年2月29日
(71)【出願人】
【識別番号】596029111
【氏名又は名称】米満 吉和
(71)【出願人】
【識別番号】516061713
【氏名又は名称】株式会社ガイアバイオメディシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】米満 吉和
(72)【発明者】
【氏名】原田 結
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 智
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB07
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB32
4B065BC50
4B065CA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ハイブリット型人工肝臓に用いるアンモニア代謝機能が高く、理論的に無限増殖可能な高機能肝細胞を、iPS細胞から得る方法の提供。
【解決手段】以下の工程含む人工肝細胞の製造方法。(1)iPS細胞をActivin Aを含む分化誘導メディウムIで培養する工程(2)骨形成タンパク質4及び線維芽細胞増殖因子2を含む分化誘導メディウムIIで培養する工程(3)肝細胞成長因子(HGF)、オンコスタチンM、ジキサメタソン、並びにN,N’−(メチレンビス(4,1−フェニレン))ジアセトアミド及び/又は2−(N−(5−クロロ−2−メチルフェニル)(メチルスルフォンアミド)−N(2,6−ジフルオロフェニル)−アセトアミドを含む分化誘導メティウムIIIで培養する工程。
【効果】得られた肝細胞は100μg/dl/24h以上のアンモニア代謝能を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100μg/dl/24h以上のアンモニア代謝機能を有し、かつ網状構造体を構成可能な、人工肝細胞。
【請求項2】
無血清かつ無フィーダー環境下で培養できる、請求項1に記載の人工肝細胞。
【請求項3】
人工多能性幹(iPS)細胞から誘導されたものである、請求項1又は2に記載の人工肝細胞。
【請求項4】
iPS細胞が、センダイウイルスベクターを用いて製造されたものである、請求項3に記載の人工肝細胞。
【請求項5】
以下の工程含む、人工肝細胞の製造方法:
iPS細胞を、Activin Aを含む分化誘導メディウムIで培養する、分化誘導工程1;
分化誘導工程1から得た細胞を、骨形成タンパク質4(BMP4)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む分化誘導メディウムIIで培養する、分化誘導工程2;及び
分化誘導工程2から得た細胞を、肝細胞成長因子(HGF)、Oncostatin M、Dexamethasone、並びにN,N'-(Methylenebis(4,1-phenylene))diacetamide(FH1)及び/又は2-(N-(5-Chloro-2-methylphenyl)(methylsulfonamido)-N-(2,6-difluorophenyl)-acetamide(FPH1)を含む分化誘導メティウムIIIで培養して人工肝細胞を得る、分化誘導工程3。
【請求項6】
iPS細胞が、センダイウイルスベクターを用いて製造されたものである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
分化誘導メティウムIII が、FH1及びFPH1を含む、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
分化誘導工程1〜3が、無血清かつ無フィーダー環境下で実施される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の人工肝細胞。
【請求項9】
分化誘導工程1及び分化誘導工程2が合計2〜14日間行われ、
分化誘導工程3が2〜14日間行われる、請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の人工肝細胞、又は請求項5〜9のいずれか1項に記載の製造方法により得られた人工肝細胞を含む、ハイブリッド人工肝臓。
【請求項11】
人工肝細胞が少なくとも109個使用されている、請求項10に記載のハイブリッド人工肝臓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、iPS細胞から誘導された高機能肝細胞、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性期の管理を含む医療技術が向上してきた現在もなお、日本において肝不全による死亡者は後を絶たない。中でも劇症肝炎は死亡率が70〜90%と非常に高く、予後不良の疾患である。肝不全治療においては、肝移植術がもっとも治療効果が高いが、ドナー不足や急性肝不全の劇的な経過のために肝移植術を施行できない症例が多い。
【0003】
一方、ハイブリッド型人工肝臓(Hybrid-artificial livers support system; HALSS)が肝移植術までの、又は自己肝の再生までの期間、肝臓の機能を補助するために用いられるものとして期待されている。ハイブリット型人工肝臓に用いられる肝細胞として、初代培養ブタ肝細胞が成長良好である点で好ましいが、内因性レトロウイルスの再活性化が完全には否定できないという懸念がある。また、脳死ドナーの肝臓から抽出される肝細胞は得られる量に限りがある。したがって、in vitroで増殖可能なヒト肝細胞が必要である。
【0004】
肝細胞を多能性肝細胞から分化誘導する方法がいくつか知られている。例えば、特許文献1は、胚性幹細胞を欠失型肝細胞増殖因子/bFGF/DMSO/デキサメタゾンの存在下で培養することを特徴とする、胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法を開示する。この特許文献はまた、スキャフォールド上で細胞を三次元培養することでより生体内環境に近い条件を作ることができ細胞機能が向上することが知られていることから、胚様体形成後にES細胞をリアクターに充填し、dHGFにて三次元での分化誘導を行なうことを提案し、それにより平面培養するより、肝細胞に特異的な高度な機能であるアンモニア代謝能などが大幅に増強されると述べている。特許文献2は、胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程とを含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法を開示する。特許文献2はまた、得られる細胞は形態学的にも組織学的にも正常肝細胞・臓器の特徴、具体的には、2核の形態を有すること、アルブミン染色に陽性であること、アンモニア分解能を有すること、タンパク質(アルブミン)産生能を有すること、テストステロンの水酸化活性を有することなどの特徴を有することを述べている。特許文献3は、肝臓への分化を誘導するための方法を開示する。この方法は、以下のステップを含む:(i)人工多能性幹(iPS)細胞の集団を提供するステップ;(ii)前記集団を内胚葉誘導培地中で培養し、前方胚体(anteriordefinitive)内胚葉(ADE)細胞の集団を生成するステップ(ここで、前記内胚葉誘導培地は、以下の性質を持つ所定の化学培地である:線維芽細胞成長因子活性を有し、SMAD2及びSMAD3を介したシグナリング経路、並びにSMAD1、SMAD5及びSMAD9を介したシグナリング経路を刺激し、並びにホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)及びグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ3β(GSK3β)を阻害する);並びに(iii)ADE細胞の前記集団を肝臓性誘導培地中で培養し、肝臓性前駆細胞の集団を生成するステップ(ここで、前記肝臓性誘導培地は、SMAD2及びSMAD3を介したシグナリング経路を刺激する所定の化学培地である)。さらに特許文献4は、多能性幹細胞を用いて高機能肝細胞を製造する方法であって、工程(A)、(B)を含む方法により、多能性幹細胞から多能性幹細胞由来原始内胚葉を得て、工程(C)を含む方法により、多能性幹細胞由来原始内胚葉から肝前駆細胞を得て、工程(D)を含む方法により、肝前駆細胞から高機能肝細胞を得ることを特徴とする多能性幹細胞由来高機能肝細胞の製造方法。(A)無血清かつ無フィーダー環境下で培養する工程(B)アルブミンと少なくとも一種のサイトカインの存在下で培養する工程(C)SHH又はSHHアゴニストと、少なくとも一種のサイトカインとの存在下で培養する工程(D)少なくとも一種のサイトカインの存在下で培養して成熟させる工程を開示する。
【0005】
また特許文献4は、好ましい態様においては、多能性幹細胞にES細胞又はiPS細胞を用い、さらに好ましくは、iPS細胞にセンダイウイルスベクターにより樹立されたiPS細胞を用いることを述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2006/082890(特許第4892740号)
【特許文献2】特開2007−14273号公報
【特許文献3】国際公開WO2012/025725(特表2013−535980号公報)
【特許文献4】国際公開WO2012−105505
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイブリッド型人工肝臓は、肝移植までの、又は自己感の再生までの懸け橋となることが期待されるものであるが、1つの人工肝臓モジュールあたり、約1×1010〜1011個の肝細胞が必要である。これまで検討されてきた人工肝細胞は、いずれも、アンモニア代謝機能等の重要な機能において明らかでないか、又は十分とは言い難かった。本発明者らは、理論的に無限増殖可能な高機能肝細胞を、ヒトiPS細胞から得ることについて鋭意検討した。その結果、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1]100μg/dl/24h以上のアンモニア代謝機能を有し、かつ網状構造体を構成可能な、人工肝細胞。
[2]無血清かつ無フィーダー環境下で培養できる、1に記載の人工肝細胞。
[3]人工多能性幹(iPS)細胞から誘導されたものである、1又は2に記載の人工肝細胞。
[4]iPS細胞が、センダイウイルスベクターを用いて製造されたものである、3に記載の人工肝細胞。
[5]以下の工程含む、人工肝細胞の製造方法:
iPS細胞を、Activin Aを含む分化誘導メディウムIで培養する、分化誘導工程1;
分化誘導工程1から得た細胞を、骨形成タンパク質4(BMP4)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む分化誘導メディウムIIで培養する、分化誘導工程2;及び
分化誘導工程2から得た細胞を、肝細胞成長因子(HGF)、Oncostatin M、Dexamethasone、並びにN,N'-(Methylenebis(4,1-phenylene))diacetamide(FH1)及び/又は2-(N-(5-Chloro-2-methylphenyl)(methylsulfonamido)-N-(2,6-difluorophenyl)-acetamide(FPH1)を含む分化誘導メティウムIIIで培養して人工肝細胞を得る、分化誘導工程3。
[6]iPS細胞が、センダイウイルスベクターを用いて製造されたものである、5に記載の製造方法。
[7]分化誘導メティウムIII が、FH1及びFPH1を含む、5又は6に記載の製造方法。
[8]分化誘導工程1〜3が、無血清かつ無フィーダー環境下で実施される、5〜7のいずれか1項に記載の人工肝細胞。
[9]分化誘導工程1及び分化誘導工程2が合計2〜14日間行われ、
分化誘導工程3が2〜14日間行われる、5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
[10]1〜4のいずれか1項に記載の人工肝細胞、又は5〜9のいずれか1項に記載の製造方法により得られた人工肝細胞を含む、ハイブリッド人工肝臓。
[11]人工肝細胞が少なくとも109個使用されている、10に記載のハイブリッド人工肝臓。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、iPS細胞から、高機能肝細胞を分化誘導することができる。また、該誘導方法により製造された人工肝組織、それを用いたハイブリッド型人工肝臓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】Cord blood CD34陽性細胞由来iPS細胞(CiPS)
図2】Cord blood CD34陽性細胞由来iPS細胞(CiPS)
図3】CiPSからのrSeVベクター脱落確認
図4】最適化されたiPS細胞から誘導された、高機能肝細胞
図5】アンモニア代謝量の確認。フィーダー細胞(HUVECs, MSCs)を用いるより、化合物(FH1、FPH1)を用いた方が、代謝機能増強効果が高いことが分かった。
図6】アンモニア代謝量の確認。得られたiPS-HEP細胞は、培養条件によっては、初代肝細胞の代謝能(160〜200μg/dl/24h)と同程度のアンモニア代謝機能を保持することが分かった。
図7】肝細胞マーカーの確認(RT-PCR)
図8】肝細胞マーカーの確認(RT-PCR)
図9】肝細胞マーカーの確認(RT-PCR)
【発明を実施するための形態】
【0011】
数値範囲「X〜Y」は、特に記載した場合を除き、両端の数値X及びYを含む。「A及び/又はB」は、特に記載した場合を除き、A及びBのうちのすくなくとも一方の意である。
【0012】
<人口肝細胞>
本発明は、高いアンモニア代謝機能を有し、かつ網状構造体を構成可能な、人工肝細胞を提供する。
【0013】
[網状構造体]
細胞の特徴に関し、「網状構造体を構成可能である」とは、対象となる細胞を適切な条件で培養した場合に、所定の網状構造体が構成されることをいう。網状構造体は、細胞を適切な密度で、必要に応じ細胞外マトリクス(ECM)、例えばmatrigel(登録商標)、ヒアルロン酸、ヘパリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、又は他のECMでコートした培養器に播種し、適切な培地を用いて数日間培養することにより、構成される。網状構造体は、少なくとも細胞1個分の幅〜1000μm(より特定すると数個分の幅〜500μm、さらに特定すると20〜250μm)の紐状の部分と、円形、楕円形等の空隙の部分とを含む。空隙の直径は典型的には、100〜2000μmであり、より特定すると200〜1000μmであり、さらに特定すると300〜1000μmである。網状構造体はまた、細胞1〜3個分の、厚み10〜60μmを有しうる。
【0014】
[アンモニア代謝能]
本発明でアンモニア代謝機能をいうときは、特に記載した場合を除き、対象となる細胞を適切な条件で培養した場合のアンモニア代謝機能をいう。アンモニア代謝機能の測定方法は、当業者にはよく知られているが、フィーダー細胞(HUVECs、MSCs等)を用いず、後述する化合物(FH1)を用いて、必要に応じEMCでコート下培養器を用い、付着培養することが好ましい。より詳細な条件は、本発明の実施例の項に記載の方法を参照することができる。
【0015】
本発明により得られる人工肝細胞は、高いアンモニア代謝機能を有する。具体的には、本発明の人工肝細胞は100μg/dl/24h以上、好ましくは120μg/dl/24h以上、より好ましくは初代肝細胞の代謝能(160〜200μg/dl/24h)と同程度、すなわち160μg/dl/24h、さらに好ましくは180μg/dl/24hのアンモニア代謝機能を有しうる。
【0016】
[培養上の特徴]
無血清及び/又は無フィーダー環境下での培養:
【0017】
本発明の人工肝細胞を培養するための培地としては、肝細胞を培養するために開発された種々の既存の培地が利用できる。利用可能な培地の例として、後述する分化誘導メディウムIII若しくはHCMTM BulletKitTM Medium (Lonza Walkersville, Inc)又はHBMTM Basal Medium (Lonza Walkersville, Inc)が挙げられる。
【0018】
本発明の人工肝細胞は、無血清及び/又は無フィーダー環境下で、好ましくは無血清かつ無フィーダー環境下で培養することができる。無血清かつ無フィーダー環境下で培養するとは、動物血清及びヒト血清を含まない培地を用いて、目的の人工肝細胞以外の細胞、例えばマウス胎児線維芽細胞やフィーダー細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells, HUVECs) 、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells, MSCs)が共存しない環境下で培養することである。
【0019】
EMCコート:
本発明の人工肝細胞の培養に際しては、各種の既存の培養器を利用できる。培養器素材は、当業者であれば適宜選択できるが、増殖が良好であり、かつ高い機能を維持するとの観点からは、EMCをコートした培養器を用いることが好ましい。好ましいECMの例は、matrigel(登録商標)、ヒアルロン酸、ヘパリン、フィブロネクチン、ラミニン、及びビトロネクチン、プロテオグリカン(コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン)、各種コラーゲン、ゼラチン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、及びフィブリリン等である。
【0020】
維持・継代:
本発明の人工肝細胞は、後述する分化誘導メディウムIIIを用い、10日程度の継続培養が可能であることが確認されている。適切な密度で播種することにより、継代し、増殖させることができると考えられる。適切な密度とは、例えば人工肝細胞が互いに丁度接する密度である。これよりも低密度の場合は、増殖が悪く、またこれよりも高密度の場合は、三次元的構築を示す領域から顕著な細胞死が誘導されうる。
【0021】
<人工肝細胞の製造方法>
本発明の人工肝細胞は、以下の工程含む方法により製造することができる:
iPS細胞を、Activin Aを含む分化誘導メディウムIで培養する、分化誘導工程1;
分化誘導工程1から得た細胞を、骨形成タンパク質4(BMP4)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む分化誘導メディウムIIで培養する、分化誘導工程2;及び
分化誘導工程2から得た細胞を、肝細胞成長因子(HGF)、Oncostatin M、Dexamethasone及びN-phenyl-2-(N-phenylmethylsulfonamido) acetamide骨格を有する化合物を含む分化誘導メティウムIIIで培養して人工肝細胞を得る、分化誘導工程3。
【0022】
分化誘導工程1:
分化誘導工程1では、iPS細胞を、少なくともActivin Aを含む分化誘導メディウムIで培養する。
【0023】
iPS細胞:
本発明においては、出発細胞として、ヒト又は非ヒト動物由来のiPS細胞を用いる。iPS細胞の入手方法及び樹立方法は公知当業者にはよく知られている。ヒトiPS細胞は、理化学研究所バイオリソースセンターからの購入や、京都大学や国立成育医療研究センターからの分与が可能である。入手可能であり、かつ本発明に用いることができるiPS細胞の例は、例えば、臍帯由来線維芽細胞(RCB0436 HUC-F2)にレトロウイルスベクターにより4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を導入することにより樹立された、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞株HiPS-RIKEN-1A(理化学研究所、HPS0003)、臍帯由来線維芽細胞(RCB0197 HUC-Fm)にレトロウイルスベクターにより4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を導入することにより樹立されたヒトiPS細胞株HiPS-RIKEN-2A(理化学研究所、HPS0009)、臍帯由来線維芽細胞にレトロウイルスベクターにより3因子(Oct3/4, Sox2, Klf4)を導入することにより得られるヒトiPS細胞株HiPS-RIKEN-12A(理化学研究所、HPS0029)、センダイウイルスベクターを用いて4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を導入することにより樹立されたヒトiPS細胞株Nips-B2(理化学研究所、HPS0223)等である。
【0024】
センダイウイルスベクターの使用:
iPS細胞を樹立する際、因子を導入するためのベクターとして、センダイウイルスベクターを用いることが好ましい。レトロウイルスベクターは細胞の核に入り込んでDNAとして遺伝子発現を行うものであるため、得られたiPS細胞を患者に用いた際に、極めて稀ではあるが、ベクターが患者の染色体に積極的に入り込んだり、あるいは染色体DNAと遺伝的組換えを起こす恐れが懸念されている。一方、センダイウイルスベクターは、細胞核の中に入らず、細胞質内で自らのゲノムを複製して大量のタンパク質を作り出すものである。このゲノムはRNAからできており、患者の染色体のDNAとは物質的に異なるため、センダイウイルスベクターが核内の患者の染色体を改変するリスクは原理上ないと考えられている。
【0025】
iPS細胞をセンダイウイルス(SeV)ベクターを用いて樹立する方法は、当業者にはよく知られており、例えば市販のヒト線維芽細胞等を、リプログラム因子発現ユニットを搭載したセンダイウイルスベクターが添加された培地で培養することで樹立される。リプログラム因子発現ユニットを搭載したセンダイウイルスベクターとしては、例えばCytoTune-iPS(ディナベック株式会社製)等が挙げられる。
【0026】
分化誘導メディウムI:
この工程で用いられる分化誘導メディウムIは、Wnt3AやActivinA等のサイトカインを含む。少なくともActivinAを含むことが好ましい。サイトカインの量は、例えば、Wnt3Aは10〜50ng/mL程度、好ましくは25ng/ml程度、ActivinAは10〜100ng/ml程度、好ましくは100ng/ml程度である。
【0027】
分化誘導メディウムIは、無血清であり、例えばRPMI1640等の基本的な組成に、上述のサイトカインと血清代替品を添加して用いることができる。血清代替品としては、B27(登録商標)(Life Technologies社製)、KnockOut(登録商標)Serum Replacement(Life Technologies社製)等が挙げられる。分化誘導メディウムIの具体的な構成例は、本願明細書の実施例の項に記載された組成のものである。B27 の組成は、G.J. Brewer et al. Optimized Survival of Hippocampal Neurons in B27-Supplemented NeurobasalTM, a New Serum-free Medium Combination. Journal of Neuroscience Research 35567476 (1993)を参照することができる。
【0028】
本工程は、iPS細胞を、分化誘導メディウムIを用いて、37℃、5% CO2インキュベータにて数日間培養することにより行われる。分化誘導工程1の培養期間は、具体的には4〜10日間であり、好ましくは6〜8日間であり、より好ましくは7日間である。分化誘導工程1は、形態的には内胚葉細胞の特徴を有すようになるまで行うことができる。
【0029】
分化誘導工程2:
分化誘導工程2では、分化誘導工程1から得た細胞を、分化誘導メディウムIIで培養する。
【0030】
分化誘導メディウムII:
この工程で用いられる分化誘導メディウムIIは、種々のサイトカイン、例えば、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、骨形成因子4(BMP4)、肝細胞増殖因子(HGF)を含む。サイトカインの量は、例えば、FGF2は5〜50ng/ml、BMP4は5〜50ng/ml、HGFは5〜50ng/mlであり、好ましくはFGF2は10ng/ml程度、BMP4は20ng/ml程度、HGFは20ng/ml程度である。分化誘導メディウムIIは、少なくとも骨形成タンパク質4(BMP4)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含む。分化誘導メディウムIIも無血清とすることができ、例えばRPMI1640等の基本的な組成に、上述のサイトカインと血清代替品を添加して用いることができる。分化誘導メディウムIIの具体的な構成例は、本願明細書の実施例の項に記載された組成のものである。
【0031】
本工程は、工程1で得られた細胞を、分化誘導メディウムIIを用いて、37℃、5% CO2インキュベータにて培養することにより実施できる。分化誘導工程2の培養期間は、具体的には1〜6日であり、好ましくは2〜5日であり、より好ましくは3〜4日である。
【0032】
分化誘導工程3
本工程は、分化誘導工程2から得た細胞を、分化誘導メティウムIIIで培養して人工肝細胞を得る工程である。
【0033】
分化誘導メディウムIII:
ここで用いるサイトカイン及びホルモンの例は、オンコスタチンM(OSM)やDexamethasone等である。用いる量は、例えば、OSMは10〜50ng/ml、Dexamethasoneは0.05〜0.5μMであり、好ましくはOSMは25ng/ml程度、Dexamethasoneは0.1μM程度である。分化誘導メディウムIIIは、少なくとも、肝細胞成長因子(HGF)、Oncostatin M、Dexamethasone、並びにN,N'-(Methylenebis(4,1-phenylene))diacetamide(FH1)及び/又は2-(N-(5-Chloro-2-methylphenyl)(methylsulfonamido)-N-(2,6-difluorophenyl)-acetamide(FPH1)を含む。分化誘導メディウムIIIの具体的な構成例は、本願明細書の実施例の項に記載された組成のものである。
【0034】
FH1及びFPH1:
分化誘導メディウムIIIは、下式で表される、N,N'-(Methylenebis(4,1-phenylene))diacetamide(FH1)及び/又は2-(N-(5-Chloro-2-methylphenyl)(methylsulfonamido)-N-(2,6-difluorophenyl)-acetamide(FPH1)を含む。
【0035】
【化1】
【0036】
【化2】
【0037】
好ましい態様においては、分化誘導メディウムIIIは、FH1及びFPH1を含む。
【0038】
本工程は、分化誘導工程2で得られた細胞を、分化誘導メディウムIIIで、数日〜数週間程度培養することにより実施することができる。この培養期間においては、少なくとも3日に1回、好ましくは毎日の頻度で培地交換を行うことが好ましい。
【0039】
その他の条件:
分化誘導工程1〜3はいずれも、血清及び/又は無フィーダー環境下で、好ましくは無血清かつ無フィーダー環境下で実施することができる。また必要に応じ、ECMをコートした培養器を用いて実施することができる。
【0040】
肝細胞の確認:
前記肝実質細胞は、発生学的に、前記胚様体における前記心筋細胞の出現に続いて出現することが知られている。実験的に前記肝実質細胞は、胚様体から分化した前記心筋細胞近傍に発現が観察されることが知られている。
【0041】
分化誘導工程1〜3を経た細胞の肝細胞への分化を確認する方法としては、トランスサイレチン(TTR)、α−フェトプロテイン(AFP)胎児肝細胞、a1−アンチトリプシン(AAT)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファンオキシゲナーゼ(TO)、チロシンアミノトランスフェラーゼ、アシアログリコプロテインレセプター(ASGR)、アルブミンなどの肝細胞(胎児肝細胞)特異的マーカー遺伝子発現、若しくは肝細胞特異的マーカータンパク質の発現、又は抗アルブミン抗体による免疫染色などにより確認することができる。 また、マウスの肝細胞においては、2核を有する細胞が多く確認されることから、細胞核を形態学的に確認することにより確認することができる。
好ましくは、上記の人工肝細胞の項で述べたように、網状構造体を構成可能であること、高いアンモニア代謝能を有することを指標とする。
【0042】
<その他>
(ハイブリッド型人工肝臓)
本発明は、ハイブリッド型人工肝臓及びその製造方法を提供する。ハイブリッド型人工肝臓は、本発明の人工肝細胞が少なくとも109個使用されていることが好ましい。
【0043】
ハイブリッド型人工肝臓は、体外に装着して血管に接続するもの、体内に留置して血管に接続するもの、又は血管に接続せずに腹腔内に留置するものの三つの形態がある。本発明のハイブリッド型人工肝臓は、iPS細胞由来の肝細胞を用いるため、細胞移入などに伴うリスクを回避するという点から、体外型であることが好ましいと考えられる。
【0044】
ハイブリッド型人工肝臓の開発においては、リアクターの設計・開発も重要な要素である。バイオリアクターとしては、ブタ肝細胞を用いたハイブリッド型人工肝臓治療用であるヘパトアシスト(HepatAssist)(Hui T, Rozga J, Demetriou AA. J Hepatobiliary Pancreat Surg 2001; 8: 1-15.)、ブタ肝細胞を使用したMELS(モジュラー体外肝臓システム(Modular Extracorporeal Liver System))など、様々なタイプが知られている。これらのリアクターを、本発明においても使用することができる。肝細胞は、浮遊状態では、分化機能が充分に発現されない傾向があり、さらに周りの細胞と衝突し、ストレス刺激を受けやすい。また本発明者らの検討によると、本発明の人工肝細胞は、付着培養した場合にアンモニア分解能がより高いとの観点からは、本発明においては、肝細胞に足場が提供できるよう、中空糸と不織布などのスキャフォールドからなるリアクターが好ましいと考えられる。
【0045】
中空糸膜としては、膜表面に細胞が付着して物質交換が妨げられることがなければどのようなものでも使用することができ、具体的には、従来医療用に用いられている市販の物、たとえば、ポリスルフォン膜、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体けん化物膜(たとえば、商品名:エバール、クラレメディカル株式会社製など)などが好ましい。市販の中空糸膜のポアサイズは、その用途から透析膜(〜5nm)、血漿成分分離膜(20〜30nm)、血漿分離膜(30〜200nm)などがある。物質の透過性の点からは、血漿分離膜(30〜200nm)が好ましい。拒絶反応の危険性を回避するため、中空糸内を流れる血液中の免疫担当細胞や免疫グロブリンが中空糸外の不織布などのスキャフォールド上に充填した細胞と直接接触することがないよう、30nm〜100nmが最も好ましい。
【0046】
不織布としては、細胞が接着することができるように加工・修飾されているものが好ましい。不織布の繊維としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)などが挙げられる。なかでも、その加工のしやすさの点から、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)にポリアミノ酸ウレタン(PAU)加工を施したものが好ましい。
【0047】
(毒性試験)
本発明により得られる人工肝細胞は、薬剤の毒性を評価するための試験に用いることができる。毒性の試験に用いる場合、目的薬剤を人工肝細胞に添加して、例えば、37℃、5%CO2インキュベータにて培養し、時間経過を追って、アンモニア代謝能の変化や、細胞死の有無や程度を指標として、評価することができる。細胞死測定技術としては、電気泳動による染色体DNA分断化の検出、フローサイトメトリーを用いた染色体DNA減少細胞の検出、AnnexinVを用いたアポトーシス細胞の検出、Propidiumiodide(PI)等の死細胞染色剤を用いた死細胞の検出、ATPアッセイ、MTTアッセイ、細胞内グルタチオンアッセイ、LDHアッセイなどが挙げられる。
【0048】
(薬物スクリーニング方法)
本発明により得られる人工肝細胞は、薬物スクリーニングに用いることができる。薬物スクリーニングの具体的な方法としては、例えば、本発明の人工肝細胞又は人工肝細胞からなる組織の培養液に被験物質を添加し、一定時間インキュベートした後、前記培養液中及び前記肝組織・臓器を構成する細胞内の少なくともいずれかに含まれる代謝産物等を解析する方法などが挙げられる。
【0049】
被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝機能に関連した医薬、診断薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかが挙げられる。薬物スクリーニングは、肝機能向上に有用な成分のスクリーニングとして、又は肝臓に障害を与える有害成分のスクリーニングとしても行うことができる。肝機能向上に有用な成分のスクリーニングとしては、例えば、コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質の探索などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
<iPS細胞の作製>
[iPS細胞の作製]
下記の方法でiPS細胞を作製した。
1. POIETICS(登録商標)CORD BLOOD CD34+ Cells (Cat. No. 2C-101A)、POIETICS(登録商標) Mobilized CD34+ Cells (Cat. No. 2G-101B) を解凍する.
2. CytoTune(登録商標)-iPS 2.0 Sendai Reprogramming Kitを用い、キットに付属のプロトコールに従い、iPS細胞を作製する.
【0051】
[iPS細胞の確認]
下記を行い、iPS細胞が得られたことを確認した。
【0052】
免疫染色:
1. 253G1(理研より入手)及びCiPSをCytoSpin(登録商標)でスライドガラスに貼り付ける(800rpm, 5min)
2. 4%パラフォルムアルデヒド(ナカライテスク)で固定(15min, 室温)
3. PBSで3回洗浄
4. ブロッキング(0.3% TritonX-100, 1% BSA, 10% AB serum 又はBlockingOne-Histo(ナカライテスク))10〜20min, 室温
5. 0.1% Tween PBS処理 5min, 室温
6. R&D, Human Pluripotent stem cell 3 color Immunocytochemistry kit 各10倍希釈、3hr, 室温又はo/n, 4℃
7. PBSで洗浄
8. VECTA SHIELD(登録商標)Hard Set with DAPIで封入
9. オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察
【0053】
フローサイトメトリー:
1. 253G1(理研より)及びCiPSをAccutase処理37℃, 5minで剥離させ、回収
2. SSEA-4 FITC, SSEA-3 PE, TRA-1-81 PE(各終濃度1μg/ml)抗体で染色(4℃, 30min)
3. FACSCaliburで測定
4. CellQuest或いはFlowJoで解析
【0054】
形態観察:
後述の培養法において、定期的にオールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察
【0055】
SeVベクター(CytoTune#iPS2.0)の脱落確認:
1. 12-well plateでiPS細胞を培養
2. PBSで洗浄
3. 10% 中性ホルマリン 1ml/wellで固定(5min, 室温)
4. PBSで洗浄
5. Anti-Sev抗体(0.1% TritonX-100/PBSで1/500希釈)500μl添加
6. 37℃, 1h反応
7. PBSで洗浄
8. Dyelight550標識anti-rabbit IgG抗体(0.1% TritonX-100/PBSで1/500希釈)500μl添加
9. 37℃, 1h反応
10. PBSで洗浄
11. オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察
【0056】
結果:
免疫染色及びフローサイトメトリーの結果を図1に、定期的に細胞の形態を観察した結果を図2に、CiPS細胞からのrSeVベクターの脱落を確認した結果を図3に示した。CiPS細胞は、作製から拡大培養の全工程において、フィーダーレスであった。また、感染からおよそ3か月の継代で、sReVが脱落したCiPSを取得できた。
【0057】
<CiPS-Hepを誘導するためのiPS細胞の準備>
下記の方法で、iPS由来高機能肝細胞(CiPS-Hep)を誘導するためのiPS細胞を準備した。なお、iPS細胞コロニー観察等、上記の作製されたiPS細胞の確認においては、本項に示した方法を実施した。
【0058】
[ラミニンコートディッシュ作製]
1. Laminin-51) (−80℃)を4℃で融解しておく.手で温めないように注意.
2. 6ウェルプレート2)にPBS3)を1ml/well入れ、全体に行き渡らせる.
3. PBSの入った6ウェルプレートと200μlチップを4℃で冷やしておく.
4. 融解したLaminin-5をPBSの入ったウェルに回し入れ、素早く10回程度ゆらし、全体に行き渡らせる.Laminin-5は吸着性が非常に強いため、ピペッティングは絶対にしない.
5. 4℃で一晩、又は37℃で2時間以上インキュベートしてコーティングする.37℃で放置しないこと.
6. すぐに使用しない場合はパラフィルムで2重にシールし、4℃で保存できる.(1週間)
【0059】
[凍結細胞の解凍と培養]
1. P2の遠心分離機を20℃に設定する.
2. 各種阻害剤(以下の工程9で使用の4種)を−30℃のフリーザーから出しておく.
3. 培養メディウムを調製する(以下ReproFF2と記載).
【0060】
【表1】
【0061】
4. ReproFF2を15mlチューブ7)に,9ml及び4mlずつ分注し,37℃で温める.
5. ラミニンコートディッシュをPBS(-)で2回すすぎ,1mlのPBS(-)をウェルにいれておく.
6. 凍結細胞を液体窒素から取り出し、37℃のウォーターバスに2minつけて溶解する.凍結細胞の容量が少ない場合は,温めた培地を適量加え、優しくピペッティングすることにより素早く解凍させる.
7. 解凍した細胞を回収し培養メディウム9mlを入れた15mlチューブに移し、優しく転倒混和し混ぜる.
8. 遠心分離 条件:160g, 5min, R.T. アクセル有,ブレーキ有
9. 遠心中に培養メディウム+各種阻害剤を4ml調製する.
【0062】
【表2】
【0063】
10. 遠心後の15mlチューブを回収し、上清を慎重に除去する.
11. 阻害剤培養メディウムを1ml加え細胞ペレットをピペッティングにより優しくほぐす.
12. ラミニンコートディッシュのPBS(-)を除去し、細胞懸濁培養液をウェルに移す.残りの阻害剤培養メディウムで15mlチューブを洗い、ウェルへ移す.
13. ディッシュを揺らし、細胞を均一に広げ、37℃,5%CO2でインキュベートする.
14. 翌日,優しくウェル中の培地を混ぜた後、上清を除去する.
15. 再び培養メディウム+各種阻害剤4mlを加え37℃,5%CO2で培養する.
【0064】
[培地交換]
1. 培養上清を除去する
2. 新鮮な培養メディウムReproFF2を4ml/wellで加える.
3. 上記の操作を2〜3日おき(月,水,金)に行う.
【0065】
[細胞の継代]
1. ラミニンコートディッシュを作製する.
2. 培養上清を除去する.
3. PBS(-) 1mlを加え細胞表面を洗浄する.
4. PBS(-)を除去し、ESGRO Complete Accutase12)を1ml/wellで加え、37℃,5%CO2,5minインキュベートする.
5. ウェル中の剥がれきれていない細胞をピペッティングによりはがし、細胞溶液を15mlチューブへ回収する.
6. ウェルにReproFF2を1ml加え、ウェル内を洗浄し15mlチューブへ溶液を回収し、さらに15mlチューブへReproFF2をもう1ml加え、Total volumeを3mlにする.
7. 調整した細胞懸濁液をよく混和後、トリパンブルー染色液13)で2倍希釈しセルカウントを行う.
8. 継代するウェル数に応じて5x105cells/wellになるように細胞懸濁液を新たな15mlチューブへ分注する.必要に応じて残りの細胞は凍結保存する.
9. 遠心分離する.条件:160g, 5min, R.T. アクセル有,ブレーキ有
10. 遠心中に培養メディウム+阻害剤を4ml/wellになるように調整する.
【0066】
【表3】
【0067】
11. 遠心後上清を除去し、培養メディウム+阻害剤を用いて細胞ペレットをピペッティングによりほぐし,各ラミニンコーティングウェルに播種する.
12. 培養プレートに日付、iPS細胞の名前、継代数を記載し37℃,5%CO2で培養する.
月→金→水→月の間隔で継代を続ける.
【0068】
[細胞の凍結保存]
1. 細胞継代時と同様に細胞をはがし、カウントする.
2. 細胞懸濁液を遠心分離する.条件:160g, 5min, R.T. アクセル有、ブレーキ有
3. 凍結に用いるセラムチューブ14)に日付、細胞名、継代数をラベルする.
4. 遠心後、上清をしっかり除き、1x106 cells/500μlになるようにSTEM-CELLBANKER15)に細胞を懸濁させる.
5. 細胞懸濁液をラベリングしたセラムチューブに500μl/本ずつ分注していく.
6. 分注後、セラムチューブを-80℃のディープフリーザーに入れる.
7. 1〜3日後以内に凍結した細胞を-80℃から液体窒素細胞保存システムへ移動させ保管する.
【0069】
<CiPS-Hepの誘導>
下記の方法で、CiPS細胞から高機能肝細胞(CiPS-Hep)を分化誘導した。
【0070】
[Day1:iPS由来高機能肝細胞分化誘導step1;iPS由来高機能肝細胞分化誘導メディウムI(以下メディウムI)へメディウムチェンジ]
1. メディウムIを必要量(4ml/well)調製する.
【0071】
【表4】
【0072】
2. 上清を除去し、無血清RPMI1640を1ml加え細胞表面を洗浄する.
3. メディウムIを4ml/wellになるように加える.
4. Day6まで毎日上清を除去し、新鮮なメディウムIを加える作業を行う.
【0073】
[Day7:iPS由来高機能肝細胞分化誘導step2;iPS由来高機能肝細胞分化誘導メディウムII(以下メディウムII)へメディウムチェンジ]
1. メディウムIIを必要量(4ml/well)調製する.
【0074】
【表5】
【0075】
2. 優しく培養上清をピペッティングした後,上清を除去し、メディウムIIを4ml/wellになるように加える.
3. Day9まで毎日上清を除去し、新鮮なメディウムIIを加える作業を行う.
【0076】
[Day10:iPS由来高機能肝細胞分化誘導step3]
1. 培養プレートのマトリゲルコーティング
1.1. BD matrigel growth factor reduced20) 300μlを4℃で解凍する.
1.2. 24 well-plate dish21)、KnockOut-DMEM22)を4℃で冷やしておく.
1.3. マトリゲルが融解されたら、KnockOut-DMEMを等量加え、ピペッティングによりよく混和する.
1.4. マトリゲル希釈液を24 well-plate dishへ1wellあたり200μlずつ入れwell全体に行き渡らせる.
1.5. 24 well-plate dishを常温で3時間以上静置しコーティングする.
【0077】
2. iPS細胞由来高機能肝細胞の継代
2.1. iPS由来高機能肝細胞分化誘導メディウムIII(以下メディウムIII)を1ml/wellになるように調製する.
【0078】
【表6】
【0079】
2.2. 培養上清を除去し、PBS(-)1mlで細胞表面を洗浄する.
2.3. ESGRO Complete Accutaseを1ml加え、37℃で5minインキュベートする.
2.4. 念入りにピペッティングして細胞をはがし、細胞溶液を15mlチューブへ回収する.
2.5. HCM 1mlでウェル内を洗浄し15mlチューブへ溶液を回収し、さらに15mlチューブへHCMをもう1ml加え、Total volumeを3mlにする.
2.6. 細胞懸濁液をよく混和し、トリパンブルー2倍希釈でセルカウントする.
2.7. 継代するウェル数に応じて1.0x106cells/wellになるように新たな15mlチューブへ必要量を分注する.
2.8. 160g, 5min, R.T.で遠心分離する.
2.9. 遠心中にマトリゲルコーティングウェルにPBS(-)を1ml加え、洗浄し上清を除去する.この洗浄作業を2回繰り返し、ウェルにPBS(-)を1ml加える.
2.10.遠心後上清を除去し、Adhesion cultivationを行う場合にはマトリゲルコーティングウェルの上清も除去後、メディウムIIIを用いて細胞ペレットをピペッティングによりほぐし,マトリゲルコーティングウェルに播種する.
Floating cultivateonを行う場合には、メディウムIIIを用いて細胞ペレットをピペッティングによりほぐし、MPC treatment plate(MD6 with Lid Low-Cell Binding; Nalge Nunc International, Japan)に播種する.
HUVEC及びMSCをフィーダー細胞として用いる場合には、Adhesion cultivationとして適宜共培養を行う(後掲非特許文献1参照).
2.11.培養プレートに日付、細胞の名前等記載し、37℃,5%CO2インキュベータ内で培養する.
2.12.Day17まで隔日で上清を除去し、新鮮なメディウムIIIを加える作業を行う.
【0080】
[Day17:CiPS-Hep完成 → アンモニア代謝テスト]
1. HBM(カクテル−)+ アンモニア水(以下アンモニア培地)を1ml/well×2になるように調製する.
【0081】
【表7】
【0082】
2. 培養上清を除去し、HBM 1mlで1回,アンモニアHBMで1回、細胞表面を洗浄する.
3. 上清を除去し、アンモニア培地を1ml/wellで加える.
4. 空きのウェルにアンモニア培地及びHBMを1mlずつ入れ、ポジコン及びネガコンとする.
5. 37℃,5%CO2で24hr培養する.
【0083】
[Day18:アンモニア代謝テストサンプル回収]
1. 上清をエッペンチューブに回収し、500g,5min遠心分離する.
2. 上清を新しいエッペンチューブ3本に300μlずつ回収し、−80℃で凍結する.
3. ウェルをPBSで洗浄し、トリプシンEDTA30) 1mlを加え、37℃で5minインキュベートする.
4. 念入りにピペッティングして細胞をはがし、細胞溶液をFACSチューブ31)に通す.
5. HBM 1mlで洗浄し、Total volumeを2mlにする.
6. トリパンブルーでカウントする.
【0084】
<iPS−HEP細胞の確認>
下記を行い、iPS細胞が得られたことを確認した。
【0085】
アンモニアテストワコー32)
1. 上清を溶解させる.
2. 遠心 8000rpm 5min 4℃
3. アンモニア希釈液を作製する.キット内の標準液及び標準希釈液は使用しない.HBM(無添加)960μlにアンモニウムイオン標準液 (1000mg/L) 40μlを添加し、ボルテックスし,標準液とする.
【0086】
【表8】
【0087】
4. サンプルの上清及びアンモニア希釈液それぞれ200μlを新しいエッペンに移す
5. 800μlの除タンパク液を加え、ボルテックスする.
6. 遠心 8000rpm 5min 4℃
7. 遠心中にマイクロプレートリーダー及びパソコンの電源を入れ、Tecan i-controlを選択しておく.
8. 上清を60μlずつ96well 平底プレートへ分注していく.Duplicate
9. 発色試液Aを60μlずつ各ウェルに加えていく.
10. 蓋を外してマイクロプレートリーダーにセットし、プレートを撹拌する.(Shakingをダブルクリック,10sec,Normalにセットし、Statをクリック)
11. 発色試液Bを30μlずつ各ウェルに加えていく.
12. マイクロプレートリーダーにセットし、プレートを撹拌する.
13. 発色試液Cを60μlずつ各ウェルに加えていく.なるべく速く.
14. マイクロプレートリーダーにセットし、プレートを撹拌する.
15. 37℃,CO2 5%インキュベータで20minインキュベートする.
16. 4℃で10min以上冷やし反応を止める.
17. プレートの底面をきれいに拭き,左上を合わせて、マイクロプレートリーダーにセットする.
18. 吸光度(620 or 630nm)を測定する.(MeasureのAbsorbanceをダブルクリック.620nm.Detailsで測定するwellを選択.Startをクリック)
【0088】
RT-PCR:
1. ISOGEN II(ニッポンジーン)を用い、付属のプロトコールに従い、RNA抽出
2. ナノドロップ(登録商標)でRNA濃度測定
3. PrimeScript High Fidelity RT-PCR kitでcDNAを合成
4. Veriti 96-well Thermal Cycler(Applied Biosystems)でPCR実施
5. プライマーセットは以下の通り
【0089】
【表9】
【0090】
7. RT-PCR産物を1% アガロースゲルで電気泳動
8. Gel Redで染色し、観察
【0091】
結果:
得られたiPS-HEP細胞の写真を、図4に示した。得られた細胞は、特徴的な網状構造体を構成するものであった。空隙の直径は約300〜1000μmであり、網部分の幅は約20〜200μmであった。細胞1〜3個分の厚み約10〜60μmを有していた。
【0092】
得られたアンモニア代謝テスト及びRT-PCRの結果を図5〜9に示した。iPS-HEP細胞は、培養条件によっては、初代肝細胞の代謝能(160〜200μg/dl/24h)と同程度のアンモニア代謝機能を有することが分かった。また、フィーダー細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells, HUVECs))、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells, MSCs))を用いるよりも化合物(FH1、FPH1)を用いたほうが、アンモニア代謝機能の増強効果が高かった。
【0093】
<実施例で用いた資材の一覧>
【0094】
【表10】
【0095】
<実施例で引用した文献>
非特許文献1:T. Takebe et al. Vascularized and functional human liver from an iPSC-derived organ bud transplant. Nature 499, 481-484 (2013), doi:10.1038/nature12271, Published online 03 July 2013
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明により得られるiPS細胞から誘導された高機能人工肝細胞は、ハイブリッド型人工肝臓として好適に使用することができる。また、薬物のスクリーニングやアンモニア代謝等を指標とした毒性試験等にも利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
SEQ ID NO.:1 hALB For
SEQ ID NO.:2 hALB Rev
SEQ ID NO.:3 hHNF4a For
SEQ ID NO.:4 hHNF4a Rev
SEQ ID NO.:5 hOCT4 For
SEQ ID NO.:6 hOCT4 Rev
SEQ ID NO.:7 hCYP3A4 For
SEQ ID NO.:8 hCYP3A4 Rev
SEQ ID NO.:9 hβ-actin For
SEQ ID NO.:10 hβ-actin Rev
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]