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特開2017-153388規則的に配置された同一サイズのスフェロイド及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-153388(P2017-153388A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】規則的に配置された同一サイズのスフェロイド及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20170810BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170810BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20170810BHJP
【FI】
   C12N5/07
   C12Q1/02
   C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-37519(P2016-37519)
(22)【出願日】2016年2月29日
(71)【出願人】
【識別番号】596029111
【氏名又は名称】米満 吉和
(71)【出願人】
【識別番号】516061713
【氏名又は名称】株式会社ガイアバイオメディシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】米満 吉和
(72)【発明者】
【氏名】原田 結
(72)【発明者】
【氏名】諸富 洋介
(72)【発明者】
【氏名】寺石 紘司
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA15
4B029GA03
4B029GB06
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QR77
4B063QR90
4B063QX01
4B063QX02
4B065AA91X
4B065AC12
4B065AC17
4B065AC20
4B065BD21
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】大量の候補化合物を精度よく評価するための、サイズ及び位置の揃ったスフェロイド群を用いたスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を含む、スフェロイド形成に作用する物質のスクリーニング方法による:(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種して、複数のウェル内で細胞を培養する工程;(2)細胞と被験物質とを接触させる工程;及び(3)被験物質接触後の細胞がスフェロイドを形成するか否かを観測し、得られた観測結果を指標として被験物質がスフェロイド形成に及ぼす作用を評価する工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)に支持された、細胞の培養物であって、各ウェルが1個以下のスフェロイドを含む、培養物。
【請求項2】
各ウェルのスフェロイドのサイズが同一である、請求項1に記載の培養物。
【請求項3】
各ウェルが低吸着性のU型の底を有する、請求項1又は2に記載の培養物。
【請求項4】
ウェルプレートが96個、384個、又は1536個のウェルを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項5】
細胞ががん性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項6】
化合物のスクリーニングに用いるための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項7】
スクリーニングが抗がん剤の候補化合物を選抜するためのものである、請求項6に記載の培養物。
【請求項8】
スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患のメカニズムの解明に用いるための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項9】
スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患が腹膜播種である、請求項8に記載の培養物。
【請求項10】
以下の工程を含む、スフェロイド形成に作用する物質のスクリーニング方法:
(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種して、複数のウェル内で細胞を培養する工程;
(2)細胞と被験物質とを接触させる工程;及び
(3)被験物質接触後の細胞がスフェロイドを形成するか否かを観測し、得られた観測結果を指標として被験物質がスフェロイド形成に及ぼす作用を評価する工程。
【請求項11】
細胞ががん性である、請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
スフェロイド形成上有効な密度が1.0×104cells/mL〜3.0×104cells/mLである、請求項10又は11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
以下の工程を含む、規則的に配置された複数の同一サイズのスフェロイドの製造方法:
(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種する工程;及び
(2)各ウェル内で細胞を培養する工程。
【請求項14】
細胞ががん性である、請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイズ及び位置の揃った複数のスフェロイドを含む培養物、及びその利用に関する。本発明の培養物は、スフェロイドの形成を阻害する化合物のスクリーニング等に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
スフェロイドはさまざまな濃度の化合物の毒性を試験するために、インビトロモデルと
して使用される重要な可能性を持つ。繰り返すことができ、信頼できる毒性の指標として
のインビトロモデルにおけるスフェロイドの使用は、生きている動物を使用することの望
ましい代替法である。また、3次元構造を有するスフェロイドは、2次元培養物と比較して、多くの細胞においてinvivoでの挙動をよりよく反映し得ることが知られており、スフェロイドを使用した腫瘍−免疫細胞の相互作用の研究や薬物開発のためのスクリーニングなどが報告されている。
【0003】
スフェロイドを用いた種々の薬剤のスクリーニング方法などが検討されてきている。例えば、特許文献1は、分析されるべき化合物にスフェロイドをさらし、スフェロイド細胞増殖阻害が起こるかどうか観察する分析方法を開示する。また特許文献2は、スフェロイド形成可能な培養基材上で細胞を培養する工程と、前記細胞と被験物質とを接触させる工程と、被験物質が前記細胞の上皮性維持に及ぼす効果をスフェロイドの形態の変化を指標として評価する工程とを含む細胞の上皮性維持に作用する物質のスクリーニング方法を開示する。ここでは、細胞の培養を、細胞接着面として機能する所定の凹凸構造を有する培養基材上で行うことが記載されている。さらに特許文献3は、スフェロイドの生存率に基づいて被験化合物が肝細胞に対して毒性を有するか否かを判定する化合物のスクリーニング方法を開示する。またスフェロイドに代表される細胞の立体構造体の製造方法も種々検討されてきている(例えば、特許文献4)。このような立体構造体もまた、スクリーニング等の実験への利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2003/058251(特表2005−514042号公報)
【特許文献2】国際公開WO2014/038025(特開2015−33384号公報)
【特許文献3】特開2014−79227号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/123614(特許第4517125号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スフェロイドを用いて薬物のスクリーニングを行うに際しては、大量の候補化合物を精度よく評価する必要がある。その際には、均質なスフェロイドが必要となるが、従来のスフェロイドの形成方法では、この点、十分ではなかった。
【0006】
一方、がん細胞のスフェロイドの形成は、消化器系がん腹膜播種その他の各種の遠隔移転が懸念される悪性度の高いがんに関与する。このようながんのメカニズムの解明や革新的治療技術の開発にはスフェロイドの形成阻害が重要であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、信頼性の高いスクリーニングを行うために有効であり、また腹膜播種等のスフェロイドの形成が関わる疾患又は状態のメカニズムの解明や治療法の開発のために有効な、スフェロイドを調製する技術を種々検討してきた。その結果、スフェロイドを形成することが可能な細胞を、特定の条件で培養することにより、規則的に配置された、複数の同一サイズのスフェロイドを得ることができることを見出した。またこのような均質なスフェロイドを用いたスクリーニング方法が、実際に制度よく実施できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] 複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)に支持された、細胞の培養物であって、各ウェルが1個以下のスフェロイドを含む、培養物。
[2] 各ウェルのスフェロイドのサイズが同一である、1に記載の培養物。
[3] 各ウェルが低吸着性のU型の底を有する、1又は2に記載の培養物。
[4] ウェルプレートが96個、384個、又は1536個のウェルを有する、1〜3のいずれか1項に記載の培養物。
[5] 細胞ががん性である、1〜4のいずれか1項に記載の培養物。
[6] 化合物のスクリーニングに用いるための、1〜5のいずれか1項に記載の培養物。
[7] スクリーニングが抗がん剤の候補化合物を選抜するためのものである、6に記載の培養物。
[8] スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患のメカニズムの解明に用いるための、1〜5のいずれか1項に記載の培養物。
[9] スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患が腹膜播種である、8に記載の培養物。
[10] 以下の工程を含む、スフェロイド形成に作用する物質のスクリーニング方法:
(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種して、複数のウェル内で細胞を培養する工程;
(2)細胞と被験物質とを接触させる工程;及び
(3)被験物質接触後の細胞がスフェロイドを形成するか否かを観測し、得られた観測結果を指標として被験物質がスフェロイド形成に及ぼす作用を評価する工程。
[11] 細胞ががん性である、10に記載のスクリーニング方法。
[12] スフェロイド形成上有効な密度が1.0×104cells/mL〜3.0×104cells/mLである、10又は11に記載のスクリーニング方法。
[13] 以下の工程を含む、規則的に配置された複数の同一サイズのスフェロイドの製造方法:
(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種する工程;及び
(2)各ウェル内で細胞を培養する工程。
[14] 細胞ががん性である、14に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、信頼性の高いスクリーニング結果を得ることができる。スクリーニング条件の最適度、精度を測定する指標として利用されているZ'値は、次式で算出される。
Z'=1-(3SD of high control + 3SD of low control)/ (mean of high control - mean of low control)
通常、最適化に際してはZ'値が0.5を越すことに目標がおかれ、 ハイスループットスクリーニング (High throughput screening、HTS)ではマイクロプレート毎にZ'値を算出し、0.5を下回るとそのマイクロプレートのアッセイは精度不良と判定される(Zhang.J.H.et al., J. Biomol.Screen., 4, 67-73 (1999))。本発明により、Z'値が0.5を超えた精度の高いスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】384個のウェルを有するU底ウェルプレートを用いた、規則的に配置された同一サイズのスフェロイドの調製例。矢印で示した列は、EDTA添加によりスフェロイド形成なし。左右各2列は、細胞播種なし。
図2図1で枠で囲んだ部分を拡大した写真。
図3】本発明の方法により調製されたスフェロイドの形態の例。
図4】3次スクリーニングの結果。2D培養と3D培養(96個のウェルを有するU底ウェルプレートを用いて調製したスフェロイド群を用いた。)との比較。PD0325901がスフェロイド形成を阻害する能力が高い化合物として特定された。
図5】3次スクリーニングの結果。薬物は、播種後速やかに添加(pre処置)、もしくは1日後に添加した(post処置)。
図6】腹膜播種に対するPD0325901の効果(最終評価日において摘出した消化管からの蛍光量)。最終日におけるvehicle群との比較(Tukey-Kramer HSD検定)。スクリーニングで特定された化合物PD0325901の活性を、マウスを用いてin vivoで確認した。
図7】腹膜播種に対するPD0325901の効果(最終評価日において回収した腹水の重量)。最終日におけるvehicle群との比較(Tukey-Kramer HSD検定)。スクリーニングで特定された化合物PD0325901の活性を、マウスを用いてin vivoで確認した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
数値範囲「X〜Y」は、特に記載した場合を除き、両端の数値X及びYを含む。「A及び/又はB」は、特に記載した場合を除き、A及びBのうちのすくなくとも一方の意である。
【0013】
[サイズ及び位置の揃ったスフェロイド群]
本発明は、複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)に支持された、細胞の培養物であって、各ウェルが1個以下のスフェロイドを含む、培養物を提供する。培養物は、サイズ及び位置の揃ったスフェロイド群を含む。スフェロイドとは、細胞が多数凝集して細胞塊を形成し、3次元状態を形成しているものをいう。細胞塊は、通常、球形に近い。各ウェルにスフェロイドが1個以下とは、スフェロイドの数が1個であるか、又はスフェロイドが存在しないことを意味する。例えば、実験が適切であることを確認する目的等で設けた各種対照において、又はスフェロイド形成を阻害する薬物のスクリーニングにおいて、スフェロイドが形成されなかった場合には、ウェルにはスフェロイドが含まれないことがある。
【0014】
本発明には、スフェロイド形成可能な各種の細胞を適用しうる。細胞は、スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患に関連する細胞であってもよい。適用可能な細胞の具体的な例は、スフェロイド形成可能な、培養細胞(細胞株)、幹細胞(ES細胞、臍帯血由来細胞、未分化間葉系幹細胞等)などの未分化細胞又はその分化型細胞等である。細胞が由来する臓器は、肝臓、すい臓、大腸、血管、神経のほか、骨、乳房などの脂肪組織、靱帯、腱、歯、耳介、鼻などが挙げられる。細胞の由来は、動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシなどの実験動物、又はヒト)であり得る。細胞はまた、遺伝子操作を行ったものでもよい。また、スフェロイドは、必ずしも単一の種類の細胞の凝集体として形成される必要はなく、スフェロイドが形成される限り、複数種類の細胞種から形成されてもよい。細胞はまた、がん性であってもよく、非がん性であってもよい。がん性の細胞株は、大腸がん、前立腺がん、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、悪性神経膠芽腫、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、及び小細胞性肺がんに由来するものであり得る。
【0015】
本発明においては、各ウェルのスフェロイドのサイズは同一である。同一か否かは、目視により、又は光学顕微鏡を用いた観察により、判定できる。各ウェルに同じ量の細胞を播種することにより形成された1個のスフェロイドは、通常、同一の大きさとなる。1個のスフェロイドのサイズは、用いる細胞及び条件にもよるが、例えば、0.1〜10.0×103cells程度の細胞からなる。このようなスフェロイドの直径は典型的には60μm〜500μmである。
【0016】
本発明においては、形成されるスフェロイドは、それぞれ意図した位置に形成され、規則的に配置されている。規則的に配置されているとは、一次元的、二次元的、又は三次元的に等間隔に並んでいることを指し、規則的に配置されている状態であるか否かは、目視により、又は光学顕微鏡を用いた観察により、判定できる。U底の、形の均一な各ウェルを用いた場合は、通常、各ウェルにおいてU底の中心にスフェロイドが各々形成され、ウェルの配置に応じた規則的に配列されたスフェロイド群が得られる。規則的に配置された状態を、アレイ状ということがある。各スフェロイドの間隔は、ウェルの間隔を調整することにより、様々に調整することができる。
【0017】
[規則的に配置された複数の同一サイズのスフェロイドの製造方法]
このような規則的に配置された複数の同一サイズのスフェロイドは、以下の工程を含む製造方法により得られる。:
(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種する工程;及び
(2)各ウェル内で細胞を培養する工程。
【0018】
工程(1)
工程(1)は、ウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種する工程である。
【0019】
ウェルプレートは、マイクロプレート又はマイクロタイタープレート(Microtiter plate)とも称され、多数のくぼみ(ウェル)のついた平板からなる実験・検査器具を指す。一般的には、プレート全体は長方形であり、ウェルが2:3の割合で並んでおり、ウェルの数は6、24、96、384、1536等、ウェルの容量は数μL〜数mLである。本発明においては、特に限定されないが、ウェルの数が96、384、又は1536個のものを特に好適に用いることができる。
【0020】
ウェルプレートの素材は、細胞毒性がなく、細胞培養に適したものである限り、特に限定されないが、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つ又はこれらの組み合わせから選択することができる。
【0021】
ウェルの底部は、後述するスクリーニングを行うに際し、蛍光・吸収光を使用した光学分析を利用することが多いことから、構成するポリマーの全光線透過率が、85%以上99%未満である素材を用いることが好ましい。全光線透過率(total luminous transmittance)は、日本工業規格(JIS K7375)により測定することができる。
【0022】
ウェル内で効率よくスフェロイドを形成させるとの観点からは、ウェル内面(特にウェル底面)は、低吸着性であることが好ましい。低吸着性とは、タンパク質又は細胞の吸着・接着が少ない性質のことを指す。低吸着性とするために、例えば、即時水接触角が45度以下、好ましくは40度以下、より好ましくは20度以下になるような素材を用いるか、又は表面処理を施してもよい。表面処理の例としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理、低圧水銀ランプによるUV処理、エキシマUV処理、レーザー処理、及び電子線処理、並びにコーティング処理がある。なお、即時水接触角は、対象となる素材又は表面処理を施した平板を用いて測定する。接触角は、固体表面上に液体が接している状況で、液体の縁の表面に引いた接線と固体表面と成す角度をいう。接触角は、水液滴を用いて接触法により測定した値をいい、即時水接触角は、水液滴を固体表面に滴下して1分後に測定した接触角をいう。低吸着性(細胞接着性を抑制すること)と即時水接触角との関係は、例えば、Y Ikada著、Surface modification of polymers for medical applications、Biomaterials 1994, vol.15 No.10, pp. 725-736に記載されている。低吸着性とするためには、細胞接着性を抑制する物質をコートしてもよい。例えば、リン脂質・高分子複合体やポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)をコートしてもよい。ウェル内面は、ウェル内に培地を入れるためとの観点からは、即時水接触角を45度以下、好ましくは0度〜20度の範囲とすることができる。
【0023】
一般に、ウェルプレートの各ウェルの底の形状には、平底、U底、V底等がある。本発明においては、プレートの底の形状は、スフェロイドを形成しようとする細胞に応じて適宜に選択し得るが、意図した位置に1個のスフェロイドを良好に形成させるとの観点からは、平底ではないものを用いることが好ましく、U底のものを用いることがより好ましい。
ウェルプレートは、特に限定されないが、上述のように、各ウェルが低吸着性のU型の底を有しているものが好ましい。
【0024】
細胞は、スフェロイド形成上有効な密度で播種される。この密度は、当業者であれば用いる細胞やウェルプレートに応じ、必要であれば予備実験等を行い、適宜決定し得るが、
96個以上のウェルを有する低吸着性のU底のウェルプレートを用いる場合は、例えば0.1×104cells/mL以上とすることができ、0.5×104cells/mL以上とすることが好ましく、1.0×104cells/mL以上とすることがより好ましい。上限値は、3.0×104cells/mL以下とすることができ、3.0×104cells/mLであることが好ましく、3.0×104cells/mL以下であることがより好ましい。播種する際の細胞密度が低い場合、続く工程(2)の培養において所定の時間内に所望するスフェロイドが得られないことが想定される。また、十分な大きさのスフェロイドが得られないことが想定される。極小さいサイズのスフェロイドは、測定感度低下につながる。細胞密度が高い場合はスフェロイドを形成しない細胞が生じうることになると考えられる。スフェロイドを形成しない細胞が多数ある場合、スフェロイド形成の有無により判定を行う際の障害になりうると考えられる。
【0025】
工程(2)
工程(2)では、播種された細胞を、各ウェル内で培養する。この工程は、ウェル内空間を用いて、播種した細胞に1個のスフェロイドを形成させる工程である。培養は、用いる細胞に適した培養液を用い、細胞培養に適した条件(例えば、37℃、5%CO2、95%Air)で、6〜96時間行うことができる。後述するように、本発明によるスフェロイド群又はスフェロイド群の形成工程を、後述のスクリーニング等のために用いる場合は、培養工程の前又は途中に、対象薬物を添加する等、培養環境に変化を生じさせることができる。
【0026】
[スフェロイド群の用途]
3次元構造を有するスフェロイドは、従来の2次元培養物と比較して、多くの細胞においてin vivoでの挙動をよりよく反映し得ることが知られている。そのため、スフェロイドを使用した腫瘍−免疫細胞の相互作用の研究や薬物開発のためのスクリーニングなどが報告されている。したがって、本発明によって提供されるスフェロイド群、及びスフェロイド群を形成するための工程は、薬物等のスクリーニング、種々の細胞アッセイ、スフェロイド形成のモニタリング、スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患のメカニズムの解明等のために使用することができる。
【0027】
また本発明により、各ウェルに1個ずつの、規則的に配置された複数の同一サイズのスフェロイド群、及びそのようなスフェロイド群を形成するための工程が提供されるが、このようなスフェロイド群により、信頼性の高いスクリーニングを行うことができる。
【0028】
スフェロイドは、その大きさによって代謝活性が異なることが知られている。そのためサイズが異なるスフェロイドからは、異なる代謝活性値が得られ、精度の高い結果が得られない。また、極小さいスフェロイドの代謝機能は極端に低いことが知られており、このようなスフェロイドを用いるとすると、反応性代謝物の生成量が少量となり、測定感度が低下しうる。一定以上の同一サイズのスフェロイド群からなる系では、このような不都合が極少ない。スクリーニング条件の最適度、精度を測定する指標であるZ'値は、通常、最適化に際してはZ'値が0.5を越すことに目標がおかれるが、同一サイズのスフェロイド群を提供する本発明により、Z'値が0.5を超えた精度の高いスクリーニングを行うことができる。
【0029】
また、スフェロイドが規則的に配置されていることにより、自動化されたロボットによる操作が容易となり、一度に大量のサンプルを処理することが可能となる。
【0030】
したがって、本発明は、薬物等スクリーニングのため、特に膨大な種類の化合物から構成される化合物ライブラリーの中から、自動化されたロボットなどを用いて、目的の活性を持つ化合物を選別するHTSに用いるのに、非常に適している。
【0031】
[スクリーニング方法]
本発明は、以下の工程(1)〜(3)を含む、スフェロイド形成に作用する物質のスクリーニング方法を提供する:
(1)複数のウェルが規則的に配置されたプレート(ウェルプレート)であって、各ウェルが低吸着性のU型の底を有するウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種して、複数のウェル内で細胞を培養する工程;
(2)細胞と被験物質とを接触させる工程;及び
(3)被験物質接触後の細胞がスフェロイドを形成するか否かを観測し、得られた観測結果を指標として被験物質がスフェロイド形成に及ぼす作用を評価する工程。
【0032】
スクリーニング工程(1)
スクリーニング工程(1)は、ウェルプレートに、細胞をスフェロイド形成上有効な密度で播種して、複数のウェル内で細胞を培養する工程である。用いる細胞、ウェルプレート、播種条件、培養条件は、上述のスフェロイド又はその製造方法において説明した事項を参照することができる。
【0033】
スクリーニング工程(2)
スクリーニング工程(2)は、細胞と被験物質とを接触させる工程である。このスクリーニング工程は、スクリーニング工程(1)の前に行ってもよく、スクリーニング工程(1)の途中で行ってもよい。スクリーニング工程(1)の前に行う場合、例えば、細胞を播種する際の細胞懸濁する液に被験物質を含ませることにより、実施することができる。スクリーニング工程(1)の途中で行う場合、例えば、ウェルに細胞を播種し、必要であれば数時間培養を行い、その後にウェルに被験物質を添加することにより行うことができる。
【0034】
スフェロイドの形成を阻害する薬物の選択を目的にスクリーニングを行う場合、被験物質のほか、抗がん作用が分かっている物質を対照としてスクリーニングを実施してもよい。このような物質の例として、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、ダカルバジン、ラニムスチン、ニムスチン、ビンクリスチン,イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、アドリアマイシン、マイトマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン等の抗がん剤を挙げることができる。
【0035】
被験物質と細胞との接触時間は特に限定されないが、例えば、6時間以上とすることができ、12時間以上としてもよい。24時間、48時間、72時間、96時間等の経過ごとに、後述する、スフェロイドを形成するか否かの観測を行ってもよい。
【0036】
スクリーニング工程(3)
スクリーニング工程(3)は、被験物質接触後の細胞がスフェロイドを形成するか否かを観測し、得られた観測結果を指標として被験物質がスフェロイド形成に及ぼす作用を評価する工程である。
【0037】
スフェロイドの形成の有無は、目視による直接的な形成の確認の他、レポーター遺伝子を用いた特定遺伝子の発現量の定量、細胞生存率の測定等によっても観測できる。レポーターの例は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Discosoma sp. Red Fluorescent Protein (DsRed)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-グルクロニダーゼ(GUS)等である。細胞生存率の測定方法の例は、ATPアッセイ法、MTTアッセイ法、細胞内グルタチオンアッセイ法、LDHアッセイ法等である。これらのレポーター及び細胞生存率の測定方法は、当業者にはよく知られている。
【0038】
本発明のスクリーニング方法は、スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患の処置(予防、治療)に用いるための医薬候補化合物、又はそのリード化合物もしくはシード化合物をスクリーニングするために用いることができる。スフェロイドの形成が関連する状態又は疾患には、腹膜播種が含まれる。
【0039】
本発明のスクリーニング方法は、薬物スクリーニングの各段階で行うことができ、また繰り返し行うことができる。例えば、被験物質の1の濃度について行う、ハイコンテントアナリシスを用いたフェノタイプアッセイ(一次スクリーニング)、被験物質の容量反応性を確認するハイコンテントアナリシスを用いたフェノタイプアッセイ(二次スクリーニング)、及び/又は候補薬物を絞るためのフェノタイプアッセイ(三次スクリーニング)として、実施することができる。
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の記述に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[スクリーニングに用いる細胞の調製]
次の方法で、凍結保存された細胞を融解し、継代培養を行って、下記のスクリーニングに用いた。
【0042】
細胞融解:
1. CT26 GFP+が入ったバイアル(2.0×106 cells/1mL/ampule)を液体窒素タンクより取り出し37℃の湯浴中で融解.なお、用いた細胞は、ATCCから購入した親株にSIVベクターでGFPを導入し、Single cell cloningで作成することができる(後掲非特許文献1、2参照).
2. バイアル中の細胞浮遊液の全量を10% FBS-RPMI-1640(10%牛胎児血清,100 units/mL Penicillin-100μg/mL Streptomycinを含むDulbecco’s modified eagle medium)に加えた後、4℃にて遠心分離(100g,3分間).
3. 沈渣(細胞)を10 mLの10% FBS- RPMI-1640にて再懸濁し、100 mm dish(BD Biosciences)1枚に播種した後、37℃,5% CO2,95% Air条件下で培養する.
【0043】
CT26 GFP+の継代培養:
1. CT26 GFP+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後に継代する.
2. 培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
3. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応.
4. 10% FBS- RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.
5. 4℃にて遠心分離(400g,3分間)を行った後、沈渣(細胞)を10% FBS- RPMI-1640にて再懸濁する.
6. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測する.
7. 2.0×105 cells/dishとなるように10% FBS- RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し播種する.
8. 残余細胞は廃棄する.
【0044】
[1次スクリーニング、2次スクリーニング]
<方法>
東京大学創薬機構(旧名称:東大創薬オープンイノベーションセンター)より入手したValidated Compound Library(既知活性化合物とoff patent医薬品からなるライブラリー、約3,000種)を用い、下記の方法で1次スクリーニング及び2次スクリーニングを行った。
【0045】
384plateへの播種(1次、2次スクリーニング用):
1. CT26 GFP+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後、培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
2. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応させる.
3. 10% FBS- RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.
4. 4℃にて遠心分離(400g,3分間)を行った後、沈渣(細胞)を10% FBS-RPMI-1640にて再懸濁する.
5. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測する.
6. 2D培養の場合は、3.0×104 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO-RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、BIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)にて20μL/wellの容量で培養プレート(ViewPlate-384, PerkinElmer)に細胞を播種する.
7. 3D培養の場合は、5.0×104 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO- RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、BIOMEK(登録商標)NXPにて20μL/wellの容量で低接着プレート(PrimeSurface(登録商標)384Uプレート,住友ベークライト株式会社)に細胞を播種する.
8. 播種した細胞は37℃,5% CO2,95% Air条件下で培養する.
1次スクリーニング、2次スクリーニング共に384plateを使用する.
【0046】
細胞播種、セルタイター吸い上げ(2D 3D 共通)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
薬物調製(1次2次スクリーニング用):
1. 必要な容量を分取された化合物プレートにBIOMEK(登録商標)NXPにて10% FBS-RPMI-1640を加え、添加用薬物プレートとする.
2. 次いで播種済みの細胞プレートにBIOMEK(登録商標)NXPにて薬物プレートより10μL添加しピペッティングを行う.
DMSO濃度は0.1%から0.3%とする.
薬物の添加時期は播種後速やかに添加する、もしくは1日後に添加する.
1次スクリーニングでは1化合物 1doseのsingleで評価を実施する.
2次スクリーニングでは化合物の用量反応性を4dose(適宜変更可)で実施する.
【0049】
薬物希釈(化合物プレートへの培地添加:2D3D共通)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
薬物添加(2D)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
薬物添加(3D)の際のBIOMEK(登録商標)NXP(BECKMAN COULTER)の設定画面の例を下記に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
観察(1次2次スクリーニング):
1. 薬物処置72時間後にIN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare)を用いて明視野及び蛍光の2種類でスフェロイドの形態を確認する.
2. スフェロイドはGFPから得られる総蛍光量(Dencity×Area)を指標として評価する.
3. 1次スクリーニングではDMSO処置wellと比較して50%以上の変動を確認できたwellをHIT候補として扱う.
最終評価は次項に示すATP assayを併せて総合的に判断する.
【0056】
ATP assay(1次2次スクリーニング):
1. 評価最終日において、CellTiter-Glo(登録商標)3D Cell Viability AssayをBIOMEK(登録商標)NXPにて培養容量と同量添加し、15から30分経過後、ピペッティングを行う.
2. 次いで必要に応じてBlack plateへ細胞溶解液を20μL移し発光をルミノメーター(Enspireなど)にて測定する.
【0057】
<結果>
384plateを用いて調製したスフェロイド群の写真を図1〜3に示した。各スフェロイドは、同じ大きさであり、各ウェルには、U底の中心に位置する1個のスフェロイドが観られた。また、各ウェルのスフェロイドのサイズはほぼ同一であった。
【0058】
また、CV値(変動係数、coefficient of variation)、計算式:CV (%)=練準偏差(SD)/平均(Av)、分注後の分注夜量やプレートリーダーの測定値のぶれ等。概ねCV値が10%以内であることが好ましい。)及びZ'-factor(計算式Z'=1-(3 x SD 100% + 3 x SD)/(Av l00% - Av O%、アッセイ系の質の目安となる数字で、精度を表す需要な指標。一般に、Z'値が0.5以上あれば系として好ましい。)を求めた。下表に示す通り、CV値、Z'-factor共に良好であった。なお、化合物添加に伴うDMSOの影響を考慮するために、2つの濃度で検討を行った。
【0059】
【表5】
【0060】
スフェロイド群を用いて行った1次スクリーニングでは、127個の化合物がヒットし、また2次スクリーニングでは8個の化合物がヒットした。
【0061】
[3次スクリーニング]
<方法>
下記の方法で3次スクリーニングを行った。
【0062】
96plateへの播種:
1. CT26 GFP+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後、培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
2. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応させる.
3. 10% FBS-RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.
4. 室温にて遠心分離(400g,3分間)を行った後,沈渣(細胞)を10% FBS-RPMI-1640にて再懸濁する.
5. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測する.
6. 2D培養の場合は、1.1×104 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO-RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、ピペットにて90μL/wellの容量で培養プレートに細胞を播種する.
7. 3D培養の場合は、2.2×105 cells/mLとなるように10% FBS-0.1%DMSO-RPMI-1640にて細胞懸濁液を希釈し、ピペットにて90μL/wellの容量で低接着プレート(Nunclon Sphera96,Thermo Scientific)に細胞を播種する.
8. 播種した細胞は37℃,5% CO2,95% Air条件下で培養する.
【0063】
薬物調製:
1. 化合物を公比1/10で最高濃度20μMより7dose段階希釈(1% DMSO)を培地で行う.
2. 次いで播種済みの細胞プレートに段階希釈した化合物を10μL添加しピペッティングを行う.
3. 薬物の添加時期は播種後速やかに添加する(pre処置)、もしくは1日後に添加する(post処置).
基本single(n=1)で評価を実施する.
【0064】
ATP assay:
評価最終日において、CellTiter-Glo(登録商標)3D Cell Viability Assayを培養容量と同量添加し、15から30分経過後、ピペッティングを行う。次いで必要に応じてBlack plateへ細胞溶解液を120μL移し発光をルミノメーター(Enspireなど)にて測定する。
【0065】
<結果>
結果を図4及び5に示した。3次スクリーニングの結果、PD0325901がスフェロイド形成を阻害する能力が高い化合物として特定された。
【0066】
[In vivo試験]
スクリーニングで特定された化合物PD0325901の活性を、in vivoで確認した。
<方法>
動物:
1. 雄性BALB/c マウス:以下、マウス(使用時週齢:6〜8週齢)を使用した.
2. 実験に供するまでは滅菌した床敷き(ペパークリーン,日本エスエルシー株式会社)を敷いたプラスチックケージ(W 136 mm×L 208 mm×H 115 mm)に1ケージ当り5匹以内を収容する.
3. 飼育期間中は固型飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業株式会社)及び給水びんにて上水道水を自由摂取させる.
4. 入荷時に耳パンチにより個体識別(識別番号:01〜)を行う.
細胞融解、継代は同上.
【0067】
腹腔内移入:
1. CT26 GFP+はサブコンフルエントあるいはコンフルエント状態まで増殖した後、培養液を吸引除去し、Phosphate buffered saline(PBS,Invitrogen)にて細胞を洗浄する.
2. PBSを除去後、0.05% Trypsin溶液[0.25% Trypsin,1 mmol/L EDTA・4Na(Invitrogen)をPBSにて5倍希釈]を加え、細胞がディッシュより剥離されるまで37℃,5% CO2,95% Air条件下で反応させる.
3. 10% FBS-RPMI-1640を加えて細胞を懸濁し回収する.4℃にて遠心分離(400g,3分間)を行った後、沈渣(細胞)を10% FBS-RPMI-1640にて再懸濁する.
4. 細胞懸濁液の一部を0.4% Trypan Blue溶液(Sigma-Aldrich)と混合し、細胞計数盤(ワンセルカウンター,株式会社ワンセル)を用いて位相差顕微鏡下で生細胞数を計測し、1.0×107 cells/mLとなるようにHBSSにて細胞懸濁液を調製した.
5. 26G注射針付シリンジ(テルモ株式会社)を用いて、細胞懸濁液をマウスの腹腔に0.2 mLずつ注入した(2.0×106 cells/body).
【0068】
群分け:
腹腔内移入日(Day 0)にマウスの体重を降順に並べ、乱数を割り付けて必要な群に振り分ける(体重による層別無作為化法).
【0069】
薬物調製:最適な投与経路に応じた薬液調製を実施する.
【0070】
薬液投与:用法用量は薬物に応じて適宜調整する.
【0071】
投与開始時期:Day1又はDay4から開始する.
【0072】
評価指標及び評価項目:
播種結節量;GFP
腹水重量;腹水
生存期間;Day
体重変化;体重
【0073】
評価方法:
(1) 播種結節量 最終評価日においてマウスを頸椎脱臼後、正中切開にて回復し十二指腸から直腸までの消化管を摘出し氷冷したPBS中に保管する。摘出した消化管を100mm ディッシュ上で広げBZ9000にて明視野及び蛍光で消化管の全体像を取得する。取得した画像はImageJにて数値化し播種結節量とする。
(2) 腹水重量 最終評価日においてマウスを頸椎脱臼後、正中切開にて回復し腹腔内に貯留した腹水を予め重量測定した脱脂綿にて回収する。回収後、重量を測定し腹水重量とする。
(3) 生存期間 試験期間中、マウスの死亡を確認した日付を記録する。
(4) 体重変化 試験期間中、マウスの体重を2〜3日に1回記録する。
【0074】
<結果>
結果を図6及び7に示した。
【0075】
[実施例の項で引用した文献]
非特許文献1:Y Kasagi et al. Peritoneal Dissemination Requires an Sp1-Dependent CXCR4/CXCL12 Signaling Axis and Extracellular Matrix-Directed Spheroid Formation. Cancer Res; 76(2) January 15, 2016, 347-357,(Published OnlineFirst January 7, 2016; DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-15-1563)
非特許文献2:Y Ikeda et al. Simian immunodeficiency virus-based lentivirus vector for retinal gene transfer: a preclinical safety study in adult rats. Gene Therapy (2003) 10, 1161-1169
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により得られる、サイズ及び位置の揃ったスフェロイド群は、抗がん剤等として有用な化合物のスクリーニングに用いることができるほか、腹膜播種等のスフェロイド形成が関わる病態の解明と予防・治療手段の確立のためにも有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7