【実施例】
【0041】
[スクリーニングに用いる細胞の調製]
次の方法で、凍結保存された細胞を融解し、継代培養を行って、下記のスクリーニングに用いた。
【0042】
細胞融解:
1. CT26 GFP
+が入ったバイアル(2.0×10
6 cells/1mL/ampule)を液体窒素タンクより取り出し37℃の湯浴中で融解.なお、用いた細胞は、ATCCから購入した親株にSIVベクターでGFPを導入し、Single cell cloningで作成することができる(後掲非特許文献1、2参照).
2. バイアル中の細胞浮遊液の全量を10% FBS-RPMI-1640(10%牛胎児血清,100 units/mL Penicillin-100μg/mL Streptomycinを含むDulbecco’s modified eagle medium)に加えた後、4℃にて遠心分離(100g,3分間).
3. 沈渣(細胞)を10 mLの10% FBS- RPMI-1640にて再懸濁し、100 mm dish(BD Biosciences)1枚に播種した後、37℃,5% CO2,95% Air条件下で培養する.
【0043】
CT26 GFP+の継代培養:
1. CT26 GFP
+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後に継代する.
2. 培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
3. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応.
4. 10% FBS- RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.
5. 4℃にて遠心分離(400g,3分間)を行った後、沈渣(細胞)を10% FBS- RPMI-1640にて再懸濁する.
6. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測する.
7. 2.0×10
5 cells/dishとなるように10% FBS- RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し播種する.
8. 残余細胞は廃棄する.
【0044】
[1次スクリーニング、2次スクリーニング]
<方法>
東京大学創薬機構(旧名称:東大創薬オープンイノベーションセンター)より入手したValidated Compound Library(既知活性化合物とoff patent医薬品からなるライブラリー、約3,000種)を用い、下記の方法で1次スクリーニング及び2次スクリーニングを行った。
【0045】
384plateへの播種(1次、2次スクリーニング用):
1. CT26 GFP
+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後、培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
2. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応させる.
3. 10% FBS- RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.
4. 4℃にて遠心分離(400g,3分間)を行った後、沈渣(細胞)を10% FBS-RPMI-1640にて再懸濁する.
5. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測する.
6. 2D培養の場合は、3.0×10
4 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO-RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、BIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)にて20μL/wellの容量で培養プレート(ViewPlate-384, PerkinElmer)に細胞を播種する.
7. 3D培養の場合は、5.0×10
4 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO- RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、BIOMEK(登録商標)NXPにて20μL/wellの容量で低接着プレート(PrimeSurface(登録商標)384Uプレート,住友ベークライト株式会社)に細胞を播種する.
8. 播種した細胞は37℃,5% CO2,95% Air条件下で培養する.
1次スクリーニング、2次スクリーニング共に384plateを使用する.
【0046】
細胞播種、セルタイター吸い上げ(2D 3D 共通)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
薬物調製(1次2次スクリーニング用):
1. 必要な容量を分取された化合物プレートにBIOMEK(登録商標)NXPにて10% FBS-RPMI-1640を加え、添加用薬物プレートとする.
2. 次いで播種済みの細胞プレートにBIOMEK(登録商標)NXPにて薬物プレートより10μL添加しピペッティングを行う.
DMSO濃度は0.1%から0.3%とする.
薬物の添加時期は播種後速やかに添加する、もしくは1日後に添加する.
1次スクリーニングでは1化合物 1doseのsingleで評価を実施する.
2次スクリーニングでは化合物の用量反応性を4dose(適宜変更可)で実施する.
【0049】
薬物希釈(化合物プレートへの培地添加:2D3D共通)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
薬物添加(2D)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
薬物添加(3D)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
観察(1次2次スクリーニング):
1. 薬物処置72時間後にIN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare)を用いて明視野及び蛍光の2種類でスフェロイドの形態を確認する.
2. スフェロイドはGFPから得られる総蛍光量(Dencity×Area)を指標として評価する.
3. 1次スクリーニングではDMSO処置wellと比較して50%以上の変動を確認できたwellをHIT候補として扱う.
最終評価は次項に示すATP assayを併せて総合的に判断する.
【0056】
ATP assay(1次2次スクリーニング):
1. 評価最終日において、CellTiter-Glo(登録商標)3D Cell Viability AssayをBIOMEK(登録商標)NXPにて培養容量と同量添加し、15から30分経過後、ピペッティングを行う.
2. 次いで必要に応じてBlack plateへ細胞溶解液を20μL移し発光をルミノメーター(Enspireなど)にて測定する.
【0057】
<結果>
384plateを用いて調製したスフェロイド群の写真を
図1〜3に示した。各スフェロイドは、同じ大きさであり、各ウェルには、U底の中心に位置する1個のスフェロイドが観られた。また、各ウェルのスフェロイドのサイズはほぼ同一であった。
【0058】
また、CV値(変動係数、coefficient of variation)、計算式:CV (%)=練準偏差(SD)/平均(Av)、分注後の分注夜量やプレートリーダーの測定値のぶれ等。概ねCV値が10%以内であることが好ましい。)及びZ'-factor(計算式Z'=1-(3 x SD 100% + 3 x SD)/(Av l00% - Av O%、アッセイ系の質の目安となる数字で、精度を表す需要な指標。一般に、Z'値が0.5以上あれば系として好ましい。)を求めた。下表に示す通り、CV値、Z'-factor共に良好であった。なお、化合物添加に伴うDMSOの影響を考慮するために、2つの濃度で検討を行った。
【0059】
【表5】
【0060】
スフェロイド群を用いて行った1次スクリーニングでは、127個の化合物がヒットし、また2次スクリーニングでは8個の化合物がヒットした。
【0061】
[3次スクリーニング]
<方法>
下記の方法で3次スクリーニングを行った。
【0062】
96plateへの播種:
1. CT26 GFP
+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後、培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
2. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO
2,95% Air条件下で反応させる.
3. 10% FBS-RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.
4. 室温にて遠心分離(400g,3分間)を行った後,沈渣(細胞)を10% FBS-RPMI-1640にて再懸濁する.
5. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測する.
6. 2D培養の場合は、1.1×10
4 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO-RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、ピペットにて90μL/wellの容量で培養プレートに細胞を播種する.
7. 3D培養の場合は、2.2×10
5 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO-RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、ピペットにて90μL/wellの容量で低接着プレート(Nunclon Sphera96,Thermo Scientific)に細胞を播種する.
8. 播種した細胞は37℃,5% CO
2,95% Air条件下で培養する.
【0063】
薬物調製:
1. 化合物を公比1/10で最高濃度20μMより7dose段階希釈(1% DMSO)を培地で行う.
2. 次いで播種済みの細胞プレートに段階希釈した化合物を10μL添加しピペッティングを行う.
3. 薬物の添加時期は播種後速やかに添加する(pre処置)、もしくは1日後に添加する(post処置).
基本single(n=1)で評価を実施する.
【0064】
ATP assay:
評価最終日において、CellTiter-Glo(登録商標)3D Cell Viability Assayを培養容量と同量添加し、15から30分経過後、ピペッティングを行う。次いで必要に応じてBlack plateへ細胞溶解液を120μL移し発光をルミノメーター(Enspireなど)にて測定する。
【0065】
<結果>
結果を
図4及び5に示した。3次スクリーニングの結果、PD0325901がスフェロイド形成を阻害する能力が高い化合物として特定された。
【0066】
[In vivo試験]
スクリーニングで特定された化合物PD0325901の活性を、in vivoで確認した。
<方法>
動物:
1. 雄性BALB/c マウス:以下、マウス(使用時週齢:6〜8週齢)を使用した.
2. 実験に供するまでは滅菌した床敷き(ペパークリーン,日本エスエルシー株式会社)を敷いたプラスチックケージ(W 136 mm×L 208 mm×H 115 mm)に1ケージ当り5匹以内を収容する.
3. 飼育期間中は固型飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業株式会社)及び給水びんにて上水道水を自由摂取させる.
4. 入荷時に耳パンチにより個体識別(識別番号:01〜)を行う.
細胞融解、継代は同上.
【0067】
腹腔内移入:
1. CT26 GFP
+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後、培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
2. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応させる.
3. 10% FBS-RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.4℃にて遠心分離(400g,3分間)を行った後、沈渣(細胞)を10% FBS-RPMI-1640にて再懸濁する.
4. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測し、1.0×10
7 cells/mLとなるようにHBSSにて細胞懸濁液を調製した.
5. 26G注射針付シリンジ(テルモ株式会社)を用いて、細胞懸濁液をマウスの腹腔に0.2 mLずつ注入した(2.0×10
6 cells/body).
【0068】
群分け:
腹腔内移入日(Day 0)にマウスの体重を降順に並べ、乱数を割り付けて必要な群に振り分ける(体重による層別無作為化法).
【0069】
薬物調製:最適な投与経路に応じた薬液調製を実施する.
【0070】
薬液投与:用法用量は薬物に応じて適宜調整する.
【0071】
投与開始時期:Day1又はDay4から開始する.
【0072】
評価指標及び評価項目:
播種結節量;GFP
腹水重量;腹水
生存期間;Day
体重変化;体重
【0073】
評価方法:
(1) 播種結節量 最終評価日においてマウスを頸椎脱臼後、正中切開にて回復し十二指腸から直腸までの消化管を摘出し氷冷したPBS中に保管する。摘出した消化管を100mm ディッシュ上で広げBZ9000にて明視野及び蛍光で消化管の全体像を取得する。取得した画像はImageJにて数値化し播種結節量とする。
(2) 腹水重量 最終評価日においてマウスを頸椎脱臼後、正中切開にて回復し腹腔内に貯留した腹水を予め重量測定した脱脂綿にて回収する。回収後、重量を測定し腹水重量とする。
(3) 生存期間 試験期間中、マウスの死亡を確認した日付を記録する。
(4) 体重変化 試験期間中、マウスの体重を2〜3日に1回記録する。
【0074】
<結果>
結果を
図6及び7に示した。
【0075】
[実施例の項で引用した文献]
非特許文献1:Y Kasagi et al. Peritoneal Dissemination Requires an Sp1-Dependent CXCR4/CXCL12 Signaling Axis and Extracellular Matrix-Directed Spheroid Formation. Cancer Res; 76(2) January 15, 2016, 347-357,(Published OnlineFirst January 7, 2016; DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-15-1563)
非特許文献2:Y Ikeda et al. Simian immunodeficiency virus-based lentivirus vector for retinal gene transfer: a preclinical safety study in adult rats. Gene Therapy (2003) 10, 1161-1169